就職氷河期世代の「実家の相続・空き家問題」対策ガイド【親の家をどうするか——相続・売却・管理・放棄の判断基準と全手順】

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就職氷河期世代の「実家の相続・空き家問題」対策ガイド【親の家をどうするか——相続・売却・管理・放棄の判断基準と全手順】

はじめに——「実家どうする問題」は突然やってくる

親が亡くなったとき、あるいは施設に入ったとき、実家をどうするかという問題が浮上する。氷河期世代の親は70代後半から80代。この問題は「いつか」ではなく「もうすぐ」の問題だ。

実家が都市部の好立地なら、売却して現金化できる。だが氷河期世代の多くの実家は地方にある。地方の戸建ては、売りたくても売れないケースがある。買い手がいない。不動産会社に相談しても「この物件は扱えません」と断られることもある。売れない家は「資産」ではなく「負債」になる。

このガイドでは、実家を相続するか放棄するかの判断基準、相続した場合の管理方法、売却の手順、空き家のリスクと対策を、具体的に解説する。

実家の現状を把握する——まずここから始める

判断の前に、実家の現状を正確に把握する必要がある。把握すべき項目は以下の通りだ。

項目1は「不動産の評価額」。実家の土地と建物が、現時点でいくらの価値があるか。固定資産税の納税通知書を見れば、固定資産税評価額がわかる。実際の売却価格は、固定資産税評価額の1.1〜1.4倍程度が目安とされるが、地方の不人気エリアではこの倍率が当てはまらない場合もある。より正確な価格を知りたければ、不動産会社に無料査定を依頼する。複数の会社に査定を依頼し、比較するのが望ましい。

項目2は「固定資産税の額」。実家を所有しているだけで、毎年固定資産税がかかる。土地と建物で年間数万円から十数万円。住んでいなくても課税される。この税負担が、空き家を持ち続けるコストの一つだ。

項目3は「建物の状態」。築何年か。構造(木造か鉄骨か鉄筋コンクリートか)。修繕の履歴。雨漏りはないか。シロアリの被害はないか。設備(水回り、電気、ガス)の状態。建物の状態によって、売却の可能性、リフォーム費用、解体費用が変わる。

項目4は「土地の条件」。都市計画区域内か市街化調整区域か。接道状況(建築基準法上の道路に2m以上接しているか)。これらの条件によって、建て替えの可否や売却のしやすさが変わる。市街化調整区域で接道条件を満たさない土地は、売却が極めて困難だ。

項目5は「抵当権や借地権の有無」。住宅ローンが残っている場合は抵当権がついている。借地の場合は地主との関係がある。これらは相続時に手続きが複雑になる。

判断1:相続するか放棄するか

実家を相続するかどうかの判断は、「資産か負債か」で決まる。

資産になるケースは、売却して現金化できる場合、賃貸に出して家賃収入を得られる場合、自分が住む予定がある場合だ。これらのいずれかに該当すれば、相続する価値がある。

負債になるケースは、売却できない(買い手がいない)場合、維持管理にコストがかかる場合(固定資産税、修繕費、草刈り費、定期的な見回りの交通費)、建物の状態が悪く解体が必要だが解体費用が出せない場合だ。これらに該当すれば、相続放棄を検討する価値がある。

相続放棄は、相続が開始されたこと(親の死亡)を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する。3ヶ月を過ぎると原則として放棄できなくなるので、期限に注意が必要だ。相続放棄をすると、実家だけでなく、預貯金や他の資産もすべて放棄することになる。実家だけを放棄して預貯金は受け取る、ということはできない。

相続放棄をした場合、次順位の相続人(兄弟姉妹など)に相続権が移る。全員が放棄した場合、最終的に実家は国庫に帰属する。ただし帰属するまでの間、相続放棄した人に管理義務が残る場合がある。この点は弁護士に相談するのが確実だ。

判断2:売却するか

実家を相続し、自分で住む予定がない場合、売却が最もシンプルな選択肢だ。売却の流れは以下の通りだ。

ステップ1は不動産会社への査定依頼。複数の会社に依頼し、査定額を比較する。一括査定サイトを利用すれば効率的だ。ステップ2は媒介契約の締結。不動産会社と媒介契約(専任媒介、一般媒介など)を結び、売却活動を依頼する。ステップ3は売却活動。不動産会社が買い手を探す。内見対応が必要な場合は、遠方に住んでいると負担が大きい。不動産会社に鍵を預けて内見対応を任せる方法もある。ステップ4は売買契約と引き渡し。買い手が見つかれば、売買契約を結び、代金の決済と物件の引き渡しを行う。

売却にかかる費用としては、仲介手数料(売却価格の3%+6万円+消費税)、登記費用(抵当権抹消、所有権移転)、譲渡所得税(売却益に対して課税)がある。売却益が出なければ譲渡所得税はかからない。地方の古い実家の場合、売却価格が取得費(親が購入した価格)より低いことが多く、税金がかからないケースも多い。

売却が困難な場合の代替手段もある。「空き家バンク」は自治体が運営する空き家の情報提供サイトで、移住希望者とマッチングする仕組みだ。不動産市場に出しても売れない物件でも、空き家バンクなら買い手が見つかることがある。登録は無料のことが多い。

「0円で譲渡する」という方法もある。売却ではなく無償譲渡。固定資産税や管理費の負担を免れるために、タダでもいいから引き取ってほしい、というケースだ。「家いちば」などのウェブサービスでは、格安または無償の物件を掲載できる。

判断3:管理し続けるか

売却も放棄もせず、空き家として管理し続けるケースもある。「いつか住むかもしれない」「思い出のある家を手放したくない」「売れないが放棄もできない」。理由は様々だ。

空き家を管理し続ける場合のコストは、固定資産税が年間数万円〜十数万円、建物の維持管理費(定期的な換気・通水・清掃)が年間数万円、草刈り・庭木の剪定が年間数万円、火災保険料が年間数千円〜数万円。合計で年間10万円〜30万円のコストがかかる。これが何年も続く。

遠方に住んでいる場合、自分で管理するのは難しい。月に一度実家を訪問して換気や清掃をするのは、時間的にも金銭的にも負担が大きい。空き家管理サービス(NPOや民間企業が提供)を利用する方法もある。月額5000円〜1万円程度で、定期的な巡回、換気、郵便物の回収、草刈りなどを代行してくれる。

空き家を放置するリスク

空き家を放置すると、様々なリスクが生じる。

リスク1は「特定空家に指定される」こと。空家等対策特別措置法に基づき、自治体が危険な空き家を「特定空家」に指定できる。特定空家に指定されると、固定資産税の優遇措置(住宅用地の特例)が解除され、税額が最大6倍に跳ね上がる。さらに、自治体から改善の勧告・命令が出され、従わない場合は行政代執行(自治体が解体し、費用を所有者に請求)が行われる可能性がある。

リスク2は「近隣トラブル」。放置された空き家は、雑草の繁茂、害虫の発生、不法投棄、景観の悪化など、近隣住民に迷惑をかける。苦情が自治体に寄せられると、所有者に対応を求められる。

リスク3は「倒壊・火災」。老朽化した建物は倒壊のリスクがある。空き家は放火のターゲットにもなりやすい。倒壊や火災で第三者に被害を与えた場合、所有者が賠償責任を負う可能性がある。

リスク4は「資産価値のさらなる低下」。管理されない空き家は年々劣化し、資産価値が下がる。数年放置すれば、売却はさらに困難になり、解体費用だけが膨らむ。

解体という選択肢

売却が困難で、管理し続けるコストも負担できない場合、建物を解体して更地にする選択肢がある。

解体費用の目安は、木造の戸建てで坪あたり3〜5万円。30坪の家なら90万円〜150万円。鉄骨造や鉄筋コンクリート造はさらに高い。解体費用は安くない。だが解体して更地にすれば、売却しやすくなる場合がある。建物付きでは売れなかった土地が、更地にすると売れることがある。

自治体によっては、空き家の解体費用に補助金を出しているところがある。補助額は自治体によって異なるが、解体費用の3分の1〜2分の1、上限50万円〜100万円程度が一般的だ。自治体のウェブサイトや窓口で確認してほしい。

ただし解体して更地にすると、固定資産税の住宅用地の特例が適用されなくなり、土地の固定資産税が上がる可能性がある。解体のメリットとデメリットを比較した上で判断する必要がある。

親が元気なうちに話し合っておくこと

実家の相続・空き家問題は、親が亡くなってから考えるのでは遅い。親が元気なうちに、以下のことを話し合っておくべきだ。

話し合い事項1は「実家を誰が相続するか」。兄弟がいる場合、誰が実家を相続するかを決めておく。遺言書を作成してもらえると、相続時のトラブルを防げる。

話し合い事項2は「実家を残したいか、処分してもいいか」。親が「この家を残してほしい」と思っている場合と、「自分たちがいなくなったら処分していい」と思っている場合で、対応が変わる。親の意向を確認しておく。

話し合い事項3は「実家の権利関係の確認」。登記名義は誰か。住宅ローンは完済しているか。抵当権は抹消されているか。これらを確認し、必要な手続きがあれば親が元気なうちに済ませておく。

話し合い事項4は「家財の整理」。実家には長年の生活で蓄積された家財がある。親が亡くなったあとに遺品整理をするのは、精神的にも物理的にも大変だ。親が元気なうちに少しずつ整理を進める「生前整理」を提案する。

これらの話し合いは、気が重い。親と「死後のこと」を話すのは、日本の文化ではタブー視されがちだ。だが話し合わないまま親を失えば、困るのは自分だ。気まずさを我慢して、少しずつ話題にしていく。「テレビで空き家の特集をやっていて、うちもどうしようかと思って」くらいの軽い切り出し方でいい。

まとめ——実家は「思い出」でもあり「課題」でもある

実家は、子ども時代を過ごした場所であり、家族の思い出が詰まった場所だ。簡単に手放せる気持ちにはなれないかもしれない。だが思い出と経済的な負担は、別々に考える必要がある。思い出は心の中に残る。物理的な家を手放しても、思い出は消えない。

一方で、実家を持ち続けるコストは、毎年確実に発生する。固定資産税、管理費、交通費。これらが年間数十万円ずつ積み上がる。氷河期世代の限られた資金の中で、この負担は重い。

判断は人それぞれだ。正解はない。だが「判断しない」ことは、問題の先送りにすぎない。先送りすればするほど、建物は劣化し、選択肢は狭まり、コストは増える。できるだけ早い段階で、情報を集め、兄弟と話し合い、判断する。判断することが、この問題への唯一の対処法だ。

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