はじめに ~ 一代で2.6兆円企業を築いた男
「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」――この信条を掲げ、1973年に京都の小さな町工場から、年間売上約2.6兆円、世界トップクラスのモーターメーカーを一代で築き上げた男がいます。永守重信(ながもり しげのぶ)氏。日本を代表するカリスマ経営者です。
ニデック株式会社(証券コード6594、東証プライム、2023年に日本電産から改称)は、ハードディスク用の精密小型モーター、電動パワーステアリング用モーター等で世界シェア1位。連結従業員数は10万人超、年間売上高は約2兆6,078億円(2025年3月期)。
永守氏は、営業で「絶対にNOと言わない」スタンスで臨み、1980年代にハードディスク用モーター生産で会社を急拡大。その後、60件を超えるM&A(企業買収)を原動力に、車載モーター、産業用モーター、工作機械などへと事業領域を拡大してきました。
しかし、近年のニデックは、深刻な危機に直面しています。2025年9月、グループ内で不正な会計処理が発覚し、第三者委員会が設置されました。2026年の最終報告書では、会計不正による純利益へのマイナス影響額が累計1,607億円に上ることが判明。「最も責めを負うべきは永守氏」とされ、創業者・永守氏は辞任。東証から特別注意銘柄に指定され、日経平均からも除外されました。
本記事では、ニデックの「モーター世界一×M&A×永守経営」モデルを多角的に分析し、その圧倒的な成長と、近年顕在化した深刻な弱点の両面に迫ります。
ニデックの歴史 ~ 京都の町工場から世界企業へ
ニデックの起源は、1973年7月、永守重信氏が京都市で設立した「日本電産株式会社」です。創業時はわずか数人の小さな会社でした。
永守氏の経営:
- 「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」を信条
- 営業では「絶対にNOと言わない」スタンス
- 「情熱、熱意、執念」の経営
- かつて資金繰りに苦労した経験から、安定的な財務を重視
1980年代、ハードディスク(HDD)用の精密小型モーター(スピンドルモーター)の生産で急拡大。HDDの普及と共に、ニデックは世界トップシェアを獲得。
1980年代~2000年代、M&A(企業買収)を原動力に、急速に事業領域を拡大。永守氏は「赤字は罪悪」「強い企業を作るためにはM&Aの活用が大切」として、不振企業を買収し、再建する手法で知られました。
2000年代~2010年代、車載モーター、家電用モーター、産業用モーター、機器装置、電子・光学部品等へと多角化。HDD市場の縮小に対応し、車載・産業分野へシフト。
2010年代後半、EV(電気自動車)の駆動装置「E-Axle(イーアクスル)」に注力。EVシフトを次の成長の柱に。
2022年、日産自動車出身で社長の関潤氏が、永守氏と経営方針を巡って対立し、同年9月に実質的に解任。永守氏の後継者問題が表面化。
2023年4月、社名を「日本電産」から「ニデック(NIDEC)」に変更。
2024年9月、カナダのLinear(工作機械関連)の株式取得。
2025年4月、牧野フライス製作所への同意なきTOB(敵対的買収)を開始。
2025年9月、グループ内の会計不正疑惑で第三者委員会を設置。
2026年3月、第三者委員会の調査報告書で多数の会計不正が公表。会計不正の純利益への累計影響額1,607億円。創業者・永守氏が辞任。
ニデックのビジネスモデル ~ 5つの事業本部
ニデックのビジネスモデルは、5つの事業本部から成り立っています(2025年9月末時点)。
第一に、「小型モータ事業本部」(伝統的な収益源)。
- ハードディスク(HDD)用精密小型モーター(世界シェア1位)
- ファンモーター(データセンター冷却、サーバ冷却向けに増加)
- 各種精密小型モーター
第二に、「車載事業本部」(成長分野)。
- EV駆動装置「E-Axle(イーアクスル)」
- 電動パワーステアリング用モーター(世界シェア1位)
- 車載用各種モーター
第三に、「家電・車載事業統括本部」。
- 家電用モーター
- 商業・産業用モーター
第四に、「モーション&エナジー事業本部」。
- 産業用モーター
- エナジー関連
第五に、「機械事業本部」(M&Aで拡大)。
- 工作機械(三菱重工工作機械→ニデックマシンツール、OKK→ニデックOKK等)
- 減速機、プレス機械
加えて、「グループ会社事業」(国内子会社等15社及び傘下の会社)。
ニデックは、ニデックに加え、合計354社の子会社・関連会社で構成される巨大企業グループ。「あらゆる回るもの、動くもの」(モーター)を起点に、多角化を進めてきました。
M&A戦略 ~ 60件超の買収による成長
ニデックの成長の最大の原動力が、M&A(企業買収)です。
永守氏のM&A哲学:
- 「強い企業を作るためにはM&Aの活用が大切」
- 「赤字は罪悪」(不振企業を買収し、即黒字化)
- 「工作機械事業ほど儲かるものはない」
M&Aの実績:
- 60件を超える企業買収
- 三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール):赤字から即黒字へ
- OKK(現ニデックオーケーケー):赤字から即黒字へ
- 多数の国内外企業
M&Aによる事業拡大:
- HDDモーター → 車載モーター → 工作機械 → EV駆動装置
- 永守流の再建手法(コスト削減、意識改革)
近年のM&A:
- 2024年9月、カナダのLinear(工作機械関連)
- 2025年4月、牧野フライス製作所への同意なきTOB(敵対的買収)
- 工作機械事業の拡大、売上高1兆円を目指す
牧野フライス製作所のTOB(2025年):
- 牧野フライスに事前協議を打診せず、「同意なき買収」
- 牧野フライスの営業利益率(2023年度7.7%)を、永守流で15%以上に高める狙い
- 日本のM&Aの進め方にも影響を与える注目案件
永守氏の「買収して再建する」手法は、ニデックの急成長を支えました。しかし、後述のように、この急拡大が会計不正の温床になった面もあります。
永守経営 ~ カリスマの光
ニデックの成長を支えたのは、創業者・永守重信氏のカリスマ経営です。
永守経営の特徴:
- 「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
- 「情熱、熱意、執念」
- 営業で「絶対にNOと言わない」
- 厳格な生産目標の達成
- 製造現場での厳格な仕事と忍耐
- M&Aによる事業拡大
- 不振企業の再建(「赤字は罪悪」)
永守氏は、一代でニデックを世界トップクラスのモーターメーカーに育て上げた、日本を代表するカリスマ経営者。京都先端科学大学の理事長も務め、教育にも投資。
財務の安定:
- M&Aが多い中、安定的な財務を維持
- かつて資金繰りに苦労した永守氏の経営哲学
- 2024年5月時点の時価総額は約4兆3,000億円
成長分野:
- 北米向けデータセンター用空調・サーバ冷却用モーター需要増
- 車載向けモーター、産業向け中型モーター強化
- EV駆動装置E-Axle
永守氏のリーダーシップは、ニデックの急成長を実現した一方、後述する「強すぎるプレッシャー」「マイクロマネジメント」「後継者問題」といった負の側面も生み出しました。
会計不正問題 ~ カリスマ経営の影
2025年9月以降、ニデックは深刻な会計不正問題に直面しています。
会計不正の発覚:
- 2025年7月、傘下の会社から、子会社が値引きに伴い取引先から戻ってきた2億円を適切に会計処理しなかった疑いが報告
- その調査過程で、ほかのグループ企業でも不正な会計処理が疑われる資料が複数発見
- 2025年9月、第三者委員会を設置
会計不正の内容(2026年最終報告書):
- 多岐にわたる拠点で多数の会計不正が発見
- 損失計上の先延ばし
- 政府補助金返還等に係る引当金の不正な戻し入れ
- 収益計上が許されない補助金の性質を偽った収益計上
- 不良債権の貸倒引当金を適切に計上しなかった事案
- 会計不正は調査対象(2020年以降)よりかなり前から行われていた
影響額:
- 会計不正による純利益への累計マイナス影響額:1,607億円(2025年4〜6月期まで)
- 純資産への負の影響額:約1,397億円(2025年度第1四半期末)
第三者委員会の結論:
- 会計不正はいずれも「業績目標、特に営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャーを背景に行われた不正」
- 「最も責めを負うべきは永守氏」
ペナルティ:
- 監査法人PwCジャパンから「意見不表明」(2025年3月期有価証券報告書を約3カ月遅れで提出)
- 2025年10月、東証から特別注意銘柄に指定
- 2025年11月、日経平均構成株価から除外
- 創業者・永守氏が辞任
この会計不正問題は、永守氏の「強すぎるプレッシャー」経営が生み出した、カリスマ経営の「影」の側面を象徴しています。
業績の状況
ニデックの業績を整理しておきましょう(ただし会計不正により過去の決算は訂正される見込み)。
2025年3月期(連結実績、訂正前):
- 売上高 2兆6,078億円
- 税引前当期利益 2,333億円
- 資本金 877億円
- 従業員数 104,265人
- 子会社・関連会社 合計354社
業績ドライバー:
- HDD用モーター(伝統的な収益源、ただしHDD市場は縮小)
- 車載モーター、EV駆動装置E-Axle
- データセンター・サーバ冷却用ファンモーター(北米で増加)
- 産業用中型モーター
- 工作機械(M&Aで拡大)
ただし、会計不正により:
- 過去の決算(2021年3月期〜)が訂正される見込み
- 純利益への累計影響額1,607億円
- 業績の信頼性が損なわれている
時価総額:2024年5月時点で約4兆3,000億円でしたが、会計不正発覚後、株価は下落、日経平均からも除外。
ニデックは、世界トップクラスのモーターメーカーとしての事業基盤を持ちながら、会計不正という深刻な信頼問題に直面しています。
弱点1:会計不正と信頼の失墜
ニデックの最大かつ最も深刻な弱点は、会計不正と信頼の失墜です。
会計不正の深刻さ:
- 純利益への累計影響額1,607億円
- 多岐にわたる拠点で多数の会計不正
- 2020年以前から行われていた
- 監査法人「意見不表明」
- 東証特別注意銘柄指定
- 日経平均除外
- 創業者・永守氏の辞任
信頼失墜の影響:
- 投資家の信頼喪失
- 株価下落
- 上場廃止リスク
- 取引先・顧客の不安
- 従業員の士気
- ブランドイメージの毀損
会計不正は、企業の根幹である「決算の信頼性」を揺るがす致命的な問題。ニデックは、世界トップクラスのモーター技術を持ちながら、ガバナンスの崩壊により、企業としての信頼を大きく失いました。再建には長い時間がかかります。
弱点2:「強すぎるプレッシャー」の経営
会計不正の根本原因は、永守氏の「強すぎるプレッシャー」の経営でした。
第三者委員会の指摘:
- 会計不正はいずれも「業績目標、特に営業利益目標の達成に向けた強すぎるプレッシャー」を背景に行われた
- 「最も責めを負うべきは永守氏」
永守経営の負の側面:
- 過度な業績目標
- マイクロマネジメント
- 幹部への苛烈な叱責(複数の幹部を宛先に入れたメールでの公開叱責)
- イエスマンの増殖
- 現場の忖度・不正の温床
永守氏は「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「赤字は罪悪」という強烈な経営で急成長を実現しましたが、その「強すぎるプレッシャー」が、現場での会計不正を生み出しました。
カリスマ経営の「光」(急成長)と「影」(不正の温床)は表裏一体。過度なプレッシャー経営の危険性を、ニデックの事例は示しています。
弱点3:後継者問題
ニデックの長年の課題が、永守氏の後継者問題です。
後継者問題の経緯:
- 永守氏は何度も後継者(社長)を指名しては、対立・解任を繰り返してきた
- 2022年、日産自動車出身の関潤氏が社長に就任するも、永守氏と経営方針を巡り対立、同年9月に実質的に解任
- 永守氏が幹部を公開に近い形で叱責するメール
- カリスマ創業者からの権限移譲の難しさ
後継者問題のリスク:
- 永守氏への過度な依存
- 権限移譲の失敗
- 経営の継続性
- 「傀儡政権」の懸念(永守氏の影響力が残る)
永守氏は2024年4月以降、決算の場には出ていないとされますが、会計不正問題で辞任した後も、その影響力が残る「傀儡政権」の懸念が指摘されています。
カリスマ創業者がいなくなった後、ニデックが自律的に経営を立て直せるかが、最大の課題です。
弱点4:M&A依存の成長モデル
ニデックの成長は、60件超のM&Aに依存してきました。
M&A依存のリスク:
- 買収先企業の統合(PMI)の難しさ
- 354社の子会社・関連会社の管理の複雑さ
- 買収先での会計不正の温床
- 「のれん」の減損リスク
- 急拡大によるガバナンスの追いつかなさ
会計不正との関連:
- 多岐にわたる拠点(買収企業含む)で会計不正
- 急拡大したグループの管理体制の不備
- 「赤字は罪悪」のプレッシャーが買収先でも不正を生む
ニデックの「M&Aで急拡大」というモデルは、急成長を実現した一方、354社という巨大グループの管理が追いつかず、会計不正の温床となった面があります。M&A依存の成長モデルの限界が、露呈しています。
弱点5:HDD市場の縮小
ニデックの伝統的な収益源であるHDD(ハードディスク)用モーターは、市場が縮小しています。
HDD市場の縮小:
- SSD(半導体メモリ)への置き換え
- PCのHDD離れ
- スマホ・タブレットはフラッシュメモリ
- HDDはデータセンター(大容量ストレージ)に残るが、PCからは減少
ニデックの対応:
- 車載モーター、産業用モーターへのシフト
- EV駆動装置E-Axle
- データセンター用ファンモーター
HDDモーターで世界シェア1位を築いたニデックですが、HDD市場の構造的縮小により、新たな成長分野(車載、産業、データセンター)への転換が必要。事業構造の転換が、長期的な課題です。
弱点6:EV駆動装置E-Axleの収益化
ニデックの成長の柱と期待されたのが、EV駆動装置「E-Axle(イーアクスル)」です。
E-Axleの状況:
- EV(電気自動車)の駆動装置
- 中国市場を中心に展開
- EVシフトの追い風
しかし、課題:
- EV市場の鈍化(北米・欧州)
- 中国EV市場の激しい価格競争
- E-Axleの収益性
- 中国EVメーカーとの取引リスク
EV駆動装置は、ニデックの次の成長の柱と期待されましたが、EV市場の鈍化、中国市場の価格競争で、収益化に課題。E-Axleが期待通りの収益を生むかは、不透明です。
弱点7:敵対的買収(牧野フライス)の余波
ニデックは2025年4月、牧野フライス製作所への「同意なきTOB(敵対的買収)」を仕掛けました。
牧野フライスTOBの問題:
- 事前協議なしの「同意なき買収」
- 日本のM&A慣行への影響
- 敵対的買収への賛否
- 会計不正発覚後の信頼性への疑問
リスク:
- 敵対的買収によるブランドイメージへの影響
- 買収後の統合の難しさ
- 会計不正問題との時期の重なり
- M&A戦略の変更
ニデックは「工作機械事業ほど儲かるものはない」として工作機械メーカーの買収を進めてきましたが、会計不正発覚により、こうした積極的なM&A戦略の信頼性・実行可能性が問われています。
弱点8:ガバナンスの欠陥
ニデックの会計不正は、ガバナンス(企業統治)の欠陥を露呈しました。
ガバナンスの問題:
- 創業者(永守氏)への過度な権限集中
- 取締役会の監督機能の不全
- 内部統制の不備
- 監査法人(PwC、継続監査期間40年)の監査の限界
- 354社の子会社管理の不備
監査法人との関係:
- PwCジャパン(前身のPwC京都含め継続監査期間40年)
- 「意見不表明」「レビュー結論不表明」
40年もの長期にわたり同じ監査法人が担当していたことも、監査の独立性・実効性への疑問を生みます。
ニデックは、会計不正を受けて、ガバナンス改革・内部統制の再構築が急務。カリスマ創業者への依存から脱却し、健全なガバナンス体制を構築できるかが、再建の鍵です。
弱点9:上場廃止リスク
ニデックは、会計不正により、上場廃止のリスクに直面しています。
上場廃止リスク:
- 2025年10月、東証特別注意銘柄に指定
- 2025年11月、日経平均構成株価から除外
- 有価証券報告書の遅延提出
- 監査法人の「意見不表明」
- 過去の決算訂正
特別注意銘柄とは:
- 内部管理体制等に問題があると東証が判断した銘柄
- 改善が見られない場合、上場廃止の可能性
ニデックが上場廃止を回避するには:
- 内部管理体制の改善
- 過去決算の訂正
- 監査法人からの適正意見の取得
- ガバナンス改革
上場廃止は、企業にとって最大級のペナルティ。ニデックは、信頼回復と上場維持に向けて、抜本的な改革が求められています。
弱点10:従業員10万人の巨大組織管理
ニデックは、連結従業員数10万人超、354社の子会社・関連会社からなる巨大組織です。
巨大組織の管理課題:
- 10万人超の従業員管理
- 354社の子会社・関連会社のガバナンス
- グローバル拠点(多岐にわたる)
- M&Aで買収した企業の統合
- 製造現場の「厳格な仕事と忍耐」のプレッシャー
会計不正との関連:
- 多岐にわたる拠点での会計不正
- 巨大組織の管理が追いつかない
- 「強すぎるプレッシャー」が全社に浸透
加えて、労働環境:
- 「厳格な生産目標達成」のプレッシャー
- 2023年度の管理職女性比率8.1%(低い)
- 労働集約的な製造業
ニデックは、急拡大により巨大組織となりましたが、その管理体制が追いつかず、会計不正の温床となりました。巨大組織を健全に管理するガバナンス体制の構築が、最大の課題です。
まとめ ~ カリスマ経営の光と影
ニデック(日本電産)のモーター世界一×M&A×永守経営モデルを、改めて整理しましょう。
強みとしては、HDD用精密小型モーター・電動パワーステアリング用モーターで世界シェア1位、2025年3月期売上高2兆6,078億円(訂正前)、連結従業員10万人超、5つの事業本部(小型モータ、車載、家電・車載、モーション&エナジー、機械)、60件超のM&Aによる成長、永守重信氏の「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」のカリスマ経営、不振企業の再建力(「赤字は罪悪」)、EV駆動装置E-Axle、データセンター・サーバ冷却用ファンモーター、車載・産業用モーター、工作機械事業(ニデックマシンツール、ニデックOKK)、創業1973年からの一代での急成長、安定的な財務(永守氏の経営哲学)。
ただし弱点も極めて深刻です。会計不正と信頼の失墜(純利益累計影響額1,607億円、東証特別注意銘柄、日経平均除外、永守氏辞任)、「強すぎるプレッシャー」の経営(営業利益目標達成への過度な圧力が不正の温床)、後継者問題(関潤氏の解任等、権限移譲の失敗)、M&A依存の成長モデル(354社の管理が追いつかない)、HDD市場の縮小、EV駆動装置E-Axleの収益化、敵対的買収(牧野フライス)の余波、ガバナンスの欠陥(創業者への権限集中、監査の限界)、上場廃止リスク、従業員10万人の巨大組織管理。
ニデックの事例は、「カリスマ経営の光と影」を象徴しています。
永守重信氏は、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」「赤字は罪悪」という強烈な経営哲学と、60件超のM&Aで、京都の町工場を一代で年間売上2.6兆円の世界企業に育て上げました。これは、戦後日本の起業家精神の象徴ともいえる、輝かしい成功物語でした。
しかし、その「強すぎるプレッシャー」の経営は、現場での会計不正を生み出し、第三者委員会から「最も責めを負うべきは永守氏」とされ、創業者自身の辞任、東証特別注意銘柄指定、日経平均除外という、企業としての信頼失墜を招きました。
「業績目標達成への強すぎるプレッシャー」が会計不正の温床になったという第三者委員会の指摘は、すべての企業経営者にとって重い教訓です。
私たちが何気なく使うPCのハードディスク、自動車のパワーステアリング、家電のモーター、データセンターの冷却ファン――これらの背後に、ニデックの世界トップクラスのモーター技術、永守氏のカリスマ経営、60件超のM&A――そして、その急成長の裏で生じた会計不正という「影」――これらが結晶しています。
ビジネスを設計する人にとって、ニデックの事例は「カリスマ経営の光と影」「M&Aによる急成長の限界」「過度な業績プレッシャーの危険性」「ガバナンスの重要性」「後継者育成の難しさ」「急拡大した巨大組織の管理」――そして何より「会計の信頼性こそが企業の根幹である」という、極めて重要な教訓を提供してくれます。
10年後、ニデックは会計不正から再建し、信頼を回復しているでしょうか。永守氏なきあと、健全なガバナンスを構築できているでしょうか。世界トップクラスのモーター技術を、健全な経営の下で活かせるでしょうか――。それは、現代日本の企業経営における最も重い教訓の一つです。
参考資料
- ニデック株式会社 公式サイト・ニュースリリース https://www.nidec.com/jp/corporate/news/
- ニデック株式会社「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領及び当社の対応に関するお知らせ」https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0417-01/260417-01j.pdf
- 日本経済新聞「ニデック会計不正、純利益への累計影響額1607億円 第三者委調査」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF171Y90X10C26A4000000/
- EE Times Japan「不適切会計疑惑のニデック『心からおわび』、損失877億円計上」https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/17/news043.html
- EE Times Japan「ニデック、至るところに会計不正『最も責めを負うべきは永守氏』」https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2603/03/news158.html
- 朝日学情ナビ「ニデック『不正会計』創業者も辞任 不正なぜ起こる?」https://asahi.gakujo.ne.jp/common_sense/current_events/detail/id=4280
- PROnet「会計不正調査報告書を読む【第183回】ニデック株式会社」https://profession-net.com/professionjournal/financial-statements-article-206/
- 日経xTECH「ニデックによる牧野フライス買収案の裏に3つの理由」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/10115/
- ダイヤモンドオンライン「ニデック永守氏”電撃退場”も幕引き遠く」https://diamond.jp/articles/-/379976
- ポジテン「ニデック(日本電産)の業績推移」https://positen.jp/690
- 日刊工業新聞「ニデック、工作機械事業拡大加速 売上高1兆円へ」https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00737130
- 永守重信『情熱・熱意・執念の経営』『人を動かす人になれ!』等の著書
- 牧野フライス製作所、DMG森精機、オークマ等関連企業の公式情報
- 日本経済新聞、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンライン、EE Times等のニデック関連報道

