就職氷河期世代と日本的経営

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日本的経営とは

日本的経営とは、終身雇用、年功序列、企業別組合の3種の神器を特色とする経営システムです。かつては、日本的経営は戦後日本の経済的成功の秘密とされてきました。確かに一定の条件下では、日本的経営は優れたシステムです。経済の沈滞が続く日本では、日本的経営は逆に停滞の大きな要因とされている状況です。

 

終身雇用とは

終身雇用は、従業員がなにか大きな問題を起こさない限り、企業が定年まで雇用を暗黙的に保証する仕組みです。かつて、日本人の平均寿命は、定年とさほど違いがなかったため、終身雇用と呼ばれました。終身雇用は、法律のように必ずしも明文化されていたわけではありません。従業員と企業との暗黙の了解であったのです。終身雇用は日本独自のシステムではなく欧米でも企業によっては見られるシステムですが、かつては日本人全体が終身雇用というシステムの存在を信じていたという意味では日本に特異なシステムであると言えます。

第二次世界大戦勃発までは、日本では終身雇用という概念を持つ人は少なかったと言われています。第二次世界大戦の勃発に伴い、日本の労働力需給は大きく逼迫しました。労働力をよその企業に取られないためには、終身雇用という形で労働力を囲い込む必要がありました。そのなごりが戦後にも残り、日本企業の終身雇用というシステムが生まれました。

 

企業にとって、右肩上がりの経済状況においては、労働力を他企業に取られないことこそ、他社を出し抜く有力な手段である為、終身雇用は日本的経営の主要要素を占めました。

従業員にとっても、将来設計がしやすくなり住宅や耐久消費財への支出が容易にしやすくなります。社会全体が終身雇用を前提としていれば消費向上も見込める為、好循環であったと言えます。

では、経済が右肩下がりになったらどうでしょうか。

企業は、従業員を容易に解雇することができません。法的にも道義的にも問題があり、会社の評判の低下や従業員の士気低下を招くためです。そこで新卒採用や中途採用を絞り、従業員が自然減することを待つことが一般的な手法でした。経済の停滞が続くと、退職勧奨を行うのはまだ良いほうで、従業員が自ら退職するように仕向けるグレーゾーンなやり口も発生しました。

結局、終身雇用とは、経済が上向きの状況で労働力需給が引き締まっている状況でのみ、一国全体では成りたつということが日本的経営の歴史を振り返ると分ります。日本の終身雇用崩壊が叫ばれて久しいですが、終身雇用が一般的であった時代こそが特異であったのです。

 

年功序列とは

年功序列とは、企業への在籍期間が長いほど、また従業員の年齢が高いほど企業への貢献度が高いとみなされるシステムです。在籍期間が長ければ、自然と役職も上昇し、それがまた給与の上昇に反映されます。例え、他の従業員と比べ客観的に見て能力が劣っていても、従業員の在籍期間が長く年齢が高ければ一定の貢献度があるものとみなされます。一見すると不合理なシステムですが、終身雇用と同様に年功序列があることで、従業員にとって生活の見通しを立てることができ、従業員の会社に対する忠誠心が向上します。企業側にとっても、人材を外部に流失させない有効な手段であったと言えます。

 

企業別組合とは

欧米においては職業別や職能別に組合を作ることが多く、日本においては企業別に組合を作ることが一般的です。日本では企業別に組合を作ることで、企業の実情に合った組合交渉を行うことが可能でした。従業員と企業が対立することなく、よく言えば協力的な労使関係を構築できたと言えます。

 

 

日本的経営の今後

日本的経営は、右肩上がりの経済状況においては、合理的なシステムです。その証左として業績好調な日系企業はいまだに強く日本的経営の要素を残しています。合理性がなければ、わざわざコスト増を招くようなことをしないはずです。今後も日本的経営は一定の地位を占めつづけることでしょう。

日本的経営において一番損をしたのは、日本的経営というシステムに入れなかった人や、途中から弾き出された人たちです。

日本的経営は、正社員男性という企業に定年まで忠誠心を持つような一定の属性を持つ人に最も多くの恩恵を与えました。男女雇用機会均等法により正社員女性も恩恵を得ることができるようにはなりましたが、女性特有の産休という事情により、男性ほどは会社に貢献することが難しいものといまだに多くの日系企業は考えています。

また、派遣社員や期間社員、パート・アルバイトなど非正規雇用と呼ばれる人たちは、正社員に比べ、著しく低い処遇のままです。同じ価値の労働提供をしているならば、同一の処遇を使用者は与えるべきだという考え方である“同一価値労働同一賃金”とスローガンが叫ばれていますが、正社員の待遇を引き下げて非正規雇用と同レベルに持っていこうとする使用者側の意向が含まれている点には留意が必要です。

今後も日本的経営で恩恵を得る人はいるでしょうが、従業員がすべて恩恵を受けられるとは限りません。コア人材と呼ばれる企業の中枢を担う人と、誰にでも容易にできるような労働を行うコモディティ化された労働力を提供する人では全く扱いが違ってくることは容易に想定できます。一言で言えば、“一億総中流社会”は消えていき、格差がより前面に出てくることでしょう。格差が悪いとは一概には言えませんが、階層と呼ばれるような本人の努力とは関係なく生まれた時に一生がほぼ決まってしまうという社会になることだけは避けてほしいものです。

 

日本企業における新卒一括採用

日本型経営において、新入社員は新卒一括採用が基本です。高校や大学を卒業するのと同時に企業に入社します。最近では、第二新卒と呼ばれる、新卒採用で失敗した人や、新卒採用で入社した企業と相性が良くなかった企業から比較的短期間で転職する人が増えています。

また、他企業である程度就業経験を積んでから転職する中途採用市場も広がりを見せています。しかし、就職機会が広がった現在でも、新卒でなければ入社が難しい企業は存在します。例えば、旧財閥系企業の中心的企業や、マスコミ、大手製造業などいわゆる“就職偏差値”の高い企業は、新卒採用だけで人材が賄えてしまう為、新卒採用以外の道はほぼありません。また、仮に中途入社できたとしても、社風の違いや、人事考課の厳しさなどいばらの道である可能性が高いです。どんなに優秀な人材でも生え抜きの人材に勝つことは難しいです。

新卒採用の問題点

ここで問題になることが、卒業年次の景気動向により、新卒採用が大きく抑えられた場合です。例えば、コロナ禍で日本のフラッグシップと呼ばれる大手航空会社は客室乗務員の採用を大きく絞ったり、採用自体が無くなったりしました。大手航空会社の客室乗務員志望者は、コロナ禍という外的要因のせいで、自らが希望する職業に就く道が閉ざされました。どんなに努力をしてもどんなに優秀な人でも採用慣行のせいで、希望する職につけなかったのです。

 

コロナ禍の客室乗務員の採用と同様のことがより大規模に起きたことが、“氷河期世代”と呼ばれる人たちの就職問題です。“氷河期世代”について正確な定義はありません。一般的には、平成バブル崩壊後から続いた不景気の期間に高校や大学など教育機関を卒業し、新卒人材として社会に出ていこうとした人たちです。企業が新卒採用を軒並み絞っていたり、採用自体を控えていた為、多くの人たちが希望する企業に就職できなかったり、非正規やパートなど望まない雇用形態で社会に出ていくことを余儀なくされました。優秀な人でも低賃金で待遇の良くない職しかなく、さらには就職すらままならなかった人たちの数は莫大です。

 

問題は、景気が回復した後でも、新卒ではなく、就業経験のない人たちは、新卒採用から排除されていたことです。同質の人材を大量に一括して採用する新卒一括採用には異質のものを認めない偏狭さが潜んでいます。人生で一回限りしか使えない“新卒カード”は、長期間の不景気という外的要因により奪われました。仮に中途採用があったとしても、社会経験が要求されました。不景気で経験を身につけられるような職がなかったのにもかかわらず、社会経験を要求することは明らかに矛盾しています。本来であれば、行政や大企業が率先して対策を見出すべきでしたが、“氷河期世代”の不遇は今も続いています。前後の世代に比べると、明らかに世代として所得平均が低く、十分な職業能力を身につけられていない人が少なくありません。

氷河期世代の今後について

近年では、政府や大企業でも“氷河期世代”が将来の社会保障に与える影響を考慮し、対策を練り始めていますが、あまりにも遅すぎました。本来なら十分な職業経験を積むべき年月を単純労働や過重労働で使い果たし、“氷河期世代”に余力は残っていません。年功序列の要素が強い日本企業においては、“氷河期世代”のような存在は異物でしかないのではないかと悲観する動きも根強いです。このままでは、十分な賃金の受け取れていない“氷河期世代”が社会保障の負担となり、日本の社会保障を揺るがす要因となる可能性も高いでしょう。また、少子化の一因として子育ての費用が負担できない“氷河期世代”の影響があることも指摘されています。だからと言って、根本的な解決法はない中、“氷河期世代”は国や企業、地域から見捨てられた世代になる可能性は高いでしょう。

 

もっとも警戒するべきは、”自己責任論”です。”氷河期世代”の人たちは十分に努力をしてこなかったから、今のような苦境を招いているという論調が典型的な自己責任論です。”氷河期世代”の人たちは、与えられた環境の中で懸命に努力してきましたが、現在も苦境にある人達が少なくありません。安易な自己責任論は、本来責任を果たすべき存在(行政や企業など)の責任逃れの口実になっているのではないでしょうか。行政は現在行っているような職業訓練や補助金制度をもっと早く行うべきであったし、企業も社会的責任の側面から雇用を計画的に行うべきでした。結局は、だれも責任を取らない日本の体質が”氷河期世代”の問題を大きくしている要因なのかもしれません。

新卒カードを使うべき企業

就職においては“新卒カードを使う”という俗称で言われる、新卒でなければ入社できない企業があります。例えば、旧財閥系企業の中核会社、金融機関、総合商社、重厚長大産業、電気や水道などインフラ系です。

 

これらの会社は、いまだに年功序列や終身雇用を前提としているため、中途入社組は異物でしかない場合が多いのです。日本的経営をいまだに続けられるほど、守られている業界や業湯が多いです。入社する人も年功序列や終身雇用で守られることに心地よさを感じている場合が多いので、離職率も低めです。そうすると、内部で人材が賄えることになるので、中途募集は極めて少なくなるため、さらに中途入社が困難となります。会社は新卒からの叩き上げで占められることになります。転職の際、どうしてもこうした“新卒カード”が有利に働く企業で働きたければ、数少ない中途採用の枠を狙うために努力を要し、入社後も社内で主流派ではない悲哀を味わうことになるかもしれません。

 

“新卒カード”は一生で一回しか使えませんから、戦略的に就職先を選ぶ必要があります。キャリアプランを想定して、自分が新卒後定年まで勤めあげることができるかまで考えておく必要があります。変化の激しいこの時代に数十年間存在し続ける会社はそうそうないとは思いますが、それでも一生を一社で過ごすくらいの覚悟があったほうが良いです。欲を出して、他社に転職しようとは思う人には向いていないかもしれません。一生のうちの労働時間を会社に売るわけですから、できるだけ良い条件で安定的に労働を購入してくれる会社でなければ辛いものがあります。

 

新卒で入社するべき企業の選び方

第一に、当たり前ですが会社が存在し続けることです。会社が倒産すれば、数十年間に及び事実上の雇用保障は空手形になりますので、意味がなくなります。財務内容や事業の内容を把握しておいたほうが良いでしょう。独占企業や寡占企業は商品やサービスが陳腐化しない限りは、存在し続ける可能性が高いので、市場シェアの把握も必要です。

第二に、数十年間の雇用条件見通しが極端に変わらないことです。国営化された某日系大手航空では、在職者だけでなく退職者の年金までカットするような、事実上の生涯賃金カットが行われました。これでは、会社にいくら尽くしても救われません。

第三に、社風が極端に変わらないことです。もし、日系の企業が外資に買収されれば、最初は聞こえの良いことが従業員に言われるでしょうが、いずれは本国の社風に代わっていくことが想定されます。だんだんと成果主義になっていった場合には、社風が合わずに苦労することになるかもしれません。

 

しかし、新卒の時に安泰に見えた業界が、数十年後には斜陽産業になっていることは十分考えられます。例えば、紡績や鉄鋼が往時は飛ぶ鳥落とす勢いでしたが、今では外国の製品に押され見る影もありません。入社して安泰ではなく、入社してからも勝負であるということはどの会社でも同じです。

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