介護は、ある日突然始まります。
「先週まで元気だった親が、転んで骨折した」「脳梗塞で倒れた」「物忘れが激しくなってきた」——こういった出来事をきっかけに、準備も知識もないまま介護生活に突入する人が後を絶ちません。特に就職氷河期世代は、親が今まさに介護が必要になる70代〜80代に差し掛かっている世代です。
介護が始まってから慌てると、何をすればいいかわからない・仕事を急に休まなければならない・お金の問題で揉める・兄弟間で対立する——こういった事態が重なります。でも、事前に準備しておくだけで、いざという時の混乱を大幅に減らすことができます。この記事では、介護が始まる前に知っておくべき全知識を解説します。
介護保険制度の基本:まずここから理解する
介護の基本中の基本が、介護保険制度です。これを知っているかどうかで、介護の経済的・精神的な負担が大きく変わります。
介護保険は、40歳以上の全員が加入している社会保険制度です。65歳以上(特定疾病がある場合は40歳以上)になると、要介護認定を申請することで、介護サービスを1〜3割の自己負担で利用できます。つまり、介護サービスの費用の大部分は介護保険が負担してくれます。
介護保険を使うための最初の手続きが「要介護認定の申請」です。親が住んでいる市区町村の担当窓口(地域包括支援センターまたは市区町村の介護保険窓口)に申請すると、調査員が自宅を訪問して親の状態を評価します。その結果、要支援1〜2または要介護1〜5のいずれかに認定されます。
要支援1〜2は、日常生活に若干の支援が必要な状態です。予防的なサービス(介護予防サービス)を利用できます。要介護1〜5は、介護が必要な状態で、数字が大きくなるほど介護の必要度が高くなります。要介護度によって使えるサービスの上限額(支給限度額)が決まります。
認定後はケアマネージャー(介護支援専門員)に担当してもらい、ケアプランを作成してもらいます。ケアマネージャーは、親の状態に合ったサービスを提案してくれる専門家です。ケアマネージャーへの相談料は無料です。遠慮なく相談してください。
介護サービスの種類を知る
介護保険で利用できるサービスには様々な種類があります。主なものを把握しておくことで、いざという時に選択しやすくなります。
訪問介護(ホームヘルプ)は、ホームヘルパーが自宅に訪問して、身体介護(入浴・排泄・食事の介助)や生活援助(掃除・洗濯・調理)を行うサービスです。在宅で介護を続けたい場合に最も基本的なサービスです。
通所介護(デイサービス)は、日中に施設に通い、食事・入浴・機能訓練などのサービスを受けるサービスです。介護者が日中に仕事をしている場合、デイサービスに通わせることで在宅介護を継続しやすくなります。社会的なつながりを保つ効果もあります。
短期入所生活介護(ショートステイ)は、施設に短期間入居してサービスを受けるものです。介護者が疲れた時・旅行や冠婚葬祭の時などに活用できます。介護者の休息(レスパイト)のために重要なサービスです。
訪問看護は、看護師が自宅に訪問して医療的なケアを行うサービスです。病気や障害があって医療的な管理が必要な場合に利用します。
福祉用具の貸与・購入は、車いす・歩行器・介護ベッドなどの福祉用具を介護保険で借りたり購入したりできるサービスです。自宅の環境を整えることで、転倒防止・介護の負担軽減に役立ちます。
住宅改修は、手すりの取り付け・段差の解消・トイレの改修など、在宅介護に必要な住宅改修費用を一部助成してもらえる制度です。最大20万円まで支給されます。
地域包括支援センターを活用する
地域包括支援センターは、介護・福祉・医療に関する相談を無料で受け付けている公的機関で、各市区町村に設置されています。介護が始まる前から、ここを活用することをおすすめします。
地域包括支援センターでできることは、介護保険の申請サポート・ケアマネージャーの紹介・介護に関する相談・地域の介護サービス情報の提供・成年後見制度の相談など多岐にわたります。
「まだ介護は必要ないけれど、将来のことが心配」という段階から相談することができます。いざ介護が必要になった時に慌てないよう、今から地域の包括支援センターの場所と連絡先を把握しておくことをおすすめします。市区町村のウェブサイトで検索すると、最寄りのセンターが見つかります。
介護が始まる前にやっておくべきこと
親がまだ元気なうちにやっておくべきことがいくつかあります。これらを事前に整理しておくことで、いざという時の混乱が大幅に減ります。
親の資産・財産状況を把握することが最優先です。介護には費用がかかります。在宅介護でも施設入居でも、月に数万円〜十数万円の費用が発生します。親の預貯金・年金受給額・不動産・保険——これらを把握しておくことで、介護費用をどう賄うかの計画が立てられます。「お金の話は親に聞きにくい」という方が多いですが、元気なうちに確認しておくことが、後のトラブルを防ぎます。
親の意思・希望を確認しておくことも重要です。「どんな介護を受けたいか」「施設に入ることをどう思うか」「延命治療についてどう考えているか」——これらを親が元気で判断力があるうちに確認しておくことで、いざという時に本人の意思に沿った選択ができます。
かかりつけ医・服薬情報を把握しておくことも必要です。親がどの病院に通っているか・どんな薬を飲んでいるか——これらを把握していないと、介護が始まった時に医療機関との連携が取れません。
兄弟間で事前に話し合いの場を設けることもおすすめします。「誰が中心になって介護するか」「費用分担はどうするか」「施設入居についての考え方は」——これらを事前に話し合っておくことで、緊急事態の際の意思決定がスムーズになり、兄弟間のトラブルを防げます。
介護離職を避けるための準備
介護が始まると、仕事を辞めて介護に専念しようとする「介護離職」が起きやすくなります。就職氷河期世代にとって、介護離職は経済的に特に深刻なリスクです。非正規・低収入で長年働いてきたこの世代が介護離職をすると、収入がゼロになるだけでなく、再就職が非常に難しくなります。
介護離職を避けるためには、仕事と介護を両立するための制度を事前に把握しておくことが重要です。介護休業制度(最大93日間)・介護休暇制度(年5〜10日)・勤務時間短縮制度——これらの制度を使えば、仕事を辞めずに介護と両立できる可能性があります。職場の就業規則・人事担当者に確認しておいてください。
介護サービスをフル活用することが、仕事との両立の鍵です。「自分でやらなければならない」という思い込みを捨てて、プロの介護サービスに頼ることが、介護離職を防ぎます。お金はかかりますが、仕事を辞めることによる長期的な収入減よりも、サービスを使って仕事を続ける方が経済的に合理的です。
まとめ
介護の準備は、親が元気なうちから始めることが最も重要です。介護保険制度の基本を知る・地域包括支援センターの場所を把握する・親の資産・意思・かかりつけ医を確認する・兄弟間で話し合いの場を設ける・仕事との両立制度を把握する——これらを今日から少しずつ進めることで、いざ介護が始まった時の混乱を大幅に減らすことができます。介護は突然始まります。でも、準備した人と準備しなかった人では、その後の展開が大きく違います。

