景気の影響をどの程度受けるか
製造業は一般的には景気の影響を受けやすい業種です。特に、重厚長大と呼ばれる鉄鋼や素材関連は、固定費の比率が高いため損益分岐点が高い場合が多い場合が多いです。半導体製造関連もシリコンサイクルと呼ばれる独自の業界景況があり、注意が必要です。これらの業界に共通することとして、業界全体の景気が良いときには、製品価格が上がり、設備稼働率が上がる為、とても業績が良くなります。一方、景気が悪い時には、製品価格を下げた上、設備の稼働率を下げなければなりません。
特に鉄鋼について特徴的ですが、高炉は一度火を入れると、途中で停止することは困難で、廃炉にするか、手間暇をかけて再開するしかありません。一般的には、損失を出してでも高炉を稼働状態にしておくことが多いようです。鉄鋼は、不景気の時には赤字垂れ流しになることはやむを得ないと言えます。
世界有数の大富豪であるウォーレン・バフェット氏は、鉄鋼業や素材産業のような固定費の占める割合が高く損益分岐点の高い「煙突産業」に投資することを避けていました。「煙突産業」は、投資に莫大な資本を要し、競争力を維持するためにも莫大な費用が掛かる為、投資には向いていないとしました。
一方で、製造業においても景気の影響をさほど受けないような業種も存在します。例えば、食品メーカーや独占的なニーズのある業種です。有名な話ですが、世界大恐慌の際にも、人々はコカ・コーラを飲む量を減らさなかったそうです。太平洋戦争の際、アメリカ軍はコカ・コーラがどこでも飲めるように、コカ・コーラ社に依頼しました。このことが戦後のコカ・コーラの戦後の飛躍にもつながっていきました。
このように製造業だからと言って、必ずしも景気の影響を受けるわけではありませんが、景気の影響を受けやすい鉄鋼や半導体関連には、十分な注意が必要です。
現状維持の費用がどの程度かかるか
先述の通り、鉄鋼業において、高炉の建設や維持には莫大な費用が必要です。一般的には、高炉一基で数千億円とも言われますから、プロジェクトが失敗した際には会社が傾くことも十分あり得ます。
一方で、米国のコカ・コーラ社では、現状維持にほとんど投資が必要ありません。コカ・コーラのレシピはごくわずかの人しか知らないと言われその内容は謎に包まれています。そのレシピこそがコカ・コーラの競争力の源泉です。工場など多額の資本が必要な飲料のボトリング(飲料詰め)は海外資本の現地会社に任せていることが多いため、食品メーカーという製造業でありながら、極めて高い営業利益率と資本効率を誇っています。
現状維持に莫大な費用が掛かる鉄鋼と、コカ・コーラ社の場合を挙げましたが、どちらに投資したいですか?
製品の競争力
製品の競争力は永遠ではありません。かつては、日本は“糸へん”が国を支えていると言われていました。例えば、絹、製糸、紡績などです。これらの産業は現代日本において絶滅危惧種です。第二次世界大戦後には、“鉄は国家なり”と言われたほど、重厚長大産業が発展し製鉄会社は人気企業の常連でしたが、その後は中国や韓国・インドなどの企業にシェアを奪われ、今では衰退産業の代表例です。日本の家電メーカーの白物家電が全世界を席巻したもつかの間、今では新興国メーカーに買収されるような家電メーカーも出てきています。
競争力がいつまで持つかは運次第の面がありますが、これだけは確かに言えると思います。“バカな経営者でも経営できる会社に投資するべきだ”(ウォーレン・バフェット氏の言葉)
ストック型の製造業に投資する
フローとストックという概念があります。フローとは一定期間での増減を示し、ストックとは一定時点での量を示します。風呂桶にお湯が流れ込んでいるとして、フローは流れ込んでいるお湯の量、ストックは風呂桶に流れ込み済みの量をいいます。フローは、一定期間でかなり変化しますが、ストックは一定量があるためすぐには変化しません。
ストック型の産業は、需要が見込みやすいという特徴があります。例えば、食品メーカーの場合は、人口が1億人でシェアがこれくらいだから、おおよそこれくらいの売上高が見込める、だったら利益はこれくらいだろうと予想することができます。仮に食事が日に1回になれば見込みは立たなくなるかもしれませんが、そうなる際には長い時間がかかります。こうした産業は、業績の見込みの上下ブレが少ないです。
エレベータや自動車の補修部品の製造をしている会社などもそうした例でしょう。世の中にあるエレベータや自動車の数はすぐには変わらないので、補修頻度が変わらない限り、部品は売れ続けるはずです。エレベータそのものや自動車そのものを製造している会社よりは、業績が見込みやすいはずです。