はじめに——「一人で被災する」恐怖を直視する
地震。津波。台風。洪水。日本に住んでいる以上、災害のリスクはゼロにならない。家族がいれば「助け合う」ことができる。だが独身の一人暮らしは「助けてくれる同居人がいない」。倒れた家具の下敷きになっても、助けを呼ぶ声が隣室に届くかどうかわからない。避難所に行っても「家族連れの中で一人」。食料を分けてくれる人がいない。情報を共有する人がいない。
「一人で被災する」のは怖い。だが怖がるだけでは生き延びられない。怖さを「準備」に変える。準備があれば、一人でも72時間(3日間)を生き延びられる。72時間を生き延びれば、その後は行政の支援が届き始める。「72時間のサバイバル」が独身者の災害対策の核心だ。
「備蓄」の基本——3日分の水と食料を確保する
水の備蓄。1人あたり1日3リットルが目安。3日分で9リットル。2リットルペットボトル4.5本。5本あれば十分。スーパーで2リットルの水を5本買う(500〜750円)。押入れの隅に置いておく。半年に1回、新しいものと入れ替える(古い水は飲料や料理に使い切る)。
食料の備蓄。3日分(9食分)。加熱不要でそのまま食べられるもの。缶詰(さんま、ツナ、やきとり等。1個100〜200円×6缶=600〜1200円)。カロリーメイトまたは乾パン(1箱200〜300円×3箱=600〜900円)。レトルトのご飯(1食150〜200円×3食=450〜600円。水で戻せるアルファ米がベスト)。合計1650〜2700円。約2000円で3日分の食料が確保できる。
その他の備蓄品。懐中電灯(100均で110円。電池も忘れずに)。モバイルバッテリー(2000〜3000円。満充電にして保管。3ヶ月に1回充電し直す)。ラジオ(手回し充電式が理想。1000〜2000円)。ホイッスル(100均で110円。閉じ込められたとき助けを呼ぶ)。軍手(100均で110円)。ラップ(皿に巻いて使えば洗い物が不要)。ティッシュ・トイレットペーパー(普段の在庫を1パック多めに持つ)。現金(停電時はキャッシュレス決済が使えない。1万円札ではなく千円札と小銭で1〜2万円)。
備蓄の合計コスト。水750円+食料2000円+懐中電灯110円+モバイルバッテリー2500円+ホイッスル110円+軍手110円=約5580円。5580円で「72時間の命の保険」が完成する。NISAの月積立1回分以下。命の値段としては破格だ。
「避難計画」を作る——「どこに逃げるか」を事前に決めておく
災害が起きたとき「どこに逃げるか」を、事前に決めておく。パニックの中で「どこに行けばいいんだ」と迷う時間は致命的。
確認すること1は「自宅のハザードマップ」。自治体のウェブサイトで「ハザードマップ」を確認する。自宅が浸水想定区域にあるか。土砂災害警戒区域にあるか。地震の揺れやすさマップも確認する。自宅のリスクを把握しておく。
確認すること2は「最寄りの避難所」。自治体のウェブサイトまたはハザードマップで、最寄りの「指定避難所」(学校の体育館、公民館等)を確認する。自宅から避難所までの「徒歩ルート」を実際に歩いてみる。所要時間を計る。「走らなくても10分で着く」「このルートは川沿いだから洪水時は別のルートを使う」。実際に歩くことで「脳にルートが記憶される」。本番のパニック時に「体が覚えている」ことが重要だ。
確認すること3は「避難所以外の避難先」。避難所が満員の場合、または避難所に行きたくない場合(プライバシーがない、一人では居づらい等)。車中避難(車を持っている場合)。テント避難(公園等でテント泊)。知人宅への避難。これらの「避難所以外の選択肢」も頭に入れておく。
「一人の避難所生活」で困ること——事前の対策
独身の一人暮らしが避難所で困ることは「家族連れの中で一人」であることだ。家族連れはスペースを共有し、食料を分け合い、情報を共有する。一人だとスペースの確保、食料の入手、情報収集を「すべて自分だけで」行う必要がある。
対策1は「避難所に早めに行く」。遅く行くとスペースが埋まっている。早めに行けば、壁際(プライバシーが確保しやすい場所)を確保できる。
対策2は「最低限の荷物を持って行く」。避難所に行くときの持ち物。水(2リットル1本)。食料(カロリーメイト2箱)。モバイルバッテリー。スマートフォン。健康保険証(コピーでもOK)。身分証明書。常備薬(飲んでいる薬がある場合)。着替え1日分。タオル。歯ブラシ。耳栓(避難所は騒がしいため睡眠用)。アイマスク(同上)。これらを「非常持ち出し袋」にまとめて、玄関に置いておく。
対策3は「避難所での『孤立しない工夫』」。避難所では「一人の人間」は見落とされやすい。食料の配給が回ってこない。情報が伝わってこない。対策として「近くの人に一言声をかける」。「一人なんですが、何か手伝えることはありますか」。この一言で「あの人は一人だ」と周囲に認識される。認識されれば、配給や情報の伝達から漏れにくくなる。
「在宅避難」という選択肢——自宅が安全なら自宅に留まる
自宅が倒壊・浸水していなければ「在宅避難」が可能。在宅避難は「避難所のストレス」を避けられるメリットがある。プライバシーが確保できる。自分のペースで過ごせる。だが「一人」なので「安否確認の仕組み」が必要。
安否確認の方法。災害用伝言ダイヤル(171)に自分の状況を録音する。家族(親や兄弟)に「自分は無事。自宅にいる」とLINEまたは電話で連絡する。SNS(X等)に「○○市○○町、無事です」と投稿する。「自分が生きていることを、誰かに伝える」。これが在宅避難の最優先事項。誰にも伝えなければ「行方不明者」として捜索対象になり、救助のリソースが無駄に使われる。
「地震対策」——6畳ワンルームの家具転倒防止
6畳ワンルームで最も危険なのは「家具の転倒」だ。本棚、冷蔵庫、テレビ台。これらが地震で倒れて下敷きになる。一人暮らしでは「助けに来る人がいない」ため、下敷きになったまま脱出できない可能性がある。
対策1は「家具を壁に固定する」。突っ張り棒タイプの転倒防止具(100均で110〜550円。またはホームセンターで500〜1500円)を本棚や冷蔵庫の上に設置する。設置時間10分。10分で「家具が倒れてこない部屋」に変わる。
対策2は「寝室(ベッド周辺)に背の高い家具を置かない」。6畳ワンルームでは「寝室=リビング」だが、ベッドの近くに本棚を置かない。地震は「寝ている間」にも来る。寝ている間に本棚が倒れてきたら——。本棚はベッドから最も離れた位置に置く。
対策3は「枕元にスリッパ(または靴)を置く」。地震で窓ガラスや食器が割れると、床一面にガラスの破片が散乱する。裸足で歩けない。枕元にスリッパを置いておけば、ガラスの上でも歩ける。100均のスリッパ110円。110円で「ガラスの上を歩ける保険」。
「スマートフォン」が最大の命綱——充電を死守する
災害時、スマートフォンは「情報収集」「安否確認」「避難情報の受信」「地図」「懐中電灯」のすべてを担う「最大の命綱」だ。だが停電すれば充電できない。バッテリーが切れたら「何もできない」。
対策1は「モバイルバッテリーを常に満充電にしておく」。10000mAhのモバイルバッテリーがあれば、スマートフォンを2〜3回フル充電できる。普段は使わず「災害用」として保管。3ヶ月に1回、充電し直す(自然放電するため)。
対策2は「災害時のスマートフォン節電テクニック」。画面の明るさを最低にする。Wi-FiとBluetoothをオフにする。使わないアプリを終了する。「低電力モード」をオンにする。これらで消費電力が50〜70%減少し、バッテリーの持ちが2〜3倍になる。
対策3は「災害用アプリを事前にインストールしておく」。Yahoo!防災速報(無料)。NHK防災アプリ(無料)。自治体の防災アプリ。これらを「今のうちに」インストールしておく。災害が起きてからインストールしようとしても、通信が混雑してダウンロードできない場合がある。
「一人の防災訓練」——年に1回、30分
年に1回(9月1日の「防災の日」がおすすめ)、30分の「一人防災訓練」を行う。やること。備蓄品の賞味期限を確認する(期限切れのものは入れ替える)。モバイルバッテリーを充電する。懐中電灯の電池を確認する。非常持ち出し袋の中身を確認する。避難所までのルートを歩く(または確認する)。災害用伝言ダイヤル(171)の使い方を確認する。
30分×年1回=年間30分。30分で「いつ災害が来ても対応できる状態」を維持する。30分はもやし炒め6回分の時間。6回分のもやし炒めで命を守れるなら、安い投資だ。
まとめ——「備えている自分」は「備えていない自分」より強い
災害は「いつ来るか」わからない。だが「必ず来る」。日本に住んでいる以上、これは確率ではなく「確定事項」だ。確定事項に備えないのは「確実に起きる出費を無視する」のと同じ。
備蓄5580円。避難計画30分。家具固定10分。合計6000円弱と40分の投資で「72時間の命」が守れる。6000円はNISAの月積立の一部。40分は散歩1回分。この「小さな投資」で「一人の被災」を乗り越えられる。
今日、スーパーで水を5本買おう。缶詰を6個買おう。押入れにしまおう。しまったら、「これで大丈夫」と安心しよう。安心は睡眠の質を上げる。「災害の備えがある安心」は、「備えがない不安」より遥かに良い眠りをもたらす。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

