はじめに——「平日に休む」は独身者の最強カード
有給休暇を使って平日に休む。この「平日の休日」が、独身一人暮らしにとって最も贅沢な時間だ。なぜか。平日の日中は「世の中が動いている時間」だ。多くの人が仕事をしている。学校に通っている。だから「街が空いている」。土日には行列ができるラーメン屋が、平日ならすぐ入れる。土日は混雑する美術館が、平日はガラガラ。土日は満員の電車が、平日の昼間は座れる。
「平日に休む」は、既婚者には難しい。「家族サービス」は土日にやるものだし、子どもの行事も土日。だが独身者には「家族サービス」の義務がない。平日に有給を取っても、誰にも気を遣わなくていい。「平日の自由な1日」を、完全に自分のためだけに使える。これが独身者の「最強カード」だ。
このガイドでは、「平日有給」をどう過ごせば「最高の1日」になるかを、予算別・目的別に提案する。「何もしない平日」も「アクティブな平日」も、どちらも「最高」だ。
過ごし方1:「何もしない平日」——0円の究極の贅沢
平日有給の最もぜいたくな過ごし方は「何もしない」ことだ。予定なし。目的なし。義務なし。目覚ましをかけずに自然に目覚める。時計を見ない。布団の中でぼんやりする。起き上がる気になったら起き上がる。朝食をゆっくり作る。トーストを焦げないように丁寧に焼く。コーヒーをドリップで淹れる。普段は「時間がない」朝にできないことを、時間をかけてやる。
午前中。窓を開ける。平日の午前中は「静か」だ。土日は近所の子どもの声、車の音、生活音で騒がしい。平日は多くの人が外出しているため、住宅街は驚くほど静か。この静けさの中で、本を読む。1時間。2時間。時計を見ない。「何ページまで読もう」と決めない。読みたいだけ読む。飽きたらやめる。
午後。昼寝する。15分でも30分でも。平日の昼寝は「背徳的な幸福」だ。「みんなが働いている時間に寝ている」。この背徳感が快感になる。昼寝の後、散歩に出る。平日の公園は空いている。ベンチに座る。空を見上げる。雲が流れている。「何もしない時間」が流れている。この「何もしない時間」の価値は、お金では測れない。
夕方。いつもより早い時間に夕食を作る。普段は帰宅後にバタバタと作るもやし炒めを、今日は「ゆっくり丁寧に」作る。にんにくを刻む。肉を丁寧に炒める。もやしのシャキシャキ感を残す。「いつものもやし炒め」が「丁寧に作ったもやし炒め」に変わる。味は同じかもしれない。だが「作る過程の充実感」が違う。
夜。早めに風呂に入る。早めにベッドに入る。「明日も仕事だけど、今日は最高の1日だった」。0円。支出ゼロの1日。だが「充実感」は満点。
過ごし方2:「平日の美術館・博物館」——500円の知的冒険
美術館や博物館は「平日の午前中」が最も空いている。特に開館直後(10時〜11時)は、ほぼ貸し切り状態のこともある。土日なら30分待ちの企画展が、平日ならスイスイ入れる。
平日の美術館の過ごし方。10時。開館と同時に入場する。まだ人が少ない。1つ1つの作品をじっくり見る。土日なら「人の流れに押されて」サッと見て通り過ぎるところを、平日なら1作品の前に5分立ち止まれる。「この絵の構図は——」「この色使いは——」。考える余裕がある。考える余裕があるからこそ、作品が「深く」見える。
11時30分。美術館のカフェで一息つく。土日なら満席だが、平日は空席だらけ。窓際の席に座る。コーヒー(500円)を注文する。さっき見た作品を反芻する。美術館のパンフレットを読み返す。「贅沢な時間」。この贅沢は1000円以下で手に入る(入場料500円+コーヒー500円)。
過ごし方3:「平日の映画館」——ほぼ貸し切りで映画を見る
平日の映画館は「ガラガラ」だ。特に午前中の上映回は、観客が5〜10人ということもある。200席の劇場に10人。ほぼ貸し切り。好きな席を選び放題。前の座席の人の頭が邪魔にならない。周囲のおしゃべりがない。スマートフォンの光がない。「映画に集中できる最高の環境」。
映画の日(毎月1日。1100〜1300円)やレイトショー(1300〜1500円。ただし平日有給なら朝の上映がおすすめ)を利用すれば、さらに安い。平日のファーストデー(毎月1日)なら1100円で映画が見られる。1100円で2時間の「没入体験」。コスパは最高。
過ごし方4:「平日の街歩き」——知らない街を0円で冒険する
電車で2〜3駅先の「行ったことのない街」に降りてみる。定期券の範囲内なら交通費は0円。改札を出て、あてもなく歩く。知らない商店街。知らない公園。知らない路地裏。「あ、こんな店があるんだ」「この公園、広いな」「この路地裏、雰囲気がいいな」。
平日の商店街は「地元の人」が買い物をしている。観光客ゼロ。チェーン店ではない「個人経営の店」が多い。安くて美味い定食屋。個性的な古本屋。昔ながらの豆腐屋。「チェーン店だらけの日常」から離れて、「個人の店が並ぶ商店街」を歩く。この「非日常感」が、平日街歩きの魅力だ。
ランチを知らない店で食べる。「日替わり定食」700〜900円。「この店、初めてだけど美味いな」。新しい店を見つけた喜び。700円で「発見」と「満腹」の両方が手に入る。
過ごし方5:「平日の役所・銀行」——用事を片付ける効率的な日
実用的な過ごし方もある。平日にしかできない「用事」を片付ける。市区町村の役所(住民票の取得、マイナンバーカードの受け取り等)。銀行の窓口(口座の変更、相続関連の手続き等)。病院の受診(歯科検診、人間ドック等)。免許の更新(警察署は平日のみ対応の場合がある)。
これらの用事を「1日にまとめて片付ける」。午前中に役所、昼に銀行、午後に歯医者。3つの用事を1日で完了。土日にこれらの用事をやろうとすると「休日が用事で潰れる」ストレスがある。平日有給なら「用事の日」として割り切り、休日は「完全なオフ」にできる。用事と休日の分離。これも平日有給の有効な使い方だ。
過ごし方6:「平日の図書館」——最高の自習環境
平日の図書館は「独身者の天国」だ。土日は子ども連れの家族で賑やかだが、平日は静寂そのもの。閲覧席は空いている。好きな席を選べる。窓際の明るい席。奥の静かな席。「ここに3時間座って本を読む」。この「静かな空間で、好きな本を、好きなだけ読める」環境は、カフェでは得られない(カフェは長居しすぎると気が引ける)。
図書館で「公務員試験の勉強」をするのもいい。3時間の集中勉強。自宅ではスマートフォンやテレビの誘惑がある。図書館には誘惑がない(スマートフォンは鳴らさないのがマナー)。「平日有給×図書館×勉強」は、公務員試験の合格率を上げる最強コンボ。
「月1回の平日有給」を習慣にする
年間20日の有給のうち、12日を「月1回の平日有給」として使う。残り8日は体調不良や緊急時の予備。月に1回、平日に休む。「来月の有給はいつにしよう」と考えるのが楽しみになる。「来月は美術館に行こう」「来月は映画を見よう」「来月は何もしない日にしよう」。
平日有給の「予約」は2週間前にする。急に「明日休みます」は派遣先に迷惑がかかる(場合がある)。2週間前に「○日にお休みをいただきます」と伝えておけば、業務の調整がスムーズ。「計画的に有給を使う」のは「権利の適切な行使」であり、「サボり」ではない。
「平日有給」のコスト——0円〜2000円
過ごし方別のコスト。何もしない日:0円。図書館の日:0円。街歩き(定期券範囲内):0円+ランチ700円。美術館:入場料500円+コーヒー500円=1000円。映画:1100〜1900円。用事を片付ける日:0円(交通費除く)。
平均コスト500〜1000円。月に1回の「最高の1日」が500〜1000円で手に入る。発泡酒4〜7本分。4〜7本の発泡酒か、「平日の美術館でぼんやりする至福の時間」か。答えは——両方欲しい。じゃあ発泡酒を2本減らして、美術館に行こう。
まとめ——「平日に休む」は独身者だけの特権
既婚者は平日に休んでも「家事をしなきゃ」「子どもを迎えに行かなきゃ」。独身者は平日に休んだら「完全に自由」。この「完全な自由」は、独身者だけの特権だ。特権を使わないのはもったいない。
来月、平日に有給を1日取ってみてほしい。何をするかは当日の朝に決めていい。「何もしない」でも「美術館に行く」でも「街を歩く」でも。大切なのは「平日の自由な1日を、自分のためだけに使う」こと。自分のためだけの1日が、残りの20日の仕事を「乗り越えるエネルギー」を充填してくれる。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

