はじめに——車は「金食い虫」の王様
「車は必要か?」。都市部に住む独身一人暮らしにとって、この問いへの答えは明確だ。「不要」。車は生活費の中で最大級の「金食い虫」だ。購入費だけではない。維持するだけで年間40〜60万円が消える。手取り16万円の25〜37%。年収の4分の1が車に消えている。
「でも便利だから」。確かに便利だ。ドアツードアで移動できる。荷物が運べる。天気に左右されない。だがその「便利さ」に年間50万円を払う価値があるか。年間50万円を20年間NISAで運用すれば約1713万円。車を持つか持たないかの判断は「便利さ」と「1713万円」の比較だ。
このガイドでは、車の維持費を正確に計算し、「車なしで暮らす方法」と「車が必要な場面での代替手段」を解説する。すでに車を持っている人には「手放す判断基準」を、持っていない人には「持たない選択の正しさ」を確認してもらう。
車の維持費を「全部」計算する
車の維持費は「見えるコスト」と「見えにくいコスト」がある。すべてを洗い出す。
見えるコスト。自動車税:年間30500〜36000円(排気量による。軽自動車なら10800円)。自動車保険(任意保険):年間40000〜80000円(等級、車種、年齢による)。車検:2年に1回60000〜120000円(年間按分で30000〜60000円)。ガソリン代:月5000〜15000円(年間60000〜180000円。走行距離による)。駐車場代:月5000〜30000円(年間60000〜360000円。地域による。都市部は高い)。
見えにくいコスト。タイヤ交換:4〜5年に1回40000〜80000円(年間按分で8000〜20000円)。オイル交換:年2回で6000〜10000円。その他のメンテナンス(ブレーキパッド、バッテリー交換等):年間10000〜30000円。自賠責保険:車検時に支払い(2年で約20000円。年間按分10000円)。
合計。軽自動車(駐車場月5000円の地方)の場合。年間約250000〜350000円。普通車(駐車場月15000円の都市近郊)の場合。年間約400000〜650000円。普通車(駐車場月25000円の都市部)の場合。年間約550000〜800000円。
手取り16万円(年間192万円)の場合、軽自動車でも年間25〜35万円は年収の13〜18%。普通車なら20〜40%以上。年収の4割が車に消えるのは、明らかに「持つべきではない」レベルだ。
「車なし」で暮らすための条件
車なし生活が成立するには、いくつかの条件がある。
条件1は「公共交通機関が利用可能であること」。最寄り駅まで徒歩15分以内。バス停まで徒歩10分以内。通勤先に電車やバスで行けること。都市部(東京23区、大阪市内、名古屋市内等)なら条件を満たす。
条件2は「日常の買い物が徒歩圏内でできること」。スーパーまで徒歩15分以内。コンビニまで徒歩10分以内。ドラッグストアまで徒歩15分以内。これらが揃っていれば、日常生活で車は不要。
条件3は「車が必要な場面が年に数回しかないこと」。大きな家具の搬入、遠方への移動、大量の買い物。これらが年に数回であれば、その都度レンタカーやカーシェアで対応すれば十分。
地方在住で公共交通機関が乏しい場合、車なし生活は難しい。この場合は「軽自動車にダウンサイズする」「中古車に乗り換える」「維持費の安い車種を選ぶ」で維持費を最小化する戦略が有効。
車の「代替手段」一覧
代替手段1は「カーシェア」。タイムズカーシェア、dカーシェアなど。15分220円〜。利用したい時間だけ使い、使わないときはコストゼロ。月額基本料金880円のプランなら、使わない月も880円だけ。月に2〜3回、合計5〜6時間使う場合、月額2000〜4000円程度。年間24000〜48000円。車を所有する場合の年間40〜60万円と比較すれば、10分の1以下。
代替手段2は「レンタカー」。年に数回の遠出や大きな買い物にはレンタカー。軽自動車の6時間レンタルで4000〜6000円。12時間で5000〜8000円。年に4〜6回使うと、年間20000〜48000円。
代替手段3は「タクシー」。「タクシーは高い」イメージがあるが、月に2〜3回の利用(1回1000〜2000円)なら月2000〜6000円。年間24000〜72000円。車の維持費(年間40〜60万円)と比較すれば圧倒的に安い。「タクシーを月に5回使っても、車を持つより安い」という事実を知ると、車を手放す決断がしやすくなる。
代替手段4は「自転車」。片道5km以内の移動なら自転車が最速。購入費は中古で5000〜10000円。新品のママチャリで15000〜25000円。維持費は年間数千円(タイヤの空気入れ、チェーンの注油程度)。通勤、買い物、散歩。日常の移動の多くを自転車でカバーできる。
代替手段5は「ネット通販」。重い荷物(米、水、洗剤等)はネット通販で自宅に届けてもらう。Amazon、楽天で注文すれば翌日〜数日で届く。「車で買い物に行く」代わりに「ネットで注文する」。時間も節約できる。
車を「手放す」判断基準
すでに車を持っている場合、「手放すべきかどうか」の判断基準を示す。
判断基準1は「月の走行距離が500km以下」。月500km以下なら、カーシェアやレンタカーで代替可能。500km以上なら、車を持っていたほうが安い場合がある(距離に応じたカーシェア料金が高額になるため)。
判断基準2は「車を使うのが週に2回以下」。週に2回以下の使用頻度なら、カーシェアのほうが安い。週に3回以上使うなら、車を持つメリットが出てくる。
判断基準3は「駐車場代が月1万円以上」。駐車場代だけで年間12万円以上。この12万円をNISAに入れれば、20年で約411万円。駐車場代を411万円に変えるか、月1万円の便利さを取るか。
判断基準4は「車のローンが残っている」。ローンの金利を払いながら車を維持するのは「二重の出費」。ローンを完済して売却すれば、残債と売却価格の差額を一括で回収できる場合がある。ローンが残っている車を維持するのは、経済的に最も不合理だ。
車を手放す「手順」
手順1は「売却価格を調べる」。中古車買取サイト(カーセンサー、グーネット等)で査定。複数の買取業者に見積もりを取る。最も高い業者に売却する。
手順2は「カーシェアに登録する」。車を手放す前にカーシェアに登録しておく。手放した翌日から使える状態にしておく。「車がなくなったが代替手段がない」状態を作らない。
手順3は「自動車保険を解約する」。車を売却したら、任意保険を解約する。解約返戻金がある場合は受け取る。等級は「中断証明書」を発行してもらえば、10年間保存される。将来車を再購入する場合に、等級を引き継げる。
手順4は「駐車場を解約する」。月極駐車場の契約を解約する。解約通知は1ヶ月前が一般的。契約書を確認する。
「車を手放すのが怖い」への回答
「車がないと不便ではないか」。最初の1〜2ヶ月は不便を感じるかもしれない。「あ、車があれば楽なのに」と思う場面がある。だが3ヶ月もすれば、車なし生活に慣れる。慣れれば「車がなくても問題ない」ことに気づく。気づけば「なんであんな高い維持費を払っていたんだ」と後悔する。後悔は、手放したことへの後悔ではなく、「もっと早く手放さなかったこと」への後悔だ。
「緊急時に車がないと困る」。緊急時(病院への搬送等)はタクシーまたは救急車。タクシーは電話1本で来る。救急は119番。車を持つ理由が「緊急時のため」だけなら、年間40〜60万円は「保険料」としては高すぎる。
「カーレス生活」で浮いたお金の使い道
年間50万円が浮いた。この50万円の使い道を設計する。NISA積立に月20000円追加(年間240000円)。生活防衛資金の積み増し(年間100000円)。年に1回の旅行(50000円)。月1回の外食予算(年間12000円)。残り98000円は予備費。
月20000円のNISA追加積立を20年間、年利5%で運用すると約822万円。車を持っていたら存在しなかった822万円。「車を持たない」という選択が、20年後に822万円の資産を生む。822万円は、老後の年金不足を約17年間補填できる金額だ。
まとめ——「車を持たない」は「自由を持つ」こと
車を持たないことは「不便を受け入れること」ではなく「経済的自由を手に入れること」だ。年間50万円の維持費から解放される。解放された50万円が、NISAの資産になり、旅行の費用になり、老後の安心になる。
車は「移動の自由」を与えてくれる。だが車の維持費は「経済の不自由」を課してくれる。移動の自由が必要な場面は、カーシェアとタクシーで対応できる。経済の不自由を解消するには、車を手放すしかない。
「便利さ」と「お金」。どちらを取るかは自分で決める。この記事の計算を見て「やっぱり車を手放そう」と思ったなら、来月、カーシェアに登録してみてほしい。登録したら、1ヶ月間「カーシェアだけで生活できるか」を試してみる。できたら、車を売る。できなかったら、車を残す。「試す」のにリスクはない。カーシェアの月額880円だけだ。880円で「年間50万円の節約の可能性」を検証できる。やらない理由がない。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

