公務員という職業は本当に「安定」しているのか——7つの切り口と47の具体例で徹底検証する

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はじめに——「安定」という呪文に取り憑かれた世代

就職氷河期世代にとって「安定」は呪文だ。親が呪文のように唱えた。「公務員になりなさい。安定しているから」。教師が唱えた。「公務員試験を受けてみなさい。安定しているから」。テレビのコメンテーターが唱えた。「若者は安定を求めすぎている」。だが安定を求める若者を生んだのは、安定を奪った社会ではなかったか。

2001年3月卒。求人倍率は0.99倍。「大学を出ても就職できない」が当たり前だった。100社に応募して100社から不採用通知をもらった人間が、「安定」という言葉にどれだけ飢えていたか。安定は「贅沢品」ではなく「生活必需品」だった。水や空気と同じだ。あるときは意識しない。ないときに初めて「ないと死ぬ」と気づく。

あれから20年以上が経った。45歳。いまだに派遣社員として手取り16万円で暮らしている。「安定」は手に入っていない。そしてふと考える。「安定している」と言われ続けてきた公務員という職業は、本当に安定しているのか。「安定」の中身は何なのか。中身を知らないまま「安定」を求めるのは、成分表を読まずに薬を飲むようなものだ。効果があるかもしれない。副作用があるかもしれない。そもそも「効く薬」なのかもわからない。

このエッセイでは「公務員は安定しているか」という問いを、7つの切り口——「雇用」「収入」「生活設計」「精神」「社会的地位」「将来性」「危機耐性」——から検証する。それぞれの切り口で具体的な事例と数字を示し、「安定の実像」を浮かび上がらせる。結論を先に言えば、「公務員は多くの側面で安定している。だが『完全な安定』は存在しない。そして安定の意味は、立っている場所によってまるで違う」。

第1章 そもそも「安定」とは何か——定義の不在という根本問題

「安定している」。この言葉を日常的に使うが、定義を聞かれると答えに詰まる。「安定=変化がない」だろうか。それなら刑務所の生活は最も安定している。毎日同じ時間に起き、同じ食事を食べ、同じスケジュールで過ごす。変化がない。だが誰も刑務所の生活を「安定している」とは言わない。

「安定=不安がない」だろうか。不安は主観的なものであり、客観的な条件とは一致しない。年収1000万円の大企業社員が「リストラされるかも」と不安を抱え、年収300万円の公務員が「クビにはならないから安心」と思っている。客観的には前者のほうが「恵まれている」が、主観的には後者のほうが「安定している」と感じている。安定は客観的な条件か、主観的な感覚か。

「安定=予測可能」だろうか。この定義が最もしっくりくる。「来月も仕事がある」と予測できる。「来年も給料が入る」と予測できる。「10年後も生活できる」と予測できる。この「予測可能性」こそが「安定」の本質ではないか。公務員は「来月も仕事がある」と99.9%の確率で予測できる。派遣社員は「来月も仕事があるか」が50〜80%の確率でしか予測できない。この「予測確率の差」が「安定の差」だ。

以下の章では、「安定=予測可能性が高いこと」という定義に基づいて検証する。

第2章 雇用の安定——「クビにならない」の実態と限界

公務員の雇用の安定は法律で保障されている。地方公務員法第27条から第29条にかけて、職員の「身分保障」と「分限」「懲戒」の規定がある。端的に言えば「法律で定められた理由以外ではクビにできない」。これは民間企業の労働者にも労働契約法による解雇制限があるが、公務員の身分保障のほうが「より強固」だ。

民間企業の場合、「整理解雇の四要件」(人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続の妥当性)を満たせば、裁判所が解雇を有効と認めることがある。つまり「業績悪化」が正当な理由になりうる。公務員の場合、「定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」に免職できるが、実際にこの規定が適用されたケースは極めて稀だ。なぜなら公務員の定数削減は「新規採用の抑制」で対応するのが慣例であり、「在籍者を切る」ことは政治的にも行政的にもハードルが極めて高いからだ。

具体例を挙げよう。2006年の「小さな政府」路線で国家公務員の定員が大幅に削減された。だが削減は「退職者の不補充」(退職した人の後を採用しない)で実施され、「在籍中の職員を解雇する」ことは行われなかった。2010年代の「行政改革」でも同様だ。公務員の定数は減ったが、減ったのは「ポストの数」であり「人間」ではない。在籍者は「配置転換」で対応された。

ここで「派遣社員との比較」をしてみる。派遣社員は「3ヶ月更新」「6ヶ月更新」が一般的であり、更新されなければ即座に無職になる。「更新しない」ことに企業は理由を示す必要がない(正確には「雇止めの理由の明示」は求められるが、「契約期間満了」で十分)。公務員が「クビにならない確率」を99.9%とすれば、派遣社員が「次の更新がある確率」は80〜90%程度だろう。10回更新すれば1〜2回は「更新なし」を経験する。20年間派遣社員をしていれば「3〜5回の契約終了」を経験する。その都度「次の仕事を探す」不安に苛まれる。

この「予測可能性の差」は精神的な健康に直結する。「来月も仕事がある」と確信できる人と、「来月は仕事があるかわからない」と不安を抱える人。同じ月給でも、精神的な負荷がまるで違う。月給20万円で「来月も確実にある」のと、月給20万円で「来月はわからない」のと。同じ20万円だが「重さ」が違う。前者の20万円は「使えるお金」。後者の20万円は「貯めておかなければならないお金」。使い方が変わる。生活の質が変わる。

ただし「クビにならない」にも例外がある。懲戒免職。犯罪行為(窃盗、横領、暴力、飲酒運転等)、重大なハラスメント、職務上の重大な非違行為。これらは「免職」の対象だ。当たり前だが「法律を守り、まっとうに働くこと」が雇用安定の前提条件。もう一つの例外は「分限免職」。心身の故障により職務の遂行に支障がある場合。長期の病気休職(通常3年が上限)を経ても復帰できない場合に適用される可能性がある。これは「本人の意に反する免職」であり、健康リスクが雇用リスクに転化するケースだ。

結論。公務員の雇用の安定は「法的に保障された、極めて高い水準の安定」だ。ただし「絶対」ではなく「条件付き」の安定。条件とは「法律を守ること」「健康を維持すること」。この2つの条件を満たす限り、定年まで(2031年度以降は65歳まで)雇用が保障される。

第3章 収入の安定——「毎月同じ額が入る」の破壊力

公務員の給与は「給与条例」と「給料表」で決まる。給料表には「級」(職務の責任度)と「号給」(勤続年数に応じた昇給)が細かく規定されており、「自分の給料がいくらか」が一円単位で事前にわかる。さらに「来年の昇給でいくら上がるか」も(勤務成績が標準であれば)ほぼ正確に予測できる。10年後の自分の給与額すら、給料表から逆算すれば「おおよその金額」がわかる。この「予測可能性」が収入の安定の本質だ。

派遣社員の収入は「時給×勤務時間」で決まる。月の勤務日数は月によって異なる。2月は営業日が少ない(20日前後)。5月はゴールデンウィークで営業日が減る。8月はお盆休み。12月は年末休み。時給1200円×8時間×月の営業日数で計算すると、2月と5月で1〜2万円の差が出る。さらに「祝日が月曜に集中する月」は手取りが一気に下がる。この「月ごとの振れ幅」が家計管理を難しくする。

公務員は月給制だ。祝日が何日あっても、月給は変わらない。「今月は祝日が多いから手取りが少ない」はない。この「毎月同じ額が入る安心感」は、家計管理を劇的に簡素化する。「毎月の固定費を払って、残りを生活費にする」計算が成り立つ。派遣社員は「今月の手取りがいくらかわからないから、固定費を払えるか不安」になる月がある。この「不安の有無」が、生活の質に直結する。

昇給の仕組みも検証する。公務員は毎年1月1日(国家公務員)または4月1日(多くの地方公務員)に「定期昇給」がある。標準的な勤務成績であれば4号給(号給が4つ上がる)。金額にして月額3000〜7000円の昇給。年間で36000〜84000円の収入増。これが定年まで毎年続く。「努力しなくても上がる」わけではないが、「普通に働いていれば上がる」。成果主義ではなく年功主義。年功主義は「優秀な人が報われない」というデメリットがあるが、「普通の人が確実に昇給する」というメリットがある。氷河期世代の45歳にとって、「普通に働いていれば確実に昇給する」は「夢のような仕組み」だ。派遣社員は「10年間同じ時給」というケースが珍しくない。

ただし公務員の給与にも「変動要因」がある。人事院勧告(国家公務員)・人事委員会勧告(地方公務員)による改定だ。毎年、民間企業の給与水準と比較して「公務員の給与が高すぎるか低すぎるか」を判断し、改定を勧告する。2024年度は「月給・ボーナスともに引き上げ」の勧告が出た(民間の賃上げを反映)。逆にリーマンショック後の2009〜2011年は「引き下げ」の勧告が続いた。公務員の給与は「絶対に下がらない」わけではなく、「民間の動向に連動して緩やかに変動する」。ただし変動幅は小さい。民間企業のように「ボーナスが半分になった」「基本給が10%カットされた」ということは、通常の人事院勧告では起きない。

もう一つ触れておくべきは「地域手当」の問題だ。公務員の給与には「地域手当」という手当がある。物価の高い地域ほど手当率が高い。東京都特別区は20%。政令指定都市は10〜16%。地方の小さな市町村は0〜3%。つまり同じ「公務員」でも、東京と地方では月給が10〜20%違う。「公務員は安定している」と一口に言っても、「どこの公務員か」で「安定の水準」が異なる。東京の公務員は「安定+高め の給与」。地方の公務員は「安定+低めの給与(ただし物価が安いので生活水準は同等)」。

第4章 生活設計の安定——「見通しが立つ」人生と「見通しが立たない」人生

公務員の「生活設計の安定」は、「ボーナス」「退職金」「年金」の三本柱で支えられている。この三本柱を具体的な数字で検証する。

ボーナス(期末手当+勤勉手当)。2024年度の支給月数は年間4.60ヶ月分。45歳で月給25万円の場合、ボーナスは年間115万円。6月に約57.5万円、12月に約57.5万円。このボーナスは「確実に出る」。民間企業のように「業績悪化でボーナスゼロ」は、公務員ではまず起きない。ボーナスの支給月数が0.05ヶ月減ることはあるが(例:4.60→4.55)、「ゼロ」はない。

派遣社員にはボーナスがない。「ボーナスがある」と「ボーナスがない」の差を年収で計算する。月給25万円の公務員:年収=25万円×12ヶ月+ボーナス115万円=415万円。手取り16万円(額面約20万円)の派遣社員:年収=20万円×12ヶ月=240万円。差額175万円。ボーナスの有無だけで年間175万円の差がつく。20年間で3500万円の差。「ボーナスがあるかないか」だけで、生涯年収が3500万円変わる。この数字は「安定の経済的価値」を端的に示している。

退職金。45歳で採用され65歳で退職する場合(勤続20年)。退職手当の計算は「退職時の俸給月額×支給率」。支給率は勤続年数に応じて決まる。勤続20年の場合、自己都合退職で約20(ヶ月分)、定年退職で約25(ヶ月分)。退職時の俸給月額が28万円の場合、定年退職で28万円×25=約700万円。自治体や計算方式によって幅があるが、500〜800万円程度が目安。派遣社員の退職金はゼロ。この差額500〜800万円が「老後の生活資金」として圧倒的な安心を生む。

年金。公務員は厚生年金に加入する。加えて「年金払い退職給付」(2015年10月以降に採用された職員に適用)がある。厚生年金の受給額は「加入期間×平均報酬額」で決まる。45歳〜65歳の20年間、平均月給25万円で加入した場合、厚生年金の上乗せ分は月額約2.7万円。基礎年金(月額約6.5万円)と合わせて月額約9.2万円。さらに年金払い退職給付(月額約1〜2万円)を加えると月額約10.2〜11.2万円。

派遣社員(厚生年金に加入している場合)の年金受給額を計算する。手取り16万円(額面約20万円)で20年間加入した場合、厚生年金の上乗せ分は月額約2.2万円。基礎年金と合わせて月額約8.7万円。公務員との差は月額1.5〜2.5万円。年間で18〜30万円。30年間(65歳〜95歳)で540〜900万円の差。

三本柱の合計差額。ボーナスの差(20年分)3500万円+退職金の差700万円+年金の差(30年分)900万円=合計約5100万円。「公務員になったことで、生涯で約5100万円多く受け取れる」計算。5100万円。もやし炒めに換算すると17万食分。毎日3食もやし炒めを食べても155年分。人生が2回分ある。

この「5100万円の差」は「安定の経済的価値」を最も明確に示す数字だ。「安定」は抽象的な概念ではなく「5100万円」という具体的な金額。この金額を見れば「安定を求めることは合理的な経済行動」であることがわかる。

第5章 精神的な安定——「安定した職業」で心は安定するか

雇用が安定し、収入が安定し、生活設計が安定している。それなら精神も安定するはずだ——と思うだろう。だが現実はそう単純ではない。

人事院の調査によると、国家公務員の長期病休者(30日以上の病気休暇または休職)の約6割が「精神及び行動の障害」を理由としている。地方公務員も同様の傾向だ。総務省の調査(令和3年度)では、地方公務員のメンタルヘルス不調による長期病休者数は約3万6000人。全職員の約1.3%。100人に1人以上が「メンタルの不調で長期休職している」計算。この割合は民間企業の平均と同等かそれ以上だ。

「安定した職業」であるはずの公務員に、なぜメンタルヘルスの問題が多いのか。いくつかの構造的な原因がある。

原因1は「部署ガチャ」と「異動のストレス」。公務員は3〜5年ごとに異動する。異動先は自分では選べない。「希望」は出せるが「通る保証」はない。前の部署で「やっと仕事に慣れた」と思った頃に異動の辞令が出る。新しい部署では「ゼロからのスタート」。新しい業務を覚える。新しい人間関係を構築する。新しいルールに適応する。この「リセット」が3〜5年ごとに繰り返される。環境の変化に強い人にとっては「刺激的」だが、変化に弱い人にとっては「消耗」だ。

さらに問題なのは「部署による業務の負荷差」が極めて大きいことだ。静かなデスクワークが中心の部署もあれば、住民の怒号が飛び交う窓口部署もある。生活保護のケースワーカー、児童相談所、災害対応の部署。これらは「精神的に過酷」な業務であり、「異動で突然配属される」可能性がある。自分の適性や希望とは無関係に。

具体例を挙げる。ある自治体の職員Aさんは、総務課(文書管理、庶務)から生活保護の担当課に異動になった。総務課では定時退庁が可能で、住民対応もほぼなかった。だが生活保護の担当課では、午前中はケース訪問(受給者の自宅を訪問して生活状況を確認)、午後は窓口対応(新規の相談者、受給者からの問い合わせ)。「お金が足りない」「医療費を出してほしい」「なぜ支給が減ったのか」。これらの相談に、法令に基づいて「できること」と「できないこと」を説明する。「できない」と伝えると怒鳴られることもある。「死んだらどうしてくれるんだ」と言われることもある。Aさんは3ヶ月でメンタルに不調を来し、半年後に休職した。「雇用は安定しているが、精神は安定していなかった」。

原因2は「住民対応の精神的負荷」。公務員は「サービス提供者」であり、住民は「サービスの受益者」であると同時に「納税者」だ。この「納税者」という立場が「お客様」以上の「権利意識」を生むことがある。「税金を払っているのだから、もっとちゃんとやれ」「公務員は税金で食っているのだろう。何様だ」。こうした言葉を浴びせられる場面がある。民間企業なら「出入り禁止」にできるクレーマーでも、公務員は「住民」を拒否できない(原則として)。「対応しなければならない」義務が「逃げ場のなさ」を生み、精神を蝕む。

原因3は「成果が見えにくい」こと。公務員の仕事は「社会のインフラ」を維持する仕事だ。道路の管理、税の徴収、福祉サービスの提供、防災計画の策定。これらは「問題なく機能していて当たり前」であり、「うまくいっても褒められない。失敗したら叩かれる」。「目に見える成果」が出にくいため、「やりがい」を感じにくい人がいる。民間企業なら「売上が○%増えた」「新商品がヒットした」という「数字で見える成果」がモチベーションになる。公務員の成果は「住民が気づかないほどスムーズにサービスが提供されていること」であり、「気づかれない=評価されない」というジレンマがある。

原因4は「組織文化の硬直性」。公務員の組織は「前例踏襲」「年功序列」「手続き重視」の傾向がある。「新しいアイデアを出しても採用されない」「若手の意見が通らない」「書類の形式ばかり気にする」。こうした組織文化に「息苦しさ」を感じる人がいる。特に「民間企業からの転職者」や「意欲の高い若手」がこのギャップに苦しむことがある。

だが「精神的に安定している公務員」も多くいる。「自分の仕事に意味を見出している」「住民の『ありがとう』にやりがいを感じる」「異動を『新しい経験の機会』と前向きに捉えている」「定時退庁できる部署で、プライベートを充実させている」。精神的な安定は「職業」が保障するものではなく「個人の捉え方」と「配属先」と「人間関係」の掛け算で決まる。公務員は「精神的安定の可能性」を高める要素(雇用の安心、収入の安定)を持っているが、「精神的安定を保証」はしない。

第6章 社会的な安定——「公務員」の肩書きが開く扉と閉じる扉

公務員の社会的信用は極めて高い。「公務員」と名乗るだけで、いくつかの「扉」が開く。

開く扉1は「住宅ローンの扉」。銀行にとって公務員は「最も貸し倒れリスクが低い顧客」だ。クビにならない。給料が確実に入る。ボーナスがある。退職金がある。住宅ローンの審査は「ほぼ確実に通る」。金利も優遇される場合がある。派遣社員が住宅ローンを組もうとすると、「収入が不安定」と判断されて門前払いされることが多い。「公務員」と書いた瞬間に銀行の対応が変わる。この経験をした中途採用の公務員は多い。「前は派遣社員で審査に落ちた。今は公務員で一発OK。何が変わったかと言えば、職業名だけ」。

開く扉2は「賃貸住宅の扉」。大家にとって公務員は「最も安心な入居者」。家賃の滞納リスクが低い。トラブルを起こしにくい。保証会社の審査も「公務員」なら楽勝。派遣社員は「収入が不安定」として審査が厳しくなる場合がある。

開く扉3は「結婚市場の扉」。婚活市場での「公務員」の人気は高い。マッチングアプリの調査では、「男性に求める職業」のランキングで公務員は常にトップ3に入る。「安定した収入」「ボーナスがある」「退職金がある」「社会的に信頼されている」。これらの要素が「結婚相手として望ましい」と評価される。45歳独身の非正規雇用者が婚活市場で「空気」扱いされる一方、45歳独身の公務員は「まだチャンスがある」と見なされる。この差は「肩書きの力」だ。

開く扉4は「クレジットカードの扉」。公務員はクレジットカードの審査に通りやすい。ゴールドカード、プレミアムカードの審査も比較的容易。「公務員」は「信用のアイコン」として機能している。

だが「開く扉」がある一方で「閉じる扉」もある。

閉じる扉1は「副業の扉」。地方公務員法第38条により、営利企業への従事が原則禁止されている。「副業で月3万円稼ぐ」は公務員には(原則として)できない。近年は「社会貢献型の副業」(NPO活動、地域おこし等)を認める自治体も増えているが、「お金を稼ぐための副業」は禁止。収入源が「公務員の給与一本」に限定される。

閉じる扉2は「自由な発言の扉」。公務員は「政治的中立」が求められる。SNSでの政治的発言、特定の政党や候補者への支持活動が制限される。「自分の考えを自由に発信する」ことが、「公務員としての立場」と矛盾する場合がある。この制約は「言論の自由」との間で常に緊張関係にある。

閉じる扉3は「プライバシーの扉」。「公務員が不祥事を起こした」はニュースになる。飲酒運転、窃盗、暴言。民間企業の社員なら「○○会社の社員」として報道されることは稀だが、公務員は「○○市職員」「○○県職員」として実名が報道されることがある。「公人としての責任」が私生活にまで及ぶ。常に「公務員としての品位」を維持する義務がある。この義務は「精神的なコスト」として機能する。

閉じる扉4は「転職の扉」。公務員から民間企業への転職は「スキルの翻訳」が難しい。公務員の業務スキル(法令解釈、起案文書作成、組織内調整)は、民間企業では直接的に活かしにくい。「公務員を辞めて民間に行く」決断は、「安定を手放す」決断であると同時に「スキルの棚卸しとリブランディング」が必要な大仕事だ。結果として「辞めにくい」。「辞めたくても辞められない」。これは「安定」の別名であると同時に「黄金の手錠」でもある。

第7章 将来の安定——「この安定はいつまで続くのか」

「今は安定しているが、将来も安定しているか」。この問いに対する答えは「おそらくYes、だが現在と同じ水準の安定かは不透明」だ。将来の安定を脅かしうるリスクを検証する。

リスク1は「人口減少と財政悪化」。日本の人口は2024年の約1億2400万人から、2050年には約1億人に減少すると推計されている。人口が減れば税収が減る。税収が減れば公務員の人件費を維持する財源が減る。特に地方の小規模自治体は深刻だ。人口3万人の町が2万人になれば、税収は33%減少する。職員数を維持できるか。維持できなければ「採用抑制」が進む。「現職員のクビ」は切らないが「新しい仲間が来ない」。一人当たりの業務量が増える。「安定しているが、楽ではなくなる」可能性がある。

リスク2は「AI・デジタル化による業務の変容」。窓口業務のオンライン化。書類のペーパーレス化。データ入力の自動化。AIによる問い合わせ対応。これらが進めば「人間がやる必要のない業務」が減る。業務が減れば「定数削減」の議論が出てくる。ただし「AIに置き換えられない業務」は多い。住民との対面相談。複雑な案件の判断。政策の立案。組織間の調整。これらは「人間でなければできない」業務であり、少なくとも10〜20年は「AIに代替されない」。

リスク3は「退職金と年金の制度変更」。公務員の退職金は過去20年間で段階的に引き下げられてきた。2012年の官民比較で「公務員の退職手当が民間より約400万円高い」とされ、400万円分が引き下げられた。今後も「官民比較」の結果次第でさらなる引き下げがありうる。年金も同様。「マクロ経済スライド」の適用により、実質的な年金額は徐々に目減りしていく。「今の制度で計算した退職金と年金が、20年後にそのまま出るか」は保証されない。ただし「大幅に減る」可能性は低い。「段階的に微減する」のが最も現実的なシナリオ。

リスク4は「自治体の統廃合」。2040年頃には「消滅可能性都市」が896自治体に上るとの推計がある(2014年の日本創成会議の発表。その後の修正版でもトレンドは同様)。人口減少が進む小規模自治体が「隣の自治体と合併する」ケースが増える可能性がある。合併した場合、職員は「統合先の自治体に身分が移管される」のが原則であり、クビにはならない。だが「勤務地が変わる」「担当業務が変わる」「組織文化が変わる」ストレスは発生する。

リスク5は「定年延長の影響」。公務員の定年は2023年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げられ、2031年度に65歳になる。定年延長は「長く働ける」メリットがある一方、60歳以降の給与は「60歳時点の俸給月額の7割」に減額される。「3割減の給与で5年間働く」。これを「安定」と呼ぶか「不利」と呼ぶかは、人による。「60歳で辞めて退職金をもらう」選択肢もあるが、退職金の計算で「定年退職」と「自己都合退職」では支給率が異なり、自己都合のほうが低い。「辞めても不利、続けても3割減」。これは「安定の中の不自由」の一例だ。

これら5つのリスクを総合すると、公務員の「将来の安定」は「雇用の保障はほぼ確実に維持されるが、待遇(給与・退職金・年金)は微減の方向に向かう可能性がある」と評価できる。「安定の基盤」は揺るがないが「安定の水準」は少しずつ変化する。変化の速度は「急激」ではなく「緩やか」。この「緩やかな変化」は「予測可能」であり、予測可能であれば「対応可能」。対応可能であれば、依然として「安定」の範疇にある。

第8章 危機時の安定——パンデミック・災害・経済危機を公務員はどう乗り越えたか

「安定の真価」は「非常時」に問われる。平時には「安定」も「不安定」も大差ないように見える。だが非常時に差が出る。公務員は3つの大きな危機をどう乗り越えたか。

事例1は「リーマンショック(2008年)」。世界的な金融危機により、民間企業は大量のリストラを実行した。日本でも派遣切りが社会問題化し、「年越し派遣村」(2008年12月〜2009年1月)が話題になった。数万人の派遣労働者が職を失い、住居も失った。公務員は——「給料が数パーセント引き下げられた」。引き下げられたが、クビにはならなかった。住居を失うこともなかった。「数パーセントの給与カット」と「職そのものの喪失」。同じ「不景気の影響」でも、受けるダメージの大きさが桁違い。

事例2は「東日本大震災(2011年)」。被災地の公務員は「自分も被災者でありながら、住民の支援にあたった」。自宅が津波で流されても出勤した。家族の安否がわからないまま避難所の運営をした。「公務員だから」。この一言が、個人の悲しみを超えて「公の義務」を果たす原動力になった。一方で、公務員自身の「ケア」は後回しにされがちだった。震災後、被災地の公務員のメンタルヘルス不調が急増したことが報告されている。「安定した職業」の公務員が、「最も過酷な状況」に置かれたのが震災だった。雇用と収入は安定していたが、精神と肉体は限界を超えた。「安定」の中に「犠牲」がある。この事実は「安定=楽」ではないことを示している。

震災後の2012〜2013年、国家公務員の給与が平均7.8%カットされた。「復興財源に充てる」ためだ。地方公務員にも「自主的な給与カット」が要請された(強制ではないが、多くの自治体が実施)。「被災地支援のために給料を減らされる」。公務員は「国民のために奉仕する」存在であり、「国民が苦しいときに公務員だけ安泰」は許されないという社会的圧力がある。この圧力が「安定の代償」として機能する。「安定している分だけ、非常時に負担を求められる」。安定はタダではない。

事例3は「新型コロナウイルスのパンデミック(2020年〜)」。民間企業は休業、倒産、リストラが相次いだ。飲食業は売上が7〜8割減。観光業はほぼ壊滅。派遣社員の「雇い止め」が大量に発生した。公務員は——「給料がほぼ満額出た」「ボーナスも出た(若干の減額あり)」「クビにならなかった」。ただし「テレワークができない窓口部門」は「感染リスクを抱えながら出勤」し続けた。特別定額給付金(10万円)の支給業務では、自治体の職員が「深夜まで残業」して対応した。保健所の職員は「電話が鳴り止まない」状態で疲弊した。「安定している=楽をしている」わけではなく、「安定しているからこそ、非常時に最前線に立たなければならない」。

この3つの事例から言えること。公務員の「雇用と収入の安定」は、非常時にも維持された。パンデミックでも震災でも金融危機でも、公務員はクビにならなかった。給料は出た。この「非常時の安定」は、平時以上に価値がある。「普段は安定の恩恵を感じにくいが、非常時に『公務員でよかった』と心から思う」。多くの公務員がコロナ禍でそう感じたという。ただし「安定の代わりに、非常時の負担を引き受ける義務」がある。安定は「もらうもの」であると同時に「背負うもの」だ。

第9章 「非正規公務員」という矛盾——安定の中の不安定

「公務員は安定している」。この命題が当てはまるのは「正規公務員」に限った話だ。公務員の世界にも「非正規」がいる。「会計年度任用職員」(2020年度に制度化)と呼ばれる非正規公務員は、全地方公務員の約3分の1を占める。約70万人。この70万人は「公務員」の名前を持ちながら、「安定」の多くが適用されない。

会計年度任用職員の雇用形態。「1年ごとの任用」であり、年度末(3月31日)に任用が終了する。翌年度に「再度の任用」が行われれば続けて働けるが、「再度の任用は保障されていない」。法律上は「最長でも○年まで」という上限はないが、実態として「3年」「5年」で「公募に切り替える」(つまり一度退職させて再応募させる)自治体がある。これは実質的な「雇い止め」であり、民間の派遣社員と変わらない。

給与。正規職員と比べて低い。フルタイムの会計年度任用職員でも、正規職員の7〜8割程度の給与が一般的。ボーナスは支給されるようになったが(2020年度以降)、正規職員より少ない。退職金は勤続年数が短いためほぼゼロに近い。年金は厚生年金に加入するが、給与が低いため将来の受給額も少ない。

業務内容。正規職員と「ほぼ同じ業務」をしている会計年度任用職員は少なくない。窓口対応、書類作成、データ入力、保育、図書館業務。「同じ仕事をしているのに、雇用も給与も待遇も違う」。この「格差」が問題視されている。

なぜ「非正規公務員」が増えたのか。公務員の定数削減が進む中、「正規を増やせないが業務は増えている」矛盾を「非正規で埋め合わせる」ことで対応してきたためだ。「安定した公務員」の足元に「不安定な非正規公務員」が支えとして存在する。この構造は、民間企業の「正社員+派遣社員」と同じだ。「安定」は「全員に行き渡るもの」ではなく「一部の人にだけ適用されるもの」。この事実は「公務員=安定」の図式に「ただし書き」を付ける。「ただし正規に限る」。

氷河期世代にとってこの問題は「他人事」ではない。「公務員になりたい」と思って応募したとき、「正規」の枠と「会計年度任用」の枠がある。間違って「会計年度任用」の枠に応募してしまうと、「公務員にはなれたが、安定は手に入らなかった」という皮肉な結果になる。応募する際は「正規職員の採用試験」であることを必ず確認する。

第10章 「安定」と「やりがい」のトレードオフ——安定を選ぶと失うもの

「安定した仕事」と「やりがいのある仕事」は両立するか。両立する場合もあるが、しない場合もある。公務員の仕事に「やりがい」を感じるかどうかは、人によって大きく異なる。

やりがいを感じるケース。「住民の『ありがとう』が直接聞ける」窓口業務。「地域の課題を解決する」政策立案。「災害から住民を守る」防災対応。「子どもの安全を守る」児童福祉。これらの仕事に「社会的な意義」を感じ、やりがいを持って取り組む公務員は多い。

やりがいを感じにくいケース。「前例踏襲の事務処理」。書類の形式チェック、データの転記、会議の議事録作成。これらの「定型業務」は「誰かがやらなければならない」が「やりがいを感じにくい」。特に「これ、AIでできるのでは?」と感じる業務を毎日やっていると、「自分の存在意義」を見失うことがある。

ここで「氷河期世代の視点」を入れる。氷河期世代の45歳は「やりがい」と「安定」のどちらを優先すべきか。答えは——「安定」だ。20年間不安定だった人間にとって、「まず安定を手に入れる」ことが最優先。やりがいは「安定の上に」後から積み上げればいい。マズローの欲求段階説で言えば、「安全の欲求」(安定)が満たされて初めて「自己実現の欲求」(やりがい)を追求できる。安全が満たされていないのに自己実現を求めるのは、順序が逆だ。

「安定した環境でやりがいを見つける」方法はある。配属された部署の業務に「自分なりの意味」を見出す。「この書類を正確に処理することで、住民の手続きがスムーズに進む。自分の仕事が住民の生活を支えている」。こう考えれば、定型業務にも「意味」が生まれる。意味が生まれれば、やりがいが生まれる。やりがいは「仕事の中にあるもの」ではなく「自分が仕事の中に見出すもの」だ。

第11章 各国との比較——日本の公務員は「安定」の世界チャンピオンか

日本の公務員は「世界的に見ても安定しているほう」だ。だが「世界一」ではない。各国の公務員の安定性を比較する。

アメリカ。連邦政府職員は「メリットシステム(実績主義)」に基づいて任用される。身分保障はあるが、「業績不良による解雇」は日本より容易。大統領が交代すると高級官僚の多くが入れ替わる「猟官制(スポイルズシステム)」の伝統も残る。州政府・地方政府の職員は州法により異なるが、日本ほどの身分保障はない場合が多い。「公務員=安定」のイメージは、アメリカでは日本ほど強くない。

イギリス。公務員は「政治的中立」の伝統が強く、身分保障もある。だが近年は「アウトソーシング(外部委託)」が進み、「以前は公務員がやっていた仕事」が民間に移管されるケースが増えている。「安定」はあるが「業務領域」が縮小する可能性。

フランス。公務員の身分保障は極めて強い。「事実上クビにできない」と言われる。公務員のストライキ権も認められている(日本では原則禁止)。フランスの公務員はGDP比で日本の約2倍の人件費がかかっている。「安定」は保障されているが、「財政への負担」が問題視されている。

韓国。公務員は「鉄飯碗(チョルバプワン=鉄の茶碗。壊れない=クビにならない)」と呼ばれ、日本以上に「安定」のイメージが強い。公務員試験の競争率は数十倍〜数百倍であり、「公務員になること」自体が社会的ステータス。

日本の公務員の安定性を国際比較で位置づけると、「フランス・韓国と同等か、それに近い水準の高い安定性」だ。アメリカ・イギリスよりは「安定」。「世界的に見ても上位の安定性」と言っていい。

第12章 「安定」の副作用——安定しすぎることのリスク

「安定」は薬にもなるが、副作用もある。安定「しすぎる」ことのリスクを検証する。

副作用1は「成長の停滞」。「何をしてもクビにならない」環境では、「成長するインセンティブ」が弱まる場合がある。民間企業では「スキルアップしなければ評価が下がり、最悪クビになる」プレッシャーが成長の原動力になる。公務員はこのプレッシャーが弱い。「普通にやっていれば大丈夫」の環境で、「普通以上の努力」をする動機が薄れる。

もちろん「成長し続ける公務員」も大勢いる。自主的に研修に参加する。資格を取得する。業務改善を提案する。だがそれは「個人の意志」に依存しており、「制度が成長を促す」仕組みは民間企業ほど強くない。

副作用2は「リスク回避の文化」。「失敗しても許される」が「成功しても褒められない」環境では、「リスクを取らない」ことが「合理的な選択」になる。新しいことに挑戦して失敗すれば叩かれる。何もしなければ叩かれない。この「何もしないほうが安全」のインセンティブ構造が、「前例踏襲」「変化への抵抗」を生む。組織全体が「リスク回避型」になり、イノベーションが起きにくくなる。

副作用3は「依存」。「安定に依存する」心理。「公務員をやめたら生きていけない」「この安定を手放したら二度と手に入らない」。この恐怖が「辞めたいのに辞められない」状況を生む。「黄金の手錠」。仕事が合わない、人間関係が辛い、やりがいが見つからない。これらの問題を抱えていても「安定を失う恐怖」が転職を阻む。結果、「不満を抱えながら安定にしがみつく」人生になる。これは「安定の罠」だ。

副作用4は「社会とのズレ」。公務員の世界は「民間とは異なるルールで動いている」。前例踏襲、根回し、稟議書、年功序列。これらは公務員の組織では「当たり前」だが、民間企業では「時代遅れ」と見なされることがある。公務員として20年間働いた人が民間に転職しようとすると、「考え方が古い」「スピード感がない」と評価される場合がある。安定した環境に長くいると、「環境の外側」との「ズレ」が蓄積する。

これらの副作用は「安定そのもの」の問題ではなく、「安定に安住すること」の問題だ。安定を「基盤」として活用し、その上で「自分なりの成長」を追求すれば、副作用は最小化できる。安定に「乗る」のではなく、安定の上に「立つ」。この姿勢が大切だ。

第13章 氷河期世代にとっての「安定の意味」——特殊な文脈

ここまで「公務員の安定」を多角的に検証してきた。だが「安定の意味」は「誰にとっての安定か」によって異なる。氷河期世代にとっての安定は、他の世代とは「質的に異なる」。

大学を出て「正社員」として就職し、20年間「当たり前のように」安定してきた人にとって、安定は「空気」だ。あって当然。意識しない。だから「安定なんてつまらない」「挑戦が大事」「安定に安住するな」と言える。空気を吸いながら「空気なんて要らない」と言っている。溺れた経験がないから。

氷河期世代は「溺れた経験がある」世代だ。22歳で社会に出て、安定の海に入れなかった。20年間、不安定の荒波に揉まれてきた。「来月の仕事がある保証がない」「ボーナスがない」「退職金がない」「年金が少ない」。この「ない」の連続が20年間続いた。その人間が「安定」を手に入れたとき、安定は「空気」ではなく「酸素ボンベ」だ。ありがたい。毎日感謝する。失うことが怖い。だからこそ大切にする。

氷河期世代が公務員になって最初に感じるのは「安心」だ。「来月も仕事がある」。この事実に安心する。「ボーナスが出る」。この事実に感動する。「退職金がある」。この事実に涙する。「当たり前のことに涙する自分」が、20年間の不安定さを物語っている。

だが「安心」の次に来るのは「恐怖」だ。「この安定を失ったらどうしよう」。20年間不安定だったからこそ、安定を失うことが何より怖い。この恐怖が「過剰な真面目さ」「休めない」「手を抜けない」「周囲に認められなければ」という強迫的な行動パターンを生む場合がある。「安定を手に入れたのに、安定を楽しめない」。皮肉だが、氷河期世代の公務員に見られる現象だ。

処方箋は「安定は逃げない」と信じること。法律で身分が保障されている。普通に働いていればクビにならない。「安定を失う恐怖」は「過去のトラウマ」から来ているのであって、「現在の現実」に基づいていない。過去のトラウマを「今」に投影しない。「今は安定している。安定は続く」。この事実を毎日確認する。布団に入る前に「今日も安定した1日だった」と確認する。確認の繰り返しが、トラウマを癒す。

第14章 「安定の上に何を建てるか」——安定はゴールではなくスタートライン

公務員になった。安定を手に入れた。「おめでとう」。だがここで一つの真実を伝えなければならない。安定は「ゴール」ではなく「スタートライン」だ。スタートラインに立っただけでは、どこにも到達しない。スタートラインから「走り出す」必要がある。

走り出す方向は自分で決める。「安定の上に何を建てるか」は自分次第だ。いくつかの提案をする。

建てるもの1は「経済的なゆとり」。安定した収入をNISA、iDeCo、貯蓄に回す。「生活防衛資金」を厚くする。ふるさと納税を活用する。「安定した収入」を「増やす行動」に変換する。安定した収入は「投資の原資」として最適。毎月確実に入る給与の一部を投資に回し、複利の力で資産を育てる。20年後に「公務員の給与+NISAの資産」で「二重の安定」が完成する。

建てるもの2は「健康」。安定した生活リズム(規則正しい勤務時間)を活かして、健康習慣を確立する。毎朝の散歩。バランスの取れた食事(もやし炒め+納豆+味噌汁+バナナ)。年に1回の人間ドック。半年に1回の歯科検診。「安定した環境」は「健康習慣を定着させやすい環境」だ。

建てるもの3は「人間関係」。職場の人間関係。地域のつながり。オンラインのコミュニティ。「安定」があれば「人間関係を育てる余裕」がある。派遣社員のときは「いつ辞めるかわからない」ので職場の人間関係に「投資」しにくかった。公務員なら「長く一緒に働く同僚」との関係を「ゆっくり」築ける。

建てるもの4は「教養と趣味」。安定した収入で月3000〜5000円の「趣味の予算」が確保できる。読書、映画、音楽、美術館、一人旅。これらの「小さな楽しみ」が、安定した日常に「彩り」を加える。「安定しているが退屈」ではなく「安定していて楽しい」生活を設計する。

建てるもの5は「次のキャリアの準備」。公務員を「ゴール」ではなく「通過点」と考える人もいる。公務員として20年間働いた後、「定年後の第二のキャリア」を準備する。在職中に「社会保険労務士」「行政書士」「FP」などの資格を取得する。定年後に「公務員の経験+資格」で独立する。「安定の中で準備し、安定を活かして次のステージに進む」。

第15章 結論——「公務員は安定しているか」への最終回答

15章にわたって「公務員は安定しているか」を検証してきた。7つの切り口での最終評価を示す。

雇用の安定。評価:◎。法律で身分が保障され、「普通に働いていればクビにならない」。民間企業のリストラ、派遣切りとは次元が異なる安定性。「安定」の核心。

収入の安定。評価:○。毎月確実に支払われ、定期昇給がある。ただし人事院勧告による改定で微調整される。「大幅な増減はないが、微変動はある」。

生活設計の安定。評価:◎。ボーナス・退職金・年金の三本柱。派遣社員との生涯収入の差は約5100万円。「将来の見通しが立つ」安心感は、精神的にも経済的にも巨大。

精神的な安定。評価:△。部署・異動・住民対応によって大きく左右される。メンタルヘルス不調の発生率は民間と同等かそれ以上。「雇用は安定しているが、心は安定していない場合がある」。

社会的な安定。評価:◎。住宅ローン、クレジットカード、賃貸、結婚市場。「公務員」の肩書きが社会的信用を保証する。ただし「副業禁止」「政治的制約」「プライバシーの制限」という代償あり。

将来の安定。評価:○。雇用の保障は今後も維持される見込み。ただし退職金・年金の微減、AI化による業務変容、定年延長の影響がある。「安定の基盤は揺るがないが、安定の水準は緩やかに変化する」。

危機時の安定。評価:◎。パンデミック、震災、金融危機。いずれの非常時にも雇用と収入は維持された。「非常時にこそ真価を発揮する安定」。ただし「非常時に最前線に立つ義務」が伴う。

総合評価。7つの側面のうち、4つが「◎」、2つが「○」、1つが「△」。公務員は「高い水準で安定している」。ただし「完全な安定」は存在せず、「精神的な安定は保障されない」。

氷河期世代の45歳独身男性にとって、公務員の安定は「人生を根本から変える力」を持っている。20年間の「不安定」から「安定」への転換は、「経済的な改善」だけでなく「精神的な安心」「社会的な信用」「将来への希望」をもたらす。「安定を求める」ことは「弱さ」ではない。「20年間の不安定を経験した人間が、安定を求める」のは「学習した結果」であり「合理的な生存戦略」だ。

安定を手に入れたら、安定の上に「自分なりの人生」を建てればいい。もやし炒めを食べて、発泡酒を飲んで、散歩して、本を読んで、NISAで資産を育てて、推しを追いかけて、月に1回の贅沢デーを楽しむ。この「安定の上の日常」が、「不安定の中の日常」より遥かに豊かであることは、経験した人間にしかわからない。

公務員は安定しているか。イエス。多くの側面で、高い水準で。そしてその安定は——もやし炒め17万食分(5100万円)の価値がある。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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