就職氷河期世代の40代50代から始める「老後資金2000万円問題」への現実的な回答——2000万円なくても生き延びる計算術

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就職氷河期世代の40代50代から始める「老後資金2000万円問題」への現実的な回答——2000万円なくても生き延びる計算術

はじめに——「2000万円」に怯える必要があるか

2019年、金融庁の報告書が「老後に2000万円必要」と発表し、日本中がパニックに陥った。あの報告書は「夫婦二人で年金生活をした場合、月約5万5000円の赤字が30年続くと約2000万円不足する」という試算だった。

この「2000万円」という数字を聞いて、氷河期世代の多くは絶望しただろう。貯金50万円の人間にとって、2000万円は39倍。現在のペースで貯金を続けても、2000万円に到達するのは数百年後だ。数百年は生きられない。

だが落ち着いて考えてほしい。あの報告書の前提は「平均的な高齢夫婦世帯」だ。持ち家あり。夫の厚生年金あり。妻の国民年金あり。月の年金収入は約21万円。月の支出は約26万5000円。差額の5万5000円が赤字。

氷河期世代の独身者は、この前提の多くが当てはまらない。独身だから「夫婦」ではない。持ち家がないから住居費がかかる。厚生年金の加入期間が短い。つまり「2000万円問題」の前提と、氷河期世代の現実は異なる。異なる前提に基づいた数字で怯える必要はない。

では、氷河期世代の独身者に必要な老後資金はいくらか。そしてそれを「今から」どう準備するか。このガイドでは、氷河期世代の現実に即した老後資金の計算と、具体的な準備方法を解説する。

氷河期世代の年金見込額を把握する

まず、自分の年金見込額を把握する。これが老後の収入の基盤だ。

年金見込額の確認方法は「ねんきんネット」(日本年金機構のウェブサイト)にアクセスすること。マイナンバーカードまたは基礎年金番号でログインすれば、これまでの加入記録と将来の年金見込額が確認できる。「ねんきん定期便」(毎年誕生月に届くハガキ)でも確認可能だ。

氷河期世代の年金見込額は、個人差が大きい。厚生年金に20年以上加入していれば月12〜15万円程度。国民年金のみ(厚生年金の加入期間が短い)なら月5〜7万円程度。免除期間が長ければさらに少ない。

ここでは「最悪のケース」として、月の年金見込額が7万円(年間84万円)のケースで計算する。厚生年金の加入期間が短く、国民年金の免除期間がある場合のシナリオだ。

老後の支出を計算する——「独身・賃貸」の場合

老後の月間支出を、氷河期世代の独身・賃貸のケースで試算する。

家賃40000円(高齢者向けの安い物件、URの団地など)。食費25000円(自炊中心)。光熱費8000円。通信費2000円(格安SIM)。医療費10000円(高齢になると増加)。日用品・雑費5000円。交通費3000円。国民健康保険料・介護保険料10000円。予備費5000円。合計108000円。

月の支出が10万8000円。年金が月7万円。差額は月3万8000円の赤字。

この赤字が30年間(65歳から95歳まで)続くと、38000円×12ヶ月×30年=13680000円。約1370万円。

つまり、氷河期世代の独身・賃貸・年金月7万円のケースで必要な老後資金は「約1370万円」。2000万円ではない。前提が異なれば、必要額も異なる。

さらに支出を切り詰めれば、必要額は下がる。家賃を35000円にすれば月5000円の削減。食費を20000円にすれば月5000円の削減。合計で月1万円削減できれば、赤字は月2万8000円に。30年間で28000×12×30=10080000円。約1010万円。必要額が1000万円まで下がる。

「1370万円」を20年で準備するロードマップ

45歳から65歳まで20年間で1370万円を準備するには、年間68万5000円、月に約5万7000円の準備が必要。手取り16万円の人間には不可能な金額だ。

だがここで「NISA」の力を使う。月3万円をNISAで積立投資し、年利3%で20年間運用した場合、元本720万円に対して運用益が約264万円。合計約984万円になる。残りの約386万円は、銀行貯蓄とその他の制度で補う。

月3万円の積立が難しければ、月2万円でもいい。月2万円×20年×年利3%=約656万円。残りは714万円。この714万円を銀行貯蓄(月1万円×20年=240万円)と退職金や年金の繰下げ受給でカバーする。

年金の繰下げ受給は、強力な武器だ。年金の受給開始を65歳から70歳に繰り下げると、年金額が42%増える。月7万円→月9万9400円に。月の赤字が38000円から8600円に激減する。30年間(70歳〜100歳)の赤字総額は8600×12×30=3096000円。約310万円。必要な老後資金が1370万円から310万円に激減する。

ただし繰下げ受給は、65歳から70歳までの5年間を「年金なし」で乗り切る必要がある。この5年間の生活費は、108000円×12×5=6480000円。約650万円が必要。NISAの積立984万円のうち650万円を「65〜70歳の生活費」に充て、残り334万円を「70歳以降のバッファ」にする。必要額310万円をカバーして、24万円の余裕がある。ぎりぎりだが、計算上は「詰まない」。

「2000万円は不要」——ただし「ゼロ円でいい」わけではない

上記の計算から、氷河期世代の独身者に必要な老後資金は「2000万円」ではなく「300万〜1400万円」程度だとわかる(条件による)。2000万円に比べれば、はるかに現実的だ。

だが「ゼロ円でいい」わけでもない。年金だけでは赤字が出る。赤字分を補填する資金は、何かしらの方法で準備しなければならない。準備しなければ、生活保護に頼るか、働き続けるか、支出をさらに切り詰めるか——いずれにしても厳しい老後になる。

「2000万円は無理でも、500万円なら目指せる」。500万円があれば、年金の繰下げ受給と組み合わせることで、かなりの年数を乗り切れる。「500万円」を新しいゴールに設定する。500万円なら、月2万円の積立を20年続ければ到達できる(銀行貯蓄のみの場合)。NISAで運用すれば、さらに短期間で到達する。

老後の支出を下げるための「今からの準備」

老後資金の不足を補う方法は「資金を増やす」だけではない。「支出を減らす」アプローチもある。老後の支出を減らすための「今からの準備」を紹介する。

準備1は「住居費を下げる物件を確保しておく」こと。持ち家がなければ、一生家賃がかかる。家賃を最小化するために、URの団地、公営住宅、セーフティネット住宅を今から調べておく。地方移住も選択肢に入れれば、家賃はさらに下がる。住まいガイドの記事で詳しく解説している。

準備2は「健康を維持すること」。老後の医療費は、健康状態に大きく左右される。慢性疾患(高血圧、糖尿病、腰痛など)があれば、月の医療費は1〜3万円に跳ね上がる。今から健康管理をして、慢性疾患のリスクを下げる。散歩、適度な運動、バランスの良い食事、定期的な健診。これらは「老後の医療費削減」のための投資だ。

準備3は「生活スキルを磨くこと」。自炊スキル、DIYスキル、修繕スキル。これらがあれば、外注費を削減できる。自分で料理を作れば外食は不要。自分で家具を修理できれば買い替え不要。今のうちからスキルを磨いておけば、老後の支出が自然に下がる。

準備4は「人間関係を維持すること」。孤立すると、すべてのサービスを「お金で買う」ことになる。友人や近所の人との関係があれば、助け合いでコストを下げられる。「困ったときに助けてくれる人が一人いる」だけで、年間数万円のコストが浮く可能性がある。

公的制度をフル活用する

老後の生活を支える公的制度をフル活用することも重要だ。

制度1は「年金の繰下げ受給」。前述の通り、受給開始を遅らせることで年金額が増加する。65歳→70歳で42%増。65歳→75歳で84%増。75歳まで繰り下げれば、月7万円→月12万8800円になる。この金額なら、月の支出10万8000円を上回り、赤字がなくなる。ただし75歳まで年金なしで生活する必要があるので、10年分の生活費約1300万円が必要。これはNISAの長期運用で準備する。

制度2は「高額療養費制度」。医療費の自己負担に上限がある。住民税非課税世帯なら月35400円。別の記事で詳しく解説している。

制度3は「介護保険制度」。要介護認定を受ければ、介護サービスの自己負担は1〜3割。住民税非課税世帯なら1割負担。

制度4は「生活保護」。すべての資産を使い果たし、年金だけでは最低生活費に達しない場合、不足分が生活保護で補填される。生活保護は「最後のセーフティネット」であり、「使うことが恥ずかしい制度」ではない。権利として存在する制度だ。

「65歳以降も働く」という選択肢

老後資金の不足を補う最もシンプルな方法は「65歳以降も働くこと」だ。清掃、警備、マンション管理など、高齢者でも働ける仕事がある。資格スキルアップガイドで詳しく解説した。

65歳から70歳まで、月8万円のパート収入があれば、年金7万円と合わせて月15万円。月の支出10万8000円を上回り、黒字になる。5年間で黒字分42000円×12×5=252万円。この252万円がバッファとして残る。70歳以降も働ければ、さらにバッファは増える。

「一生働き続ける」のは辛いが、「週3日・短時間のパート」なら体力的にも精神的にも持続可能だ。完全リタイアを目指すのではなく、「セミリタイア」を目指す。少しだけ働いて、少しだけ稼ぐ。年金と合わせて、なんとかやっていく。

まとめ——「2000万円」ではなく「自分の数字」を計算する

「老後資金2000万円」は、平均的な高齢夫婦世帯の数字であり、氷河期世代の独身者の数字ではない。自分の年金見込額、自分の想定支出、自分の資産状況で計算すれば、必要額は「2000万円」とは大きく異なる。

必要額がわかれば、対策が立てられる。月いくら積み立てれば到達するか。NISAを使えばどのくらい増えるか。年金の繰下げでどのくらい改善するか。65歳以降にいくら稼げれば足りるか。これらを具体的な数字で計算すれば、「漠然とした2000万円の恐怖」が「具体的な対策のリスト」に変わる。

恐怖は計算で解消できる。計算するためのデータは、ねんきんネットと家計簿にすべて揃っている。今日、ねんきんネットにアクセスして、自分の年金見込額を確認してみてほしい。確認した数字から、自分だけの「老後資金の必要額」を計算する。計算すれば、2000万円に怯える必要がないことがわかるかもしれない。あるいは、具体的な行動計画が見えるかもしれない。どちらにしても、計算することで、一歩前に進める。

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