「酒に逃げる夜」をどう減らすか——発泡酒が唯一の楽しみになった生活の危険信号

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「酒に逃げる夜」をどう減らすか——発泡酒が唯一の楽しみになった生活の危険信号

はじめに——帰宅後の最初の行動が「冷蔵庫を開ける」

仕事を終えて帰宅する。靴を脱ぐ。鞄を置く。上着を脱ぐ。そして冷蔵庫を開ける。発泡酒を取り出す。プルタブを引く。プシュッ。最初の一口。——ふう。

この「ふう」が、1日の中で最も幸福を感じる瞬間だ。仕事のストレスが溶ける。将来の不安が薄れる。孤独が和らぐ。一口の発泡酒が、すべてを一瞬だけ忘れさせてくれる。

このシリーズのエッセイで、発泡酒の最初の一口を何度も書いてきた。「発泡酒がささやかな幸せ」と。だが正直に書かなければならないことがある。「ささやかな幸せ」が「唯一の幸せ」になっているとき、それは危険信号だ。

酒が「楽しみの一つ」なら健全だ。酒が「唯一の楽しみ」なら不健全だ。酒が「なければ夜を過ごせない」なら、もはや「楽しみ」ではなく「依存」の入口に立っている。

「依存」の入口を自覚する

アルコール依存症は、ある日突然なるものではない。ゆっくりと、段階的に進行する。

段階1は「習慣飲酒」。毎日飲む。飲まない日がない。「別に飲まなくても平気」と思っているが、実際には毎日飲んでいる。飲む量は発泡酒1〜2本。この段階は「社会的に許容される範囲」であり、本人も周囲も問題視しない。

段階2は「増量」。発泡酒1本では足りなくなり、2本に増える。2本が3本になる。焼酎やウイスキーに手が伸びる。アルコール度数と量が増える。「最近ちょっと飲みすぎかな」と思うが、「明日から減らそう」と思いつつ減らさない。

段階3は「離脱症状」。酒を飲まないと手が震える。汗をかく。不安になる。イライラする。眠れない。これらは身体的な離脱症状であり、アルコール依存症の診断基準の一つだ。この段階に達したら、自力での回復は困難であり、専門の医療機関の助けが必要だ。

氷河期世代の独身男性は、段階1〜2にいる人が多いと推測する。「毎日発泡酒を1〜2本」は、量としては大きくない。だが「毎日」「欠かさず」飲んでいるなら、習慣飲酒の段階にはいる。この段階で「週に2日は飲まない日を作る」ことが、依存への進行を防ぐ最も効果的な対策だ。

「飲まない日」を作るのが難しい理由

「週に2日飲まない」。言葉にすれば簡単だが、実行は難しい。なぜか。

理由1は「酒以外の楽しみがない」からだ。帰宅後の時間を、酒以外に楽しく過ごす方法がない。テレビを見ても面白くない。スマートフォンを見ても退屈。料理する気力がない。散歩する元気がない。何もすることがないから、冷蔵庫を開ける。冷蔵庫を開ければ、発泡酒がある。ある以上、飲む。

理由2は「ストレスの解消手段が酒しかない」からだ。仕事のストレス、将来の不安、孤独感。これらを解消する方法が酒以外にない。酒を飲めば、一時的にすべてが和らぐ。和らぐから飲む。飲めば和らぐ。だが翌朝、和らぎは消えている。ストレスは元通り。だから夜になればまた飲む。一時的な解消を繰り返しているだけで、根本的な解決にはなっていない。

理由3は「習慣化している」からだ。「帰宅→発泡酒→テレビ→就寝」のルーティンが完全に固定されている。ルーティンを変えるには意志力が必要。だが仕事で意志力を使い果たした夜に、ルーティンを変える意志力は残っていない。

「飲まない日」を作るための5つの仕組み

意志力に頼らず、仕組みで「飲まない日」を作る方法を示す。

仕組み1は「冷蔵庫に酒を入れない日を作る」こと。月曜日と木曜日は、冷蔵庫に発泡酒を入れない。買い置きがなければ、「わざわざ買いに行く」というハードルが生まれる。ハードルがあれば、「面倒だからやめておくか」となる確率が上がる。

仕組み2は「酒の代わりの飲み物を用意する」こと。ノンアルコールビール(1本100〜150円)、炭酸水(500ml80〜100円)、ハーブティー(1杯10〜30円)。「何かを飲む」という行為自体がリラックス効果を持つ。酒でなくても、「プシュッ」と開ける行為と「ゴクゴク」飲む行為で、ある程度の満足感が得られる。ノンアルコールビールは味もビールに近いので、代替品として優秀だ。

仕組み3は「飲まない日の夜に『やること』を決めておく」こと。月曜の夜はストレッチ。木曜の夜は読書。「飲まない代わりに何をするか」が決まっていれば、「飲まない夜」の手持ち無沙汰が解消される。手持ち無沙汰が解消されれば、冷蔵庫を開ける衝動が減る。

仕組み4は「飲まない日をカレンダーに書き込む」こと。カレンダーに「休肝日」と書き込む。書き込むことで、「今日は飲まない日」が視覚的に確認できる。確認できれば、「今日は飲まない」と自分に言い聞かせやすくなる。

仕組み5は「飲酒量の記録をつける」こと。毎日の飲酒量をメモする。発泡酒1本なら「1」、2本なら「2」。記録をつけると「今週は毎日飲んでいる」「先週より増えている」と客観的に把握できる。把握できれば「減らそう」という動機が生まれる。

「適量」とは何か——厚生労働省のガイドライン

厚生労働省の「健康日本21」では、「節度ある適度な飲酒」の目安として「純アルコール量で1日20g程度」を推奨している。純アルコール20gは、ビール中瓶1本(500ml)、日本酒1合(180ml)、ウイスキーダブル1杯(60ml)に相当する。

発泡酒(アルコール度数5%)500ml缶1本の純アルコール量は約20g。つまり発泡酒500ml缶1本が「適量」。2本飲めば適量の2倍。3本飲めば3倍。適量の2倍以上の飲酒を毎日続けると、肝臓への負担が蓄積し、脂肪肝→肝炎→肝硬変のリスクが高まる。

「発泡酒1本なら大丈夫」——これは「適量」の範囲内だ。問題は「毎日」飲んでいること。厚生労働省は「週に2日以上の休肝日」を推奨している。週2日の休肝日は、肝臓が修復する時間を確保するためだ。毎日1本でも、休肝日がなければ肝臓は休まらない。

酒に代わる「夜のリラクゼーション」

酒の代わりに夜のリラクゼーション手段を持つことで、「酒がなくても夜を過ごせる」状態を作る。

リラクゼーション1は「入浴」。ぬるめのお湯(38〜40度)に15〜20分浸かる。入浴は副交感神経を優位にし、体と心をリラックスさせる。入浴後の「ぽかぽか感」は、発泡酒の「ふう」に匹敵する満足感がある。

リラクゼーション2は「ストレッチ」。就寝前の5分間ストレッチ。筋肉の緊張がほぐれ、血行が改善し、体がリラックスモードに入る。YouTubeの「おやすみストレッチ 5分」で検索。

リラクゼーション3は「温かい飲み物」。ホットミルク、ハーブティー(カモミール)、ほうじ茶。温かい飲み物は体を内側から温め、リラックス効果がある。カフェインが入っていないものを選ぶ。

リラクゼーション4は「音楽・ラジオ」。落ち着いた音楽を流す。ラジオの深夜番組を聴く。人の声が流れている空間は、一人暮らしの沈黙を和らげる。

リラクゼーション5は「読書」。紙の本を読む。スマートフォンの電子書籍はブルーライトが入るので、紙の本がベター。小説でもエッセイでも、好きなジャンルを。10ページ読んだら閉じて寝る。

「酒をやめろ」とは言わない

このエッセイの目的は「酒をやめろ」と説教することではない。酒は合法的な嗜好品であり、適量の飲酒は社会的に許容されている。発泡酒の最初の一口が「ささやかな幸せ」であることは、否定しない。

言いたいのは「酒が唯一の幸せになっていないか」の確認だ。唯一の幸せになっていれば、危険信号。酒以外の楽しみを一つでも持っていれば、安全圏。酒以外の楽しみがゼロなら、このエッセイシリーズの「趣味ガイド」を参考に、何か一つ見つけてほしい。散歩でも読書でも将棋でも。

酒+何か。この「何か」があることが、酒との健全な付き合い方だ。酒「だけ」は危ない。酒「と」散歩。酒「と」読書。酒「と」コーヒー。「と」の部分を増やすことが、酒への依存を防ぐ。

まとめ——発泡酒は「友人」であって「恋人」ではない

発泡酒は友人だ。疲れた夜に寄り添ってくれる。ストレスを一時的に和らげてくれる。孤独を少しだけ紛らわせてくれる。良い友人だ。

だが友人は複数いたほうがいい。発泡酒だけが友人では、その友人に依存してしまう。散歩という友人。読書という友人。入浴という友人。友人が複数いれば、発泡酒への依存度が下がる。下がれば、発泡酒との関係も健全に保てる。

発泡酒は友人であって恋人ではない。恋人のように毎日会う必要はない。週に5日会えば十分。残りの2日は他の友人と過ごす。この距離感が、発泡酒との長い付き合いの秘訣だ。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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