名前が似ているだけで、株は暴騰する —— 市場が「意味」ではなく「文字列」を売買していた日々

この記事は約35分で読めます。
  1. はじめに:2013年10月4日、金曜日
  2. 1-1. 事実関係を整理する
  3. 1-2. 「Q」という文字の意味
  4. 1-3. FINRAが名前を変えさせた、という異様さ
  5. 2-1. 一度目:2019年4月
  6. 2-2. 二度目:2020年3月、コロナ禍
  7. 2-3. SECの停止理由を読む
  8. 3-1. 「Use Signal」
  9. 3-2. 3営業日で50倍
  10. 3-3. 時価総額の報道が、バラバラだった
  11. 3-4. Signal本体が「それ、うちじゃない」と言った
  12. 4-1. Snap事件(2017年)
  13. 4-2. MCI事件 —— そして、学術論文になった
  14. 5-1. 疑ってかかる
    1. 根拠①:暴騰の前夜に、予告するツイートがあった
    2. 根拠②:9月の時点で、すでに出来高が跳ねていた
    3. 根拠③:ペニー株の世界には、メールリストがある
  15. 5-2. 三層構造
  16. 5-3. これはケインズの美人投票そのものである
  17. 6-1. 仮説の側の言い分
  18. 6-2. しかし、反論には穴がある
    1. 穴①:Rashesは「アービトラージャーは限定的」と書いている
    2. 穴②:Rashesの続編研究は「混同は大企業ほど大きい」と言っている
  19. 6-3. 私の見立て
  20. 7-1. 数字4桁という、地味な防波堤
  21. 7-2. ただし、日本にも「名前の混乱」はある —— ジェイコム事件
  22. 7-3. 日本型混同の典型 —— ポケモンGOと任天堂
  23. 8-1. 「バカな個人投資家」の話ではない
    1. 理由①:機械は、文字列しか見ない
    2. 理由②:検索窓が入口になった
    3. 理由③:SNSが、注意を一点に集中させる
  24. 8-2. 結局、市場とは何なのか
  25. 9-1. だから、ティッカーは奪い合いになる
  26. 9-2. 「間違い」は、市場の摩擦ではなく、市場の一部である
  27. 9-3. 最後に
  28. 学術論文(一次資料)
  29. Tweeter / Twitter事件(2013年10月)
  30. Zoom事件(2019年・2020年)
  31. Signal Advance事件(2021年1月)
  32. 日本の事例

はじめに:2013年10月4日、金曜日

その日、アメリカの株式市場で、ある会社の株が暴騰しました。

社名は、Tweeter Home Entertainment Group

家電量販店です。マサチューセッツ州の会社で、2008年にはもう店を畳んでいました。倒産済み。事業は、ありません。株はオーバー・ザ・カウンター(店頭市場)でかろうじて売買されているだけ。前日の終値は、1セントに満たない水準でした。

その株が、この日、一時2,200%上昇して15セントをつけます。終値ベースでも約684%高。売買高は1,436万株。この会社にとって、2007年5月10日以来の商いです。普段は数日にわたって1,000株すら出来ないことがあるような、忘れられた銘柄でした。

なぜ暴騰したのか。

前日、Twitterが株式公開の登録書類を公表したからです。

Tweeterのティッカーシンボルは、TWTRQ。 Twitterが使うと発表したティッカーは、TWTR

それだけです。

FINRA(米金融取引業規制機構)は、この日の東部時間12時42分に、Tweeter株の取引を停止しました。そして翌週の火曜日、FINRAは前代未聞の措置に出ます。

Tweeterのティッカーシンボルを、強制的に「THEGQ」に変更したのです。

理由として、FINRAはこう述べています。TWTRQ銘柄の取引は、無関係な証券の新規株式公開に関連した、広範な誤解を示していた、と。だから「さらなる混乱を避けるため」ティッカーを変えた、と。

新しいティッカーで取引が再開されると、株価は70%以上下落し、1株1セント——騒動前の水準に、あっさり戻りました。


この記事は、「名前が似ているだけで株価が動いた事件」のカタログです。

そして、単なる笑い話として集めるつもりはありません。

なぜなら、これらの事件は、「市場は利用可能な情報を効率的に価格に織り込む」という、現代ファイナンスの土台になっている考え方の、いちばん柔らかい急所を突いているからです。

市場が処理しているのは、情報なのか。それとも、文字列なのか。

順番に見ていきましょう。


第1章 Tweeter事件 —— 死者が復活した4日間

1-1. 事実関係を整理する

まず、時系列を丁寧に押さえます。

  • 2013年9月12日:Twitterが「S-1をSECに秘密提出した」とツイートで発表。この情報だけしかない段階で、すでにTweeter(TWTRQ)の出来高が跳ね上がったことが記録されています。これは重要な事実なので、後で戻ってきます。
  • 2013年10月3日(木):TwitterのS-1(登録届出書)が公開される。ティッカーは「TWTR」を予定。
  • 2013年10月4日(金):Tweeter(TWTRQ)が暴騰。前日終値は1セント未満。この日、始値2セント、一時15セント。上昇率は瞬間で2,200%、終値ベースで約669〜684%。出来高1,436万株
  • 同日12時42分(東部時間):FINRAが取引停止。
  • 10月8日(火):FINRAがティッカーをTWTRQ → THEGQ に変更。取引再開。株価は70%超下落して1セントへ。この日の出来高は100万株強で、暴騰日の1,436万株とは比較になりません。

1-2. 「Q」という文字の意味

ここで、アメリカのティッカー体系の豆知識をひとつ。

OTC市場では、破産した会社のティッカーの末尾に「Q」が付けられます。

Tweeter Home Entertainment Groupは、もともと「TWTR」というティッカーで取引されていました。そして倒産(Chapter 11申請)によって、末尾に「Q」が付き、TWTRQ になったのです。

つまり——

TwitterがIPOで使おうとした「TWTR」は、かつてTweeterのものだった。

Tweeterが倒産して「Q」を付けられたことで、「TWTR」という4文字は宙に浮き、誰も使っていない状態になっていた。そこにTwitterがやってきた。

これは、偶然の一致というより、ティッカーという記号が、企業の生死とともに流通し、再利用される「中古市場」を持っているという話です。

前回の記事(証券コード編)で、日本の証券コードは1993年以降「一度使ったら再利用しない」と書きました。アメリカのティッカーは、逆です。空いたら、次の人が使う。

そして、その再利用が事故を生んだ。

〔筆者体験:日本の「数字は使い捨て、米国の文字は再利用」という対比について、あなたの直感的な感想を。私は「アメリカのほうが合理的だが危険で、日本のほうが非効率だが安全」だと感じました〕

1-3. FINRAが名前を変えさせた、という異様さ

私がこの事件でいちばん驚いたのは、暴騰そのものではありません。

規制当局が、民間企業のティッカーを強制的に変更したという点です。

考えてみてください。Tweeter Home Entertainment Groupは、何も悪いことをしていません。ずっと前に潰れた会社です。「TWTRQ」というティッカーは、正当な手続きで割り当てられたものです。

しかし、別の会社(Twitter)が似た名前で上場しようとしたせいで、投資家が混乱した。だから、Tweeterのほうがティッカーを取り上げられた

これは、こういうことです。

市場の秩序を守るためには、「正しい表示」よりも「混同されない表示」のほうが優先される。

規制当局は、投資家が間違えることを前提に、記号のほうを動かしたのです。

私はここに、金融規制の本質のひとつを見ます。規制当局は、人間が賢くなることを期待しない。 人間は間違える。だから、間違えられる余地のほうを消しにいく。


第2章 Zoom事件 —— SECが「取引停止」まで踏み込んだ

2-1. 一度目:2019年4月

Tweeter事件から6年後。ほとんど同じことが、もっと大きな規模で起きます。

2019年4月18日、ビデオ会議のZoom Video Communicationsが、ティッカー「ZM」でナスダックに上場しました。IPO当日です。

その日、Zoom Technologiesという、まったく無関係な中国系の小さな会社の株が、取引開始から2時間で80%以上急騰しました。

Zoom Technologiesのティッカーは、ZOOM

……そう。「ZOOM」というティッカーを持っていたのは、Zoomアプリの会社ではなかったのです。Zoomアプリの会社は「ZM」でした。

このときは、その日のうちに大半の上昇分を吐き出し、終値は10%高で着地しています。ボヤで済んだ、と言っていい。

しかし、これが伏線でした。

2-2. 二度目:2020年3月、コロナ禍

そして2020年。新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲います。

在宅勤務、リモート授業。Zoom Video Communications(ZM)は、時代の主役になりました。株価は急騰し、時価総額は400億ドルを超えます。

そして——投資家たちは、また間違えました。

Zoom Technologies(ZOOM)の株価が、急騰します。

数字を並べます(報道によって切り取る期間が違うので、複数示します)。

  • 直近5週間で3倍以上(同期間のZoom Videoは30%強の上昇)
  • 市場のピークからの期間で240%超上昇
  • 1か月で約3ドルから20ドル超へ、つまり7倍近く
  • 年初来900%近い上昇

そして2020年3月25日、SEC(米証券取引委員会)が動きます。

証券取引所法12条(k)にもとづき、Zoom Technologies株の取引を一時停止したのです。

2-3. SECの停止理由を読む

SECが挙げた理由は、大きく2つです。

理由①:情報がない。 Zoom Technologiesは、2015年以降、財務情報を含むいかなる公開開示も行っていなかった。会社の事業内容(そもそも事業があるのかどうか)すら不明。所在地として最後に報告されていたのは北京。

理由②:投資家が混同している。 SECは、**「同じような名前のナスダック上場企業と、この発行体を投資家が混同することへの懸念」**を表明しました。その企業は通信サービスを提供しており、コロナ禍で株価が上昇している——と。

つまり、SECは混同そのものを、取引停止の理由として明記したのです。

「株価操縦の疑い」でも「開示違反」でもなく(開示不備も理由に挙げてはいますが)、「みんなが間違えているから止める」

停止期間は、2020年4月8日23時59分まで。取引再開は4月9日。

さらにFINRAも、Zoom Technologies株について一時的な売買停止を課しています。FINRAの通知は、ZOOM銘柄の取引が、ナスダック上場のZoom Video Communications(ZM)と店頭市場のZoom Technologiesとのあいだの広範な誤解を示していたと考えた、と述べています。

Tweeter事件のときと、ほとんど同じ文言です。


第3章 Signal事件 —— たった2語のツイートが、無関係の会社を12倍にした

3-1. 「Use Signal」

2021年1月7日。

イーロン・マスクが、Twitterに2語だけ投稿しました。

Use Signal

マスクが言っていたのは、暗号化メッセージアプリのSignalのことです。非営利団体(501c3)が運営しており、そもそも上場していません。株なんて、存在しない。

しかし、市場にはSignal Advance(ティッカー:SIGL)という会社がありました。テキサス州の、小さなヘルスケア/シグナル処理系の会社です。OTC市場で取引されていました。

2021年1月6日の終値:60セント。 1月4日の出来高:ゼロ株。1株も取引されていない。

そこに、マスクの2語が落ちました。

3-2. 3営業日で50倍

その後の値動みが、めまいがするようなものです。

  • 1月7日(木):+527%
  • 1月8日(金):+91%、株価7.19ドルへ
  • 1月11日(月):+438%、日中高値70.85ドル、終値38.71ドル

60セントから、70ドル超。

Bloombergは、3営業日で5,100%超の上昇と報じました。別の集計では、ピークまでで11,708%上昇したとも、6,350%超とも言われます。

1月11日の出来高は、2014年の上場以来最高の200万株超。1月4日には1株も取引されていなかった銘柄が、です。

3-3. 時価総額の報道が、バラバラだった

ここで、私がとても興味深いと思った点があります。

この会社の時価総額について、報道の数字が一致していないのです。

  • Bloomberg:時価総額3億9,000万ドル
  • CNBC:30億ドル超
  • ドイツ銀行のストラテジストの指摘(Yahoo Financeが引用):24時間で時価総額が700万ドルから1億ドル

桁が違います。

なぜこうなるのか。おそらく、発行済株式数の把握が、報道機関によって異なっていたからです。この会社は開示が乏しく、そもそも正確な株式数を掴むのが難しかった。

つまり、こういうことです。

世界中の投資家が殺到して数十倍の値をつけた銘柄について、一流の金融メディアですら、その会社の時価総額を一致させられなかった。

これ以上の皮肉があるでしょうか。値段はついた。しかし、その値段が何を意味するのかは、誰も計算できなかった。

3-4. Signal本体が「それ、うちじゃない」と言った

騒動を受けて、Signal(メッセージアプリの非営利団体)は、Twitterで否定声明を出しています。

要旨は、こうです。Signalの記録的な成長に投資したくなる気持ちはわかるが、これは我々ではない。我々は独立した非営利団体であり、我々が投資しているのはあなたのプライバシーだけだ。

「私たちが投資しているのは、あなたのプライバシーだけだ」

上場していない非営利団体が、株式市場に向かって「うちの株は買えません」と説明しなければならなかった。


第4章 もっとある —— 取り違え事件の博物館

これらは氷山の一角です。同種の事件は、繰り返し起きています。

4-1. Snap事件(2017年)

2017年、Snapchatを運営する**Snap Inc.**のIPOが大きな話題になっていた時期。

投資家たちは、Snap Interactiveという別会社の株を買い上げました。

Snap Inc.が上場するに、です。

4-2. MCI事件 —— そして、学術論文になった

そしてここからが、この記事のいちばん重要なパートです。

この現象は、ちゃんと学術研究になっています。

論文のタイトルが、また最高なのです。

Michael S. Rashes (2001), “Massively Confused Investors Making Conspicuously Ignorant Choices (MCI–MCIC)”, The Journal of Finance, Vol. 56, No. 5, pp. 1911–1927.

直訳すると、「甚だしく混乱した投資家たちが、あからさまに無知な選択をしている」

そして、この長ったらしいタイトルの頭文字が MCI-MCIC になっている。これが、論文が扱っている2社のティッカーそのものなのです。

  • MCI Communications(電話会社)のティッカーは MCIC
  • MassMutual Corporate Investors(クローズドエンド型ファンド)のティッカーは MCI

電話会社のMCIを買おうとした人が、ティッカー「MCI」を打ち込んで、まったく別のファンドを買っていた。

Rashesは、この2銘柄のあいだに、リターン・出来高・ボラティリティの、短期での有意な相関を発見しました。

そして論文の要旨には、決定的な指摘が並んでいます。

  1. ファンダメンタル価値からの乖離は、数日で反転する傾向がある。ただし、リターンの共変動がより長い期間続くという証拠もある。
  2. アービトラージャー(裁定取引者)は、この乖離を消し去る能力において限定的であるように見える。
  3. この現象(アノマリー)は、情報や期待の変化とは独立に、ノイズトレーダーとその株価への影響を観測することを可能にする。

3番目が、たまらなく面白い。

「情報とは無関係に価格が動く現象」というのは、金融学者にとって、実験室のようなものなのです。

通常、株価が動いたとき、それが「新しい情報を織り込んだ」のか「投資家が非合理に動いた」のかを区別するのは、極めて困難です。両者が絡まっているからです。

ところが、ティッカーの取り違えには、情報がゼロです。

Tweeterの企業価値は、Twitterの上場によって1ミリも変わりません。Signal Advanceの企業価値は、マスクのツイートによって1ミリも変わりません。

にもかかわらず、価格は数十倍になった。

これは、「情報ゼロで、価格だけが動いた」という、純粋培養のサンプルです。

だから学者は、この現象に飛びついた。ノイズトレーダーの存在を、これ以上ないくらいクリーンに観測できるから。


第5章 核心 —— 「本当に間違えている」のか?

5-1. 疑ってかかる

ここまで、私はずっと「投資家が間違えた」という前提で書いてきました。

しかし、この前提を疑うべきです。

Tweeter事件の翌日、BuzzFeed Newsが極めて鋭い記事を出しています。その論旨は、こうです。

「TWTRQを買った人たちは、本当に混乱していたのか? むしろ、彼らは全部わかっていたのではないか?」

根拠は、複数あります。

根拠①:暴騰の前夜に、予告するツイートがあった

暴騰の前日夜、こんな趣旨の投稿がされていました。

仕手株のTWTRQは、混乱した投資家がTWTRのつもりで間違ったティッカーを打ち込んだら、大きく跳ね上がるかもしれない。

つまり、「他人が間違えることを見越して先回りする」という投稿が、事前に存在していた。

根拠②:9月の時点で、すでに出来高が跳ねていた

Twitterが「S-1を秘密提出した」とツイートしたのは2013年9月12日です。このツイートには、ティッカーの情報すら含まれていません。

にもかかわらず、そのときTWTRQの出来高は跳ね上がりました。そして、平常時よりずっと高い出来高を維持したまま、10月の大暴騰を迎えます。

この情報は、見ようと思えば誰でも見られました。

つまり、「9月に予行演習があった」ことは公知だった。だとすれば、10月の本番で仕掛ける人がいて当然です。

根拠③:ペニー株の世界には、メールリストがある

StockTwitsのCEOだったHoward Lindzonは、「おそらくメール詐欺だろう」という見方を示しました。誰かが先に株を仕込み、メールリストに「TWTRQが動く」という煽りを送ったという可能性です。

ペニー株の世界では、メールリストによる煽りは古典的な手口です。

5-2. 三層構造

BuzzFeedの記事に出てくる、Slashdot読者のコメント(Zoom事件のもの)が、この構造をきれいに要約しています。要約すると、こうです。

本当に混同して投資している人は、ごく一部だろう。もっと多いのは、その第一グループにつけこもうとして買っている人たちだ。そしてさらに多いのは、第二グループのせいで株価が上がっているのを見て、乗り遅れまいと買っている人たちだ。つまり、バブルだ。

見事です。整理すると、こうなります。

動機 何を見ているか
第1層:混同者 Twitterを買いたい 文字列(TWTR)
第2層:捕食者 混同者を食い物にしたい 第1層の行動
第3層:追随者 上がっているから乗りたい 第2層が作った価格

そして重要なのは、この3層のうち、実際に「間違えている」のは第1層だけだ、ということです。

第2層と第3層は、完全に合理的です。

  • 第2層は、「他人が間違える」という予測可能な現象に賭けている。これは予測が当たれば儲かる、正しい投資判断です。
  • 第3層は、「上昇トレンドに乗る」というモメンタム戦略を実行している。これも戦略として一貫している

つまり、この暴騰は、大部分が「合理的な参加者」によって作られているのです。

5-3. これはケインズの美人投票そのものである

ここで、経済学の古典を持ち出さないわけにはいきません。

ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』で書いた、**「美人投票」**の比喩です。

新聞の美人コンテストで、100枚の写真から最も美しい6人を選び、平均的な選好にいちばん近い投票をした人が賞をもらう、というゲーム。このとき、賢い参加者は「自分が美しいと思う人」を選びません。「他の人が美しいと思うだろう人」を選びます。さらに賢い参加者は、「他の人が『他の人が美しいと思うだろう』と考えるだろう人」を選びます。

ティッカー取り違え事件は、この美人投票の、最も純粋な実演です。

  • 第1層は、素朴に「美しい」と思う人(=Twitterだと思う人)に投票している
  • 第2層は、「素朴な人がどう投票するか」を予測して投票している
  • 第3層は、「みんながどう動いているか」を見て投票している

そして、この構造のどこにも、「Tweeter Home Entertainment Groupという会社の事業価値」は入っていません。

会社は、もう存在しないのです。存在しない会社の株が、1,436万株も売買された。

市場は、企業を売買していなかった。文字列を売買していた。

これが、この記事の結論です。


第6章 効率的市場仮説は、これをどう説明するのか

6-1. 仮説の側の言い分

効率的市場仮説(EMH)を擁護する立場からは、次のように反論できます。

反論①:乖離は、すぐに消えている。

その通りです。Rashesの論文自身が、**「ファンダメンタル価値からの乖離は、数日で反転する傾向がある」**と書いています。Tweeterは1セントに戻り、Zoom Technologiesは取引停止の後に沈み、Signal Advanceも元の水準へ落ちました。

「市場は間違えるが、すぐに修正する」——これはEMHの弱いバージョンと矛盾しません。

反論②:対象がペニー株ばかりだ。

Tweeter、Zoom Technologies、Signal Advance、いずれもOTCのペニー株です。時価総額が小さく、流動性が乏しく、機関投資家が参加していない。

大型株ではこんなことは起きない、という主張は成り立ちます。

6-2. しかし、反論には穴がある

ところが、この2つの反論には、それぞれ穴があります。

穴①:Rashesは「アービトラージャーは限定的」と書いている

EMHが機能する前提は、**「価格が歪んだら、賢い裁定取引者がすぐに直す」**というメカニズムです。

しかしRashesは、はっきりこう書いています。

アービトラージャーは、これらのファンダメンタルからの乖離を除去する能力において、限定的であるように見える。

なぜ限定的なのか。理由は想像がつきます。

  • 空売りしようにも、株を借りられない(OTCのペニー株は貸株市場がない)
  • 借りられても、コストが高すぎる
  • 借りられても、いつ正気に戻るかわからない(「市場は、あなたが支払能力を保っていられる期間より長く、不合理なままでいられる」)

これは、金融学で**「裁定の限界(limits to arbitrage)」**と呼ばれる論点そのものです。

「賢い人がいるから市場は効率的」という前提は、賢い人が実際に行動できる場合にのみ成立する。

穴②:Rashesの続編研究は「混同は大企業ほど大きい」と言っている

これは驚くべき指摘です。

同種の研究(Journal of Financial Marketsに掲載予定とされる論文の要旨)によれば——

  • 似たティッカーのペアのうち、12%から25%が、売買回転率の共変動を示す
  • 誤って行われた取引が、売買回転率の5%に寄与したと推計される
  • 極端なリターンが出た時間帯における、取り違えられた側の3時間累積異常リターン(CAR)は0.5%
  • 混同は、大企業において、そして回転率が高い時間帯において、最も大きい
  • 混同の原因が消えると、回転率の共変動も消える

「混同は大企業ほど大きい」。

これは、「ペニー株だけの話でしょ」という反論を、真正面から否定しています。

なぜ大企業ほど混同が大きいのか。注目度が高いからです。 多くの人が「その名前」を検索し、注文画面に打ち込む。母数が大きければ、間違える人の絶対数も増える。

6-3. 私の見立て

私は、EMHが完全に間違っているとは思いません。乖離は実際に修正されるし、長期では価格はファンダメンタルズに引き寄せられます。

しかし、この一連の事件が示しているのは、もっと不気味なことです。

市場価格は、「情報」ではなく「注意(attention)」の関数として動く瞬間がある。

Twitterの上場が話題になった。だから「TWTR」という文字列に注意が集まった。注意が集まった文字列に、資金が流れ込んだ。その文字列が何を指しているかは、二の次だった。

注意が資本を動かす。

これは、SNSとアルゴリズム取引の時代における、市場の新しい物理法則かもしれません。


第7章 日本では、なぜ起きにくいのか

7-1. 数字4桁という、地味な防波堤

ここで、日本の話をします。

日本の株式市場では、この種の「ティッカー取り違え暴騰」が、ほとんど報告されていません。

なぜか。

答えは、拍子抜けするほど単純です。

日本の証券コードは、数字4桁だからです。

トヨタ自動車は7203。ソニーグループは6758。任天堂は7974。

7203という数字と、7204という数字は、意味的に何も似ていません。

「トヨタっぽいコード」は存在しない。「Twitterっぽいコード」も存在しない。数字は、社名との連想を一切持たないからです。

一方、アメリカのティッカーは言葉です。AAPL、TWTR、ZOOM、SIGL。言葉である以上、似ることがある。似れば、間違える。

「読めるコード」は、便利であると同時に、危険なのです。

前回の記事で、私は日本の証券コードを「意味が剥落していく識別子」として、少し寂しげに書きました。しかし今回、真逆の評価が可能になります。

意味を持たない数字コードは、取り違えを構造的に防いでいる。

日本の投資家が賢いからではありません。制度が、間違えられないようにできているだけです。

これは、前回の記事の第5章で書いた話と同じ構造です。証券コード協議会は「一般投資家は数字に慣れているから、まず末尾1桁だけをAにする」と説明していました。日本の金融インフラは、一貫して「人間は間違える」という前提で設計されている。

7-2. ただし、日本にも「名前の混乱」はある —— ジェイコム事件

とはいえ、日本が無傷というわけではありません。混同のかたちが違うだけです。

2005年12月8日。ジェイコム株大量誤発注事件。

東証マザーズに新規上場したジェイコム(現・ライク)の株について、みずほ証券の担当者が、「1株61万円で売り」とすべき注文を、「1円で61万株売り」と誤って入力しました。

発行済株式総数はわずか14,500株。その約40倍にあたる61万株の売り注文が市場に叩き込まれたのです。

みずほ証券は取消注文を出しましたが、東証のシステムがそれを受け付けず、約定は止まりませんでした。最終的に、みずほ証券の損失は400億円超。東証社長は引責辞任。訴訟は10年におよび、2015年に東証に約107億円の支払いを命じる判決が確定しました。

これは「価格と数量の取り違え(ファットフィンガー)」であって、「銘柄名の取り違え」ではありません。

しかし、この事件には、見過ごされがちな「名前の混乱」の側面があります。

事件当時、「ジェイコム」という社名を持つ、まったく無関係の会社に、問い合わせが殺到したのです。

  • ジュピターテレコム(ブランド名「J:COM」、読みはジェイコム。ケーブルテレビ・ISP・電話事業。現・JCOM株式会社)
  • JTBグループの株式会社ジェイコム(イベント等の総合プロデュース業)
  • その他、全国に存在する同名の「ジェイコム」各社

さらに、事件当日の市場では、こんなことも起きています。

誤発注の主体が誰なのか分からなかったため、「ジェイコム上場の主幹事である日興コーディアル証券が犯人ではないか」という憶測が流れ、同社株が前場引け時点で前日比100円安と急落しました。日興グループ3社(日興シティ・日興コーディアル・マネックス)は、急遽「この売り注文には無関係である」という声明を出す羽目になりました。

犯人ではない会社の株が、犯人だと疑われて売られた。

そして市場全体も、「誤発注した証券会社が損失穴埋めのために保有株を売るのでは」という連想から売られ、日経平均は前日比301円30銭(1.95%)安で引けています。この日の下げ幅は、その年で3番目の大きさでした。

つまり日本でも、「名前」と「連想」は、確実に株価を動かしている。 ただ、その回路がアメリカとは違う。

アメリカはティッカー文字列の一致を通じて動く。 日本は社名の読みと、憶測の連鎖を通じて動く。

7-3. 日本型混同の典型 —— ポケモンGOと任天堂

もうひとつ、日本を代表する「連想暴走」の事例を挙げます。

2016年、ポケモンGO相場。

  • 7月6日(米国時間):ポケモンGOが米国などで先行配信される。
  • 直後から任天堂(7974)の株価が急騰。7月19日の終値は31,770円。配信前の水準(15,000円前後)から2倍以上になりました。時価総額は一時4兆円を超えます。
  • 7月22日:日本でポケモンGOが配信。同日19時15分、任天堂が適時開示を出します。タイトルは「『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について」。
  • 内容の要旨:株式会社ポケモンは持分法適用関連会社であるため、連結業績に与える影響は限定的である。「Pokémon GO Plus」の製造・販売は予定しているが、これは4月27日公表の連結業績予想に織り込み済みであり、現時点で業績予想の修正は行わない。
  • 7月25日(月):任天堂株はストップ安。前日比5,000円安の23,220円(約-17.7%)。
  • 関連銘柄も総崩れ。日本マクドナルドホールディングスは12%安、タカラトミーも10%前後の下落。

ここで重要なのは、任天堂が言った内容が、まったく新情報ではなかったということです。

ポケモンGOを開発・配信していたのは、主に米国のNiantic社です。ポケモンのIPを持つ「株式会社ポケモン」は、任天堂の持分法適用関連会社。任天堂に入るのはライセンス料や開発協力費にとどまる。

これは、調べればすぐわかる事実でした。

にもかかわらず、任天堂の時価総額は2兆円増えた。そして、任天堂自身が「そうでもないですよ」と言った途端に、ストップ安になった。

投資家は、「任天堂」という名前を買っていたのです。

Tweeterを買った人が「TWTR」という文字列を買っていたのと、構造は同じです。指し示されている実体ではなく、記号のほうに、資金が流れた。


第8章 アルゴリズム時代、これはむしろ増える

8-1. 「バカな個人投資家」の話ではない

この記事を読んで、「まあ、素人がやらかしただけでしょ」と思った人がいるかもしれません。

私は、そうは思いません。

理由を3つ書きます。

理由①:機械は、文字列しか見ない

現代の株式市場では、注文の大半をアルゴリズムが出しています。

そして、ニュースを読んで自動売買するアルゴリズム(ニュースベース取引、センチメント分析)は、文字列をマッチングしています。

「Twitter」という単語がニュースに出た。「TWTR」というティッカーに紐づく。買う。

この処理の途中に、「その会社が実在するか」「事業があるか」を確認するステップは、入っていないことがあります。

Rashesの続編研究が「混同は大企業ほど大きい」と見出したことを、思い出してください。注目度が高いほど、機械的な文字列マッチングの流量も増えるのです。

人間が賢くなっても、この問題は消えません。むしろ機械の比率が上がるほど、文字列マッチングの事故は増えうる。

理由②:検索窓が入口になった

かつて、株を買うには証券マンに電話をかけていました。「トヨタを1,000株」と言えば、証券マンが正しい銘柄を選んでくれました。人間が間に入って、誤りを訂正していた。

今は、アプリの検索窓に文字を打ち込みます。

「zoom」と打ち込むと、候補が出る。上から選ぶ。買う。

この動線には、訂正者がいません。

証券会社が「それ、たぶん違いますよ」と言ってくれることはない。

理由③:SNSが、注意を一点に集中させる

マスクの「Use Signal」は、2語でした。

その2語が、時価総額数億ドル規模の資金移動を引き起こした。

SNSは、注意を極端に集中させる装置です。 そして、その注意は「言葉」に向けられる。「Signal」という言葉に。「Zoom」という言葉に。

言葉に注意が集まり、言葉に紐づいた文字列に金が流れる。

その文字列が、たまたま別の会社を指していても、金は止まらない。

8-2. 結局、市場とは何なのか

私はこの記事を書きながら、ずっとひとつの問いを考えていました。

株式市場は、企業を評価する装置なのか。それとも、注意を配分する装置なのか。

教科書は前者だと言います。株価は、将来キャッシュフローの割引現在価値である、と。

しかし、Tweeter Home Entertainment Groupの将来キャッシュフローは、ゼロです。会社は2008年に店を閉じている。それでも、1,436万株が売買され、株価は一瞬22倍になった。

Signal Advanceの株価は、1株も取引されない日があった銘柄が、3営業日で50倍を超えた。

将来キャッシュフローの割引現在価値が、3営業日で50倍になることは、ありません。

だとすれば、あの3日間、市場は何かべつのものを計算していたことになります。

私の答えは、こうです。

市場は、「この記号に、どれだけの注意が集まっているか」を計算していた。

そして恐ろしいのは、それは間違いではなかったということです。

TWTRQを1セントで買って15セントで売った人は、儲けました。 SIGLを60セントで買って38ドルで売った人は、大儲けしました

「注意の量」を予測することは、実際に儲かるのです。

だから、この現象は消えません。儲かるかぎり、人はやります。


第9章 結論 —— 名前は、資産である

9-1. だから、ティッカーは奪い合いになる

最後に、視点を反転させます。

ここまで「名前が似ていると事故が起きる」という話をしてきました。裏返すと、こうなります。

名前(記号)は、それ自体が経済的価値を持つ。

だからアメリカでは、短いティッカーが名誉であり、資産なのです。

  • Ford Motor:F
  • AT&T:T
  • Visa:V

1文字のティッカーは、そもそも数が26個しかありません。だから希少で、だから価値がある。

そして、Tweeterが持っていた「TWTR」が、倒産によって解放され、Twitterがそれを手に入れた。記号は、企業の生死とともに相続される財産なのです。

9-2. 「間違い」は、市場の摩擦ではなく、市場の一部である

古典的な金融理論では、投資家の誤りは「ノイズ」として扱われます。平均すればゼロになる、ランダムな雑音。

しかし、ティッカー取り違えは、ランダムではありません。

  • Twitterが上場するとき、必ずTWTRQが買われる
  • Zoomが話題になるとき、必ずZOOMが買われる
  • マスクがSignalと言えば、必ずSIGLが買われる

方向が決まっている。予測できる。

予測できるノイズは、もはやノイズではありません。それは、市場の構造です。

だからこそ、第2層の「捕食者」が発生し、彼らが儲け、その儲けが第3層を呼び込む。

誤りが、産業になっている。

9-3. 最後に

私がこの記事を通じてお伝えしたかったのは、「投資家は愚かだ」ということではありません。

むしろ逆です。

あの熱狂に参加した人の大半は、賢かった。 賢く、他人の愚かさに賭けていた。そして、その賭けは当たった。

問題は、賢い人たちが賢く振る舞った結果、市場全体としては、存在しない会社に1,436万株の資金を流し込んだということです。

個々の合理性が、全体の不合理を生む。

これは、経済学がいちばん得意とすべき問題であり、そして、いちばん苦手にしてきた問題でもあります。

ティッカーの取り違えは、笑い話です。

しかし、同じ構造が、もっと大きなスケールで起きていないと、誰が言えるでしょうか。

不動産バブルで、人は「土地」ではなく「値上がりする土地という記号」を買っていたのではないか。 AI相場で、人は「技術」ではなく「AIという単語」を買っていないか。

Tweeterの1,436万株は、その問いの、最も純粋な標本です。


参考資料

学術論文(一次資料)

  1. Michael S. Rashes (2001), “Massively Confused Investors Making Conspicuously Ignorant Choices (MCI–MCIC)”, The Journal of Finance, Vol. 56, No. 5, pp. 1911–1927.  DOI: https://doi.org/10.1111/0022-1082.00394  Wiley: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/0022-1082.00394  RePEc(要旨は無料で読めます): https://ideas.repec.org/a/bla/jfinan/v56y2001i5p1911-1927.html  この記事の学術的な背骨。 似たティッカーを持つ銘柄間の共変動、乖離の数日での反転、アービトラージャーの能力の限界、ノイズトレーダーの観測——すべてこの論文の要旨に書かれています。MCI Communications(ティッカーMCIC)とMassMutual Corporate Investors(ティッカーMCI)の取り違えが題材。
  2. 同種の後続研究(ResearchGate掲載の要旨)  https://www.researchgate.net/publication/4769113  似たティッカーのペアの12〜25%に売買回転率の共変動、誤取引が回転率の5%に寄与、3時間CARが0.5%、そして**「混同は大企業において最大」**という指摘。本記事第6章の「反論への穴」の出典。

Tweeter / Twitter事件(2013年10月)

  1. Bloomberg「Tweet This Ticker About Tweeter’s Twitter Ticker」(2013年10月4日)  https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2013-10-04/tweet-this-ticker-about-tweeter-s-twitter-ticker-  一時2,200%高で15セント、終値684%高、12時42分に取引停止、そして**「かつてTWTRのティッカーを使っていた」**という決定的な事実の出典。
  2. CNBC「Tweeter isn’t Twitter, but people are throwing money at it」(2013年10月4日)  https://www.cnbc.com/2013/10/04/tweeter-isnt-twitter-but-people-are-throwing-money-at-it.html  出来高1,436万株2007年5月10日以来の商い平常時は数日1,000株も出来ないという生々しい流動性の記述。
  3. CNN Money「Ticker symbol for TWTR (not Twitter) changed to avoid confusion」(2013年10月8日)  https://money.cnn.com/2013/10/08/investing/twtr-symbol  FINRAがティッカーをTWTRQ→THEGQに変更、「Q」は破産企業に付される、という説明。
  4. Fox Business「Tweeter Changes Stock Symbol After Twitter Confusion」  https://www.foxbusiness.com/features/tweeter-changes-stock-symbol-after-twitter-confusion  FINRAの公式コメント(「無関係な証券のIPOに関連した広範な誤解」)の出典。
  5. Forbes「After Twitter-Driven Pop, Tweeter Stock Flops With New Ticker Symbol」(2013年10月8日)  https://www.forbes.com/sites/steveschaefer/2013/10/08/after-twitter-driven-pop-tweeter-stock-flops-with-new-ticker-symbol/  THEGQでの再開後、70%超下落して1セントに戻ったという後日談。「取引停止中に売れなかった人が損をした」という指摘も。
  6. BuzzFeed News「Was The ‘Tweeter’ Stock Mixup A Penny Stock Scam?」(2013年10月4日)  https://www.buzzfeednews.com/article/jwherrman/was-the-tweeter-stock-mixup-a-penny-stock-scam  本記事第5章の核心的出典。 暴騰前夜の「先回り」ツイートの存在、StockTwits CEOのHoward Lindzonによる「メール詐欺だろう」という見立て、9月12日の秘密提出ツイート時点ですでに出来高が跳ねていたという指摘。「彼らは混乱していなかったのではないか」という反対仮説を、唯一まともに検討した記事です。

Zoom事件(2019年・2020年)

  1. SEC「Order of Suspension of Trading, Zoom Technologies, Inc.」(2020年3月25日、File No. 500-1)  SECの正式な取引停止命令。証券取引所法**12条(k)**にもとづく措置。(SEC公式サイトの Trading Suspensions ページから検索可能)
  2. Fortune「’ZOOM’ stock halted after investors confuse it with Zoom video conferencing stock」(2020年3月26日)  https://fortune.com/2020/03/26/zoom-stock-halt-zm-ticker/  SECが挙げた理由(「同じような名前のナスダック上場発行体と混同することへの懸念」)、2015年以降いかなる公開開示も行っていない最後の報告では北京に本社1か月で3ドルから20ドル超へという数字。
  3. CNBC「SEC pauses Zoom Technologies trading because people think it’s Zoom Video」(2020年3月26日)  https://www.cnbc.com/2020/03/26/sec-pauses-zoom-technologies-as-traders-confuse-it-with-zoom-video.html  4月9日に取引再開年初来900%近い上昇、Zoom Video(ZM)の時価総額400億ドル超。
  4. Bloomberg「Zoom Technologies Trading Suspended After Ticker Confusion」(2020年3月26日)  https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-03-26/zoom-technologies-trading-suspended-amid-ticker-confusion  直近5週間で3倍以上(同期間のZoom Videoは30%強)という比較。
  5. FINRA「UPC #12-20(2020年4月10日)Zoom Technologies, Inc.」(PDF)  https://www.finra.org/sites/default/files/2020-04/UPC_12-2020_ZOOM-ZTNO.pdf  FINRAによる一時的な売買停止の公式通知。 「ZM(ナスダック上場)とZoom Technologies(店頭)のあいだの広範な誤解」という文言の出典。Tweeter事件の文言とほぼ同じであることを確認できます。
  6. Boston University, Journal of Science and Technology Law「SEC Halts Zoom Technologies Trading Due to Investor Confusion」  https://jost.syr.edu/sec-halts-zoom-technologies-trading-due-to-investor-confusion  2019年4月のIPO当日にもZoom Technologiesが急騰していたという「一度目」の記録、および停止期間(4月8日23時59分まで)。
  7. CNBC「Elon Musk told his followers to ‘use Signal,’ leading to 1,100% surge in unrelated stock with similar name」(2021年1月8日)  https://www.cnbc.com/2021/01/08/elon-musk-boosts-signal-app-signal-advance-stock-jumps-1100percent.html  **2019年4月のZoom Technologiesは「2時間で80%超急騰、終値は10%高」**という、より精密な数字の出典。

Signal Advance事件(2021年1月)

  1. Bloomberg「Elon Musk Sends Shares of Signal Advance (SIGL) Soaring on ‘Use Signal’ Tweet」(2021年1月11日)  https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-01-11/musk-sowed-ticker-confusion-sends-medical-device-maker-up-5-100  3営業日で5,100%超、時価総額3億9,000万ドルという数字。
  2. CNBC「Signal Advance jumps another 438% after Elon Musk-fueled buying frenzy」(2021年1月11日)  https://www.cnbc.com/2021/01/11/signal-advance-jumps-another-438percent-after-elon-musk-fueled-buying-frenzy.html  1月6日終値60セント1月11日に438%高・高値70.85ドル1月4日には1株も取引されなかった上場(2014年)以来最高の出来高、そして時価総額30億ドル超という(Bloombergと食い違う)記述。本記事第3章の「報道が食い違った」という指摘の根拠です。
  3. CNBC(1月8日記事、上記15と同じ)  1月7日+527%、1月8日+91%で7.19ドルという日次の数字。Signal(非営利団体)による否定声明の内容も。
  4. Yahoo Finance「Elon Musk tweet sends this stock up 1,500% in 24 hours — may be a sign of market bubble」(2021年1月11日)  https://finance.yahoo.com/news/elon-musk-tweet-sends-this-stock-up-1500-in-24-hours-may-be-a-sign-of-market-bubble-175845075.html  ドイツ銀行ストラテジストJim Reidによる**「24時間で時価総額700万ドル→1億ドル」**という第3の数字、および「2020-21年が歴史的バブルだったと後に判明するなら、この一件が記憶される事例になるかもしれない」というコメント。

日本の事例

  1. Wikipedia「ジェイコム株大量誤発注事件」  https://ja.wikipedia.org/wiki/ジェイコム株大量誤発注事件  無関係の「ジェイコム」各社(ジュピターテレコム、JTBグループのジェイコム等)に問い合わせが殺到したこと、主幹事と疑われた日興コーディアル証券株が急落し、日興グループ3社が否定声明を出したこと、日経平均が301円30銭安(1.95%)で引けたこと。(脚注に読売新聞・毎日新聞の元記事情報あり。重要事実は必ず一次報道で裏取りを)
  2. 日経平均プロフィル「大量誤発注:あの日の日経平均」(2005年12月8日)  https://indexes.nikkei.co.jp/atoz/2017/12/20051208.html  日経新聞グループによる公式の振り返り。「1株61万円」→「1円61万株」の誤入力、9時34分にストップ安、9時43分にストップ高、2015年9月に東証へ約107億円の支払いを命じる東京高裁判決が確定、その後の東証システム刷新まで。
  3. 共同通信「みずほ証券の誤発注問題」(コトバンク)  https://kotobank.jp/word/みずほ証券の誤発注問題-3195378  当時の東証社長が引責辞任20億円以上を稼いだ個人投資家の存在。
  4. 日刊工業新聞「ポケモン相場終幕?—関連銘柄総崩れ、任天堂株ストップ安」(2016年7月25日)  https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00393867  7月19日終値31,770円(配信前の2倍以上)、**7月25日にストップ安の23,220円(約18%安)**という数字。
  5. J-CAST「『ポケモンGO』バブルの夢、撃沈 任天堂株『ストップ安』」(2016年7月25日)  https://www.j-cast.com/2016/07/25273463.html  7月22日終値から5,000円(17.7%)の下落開発はNiantic、任天堂の利益はポケモン社経由のライセンス料等にとどまるという構造の説明。
  6. ダイヤモンド・ザイ「任天堂『ポケモンGO』で株価が乱高下!」(2016年)  https://diamond.jp/zai/articles/-/96813  任天堂の適時開示(7月22日19時15分)の全文要旨、そして決定的な一文——「この任天堂の発表内容自体は、多くの投資家の周知の事実でした」。本記事第7章の核心。
  7. 日本経済新聞「ポケモン相場失速 任天堂ストップ安、関連株も大幅安」(2016年7月25日)  https://www.nikkei.com/article/DGXLASGF25H0N_V20C16A7EA1000/
  8. 任天堂 適時開示「『Pokémon GO』の配信による当社の連結業績予想への影響について」(2016年7月22日 19:15)  これが一次資料です。 任天堂のIRサイトまたはTDnetで検索可能。

 

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