本稿は、日本市場で活動する主要アクティビスト各社を一社ずつ詳細に解説するシリーズの第12回です。今回は、旧村上ファンドの創業メンバーが率い、財務理論に基づく論理的な株主提案で知られる国内アクティビスト「ストラテジックキャピタル(Strategic Capital, Inc.)」について、成り立ち、運用構造、投資哲学、主要な投資案件、投資銘柄、投資方針を、公開情報をもとに包括的に整理します。なお本稿は特定の有価証券・金融商品の取得や売却を勧誘するものではなく、運用資産額・保有比率等は時点により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。
0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かるストラテジックキャピタル
ストラテジックキャピタルを一言で表すなら、「『株主は企業の主権者だ』という信念を掲げ、財務理論に基づく論理で日本企業に改革を迫る、制度型の国内アクティビスト」です。設立は2012年、創業者は旧村上ファンド(M&Aコンサルティング)の創業メンバーであった丸木強(まるき・つよし)氏。本拠地は東京・渋谷で、運用資産は約1,000億円規模まで成長しています。
ストラテジックキャピタルの手法の特徴は、感情論ではなく、WACC(加重平均資本コスト)やROE(自己資本利益率)といった財務理論に基づいて、極めて論理的に経営改善を迫る点にあります。投資先企業ごとに専用の特集サイトを開設し、株主提案の内容と論拠を詳細に公開します。標的とするのは、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込み、現金や資産を溜め込みながら資本効率が低い企業――研磨工具・陶磁器のノリタケ、商社の極東貿易、日本製鉄の上場子会社である大阪製鉄などが、その代表例です。
丸木氏は、村上ファンドのインサイダー事件という「負の歴史」を当事者として知り尽くしたうえで、「社会的に受容されるアクティビズム」の形を模索してきました。「株主は企業の主権者だからもっと気軽に物を言えばいい」「日本企業のROEが低ければ、世の中に付加価値を生めていないということだ」という彼の主張は、東証が掲げるPBR1倍割れ改革の精神と完全に一致しています。2023年には調査会社のファンドランキングで日本株部門首位となるなど、運用実績も高く評価されています。本稿では、この「制度型アクティビズムの論客」の実像を多面的に描き出していきます。
1. 会社概要――基本データ
- 正式名称:株式会社ストラテジックキャピタル(Strategic Capital, Inc.)。
- 形態:日本の投資運用会社(投資助言・代理業、投資運用業)。
- 設立:2012年。同年12月からアクティビスト戦略のファンド運用を開始。
- 創業者・代表取締役:丸木強(まるき・つよし)。
- 本社:東京都渋谷区。
- 運用資産(AUM):約1,000億円規模まで成長。
- 特徴:旧村上ファンド(M&Aコンサルティング)の創業メンバーが率いる、国内拠点のアクティビストファンド。財務理論に基づく論理的な株主提案を行う。
- ミッション:「顧客利益の最大化」と「日本経済の活性化への貢献」の二つを掲げる。
- 運用実績:2023年に調査会社のファンドランキングで日本株部門首位。
ストラテジックキャピタルの大きな特徴は、海外勢が多い日本のアクティビスト業界において、純然たる「国内勢」である点です。日本の商習慣や企業文化、そして規制環境を熟知したうえで、財務理論という「世界共通言語」を武器に企業に迫ります。「破壊者か変革者か」と評されることもありますが、丸木氏自身は一貫して「企業価値を向上させることで株主全体の利益に貢献している」と主張しています。
2. 創業者・丸木強――村上ファンドの「実務の中枢」を担った男
ストラテジックキャピタルを理解するには、創業者・丸木強氏という人物を知る必要があります。
2-1. 農林中金から村上ファンドへ
丸木強氏は、東京大学農学部を卒業後、農林中央金庫に入庫しました。農林中金では投資部門でオルタナティブ投資チームを主導するなど、運用の実務経験を積みます。さらにUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)アンダーソン経営大学院で経営学修士号(MBA)も取得しました。
そして2004年、丸木氏は農林中金を退職し、村上世彰氏のM&Aコンサルティング(村上ファンド)に参画します。日本のアクティビズムの草分けである村上ファンドで、丸木氏はアクティビスト投資の実務に深く従事しました。彼は村上ファンドの「創業メンバー」の一人であり、その実務の中枢を担った人物だったのです。
2-2. 村上ファンドの「光と影」を知り尽くす
丸木氏が他のアクティビストと一線を画すのは、日本におけるアクティビズムの「成功体験(企業を動かす力)」と「失敗体験(社会的批判と法的リスク)」の両方を、当事者として知り尽くしている点です。村上ファンドは、日本に「物言う株主」という文化を持ち込んだ一方、2006年のインサイダー取引事件で解体に追い込まれました。丸木氏は、この栄光と挫折の両方を間近で経験したのです。
2-3. 2012年、ストラテジックキャピタルの設立
村上ファンドの解体後、丸木氏は不動産関連の公開株投資などを経て、2012年にストラテジックキャピタルを設立しました。そして同年12月から、アクティビスト戦略のファンド運用を再開したのです。
筆者が注目するのは、ストラテジックキャピタルの設立が、丸木氏の「村上ファンドの教訓」に基づく、いわば「アクティビズムの再設計」だったという点です。村上ファンドが招いた社会的批判と法的リスクを踏まえ、丸木氏は「社会的に受容されるアクティビズム」の形を模索しました。その答えが、財務理論に基づく論理的な提案と、透明性の高い情報公開だったのです。
3. 投資哲学と手法
3-1. 「株主は企業の主権者である」
ストラテジックキャピタルの投資哲学の根底にあるのは、「株主は企業の主権者である」という強い信念です。丸木氏は「株主は企業の主権者だからもっと気軽に物を言えばいい」と語ります。会社は経営陣のものではなく、株主のものである――この株主主権の思想が、彼らのアクティビズムの出発点です。
そして丸木氏は、企業の存在意義についても明快な見解を持っています。「世の中の付加価値は営利企業しか生まない。日本企業のROEがずっと低ければ、世の中に付加価値を生めていないということだ」。つまり、企業が資本コストを上回るリターンを上げることは、株主のためだけでなく、日本経済全体に付加価値をもたらすことなのだ、という考え方です。ミッションに「日本経済の活性化への貢献」を掲げているのも、この思想の表れです。
3-2. WACCとROE――財務理論による「説得」
ストラテジックキャピタルの手法を最も特徴づけるのが、WACC(加重平均資本コスト)やROE(自己資本利益率)といった財務理論に基づく、論理的な提案です。彼らは感情的に経営陣を非難するのではなく、「あなたの会社のROEは資本コスト(WACC)を下回っている可能性がある。これは株主価値を破壊している状態だ」と、財務理論の言葉で語りかけます。
例えば商社の極東貿易への提案では、「ROEがWACCを下回っている可能性があり、資本コストへの意識を高め、収益率の高い事業に集中すべきだ」と提言しました。ROEが資本コストを下回るとは、「株主から預かった資本を使って、その調達コスト以下のリターンしか上げていない」という、株主価値を毀損している状態を意味します。この明快な財務理論こそ、東証が2023年に掲げた「資本コストや株価を意識した経営」という政策課題そのものであり、だからこそ反論しにくいのです。
3-3. 特集サイトによる透明な情報公開
ストラテジックキャピタルは、株主提案の内容と論拠を、投資先企業ごとに開設する専用の特集サイトで詳細に公開します。これは、近年の他のアクティビスト(3D、オアシスなど)にも共通する手法ですが、丸木氏らは早くからこの「透明な情報公開」を実践してきました。自らの主張を、すべての株主が検証できる形で公開することで、議決権行使助言会社や他の機関投資家の支持を取り付けていくのです。村上ファンド時代の「世論を煽る」手法とは一線を画す、「論理で説得する」スタイルへの転換が、ここに見て取れます。
3-4. 「自社株買いは求めない」――還元一辺倒ではない
ここで、ストラテジックキャピタルの手法について、一つ重要な独自の指摘をしておきます。丸木氏は意外にも、「自社株買いは(必ずしも)求めない」という立場を取ることがあります。多くのアクティビストが増配や自社株買いといった株主還元を声高に求めるのに対し、ストラテジックキャピタルは、ガバナンスの改善や事業そのものの収益性向上、IR(投資家向け広報)の充実といった、より本質的な企業価値向上を重視する傾向があります。山洋電気のケースでは、株価への意識を高めるよう促し、同社が開示文書で「PBRが資本市場から十分な評価を得られていない可能性がある」と認識を改めるに至りました。単なる「カネを返せ」ではなく、「企業価値そのものを高めよ」と迫る――この点に、丸木氏のアクティビズムの「矜持」がうかがえます。
4. 主要キャンペーン・投資先
4-1. ノリタケ(2025年)――PBR0.5倍台のキャッシュリッチ企業
2025年7月、ストラテジックキャピタルは研磨工具や高級陶磁器を手掛けるノリタケの株式を5.10%取得したことを開示しました。同社は2025年5月12日から7月10日までの約2か月間で、市場内外で合計約148万株を取得しています。大量保有報告書には「純投資および状況に応じて重要提案行為を行う」と記されており、これは実質的な「アクティビスト宣言」でした。
ノリタケは、PBR0.5倍台、キャッシュリッチ(潤沢な現金)、非効率な資本政策という、ストラテジックキャピタルが好む典型的なターゲットの特性を備えていました。東証がPBR是正を求める「資本効率の低い企業像」に完全に一致していたのです。この取得が報じられると、ノリタケ株は一時前日比約11%高となり、約1年ぶりの高値を付けました。「ファンドによる資本効率改善への思惑」が買いを誘ったのです。ストラテジックキャピタルはノリタケへの株主提案と、それに関する特集サイトの開設も公表しました。
4-2. 極東貿易――ROEとWACCの論理
商社の極東貿易に対して、ストラテジックキャピタルは「ROEがWACCを下回っている可能性があり、資本コストへの意識を高め、収益率の高い事業に集中すべきだ」と提言しました。前述のとおり、これは「株主から預かった資本を、その調達コスト以下のリターンでしか運用できていない」という、株主価値毀損の状態を財務理論で突いたものです。財務理論に基づくストラテジックキャピタルの提案スタイルを、象徴する事例です。
4-3. 大阪製鉄(2023年)――親子上場の少数株主問題
2023年末、ストラテジックキャピタルは日本製鉄の上場子会社である大阪製鉄の株式の大量保有を明らかにしました。親会社(日本製鉄)が支配する上場子会社では、少数株主の利益が親会社の利益と相反するおそれがあります。また、親子上場そのものが資本効率やガバナンスの観点から問題視されています。ストラテジックキャピタルは、こうした親子上場における少数株主の権利や、大阪製鉄の資本効率の改善を追及しました。日本製鉄の上場子会社には、前稿で触れた3Dが関与する日鉄ソリューションズもあり、日本製鉄グループはアクティビストの注目を集めています。
4-4. 山洋電気――株価への意識を変えさせる
ストラテジックキャピタルは、電気機器メーカーの山洋電気にも関与しました。注目すべきは、ストラテジックキャピタルの関与の前後で、山洋電気の開示姿勢が目に見えて変化したことです。2023年6月時点では「株価は当社の力の及ばぬものによっても変動する」と、やや受動的な姿勢でした。しかし2025年3月には「株価に連動する指標であるPBRについては、過去3年は0.8倍前後、直近でも0.9〜1.0倍前後の推移に留まっており、資本市場から十分なご評価を得られていない可能性があると認識しております」と、株価・PBRへの意識を明確に示すようになりました。アクティビストの関与が、企業の「資本市場との向き合い方」そのものを変えた好例です。丸木氏は、山洋電気のような「技術力に誇りを持ち、自分たちが世界一だという自信を持つ会社」が日本には多いと指摘し、そうした技術力ある企業の資本政策・ガバナンス・IRの改善余地に注目しています。
4-5. ダイドーリミテッド――対話を巡る対立
アパレル・不動産のダイドーリミテッドに対しては、ストラテジックキャピタルが株主提案を行い、村上世彰氏も同調する形となりました。この案件では、ダイドー側がストラテジックキャピタルの株主提案に賛成した株主に対して電話をかけ、「あなたの議決権行使は間違いではないか」とプレッシャーをかけたとされるなど、会社側の対応を巡って対立が深まりました。丸木氏は、こうした会社側の姿勢にまず謝罪を求めたといいます。アクティビストと企業の対話が、必ずしも円滑に進むとは限らないことを示す事例です。
4-6. その他の投資先
このほか、ストラテジックキャピタルは多数の日本企業に投資・関与してきました。経済産業省が2023年8月に策定した「企業買収における行動指針」によって、これまで「敵対的買収」と呼ばれていたものが「同意なき買収」と再定義されたことを、丸木氏は前向きに評価しています。国の政策がアクティビズムを後押しする方向に動いたことで、ストラテジックキャピタルの活動環境は大きく改善しました。
5. 投資銘柄一覧(整理)
ストラテジックキャピタルがこれまでに関与・投資してきた主な銘柄を整理します。なお、これは「これまでに関与が報じられた主な銘柄」であり、現時点の保有を示すものではありません。保有比率は時点により変動します。
- ノリタケ(2025年、5.10%取得、PBR0.5倍台・キャッシュリッチ、株主提案と特集サイト開設)
- 極東貿易(ROEがWACCを下回ると指摘、資本コスト意識・事業集中を要求)
- 大阪製鉄(2023年末、日本製鉄の上場子会社、親子上場の少数株主問題・資本効率を追及)
- 山洋電気(株価・PBRへの意識を変えさせる、技術力ある企業の資本政策改善)
- ダイドーリミテッド(株主提案、会社側の対応を巡り対立)
- そのほかPBRの低い、技術力ある日本の中堅企業を中心に多数
6. 投資方針の総括――ストラテジックキャピタルは何を狙っているのか
6-1. ターゲットの選定基準
ストラテジックキャピタルが狙う企業の共通点は、「PBR1倍割れ+資本効率の低さ」です。具体的には、①PBRが1倍を、しばしば0.5倍台まで割り込むほど割安、②現金や資産を溜め込んでいる(キャッシュリッチ)、③ROEが資本コスト(WACC)を下回っている可能性がある、④親子上場など、ガバナンスに構造的問題がある、といった特徴です。特に、丸木氏が指摘する「技術力に誇りを持ちながら、その価値が株価に反映されていない」中堅メーカーは、格好の標的となります。
6-2. 求めるものの本質
ストラテジックキャピタルが企業に求めるものは、突き詰めれば「資本コストを上回るリターンの実現」と「株主価値の向上」です。ROEをWACC以上に高めよ、収益率の高い事業に集中せよ、株価・PBRを意識した経営をせよ――これらはすべて、「投じた資本に見合うリターンを上げ、企業価値を高める」という資本市場の基本原則に基づいています。「自社株買いは必ずしも求めない」という姿勢が示すように、彼らの目的は単なる目先の株主還元ではなく、企業価値そのものの本質的な向上にあります。
6-3. 「論理と制度」という方針
ストラテジックキャピタルの投資方針を最も特徴づけるのは、「論理と制度」を武器とする姿勢です。WACCやROEといった財務理論で経営陣を論理的に説得し、特集サイトで透明に情報を公開し、東証のPBR改革や経産省の買収指針といった制度的な追い風を活用します。村上ファンド時代の「世論を煽る劇場型」から、「論理で説得する制度型」へ――丸木氏が当事者として経験した村上ファンドの教訓が、この方針転換に生きていると筆者は考えます。
7. 評価とリスク――筆者の見立て
7-1. 強み
ストラテジックキャピタルの最大の強みは、「財務理論に基づく論理的な説得力」と「日本市場への深い理解」、そして「制度との親和性」です。丸木氏のWACC・ROEを軸とした主張は、東証のPBR改革と完全に一致しており、反論しにくく、機関投資家の支持を得やすいものです。村上ファンドの実務を担った経験は、日本企業の弱点を知り尽くした分析力につながっています。そして「社会的に受容されるアクティビズム」を志向する姿勢は、敵対型へのアレルギーが強い日本において、企業や他の株主から一定の理解を得やすくしています。2023年のファンドランキング日本株部門首位は、その実績の証です。
7-2. 弱みと批判
一方で、ストラテジックキャピタルにも課題はあります。第一に、「村上ファンドの系譜」という出自が、時に「ハゲタカ」批判を招きます。丸木氏自身はこれを「誤解」と反論していますが、村上ファンドのインサイダー事件のイメージは根強く残ります。第二に、ダイドーリミテッドの事例が示すように、会社側が強硬に抵抗すれば、対話は感情的な対立に陥り、提案が通らないことがあります。第三に、運用資産が約1,000億円と、エリオットやエフィッシモのような巨大ファンドに比べれば限定的であり、巨大企業を単独で動かす資金力には限界があります。
7-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか
筆者の見立てでは、ストラテジックキャピタルは「東証PBR改革の精神を最も忠実に体現する、論理的な国内アクティビスト」です。彼らが突く論点――低いROE、資本コストを下回るリターン、PBR1倍割れ、親子上場――は、いずれも日本企業が直面する構造的課題そのものです。技術力に自信を持ちながら株価が低迷している中堅メーカーは、ストラテジックキャピタルの格好の標的となりうることを認識すべきでしょう。
個人投資家にとっては、ストラテジックキャピタルの特集サイトは、「WACCとROEで企業価値を評価する」という財務理論の実践的な教材です。彼らが大量保有を開示した銘柄(ノリタケなど)は、資本効率改善への期待から株価が上昇することがあります。丸木氏の「ROEが資本コストを上回っているか」という視点は、割安株を見極めるうえで、極めて本質的な物差しを提供してくれます。「株主は企業の主権者」という彼の思想は、個人投資家が自らの権利と責任を考えるうえでも、示唆に富むものです。
8. 参考資料
本稿は、以下の公開情報・報道・公式資料をもとに構成しています(主なもの。数値・保有比率等は執筆時点で確認できた範囲のものであり、時点により変動します)。
公式・一次情報
- 株式会社ストラテジックキャピタル 公式サイト(stracap.jp/役職員紹介・ミッション)、各社向け特集サイト・プレスリリース(ノリタケ等、PR TIMES配信)
- 各社の適時開示・大量保有報告書(ノリタケ、大阪製鉄、山洋電気等)
新聞・通信社・経済誌
- 日本経済新聞(ノリタケ株5.10%取得と株価上昇、「アクティビストへの期待高い」丸木代表インタビュー=大阪製鉄・ファンドランキング首位ほか)
- 日経ビジネス(村上ファンド創業メンバー・丸木氏「自社株買いは求めない」、ダイドーリミテッドを巡る対立)
- 東洋経済(アクティビスト「害悪論」への反論)
専門メディア・その他
- バフェット・コードマガジン(丸木代表インタビュー「破壊者か変革者か」、山洋電気の開示変化)
- 論評社(ノリタケ株5.10%取得の詳細分析、ターゲット特性)
- マネラボ(ストラテジックキャピタルの評判・村上ファンドとの関係・運用資産規模)
百科事典等(一次情報の確認は上記公式・報道で実施)
- 各種公開資料(丸木強氏の経歴。一次情報の確認は上記公式・報道で実施)
本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
補論:村上ファンド「ディアスポラ」のなかのストラテジックキャピタル――独自分析
最後に、ストラテジックキャピタルを日本のアクティビズム史のなかに位置づける独自の分析を加えておきます。
2006年に村上ファンド(M&Aコンサルティング)が解体された後、その人材は国内外に散らばり、それぞれが新たなファンドを設立しました。筆者はこれを村上ファンドの「ディアスポラ(離散)」と呼んでいます。本シリーズで取り上げてきた主要プレイヤーのうち、実に三つが、この村上ファンドの系譜に連なります。
第一が、本稿のストラテジックキャピタルです。創業メンバーの丸木強氏が2012年に設立し、東京を拠点に、財務理論に基づく「制度型」のアクティビズムを展開しています。第二が、シティインデックスイレブンスを中核とする旧村上ファンド系です。村上世彰氏本人とその長女・野村絢氏が率い、世論とメディアを巻き込む「劇場型」の伝統を色濃く残しています。第三が、次稿で詳述するエフィッシモ・キャピタル・マネジメントです。村上ファンドの幹部だった高坂卓志氏らが2006年にシンガポールで設立し、「正論で会社の非を論い、静かに追い詰める」サイレント型のアクティビズムを確立しました。
興味深いのは、同じ村上ファンドのDNAを受け継ぎながら、三者がまったく異なるスタイルへと進化したことです。村上系本流が「劇場型」、エフィッシモが「サイレント型」、そしてストラテジックキャピタルが「制度型(論理型)」。これは、村上ファンドの「失敗」――世論を煽る手法が招いた社会的批判と法的リスク――を、それぞれが異なる形で乗り越えようとした結果だと筆者は分析します。
ストラテジックキャピタルの丸木氏が選んだ道は、「財務理論という客観的な言語」と「透明な情報公開」、そして「制度(東証改革・経産省指針)との協調」でした。村上ファンドが「敵」として排除された時代から、アクティビストが「日本経済の活性化に貢献する存在」として一定の社会的受容を得る時代へ――その移行を、丸木氏は当事者として体現しているのです。
この「制度型アクティビズム」の意義は大きいと筆者は考えます。なぜなら、それは「アクティビズムは社会と敵対するものではなく、資本市場の規律を通じて企業価値と日本経済を高めるものだ」という、新しい物語を提示しているからです。村上ファンドの栄光と挫折を知り尽くした丸木氏だからこそ描けた、この「アクティビズムの再定義」は、日本の資本市場の成熟を象徴するものだと言えるでしょう。もちろん、その出自ゆえの「ハゲタカ」批判は今なお残りますが、丸木氏が積み重ねてきた論理的で透明な提案の実績は、その批判に対する最も雄弁な反論となっています。
なお、丸木氏は前稿でも触れた「マネックス・アクティビスト・フォーラム」に登壇し、マネックス証券創業者の松本大氏と対談するなど、日本のアクティビズムの「啓発者」としての役割も担っています。アクティビズムを一部の専門家のものから、より広く社会に理解されるものへと開いていく――その営みにおいても、ストラテジックキャピタルは重要な役割を果たしているのです。
最後に、ストラテジックキャピタルが日本のコーポレートガバナンス改革に与えてきた影響について、補足しておきます。同社が極東貿易や山洋電気に対して突きつけた「ROEは資本コストを上回っているか」という問いは、いまや東証に上場するすべての企業が向き合わなければならない問いとなりました。2023年に東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請し、PBR1倍割れの解消が国家的課題となったいま、ストラテジックキャピタルが長年訴えてきた主張は、もはや「一部のアクティビストの過激な要求」ではなく、「日本企業全体が達成すべき標準」へと格上げされたのです。丸木氏が「アクティビストへの期待は高い」と語る背景には、こうした時代の追い風があります。
その意味で、ストラテジックキャピタルは「時代を先取りしてきたアクティビスト」と言えるかもしれません。2012年の設立当時、PBR1倍割れや低ROEを問題視する声はまだ少数派でした。しかし丸木氏は、村上ファンドで培った「日本企業の構造的な弱点を見抜く目」をもって、一貫してこの問題を提起し続けてきました。そして約10年を経て、国も取引所も同じ方向を向くようになった――この「先見性」こそ、ストラテジックキャピタルの最大の功績だと筆者は考えます。今後、日本企業の資本効率改革がさらに進むなかで、論理と制度を武器とするストラテジックキャピタルの存在感は、一層高まっていくことでしょう。

