はじめに——「数学は無理」と諦める前に読んでほしい
公務員試験の筆記対策シリーズ(公務員03)で「数的推理と判断推理が得点の核心」と書いた。書いたが、正直に言えば「数的推理が苦手」な氷河期世代は多い。高校の数学で挫折した人。「数学」という文字を見ただけで拒否反応が出る人。文系出身で、数字を見ると頭が真っ白になる人。
公務員試験の数的推理は「大学入試の数学」ではない。微分積分は出ない。三角関数も出ない。出るのは「小学校〜中学校レベルの算数・数学」をベースにした「パズル問題」だ。速さ、割合、確率、場合の数、図形。これらは「解法のパターン」を覚えれば、数学の才能がなくても解ける。パターンを覚える作業は「暗記」に近い。暗記なら、文系でもできる。
このガイドでは、「数学アレルギー」の人が数的推理で6〜7割の正答率を達成するための「裏技」を解説する。裏技と言っても不正ではない。「効率的な解き方」「選択肢を活用する方法」「捨て問の見極め」だ。
裏技1:「選択肢から逆算する」
公務員試験の数的推理は「択一式」だ。5つの選択肢から正解を1つ選ぶ。この「選択肢がある」ことを最大限に活用する。
正攻法は「問題を解いて答えを出し、選択肢の中から一致するものを選ぶ」。裏技は「選択肢を問題文に当てはめて、成立するか確認する」。つまり「答えの候補」を先に仮定して、正しいかどうかを検証する。
例題。「AさんとBさんの年齢の合計は50歳。Aさんの年齢はBさんの年齢の4倍です。Aさんの年齢は何歳ですか? (1)30歳 (2)35歳 (3)40歳 (4)45歳 (5)50歳」
正攻法。連立方程式を立てる。A+B=50、A=4B。4B+B=50、5B=50、B=10、A=40。答えは(3)40歳。
裏技。選択肢を順に当てはめる。(3)40歳なら、B=50-40=10歳。40は10の4倍。成立。答えは(3)。連立方程式を解かなくても、選択肢を当てはめるだけで正解に辿り着ける。
この「選択肢から逆算する」方法は、速さの問題、割合の問題、整数の問題で特に有効。「立式が思いつかない」問題でも、選択肢を当てはめれば解ける場合がある。
裏技2:「具体的な数字を入れて試す」
抽象的な問題(「○%の利益」「□倍の速さ」)は、具体的な数字を仮定すると解きやすくなる。
例題。「原価に30%の利益を見込んで定価をつけたが、売れなかったので定価の20%引きで販売した。利益率は何%か?」
抽象的に解くと混乱する。具体的な数字を入れる。原価を100円と仮定。定価=100×1.3=130円。販売価格=130×0.8=104円。利益=104−100=4円。利益率=4÷100=4%。答えは4%。
「原価を100円と仮定する」だけで、問題が「算数」に変わる。割合の問題は「100」を仮定する。速さの問題は「道のりを120km」と仮定する(12の倍数は割り算しやすい)。「仮の数字を入れる」テクニックは、ほぼすべての割合・速さ問題で使える。
裏技3:「捨て問」を見極める——全問解く必要はない
数的推理は15問前後出題される。15問すべてを解く必要はない。「解ける問題」を確実に正解し、「解けない問題」は勘で選んで次に進む。これが「捨て問戦略」だ。
「捨てるべき問題」の特徴。問題文が長い(3行以上の条件設定)。見たことのないパターン。図形の問題で「補助線を引く」タイプ。確率の問題で「条件が複雑」なもの。これらは「時間がかかる割に正答率が低い」問題だ。1問に5分かけるより、「勘で答えて1分で次に進む」ほうが、全体の得点が上がる。
「解くべき問題」の特徴。パターンが見慣れたもの(練習で解いたことがあるタイプ)。問題文が短い。選択肢が整数。これらは「短時間で解ける」問題だ。3分以内で解ける問題に集中する。
15問中10問を「真剣に解く」。残り5問は「勘で答える」。真剣に解いた10問のうち7問正解すれば、勘で答えた5問のうち1問(5択の確率20%)正解で、合計8問正解。15問中8問正解で正答率53%。数的推理だけで53%取れれば、他の分野(文章理解、時事問題)で稼いで全体6割は十分に可能。
裏技4:「パターン別解法」を10個だけ覚える
数的推理の全パターンは50以上ある。50個すべてを覚えるのは大変だ。だが「頻出パターン」は10個程度。この10個を完璧に覚えれば、出題の6〜7割をカバーできる。
覚えるべき10パターン。パターン1は「速さ=距離÷時間」の基本問題。旅人算(追いつき・出会い)含む。パターン2は「割合」の基本問題。原価・定価・売価の計算。濃度の計算。パターン3は「比」の問題。AとBの比が3:5のとき——。パターン4は「場合の数」。順列と組み合わせの基本。パターン5は「確率」の基本。さいころ、くじ引き。パターン6は「整数」の問題。余りの問題、約数・倍数。パターン7は「年齢算」。現在と○年後の年齢の関係。パターン8は「仕事算」。AとBが一緒に作業すると何日で終わるか。パターン9は「集合」の問題。ベン図を使う問題。パターン10は「図形の面積」。三角形、円、扇形の面積。
この10パターンの解法を、それぞれ3〜5問ずつ練習する。合計30〜50問。1問15分として、7.5〜12.5時間。2週間(1日1時間)で完了。2週間の投資で、数的推理の得点が劇的に上がる。
裏技5:「判断推理」のほうが得点しやすい——配点が同じなら楽なほうを取る
数的推理が「計算」なら、判断推理は「パズル」だ。数学の知識は不要。論理的に考える力だけ。「AはBの隣に座っている。CはDの向かいに座っている。Eは端に座っている。Aの位置はどこか?」。この手の問題は、図を描いて条件を書き込めば、算数の計算なしで解ける。
数的推理が苦手な人は、判断推理に「より多くの時間」を投入する。判断推理で8割取り、数的推理で4割取る。合計で6割。これでも筆記試験は突破可能。「得意な分野で稼ぎ、苦手な分野は最低限」。この傾斜配分が、数学アレルギーの人の最適戦略だ。
裏技6:「時間配分」を徹底する——1問3分ルール
筆記試験の制限時間は90〜120分。問題数は40〜50問。1問あたり2〜3分。この「1問3分」を厳守する。3分で解けなければ「勘で答えて」次に進む。
「あと少しで解ける」と粘って5分使うと、他の「3分で解ける問題」を1問落とす。5分使って正解するより、3分で諦めて次の問題を3分で正解するほうが、「同じ時間で1問多く正解する」。時間管理は「正答率」以上に「得点」に影響する。
練習のときから「1問3分」を計る。タイマーを3分にセットして問題を解く。3分で解けなければ、解説を読む。「3分以内に解けるようになるまで」同じパターンの問題を繰り返す。本番では「3分以内に解ける問題=自分の得意パターン」だけに集中し、それ以外は捨てる。
裏技7:「資料解釈」は計算しなくても解ける
資料解釈(グラフや表を読み取る問題)は「正確に計算する」必要がない場合が多い。「概算」で選択肢を絞れる。
例えば「A社の売上高は前年比何%増加したか」という問題。前年1200億円、今年1380億円。正確な計算は1380÷1200=1.15=15%増。だが概算で「1200→1380、増加分は180。180÷1200≒15%」と暗算で出せる。5択の中に15%があれば即答。
「概算力」を鍛えるには、日常生活で「暗算する」習慣をつける。スーパーで「1パック198円×3個≒600円」。「電気代先月8500円、今月7200円、差額≒1300円」。日常の計算を暗算で行う練習が、試験本番の「概算力」を上げる。
「数学アレルギー」を克服した人の共通点
数学アレルギーを克服して公務員試験に合格した人には共通点がある。
共通点1は「解法を暗記した」。理解ではなく暗記。「この問題が出たら、このやり方で解く」を丸暗記した。数学を「理解する」のではなく「パターンを覚える」と割り切った。割り切れた人が合格している。
共通点2は「同じ問題を3回解いた」。1回目は解説を読みながら。2回目は自力で。3回目はスピードアップ。3回繰り返すと、体が覚える。「考える」のではなく「反射的に手が動く」レベルになる。
共通点3は「苦手を『ゼロにする』ではなく『4割にする』ことを目指した」。数的推理でゼロ点は論外だが、満点を取る必要もない。4割取れれば、他の分野でカバーできる。「4割でいい」と思えれば、心理的なハードルが下がる。下がれば、勉強が苦痛ではなくなる。苦痛でなくなれば、続けられる。続ければ、4割は確実に取れる。
まとめ——「数学が苦手」でも公務員試験は突破できる
数的推理は公務員試験の「壁」だ。だがこの壁は「越えられない壁」ではなく「裏道がある壁」だ。選択肢から逆算する。具体的な数字を入れる。捨て問を見極める。10パターンだけ覚える。判断推理で稼ぐ。1問3分を守る。概算で解く。これらの「裏技」を使えば、数学アレルギーでも6割は取れる。
6割取れれば、筆記試験は突破できる。突破すれば面接に進める。面接では「数学の成績」は問われない。「あなたの経験」と「あなたの人柄」が問われる。数学が苦手でも、経験と人柄で合格できる。数学アレルギーは、公務員になれない理由にはならない。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

