新卒一括採用と新卒カード
日本で働くことを考えるとき、どうしても避けて通れないのが「新卒一括採用」という仕組みです。大学や専門学校を卒業する学生が、同じ時期に一斉に就職活動をして、企業もそれに合わせてまとめて人を採る。日本では当たり前すぎて、疑問に思うことすら少ないかもしれません。
でも、少し立ち止まって考えてみると、この仕組み、なかなかクセが強い制度でもあります。
海外では、企業は必要なときに必要な人を採り、学生や社会人も自分のタイミングで仕事を探します。「卒業した年」よりも、「何ができるか」「何をやってきたか」が重視されるのが普通です。それに比べると、日本は「新卒であるかどうか」に、びっくりするほど大きな意味を持たせています。
この新卒一括採用とセットで語られるのが、「新卒カード」という考え方です。日本では、新卒というだけで「未経験でもOK」「ポテンシャル採用」「一から育てます」という扱いを受けやすくなります。これは確かに、新卒にとってはありがたい話です。
新卒カードの問題点
ただし、このカードには大きな問題があります。それは、人生で一度しか使えないということです。
もしその年が不況だったら。
もし家庭の事情や病気があったら。
もし就活がうまくいかなかったら。
理由が何であれ、新卒のタイミングで正社員になれなかった場合、その後は一気に不利になります。「新卒じゃない」というだけで、同じスタートラインに立てなくなる。これは冷静に考えると、かなり厳しい仕組みです。
この問題がはっきり形になったのが、就職氷河期世代です。1990年代後半から2000年代初頭、景気が悪く、多くの企業が新卒採用を絞りました。その結果、真面目に就活をしても、そもそも求人がない、という状況が起きました。
ここで大事なのは、氷河期世代の人たちが「努力しなかった」わけではない、ということです。単に、席が用意されていなかったのです。それなのに、その後の社会では「新卒で正社員になれなかった人」というレッテルだけが残り続けました。
さらに問題なのは、日本の企業が中途採用や再挑戦にあまり積極的でなかったことです。「即戦力がほしい」と言いながら、実際には年齢や職歴の空白を理由に門前払いする。これでは、一度つまずいた人が立ち直るのは簡単ではありません。
こうして、就職氷河期世代の多くは、非正規雇用や短期の仕事を転々とすることになりました。そして今度は、「職歴が安定していない」「専門性が足りない」と言われてしまう。少し理不尽だと思いませんか。
日本社会ではよく「自己責任」という言葉が使われます。でも、景気や採用人数は、個人ではどうにもできません。本来は制度の問題であるはずなのに、それがいつの間にか「本人の問題」にすり替えられてきました。
転職市場でも、この歪みは残っています。日本では今でも「若い=可能性がある」「年齢が高い=扱いづらい」という見方が根強くあります。これは、新卒一括採用を中心に労働市場を作ってきた結果とも言えます。
最近では、政府や企業が氷河期世代向けの支援策を打ち出しています。ただ、正直なところ、「もっと早くやってほしかった」と感じる人も多いでしょう。そして何より、問題の根っこである「新卒偏重の仕組み」自体は、あまり変わっていません。
新卒一括採用や新卒カードは、高度経済成長期のように、社会全体が右肩上がりだった時代にはうまく機能しました。でも、成長がゆるやかになり、働き方が多様化した今では、その前提はもう崩れています。
それでも制度が残り続けているのは、「変えるのが面倒」「今うまくいっている人が困らないから」という理由が大きいのかもしれません。そのしわ寄せを受けているのが、就職氷河期世代や、これから社会に出る若い世代です。
本来、働くというのは、何度でもやり直せるものであっていいはずです。回り道をした人、失敗した人、違う経験をしてきた人が、その経験をちゃんと評価される社会のほうが、ずっと健全です。
新卒かどうかよりも、「何をしてきたか」「何ができるか」を見る。
一度の失敗で、人生が決まらない。
そんな当たり前のことを実現するために、日本の新卒一括採用や新卒カードのあり方は、そろそろ本気で見直される時期に来ているのではないでしょうか。

