結論:清原達郎氏は「小型株で勝ち、いま静かに手じまいを進める」伝説の運用者
清原達郎(きよはら たつろう)氏は、日本の株式投資の世界ではちょっとした伝説です。先にポイントをまとめます。
- サラリーマンのまま長者番付1位:2005年に公表された最後の長者番付で、全国1位になった
- 25年で93倍:タワー投資顧問の「タワーK1ファンド」を運用し、大きなリターンを残した
- 小型株とネットキャッシュ:時価総額の小さい会社を、手元のお金と比べて安いかどうかで選ぶ
- 本を出して一気に有名に:2024年に『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)を出版し、発売3日で12万部を超えた
- 2026年は手じまいの年:個人で持っていたACCESS株を、2026年8月までにすべて売却した
内藤征吾氏や吉田知広氏のような「黙って持ち続ける投資家」とは違い、清原氏は自分の考えを本で語り、保有株の動きも大量保有報告書で追えます。この記事では、その両方を照らし合わせて、清原氏の投資を読み解きます。
清原達郎氏は何者?経歴と実績
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出身 | 島根県松江市 |
| 学歴 | 東京大学卒業、のちにスタンフォード大学でMBAを取得 |
| 主な職歴 | 野村證券、外資系証券会社を経て、タワー投資顧問で運用を担当 |
| 代表的な実績 | タワーK1ファンドを約25年運用し、93倍のリターン |
| 長者番付 | 2005年に公表された高額納税者番付で全国1位、納税額は約37億円(この年を最後に番付の公表は廃止) |
| 著書 | 『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社、2024年) |
| 現在 | 咽頭がんの治療で声を失い、2023年にファンドの運用を終えて引退。個人として保有株の売却を進めている |
この経歴でいちばん驚くのは、長者番付1位になったときも、清原氏は会社勤めの運用担当者だったことです。創業者でも相続人でもなく、「運用の腕だけでトップに立った人」というのが、清原氏が伝説と呼ばれる理由です。
実際、2026年7月に清原氏が金融庁に出した変更報告書を見ると、職業の欄はいまも「会社員」となっています。800億円ともいわれる資産を持ちながら、書類上の肩書きは会社員のまま、というのはなんとも清原氏らしいところです。
清原達郎氏の保有銘柄:個人で5%超を持っていた7社
ファンドの運用を終えるとき、清原氏はファンドが持っていた株の一部を個人で引き取りました。2024年8月にブルームバーグが報じた時点で、個人名義で5%超を持つ大株主になっていたのは次の7社です。
| 銘柄(コード) | 2024年8月の保有比率 | その後の動き(2026年10月時点で確認できた範囲) |
|---|---|---|
| ACCESS(4813) | 約31.5% | 2026年6〜8月に市場で売り続け、8月5日に保有ゼロに |
| BBDイニシアティブ(5259) | 30.31% | 2025年に同じ159万9,100株がヘッドウォータースの名義に。その後BBDは同社と合併し、2026年4月に上場廃止 |
| ヤギ(7460) | 7.29% | 未確認 |
| クルーズ(2138) | 7.23% | 変更報告書で5%未満に減少 |
| 遠藤製作所(7841) | 7.16% | 未確認 |
| 日精樹脂工業(6293) | 7.12% | 未確認 |
| TOYOイノベックス(旧東洋機械金属、6210) | 7.11% | 未確認 |
ACCESS株は、2023年11月にファンドから1,260万株を約95億円で引き取ったものです。保有比率は3割を超え、個人としては異例の大きさでした。
このほか、5%前後から5%未満の大株主としては、岡野バルブ製造(6492)5.52%、加藤製作所(6390)5.07%のほか、アイナボHD(7539)、寺崎電気産業(6637)、日神グループHD(8881)、田辺工業(1828)、東北新社(2329)、新日本建設(1879)、指月電機製作所(6994)などに名前が確認されています(いずれも2024年前後のデータ)。
並べてみると、射出成形機(日精樹脂、TOYOイノベックス)、ゴルフクラブ(遠藤製作所)、バルブ(岡野バルブ)など、地味でも技術のある製造業が多いのが分かります。
清原達郎氏の投資哲学:5つの柱
著書『わが投資術』で語られている考え方を、個人投資家が使える形に整理しました。
1. 小型株でこそ個人は勝てる
時価総額の小さい会社は、大手の機関投資家が買いたくても買えません。アナリストもほとんど調べていないので、割安なまま放っておかれやすい。清原氏が長年勝ち続けたのは、この「プロが入れない場所」で戦ったからです。
2. ネットキャッシュ比率で「タダ同然の会社」を探す
清原氏の代名詞ともいえるのが、ネットキャッシュ比率です。計算はシンプルです。
- ネットキャッシュ = 流動資産 + 投資有価証券 × 70% - 負債
- ネットキャッシュ比率 = ネットキャッシュ ÷ 時価総額
この比率が1を超えると、会社が持っている正味のお金だけで時価総額を上回っていることになります。つまり、事業そのものはタダで手に入る計算です。清原氏は、PBR(株価純資産倍率)よりもこちらを重視しました。
ただし、流動資産には在庫や売掛金も入っています。すぐ現金になるとは限らないので、中身まで確かめるのが大事です。
清原氏はPERにもひと工夫します。会社が持つ現金の分を差し引いて考える「キャッシュニュートラルPER」です。たとえば時価総額200億円、PER10倍の会社が100億円のネットキャッシュを持っているとします。株価の半分は現金で裏付けられているので、事業そのものの値段はPER5倍分しかない、と考えるわけです。見た目のPERが同じでも、現金が多い会社ほど実質的には割安になります。
3. 「正しい」と「儲かる」は別物
会社の分析が正しくても、株価が上がるとは限りません。上がるのは、自分の予想と市場の予想にズレがあり、それがあとから埋まるときです。だから清原氏は、みんなと同じ意見で買うことを避けました。
4. 小型株ほど経営者を見る
小さな会社は、社長1人で良くも悪くもなります。清原氏は経営者と直接会って、人柄や考え方を確かめてきました。若い頃に投資したニトリでは、創業者の似鳥昭雄氏に会って投資を決めた話がよく知られています。
5. 分からないものは買わない
どれだけ話題の会社でも、自分がビジネスを理解できなければ手を出さない。清原氏は著書で、ソフトバンクグループやテスラのような会社は自分には判断できない、という趣旨のことを書いています。
開示書類から分かった「2026年の手じまい」(独自分析)
清原氏の本や紹介記事は、どうしても「何を買ったか」の話が中心になります。でも、引退した今の清原氏を知るうえで大事なのは「どう売っているか」です。金融庁のEDINETに出ている変更報告書と、各社の大株主データを自分で確認してみました。
ACCESS:1か月足らずで残り18%を売り切った
| 時点 | 保有比率 | 出来事 |
|---|---|---|
| 2023年11月 | 約31.5% | ファンドから1,260万株を約95億円で引き取る |
| 2026年7月10日 | 18.48% | 直前の22.31%から減少。保有は738万3,700株に |
| 2026年8月5日 | 0% | この日に203万8,300株(5.10%)を売り、保有ゼロに |
2026年7月10日から8月5日までの4週間足らずで、18%以上を市場で売り切っています。変更報告書によると、どれも市場内での売却で、特定の相手に譲ったものではありません。
2年半近く持ち続けたあと、最後は一気に手放した形です。ここまで急いだ理由は書類からは分かりません。それでも、「引退した大株主の売りは、ある日まとめて出てくる」ことがよく分かる例です。
BBDイニシアティブ:株数が1株も違わずに移っていた
BBDイニシアティブの大株主欄を時系列で見ると、面白いことに気づきます。
- 2025年3月末:清原達郎氏 159万9,100株(26.13%)
- 2025年9月末:ヘッドウォータース 159万9,100株(26.13%)
株数が完全に一致しています。清原氏の持ち分を、AI関連企業のヘッドウォータースがまとめて引き取ったとみるのが自然です。その後、両社は2026年1月に経営統合を発表し、BBDは2026年4月に上場廃止になりました。
市場で少しずつ売るのではなく、事業会社にまとめて買ってもらう。小型株の大株主にとって、これはいちばんきれいな出口のひとつです。
発見:伝説の投資家も「出口」に苦労する
2つの例から分かるのは、小型株の怖さは買うときより売るときにある、ということです。3割も持っていると、市場で売れば自分の売りで株価が下がります。だからこそ清原氏は、ACCESSでは時間をかけて売り、BBDでは事業会社に引き取ってもらった、と考えられます。
吉田知広氏がソレキアのTOB合戦で株を手放した例とも共通しています。小型株投資では、買う前から「誰に、どうやって売るか」を考えておくことが大切だと、改めて感じました。
清原銘柄をマネするときの注意点
「清原さんが持っているなら」と同じ銘柄を買いたくなる気持ちは分かります。ただ、今はとくに慎重になったほうがいいと思います。
- 今は「売る側」の投資家:引退した清原氏は、新しく買うより手持ちを減らしている局面です。大株主の売りが残っている銘柄は、上値が重くなりがちです。
- 売りはある日まとめて出る:ACCESSのように、数週間で大量に売られることがあります。気づいたときには売り終わっていることも多いです。
- 情報は必ず遅れる:大量保有報告書は5営業日以内、有報の大株主欄は年1回です。リアルタイムで追うことはできません。
- 買値がまったく違う:清原氏の保有株は、ファンド時代から安く仕込んだものです。同じ銘柄でも、今の株価で買えば割安さは別物です。
マネするなら、銘柄ではなく考え方です。ネットキャッシュ比率で自分で銘柄を探すほうが、ずっと再現性があります。
他の有名投資家との比較
| 項目 | 清原達郎氏 | 内藤征吾氏 | 吉田知広氏 |
|---|---|---|---|
| 立場 | 元ファンドマネージャー | 個人投資家 | 個人投資家 |
| 1社の比重 | 5〜30%と厚く持つ | 2〜4%前後 | ふだん1〜3%、ときに5%超 |
| 銘柄選び | ネットキャッシュ、経営者の質 | 地方の小型バリュー株 | 建設・インフラ、低PBR株 |
| 情報発信 | 著書あり | なし | なし |
| 2026年の動き | 保有株を売却中 | 新規の買いが続く | 50社前後の大株主を維持 |
同じ小型株の投資家でも、清原氏は「厚く持って、経営者と向き合う」タイプです。薄く広く持つ内藤氏・吉田氏とは、ここが大きく違います。
清原達郎氏から個人投資家が学べること
- 戦う場所を選ぶ:プロが入れない小型株に、個人の勝ち筋がある
- お金で測る:PBRより、会社が持つ正味の現金と時価総額を比べる
- みんなと逆を考える:市場の予想とのズレがなければ、儲けは生まれない
- 人を見る:小さな会社ほど、経営者の質が結果を分ける
- 出口を先に考える:厚く持つほど、売るときの苦労は大きくなる
よくある質問(FAQ)
Q. 清原達郎氏の資産はどれくらいですか?
メディアでは800億円ほどと紹介されています。本人が正確な金額を公表しているわけではありません。
Q. 清原達郎氏は今も投資をしていますか?
2023年にファンドの運用を終え、引退しています。個人で持っている株は、2024年以降に少しずつ売却が進んでいて、ACCESS株は2026年8月にすべて売却しました。
Q. ネットキャッシュ比率はどこで調べられますか?
決算短信や有価証券報告書の貸借対照表から、流動資産・投資有価証券・負債を拾えば自分で計算できます。株価サイトの中には、この指標でスクリーニングできるものもあります。
Q. 『わが投資術』は初心者でも読めますか?
専門用語はありますが、語り口は平易です。ネットキャッシュ比率の考え方だけでも、読む価値は十分あります。
Q. 清原銘柄を買えば儲かりますか?
保証はありません。清原氏は保有株を売っている最中なので、むしろ注意が必要な局面です。
まとめ
清原達郎氏は、会社員の運用担当者として長者番付1位に立った、日本でも珍しい投資家です。小型株とネットキャッシュ比率を武器にファンドを93倍にし、引退後は本で自分の考えを惜しみなく公開しました。
そして2026年、清原氏はACCESS株を売り切り、BBDイニシアティブ株も事業会社に引き継がれました。伝説の投資家は、今まさに静かに手じまいを進めています。
これから清原氏に学ぶなら、追うべきは銘柄ではなく考え方です。そして、買うときと同じくらい「どう売るか」を考えておくこと。それが、清原氏の最後の動きから学べるいちばんの教訓だと思います。
※本記事は2026年10月時点で確認できた公開情報をもとにしています。保有状況は変わるため、投資判断は最新の開示書類とご自身の責任で行ってください。
参考資料
- 清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社、2024年)
- 金融庁 EDINET:清原達郎氏によるACCESS株の変更報告書(2026年7月13日提出、2026年8月6日提出)
- 各社の大株主データ(BBDイニシアティブ 2025年3月期・9月期)
- ブルームバーグ(2024年8月):清原氏の個人保有株に関する報道
- 現代ビジネス(2024年3月):清原氏と著書に関する記事

