引っ越し8回の一人暮らし史【就職氷河期世代が住んだ部屋と、その時の自分の全記録】

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引っ越した回数を数えたら8回だった。

20代から50代にかけての8回。単身で・毎回違う理由で・毎回違う部屋に引っ越した。引っ越しは「新しい部屋への移動」であると同時に「その時の自分の状況の記録」でもある。8回の引っ越しを振り返ると、そのまま就職氷河期世代としての生活史が見えてくる。

1回目:実家から最初の一人暮らし(22歳)

就職活動が終わらないまま大学を卒業した年の秋に、実家を出た。「就職が決まったら出よう」という計画が「決まらないから先に出よう」に変わった。友人が次々と地元を離れていく中で、実家にいることへの居心地の悪さが勝った。

選んだ部屋は都内から電車で40分・家賃38,000円・4畳半・バストイレ別というスペック。当時の私には「家賃が安い」「バストイレ別」という2点だけが選定基準だった。日当たり・収納・隣の音——これらは全く確認しなかった。

住んでみると、隣の部屋の音が筒抜けだった。左の住人が深夜まで音楽をかけていた。右の住人は深夜に帰ってきて廊下を大声で歩いた。引っ越して1週間でこの部屋を出たいと思ったが、初期費用を考えると出られなかった。

1年半で退去。この部屋での教訓:「隣の音を内見時に確認すること」は、以降の引っ越し全てで必ず行うようになった。

2回目:仕事が決まった直後(24歳)

アルバイトから派遣社員に変わって、収入が少し増えた。「少しマシな部屋に住もう」と思って引っ越した。

家賃54,000円・1K・7畳・バストイレ別・南向き。前の部屋より広くて明るかった。初めて「日当たりの良い部屋」に住んだ年で、昼間に部屋にいると「明るい部屋って違う」と思った。単純だが本当にそう思った。

この部屋での3年間は「仕事の不安定さ」と「部屋の快適さ」が共存した期間だった。仕事は派遣で・収入は安定しなくて・将来の見通しは暗かったが、部屋に帰ると「明るくて自分だけの空間」があった。部屋が「逃げ場」として機能していた。

3回目〜5回目:仕事の都合で動いた10年

3回目から5回目の引っ越しは、仕事の変化に伴うものだった。職場が変わった・通勤が遠くなった・または遠くなりすぎたから近づけた——これらの理由で動いた。

この期間の3回の引っ越しを振り返ると、「部屋」への関心が薄かったことが分かる。選定基準は「職場からの距離と家賃」だけで、「どういう部屋に住みたいか」という視点がなかった。仕事のために住む、という感覚で部屋を選んでいた。

就職氷河期世代として、仕事の安定がない中で「自分が住みたい部屋」にこだわる余裕がなかった、という言い方もできる。でも正確には、「余裕がなかった」というより「自分の生活の質に投資する発想がなかった」という方が近いかもしれない。生存することに集中していて、「豊かに生活すること」への視点が育っていなかった。

6回目:初めて「この部屋に住みたい」で選んだ(38歳)

38歳の引っ越しは、これまでと違った。初めて「仕事の都合」ではなく「自分がここに住みたい」という動機で部屋を選んだ。

選んだ基準は以下だった。図書館まで徒歩15分以内であること。静かな環境であること。日当たりが良いこと。収納が多いこと。

仕事場からの距離は二の次にした。「仕事のために住む場所を選ぶ」から「住みたい場所で仕事に通う」への転換だった。通勤時間は前より10分長くなった。でも帰宅後の部屋の快適さが変わった。

この部屋に引っ越して初めて「家に帰りたい」という気持ちが仕事中に生まれた。それまでは「仕事を終えたい」という気持ちはあっても、「帰りたい場所としての家」という感覚が薄かった。「住みたい部屋を選ぶ」ということが、それほどに生活への影響を持つことを、38歳で初めて実感した。

7回目・8回目:40代の2回の引っ越しと「定住」という考え方

40代に入って2回引っ越した。理由はそれぞれ異なるが、どちらの引っ越しも「しかたなく動いた」という側面があった。

7回目は大家の事情で退去を求められた。8回目は職場の移転で通勤が困難になったためだ。どちらも「自発的ではない引っ越し」だった。

8回の引っ越しを経た今、私は「ここに長く住もう」という感覚を初めて持つようになっている。20代・30代には「引っ越し=次の場所への移動」という感覚で、定住という発想がなかった。就職氷河期世代として「状況が変われば移動する」という流動的な生活が続いていたからかもしれない。

50代を前にして「根を張る」という感覚が生まれてきた。地域のスーパーの特売日を知っている・行きつけの定食屋ができた・近所の公園に季節の変化を感じている——これらの「場所との関係」が生まれてきたことが、「定住したい」という気持ちの源泉かもしれない。

8回の引っ越しから分かること

8回の引っ越しを振り返ると、住む場所と「その時の自分の状態」が直結していることが分かる。

「仕事のために住む場所を決めていた時期」は、生活の主体が自分ではなく仕事にあった。「自分が住みたい場所で住むことを決めた時期」から、生活の主体が少しずつ自分に戻ってきた。

住む場所は「自分の価値観の外部化」だと思う。どんな場所に・どんな部屋に・どんな環境で住んでいるかは、「自分が何を大切にしているか」を物理空間で表現することだ。就職氷河期世代として長年「仕事の都合が最優先」の中で生きてきた私が、「自分の暮らしを自分で設計する」という感覚を持てるようになったのは、40代後半になってからだった。遅かったかもしれない。でも遅くとも、なかったよりはいい。

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