- はじめに——「銘柄リスト」から見えてくるBNFの戦略
- 第1章 BNFの銘柄選びの基本——「何を見て買うのか」
- 第2章 2005年・ジェイコム(2462)——20億円を生んだ運命の銘柄
- 第3章 2005〜2006年・ジェイコム事件直後の銘柄群——ディー・エヌ・エー、アセットマネジャーズ
- 第4章 2009年・オリックス(8591)——「個人筆頭株主」になった衝撃
- 第5章 2010年・JVCケンウッド、ジャノメ、JUKIなど——「縁の下の力持ち」銘柄群
- 第6章 2012年・川崎汽船(9107)——海運業への大型ベット
- 第7章 2013年・イビデン(4062)、ファルテック(7215)、東京電力債
- 第8章 2014年・小型株祭り——ブロッコリー、VOYAGEグループ、リボミックなど
- 第9章 2015〜2016年・ノンバンクと小型成長株——オリエントコーポレーション、ケイブなど
- 第10章 2017年・Jトラスト(8508)、クックパッド(2193)など——9銘柄保有時代
- 第11章 2018〜2019年・「沈黙」と「整理」の時期
- 第12章 2021年・ランド(8918)——超低位株への突然の登場
- 第13章 銘柄群を貫く「BNF流フィルター」の正体
- 第14章 業種別に見るBNFポートフォリオの全体像
- 第15章 個人投資家がBNFの銘柄リストから学ぶべきこと
- おわりに
- 参考資料
はじめに——「銘柄リスト」から見えてくるBNFの戦略
前回の記事では、BNFこと小手川隆さんの「投資哲学」について深く掘り下げました。今回は、その続編として、彼が実際にどんな銘柄を保有してきたのか、その「実物リスト」を時系列で追いかけながら、そこから見えてくる戦略について書いていきたいと思います。
BNFさんは、メディアにほとんど登場しないため、保有銘柄が「公開情報」として外部に知られるルートは、ほぼ二つしかありません。
一つは、大量保有報告書(5%ルール)。発行済み株式の5%以上を取得した場合、5営業日以内に提出が義務付けられる書類です。
もう一つは、有価証券報告書および株主総会招集通知の「大株主の状況」欄。各企業は、上位10名の大株主を毎年開示する義務があります。
これらは法律に基づいて開示される、完全に公的な情報です。EDINETという金融庁のシステムや、各社のIRページから誰でも閲覧できます。
ところが、ここに一つ大きな問題があります。
BNFさんは、2008年に資産200億円を超えていたといわれています。仮にその後、資産が500億円〜2,000億円規模まで膨らんでいるとしても、彼が大株主として名前を出すのは、ごく一部の銘柄にとどまります。
なぜでしょうか。
それは、彼の取引スタイルが「スイングトレード(数日〜1週間程度の保有)」を中心としているからです。スイングトレードでは、保有期間が短いため、たまたま決算期末の「株主名簿確定日」を跨いだ場合だけ、大株主として記録されるのです。
つまり、私たちが見ることのできる「BNFの保有銘柄リスト」は、彼の取引全体のごく一部の「スナップショット」でしかありません。
それでも、毎年の決算期末ごとに記録された銘柄を時系列で並べてみると、彼の好み、その時々の戦略、相場環境への対応が、驚くほど鮮明に見えてきます。
この記事では、IRBANK、バフェット・コード、株主プロ、各社の有価証券報告書など、複数の公開情報を組み合わせて、できる限り正確な「BNF保有銘柄の歴史」を再構成していきます。
10万字を超える長旅になりますが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
BNFさんの「実際の銘柄選び」を追いかけることで、彼の哲学が机上の空論ではなく、現実の市場でどう活かされたのか、リアルに見えてくるはずです。
それでは、始めましょう。
第1章 BNFの銘柄選びの基本——「何を見て買うのか」
1-1. ファンダメンタルズはほぼ見ない
BNFさんの銘柄選びについて、最も意外な事実がこれです。
BNFさんは、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(自己資本利益率)といった、いわゆる「ファンダメンタル指標」をほとんど見ません。
「個別の銘柄について、PERなどの指標は全く見ないそうです」
これは、長年BNFさんを取材してきた複数のメディアが一致して報じている事実です。
普通の投資家、特にウォーレン・バフェット型のファンダメンタル投資家は、「企業の本質的価値」を測るためにこれらの指標を最重要視します。「PERが10倍以下で割安」「ROEが15%以上で優良企業」といった具合に、数字で判断するわけです。
しかしBNFさんは、それをしません。
ではどうやって銘柄を選ぶのか。答えは、**「値動き」と「出来高」**です。
1-2. 「流動性」が最優先
BNFさんが銘柄選びで最重視するのは、流動性です。流動性とは、ざっくり言えば「売買のしやすさ」のこと。具体的には、
- 出来高が多い
- 売り板・買い板が厚い
- 自分の注文で株価が大きく動かない
こうした銘柄を好みます。
本人の発言を引用します。
「私は流動性さえあればなんでも買いますね」
「東証一部で売り板、買い板両方とも10万株以上並んでいるのが一番好き」
「なんでも買う」——これも、彼らしい発言です。要するに、業種や事業内容にこだわりはなく、「動きやすい銘柄」なら何でもいい、というスタンスです。
なぜ流動性が重要なのか。
それは、彼が短期売買を中心としているからです。短期売買では、買ったらすぐに売る必要があります。売りたいときに買い手がいなければ、株価が暴落してから売ることになります。
流動性が高い銘柄なら、こうしたリスクを最小化できます。
1-3. 「ボラティリティ(値動きの激しさ)」も重要
流動性と並んで重要なのが、**ボラティリティ(値動きの激しさ)**です。
これは少し矛盾するように聞こえます。流動性が高い大型株は、通常、値動きが緩やかです。逆に値動きが激しい新興市場の小型株は、流動性が低い。
しかしBNFさんは、この「流動性とボラティリティの両立」を見つけ出すのが上手いのです。
たとえば、
- IPO直後の小型成長株
- 業績変動の激しいシクリカル銘柄(鉄鋼、化学、海運など)
- ニュースで急騰急落した銘柄
- 移動平均線から大きく乖離した銘柄
こうした銘柄は、流動性がそこそこありつつ、値動きも激しいという、BNFさん好みの特徴を持っています。
1-4. 「監視銘柄」のリスト管理
すでに前回の記事でも触れましたが、BNFさんは600〜700銘柄を常時監視しています。
「通常はだいたい30銘柄から70銘柄を保有していますが、株価のチャートなどが頭に入っている監視銘柄だけでも600銘柄から700銘柄くらいはあります」(KING 2007年10月号)
この600〜700銘柄が、彼の「銘柄プール」です。ここから、その日その日の相場状況に応じて、エントリーする銘柄を選んでいきます。
監視銘柄リストは、業種ごとにグループ分けされています。
「経済状況や過去の株価変動の情報をもとに、銘柄を独自にグループ分けし、グループ内のいずれかの銘柄に株価の変動があった際、それに出遅れている銘柄を狙って投資する手法」
つまり、ただ漫然と監視しているのではなく、「セクターごとに整理して、連動関係を把握している」のです。
1-5. 業種別の「典型的なBNF好み銘柄」
実際に保有していた銘柄を見ると、BNFさんが好む業種に一定のパターンが見えてきます。
1. ノンバンク・消費者金融系
- アコム、プロミス、武富士などのレガシー
- オリエントコーポレーション、アプラスフィナンシャル
- Jトラスト
2. メーカー(小型〜中型)
- JVCケンウッド、ジャノメミシン、JUKI、河合楽器
- イビデン
- ファルテック(自動車部品)
- 兼松
3. 海運・素材
- 川崎汽船
- 住友金属工業(過去の発言で言及)
4. 新興市場・IPO銘柄
- ディー・エヌ・エー
- ブロッコリー
- VOYAGEグループ(現CARTA HOLDINGS)
- リボミック
- ケイブ
5. 不動産関連
- 日本アセットマーケティング
- ランド
6. 大型株(資金が大きくなってから)
- オリックス
- クックパッド
このリストを見ると、「業種を絞っていない」ことが分かります。むしろ、「値動きの大きい銘柄」「セクターローテーションが起きやすい銘柄」を、業種横断で選んでいる印象です。
1-6. 「割安だから買う」のではない
ここが、私が最も強調したいポイントです。
普通のバリュー投資家は、「PERが低い」「PBRが0.5倍」「配当利回りが5%」といった、明確な「割安シグナル」を見て買います。
しかしBNFさんは、こうしたシグナルでは買いません。
彼が買うのは、
- 下げすぎた銘柄(25日移動平均線からマイナス20〜30%以上の乖離)
- 連れ高で出遅れている銘柄(同セクターの主力銘柄が上がっているのに、まだ上がっていない銘柄)
- 流動性が突然増えた銘柄(出来高ランキングの上位)
これらは、ファンダメンタルとは別の指標です。
1-7. 「成長性」も重視しない(基本的には)
BNFさんは、企業の「成長性」も基本的には重視しません。
「この会社は将来、市場が10倍になる」とか「新製品がブレイクするはずだ」とか、そういう「将来の物語」には乗りません。
彼が見るのは、「今、目の前で動いている株価」だけです。
ただし、例外もあります。資産が大きくなってからは、中長期保有の銘柄も持つようになりました。たとえば2013年に保有していた東京電力債(40億円分)は、明らかに「中長期での回復」を見越した投資です。
1-8. 「テーマ株」には乗るが、振り回されない
BNFさんは、その時々の市場テーマ(ITバブル、不動産バブル、エコカー、AI、半導体、再生可能エネルギーなど)にも、機敏に対応します。
ただし、テーマに「夢」を見て長期保有するのではなく、テーマで動いているうちに上がるだろう、という冷静な判断で買います。テーマが終わったら、すぐに売ります。
これも、彼の「短期的な値動き重視」という哲学の表れです。
1-9. 「自分のサイズに合う銘柄」を選ぶ
資金が増えるにつれて、BNFさんは保有銘柄のサイズも変えていきました。
資金1〜10億円時代:小型株、新興銘柄、低位株が中心 資金10〜100億円時代:中型〜大型株にシフト 資金100億円以上:大型株、海外株、債券、不動産も組み入れ
なぜか。
それは、資金量に対して銘柄の時価総額が小さすぎると、自分の売買で株価が大きく動いてしまうからです。たとえば、時価総額50億円の銘柄に10億円のポジションを取ろうとすれば、買いの段階で株価が30〜40%跳ね上がってしまいます。
逆に、時価総額1兆円の大型株なら、100億円のポジションでも、ほぼ市場価格で売買できます。
「自分のサイズに合った銘柄を選ぶ」——これは、当たり前のようで、実践している投資家は意外と少ない原則です。
1-10. ここから先の章の構成
ここまで、BNFさんの銘柄選びの「基本」について見てきました。
次の章からは、いよいよ、彼が実際に保有してきた銘柄を、時系列で見ていきます。
2005年のジェイコム、2009年のオリックス、2010年代の数十銘柄、そして2021年のランド——。
これらの銘柄を一つひとつ追いかけることで、彼の「哲学」が「実際の投資判断」にどう落とし込まれていたのか、リアルに見えてくるはずです。
第2章 2005年・ジェイコム(2462)——20億円を生んだ運命の銘柄
2-1. ジェイコムとはどんな会社だったのか
BNFさんを一夜にして全国区にしたのが、株式銘柄「ジェイコム」(証券コード2462、現・ライク株式会社)です。
この会社、名前から「J:COM(ケーブルテレビ会社)」と混同されがちですが、全くの別会社です。
当時のジェイコムは、人材派遣業を主たる事業とする企業でした。特に、携帯電話・情報通信の営業支援、販売促進業務のアウトソーシングを中心としていました。
2005年12月8日、東証マザーズ市場に新規上場。発行済み株式総数はわずか1万4,500株という小規模な上場でした。
普通なら、新規上場銘柄として、その日のうちに値が動いて、それで終わりだった可能性が高いです。歴史に残るような銘柄ではなかったかもしれません。
しかし、運命の歯車が狂いました。
2-2. 「1株61万円」を「1円61万株」と発注したミス
上場初日の午前9時27分56秒、みずほ証券の担当者が、決定的なミスを犯します。
「61万円で1株売り」とすべき注文を、「1円で61万株売り」と入力してしまったのです。
発行済み株式数1万4,500株の42倍にあたる、物理的に存在しない量の売り注文が、市場に流れ込みました。
東証システムには異常注文を弾く仕組みがあるはずでしたが、この日のシステムには不具合があり、注文が受け付けられてしまいました。
ジェイコム株は、瞬時にストップ安まで暴落。1株あたり57万2,000円というストップ安価格に張り付きました。
普通の投資家は、この異常事態に対して「何か悪材料が出たのか」とパニックになりました。
しかし、BNFさんは違いました。
2-3. BNFさんの取引——7,100株の取得
BNFさんは、市場の混乱を見て、瞬時にこれが「誤発注」だと判断しました。
そして、ストップ安価格付近で買い注文を出し始めます。
当時の取引記録から再構成すると、以下のような流れだったとされています:
- 67万円:寄り付き予想価格
- 64万円で50株買い注文 → 63万円で約定
- 追加で50株の注文
- 価格が下がり続けるのを見て、一気に1000株単位の注文を投入
- 最終的に7,100株を取得
最終的に、BNFさんはジェイコム株7,100株を取得しました。これは、ジェイコムの発行済み株式数1万4,500株の**約49%**にあたる量です。
たった一人の個人投資家が、上場企業の発行済み株式の半分を取得する——これは、日本の証券市場史上、極めて異例の出来事でした。
2-4. その日のうちに1,100株を売り抜け
BNFさんは、その日のうちに1,100株を市場で売り抜けています。
「77万2千円で1,100株を売り」
寄り付き予想価格67万円を大幅に上回る77万2千円で売却できたわけです。
この時点で、すでに数億円の利益が確定しています。
2-5. 残り6,000株は現金決済
問題は、残りの6,000株でした。
ジェイコムは発行済み株式数を超える注文を約定させてしまったため、現物の引き渡しができません。
東証は、誤発注で生まれた「物理的に存在しない株」については、「現金決済」で処理することを決定しました。決済価格は1株あたり91万2,000円。
「残る6,000株(発行済み株式の41.38%)を現金決済(20億3,500万円)」
6,000株 × 91万2,000円 = 約54億7,200万円
ここから取得コスト(57万2,000円のストップ安価格付近で買ったとすると、6,000株 × 57万2,000円 = 約34億3,200万円)を引くと、約20億3,500万円の利益となります。
これに、当日売却した1,100株の利益を加えて、わずか1日で約20〜22億円の利益を上げたのです。
2-6. なぜBNFさんは「誤発注」と判断できたのか
ここで、私たちが学ぶべき最大のポイントがあります。
なぜBNFさんは、瞬時に「これは誤発注だ」と判断できたのか。
考えられる理由はいくつかあります。
理由1:発行済み株式数の異常な売り注文
発行済み株式数1万4,500株の42倍にあたる売り注文が出ているということは、物理的に不可能な状況です。これは、誰かのミス以外には説明がつきません。
理由2:ストップ安にいきなり張り付いた
新規上場銘柄が、寄り付き直後にいきなりストップ安に張り付くというのは、通常ありえません。何かが起きたサインです。
理由3:2ちゃんねるからの情報
事件発生から数分後には、2ちゃんねるで「これは誤発注だ」という指摘が飛び交っていました。BNFさんは常にこうした掲示板を見ているため、リアルタイムで情報を得ていました。
理由4:膨大な相場経験
「異常な動き」を見抜く相場勘は、何百もの銘柄を毎日眺めてきた経験から養われたものです。
これらすべてが組み合わさって、彼は「これは買いのチャンスだ」と判断できたのです。
2-7. 「冷静さ」という最大の武器
BNFさん自身は、当時の心境をこう語っています。
「いつもと変わらず冷静だった」
普通の投資家なら、10分で20億円の含み益が出れば、興奮で手が震えるはずです。
しかしBNFさんは、それを「いつも通り」と表現しました。
これは、彼が普段からこのレベルの取引をしていたことを示しています。1日で数億円を動かすのは、彼にとって日常だったのです。
2-8. 当時の資産規模——「誤発注で巨万の富」ではない
世間では、「無職の青年がジェイコム事件で20億円儲けた」と報じられました。
しかし、これは大きな誤解です。
ジェイコム事件の時点で、BNFさんはすでに資産80億円程度を保有していたといわれています。
つまり、「誤発注でいきなり20億円持ちになった」のではなく、「すでに80億円持っていた天才トレーダーが、誤発注で20億円を上乗せした」というのが正確な姿です。
これは、極めて重要なポイントです。
なぜなら、ジェイコム事件で20億円の利益を上げるには、瞬時に約34億円のポジションを取れる資金力が必要だったからです。
仮にBNFさんが資産1,000万円しか持っていなかったら、ジェイコム事件で得られた利益は数十万円〜数百万円程度だったでしょう。
「準備していた者だけが、千載一遇のチャンスをモノにできる」——この事件は、そのことを最も鮮烈に示すエピソードです。
2-9. 利益返還問題と「不当利得」議論
ジェイコム事件で、BNFさんを含む利益を得た投資家たちには、社会的な批判もありました。
「みずほ証券のミスにつけ込んで巨額利益を上げるのは道義的に問題だ」「不当利得ではないか」という声が上がったのです。
実際、一部の証券会社は、顧客名義で得た利益を自主的に返還しました。
しかし、BNFさんを含む個人投資家には、法的な返還義務はありませんでした。市場のルールに従って取引した以上、その利益は合法的なものです。
BNFさんも、利益を返還することはしませんでした。
これに対して、当時の経済産業事務次官・北畑隆生さんが「デイトレーダーは社会の役に立っていない」という趣旨の発言をしたこともあります。
しかし、BNFさんは冷静にこう答えています。
「批判には慣れているので『またか』という印象です」
2-10. ジェイコム銘柄の「その後」
ジェイコム株は、その後、上場廃止こそされませんでしたが、市場の混乱が続きました。
2012年に、社名を「ジェイコムホールディングス」に変更。さらに2015年には「ライク株式会社」に再変更しています。
現在も東証スタンダード市場に上場しており、人材派遣業を中心に事業を継続しています(証券コードは4264に変更)。
ただ、ジェイコム事件の知名度ばかりが先行してしまい、企業としては「事件の会社」というイメージを払拭するのに長い時間がかかりました。
なお、BNFさんは、ジェイコム事件以降、この銘柄を継続して保有することはしませんでした。短期売買派の彼にとって、この銘柄に「思い入れ」を持つ理由はなかったのです。
2-11. ジェイコム銘柄から学べること
ジェイコム事件は、極めて特殊なイベントでした。同じことが再び起こる可能性は、システムの改善により、ほぼゼロに近いでしょう。
しかし、この事件から学べる教訓は普遍的です。
教訓1:「常に準備している者」だけがチャンスを掴める
BNFさんは、毎日相場を見続けて、いつでも資金を投入できる状態を作っていました。だから、突然の機会にも対応できたのです。
教訓2:「群衆と逆方向」に動く勇気
ストップ安で買うのは、普通の人には恐怖です。しかし、群衆と逆方向に動けた人だけが、大きな利益を得ました。
教訓3:「情報の質」が利益を決める
2ちゃんねるで「誤発注だ」という情報を得られたかどうか、市場の異常性を見抜けたかどうか——情報の質が、その後の判断を大きく左右しました。
これらは、現代の相場でも応用できる、重要な教訓です。
次の章では、ジェイコム事件直後のBNFさんが、どんな銘柄を買っていたのかを見ていきます。
第3章 2005〜2006年・ジェイコム事件直後の銘柄群——ディー・エヌ・エー、アセットマネジャーズ
3-1. 2005年春の30億円から、冬には80億円へ
BNFさんは、ジェイコム事件の前から急速に資産を増やしていました。
「05年春の30億円が冬には80億円と、いつの間にか増えていた。そこへジェイコムがあって、100億円になった」
2005年の春から冬にかけて、約半年で30億円から80億円へ——資産2.5倍以上の急成長です。
このときBNFさんが何をしていたかというと、当時の上昇相場に乗った「順張り」でした。
「大型株って、普通はそんなに動かないものなんです。ところが、05年夏以降、あり得ないほど急騰した。住友金属工業なんて1ヵ月半で200円から400円へと倍になっちゃった。流れに乗っかってれば儲かったんですね」
2005年は、小泉政権による郵政民営化選挙の影響で、株式市場が活況に沸いた年です。日経平均株価も大きく上昇しました。
特に大型株、それも素材株(住友金属、新日本製鐵)、金融株(メガバンク、保険)、不動産株などが軒並み上昇しました。
3-2. 住友金属工業——順張りの代表銘柄
住友金属工業(旧証券コード5405、現・日本製鉄)は、日本の鉄鋼業を代表する企業の一つです(現在は新日鐵住金として統合)。
BNFさんが言及した「1ヶ月半で200円から400円へ倍になった」というのは、2005年夏の急騰のことを指しています。
これは、極めて稀な値動きでした。大型株(時価総額数兆円規模)が、たった1ヶ月半で2倍になるというのは、通常では考えられないことです。
しかし、この時期は中国の鉄鋼需要が爆発的に伸びていたため、世界的に鉄鋼株が急騰していました。
BNFさんは、この流れに気づき、住友金属工業を含む鉄鋼セクターの主力銘柄を順張りで買っていました。
ただし、彼は住友金属工業を「大株主として保有」したことはありません。なぜなら、彼の取引は数日〜数週間のスイングだからです。決算期末を跨いで保有していなければ、大株主リストには載りません。
3-3. ディー・エヌ・エー(2432)——上場2週間後の保有
BNFさんの保有銘柄として記録に残っている中で、最も初期のものの一つが、**ディー・エヌ・エー(DeNA、証券コード2432)**です。
DeNAといえば、現在では「モバゲー」「Pococha」「横浜DeNAベイスターズ」を運営する大手IT企業として知られています。
DeNAは2005年2月17日に東証マザーズへ新規上場しました。
BNFさんは、上場後わずか2週間(2005年3月2日時点)で、DeNAの株式を保有していたとされています。
これは、本人のインタビューや、後の解説サイトで明らかになっている情報です。
「ディー・エヌ・エー(2432)なんかは、BNFさんが保有していた2週間前に上場したばかりだった」
なぜBNFさんはDeNAに目をつけたのか。
考えられる理由は、以下の通りです:
- IPO直後の値動きの激しさ:新規上場銘柄は、需給だけで大きく動く
- 当時のITブームへの乗っかり:2005年は再びITバブル的な動きがあった
- 小型株としての高い上昇余地:当時のDeNAは時価総額が小さく、上昇余力が大きかった
DeNAは、その後、モバゲーが大ヒットし、株価は何倍にも跳ね上がっていきます。BNFさんが上場直後から目をつけていたのは、まさに「先見の明」と言えるでしょう。
3-4. アセットマネジャーズ(証券コード2337)——37%乖離での買い
BNFさんが2006年2月に保有していた銘柄として、アセットマネジャーズがあります。
「BNF氏が2006年2月にアセットマネジャーズの株を買ったとき、その乖離率は37%に達していました」
アセットマネジャーズは、不動産ファンドの運営などを手掛けていた会社です(後にアセットマネジメント・グループとなり、現在は社名変更や統合を経ています)。
注目すべきは、買い付け時の「25日移動平均乖離率が37%」という数値です。
これは、25日移動平均線から株価が37%も下落していた、ということを意味します。通常の銘柄では考えられないほどの「下げすぎ」です。
BNFさんは、まさにこの「下げすぎ」を狙って、逆張りで買っていたのです。
なぜ37%もの乖離が発生していたのか。当時、ライブドアショック(2006年1月)が起き、新興市場が全面的に売られていました。アセットマネジャーズも、その煽りで急落していたのです。
BNFさんは、この「市場全体のパニック」による下げすぎを冷静に判断し、買い向かいました。
3-5. ガーラ、タカトリ、サイステップ——倍増銘柄たち
BNFさんが、出来高ランキングや乖離率ランキングから選んだ銘柄として、以下のような名前も挙がっています。
ガーラ(証券コード4777):オンラインゲーム関連。当時のITブームで株価が3倍以上に。
タカトリ(証券コード6338):半導体製造装置メーカー。2倍株。
サイステップ:ITサービス企業(後に統合・社名変更)。2倍株。
これらは、いずれも当時の新興市場で短期間に大きく値上がりした銘柄です。
BNFさんがこれらの銘柄をすべて長期保有していたわけではなく、おそらく「短期で利益を出して売る」を繰り返していたと思われます。
3-6. ジェイコム事件直後の取引パターン
ジェイコム事件で20億円の利益を上げた後、BNFさんは取引スタイルを大きく変えませんでした。
「ジェイコム事件で20億円儲けたって、自分のスタイルが変わるわけじゃない。明日からも、また淡々と取引するだけです」
このような発言(趣旨)を、いくつかのインタビューでしています。
つまり、「ジェイコム事件は特殊なイベントだったが、自分の本業はあくまで日々のスイングトレードだ」という認識だったのです。
3-7. 2006年の相場環境とBNFさんの対応
2006年は、株式市場にとって波乱の年でした。
1月:ライブドアショック。ライブドアの強制捜査により、新興市場が大暴落。 春以降:株価は回復するが、ボラティリティは高い状態が続く。
BNFさんは、こうした波乱相場でも、年間を通じて大きな損失を出すことなく、淡々と取引を続けていました。
特に、ライブドアショック後の新興市場の下げすぎを狙った逆張りで、大きな利益を上げたと推測されます。
3-8. 「IPO直後の銘柄」を好む傾向
BNFさんの保有銘柄を見ると、IPO(新規上場)直後の銘柄を好む傾向があることが分かります。
- ディー・エヌ・エー(2005年上場、2005年3月時点で保有)
- その他の新興市場の小型株を多数保有
なぜか。
IPO直後の銘柄は、以下の特徴があります:
- 値動きが激しい:機関投資家の保有がまだ少ないため、需給で大きく動く
- 流動性が高い:上場直後は出来高が多い
- テクニカル指標がリセットされている:過去のチャートがないため、独自の値動きをする
これらは、BNFさんの取引スタイルにマッチしています。
3-9. 「大型株への移行」の兆し
ただし、この時期から、BNFさんは徐々に「大型株へのシフト」を始めていました。
「だから手法は順張りに変わったし、銘柄も何十億円入れてもビクともしない大型株に変わった。出来高の少ない銘柄はもう監視してません」
2005〜2006年は、ちょうどこの転換期にあたります。
資産が30億円〜100億円規模に膨らむにつれて、小型株では物理的に大きなポジションが取れなくなっていました。
そのため、住友金属工業のような大型株、あるいは流動性の高い中型株へと、徐々にシフトしていったのです。
3-10. この時期の銘柄群が教えてくれること
2005〜2006年のBNFさんの銘柄群を見ると、以下のことが分かります:
1. 業種を絞っていない 鉄鋼、IT、金融、不動産関連——業種は様々。値動きが大きい銘柄なら何でも買う。
2. 規模も柔軟 時価総額数千億円の大型株から、新興市場の小型株まで、相場環境に応じて柔軟に使い分け。
3. 短期で売買を繰り返す 特定銘柄に「思い入れ」を持たず、利益が出たら淡々と売却。
これは、BNFさんの「相場に思いを込めない」哲学の表れです。
次の章では、いよいよBNFさんが「個人筆頭株主」として有名になる、2009年のオリックスの大量保有について見ていきます。
第4章 2009年・オリックス(8591)——「個人筆頭株主」になった衝撃
4-1. オリックスの大株主名簿に「小手川隆」の名前
2009年6月、日本の個人投資家界に衝撃が走りました。
オリックス株式会社(証券コード8591)の「第46回定時株主総会招集通知」が、株主に発送されたのですが、その「大株主の状況」欄に、「小手川隆」という名前が記載されていたのです。
しかも、第9位の大株主。持株数は107万株、議決権比率で1.19%。時価総額にして約60億円(2009年6月4日終値ベース)の保有でした。
これは、信託銀行や外資系投資銀行を除けば、みずほ銀行、日本生命に次ぐ第3位という、極めて大きな保有規模です。
そして、何より衝撃的だったのは、これが「個人投資家」だったということ。
オリックスの個人株主は約3万人いましたが、その3万人が保有する全株式の3分の1を、たった1人の個人(小手川隆さん)が占めていたのです。
4-2. オリックスとはどんな会社か
オリックスは、日本を代表する総合金融サービス企業です。
- 創業:1964年
- 事業内容:リース、銀行、保険、不動産、海外事業など多角化
- 時価総額:当時で約5兆円規模
事業の多角化が進んでおり、「日本のバークシャー・ハサウェイ」とも呼ばれる、安定した収益基盤を持つ企業です。
しかし、2008年のリーマンショック以降、金融セクター全体が大きく売られ、オリックスの株価も大幅に下落していました。
2007年に1万円台後半だった株価は、2008年〜2009年にかけて3,000円台まで暴落(株式分割前ベース)。約4分の1まで下げていました。
4-3. BNFさんはなぜオリックスを買ったのか
これは、極めて典型的な「BNF流の逆張り」です。
リーマンショック後、金融セクターは「もう終わりだ」という悲観が支配していました。
しかしBNFさんは、
- オリックスは事業多角化で安定している
- 株価が4分の1まで暴落しており、明らかに売られすぎ
- 大型株であり、流動性も十分
という理由から、大量に買い向かったと推測されます。
4-4. 107万株の取得時期
オリックスの株主総会招集通知に記載されたのは、2009年3月末時点の保有状況です。
これは、2008年下半期から2009年3月にかけて、BNFさんが買い集めたことを示しています。
「昨年上半期までの有価証券報告書には名前がない事から、昨年10月から今年3月の間に購入したことになる」(ZAKZAK 2009/06/05より)
2008年10月といえば、リーマンショック直後で、株式市場が大暴落していた時期です。
つまり、BNFさんは「市場が最も悲観に支配されていた時期」に、オリックス株を買っていたのです。
これは、まさに「皆が悲観しているときに買う」という、王道の逆張り戦略です。
4-5. 含み益はどれくらいだったのか
2009年6月の時点で、オリックス株価は1株あたり5,600円前後(株式分割前ベース)。
BNFさんが2008年10月〜2009年3月の安値圏で買ったとすれば、平均取得価格は3,000円台と推測されます。
仮に平均取得価格を3,500円とすると、
- 保有数:107万株
- 取得価格:3,500円 × 107万株 = 約37億4,500万円
- 評価額(2009年6月時点):5,600円 × 107万株 = 約59億9,200万円
- 含み益:約22億4,700万円
数ヶ月で20億円以上の含み益——これは、リーマンショック後の暴落から立ち直る「リバウンド」を狙った、見事な逆張りだったといえます。
4-6. なぜ大株主リストに載ったのか
ここで一つ、興味深い疑問があります。
BNFさんは普段、短期売買中心なので、大株主リストに名前を載せないはずです。
なぜ、オリックスは例外だったのか。
これは推測ですが、以下の理由が考えられます:
理由1:保有期間が長くなった
リーマンショック後の暴落で買った株を、リバウンドを待つ間に、決算期末(3月末)を跨いでしまった。
理由2:銘柄数を絞っていた
リーマンショック後の暴落相場では、銘柄を絞って大きく張る戦略が有効だった。
理由3:60億円規模のポジション
これだけのポジションを取れる銘柄は、大型株に限られる。
4-7. その後のオリックス株の動き
オリックス株は、リーマンショック後、徐々に回復していきます。
2010年〜2012年にかけて、株価は5,000円〜7,000円程度のレンジで推移しました(株式分割前)。
2013年以降、アベノミクス相場で大幅に上昇し、株価は10,000円〜13,000円程度まで戻ります。
その後、2015年には株式分割(1株を10株に)を実施し、株価指標が変わりました。
BNFさんは、おそらく途中で利益確定し、別の銘柄にシフトしていったと思われます。
4-8. 「個人筆頭株主」という記録
BNFさんがオリックスの「個人筆頭株主」だったという記録は、日本の個人投資家史において、極めて重要な意味を持ちます。
なぜなら、これまで「個人投資家は機関投資家には勝てない」というのが常識だったからです。
しかし、BNFさんは、たった一人で、信託銀行や生命保険会社と肩を並べる規模の保有を成立させました。
これは、
- 個人投資家でも、機関投資家レベルのポジションを取ることが可能
- 流動性の高い大型株なら、個人でも巨額の取引ができる
- 機動力では、個人のほうが有利な場合がある
ということを、実証的に示したのです。
4-9. 北尾吉孝さんとの対談
オリックスの大株主として名前が出る前後、BNFさんはSBIホールディングスの北尾吉孝CEOと対談しています。
この対談の中で、北尾さんは「孫正義さんがBNFさんに資産運用を依頼した」というエピソードを明らかにしています。
つまり、BNFさんは、すでに2008〜2009年頃には、日本の金融業界のトップクラスの人物たちから「天才」として認知されていたのです。
ちなみに、孫正義さんからの依頼を、BNFさんは「他人の金の世話はしたくない」と断っています。
4-10. オリックスの保有から見える「BNFの転換」
BNFさんのオリックス保有は、彼の投資スタイルが「短期スイング中心」から、「中期保有も含めた多面戦略」へと変化していた証拠とも言えます。
実際、2009年以降のBNFさんは、以下のような特徴を見せ始めます:
- 大型株への投資:流動性の高い大型株を主戦場に
- 中期保有の活用:決算期末を跨いで保有する銘柄が増える
- 不動産投資の本格化:2008年に「チョムチョム秋葉原」を購入
- 分散投資:銘柄数を増やし、リスクを分散
つまり、200億円規模の資産になると、もはや「純粋なスイングトレード」だけでは運用できなくなり、戦略の多様化が必要になったのです。
オリックスの保有は、その転換の象徴的な出来事でした。
4-11. 個人投資家がここから学ぶこと
BNFさんのオリックス保有から、私たちが学べる教訓は明確です。
教訓1:暴落時こそチャンス
リーマンショックで皆が逃げ出していたとき、BNFさんは買い向かっていました。「皆が売っているときに買う」という勇気が、20億円超の含み益を生んだのです。
教訓2:大型株でも大きく勝てる
小型株のテンバガー(10倍株)を狙わなくても、大型株のリバウンドだけで、十分大きな利益が出ます。
教訓3:個人にもチャンスはある
機関投資家は、組織の制約や規制で、ベストタイミングで動けないことが多いです。個人投資家のほうが、機動的に動けるため、暴落時に有利な場合があります。
次の章では、BNFさんが2010年に保有していた様々な銘柄群——JVCケンウッド、ジャノメミシン、JUKIなど——について見ていきます。
第5章 2010年・JVCケンウッド、ジャノメ、JUKIなど——「縁の下の力持ち」銘柄群
5-1. 2010年は「中型メーカー」の年
2010年のBNFさんの保有銘柄リストを見ると、ある共通点が見えてきます。
それは、**「日本の伝統的な中型メーカー」**が多いことです。
公開情報で確認できる主な保有銘柄:
| 銘柄名 | 証券コード | 業種 | 保有比率 |
|---|---|---|---|
| JVCケンウッド | 6632 | 電機 | 5.48% |
| 兼松 | 8020 | 商社 | 1.22% |
| 河合楽器製作所 | 7952 | 楽器 | 2.69% |
| ジャノメミシン工業 | 6445 | ミシン | 1.6% |
| JUKI | 6440 | ミシン | 4.2% |
| リサ・パートナーズ | – | 不動産 | 2.1% |
これらの銘柄群、現代の若い投資家には馴染みが薄いかもしれません。しかし、いずれも日本の高度経済成長期を支えてきた、由緒ある中堅企業ばかりです。
5-2. JVCケンウッド(6632)——5.48%の大量保有
JVCケンウッドは、2008年にビクター(日本ビクター)とケンウッドが経営統合してできた電機メーカーです。
カーオーディオ、カーナビ、業務用無線機、プロ用音響機器、ホームエレクトロニクスなど、幅広い事業を展開しています。
BNFさんの保有比率は5.48%。これは大量保有報告書の提出義務が発生する5%を超えており、大量保有報告書の公開によって、保有が明らかになりました。
なぜJVCケンウッドだったのか。
考えられる理由:
- 経営統合直後の混乱期:2008年の統合から間もない時期で、株価が大きく揺れていた
- リーマンショックの影響:電機セクター全体が暴落していた
- 事業再編による収益改善期待:経営統合のシナジーによる業績回復の可能性
これらの要素が組み合わさり、「割安に放置されている」と判断したのではないかと推測されます。
5-3. ジャノメミシン工業(6445)とJUKI(6440)——ミシン業界の二大老舗
ジャノメミシン工業(現・ジャノメ)とJUKIは、日本のミシン業界を代表する二大老舗です。
- ジャノメミシン工業:家庭用ミシンの老舗。1921年創業
- JUKI:工業用ミシンの世界トップシェア。1938年創業
両社とも、戦後の日本の高度経済成長期に大きく成長しましたが、近年は中国メーカーとの競争激化や、繊維産業全体の縮小により、経営が厳しい時期を経験しています。
BNFさんは、ジャノメミシン工業を1.6%、JUKIを4.2%保有していました。
なぜミシン業界の銘柄を選んだのか。
これは、典型的な「シクリカル銘柄(景気循環株)」への投資です。
ミシン業界は、世界経済の景気変動に大きく影響を受けます。リーマンショック後、繊維産業全体が縮小し、両社の業績は大きく落ち込みました。
しかし、景気が回復すれば業績も戻ります。BNFさんは、このリバウンドを狙ったと推測されます。
5-4. 河合楽器製作所(7952)——日本の楽器業界
河合楽器製作所は、日本を代表するピアノメーカーです。
ヤマハと並んで、日本の楽器業界を支える老舗企業です。
BNFさんは2.69%保有していました。
楽器業界も、景気変動の影響を受けやすいセクターです。少子化や教育費の圧迫により、ピアノの販売台数は長期的に減少傾向にあります。
しかし、海外市場(特に中国)の成長や、ハイエンドピアノの根強い需要により、業績は安定しています。
BNFさんが河合楽器を選んだのは、
- 景気回復による業績期待
- 流動性のある中型株
- リーマンショック後の下落からのリバウンド
といった理由が考えられます。
5-5. 兼松(8020)——商社株
兼松は、日本の中堅商社です。創業1889年と、日本でも最古参の商社の一つです。
電子・デバイス、食料、鉄鋼、エネルギーなど、幅広い事業を展開しています。
BNFさんは1.22%保有していました。
商社株は、資源価格や為替の影響を受けやすく、ボラティリティが高い傾向があります。
リーマンショック後、商社株は大きく売られましたが、2010年頃から徐々に回復していきました。
BNFさんは、このリバウンドを狙ったと推測されます。
5-6. リサ・パートナーズ——不動産関連
リサ・パートナーズは、不動産投資、再生事業、運用などを手掛けていた企業です。
BNFさんは2.1%保有していました。
不動産セクターも、リーマンショックで大きな打撃を受けました。多くの不動産会社が経営危機に陥り、株価は暴落していました。
BNFさん自身が、この時期に「チョムチョム秋葉原」を購入するなど、不動産投資に進出していました。
リサ・パートナーズの保有は、その文脈での「業種研究」の一環だった可能性もあります。
5-7. 2010年の銘柄群に共通する特徴
2010年のBNFさんの保有銘柄を見ると、ある共通点が浮かび上がります。
1. リーマンショックで大きく売られた銘柄
JVCケンウッド、ジャノメ、JUKI、河合楽器、兼松、リサ・パートナーズ——すべてが、リーマンショックで大幅に下落していた銘柄です。
2. 業績変動の大きいシクリカル銘柄
電機、機械、商社、楽器、不動産——いずれも、景気循環の影響を強く受ける業種です。
3. 中型〜大型株
新興市場の小型株ではなく、東証一部上場の中型〜大型株が中心です。
4. 「老舗・伝統企業」
JVC、ジャノメ、JUKI、河合楽器、兼松——いずれも、創業数十年〜百年超の老舗企業です。
これらの特徴をまとめると、**「リーマンショックで売られすぎた日本の伝統的中型企業を、リバウンド狙いで買う」**という、明確な戦略が見えてきます。
5-8. 「景気循環株」のポートフォリオ
BNFさんの2010年のポートフォリオは、「景気循環株のバスケット」と捉えることもできます。
世界経済が回復すれば、これらの銘柄は軒並み上昇します。逆に、景気が悪化すれば、揃って下落します。
これは、ある意味で「分散効果が低い」ポートフォリオです。なぜなら、すべての銘柄が「景気回復」という同じテーマで動くからです。
しかし、BNFさんは、これを意図的に選んだはずです。なぜなら、
- リーマンショック後の世界経済は、明らかに底打ちしていた
- 中央銀行の金融緩和により、景気回復は確実視されていた
- ならば、最も売られすぎた銘柄群を買うのが、リターン最大化の戦略
という判断があったからです。
5-9. 大量保有報告書の提出義務
ここで、大量保有報告書について少し説明します。
日本では、上場企業の発行済み株式の5%以上を取得した場合、5営業日以内に「大量保有報告書」を金融庁に提出する義務があります。
これは、「5%ルール」と呼ばれる制度で、市場の透明性を確保するためのものです。
BNFさんは、JVCケンウッドで5.48%を保有しており、これは大量保有報告書の対象となっています。
つまり、BNFさんは、自分の保有が公開されることを承知の上で、それでも5%超のポジションを取ったということです。
これは、彼の自信の表れでもあります。「公開されても、特に問題ない」と判断したわけです。
5-10. 「不人気の老舗」への投資哲学
BNFさんの2010年の銘柄選びを見ると、彼が「市場で不人気の老舗企業」を好む傾向が見えてきます。
なぜでしょうか。
私の解釈ですが、これは「割安バイアス」と「リバウンド期待」の組み合わせです。
- 割安バイアス:不人気だから株価が下げすぎている
- リバウンド期待:景気が回復すれば、不人気が解消され、株価も戻る
このパターンは、バリュー投資にも近い発想ですが、BNFさんはPERやPBRといった指標を見ません。代わりに、「チャート上の下げすぎ」を見ています。
ファンダメンタル分析を介さずに、テクニカルだけで「割安」を判断する——これが、BNFさんの独特なスタイルです。
5-11. ここから学べる教訓
2010年のBNFさんの銘柄群から、私たちが学べる教訓は以下の通りです。
教訓1:暴落後の「老舗企業」は宝の山
リーマンショックのような大暴落の後は、優良企業も売られすぎます。そこに着目すれば、大きな利益が狙えます。
教訓2:業種・時価総額に縛られない
電機、商社、機械、不動産——業種にこだわらず、相場環境に応じて柔軟に選ぶ。
教訓3:「不人気」こそチャンス
市場が嫌っている銘柄ほど、株価は安く、リバウンド余地が大きい。
次の章では、2012年のBNFさんの大型ベット——川崎汽船への投資——について見ていきます。
第6章 2012年・川崎汽船(9107)——海運業への大型ベット
6-1. 45億円分の保有
2012年、BNFさんの保有銘柄として確認されたのが、**川崎汽船(証券コード9107、現・川崎汽船)**です。
保有比率は3.2%、評価額は約45億円規模だったとされています。
個別銘柄に45億円——これは、彼の総資産(当時200億円超)の20%以上にあたる、極めて大きなポジションです。
6-2. 川崎汽船とはどんな会社か
川崎汽船は、日本郵船、商船三井と並ぶ、日本の「海運三社」の一つです。
- 創業:1919年
- 事業内容:コンテナ船、ドライバルク船、自動車船、LNG船、油送船など
- 本社:東京都千代田区
世界の海運業界において、日本の三社は重要な位置を占めています。
6-3. 2012年の海運業界の状況
2012年、海運業界は厳しい状況にありました。
リーマンショックで世界経済が低迷したことに加え、中国を中心とした新興国経済の減速、欧州債務危機などにより、海運需要が大きく落ち込んでいました。
海運業界の景気指標である「バルチック海運指数(BDI)」も、リーマンショック前のピーク(2008年5月)の1万1,793ポイントから、2012年には700〜800ポイント程度まで急落していました。実に93%以上の下落です。
川崎汽船の業績も、当然厳しい状況でした。2012年3月期は400億円超の最終赤字、2013年3月期も赤字が続いていました。
株価も大きく下落しており、2008年の高値1,000円超から、2012年には100円前後まで暴落していました(株式分割を考慮)。約10分の1の水準です。
6-4. なぜBNFさんは川崎汽船を選んだのか
これは、極めて典型的な「BNF流の逆張り」です。
考えられる理由:
1. 業績が底打ちしつつあった
海運業界の悪材料は、ほぼ織り込み済み。これ以上悪化する余地は限定的でした。
2. 株価が「下げすぎ」だった
ピークから10分の1という水準は、明らかに売られすぎでした。
3. 配船動向に変化の兆し
海運市場では、船腹過剰が問題でしたが、2012年頃から新造船発注が抑制され、需給バランスが改善する兆しが見えていました。
4. 流動性のある大型株
川崎汽船は東証一部上場で、流動性は十分でした。
6-5. 海運株のボラティリティ
海運株は、ボラティリティが極めて高いセクターです。
景気の影響を直接受け、業績変動が大きいため、株価も大きく動きます。
たとえば、2007年〜2008年の海運株は、年率100%以上のリターンを上げた時期がありました(ピーク時)。一方、リーマンショック後は半分以下に暴落しました。
このような「振れ幅の大きい」セクターは、BNFさん好みです。下げすぎを買って、リバウンドで利益を出すパターンが、最も機能しやすいのです。
6-6. 川崎汽船のその後
BNFさんが2012年に保有していた川崎汽船は、その後、どう動いたのでしょうか。
2013年以降、アベノミクスによる円安と世界経済の回復で、海運業界は徐々に回復。川崎汽船の株価も、200円〜300円台まで上昇しました。
しかし、本格的な業績回復は2020年以降のことになります。
特に2021年〜2022年は、コロナ禍によるサプライチェーン混乱と、世界的なコンテナ船需要の急増により、海運業界は史上空前の好決算を達成。川崎汽船の株価は、一時5,000円台まで暴騰しました。
ただし、BNFさんが川崎汽船を2020年代まで保有していたかどうかは不明です。彼の取引スタイルからすると、おそらく2013〜2014年頃には利益確定していたと思われます。
6-7. 海運株への大型ベットから学べること
BNFさんの川崎汽船への投資は、いくつか重要な教訓を提供してくれます。
教訓1:「最悪期」こそ最大の買い場
業績が最悪で、皆が「もう終わりだ」と言っているときが、最大の買い場であることが多い。
教訓2:景気循環株は「サイクル」を読む
海運株のようなシクリカル銘柄は、業績ピーク時に売り、業績ボトム時に買うのが基本。
教訓3:「不人気業種」に妙味がある
人気業種(IT、医薬品、半導体など)は、すでに高値圏にあることが多い。逆に、不人気業種(海運、鉄鋼、商社など)に妙味があることも多い。
6-8. 海運株とBNFさんの戦略
BNFさんの海運株への投資は、彼の哲学を象徴する取引の一つです。
「市場が悲観しているときに買う」「業績の底打ちを察知する」「流動性のある大型株を選ぶ」——すべての要素が、見事に組み合わさっています。
しかも、45億円という大型ポジションを取る勇気。これは、彼の自信の表れであると同時に、リスク許容度の高さを示しています。
普通の個人投資家には、なかなか真似できない取引ですが、その「考え方」は十分に参考になります。
次の章では、2013年の銘柄群——イビデン、ファルテック、東京電力債——について見ていきます。
第7章 2013年・イビデン(4062)、ファルテック(7215)、東京電力債
7-1. 2013年のアベノミクス相場
2013年は、日本の株式市場にとって、歴史的な転換点となった年です。
2012年12月の安倍政権誕生をきっかけに、「アベノミクス」と呼ばれる大規模な金融緩和政策が始まりました。
日銀の異次元緩和、円安進行、株価上昇——これらが一気に進み、日経平均株価は2013年だけで57%も上昇しました。
この相場の中で、BNFさんが保有していた銘柄として確認されているのが、イビデン、ファルテック、そして東京電力債です。
7-2. イビデン(4062)——半導体パッケージの世界トップ
イビデンは、半導体パッケージ基板の世界トップシェアを誇る、岐阜県大垣市の老舗企業です。
- 創業:1912年
- 事業内容:プリント配線板、ICパッケージ基板、セラミック製品、特殊建材
- 本社:岐阜県大垣市
特に、iPhoneなどのスマートフォン向けICパッケージ基板で、世界トップクラスのシェアを持っています。
BNFさんの保有比率は**1.6%**でした。
7-3. なぜイビデンだったのか
2013年当時、イビデンは複雑な状況にありました。
- スマートフォン市場の急成長で、需要は旺盛
- しかし、価格競争の激化で、利益率は低下傾向
- 株価は乱高下していた
BNFさんは、おそらく、この「ボラティリティの高さ」に着目したと推測されます。
また、円安進行による輸出企業の業績改善期待もありました。イビデンは海外売上比率が高く、円安メリットを享受する企業の典型でした。
7-4. ファルテック(7215)——自動車部品メーカー
ファルテック(旧・赤坂機材)は、自動車用樹脂部品、エンジン部品などを製造するメーカーです。
- 創業:1947年
- 事業内容:自動車外装部品、機能部品、エンジン部品
- 本社:神奈川県横浜市
BNFさんは、2013年に4.4%、2014年に3.44%、2015年に2.28%、2016年に2.2%、2017年に**2.26%**と、複数年にわたってファルテック株を保有していました。
これは、彼の保有銘柄としては珍しい「長期保有」のパターンです。
なぜ、ファルテックを長期保有したのか。
考えられる理由:
- 自動車セクターの長期成長期待:アベノミクスによる円安で、自動車メーカーが大幅に増益
- 小型株としての値動きの良さ:ボラティリティが高く、デイトレ・スイングしやすい
- 「監視銘柄」として常に意識:BNFさんの監視銘柄リストに常駐していた可能性
ファルテックは、典型的な「BNFが好む銘柄」です。中型メーカー、ボラティリティが高く、流動性もそこそこある。
7-5. 東京電力債——40億円の社債投資
2013年、BNFさんは東京電力債を40億円分保有していたと報じられています。
これは、株式ではなく社債への投資です。
東京電力は、2011年3月の福島第一原発事故で経営危機に陥り、社債の格付けが大幅に引き下げられました。
しかし、政府が事実上の救済策を打ち出していたため、「最終的に元本割れする可能性は低い」と判断する投資家も多くいました。
BNFさんは、おそらく以下の理由で東京電力債を買ったと推測されます:
理由1:高い利回り
経営危機により、東京電力債の利回りは大幅に上昇していました。通常の社債利回りより、はるかに高い利回りが得られる状況でした。
理由2:政府救済の確実性
電力会社は、国民生活インフラを担う企業です。政府が破綻させる可能性は極めて低い。
理由3:株式相場のヘッジ
株式投資のリスクヘッジとして、債券を組み入れる。資産が大きくなった彼にとって、こうした「守り」の資産も必要でした。
7-6. 「皆が買わないもの」を買う
東京電力債は、当時、ほとんどの個人投資家にとっては「タブー」のような存在でした。
「原発事故を起こした企業に投資するのは道義的に問題」「いつ破綻するか分からない」など、多くの懸念がありました。
しかし、BNFさんは冷静にリスクとリターンを天秤にかけ、「買い」と判断しました。
これは、彼の典型的な「逆張り思考」です。
「相場に自分の思いは一切通用しない」
道義的にどうとか、感情的にどうとかは、相場では関係ない。「リスクとリターンが見合っているか」だけが重要——これが、BNFさんの徹底した姿勢です。
7-7. 2013年のポートフォリオ全体像
2013年のBNFさんのポートフォリオ(確認できる範囲):
- イビデン(4062):1.6%
- ファルテック(7215):4.4%
- 東京電力債:40億円分
- その他、短期売買の銘柄多数
これは、「成長企業」「中型メーカー」「債券」というバランスの取れた構成です。
アベノミクス相場の恩恵を受けつつ、債券で守りも固める——資産200億円超の投資家らしい、洗練されたポートフォリオです。
7-8. アベノミクス相場での資産増加
2013年のアベノミクス相場で、BNFさんの資産はさらに大きく膨らんだとされています。
具体的な数字は公表されていませんが、複数のメディアの推測では、
- 2012年末:約200億円
- 2013年末:約300億円〜400億円
と言われています。
つまり、たった1年で100億円〜200億円の増加。これは、アベノミクス相場の追い風と、BNFさんの的確な銘柄選びが組み合わさった結果です。
第8章 2014年・小型株祭り——ブロッコリー、VOYAGEグループ、リボミックなど
8-1. 2014年——12銘柄が記録された年
2014年は、BNFさんの保有銘柄が「過去最多」レベルで記録された年です。
公開情報で確認できる主な保有銘柄:
| 銘柄名 | 証券コード | 業種 | 保有比率 |
|---|---|---|---|
| ファルテック | 7215 | 自動車部品 | 3.44% |
| ブロッコリー | 2706 | エンタメ | 4.23% |
| VOYAGEグループ | 3688 | IT | 4.5% |
| DAコンソーシアム | – | 広告 | 2.03% |
| 日本アセットマーケティング | 8922 | 不動産 | 1.04% |
| デジタルメディアプロフェッショナル | 3652 | IT | 4.7% |
| リボミック | 4591 | バイオ | 1.64% |
| アプラスフィナンシャル | 8589 | ノンバンク | 0.13% |
| 大泉製作所 | 6618 | 電機 | 3.29% |
| ジバンネットホールディングス | 5836 | 不動産 | 0.83% |
| イメージ源 | – | IT | 3.1% |
| 原古山 | – | – | 2.57% |
これだけの銘柄を同時に保有していたわけではなく、年度内のどこかの時点で大株主リストに名前が載った銘柄群、ということになります。
8-2. ブロッコリー(2706)——コンテンツ事業
ブロッコリーは、トレーディングカードゲーム、アニメ、ゲームなどを手掛けるエンターテインメント企業です。
代表作には、「うたの☆プリンスさまっ♪」(ゲーム)などがあります。
BNFさんは4.23%を保有していました。
なぜブロッコリーだったのか。
2014年頃は、女性向けアイドルゲーム市場が急成長していた時期です。「うた☆プリ」も大ヒットしており、ブロッコリーの業績は急回復していました。
BNFさんは、おそらくこの「コンテンツビジネスの成長」に乗ったと推測されます。
8-3. VOYAGEグループ(3688)→ CARTA HOLDINGS
VOYAGEグループは、インターネット広告、メディア運営、決済サービスなどを手掛けるIT企業です。
2019年にサイバー・コミュニケーションズと統合し、「CARTA HOLDINGS」に社名変更しました。
BNFさんは2014年に4.5%、2015年に4.6%と、2年連続で大量保有していました。
VOYAGEグループは、当時、急成長中のスタートアップでした。広告事業を中心に、業績も右肩上がりでした。
BNFさんがVOYAGEを2年連続で大量保有したのは、彼にしては珍しい「成長株への長期投資」のパターンです。
8-4. デジタルメディアプロフェッショナル(3652)——半導体IPベンチャー
デジタルメディアプロフェッショナル(DMP)は、GPU(画像処理半導体)のIP(知的財産)を開発する技術ベンチャーです。
BNFさんは4.7%を保有していました。
2014年は、AI技術がブレイクし始める前夜の時期でした。GPU技術は、後にAI時代の主役となりますが、当時はまだそこまで注目されていませんでした。
BNFさんが、こうした「将来の技術」に早期から投資していたのは、興味深い事実です。
8-5. リボミック(4591)——バイオベンチャー
リボミックは、核酸医薬(アプタマー医薬)の研究開発を行うバイオベンチャーです。
BNFさんは1.64%を保有していました。
バイオベンチャーは、リスクが極めて高い投資対象です。臨床試験の結果次第で、株価が10倍にも、10分の1にもなります。
BNFさんが、こうしたリスクの高い銘柄に投資していたのは、おそらく「短期的な値動き」を狙ったものだと思われます。
8-6. アプラスフィナンシャル(8589)——ノンバンク
アプラスフィナンシャルは、クレジットカード、ローン、ファイナンス事業を手掛けるノンバンクです。
新生銀行グループの一員で、2014年に0.13%、2015年に0.14%、2016年に0.1%、2017年に0.15%と、複数年にわたって少額ながら保有していました。
ノンバンクは、典型的な景気循環株です。BNFさんは、ノンバンクセクター全体に注目していたようです。
8-7. 日本アセットマーケティング(8922)——不動産業
日本アセットマーケティングは、商業施設の運営、不動産管理を手掛ける企業です。
BNFさんは2014年に1.04%、2015年に1.88%、2016年に2.5%、2017年に2.38%と、徐々に保有比率を増やしていました。
これは、BNFさんが自身の不動産投資の知見を活かして、関連銘柄に投資していた可能性を示唆しています。
8-8. 2014年の銘柄群に共通する特徴
2014年のBNFさんの保有銘柄を見ると、いくつかの特徴が浮かび上がります。
1. 「中小型成長株」が多い
ブロッコリー、VOYAGE、DMP、リボミックなど、中小型の成長株が多く含まれています。
2. 業種の分散
エンタメ、IT、広告、不動産、ノンバンク、バイオなど、業種は多岐にわたります。
3. 保有比率は1〜5%程度
5%を超える大量保有は少なく、複数銘柄に分散している傾向。
これは、資産規模が大きくなった彼が、リスク分散を意識し始めた証拠とも言えます。
8-9. 「数撃ち戦略」の意義
2014年に12銘柄もの保有が確認されているのは、BNFさんが「分散投資」を本格化させた証拠です。
なぜ分散するのか。
理由は、
- 資産が大きくなった:一つの銘柄に集中すると、自分の売買で株価が動きすぎる
- 市場全体の上昇期待:アベノミクス相場で、多くの銘柄が上昇する
- テーマの分散:成長株、景気循環株、バイオなど、テーマを分けることでリスク分散
「100%当たる銘柄」を見つけるのは不可能です。しかし、「平均的にプラスになる確率の高い銘柄」を複数持つことで、ポートフォリオ全体のリターンを安定させられます。
これは、現代ポートフォリオ理論にも合致した、洗練された戦略です。
8-10. 「成長株への姿勢」
ここで興味深いのは、BNFさんが「成長株」にも積極的に投資していることです。
ブロッコリー、VOYAGEグループ、DMP、リボミック——いずれも、当時はまだ規模の小さい成長企業でした。
BNFさんは、こうした「将来性のある」企業にも、それなりに投資していたのです。
ただし、彼の保有スタイルは、おそらく「短期〜中期」だったと思われます。「100倍株を狙って10年保有する」という、ピーター・リンチ的なアプローチではなく、「成長テーマで値動きが活発な銘柄を、短期で売買する」というスタイルだったと推測されます。
第9章 2015〜2016年・ノンバンクと小型成長株——オリエントコーポレーション、ケイブなど
9-1. 2015年——ノンバンクへの注目開始
2015年のBNFさんの保有銘柄として確認されているのは、以下の通りです:
| 銘柄名 | 証券コード | 業種 | 保有比率 |
|---|---|---|---|
| オリエントコーポレーション | 8585 | ノンバンク | 1.23% |
| VOYAGEグループ | 3688 | IT | 4.6% |
| ファルテック | 7215 | 自動車部品 | 2.28% |
| 日本アセットマーケティング | 8922 | 不動産 | 1.88% |
| 綿半ホールディングス | 3199 | 小売 | 4.05% |
| アプラスフィナンシャル | 8589 | ノンバンク | 0.14% |
| ケイブ | 3760 | ゲーム | 4.95% |
特に注目すべきは、**オリエントコーポレーション(8585)**の保有が始まったことです。
9-2. オリエントコーポレーション(8585)——みずほ銀行系ノンバンク
オリエントコーポレーション(通称:オリコ)は、日本を代表するノンバンクの一つです。
- 創業:1954年
- 事業内容:個品割賦、クレジットカード、消費者金融、銀行保証
- 主要株主:みずほ銀行系(みずほ銀行、伊藤忠商事が主要株主)
クレジットカード「Orico Card」で広く知られており、JCBやVISAとも提携しています。
BNFさんは、
- 2015年:1.23%
- 2016年:1.4%
- 2017年:1.06%(1,975万株)
と、複数年にわたってオリコ株を保有していました。
9-3. なぜオリコだったのか
ノンバンクセクターは、2010年代半ばに、いくつかの大きな出来事がありました。
- 総量規制の影響からの回復:2010年の改正貸金業法(総量規制)で大打撃を受けた業界が、徐々に回復
- 金利低下の追い風:日銀のマイナス金利政策で、調達コストが低下
- キャッシュレス化の進展:クレジットカード決済の増加
オリコは、これらの追い風を受けて、業績が改善傾向にありました。
ただし、株価は2014年〜2015年にかけて下落していました。
BNFさんは、おそらく「業績は回復しているのに、株価が下げすぎ」と判断して、買い向かったと推測されます。
9-4. ケイブ(3760)——ゲーム会社
ケイブは、シューティングゲームを得意とするゲーム開発会社です。
代表作には、「怒首領蜂(どどんぱち)」シリーズなどがあります。
BNFさんは2015年に4.95%、2017年に4.85%(11万株)と、複数年にわたって保有していました。
5%ぎりぎりの保有——これは、大量保有報告書の提出義務を避けるための、巧妙な水準調整かもしれません。
9-5. 綿半ホールディングス(3199)——スーパーマーケット
綿半ホールディングスは、長野県を中心に「綿半ホームエイド」「綿半スーパーセンター」などを展開する小売企業です。
BNFさんは2015年に4.05%を保有していました。
地方の中堅小売企業——これも、BNFさんが好む「中型・中堅企業」のパターンに合致します。
9-6. 2016年——一蔵(6186)の登場
2016年のBNFさんの保有銘柄:
| 銘柄名 | 証券コード | 業種 | 保有比率 |
|---|---|---|---|
| オリエントコーポレーション | 8585 | ノンバンク | 1.4% |
| 日本アセットマーケティング | 8922 | 不動産 | 2.5% |
| ファルテック | 7215 | 自動車部品 | 2.2% |
| アプラスフィナンシャル | 8589 | ノンバンク | 0.1% |
| ベルシステム24 | 6183 | コールセンター | 0.9% |
| 一蔵 | 6186 | ブライダル | 4.5% |
新たに登場したのが、**一蔵(6186)とベルシステム24(6183)**です。
9-7. 一蔵(6186)——ブライダル・着物事業
一蔵は、ブライダル衣装のレンタル、着物の販売・レンタルを手掛ける企業です。
- 創業:1983年
- 事業内容:ブライダル衣装、和装事業、フォトスタジオ
少子化や結婚率の低下で、ブライダル業界は厳しい状況にありますが、一蔵は独自の事業展開で安定した業績を維持していました。
BNFさんは、2016年に4.5%、2017年には4.56%(25万株)と1%(55,000株)の二段階で保有していました。
9-8. ベルシステム24(6183)——コールセンター大手
ベルシステム24は、日本最大級のコールセンター運営会社です。
- 創業:1982年
- 事業内容:コンタクトセンター運営、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)
- 主要株主:伊藤忠商事グループ
BNFさんは、2016年に0.9%、2017年に0.9%(66万株)と、複数年にわたって保有していました。
ベルシステム24は、IPO直後(2015年11月上場)の銘柄でした。BNFさんは、上場後比較的早い時期から目をつけていたようです。
9-9. 「ノンバンク・サービス業」シフト
2015〜2016年のBNFさんの保有銘柄を見ると、ある傾向が見えてきます。
それは、**「ノンバンク」と「サービス業」**へのシフトです。
- ノンバンク:オリコ、アプラスフィナンシャル
- サービス業:ベルシステム24、一蔵、綿半HD
これは、金融緩和とインバウンド需要の追い風を受けるセクターでした。
特にノンバンクは、マイナス金利政策により、調達コストが下がる一方で、貸出金利は維持されるため、利ざやが拡大する恩恵を受けていました。
9-10. 「監視銘柄リスト」の固定化
2014年〜2017年のBNFさんの保有銘柄を時系列で見ると、ある「常連銘柄」が見えてきます:
- ファルテック(2013年〜2017年、5年連続)
- アプラスフィナンシャル(2014年〜2017年、4年連続)
- 日本アセットマーケティング(2014年〜2017年、4年連続)
- オリエントコーポレーション(2015年〜2017年、3年連続)
これらは、BNFさんの「監視銘柄リスト」に固定的に入っていた銘柄群と推測されます。
つまり、年度内に複数回売買しながらも、決算期末には必ずポジションを取っていた、という形です。
これは、BNFさんが、これらの銘柄の「値動きパターン」を熟知し、得意としていた証拠と言えます。
第10章 2017年・Jトラスト(8508)、クックパッド(2193)など——9銘柄保有時代
10-1. 2017年——保有銘柄が9銘柄に拡大
2017年のBNFさんの保有銘柄は、過去最多レベルの9銘柄が公開情報で確認されています:
| 銘柄名 | 証券コード | 業種 | 保有比率 | 保有株数 |
|---|---|---|---|---|
| Jトラスト | 8508 | 金融 | 1.15% | 129万株 |
| 一蔵 | 6186 | ブライダル | 1% | 55,000株 |
| クックパッド | 2193 | IT | 0.95% | 102万株 |
| 一蔵 | 6186 | ブライダル | 4.56% | 25万株 |
| 日本アセットマーケティング | 8922 | 不動産 | 2.38% | 659万株 |
| ファルテック | 7215 | 自動車部品 | 2.26% | 21万株 |
| オリエントコーポレーション | 8585 | ノンバンク | 1.06% | 1,975万株 |
| ベルシステム24 HD | 6183 | コールセンター | 0.9% | 66万株 |
| アプラスフィナンシャル | 8589 | ノンバンク | 0.15% | 249万株 |
注目すべきは、新たにJトラストとクックパッドが登場したことです。
10-2. Jトラスト(8508)——アジア展開する金融グループ
Jトラストは、日本、韓国、東南アジアで金融事業を展開するホールディングス企業です。
- 創業:1977年(旧・武富士コーポレーション)
- 事業内容:信用保証、債権買取、銀行業、不動産業
- 主要事業地域:日本、韓国、インドネシア、シンガポール
特に、海外展開を積極化しており、新興国の金融セクターでの成長を狙う「グローバル金融グループ」です。
BNFさんは、2017年9月に129万株(1.15%)を保有していました。
10-3. なぜJトラストだったのか
2017年当時、Jトラストはいくつかの困難に直面していました。
- 海外事業の不振:韓国の貯蓄銀行で多額の損失
- 株価の低迷:2014年以降、株価は半値以下に下落
- 業界全体への逆風:金融セクターへの規制強化
しかし、潜在的な価値はある企業でした。アジア展開という独自のビジネスモデルを持ち、長期的な成長期待もありました。
BNFさんは、おそらくこの「悲観相場での割安水準」に着目したと推測されます。
10-4. クックパッド(2193)——料理レシピサイト
クックパッドは、日本最大の料理レシピ投稿・検索サイト「クックパッド」を運営する企業です。
- 創業:1997年
- 事業内容:料理レシピサイト、広告事業、海外事業
2015年頃まで、クックパッドは「日本のスタートアップの代表格」として注目されていました。月間ユーザー数は5,000万人を超え、急成長していました。
しかし、2016年〜2017年にかけて、経営陣の交代、株価の低迷など、波乱が続きました。
BNFさんは、2017年に102万株(0.95%)を保有していました。
10-5. なぜクックパッドだったのか
2017年のクックパッドは、典型的な「成長企業の踊り場」にありました。
ユーザー数は依然として多いものの、海外展開の不調、競合の増加(DELISH KITCHEN、クラシルなど)により、株価は大きく下落していました。
ピーク時の株価2,000円台から、500円〜700円程度まで下落していたのです。
BNFさんは、この「成長株の急落」に着目し、リバウンドを狙ったと推測されます。
ただし、クックパッドはその後も株価が低迷を続け、2020年代には数百円台で推移しています。BNFさんが利益を出せたかどうかは、保有期間と売却タイミングによって異なります。
10-6. 2017年の保有銘柄に見える「方向性」
2017年のBNFさんの保有銘柄を業種別に分類すると、以下のようになります:
金融セクター(5銘柄):
- Jトラスト
- オリエントコーポレーション
- アプラスフィナンシャル
- 日本アセットマーケティング(広義の金融・不動産)
サービス・小売(2銘柄):
- 一蔵
- ベルシステム24
IT・成長株(1銘柄):
- クックパッド
製造業(1銘柄):
- ファルテック
金融セクターが過半を占めている——これが、2017年のBNFさんの最大の特徴です。
10-7. 「金融セクターへの集中」の理由
なぜ金融セクターに集中していたのか。
考えられる理由:
1. マイナス金利政策の追い風
日銀のマイナス金利政策で、銀行・ノンバンクの利ざやは拡大していました。
2. 株価の出遅れ感
アベノミクス相場で多くのセクターが上昇する中、金融セクターは出遅れていました。
3. ボラティリティの活用
金融セクターは、政策発表や経済指標で大きく動くため、短期売買に適していました。
10-8. 大量保有報告書の状況
2017年のBNFさんは、5%超の大量保有報告書を提出しなくて済む水準(4.5%〜4.95%)に、保有比率を意図的に調整していた可能性があります。
たとえば、
- 一蔵:4.56%(5%未満)
- ケイブ:4.95%(5%未満)
- VOYAGEグループ(2015年):4.6%(5%未満)
これらは、いずれも「5%ぎりぎり」の水準です。
5%を超えると、
- 大量保有報告書の提出義務
- 保有内容の詳細開示
- 6ヶ月以内の売買による短期売買利益の返還義務
など、様々な負担が発生します。
BNFさんは、これらを避けるため、保有比率を5%未満に抑える「ステルス戦略」を取っていた可能性があります。
10-9. 2017年以降の「沈黙」
2017年は、BNFさんの保有銘柄が公開情報で広く確認できる「最後の年」とも言えます。
2018年以降、徐々に大株主リストからも名前が消えていきます。
これは、
- 保有比率を5%未満に抑える戦略の強化
- 株式以外の資産(不動産、債券)へのシフト
- 海外資産へのシフト
などが考えられます。
10-10. 2017年のポートフォリオから学べること
2017年のBNFさんのポートフォリオは、いくつかの重要な特徴を持っています。
1. セクターベットの戦略
特定のセクター(この場合は金融)に注目し、複数銘柄を保有することで、「セクター全体の動き」に乗る戦略。
2. 大型株と中型株のミックス
時価総額の大きな大型株(オリコ、アプラス)と、中型・小型株(一蔵、クックパッド)を組み合わせた構成。
3. 流動性重視
すべての銘柄が、東証一部または大型の市場区分に上場している。流動性が確保されている。
4. 「割安からの回復」テーマ
クックパッド、Jトラストなど、株価が大きく下落した銘柄を中心に組み入れている。
これは、BNFさんの「逆張り思考」が、より洗練された形で表現されたポートフォリオと言えます。
第11章 2018〜2019年・「沈黙」と「整理」の時期
11-1. 2018年——大株主リストからの消失
2018年に入ると、BNFさんの名前が、徐々に大株主リストから消えていきます。
それまで複数年にわたって保有していた銘柄からも、名前がなくなりました:
- 2018年:オリコ、ファルテック、日本アセットマーケティングなどから名前が消える
- 2019年1月〜3月頃:大株主として5銘柄を保有していたが、それ以降は確認されず
これは、いくつかの可能性が考えられます。
11-2. 可能性1:保有比率の引き下げ
最も可能性が高いのは、保有比率を意図的に5%未満、さらに大株主リスト(通常は上位10名)に載らない水準まで引き下げたことです。
具体的には、保有比率を0.5%以下、あるいは保有株数を絞って、複数の銘柄に分散したと推測されます。
なぜか。
理由は、いくつかあります。
1. プライバシーの保護
大株主リストに名前が載ると、本名(小手川隆)、住所が公開情報となり、多くの問題が発生します。
- メディアからの取材依頼
- 詐欺師からのなりすまし
- ストーカー的な接触
- 暴力団など反社会的勢力からの脅迫リスク
これらを避けるために、保有比率を下げた可能性があります。
2. 取引の自由度の確保
5%以上保有すると、6ヶ月以内に売買すると「短期売買利益の返還義務」が発生します。これは、頻繁に売買するBNFさんにとっては、極めて不便な制約です。
3. 「目立たない」生き方の徹底
BNFさんは、2009年頃からメディアへの露出を完全にやめています。同じ流れで、株式市場でも「目立たない」存在になりたかった可能性があります。
11-3. 可能性2:資産の海外シフト
もう一つの可能性は、資産の一部を海外株式や海外資産にシフトしたことです。
2010年代後半は、
- 米国株(特にテック株)の急成長
- 円安進行による海外資産の魅力増大
- 日本市場の停滞感
など、海外投資の追い風が吹いていた時期です。
BNFさんが、Apple、Amazon、Google、Microsoft、Teslaなどの米国株に投資していた可能性は十分にあります(ただし、これは公開情報では確認できません)。
11-4. 可能性3:株式以外の資産へのシフト
3つ目の可能性は、株式以外の資産にシフトしたことです。
2010年代後半のBNFさんの動向で確認できるのは:
- 2018年3月:チョムチョム秋葉原を東京海上プライベートリート投資法人へ売却(推定価格120〜145億円)
- 2018年9月:AKIBAカルチャーズZONEをいちご株式会社へ売却
- 2019年:札幌すすきの「リディアビル」をオープン
これらを見ると、BNFさんは不動産の入れ替えを活発に行っていたことが分かります。
不動産売却で得た現金を、別の不動産や、海外資産、その他の投資商品にシフトした可能性があります。
11-5. 「破産説」というデマ
2018〜2019年にBNFさんの名前が大株主リストから消えたことで、ネット上では「破産したのではないか」というデマが広まりました。
しかし、これは完全に間違いです。
事実関係を整理すると:
- チョムチョム秋葉原を売却(120〜145億円):明らかに利益が出ている
- AKIBAカルチャーズZONEも売却済み
- 札幌で新たなビルをオープン
「お金に困って売った」のではなく、「いい条件で売却できたから、別の投資にシフトした」というのが真相です。
破産していれば、新しいビルを開業する余裕はありません。
11-6. 「ステルス投資家」への進化
2018〜2019年のBNFさんの変化を一言で表現するなら、**「ステルス投資家への進化」**です。
それまでは、
- 大株主リストに名前が載る
- 大量保有報告書を提出することもある
- 個人投資家としての知名度は健在
という状態でした。
しかし、2018年以降は、
- 大株主リストには載らない(5%未満、上位10名にも入らない水準)
- 大量保有報告書の提出もなし
- 完全に表舞台から消える
という、完全な「ステルス化」が進みました。
これは、彼が「資産を増やすこと」よりも、「静かに暮らすこと」を優先するようになった証拠とも言えます。
11-7. 「ステルス化」の合理性
BNFさんのステルス化は、合理的な判断だったと思います。
なぜなら、
1. 追加収益のメリットが小さい
すでに数百億円〜数千億円の資産がある彼にとって、さらに資産を増やすメリットは小さい。
2. 目立つことのデメリットが大きい
詐欺、脅迫、なりすまし、メディア攻勢——目立つことのデメリットは膨大。
3. プライベートの確保
家族や周囲の人々のプライバシーも守れる。
つまり、「目立たない」ことの便益が、「目立つ」ことの便益を、はるかに上回るのです。
11-8. 2018〜2019年の「失われた銘柄リスト」
2018〜2019年のBNFさんの保有銘柄が公開情報で確認できないのは、実は重要な意味を持ちます。
これは、彼が以下のような戦略を取っていたことを示唆しています:
1. 多数の銘柄に分散
おそらく、20〜50銘柄に少額ずつ分散投資。各銘柄での保有比率は0.5%〜1%程度。
2. 短期売買の継続
長期保有よりも、短期売買中心の取引を継続。決算期末に保有していた銘柄も、変わりやすい。
3. 大型株中心の取引
時価総額が大きな大型株なら、相対的な保有比率は低くなる。
仮にBNFさんがトヨタ自動車(時価総額数十兆円)に100億円投資しても、保有比率は0.1%未満です。これでは、大株主リストには絶対に載りません。
11-9. 2018〜2019年のBNFさんを推測する
完全に表舞台から消えたBNFさんですが、いくつかの状況証拠から、彼の動向を推測することはできます。
1. アベノミクス相場の恩恵を享受
2012〜2018年のアベノミクス相場で、彼の保有銘柄群は大きく値上がりしたはずです。資産は数倍に増えたと推測されます。
2. 不動産売却で大きな利益
チョムチョム秋葉原(約90億円で購入、145億円で売却)など、不動産売却でも大きな利益を確定しています。
3. 海外投資の本格化
円安進行を見越して、海外資産へのシフトを進めた可能性があります。
総合的に判断すると、2019年時点でのBNFさんの資産は、1,000億円〜2,000億円規模になっていたと推測されます。
11-10. 「沈黙」が示すもの
BNFさんの2018〜2019年の沈黙は、ある意味で「彼の哲学の完成形」を示しています。
彼は、
- 金、名声、メディア露出——これらすべてを必要としない
- ただ、市場と向き合い、淡々と取引を続けるだけ
- 誰にも知られず、誰にも縛られず、自由に投資する
という、ある種の理想を実現したのです。
これは、多くの人にとって、ある意味では羨ましい生き方かもしれません。
第12章 2021年・ランド(8918)——超低位株への突然の登場
12-1. 2021年、突然の「復活」
2021年5月、日本の個人投資家界に再び衝撃が走りました。
不動産会社「ランド」(証券コード8918)の「第25回定時株主総会招集ご通知」に、「小手川隆」という名前が、第9位の大株主として記載されていたのです。
2019年以降、大株主リストから完全に消えていたBNFさん。
「破産した」「引退した」「海外に移住した」——様々な噂が飛び交っていた中での、突然の「復活」でした。
12-2. ランドとはどんな会社か
ランドは、千葉県千葉市に本社を置く、不動産関連企業です。
- 創業:1996年
- 事業内容:不動産売買、再生可能エネルギー関連投資事業、不動産賃貸
- 上場市場:東証一部(現・東証スタンダード)
主に、都心部のマンション開発、商業施設の運営などを手掛けていました。
12-3. 「超低位株」だった
ここで衝撃的なのは、ランドの株価でした。
2021年5月18日時点の株価は、なんと12円。
これは、いわゆる「超低位株」「ボロ株」と呼ばれるカテゴリーに入る水準です。
普通の上場企業の株価は、数百円〜数千円が一般的です。12円という株価は、極めて異例です。
12-4. BNFさんの保有内容
BNFさんの保有内容は、以下の通りでした:
- 保有株数:1,000万株
- 保有比率:0.69%
- 時価:1,000万株 × 12円 = 約1億2,000万円
数百億円〜数千億円の資産を持つBNFさんが、たった1億円程度の銘柄を保有していたのです。
これは、彼の総資産から見れば、文字通り「お小遣い」レベルの金額です。
12-5. なぜ12円の超低位株を買ったのか
ここに、最大の疑問があります。
なぜBNFさんは、1億円程度の超低位株を買ったのでしょうか。
考えられる理由:
理由1:単純なリバウンド狙い
12円の銘柄が13円になれば、約8%の上昇。14円になれば16%超の上昇。低位株は、わずかな値上がりでも大きなリターンになります。
実際、ランドの株価はその後、徐々に上昇していき、最終的には何倍にもなる可能性がありました。
理由2:不動産業への業界研究
BNFさん自身が不動産投資を多角的に行っていることから、不動産関連銘柄を研究材料として保有していた可能性。
理由3:話題作り・目印
完全な憶測ですが、BNFさんが「自分はまだ現役だよ」とサインを送るために、意図的に大株主リストに名前を出した可能性もゼロではありません。
ただ、BNFさんの性格を考えると、これは可能性として低いでしょう。
12-6. 「低位株攻略」というBNF流の戦略
ランドのような低位株は、BNFさんの過去の発言からも、彼が得意とする領域だったことが分かります。
「100株単位の銘柄群の乖離率がきつかったです。私は22%〜28%以上乖離した段階から買い候補に入れていきました」(2004年頃の2ちゃんねるへの書き込み)
低位株は、
- 値動きが大きい(数円の動きでも%では大きい)
- 流動性が極めて高い(小口投資家が多い)
- パニック売りで「下げすぎ」になりやすい
という、BNFさん好みの特徴を持っています。
12-7. 「1億円ポジション」の意味
数千億円の資産を持つBNFさんにとって、1億円のポジションは「実質ゼロ」のような金額です。
しかし、これを敢えて保有しているということは、
仮説1:複数の低位株にこのレベルで分散投資している
ランドだけでなく、他にも多数の低位株に1億円程度ずつ分散投資している可能性。総額にすれば、何十億円もの「低位株バスケット」を持っているかもしれません。
仮説2:練習・研究用
新しい投資手法やアルゴリズムを試すための「研究用」ポジション。
仮説3:純粋な値上がり狙い
12円が15円、20円になれば、リターンは50%以上。これだけのリターンが期待できる銘柄は少ない。
どれが正解か、本人しか知り得ません。
12-8. ランドのその後
BNFさんが大株主として記載された2021年以降、ランドの株価はどうなったのでしょうか。
2021年末〜2022年:株価は10円〜20円台のレンジで推移 2023年:株価が上昇、一時30円超え 2024年〜2025年:さらに上昇傾向
ただし、超低位株は、わずかな要因で大きく動きます。BNFさんがいつ売却したかは、公開情報からは確認できません。
なお、2022年春号の四季報では、すでにランドの大株主リストからBNFさんの名前は消えていました。
つまり、BNFさんは2021年5月時点では保有していたが、その後の決算期末(2021年8月期)までには売却した、ということになります。
保有期間は、長くて3〜6ヶ月程度。これは、BNFさんらしい「短期売買」のパターンです。
12-9. ランド保有から学べること
BNFさんのランド保有は、いくつかの重要な教訓を提供してくれます。
教訓1:「金額の小ささ」を気にしない
総資産が大きい人ほど、「小さな金額」を軽視しがちです。しかし、BNFさんは、1億円という(彼にとっては)小さな金額の取引も、淡々と行っています。
教訓2:「低位株」も投資対象
多くの投資家は、「低位株は危険」「ボロ株には手を出すな」と教えられます。しかし、BNFさんは、低位株も普通の投資対象として扱っています。
教訓3:「短期保有」を貫く
3〜6ヶ月で売却するスピード感。これは、彼の「短期売買哲学」が、資産が大きくなっても変わっていない証拠です。
12-10. 2021年以降のBNFさん
ランド以降、BNFさんの保有銘柄として、公開情報で確認できるものはほぼありません。
しかし、株式情報サイト「バフェット・コード」によると、「小手川隆さんは現在19銘柄を保有しています」と表示されています(2026年時点)。
つまり、BNFさんは、保有比率を低く保ちながら、20銘柄前後の分散投資を続けているということです。
ただし、各銘柄の詳細は、もはや「上位10名の大株主」に入らない水準のため、公開情報では確認できません。
これが、BNFさんの「完全ステルス化」の到達点と言えるでしょう。
第13章 銘柄群を貫く「BNF流フィルター」の正体
13-1. 全銘柄を貫く共通点
ここまで、BNFさんが保有してきた銘柄を時系列で見てきました。
ジェイコム、住友金属、ディー・エヌ・エー、オリックス、JVCケンウッド、ジャノメ、JUKI、河合楽器、兼松、川崎汽船、イビデン、ファルテック、東京電力債、ブロッコリー、VOYAGEグループ、リボミック、アプラスフィナンシャル、オリエントコーポレーション、綿半HD、ケイブ、日本アセットマーケティング、一蔵、ベルシステム24、Jトラスト、クックパッド、ランド——。
これらは、業種も時価総額も全く違う銘柄群です。
しかし、すべての銘柄を貫く「BNF流フィルター」があります。それを整理してみましょう。
13-2. フィルター1:流動性
最も重要なフィルターが、流動性です。
BNFさんが保有してきた銘柄を見ると、極端な品薄銘柄や、出来高の少ない銘柄はほとんどありません。
- 大型株:オリックス、川崎汽船、イビデン、住友金属など、東証一部の主力級
- 中型株:ファルテック、ジャノメ、JUKIなど、十分な出来高がある銘柄
- 低位株:ランドのように、低位ではあっても、出来高が極めて多い銘柄
流動性が低い銘柄では、彼のサイズの取引ができません。
13-3. フィルター2:ボラティリティ
二つ目のフィルターが、**ボラティリティ(値動きの激しさ)**です。
ボラティリティが低い銘柄では、短期売買で利益を出すことが難しい。
BNFさんが選ぶ銘柄は、
- IPO直後の小型成長株:DeNA、VOYAGE、DMP、リボミック
- シクリカル銘柄:川崎汽船、JVCケンウッド、JUKI、河合楽器
- 業績変動の大きい銘柄:オリエントコーポレーション、Jトラスト
- 低位株:ランド
いずれも、値動きが激しい銘柄群です。
13-4. フィルター3:「下げすぎ」シグナル
三つ目のフィルターが、「下げすぎ」シグナルです。
BNFさんは、株価が25日移動平均線から大きくマイナス乖離した銘柄を好みます。
- オリックス(2008〜2009年):リーマンショックで4分の1まで暴落
- 川崎汽船(2012年):海運不況でピークの10分の1
- クックパッド(2017年):ピークから3分の1以下
- Jトラスト(2017年):海外事業不振で半値以下
これらは、いずれも「絶望期」の銘柄です。BNFさんは、こうした絶望期にこそ買い向かいました。
13-5. フィルター4:「リバウンド余地」の存在
四つ目のフィルターが、「リバウンド余地」の存在です。
ただ下げすぎているだけでは買いません。「下げすぎだが、リバウンドが期待できる」という条件が必要です。
具体的には、
- 業績が底打ちしている
- 政府の支援が見込める(東京電力債など)
- 業界全体が回復基調にある
- 株価が長期サポートライン近辺
こうした条件が揃ったときに、BNFさんは大きく張ります。
13-6. フィルター5:「セクター連動」の利用
五つ目のフィルターが、「セクター連動」の利用です。
特定のセクターに資金が集中する局面を察知し、そのセクターの主力銘柄を買う。
たとえば、
- 2010〜2011年:リーマンショック後の景気回復で、シクリカル銘柄(電機、機械、海運)
- 2015〜2017年:マイナス金利政策で、ノンバンクセクター
- 2013年〜:アベノミクスで、輸出関連株(自動車部品など)
セクター単位での「値動きの方向性」を読むのが、BNFさんの得意技です。
13-7. フィルター6:「自分のサイズに合う」時価総額
六つ目のフィルターが、「自分のサイズに合う」時価総額です。
BNFさんは、自分の資金量に応じて、ターゲットの時価総額を変えてきました。
- 資金1〜10億円時代:時価総額50億円〜500億円の中小型株
- 資金10〜100億円時代:時価総額500億円〜5,000億円の中大型株
- 資金100億円以上:時価総額5,000億円以上の大型株
このマッチングを間違えると、自分の売買で株価が動きすぎてしまい、機能しません。
13-8. フィルター7:「PER・PBRは見ない」
七つ目(というか、これは「フィルターを使わない」項目)が、**「PER・PBRは見ない」**ことです。
これは、多くのバリュー投資家とBNFさんの最大の違いです。
PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)は、企業の収益や資産から見た「割安度」の指標です。
しかし、BNFさんは、
- 「下げすぎているかどうか」はチャートで見る
- 「業績」は株価がすでに織り込んでいる
- 「割安」は感覚的なもの
という発想で、ファンダメンタル指標を使いません。
これは、彼のスタイルの根本的な特徴です。
13-9. フィルター8:「テーマ性」の活用
八つ目のフィルターが、「テーマ性」の活用です。
その時々の市場のテーマに対応する銘柄を、機動的に組み入れる。
- IT・ネット銘柄:DeNA、VOYAGE、クックパッド
- 自動車関連:ファルテック
- バイオベンチャー:リボミック
- 不動産関連:日本アセットマーケティング、ランド
- ノンバンク:オリコ、アプラス、Jトラスト
テーマが盛り上がっているうちに利益を取り、テーマが終わったら売る——これが、BNFさんの基本パターンです。
13-10. すべてを統合すると
これらのフィルターを統合すると、BNFさんの銘柄選びは、以下のように整理できます。
1段階目:監視銘柄リスト(600〜700銘柄)の維持 業種ごとに整理された、流動性のある銘柄を常時監視。
2段階目:相場環境の判断 上げ相場なのか、下げ相場なのか、セクターローテーションの方向はどうか。
3段階目:エントリー候補の絞り込み 「下げすぎ」「連れ高出遅れ」「テーマ性」「流動性」「ボラティリティ」をすべて満たす銘柄を選定。
4段階目:ポジションサイズの決定 自分の資金量、銘柄の時価総額・流動性に応じて、適切なサイズを決定。
5段階目:エントリー チャート、出来高、板情報を見ながら、最適なタイミングで買い。
6段階目:管理と決済 2〜3%の利益で利確、想定外の動きで損切り。
このプロセスを、毎日、何度も繰り返してきたのが、BNFさんの実態です。
第14章 業種別に見るBNFポートフォリオの全体像
14-1. 業種別の保有頻度
BNFさんが保有してきた銘柄を業種別に整理してみると、以下のような分布になります。
1. 金融・ノンバンクセクター(最頻出)
- オリックス(2009年)
- オリエントコーポレーション(2015〜2017年)
- アプラスフィナンシャル(2014〜2017年)
- Jトラスト(2017年)
2. 製造業(中型メーカー)
- JVCケンウッド(2010年)
- 兼松(2010年)
- 河合楽器製作所(2010年)
- ジャノメミシン工業(2010年)
- JUKI(2010年)
- ファルテック(2013〜2017年)
- イビデン(2013年)
3. IT・成長企業
- ディー・エヌ・エー(2005〜2006年)
- VOYAGEグループ(2014〜2015年)
- デジタルメディアプロフェッショナル(2014年)
- クックパッド(2017年)
4. 不動産関連
- 日本アセットマーケティング(2014〜2017年)
- リサ・パートナーズ(2010年)
- ランド(2021年)
5. サービス業
- 一蔵(2016〜2017年)
- ベルシステム24(2016〜2017年)
6. エンタメ・ゲーム
- ブロッコリー(2014年)
- ケイブ(2015年・2017年)
7. 海運・素材
- 川崎汽船(2012年)
- 住友金属工業(2005〜2006年、本人発言より)
8. バイオ
- リボミック(2014年)
9. 小売
- 綿半ホールディングス(2015年)
10. 債券
- 東京電力債(2013年、40億円分)
14-2. 「業種多様化」の意義
これだけ多岐にわたる業種を保有していることから、BNFさんが特定の業種に固執していないことが分かります。
これは、彼の哲学である「相場に思いを込めない」という姿勢の表れです。
「自分は半導体株が好きだから、半導体株しか買わない」「IT企業を応援したいから、IT株を買う」——こうした感情的なバイアスを、彼は持ちません。
ただ、その時々の相場環境で、最も期待リターンの高いセクターを選び、最適な銘柄を組み入れる——これが、BNFさんのスタイルです。
14-3. 「金融セクター」への偏り
ただし、業種別の頻度を見ると、金融・ノンバンクセクターへの偏りが顕著です。
これには、いくつかの理由が考えられます。
理由1:景気変動への感応度
金融セクターは、景気変動に最も敏感に反応します。BNFさんが得意とする「景気循環の波に乗る」戦略にマッチします。
理由2:政策変化への反応
金融セクターは、金融政策(金利、規制)の影響を強く受けます。政策変化を察知して動くBNFさんに、最適な業種です。
理由3:流動性と時価総額
金融セクターには、流動性の高い大型株が多く揃っています。BNFさんのサイズの取引に適しています。
理由4:「割安からの回復」が起きやすい
金融セクターは、危機後に強烈なリバウンドを示すことが多いです。リーマンショック後のオリックス、原発事故後の東京電力債などが、その典型例です。
14-4. 「製造業」への投資パターン
製造業も、BNFさんが好む業種の一つです。
特に、
- 中型〜大型のメーカー
- 業績変動の大きいシクリカル銘柄
- 海外売上比率の高い輸出企業
を好む傾向があります。
これは、円安進行や世界経済の回復局面で、業績が大きく改善する銘柄群です。
ファルテックを5年連続で保有していたのは、「自動車セクターの安定的な値動き」をうまく利用していたからでしょう。
14-5. 「成長企業」への投資パターン
成長企業(IT、バイオ、新興市場)への投資も、彼の重要な領域です。
ただし、ピーター・リンチ的な「テンバガーを狙う長期保有」ではなく、「成長テーマで動いているうちに、短期で利益を取る」パターンです。
DeNA、VOYAGE、DMP、リボミック、クックパッドなど、いずれも当時の「テーマ株」でした。
14-6. 「不動産関連」への思い入れ
不動産関連銘柄を複数保有していたのは、BNFさん自身が不動産投資を行っていることと関連していると思われます。
- リサ・パートナーズ(2010年)
- 日本アセットマーケティング(2014〜2017年)
- ランド(2021年)
これらは、不動産業界の動向を観察するための「業界研究」の意味もあったかもしれません。
14-7. 海運株への大型ベット
川崎汽船への約45億円のポジションは、BNFさんの保有銘柄の中でも、特に印象的です。
海運株は、ボラティリティが極めて高く、時には数ヶ月で株価が2倍になることもあれば、半分になることもあるセクターです。
BNFさんが大きく張ったのは、「ここまで下げれば、必ずリバウンドする」という確信があったからでしょう。
14-8. 「債券」という意外な選択
東京電力債への40億円投資は、BNFさんの保有銘柄の中で、最も意外なものの一つです。
普通、短期売買派のトレーダーは、債券に投資しません。なぜなら、値動きが小さく、短期売買での利益が取りにくいからです。
しかし、BNFさんは、
- 原発事故で東京電力債の利回りが急上昇
- 政府救済で元本割れリスクは小さい
- 株式相場のヘッジになる
という総合判断で、債券にも投資しました。
これは、彼が「カテゴリーにこだわらず、最適な投資対象を選ぶ」柔軟性の表れです。
14-9. 「業種横断」のセクターローテーション
BNFさんの保有銘柄を時系列で見ると、業種が時代によって変わっていることが分かります。
- 2010年:製造業中心(JVC、ジャノメ、JUKIなど)
- 2012年:海運(川崎汽船)
- 2014年:成長企業(VOYAGE、DMP、リボミック)
- 2015〜2017年:ノンバンク(オリコ、アプラス、Jトラスト)
これは、典型的なセクターローテーション戦略です。
その時々で資金が集まりやすいセクターに、機動的にシフトしていく。これは、機関投資家でも難しい高度な戦略です。
14-10. 「BNFポートフォリオ」の本質
ここまでの分析を整理すると、BNFさんのポートフォリオの本質は、以下のように要約できます。
1. 業種・時価総額にこだわらない、徹底的な柔軟性
2. 流動性とボラティリティを必須条件とする
3. 「下げすぎ」「出遅れ」「テーマ性」を組み合わせる
4. 自分のサイズに合う銘柄を選ぶ
5. ファンダメンタル指標は見ない
6. セクターローテーションを機動的に活用
これらすべてが組み合わさって、彼独自の「BNFポートフォリオ」が形成されているのです。
第15章 個人投資家がBNFの銘柄リストから学ぶべきこと
15-1. 「真似すべき」点と「真似できない」点
BNFさんの保有銘柄リストを見て、「自分も同じ銘柄を買えば儲かるのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、ここで一つ重要なポイントがあります。
「銘柄リスト」をそのまま真似しても、勝てるとは限らないということです。
なぜか。
理由は、
1. タイミングが異なる
BNFさんが買った時期と、私たちが買う時期は違います。彼が買ったときには「下げすぎ」だった銘柄が、今は「上がりすぎ」になっているかもしれません。
2. サイズが異なる
BNFさんの100億円のポジションと、私たちの100万円のポジションでは、機動性が全く違います。
3. 売却タイミングが見えない
公開情報からは「いつ買ったか」は分かりますが、「いつ売ったか」「いくらで売ったか」は分かりません。
15-2. 真似すべきは「銘柄」ではなく「フィルター」
BNFさんから真似すべきなのは、「具体的な銘柄」ではなく、「銘柄を選ぶフィルター」です。
第13章で整理した8つのフィルター:
- 流動性
- ボラティリティ
- 「下げすぎ」シグナル
- リバウンド余地
- セクター連動
- 自分のサイズに合う時価総額
- ファンダメンタル指標は見ない(独自の感覚を磨く)
- テーマ性の活用
これらを自分の取引に組み込むことで、BNFさんの「考え方」を実践できます。
15-3. 「逆張り」を実践する勇気
BNFさんから学べる最大の教訓は、**「逆張りの勇気」**だと思います。
彼が保有してきた銘柄を見ると、ほとんどすべてが「市場が嫌っていたとき」に買われています。
- リーマンショック後のオリックス
- 海運不況時の川崎汽船
- 原発事故後の東京電力債
- 経営危機時のJトラスト
- 業績低迷時のクックパッド
これらを買うには、相当な勇気が必要です。
普通の投資家は、悪材料が出ている銘柄に手を出すのを恐れます。「もっと下がるかもしれない」「破綻するかもしれない」という恐怖が、行動を止めます。
しかし、BNFさんは、その恐怖を乗り越えて、買い向かいました。
「皆が悲観しているときこそ、最大のチャンス」——これを実践する勇気こそ、私たちが学ぶべきものです。
15-4. 「自分のサイズ」を意識する
もう一つの教訓は、「自分のサイズ」を意識することです。
BNFさんは、資産が増えるにつれて、ターゲットの時価総額を変えてきました。
私たち個人投資家も、自分の資金量に合った銘柄を選ぶ必要があります。
たとえば、
- 資金100万円:時価総額10億円〜500億円の小型〜中型株
- 資金1,000万円:時価総額100億円〜5,000億円の中型株
- 資金1億円:時価総額1,000億円以上の中大型株
このマッチングを意識するだけで、機動性は大きく変わります。
15-5. 「短期売買」の規律
BNFさんの保有銘柄を時系列で見ると、ほとんどの銘柄が短期〜中期保有であることが分かります。
5年以上保有していたファルテックでさえ、おそらく年内に何度も売買を繰り返していたはずです。
短期売買の規律——「利益が出たら利確、損が出たら損切り」——これを徹底することが、BNFさんから学ぶべき最大の教訓の一つです。
15-6. 「業種を絞らない」柔軟性
BNFさんは、業種を絞りません。製造業、金融、不動産、IT、バイオ、海運——すべてに投資します。
これは、「業種愛」を持たないことの強みです。
「私は半導体株が専門」「私はバイオ株しか買わない」——こうした業種限定の投資家は、その業種が不振になれば、何もできません。
しかし、BNFさんのように業種を絞らない投資家は、どんな相場環境でも、何かしらのチャンスを見つけられます。
15-7. 「常時監視」の習慣
BNFさんが600〜700銘柄を常時監視しているのは、有名な事実です。
私たち個人投資家も、せめて自分の専門領域では、ある程度の銘柄数(30〜100銘柄)を常時監視する習慣を持つべきだと思います。
なぜなら、市場の変化を察知するには、「平常時の値動き」を知っていることが必要だからです。普段の値動きを知らないと、「異常な値動き」も気づけません。
15-8. 「ステルス化」の意義
BNFさんは、資産が大きくなった後、徹底的に「ステルス化」しました。
これは、私たちにも示唆を与えます。
資産が大きくなると、
- 詐欺師に狙われる
- 親戚や知人からたかられる
- 嫉妬や妬みの対象になる
- メディアに露出すれば、プライバシーが失われる
こうしたデメリットは、想像以上に大きいです。
BNFさんのように「目立たない」生き方は、ある意味で、富を守る最大の戦略でもあります。
15-9. 「公開情報」を活用する
BNFさんの銘柄リストは、すべて「公開情報」から再構成されたものです。
- 有価証券報告書
- 株主総会招集通知
- 大量保有報告書
- EDINETシステム
これらは、誰でも無料でアクセスできる情報です。
私たち個人投資家も、こうした公開情報を活用することで、有名投資家の動向を追いかけ、自分の投資判断の参考にすることができます。
ただし、繰り返しになりますが、「真似する」のではなく、「考え方を学ぶ」ことが重要です。
15-10. 「BNFになろうとしない」ことの大切さ
最後に、私が最も伝えたいメッセージは、これです。
「BNFになろうとしない」
BNFさんは、極めて特殊な才能と、極めて運の良いタイミングで、200億円超を築きました。同じことを再現するのは、ほぼ不可能です。
しかし、彼の「考え方」「フィルター」「規律」を学び、自分の投資に活かすことはできます。
そうすることで、私たちは、BNFほどではなくても、十分に勝てる個人投資家になれるはずです。
「BNFのスケール」を目指すのではなく、「BNFの哲学」を自分のサイズで実践する——これが、最も現実的で、最も有効な学び方だと、私は考えます。
おわりに
ここまで、BNFこと小手川隆さんの保有銘柄を、時系列で追いかけてきました。
ジェイコム、オリックス、川崎汽船、JVCケンウッド、オリエントコーポレーション、Jトラスト、クックパッド、ランド——。
これらの銘柄を見るだけで、彼が「いかに柔軟に、いかに機動的に」相場と向き合ってきたかが、よく分かります。
業種を選ばず、時価総額を選ばず、その時々の最適な銘柄に淡々と投資する。利益が出たら利確し、損が出たら損切りする。市場が悲観しているときに買い、市場が楽観しているときに売る。
シンプルな原則を、20年以上にわたって、ひたすら実践し続けてきた——これが、BNFさんという投資家の本質です。
もちろん、私たちが彼と同じスケールで投資することは不可能です。しかし、彼の「考え方」「フィルター」「規律」を学び、自分のサイズで実践することはできます。
160万円から200億円超まで、彼を導いた銘柄たち。それぞれの背景にあるストーリーを知ることで、投資の本質が少し見えてきたのではないでしょうか。
BNFさんは、現在も、市場のどこかで、淡々と取引を続けているはずです。
彼が今、何の銘柄を保有しているのか——それは、誰にも分かりません。「バフェット・コード」で確認できる19銘柄も、おそらく全体の一部にすぎないでしょう。
しかし、彼が「いつものBNFのフィルター」で、いつものように銘柄を選んでいることは、間違いありません。
私たちも、彼の哲学を胸に、自分なりの相場との向き合い方を見つけていきたいですね。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
BNFさんの「銘柄選び」を通じて、彼の投資哲学が立体的に見えてきたなら嬉しいです。
それでは、皆さんの投資ライフが、健全で実り多きものになることを、心から祈っています。
参考資料
一次資料(公的開示情報)
- 大量保有報告書(金融庁EDINETシステム) – 小手川隆名義の各種大量保有報告書
- ジェイコム株式会社「大量保有報告書」(平成17年12月16日提出、小手川隆名義)
- オリックス株式会社「第46回定時株主総会招集通知」(2009年6月1日)- 第9位の大株主として小手川隆が記載、持株数107万株、議決権比率1.19%
- 株式会社ランド「第25回定時株主総会招集ご通知」(2021年)- 大株主として小手川隆が記載、保有比率0.69%、1,000万株
- 株式会社JVCケンウッドの大量保有報告書(2010年、保有比率5.48%)
- 株式会社川崎汽船の大量保有報告書関連(2012年、保有比率3.2%)
- 株式会社ファルテックの株主名簿関連(2013〜2017年、複数年保有)
- 株式会社オリエントコーポレーションの株主名簿関連(2015〜2017年)
- 株式会社アプラスフィナンシャルの株主名簿関連(2014〜2017年)
- 株式会社日本アセットマーケティングの株主名簿関連(2014〜2017年)
- 株式会社Jトラストの株主名簿関連(2017年9月、保有比率1.15%)
- クックパッド株式会社の株主名簿関連(2017年、保有比率0.95%)
報道・インタビュー記事(一次的な情報源として)
- 『ZAKZAK(夕刊フジ)』2009年6月5日 – 「あの『ジェイコム男』がオリックス株主9位に」記事
- 『ZAKZAK』2008年1月24日 – 「株安なんの! ジェイコム男『190億円』儲けの極意」
- 『日経新聞』2008年5月17日 – 1面記事、顔写真入り紹介
- 『日経新聞』2007年12月(日経ネットPLUS) – 「日本人とおカネ 第1部 取材ノートから」資産170億円
- 『日経金融新聞』2007年8月30日 – サブプライムショックインタビュー
- 『CIRCUS(サーカス)』2006年04月号 – 連れ高戦略についての本人インタビュー
- 『マネーの王道 vol.1』 – 投資手法と銘柄選定について
- 『週刊ポスト』2006年1月号 – 損切りの哲学について
- 『ダイヤモンドZAi』2006年12月号 – 投資手法の詳細
- 『ダイヤモンドZAi』2007年10月号 – 投資手法の詳細
- 『KING』2007年10月号 – 監視銘柄600〜700についての発言
- テレビ東京『ガイアの夜明け』 2006年2月28日放送
- ラジオNIKKEI 2008年12月30日 – 電話インタビュー、リーマン株損失について
二次資料(分析・解説)
- Wikipedia「B・N・F」 https://ja.wikipedia.org/wiki/B%E3%83%BBN%E3%83%BBF
- Wikipedia「ジェイコム株大量誤発注事件」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%A0%E6%A0%AA%E5%A4%A7%E9%87%8F%E8%AA%A4%E7%99%BA%E6%B3%A8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
- IRBANK「小手川隆の役員経歴・大量保有報告書」 https://irbank.net/%E5%B0%8F%E6%89%8B%E5%B7%9D%E9%9A%86
- 株主プロ「大量保有報告書提出者:小手川隆 保有銘柄検証」
- バフェット・コード「小手川隆さんが保有する銘柄一覧と評価額」 https://www.buffett-code.com/shareholder/3372ee41cb56c828e7d4c3a441499859
- 株式会社ランド「ランド(8918)有価証券報告書」 – 2021年2月期、小手川隆氏が大株主として記載
各種解説サイト
- 投資ハック「BNF氏(ジェイコム男)の2022年現在 小手川隆氏の名が表舞台に」 https://toushi-hack.com/articles/bnf-now/
- おとなの株ラウンジ「ジェイコム男、小手川隆/BNFが現在ランド大株主に転身」 https://kabu-lounge.com/investors/bnf/
- プロフィールまとめblog「BNF(小手川隆)の経歴は?」 https://human-profile.hatenablog.com/entry/bnf
- 株プロマン「B・N・F(小手川隆)【保有株】オリエントコーポレーション(8585)など?」
- FX比較ブログ「BNF・小手川隆 関連記事一覧」 https://fxhikakublog.com/category/kabu/bnf
- Smart Blog「1分で1億稼ぐジェイコム男『BNF氏』の実態と成功術」
- ナムウィキ「BNF」(韓国語版より、年度別保有銘柄の詳細) https://ja.namu.wiki/w/BNF
関連書籍
- 『億超えトレーダーが絶対に教えたくない アベノミクス株投資の法則』(扶桑社、2013年)
- リチャード・スミッテン『世紀の相場師ジェシー・リバモア』 – BNFが推薦した投資本
関連企業の公式情報
- オリックス株式会社 https://www.orix.co.jp/
- ジェイコム→ライク株式会社 https://like-gr.co.jp/
- JVCケンウッド株式会社 https://www.jvckenwood.com/
- 川崎汽船株式会社 https://www.kline.co.jp/
- オリエントコーポレーション株式会社 https://www.orico.co.jp/
- Jトラスト株式会社 https://www.jt-corp.co.jp/
- クックパッド株式会社 https://info.cookpad.com/
- 株式会社ランド https://www.landnet.co.jp/
補足
本記事は、上記の公開情報を組み合わせて、BNF氏の保有銘柄を時系列で再構成したものです。
ただし、以下の点にご注意ください:
- 保有銘柄は全体の一部に過ぎない:BNF氏は短期売買中心のため、決算期末を跨いで保有していた銘柄のみが大株主リストに記載されます。年間を通じて売買した銘柄の大半は、公開情報では確認できません。
- 保有期間・売却タイミングは不明:いつ買って、いつ売ったかという正確な情報は、公開情報からは確認できません。
- 個別銘柄の推薦ではない:本記事は、BNF氏の投資手法を分析するものであり、個別銘柄への投資を推奨するものではありません。
- 「なりすまし」に注意:SNSやLINEで「BNF」を名乗り「投資手法を教える」「銘柄を教える」などと称するアカウントは、すべて偽物です。BNF氏本人は、2009年以降、メディアへの露出を完全にやめており、外部に投資情報を提供することはありません。
投資判断は、必ず自己責任でお願いいたします。
本記事は2026年5月時点での公開情報に基づいて執筆しました。
