BNF(小手川隆)の投資哲学を徹底解剖する——160万円を200億円に変えた男の思考法

この記事は約97分で読めます。
  1. はじめに——なぜ今、BNFを語るのか
  2. 第1章 BNFという男——千葉の青年が伝説になるまで
    1. 1-1. 千葉県市川市に生まれた内気な少年
    2. 1-2. 160万円という元手の意味
    3. 1-3. 株を始めた2000年——史上最悪のタイミング
    4. 1-4. 「ラッキー」と本人が語る初期の幸運
    5. 1-5. 2年で1億円——大学中退の決断
    6. 1-6. 2ちゃんねるで生まれた「B・N・F」というハンドルネーム
    7. 1-7. 「ジェイコム事件」で全国区へ
    8. 1-8. 200億円の男、そして沈黙へ
  3. 第2章 「相場に自分の思いは一切通用しない」——投資哲学の核心
    1. 2-1. 投資哲学を一言で表すなら
    2. 2-2. なぜ「思い」が邪魔をするのか
    3. 2-3. 「自分は短期投資なんで」という割り切り
    4. 2-4. 「いまより上がると思ったら買い、いまより下がると思ったら売る」
    5. 2-5. 「儲けそこなうのも損と同じくらいつらい」
    6. 2-6. 「天才」の定義の変化
    7. 2-7. 「最悪、全部なくなっても仕方ない」というスタート地点
    8. 2-8. 「儲かったのは僕の実力じゃなくて、単に時代のおかげ」
    9. 2-9. 「未練が残るのがイヤだから」
    10. 2-10. 哲学の核心——「市場を観察する者」であること
  4. 第3章 ジェイコム事件——わずか10分で20億円を手にした冷静さ
    1. 3-1. 2005年12月8日、午前9時27分56秒
    2. 3-2. 市場の混乱と取引参加者の動揺
    3. 3-3. BNFさんの冷静な判断
    4. 3-4. 「いつもと変わらず冷静だった」
    5. 3-5. みずほ証券の損失と東証システムの問題
    6. 3-6. 利益分配問題——「不当利得」かどうか
    7. 3-7. ジェイコム事件の真の教訓
    8. 3-8. メディアの反応と「ジェイコム男」誕生
    9. 3-9. 事件が個人投資家史に与えた影響
    10. 3-10. BNFさんが事件で得たもの・失ったもの
  5. 第4章 投資手法の全体像——順張りと逆張りの使い分け
    1. 4-1. BNFさんの手法は「シンプル」だが「奥深い」
    2. 4-2. 二つの軸——順張りスイングと逆張りスイング
    3. 4-3. なぜスイングトレードなのか
    4. 4-4. 「上げ相場では順張り、下げ相場では逆張り」のロジック
    5. 4-5. 手法を「使い分ける」感覚
    6. 4-6. 監視銘柄600〜700という驚異の世界
    7. 4-7. 使うツールはシンプル——楽天証券マーケットスピード
    8. 4-8. 2チャンネルからの情報収集
    9. 4-9. 「相場は常に移り変わっている」
  6. 第5章 25日移動平均乖離率という武器——逆張りスイングの真髄
    1. 5-1. 「乖離率」とは何か
    2. 5-2. なぜ「25日」なのか
    3. 5-3. 「移動平均線への回帰」という原理
    4. 5-4. BNFさん流の乖離率の見方
    5. 5-5. 「相場の地合い」によって変わる乖離率
    6. 5-6. ボリンジャーバンドとの併用
    7. 5-7. 「セリングクライマックス」と出来高の重要性
    8. 5-8. エントリー後の管理
    9. 5-9. 失敗したときの損切り
    10. 5-10. 逆張り手法の「現在の有効性」
  7. 第6章 連れ高戦略——順張りスイングと監視銘柄600〜700の世界
    1. 6-1. 「連れ高」とは何か
    2. 6-2. BNFさんが語る連れ高の具体例
    3. 6-3. 連れ高を捕まえる難しさ
    4. 6-4. なぜ600〜700銘柄も監視するのか
    5. 6-5. 順張りでも「初動」を捕まえる
    6. 6-6. 「ザラ場での観察」が肝心
    7. 6-7. 順張りでの利確基準
    8. 6-8. 順張りでも損切りは徹底
    9. 6-9. 大型株中心への移行
    10. 6-10. 「住友金属事件」——順張りの威力
  8. 第7章 損切りの哲学——「コツコツ負けてドカンと勝つ」
    1. 7-1. なぜ損切りが投資のすべてなのか
    2. 7-2. 「コツコツ負けてドカンと勝つ」という発想
    3. 7-3. 「セクター単体の損切り」を躊躇しない
    4. 7-4. 「資金効率」という発想
    5. 7-5. 損切りラインの設定
    6. 7-6. 「リーマン株7億円損失」の教訓
    7. 7-7. 「年間37億円のプラスでも、危なかった」
    8. 7-8. 「メンタル」と「ルール」のバランス
    9. 7-9. 「大損だけはしないように」
    10. 7-10. 損切りの本質——「自分の判断が間違っていたことを認める」
  9. 第8章 資金管理——現物取引へのこだわりと分散の思想
    1. 8-1. 「信用取引は絶対やっちゃいけない」
    2. 8-2. 信用取引のリスクを理解する
    3. 8-3. なぜBNFさんは現物にこだわったのか
    4. 8-4. 「資産を作る段階で」という限定
    5. 8-5. ポジションの分散——資産規模による変化
    6. 8-6. 「現金比率」も柔軟に変える
    7. 8-7. 「持ち越し」をするかどうかの判断
    8. 8-8. 孫正義さんの依頼を断った理由
    9. 8-9. 「税金は逃げない」というスタンス
    10. 8-10. 資金管理の本質——「致命傷を避ける」
  10. 第9章 唯一の師、ジェシー・リバモア——BNFが読んだたった一冊の本
    1. 9-1. 「投資本は一冊しか読んでいない」
    2. 9-2. ジェシー・リバモアとは何者か
    3. 9-3. リバモアの教えとBNFの実践
    4. 9-4. なぜリバモアだったのか——「破産しても再起する」精神
    5. 9-5. リバモアの悲劇的な最期
    6. 9-6. 「自分の手で学ぶ」という姿勢
    7. 9-7. 「リバモア+BNF流」の独自進化
    8. 9-8. 投資本との付き合い方
    9. 9-9. 「リバモア本」を読むべきか
  11. 第10章 不動産投資への進出——「現金化しにくいもの」への分散
    1. 10-1. なぜ不動産だったのか
    2. 10-2. 「自己コントロール」のための不動産投資
    3. 10-3. 「チョムチョム秋葉原」の購入
    4. 10-4. 「AKIBAカルチャーズZONE」と渋谷のビル
    5. 10-5. なぜ「秋葉原」と「渋谷」と「すすきの」だったのか
    6. 10-6. 株式投資との違い
    7. 10-7. 「ステルス化」した資産運用
    8. 10-8. 「東京電力債」の購入
    9. 10-9. 不動産投資から学ぶこと
  12. 第11章 同時代の天才たち——cis、テスタ、片山晃との比較
    1. 11-1. 「日本三大個人投資家」と言われた時代
    2. 11-2. cis(森貴義)との比較
    3. 11-3. テスタとの比較
    4. 11-4. 片山晃(五月)との比較
    5. 11-5. なぜBNFさんは「沈黙」を選んだのか
    6. 11-6. ジム・ロジャーズや孫正義との対比
    7. 11-7. 「天才」の定義の多様性
    8. 11-8. 「孤独」を選んだトレーダー
  13. 第12章 BNFの生活哲学——カップ麺を食べる190億円の男
    1. 12-1. 「高いものを食べるのは苦痛」
    2. 12-2. 「家から出ない」生活
    3. 12-3. タワーマンションのトレードルーム
    4. 12-4. 親孝行の高級車
    5. 12-5. 「2億円の豪邸」
    6. 12-6. 「お金を使わない」という選択
    7. 12-7. 浦えりかさんとの噂
    8. 12-8. 「儲かっても浪費しない」
    9. 12-9. 「お金を使わない」ことのデメリット
    10. 12-10. 「お金は道具」という哲学
  14. 第13章 現代の市場でBNF手法は通用するのか
    1. 13-1. 「2000年代の相場」と「2020年代の相場」は別物
    2. 13-2. HFT(高頻度取引)の影響
    3. 13-3. それでもBNF哲学は通用する
    4. 13-4. 25日移動平均乖離率は、まだ機能するのか
    5. 13-5. 「監視銘柄700」は現代でも有効か
    6. 13-6. 「順張り戦略」は今こそ重要
    7. 13-7. 「個人投資家のアドバンテージ」は何か
    8. 13-8. 「BNF時代」と「現代」の架け橋
    9. 13-9. 「個人投資家の黄金時代」は終わったのか
    10. 13-10. 「BNFになるための条件」
  15. 第14章 BNFが個人投資家に遺した教訓
    1. 14-1. 教訓1:「相場に自分の思いは一切通用しない」
    2. 14-2. 教訓2:「損切りは早く、徹底的に」
    3. 14-3. 教訓3:「自分のスタイルを確立する」
    4. 14-4. 教訓4:「資金管理を徹底する」
    5. 14-5. 教訓5:「相場環境に応じて手法を変える」
    6. 14-6. 教訓6:「市場との接触時間を増やす」
    7. 14-7. 教訓7:「儲かったお金を浪費しない」
    8. 14-8. 教訓8:「分散と集中のバランスを取る」
    9. 14-9. 教訓9:「市場退場しないこと」
    10. 14-10. 教訓10:「孤独に耐える」
  16. おわりに
  17. 参考資料
    1. 一次資料(BNF氏本人の発言・インタビュー)
    2. 二次資料(解説・分析)
    3. 関連書籍
    4. 漫画・メディア
    5. 関連解説サイト
    6. 補足

はじめに——なぜ今、BNFを語るのか

日本の個人投資家の歴史を語る上で、絶対に外せない名前が一つあります。それが、BNF——本名、小手川隆さんです。

160万円という、決して大金ではない元手から始まり、わずか8年で資産200億円超を築き上げた男。2005年12月8日に起きたみずほ証券の誤発注事件、いわゆる「ジェイコム事件」では、わずか10分ほどの間に約20億円もの利益を手にし、「ジェイコム男」「無職の億万長者」と一気に時の人となった人物です。

しかし、私がBNFさんに本当に惹かれるのは、その途方もない数字のためではありません。

数字だけ見れば、確かに伝説的です。けれど数字以上に興味深いのは、彼の「思考の在り方」だと感じています。なぜ彼は勝ち続けることができたのか。なぜ巨額の利益を上げながら、カップ麺をすすって生活していたのか。なぜ孫正義さんから資産運用を依頼されても断ったのか。なぜ今、表舞台から姿を消しているのか。

この記事では、私が長年BNFさんの発言や手法を追いかけてきた中で見えてきた「BNFという人間の本質」を、できる限り分かりやすく、そして深く掘り下げていきたいと思います。

世の中には「BNFの手法をマネすれば勝てる」式の解説がたくさんあります。しかし、私はそれを書くつもりはありません。なぜなら、彼の手法を技術的にコピーしても、絶対に再現できないからです。本当に学ぶべきは、彼が市場と向き合うときの「姿勢」、つまり投資哲学そのものだと考えるからです。

書籍を一冊も読まず(正確には、生涯でほぼ一冊しか投資の本を読んでいません)、独学で頂点まで上り詰めた青年が、いったい何を考え、何を信じ、何を捨てたのか。

これから1万字、2万字、いや10万字以上の長旅になります。退屈しないよう、できるだけ具体的なエピソードと、本人が雑誌や2ちゃんねるで実際に語った言葉を引用しながら、丁寧に紐解いていきたいと思います。

それでは始めましょう。


第1章 BNFという男——千葉の青年が伝説になるまで

1-1. 千葉県市川市に生まれた内気な少年

BNFこと小手川隆さんは、1978年3月5日、千葉県市川市で生まれました。Wikipediaや複数のメディア情報を総合すると、地元の小学校時代は少年野球をやっており、中学・高校では短距離走の選手だったといいます。

ご本人がインタビューで「これでも小学生のころは少年野球、中学・高校は短距離走をやっていて、日焼けした健康的なスポーツ少年だったんですけどね」と語っているように、決して最初から引きこもりタイプだったわけではないようです。

ところが、大学に進学した頃から、彼の人生は大きく方向転換していきます。一浪して日本大学法学部に入学したものの、人とのコミュニケーションが得意ではなく、サークルにも入らず、友達もほとんどおらず、自宅で過ごす時間が長い学生生活を送っていたとされています。

ここで皆さんに想像してみてほしいのですが、2000年前後の大学生というのは、まだスマートフォンもなく、SNSも存在しない時代です。ネットといえばパソコンの前に座って接続するもので、コミュニケーションの中心はリアルの友人関係でした。そんな時代に「人付き合いが苦手」というのは、今よりずっと孤独だったのではないかと想像します。

しかし、彼にとっては、その「人と関わらない時間」こそが、後に伝説を作る土台になっていきます。

1-2. 160万円という元手の意味

小手川さんが株式投資を始めたのは、大学3年生だった2000年のことです。

元手は160万円。お年玉やアルバイトで貯めた、ご本人にとっては全財産に近い金額でした。

ここで一つ、私が重要だと思っているポイントがあります。多くの解説記事では「160万円という少額からスタート」と書かれていますが、当時の大学生にとっての160万円は、現代の感覚で言えば300〜400万円相当の重みがあったはずです。決して「気軽に失えるお小遣い」ではありませんでした。

しかし、BNFさんは後のインタビューでこう語っています。

「自分の場合は、最初は学生で失うものがなかったんです。『最悪、全部なくなっても仕方ない』くらいの気持ちがあったんですよね。だから思い切ってリスクが取れた」

この発言、一見すると「若かったから無謀になれた」と受け取れます。けれど私は、ここに彼の本質の一端があると考えています。

つまり、リスクを取れる人とリスクを取れない人の差は、「資金量」ではなく「失っても再起できると信じられるかどうか」なのです。学生で失うものがない、というのは物理的な意味だけでなく、精神的な意味でも「やり直せる」という余裕を持てる状態だったということでしょう。

逆に言えば、社会人になり、家族を持ち、住宅ローンを抱え、立場が上がってくると、人は「失えない」状態になっていきます。多くの個人投資家が大きな勝負をできない最大の理由は、ここにあるのではないでしょうか。

1-3. 株を始めた2000年——史上最悪のタイミング

BNFさんが投資を始めた2000年4月、日経平均株価は20,833円の高値を付けていました。そしてそこから、ITバブルの崩壊が始まります。

3年後の2003年4月には、日経平均は7,603円まで下落。実に13,000円以上の下げ、率にして約63%の暴落です。

これがどれほど厳しい相場だったか、当時を知らない方には想像が難しいかもしれません。普通の投資家であれば、この3年間で「市場退場」が当たり前。むしろ「無事に生き残っている」ほうが珍しいレベルです。

しかし、BNFさんはこの史上最悪の下げ相場の中で、160万円を1億円超まで増やしてしまうのです。

私はこれを聞いたとき、ものすごく違和感を持ちました。だって、株価が下がっている相場で資産を100倍にするなんて、普通に考えれば不可能だからです。

ところが、BNFさんは後のインタビューで、こう種明かしをしています。

「(180万を1億にする過程で)すごい下げ相場だった。その中で、現物のみの短期の逆張りで儲けた」

つまり、下げ相場こそが彼のチャンスだったのです。なぜなら、下げすぎた株は必ずリバウンドする。その「下げすぎ」がきつければきついほど、戻りも大きい。そこを狙い撃ちすることで、彼は資産を増やしていきました。

この「下げ相場で勝てる」という発想こそが、私たち凡人と天才の決定的な違いだと感じます。普通の人は、下げ相場では「怖くて買えない」、上げ相場では「もう買い場を逃した」と感じる。けれどBNFさんは、下げ相場をむしろ「歓迎」していました。

これは性格の問題ではなく、相場観の問題です。彼は、市場が一方的に下げ続けることはあり得ない、必ず反発が来ると確信していたから、恐怖を感じずに買えたのです。

1-4. 「ラッキー」と本人が語る初期の幸運

意外なことに、BNFさんはご自身の初期の成功を「ラッキーだった」と謙虚に語っています。

「始めた頃にラッキーなことが続いて。長期投資時代、CSKと富士ソフトABCのどちらかを買うか迷って、理由もなく後者を選んだ。すると直後にCSKが悪材料発表で暴落したんです。短期投資に切り替えた直後も、日本ドレーク・ビーム・モリンとアデルで迷って、なんとなく後者を選んだら、場後にドレーク・ビーム・モリンが下方修正で大暴落。ここで資金が半減してたら、やる気をなくしてたと思います。いま1億円損するより、ダメージが大きいんですから」

このエピソード、私はとても示唆に富んでいると思います。

最初は「長期投資」をしていたのに、なぜか直感的に「これじゃない」銘柄を避けることができ、大きな損失を回避できた。そして、その経験から「短期投資のほうが性に合う」と気づき、スイングトレードに転換していった——という流れです。

「ラッキー」という言葉を使っているのは謙遜だと思いますが、もし本当に運だけだったとしても、運も実力のうちです。重要なのは、彼が「これは運だ」と認識しつつ、その経験から学んで自分のスタイルを見つけていったことだと思います。

多くの人は、最初の小さな失敗で投資を辞めてしまいます。あるいは逆に、最初の小さな成功を「実力」と勘違いして、調子に乗って大損します。BNFさんは、その両方を避けて、淡々と自分の戦略を磨いていきました。

1-5. 2年で1億円——大学中退の決断

160万円が1億円になったのは、2002年末のことだったと、複数のインタビューで本人が語っています。投資開始からわずか2年での快挙です。

「02年末には、最初の140万円が1億円ほどになっていました。その時点で、就職せずにこのまま株取引をやっていこうと思ったんです。とりあえず25歳まで、これを続けようと。ダメだったら、就職しようという考えだったんです」

ここで私が注目したいのは、「1億円できたから、もう一生安泰だ」と思わなかったところです。彼は「とりあえず25歳まで」「ダメだったら就職」という、現実的なリミットを設定していました。

これは、投資家として非常に健全な姿勢だと思います。連勝しているときほど、人は「自分は天才だ」「もうリスクはない」と過信しがちです。けれどBNFさんは、たった2年で1億円を作ったにもかかわらず、「これは続くかどうか分からない」と冷静に判断していました。

ちなみに、大学は卒業までの単位を2科目残したまま中退しています。普通に考えれば、あと少しで卒業できる単位を残して中退するのはもったいない。けれど彼にとっては、すでに大学を出る意味はなくなっていたのでしょう。

ここに、彼の合理主義的な側面が表れています。「世間体」や「常識」よりも、自分にとって本当に必要なものを優先する。これも、投資家として大事な資質だと感じます。

1-6. 2ちゃんねるで生まれた「B・N・F」というハンドルネーム

2004年2月、小手川さんは2ちゃんねるの「市況実況板」「ニュース速報板」「投資一般板」などに、「B・N・F」というハンドルネームで書き込みを始めます。

このハンドルネーム、何の頭文字だと思いますか?

答えは、彼が尊敬するアメリカの投資家、ビクター・ニーダーホッファー(Victor Niederhoffer)のイニシャルをもじったものです。

ニーダーホッファーという人物、知らない方も多いと思うので少し説明します。彼は1980年代から1990年代にかけて活躍したヘッジファンドマネージャーで、「世界一の投資家」と呼ばれた時期もある人物です。しかし、1997年のアジア通貨危機で5,000万ドル(約50億円)の損失を出し、一度は破産します。その後、再起して再び100億円を稼いだことから「不死鳥」と呼ばれた、波乱万丈の人生を送った投資家です。

BNFさんがなぜニーダーホッファーに憧れたのか、本人は詳しく語っていません。しかし、私の推測では、「破産しても再起できる」という不屈の精神に共感したのではないかと思います。

普通、投資家が憧れるのは、バフェットやソロスのような「ずっと勝ち続けている人」です。けれどBNFさんは、「一度は破産した人」を尊敬した。ここに、彼独自の感性が表れている気がします。

書き込みを始めた2004年2月時点で、すでにBNFさんの資産は1億円を超えていました。最初は誰も信じませんでしたが、書き込み内容の的確さや、相場観の鋭さから、次第に2ちゃんねるでも一目置かれる存在になっていきます。

2004年末の時点で、資産は11億5,000万円にまで膨らんでいました。投資開始から4年で、160万円が11億円——実に700倍以上の増加です。

1-7. 「ジェイコム事件」で全国区へ

そして運命の2005年12月8日が訪れます。後ほど詳しく解説しますが、この日のジェイコム株大量誤発注事件で、BNFさんは約20億3,500万円の利益を手にし、一夜にして全国に名前を知られる存在となりました。

事件当時、BNFさんは27歳。すでに資産80億円程度を持っていたといわれていますが、世間からは「無職の青年が、たまたまの誤発注事件で巨万の富を得た」と誤解されることが多かったようです。

しかし真実は逆で、すでに資産80億円を持っていた天才トレーダーが、誤発注を冷静に判断して20億円を上乗せした、というのが正確な姿です。

このジェイコム事件をきっかけに、多くのメディアが彼に取材を申し込み、テレビ番組にも出演します。2006年2月のテレビ東京「ガイアの夜明け」、その他にも『ダイヤモンドZAi』『週刊ポスト』『日経新聞』『AERA』『週刊朝日』『週刊新潮』など、数えきれないほどの雑誌で取り上げられました。

特に2008年5月17日には、日本経済新聞の1面に顔写真入りで紹介されるという、個人投資家としては異例の扱いを受けています。

1-8. 200億円の男、そして沈黙へ

2008年末には、資産が200億円を突破していたと報じられています。160万円から始めて、わずか8年で約12,500倍。普通の人の生涯年収を、数日で稼いでしまうレベルです。

しかし、2009年頃を境に、BNFさんはメディアへの露出を一切やめてしまいます。

2008年12月30日のラジオNIKKEIへの電話出演を最後に、表舞台からほぼ完全に姿を消したのです。

その後の動向は、有価証券報告書の大株主欄や、不動産取引の登記情報など、間接的な情報からしか追えなくなりました。2008年10月に秋葉原の商業ビル「チョムチョム秋葉原」を約90億円で購入。2011年には同じく秋葉原の「AKIBAカルチャーズZONE」を推定170億円で購入。2013年頃には渋谷センター街にもビルを建設していると報じられています。

2021年には不動産会社「ランド」(証券コード8918)の大株主名簿に名前が確認され、「引退していなかった」ことが明らかになりました。

そして2024年には、投資家のバイブルとされる『会社四季報』にもその名前が載らなくなったと報じられています。これは「引退した」のではなく、保有比率を5%未満に抑える「ステルス投資」に切り替えたためだと推測されています。

現在の推定資産は、控えめに見積もっても数百億円、最大で2,000億円規模ともいわれています。ただし、本人が一切メディアに登場しないため、正確な数字は誰にも分かりません。

ここからの章では、この謎多き天才トレーダーの「投資哲学」について、彼自身の発言を一つひとつ拾い上げながら、徹底的に深掘りしていきたいと思います。


第2章 「相場に自分の思いは一切通用しない」——投資哲学の核心

2-1. 投資哲学を一言で表すなら

BNFさんの投資哲学を最も端的に表現している言葉は、私の見立てでは、これだと思います。

「相場に自分の思いは一切通用しない。『ここまで儲けたいから、これだけ買う』という考え方は必ず失敗する」

この一文に、彼の哲学のすべてが詰まっているといっても過言ではありません。

「自分の思い」とは何でしょうか。希望、欲望、期待、恐怖、プライド——あらゆる感情がそこに含まれます。そして相場は、そうした人間の感情とは無関係に動きます。

「この銘柄、絶対に上がるはずだ」と信じても、上がらないときは上がりません。「これだけ持っていればいつか必ず元に戻る」と祈っても、戻らないときは戻りません。「ここまで下がったらもうそろそろ底だろう」と思っても、さらに下がることがあります。

BNFさんはこの「相場の冷酷な現実」を、誰よりも早く、誰よりも深く理解した人だと感じます。

2-2. なぜ「思い」が邪魔をするのか

投資の世界では、「自分の思い」が邪魔をして失敗するパターンが、ほぼすべての敗北パターンに当てはまります。

たとえば、こんな経験はないでしょうか。

買った株が下がり始めた。「あと少し待てば戻るはず」と思って保有を続ける。さらに下がる。「いまさら損切りしたら損が確定してしまう」と思って、また保有を続ける。最終的に塩漬けになる——。

あるいは、こんなケースもあります。

ある銘柄で大儲けした。「次もきっと勝てる」と思って、いつもより大きなポジションを取る。負ける。「取り返さなければ」と思って、さらに大きく張る。さらに負ける。資金がなくなる——。

これらすべてに共通するのは、「自分の思い」が判断を歪めているということです。

BNFさんが言いたかったのは、「思いを捨てて、相場そのものを見ろ」ということだと、私は解釈しています。

2-3. 「自分は短期投資なんで」という割り切り

BNFさんは、自分のスタイルを次のように語っています。

「自分は短期投資なんで、上がると思ったら買うし、下がると思ったら売るだけです。持っている株よりもさらに上がりそうな株があったら、迷わずに乗り換えます。ちょっと損しているとか、利益がどれだけあるとかは考えられない。そういうのを気にしてると、チャンスを失っちゃうんで」

これ、すごく示唆に富む発言だと思います。

普通の人は、「いま持っている株」に愛着を持ちます。買ったときに払ったお金、保有している間に感じた期待、株価が上下するたびに揺さぶられた感情——そういうものが積み重なって、「この株を売るのが惜しい」という気持ちになります。

しかしBNFさんにとって、保有している株は「単なる現在のポジション」でしかありません。もっと上がりそうな株があれば、いま持っている株を売って乗り換える。それだけのことです。

ここに、「サンクコスト(埋没費用)に囚われない」という、合理的投資家の典型的な思考が表れています。

過去にいくら払ったか、過去にいくら儲かったか・損したかは、未来の判断には一切関係ありません。重要なのは「いまから先、どの選択肢が最も利益をもたらすか」という未来の期待値だけです。

これを言葉で言うのは簡単ですが、実践するのは本当に難しい。多くの投資家がここで挫折します。

2-4. 「いまより上がると思ったら買い、いまより下がると思ったら売る」

別のインタビューで、BNFさんはさらに踏み込んでこう語っています。

「いまより上がると思ったら買い、いまより下がると思ったら売りますね。どうなればそう思うのかについては、ちょっと……。その銘柄の動きだけで決めてるわけではないです。日経平均や日経先物の動き、同じセクターの他銘柄の動き、全体の出来高、アメリカ市場の水準や出来高など、いろんな要素を見て、総合的に判断してるとしか言いようがない。全体を見るほうが、その銘柄がちゃんと見えてくるんですね」

「総合的に判断してるとしか言いようがない」——この一言、私は重要だと思っています。

多くの投資手法解説書は、「この条件がそろったら買い」「この条件がそろったら売り」という、明確なルールを提示します。それは確かに分かりやすく、再現性も高いように見えます。

しかし、本当に勝ち続けている投資家ほど、「ルール化できない感覚的な判断」を重視している傾向があります。BNFさんもそうです。

なぜでしょうか。

それは、相場が常に変化しているからです。同じパターンが続くなら、誰でも勝てます。しかし、過去のパターンは未来に必ず通用するわけではありません。だからこそ、機械的なルールではなく、「全体を見て総合的に判断する」感覚的な判断力が必要になるのです。

ここでいう「感覚」とは、ヤマ勘や直感とは違います。膨大な経験とデータの蓄積から導き出される、半ば無意識的な判断のことです。BNFさんが600〜700銘柄の値動きを頭に入れているのも、この「感覚」を磨くためです。

2-5. 「儲けそこなうのも損と同じくらいつらい」

BNFさんの発言の中で、私が最も「らしさ」を感じるものの一つが、これです。

「儲けそこなうのも損と同じくらいつらいので、株式投資をやめられません。どうせつらいなら、投資を続けた方がいい。僕にとって投資は金額の問題ではないんです」

普通の人にとって、「損」と「儲けそこない」は別物です。

損は、明確に資産が減ること。一方、儲けそこないは「もし買っていれば儲かったはずの利益を逃したこと」で、実害はありません。

しかし、BNFさんはこの二つを同等に扱います。「機会損失」を、実損失と同じくらい嫌うのです。

これは、彼が「ポジションを持っているかどうか」よりも、「市場の中で最適な選択ができているか」を重視している証拠だと思います。

普通の人は、「持っている株が上がらないこと」を気にしますが、「持っていない株が上がること」はあまり気にしません。なぜなら、自分のお金は減らないからです。

しかしBNFさんにとっては、「最適な銘柄に資金を配分できていない状態」自体が機会損失であり、つらいことなのです。

この感覚は、おそらく一般人にはなかなか理解できないものでしょう。けれど、本当に勝ち続けている投資家は、おそらく皆この感覚を持っているのではないかと思います。なぜなら、市場全体を相手に「最高のパフォーマンス」を目指している人にとって、機会損失は実損失と同じくらい大きな意味を持つからです。

2-6. 「天才」の定義の変化

BNFさんの発言の中で、私が最も「孤独」を感じるのが、これです。

「天才とは10億円の資金を1000万円と同じ感覚で動かせる人だと思っていたころは、10億円が夢の数字でした。でも、3億円を超えたあたりでだんだん感覚がまひして怖くなってきました。いまの僕の中での天才の定義は、『500億円を1000万円と同じ感覚で……』ですかね」

これ、しみじみと考えさせられます。

普通の人にとって、お金が増えるのは喜ばしいことです。しかしBNFさんは、資産が増えるにつれて「感覚がまひして怖くなってきた」と語っています。

なぜでしょうか。

それは、扱う金額が大きくなるほど、一日の値動きで動くお金が桁違いになるからです。

たとえば、資産1,000万円の人にとって、1日に株価が1%動くということは、10万円の変動を意味します。これは一日の食費を超える金額ですが、まだ「実感」のある範囲です。

しかし、資産100億円の人にとって、同じ1%の動きは1億円の変動を意味します。1日で家が建つ金額が動くのです。これを「普通のこと」として受け入れられる精神力が必要になります。

BNFさんは、3億円を超えたあたりから「感覚がまひして怖くなった」と語ります。つまり、彼の感覚でいえば、1〜3億円というのが「金額を実感できる限界」だったのでしょう。

そして、最終的に200億円超まで増やしたとき、彼の感覚はどうなっていたのか。本人は多くを語っていませんが、おそらく「数字を見るだけの存在」になっていたのではないかと推察します。

これは、お金持ちが必ずしも幸せではないことを示す、興味深い実例だと思います。

2-7. 「最悪、全部なくなっても仕方ない」というスタート地点

すでに引用しましたが、BNFさんは投資を始めた頃の心境をこう語っています。

「自分の場合は、最初は学生で失うものがなかったんです。『最悪、全部なくなっても仕方ない』くらいの気持ちがあったんですよね。だから思い切ってリスクが取れた」

この「失うものがない」という状態は、投資家にとって非常に重要だと思います。

なぜなら、人間は「失うことへの恐怖」が「得る喜び」の2倍以上あると言われているからです(プロスペクト理論)。同じ100万円の損と利得を比較したとき、損のほうがはるかに痛く感じるのです。

これが投資判断を歪めます。たとえば、損切りができない人が多いのは、「いま損を確定するくらいなら、もう少し待ってみよう」と思うからです。これも、損失回避の本能が働いている結果です。

BNFさんは、「全部なくなっても仕方ない」というスタートラインに立っていたことで、この恐怖から解放されていました。だから、損切りも淡々とできた。チャンスにも飛び込めた。

しかし、皮肉なことに、資産が増えるほどこの恐怖は強くなります。「ここまで増えたものを失いたくない」という気持ちが、判断を鈍らせるのです。

BNFさんが「3億円を超えたあたりで感覚がまひして怖くなった」と語っているのは、まさにこの心理が働き始めたタイミングなのかもしれません。

2-8. 「儲かったのは僕の実力じゃなくて、単に時代のおかげ」

BNFさんの発言の中で、最も謙虚さを感じるものが、これです。

「儲かったのは僕の実力じゃなくて、単に時代のおかげ。すべては相場環境しだいなんですよ」(CIRCUS 2006年04月号)

これ、本当に天才としか言いようがない発言です。

普通、200億円も儲けた人は、「自分は天才だ」「特別だ」と思いがちです。少なくとも、口には出さなくても、内心ではそう感じている人が多いでしょう。

しかしBNFさんは、「時代のおかげ」と言い切ります。

私はこれを、単なる謙遜ではなく、彼の本心だと思っています。

なぜなら、彼が活躍した2000年代初頭は、ネット証券が普及し始めたばかりで、デイトレーダーの数も少なく、市場の「歪み」が大きかった時代だからです。

「当時はリバ(ウンド)狙いだけですごく取れたんで。ある会社が下方修正して、100万円の株価が50万円まで落ちたところで買えば、かなりのリバウンドがあった。いまはデイトレーダーが増えたので、そこまで下げない。70万ぐらいで中途半端な買いが入るから、ほとんどリバウンドもないまま、再びダラダラ下げ始めたりする。参加者が少ない時代は動きが素直だったんですね」

このように、BNFさんは「自分の手法が通用したのは、市場参加者が少なかったから」と冷静に分析しています。

「天才」と呼ばれる人ほど、自分を客観視できる。これは、本当に大事な資質だと思います。

2-9. 「未練が残るのがイヤだから」

BNFさんが投資を続ける理由について、こんな発言があります。

「可能性が目の前にあるのに無視するのは損するのと同じ。未練が残るのがイヤだから、惰性で延々と続けているだけなんです」

この発言、矛盾しているようで、実は核心をついていると思います。

200億円も資産があれば、もう一生遊んで暮らせるはずです。普通なら投資を辞めて、悠々自適の生活を送ってもいいはずです。

しかしBNFさんは、「惰性で続けている」と言います。

なぜか。それは、「目の前にあるチャンスを無視するのが嫌だから」です。

これは、彼が「儲けそこなうのも損」と感じる感覚と一致します。彼にとって投資は、もはや「儲けるための手段」ではなく、「市場のチャンスを逃さないこと自体が目的」になっているのです。

私はこの感覚を、職人の感覚に似ていると感じます。お金のためではなく、ただ自分の仕事を続けたいから続ける。それと同じです。

2-10. 哲学の核心——「市場を観察する者」であること

ここまでの発言を総合すると、BNFさんの投資哲学の核心は、こう要約できると思います。

「自分の思いを捨てて、ただ市場を観察する者であれ」

希望や恐怖、欲望や期待を持ち込まず、ただ市場のシグナルを冷静に読み取る。良いと判断したら買い、悪いと判断したら売る。儲かったら淡々と利確し、損切りも躊躇しない。

これだけです。

シンプルですが、実践するのは恐ろしく難しい。なぜなら、人間は感情の生き物だからです。

しかし、BNFさんはこの「感情を持たない投資家」になり切ることで、伝説を作り上げました。

次の章では、この哲学が最も鮮烈に発揮された瞬間——ジェイコム事件——について、徹底的に掘り下げていきます。


第3章 ジェイコム事件——わずか10分で20億円を手にした冷静さ

3-1. 2005年12月8日、午前9時27分56秒

日本の証券史に永遠に刻まれる事件が起きたのは、2005年12月8日、午前9時27分56秒のことでした。

この日、新規上場を予定していた人材派遣会社ジェイコム(証券コード:2462、現・ライク株式会社)の株式について、みずほ証券の男性担当者が、致命的なミスを犯します。

「61万円で1株売り」とすべき注文を、「1円で61万株売り」と入力してしまったのです。

これがどれほど異常な注文だったか、少し説明します。ジェイコムの発行済み株式総数は、わずか1万4,500株でした。それに対して「61万株売り」という注文は、発行済み株式の約42倍。物理的に存在しない株を売ろうとする、絶対にあり得ない注文だったのです。

普通なら、東証のシステムが「異常注文」として自動的に弾くはずでした。しかし、この日の東証システムには不具合があり、なんと注文を受け付けてしまいます。

担当者はすぐにミスに気づき、取り消し注文を出します。しかし、東証システムの不具合で、取り消し注文も正常に処理されません。

その間に、市場では大混乱が発生していました。

3-2. 市場の混乱と取引参加者の動揺

ジェイコム株は、初値67万円で寄り付くと予想されていました。しかし、誤発注の「1円で61万株売り」という巨大な売り注文が降ってきたことで、株価は一気にストップ安まで下落します。

普通の投資家から見れば、「何かとてつもない悪材料が出たのか?」と思うような暴落でした。新規上場銘柄が、寄り付き直後にストップ安に張り付くというのは、極めて異常な事態です。

しかし、2ちゃんねるなどのネット掲示板では、ほぼリアルタイムで「これは誤発注ではないか?」という指摘が飛び交っていました。

なぜなら、発行済み株式数を超える売り注文が出ているという情報が、すぐに広まっていたからです。

3-3. BNFさんの冷静な判断

このとき、BNFさんは何をしていたのでしょうか。

複数の証言を総合すると、BNFさんは、市場が混乱している様子を見て、すぐに「これは誤発注だ」と判断します。そして、ストップ安近辺で買い注文を出し始めたのです。

具体的には、

  • 67万円で寄り付きを待つ
  • 64万円で50株の買い注文を入れ、63万円で約定
  • さらに50株の追加注文
  • 価格が下がり続けるのを見て、ストップ安まで一気に買い向かう

という流れだったとされています。

最終的に、BNFさんはジェイコム株を7,100株取得しました。発行済み株式の約49%にあたる量です。

そして同日中に1,100株を市場で売り抜けます。残る6,000株(発行済み株式の41.38%)については、現金決済(最終的に20億3,500万円)で利益を確定させました。

3-4. 「いつもと変わらず冷静だった」

事件後、BNFさんは取材に対して、こう答えています。

「いつもと変わらず冷静だった」

これ、私は何度読んでも信じられない言葉です。

10分そこそこで20億円の利益を出す——普通なら、興奮で手が震えるはずです。心臓がバクバクして、まともに判断できなくなるのが当然です。

しかしBNFさんは、「いつもと変わらず冷静だった」と。

ここに、彼の異常なまでの「感情コントロール能力」が表れています。

3-5. みずほ証券の損失と東証システムの問題

一方、誤発注を起こしたみずほ証券は、大変な事態に陥っていました。

午前9時37分、取り消し注文が機能しないと判断したみずほ証券は、自社で売った株をすべて買い戻す「反対売買」を行うことを決断します。

しかし、すでに市場には買い注文が殺到していました。普通の投資家だけでなく、誤発注に気づいた機関投資家やヘッジファンドが、こぞって買いに走ったからです。

ストップ安にまで下落していたジェイコム株価は、一気に72万円にまで急騰。みずほ証券は、極めて高い価格で自社のポジションを買い戻すしかなくなりました。

最終的に、みずほ証券はこの事件で約407億円の損失を被ったと公表されています(後に金融庁の業務改善命令を受けています)。

わずか7分間で400億円超の損失——それも、たった1人の社員のキーボード入力ミスが原因——という、日本の証券史上最大級の事故となりました。

3-6. 利益分配問題——「不当利得」かどうか

事件後、社会的な議論として浮上したのが、「BNFさんを含む利益を得た投資家たちは、その利益を返還すべきか?」という問題です。

一部からは、「みずほ証券のミスにつけ込んで巨額の利益を上げるのは道義的に問題だ」「不当利得ではないか」という声が上がりました。

しかし、法的には、彼らの取引は完全に合法でした。市場に出された注文に対して、ルール通りに買い注文を出しただけです。

しかも、誤発注を出したのはみずほ証券であり、システム的に注文を受け付けてしまったのは東京証券取引所のシステムバグです。投資家側には、何の責任もありません。

最終的に、利益を得た一部の投資家(証券会社が顧客のために取引したケース)からは、自主的な利益返還が行われました。しかし、BNFさんを含む個人投資家は、利益を返還する義務はありませんでした。

BNFさんも、利益を返還することはしませんでした。これは批判もされましたが、私は彼の判断は合理的だったと思います。市場のルールに従って取引した以上、その利益は彼のものです。「道義的に」というのは、感情論でしかありません。

ちなみにBNFさんは、後にこう発言しています。

「批判には慣れているので『またか』という印象です」

これは、2008年1月に当時の経済産業事務次官・北畑隆生氏がデイトレーダーを批判する発言をしたことに対して、BNFさんがコメントしたものです。

「またか」という反応に、彼の達観した姿勢が表れています。

3-7. ジェイコム事件の真の教訓

この事件、表面的には「誰かのミスで誰かが大儲け」という単純な話に見えます。しかし、私はもっと深い教訓があると考えています。

それは、「準備していた者だけが、千載一遇のチャンスをモノにできる」ということです。

ジェイコム事件が起きたとき、世の中には何百万人もの投資家がいました。その中で、瞬時に「これは誤発注だ」と判断し、「買えるだけ買う」と決断し、実際に資金を投入できた人は、ほんの一握りです。

BNFさんは、すでに資産80億円を持っていました。だからこそ、20億円を投じる勇気と、それだけの資金力があったのです。

もし彼が資産1,000万円しか持っていなかったら、20億円の利益を上げることはできませんでした。

これは、「準備していた者だけが、チャンスをモノにできる」という、投資の本質を象徴するエピソードだと思います。

ちなみに、BNFさんと並んで、もう一人この事件で名前を上げた天才トレーダーがいます。それがcis(しす)さんです。cisさんもこの日に約6億円の利益を上げたとされており、後に「資産200億円超」の個人投資家となります。

ジェイコム事件は、日本の個人投資家界に「二大巨頭」を生み出した、歴史的な日だったのです。

3-8. メディアの反応と「ジェイコム男」誕生

事件後、BNFさんはあっという間に時の人となります。

メディアは彼を「ジェイコム男」と呼び、その若さ(当時27歳)、無職という設定(実際は専業投資家)、巨額の利益から、連日大々的に取り上げました。

特に話題になったのは、「無職の青年が、たった10分で20億円」という構図でした。当時は「ニート」という言葉が流行語になっていた時期で、「働かずに大金を稼ぐ」というイメージが、社会的な議論を呼びました。

しかし、繰り返しますが、彼は「無職」ではなく「専業投資家」です。そして、ジェイコム事件で偶然儲けたわけではなく、すでに資産80億円を築いていた天才トレーダーでした。

メディアの報道は、しばしばこの点を誤解させるものでした。「働かなくても10分で20億円が手に入る」という、いわゆる「フリーランチ」的なイメージを広めてしまったのです。

これは、後にデイトレード人口が爆発的に増える一因となります。「自分も同じことができるのではないか」と夢を見た人が、こぞって証券口座を開設したのです。

しかし、現実は厳しく、多くの新規参入者は損失を被って退場していきました。市場参加者が増えることで、BNFさん自身も「以前のように簡単には儲からなくなった」と語っていきます。

3-9. 事件が個人投資家史に与えた影響

ジェイコム事件は、日本の個人投資家史において、いくつかの重要な意味を持っています。

第一に、「個人投資家が、機関投資家を圧倒的に上回る利益を上げる」ことが可能だと示したこと。

それまでの常識では、株式市場は機関投資家(証券会社、銀行、保険会社、年金基金など)が支配する場所でした。個人投資家は、その「ゴミのような存在」と見なされていました。

しかし、ジェイコム事件では、誤発注に対して、機関投資家よりも個人投資家のほうが素早く反応し、より大きな利益を上げました。これは、個人投資家の地位を一気に高めた出来事でした。

第二に、「ネット証券の威力」を見せつけたこと。

BNFさんは、楽天証券のマーケットスピードを使っていました。当時、ネット証券は急成長していましたが、まだ「個人投資家のおもちゃ」のような扱いをされていました。しかし、ジェイコム事件で、ネット証券のスピードと利便性が、機関投資家のシステムにも引けを取らないことが証明されました。

第三に、「東証のシステムの脆弱性」を露呈したこと。

東証は、この事件を受けて、システムの大幅な見直しを行いました。発行済み株式数を超える注文を受け付けない仕組みなど、現在の堅牢なシステムは、この事件の反省から生まれたものです。

つまり、ジェイコム事件は、BNFさんに20億円をもたらしただけでなく、日本の証券市場の構造そのものを変えた、歴史的な事件だったのです。

3-10. BNFさんが事件で得たもの・失ったもの

最後に、ジェイコム事件でBNFさんが「得たもの」と「失ったもの」を整理しておきましょう。

得たもの:

  • 約20億3,500万円の現金利益
  • 全国的な知名度
  • 「天才トレーダー」という評価

失ったもの:

  • プライバシー
  • 静かな生活

そして、彼が最も嫌ったのは、おそらく後者の「プライバシー」と「静かな生活」だったのではないかと、私は推測しています。

なぜなら、彼は2009年頃から、メディアへの露出を一切やめてしまったからです。お金は稼げばいいけれど、有名になりたいわけではなかった——そんな本音が透けて見えます。

この章では、ジェイコム事件の詳細と、その背景にあるBNFさんの哲学について書いてきました。次の章からは、いよいよ彼の具体的な投資手法について、深く掘り下げていきます。


第4章 投資手法の全体像——順張りと逆張りの使い分け

4-1. BNFさんの手法は「シンプル」だが「奥深い」

ここから数章にわたって、BNFさんの具体的な投資手法について見ていきます。

最初に断っておきたいのは、彼の手法は、技術的には驚くほどシンプルだということです。複雑な数式やプログラムは一切使いません。テクニカル指標も、「25日移動平均線」と「ボリンジャーバンド」など、誰でも知っている基本的なものばかりです。

しかし、その「使い方」が圧倒的に深い。

たとえば、料理に例えるなら、最高級の料亭の板前さんと、家庭の主婦が、同じ「塩」と「醤油」と「だし」を使って料理しても、出来上がるものは全然違いますよね。BNFさんの手法も、それと同じです。道具は同じでも、使う人によって全く違うものになるのです。

それでは、彼の投資手法の全体像を見ていきましょう。

4-2. 二つの軸——順張りスイングと逆張りスイング

BNFさんの手法は、大きく分けて二つあります。

  1. 順張りスイングトレード:上昇相場で使う手法
  2. 逆張りスイングトレード:下落相場で使う手法

スイングトレードというのは、数日から1週間程度ポジションを保有する短期取引のことです。デイトレード(1日で売買を完結させる)よりは長く、長期投資(数年単位で保有)よりはずっと短い。「中期短期」とでも言えばいいでしょうか。

BNFさんは、相場の地合いを見て、この二つの手法を使い分けます。

「上げ相場では順張りで、下げ相場では逆張りで取る」

シンプルですが、これが彼の根幹です。

4-3. なぜスイングトレードなのか

ここで素朴な疑問が湧きます。なぜBNFさんは、デイトレードや長期投資ではなく、スイングトレードを選んだのか。

これについて、本人は明確に語ってはいませんが、私の推測ではこんな理由があると思います。

デイトレードの場合

デイトレードは、1日のうちに売買を完結させる手法です。ザラ場(取引時間中)の値動きから利益を取ります。

しかし、デイトレードには大きな欠点があります。それは、「1日の値動き」だけでは大きな利益が取りにくいことです。よほど値動きの激しい銘柄を選ばないと、1〜2%の利幅しか取れません。

また、デイトレードは1日中チャートに張り付いている必要があります。集中力の消耗が激しく、長期間続けるのは大変です。

長期投資の場合

長期投資は、数年単位で保有する手法です。バフェットのように、「企業の本質的価値」に基づいて投資します。

しかし、長期投資には「資金回転率が低い」という弱点があります。せっかく良い銘柄を見つけても、5年間で2倍にしかならないなら、年率15%程度です。

BNFさんは、それでは満足できなかったのでしょう。

スイングトレードの場合

スイングトレードなら、1回の取引で2〜3%の利益を取り、それを年間で何十回も繰り返せます。年率にすれば、数倍〜数十倍のリターンも可能です。

しかも、1日中チャートに張り付く必要はありません。エントリーと決済の瞬間さえ押さえれば、あとは寝ていても利益は出ます。

そして、何より大事なのは、「相場の流れ」を読む時間軸がスイングトレードに適していたことです。デイトレードは「数分〜数時間」、長期投資は「数年」の時間軸ですが、スイングトレードは「数日〜1週間」。これは、BNFさんの相場観の時間軸と最もマッチしていたのだと思います。

4-4. 「上げ相場では順張り、下げ相場では逆張り」のロジック

BNFさんの最大の特徴は、「相場環境によって戦略を変える」ことです。

多くの投資家は、「順張り派」か「逆張り派」のどちらかに固定されています。一度自分のスタイルを決めると、相場がどう動こうと同じ手法を続けます。

しかし、これは大きな間違いだと、BNFさんは見抜いていました。

なぜなら、相場には「トレンドが続きやすい局面」と「逆行(リバウンド)が起こりやすい局面」があるからです。

上げ相場の特徴

  • 上昇トレンドが継続しやすい
  • 押し目買いが入りやすい
  • 順張りが機能しやすい
  • 逆張り(空売り)は損切りに追い込まれやすい

下げ相場の特徴

  • 下落トレンドが継続しやすい
  • 戻り売りが入りやすい
  • 順張り(売り)は機能するが、空売り規制で個人投資家には不利
  • 大きく下げた後のリバウンド狙い(逆張り)が機能しやすい

BNFさんは、現物取引しかしないため、空売りはしません。だから、下げ相場では「順張り」(売り方向)ができません。

その代わり、「下げすぎた銘柄を買って、リバウンドで利益を取る」という逆張りを使います。

そして上げ相場では、上昇している銘柄に乗っかる順張りを使う。

このシンプルな使い分けが、彼を200億円トレーダーに押し上げました。

4-5. 手法を「使い分ける」感覚

ここで重要なのは、「使い分ける」というスキルです。

「いつから上げ相場で、いつから下げ相場なのか?」

これを判断するのは、実は非常に難しい。多くの投資家は、明らかに上げ相場に転じてから「あ、今は上げ相場だ」と気づき、明らかに下げ相場に転じてから「あ、今は下げ相場だ」と気づきます。

つまり、後追いになるのです。

しかしBNFさんは、相場の転換点を、誰よりも早く察知する能力を持っていました。これは、彼が日経平均、日経225先物、海外市場、為替、出来高など、無数の指標を常にチェックしているからこそできることです。

「日経平均や日経先物の動き、同じセクターの他銘柄の動き、全体の出来高、アメリカ市場の水準や出来高など、いろんな要素を見て、総合的に判断してるとしか言いようがない」

この「総合的に判断する」能力が、相場の転換点を察知する力につながっているのです。

4-6. 監視銘柄600〜700という驚異の世界

BNFさんは、雑誌『KING』2007年10月号でこう語っています。

「通常はだいたい30銘柄から70銘柄を保有していますが、株価のチャートなどが頭に入っている監視銘柄だけでも600銘柄から700銘柄くらいはあります」

600〜700銘柄のチャートを頭に入れている——これは、普通の人には想像できない情報量です。

東証一部上場の銘柄数は、約2,000銘柄。新興市場を含めると、約3,800銘柄あります。そのうちの600〜700銘柄ですから、市場の約2割の銘柄のチャートを記憶していることになります。

なぜ、それだけの監視が必要なのか。

それは、「連れ高」と「乖離率の異常値」を見つけるためです。

連れ高というのは、ある銘柄が上昇したときに、関連銘柄(同じセクター、同じテーマの銘柄)も連動して上昇する現象のことです。これを利用するためには、各セクターの主力銘柄と、その関連銘柄を把握しておく必要があります。

また、乖離率の異常値というのは、「移動平均線から大きく離れすぎた銘柄」のことです。これを見つけるためには、多数の銘柄の値動きを常にチェックしておく必要があります。

BNFさんは、これを「努力」というよりは「習慣」のレベルでやっていたのでしょう。毎日、6〜7時間以上、チャートを眺める日々を続けた結果、自然と600〜700銘柄が頭に入ったのだと思います。

4-7. 使うツールはシンプル——楽天証券マーケットスピード

意外に思われるかもしれませんが、BNFさんが使っているツールは、誰でも入手できるものばかりです。

主に使っているのは、楽天証券の「マーケットスピード」というトレードツールです。これは、楽天証券に口座を開設すれば誰でも使えるツールで、特別なものではありません。

「マケスピは登場したときから使ってるんで、視覚的に慣れてるんですよ。どれが買いか、なんとなく見えてくる」

このように、本人も「特別なツール」を使っているわけではないことを強調しています。

重要なのは、「ツール」ではなく、それを「どう使うか」「何を見るか」なのです。

BNFさんは、マーケットスピードで以下のような情報を常にチェックしていたとされています:

  • 日経225先物の値動き
  • セクター別の主力銘柄の動き
  • 出来高の急増している銘柄
  • 25日移動平均線からの乖離率
  • ボリンジャーバンド
  • 株価ランキング(値上がり、値下がり、出来高)

特に「日経225先物」については、彼は重要視していました。なぜなら、先物の動きは、現物株より一足先に動くからです。

「最近は大阪証券取引所で営業日の午後4時30分から7時まで、日経225などの先物取引を行う『夕場(イブニング・セッション)』の値動きをチェックしている。日経先物相場は利用価値の高い指標です。ただし、(夕場は)時間的にアメリカ市場が開く前の指標で、あくまでも参考ということです」

夕場(イブニングセッション)の動きを見ることで、翌日の相場の方向性をある程度予測できるというわけです。

4-8. 2チャンネルからの情報収集

意外なツールとして、BNFさんは2ちゃんねる(現5ちゃんねる)も情報源として活用していました。

特に、市況実況板、ニュース速報板といった、リアルタイムで情報が飛び交うスレッドを見ていたとされています。

なぜ、信頼性の低い掲示板を見るのか?

それは、「世間が何に注目しているか」「投資家心理がどう動いているか」を知るためです。

雇用統計の発表時間や、重要な決算発表のタイミングなど、市場全体に影響するイベント情報も、2ちゃんねるで効率的に拾えます。

「情報収集に、2ちゃんねるの『市況実況板』『ニュース速報板』を使用したり、『投資一般板』の株板相場師列伝スレッドにたまに『名無し』での書き込みをしているという」(Wikipediaより)

「名無し」での書き込みもしている、というのが面白いところです。世界の最強投資家の一人が、匿名で掲示板に書き込んでいる——なんとも日本らしい光景です。

4-9. 「相場は常に移り変わっている」

最後に、BNFさん自身が語った重要な言葉を引用しておきます。

「相場は常に移り変わっているということですね」

これは、相場環境の変化を語る文脈で出てきた言葉ですが、彼の哲学を象徴する一言だと思います。

過去に勝てた手法が、今も勝てるとは限らない。今勝てている手法が、明日も勝てるとは限らない。だからこそ、常に相場を観察し、変化を察知し、戦略を変える柔軟性が必要なのです。

これを実践できる人は、本当に少ない。なぜなら、人は一度成功した方法に固執しがちだからです。

しかしBNFさんは、自分の手法が通用しなくなったら、迷わず変えました。逆張りで儲けていた時代から、順張りに変えた。小型株中心の取引から、大型株中心に変えた。短期売買から、もう少し長めのスイングに変えた。

この柔軟性こそが、彼が長く勝ち続けられた最大の理由だと、私は考えています。

次の章では、BNFさんの真骨頂である「25日移動平均乖離率を使った逆張り手法」について、徹底的に深掘りしていきます。


第5章 25日移動平均乖離率という武器——逆張りスイングの真髄

5-1. 「乖離率」とは何か

ここから、BNFさんの最大の武器ともいえる「25日移動平均乖離率を使った逆張り手法」について、詳しく解説していきます。

まず、「乖離率」とは何かを確認しておきましょう。

乖離率(かいりりつ):現在の株価が、移動平均線からどれくらい離れているかを示す指標。

たとえば、ある銘柄の25日移動平均線が1,000円だとして、現在の株価が900円だとします。この場合、乖離率はマイナス10%です。

逆に、株価が1,100円なら、乖離率はプラス10%です。

シンプルですが、これが非常に強力な指標になります。

5-2. なぜ「25日」なのか

移動平均線には、5日、10日、25日、75日、200日など、さまざまな期間設定があります。なぜBNFさんは「25日」を選んだのか。

これは、25日というのが「ほぼ1か月の営業日数」に相当するからです(土日祝日を除く)。

つまり、25日移動平均線は、「過去1か月間の平均株価」を表します。これが、短期投資家にとって最も意識される線になります。

5日移動平均線だと、ノイズが多すぎて使いにくい。逆に、75日や200日だと、長すぎて短期投資には向かない。25日は、ちょうどいいバランスなのです。

実際、多くのプロトレーダーが25日移動平均線を意識しているため、ここが「サポート」や「レジスタンス」として機能しやすい、という側面もあります。

5-3. 「移動平均線への回帰」という原理

BNFさんの逆張り手法のロジックは、極めてシンプルです。

「移動平均線から大きく離れた株価は、いずれ移動平均線に戻る」

これだけです。

たとえば、25日移動平均線が1,000円の銘柄が、800円まで下落したとします(乖離率マイナス20%)。

普通の投資家は「これだけ下げたから、もっと下がるかも」と恐怖を感じます。

しかしBNFさんは、「これだけ下げたから、必ず戻る」と判断します。

そして、800円で買い、株価が900円や950円に戻ったところで売り抜けます。

この「移動平均線への回帰」は、相場の世界では「経験則」として広く知られています。なぜそうなるのかは、明確な理由があります:

  1. 行きすぎた下落は、買い手を呼び込む:割安と判断する投資家が増え、買いが入る。
  2. 空売り筋の利益確定:下げ局面で空売りしていた人が、利益確定の買い戻しをする。
  3. テクニカル指標の改善:RSIなどが「売られすぎ」を示し、テクニカル派の買いが入る。
  4. 心理的な反発:暴落後の反発を狙う投資家が一斉に動く。

これらの要因が重なって、株価は移動平均線に向けて戻っていくのです。

5-4. BNFさん流の乖離率の見方

ただし、「乖離率がマイナスになったら買えばいい」というほど単純ではありません。

BNFさんは、以下のような基準を提示しています(雑誌『マネーの王道』『KING』などのインタビューより):

東証一部の大型株の場合

  • 薬品株:乖離率 約マイナス5〜10%
  • 電機株:乖離率 約マイナス10〜15%
  • 食品株:乖離率 約マイナス7〜10%
  • 化学株:乖離率 約マイナス7〜10%
  • 証券株:乖離率 約マイナス5〜10%
  • ハイテク株:乖離率 約マイナス10〜15%

新興市場の場合

  • マザーズ銘柄:乖離率 約マイナス28〜60%以上

このように、銘柄のセクターや市場区分によって、「狙うべき乖離率」が全然違うのです。

なぜなら、銘柄ごとに「ボラティリティ(値動きの激しさ)」が違うからです。

大型株は値動きが安定しているので、マイナス10%程度でも十分な「下げすぎ」になります。一方、マザーズなどの新興銘柄は、値動きが激しいので、マイナス30%、40%でも珍しくありません。

5-5. 「相場の地合い」によって変わる乖離率

さらに難しいのは、「相場の地合い」によっても、狙うべき乖離率が変わることです。

BNFさんは、2004年10月の2ちゃんねるへの書き込みで、こう語っています。

「去年後半から今年の今現在までの相場にかけては、15%も乖離したら反発しちゃうって感じでした。というより、乖離率を見て逆張りすべき場面すらあまりなかったです。新興市場できついマイナス乖離をする場面は何回かありましたが、2年前3年前と比べると地合いが良すぎて東証一部の株で30%以上乖離している株がうじゃうじゃあるような状態は、あまり記憶にありませんね」

つまり、相場が悪いときは「30%以上の乖離」が珍しくないが、相場が良いときは「15%の乖離」でも反発が起きる、ということです。

これは、当然と言えば当然です。相場全体が下落基調のときは、悪材料に対する反応が大きく、株価は「下げすぎる」傾向があります。逆に、相場全体が上昇基調のときは、悪材料が出ても押し目買いが入りやすく、株価は「下げきらない」のです。

だから、BNFさんは「乖離率の数値」だけを見るのではなく、「相場全体の地合い」も含めて総合的に判断していました。

5-6. ボリンジャーバンドとの併用

BNFさんは、乖離率だけでなく、ボリンジャーバンドも併用していました。

ボリンジャーバンドというのは、移動平均線の上下に「標準偏差」のラインを引いたチャート指標です。一般的に、株価が「マイナス2σ(シグマ)」を下回ったら「売られすぎ」、「プラス2σ」を上回ったら「買われすぎ」とされます。

統計学的には、株価がプラス2σ〜マイナス2σの範囲内に収まる確率は約95.4%です。つまり、マイナス2σを下回るのは、確率的に非常に稀な事象なのです。

BNFさんは、以下のような条件で逆張りを仕掛けていたとされています:

  1. 25日移動平均線からマイナス20〜35%以上の乖離
  2. ボリンジャーバンドのマイナス2σ〜マイナス3σにタッチ
  3. 出来高が急増している(セリングクライマックスの兆候)
  4. 相場の地合いが底打ちしそう

これら複数の条件が揃って初めて、エントリーするのです。

5-7. 「セリングクライマックス」と出来高の重要性

BNFさんが特に重視していたのが、「出来高」の急増です。

「ただでも乖離のきつい株がダウやナスの下げなどで朝から結構売られてれば、そこで買っても損切り早ければそんなにリスクを感じません」

朝方の暴落で、出来高が急増している銘柄——これは、「セリングクライマックス(売り尽くし)」の兆候の可能性があります。

セリングクライマックスというのは、悲観の極み、つまり「もう売る人がいない」状態のことです。ここで底が形成され、株価は反発に転じます。

普通の投資家には、これがなかなか分かりません。「もっと下がるのでは」という恐怖が勝つからです。

しかし、出来高を見ると、その兆候が分かります。底値圏で出来高が急増するのは、「最後の投げ売り」と「底値での買い」がぶつかっている証拠です。

5-8. エントリー後の管理

エントリーした後、BNFさんはどう管理していたのでしょうか。

利確のタイミングは、シンプルです。

「株価が2〜3%上昇すれば決済します。よほど相場がよくない限り、7〜8%まで上昇するのを待つようなことはしないですね」

「株価1000円の銘柄が700円まで下落したときに買えた場合、とりあえず750〜760円まで戻れば売りますよ。下がった株価が一直線に元に戻ることはないですから。100億円購入していた場合、1%値上がりすればそれで1億円の儲けですから」

つまり、欲張らずに「移動平均線に近づいたところで利確」するのが基本です。

100億円ものポジションを取れば、1%の利益でも1億円。それを毎月のように繰り返せば、年間で数十億円の利益になります。これが、BNFさんの資産形成のカラクリです。

5-9. 失敗したときの損切り

逆張りで一番怖いのは、「逆行されたとき」です。

下げすぎたから買ったのに、さらに下げる——これは、本当によくあることです。

BNFさんも、これについては率直に語っています。

「BNF氏も損切り予想を外して反発してしまうことが多々あると言っています」

つまり、BNFさんでも、損切りした後に反発するパターンは「多々ある」のです。

しかし、それでも彼は損切りを徹底します。

「私はその株が上がると思って買っているのではなく、移動平均線の乖離からその相場や銘柄に応じて買いが入る可能性が高い乖離位置で買い、強いならば持ち続けるだけであって(ここが買いで勝てるかどうかにおける最大の運の要素だと思います。)どのような相場においてもそこからどちらに動くのかは正直わかりません。しかし徹底的に損切りできれば下落のリスクもさほど感じません」

「徹底的に損切りできれば、下落のリスクもさほど感じない」——これが、彼の損切り哲学の核心です。

5-10. 逆張り手法の「現在の有効性」

最後に、この逆張り手法が、現代でも通用するのかについて触れておきます。

BNFさん自身が、こう語っています。

「(2001年頃は)当時はリバ(ウンド)狙いだけですごく取れたんで。ある会社が下方修正して、100万円の株価が50万円まで落ちたところで買えば、かなりのリバウンドがあった。いまはデイトレーダーが増えたので、そこまで下げない」

つまり、市場参加者の増加によって、「下げすぎる」場面が減ってきている、ということです。

これは、BNFさんの手法が広く知られてしまったことも影響しているでしょう。皆が「乖離率を見て逆張り」をするようになると、株価が下げきる前にリバウンドが始まってしまいます。

しかし、今でも「相場が大きく崩れたとき」には、極端な乖離が発生することがあります。たとえば、2020年3月のコロナショック、2008年のリーマンショックのような暴落時です。

そうした「相場の歪み」が大きい場面では、今でもBNF流の逆張りは機能する可能性があります。ただし、平時の相場では難易度が大幅に上がっています。

次の章では、BNFさんのもう一つの武器、「順張りスイング」と「連れ高戦略」について見ていきます。


第6章 連れ高戦略——順張りスイングと監視銘柄600〜700の世界

6-1. 「連れ高」とは何か

逆張り手法と並ぶ、BNFさんのもう一つの武器が「連れ高(つれだか)」を利用した順張り手法です。

「連れ高」というのは、ある銘柄が上昇すると、その関連銘柄も連動して上昇する現象のことです。

たとえば、トヨタ自動車の株価が大きく上昇すれば、ホンダ、日産自動車、マツダなどの自動車セクター全体が上がりやすくなります。

これは、投資家が「自動車セクター全体に追い風が吹いている」と判断して、関連銘柄にも資金を流すからです。

6-2. BNFさんが語る連れ高の具体例

BNFさん自身が、雑誌『CIRCUS』2006年04月号で、連れ高についてこう語っています。

「株価は不思議なもので、会社の価値は何も変わってないのに、その日のニューヨーク市場や先物の動向など、相場全体の雰囲気で上下するんですよね。仮に鉄鋼株を例にとると……たとえば相場の雰囲気がいい日などは、住友金属、新日本製鐵、神戸製鋼所、JFE ホールディングスなど、その分野の主力株が軒並み騰げるんです。連れ高にはパターンがあるんです。たとえば鉄鋼なら、前兆として上の4社のどれかが、日経平均とともに騰げ始める。しかしこの前兆段階だと、他の3社のどれかが、まだ騰がってなかったりするんです。そんなときすぐ買いを入れるんですよ」

これ、めちゃくちゃ重要な発言です。読み解いてみましょう。

ポイント1:「会社の価値は何も変わっていない」

その日に企業の本質的な価値が変わるはずはありません。決算が出るわけでもなく、不祥事が起きるわけでもない。それなのに、株価は上下します。これは、需給と心理だけで動いているのです。

ポイント2:「相場全体の雰囲気で上下する」

ニューヨーク市場、先物の動向、為替——これらが「相場の雰囲気」を作ります。そして、その雰囲気で個別株が動きます。

ポイント3:「セクターの主力株が軒並み騰げる」

雰囲気が良い日は、特定のセクターが全体的に上昇します。これが、連れ高の本質です。

ポイント4:「前兆として、4社のどれかが先に騰げ始める」

ここが重要です。連れ高は同時には起こりません。必ず「先行する銘柄」と「後追いする銘柄」があります。

ポイント5:「他の3社のどれかが、まだ騰がっていない時に買う」

これが、BNFさんの儲けのカラクリです。先行銘柄が上がっているのを見て、まだ上がっていない出遅れ銘柄を買う。すると、連れ高で後追い上昇するから、利益が取れる、というわけです。

6-3. 連れ高を捕まえる難しさ

しかし、これを実践するのは、ものすごく難しい。

なぜなら、上で述べたような「先行・後追い」のパターンが見えるためには、各セクターの主力銘柄を全部頭に入れておく必要があるからです。

BNFさんは続けてこう語っています。

「それ(連れ高が予測される瞬間を具体的にどう見極めるのか)ばかりは様々な企業の値動きを1日中見て”体得する”ほかないですね」

「体得するほかない」——これが本質です。

理論として理解することと、実際の相場でそれを判別することは、全く別物です。BNFさんは、毎日数時間、何百もの銘柄のチャートを眺めることで、この感覚を身につけていったのです。

6-4. なぜ600〜700銘柄も監視するのか

ここで、BNFさんが600〜700銘柄を監視している理由が見えてきます。

それは、「連れ高を捕まえるため」だったのです。

各セクターには、主力銘柄が5〜10社あります。日本の主要セクターは、自動車、電機、鉄鋼、化学、薬品、食品、銀行、保険、商社、不動産、建設、運輸、通信、IT、サービス、小売、外食——ざっと20以上あります。

20セクター × 主力5〜10社 = 100〜200社

これに、新興市場の有望銘柄、テーマ株、IPO銘柄を加えると、簡単に500〜700銘柄になります。

これらの値動きを毎日チェックし、「どのセクターが今動いているか」「どの銘柄が出遅れているか」を瞬時に判断できるようにしておく——これが、BNFさんの日常でした。

「主要銘柄のチャートは頭に入ってるので、すべてのチャートを見はしないけど、多い日だと(監視銘柄)リストを何往復もする」

「リストを何往復もする」——これがどれほど集中力を要する作業か、想像してみてください。

6-5. 順張りでも「初動」を捕まえる

BNFさんの順張り手法のキーは、「初動を捕まえる」ことです。

「セクターごとの銘柄を熟知し、主要株の上昇に追随する出遅れ銘柄を特定。株価が動き始めた初動を逃さずエントリー」

なぜ初動が重要なのか。

それは、初動を逃すと、「すでに上がった後の高値づかみ」になってしまうからです。

たとえば、ある銘柄が1,000円から1,100円に上昇したとします。あなたが「お、これは上がるかも」と気づいて買ったときには、すでに1,100円。そこからさらに1,200円まで上昇すれば9%の利益ですが、もし1,050円に下落すれば5%の損失です。

しかしBNFさんは、1,000円〜1,010円のあたりで買います。そこから1,100円に上昇すれば10%の利益。1,050円なら5%の利益。これだけで、リターンの期待値が全然違います。

「初動を捕まえる」ためには、上昇する前から監視している必要があります。だから600〜700銘柄なのです。

6-6. 「ザラ場での観察」が肝心

BNFさんが、特に重視しているのが「ザラ場(取引時間中)の観察」です。

朝9時から15時まで、彼はずっとチャートを見続けています。なぜなら、連れ高の「前兆」は、ザラ場でしか見えないからです。

「相場上昇の可能性が高い日に、各業種の監視銘柄を観察していきます。監視銘柄には主力株が多いようですが、その株が上がる時は関連銘柄も連れ高になるため、出遅れた関連銘柄に狙いを定め、買いで勝負します」

これは、ある意味、デイトレード的な集中力が求められます。寝ぼけていては、連れ高の初動は見えません。

BNFさんは、自宅のトレードルームに引きこもって、毎日この観察を続けていました。

「株を始めて約7年、まともに家から出ていません。取引時間以外は、インターネットしているか、テレビや漫画を見ているだけ」

これ、はたから見れば「引きこもり」「廃人」と言われそうな生活です。しかし、彼にとっては、これが「市場と向き合う神聖な時間」だったのでしょう。

6-7. 順張りでの利確基準

順張りの場合、利確のタイミングはどうしているのでしょうか。

逆張りの場合は「2〜3%上昇で利確」が基本でしたが、順張りの場合は、もう少し長く保有するケースもあるようです。

「トレンドが続く限り保有し、過熱感が出た時点で売却」

ここでいう「過熱感」とは、

  • 出来高が直近で最大級に膨らんでいる
  • 25日移動平均線からプラス側に大きく乖離している
  • セクター内で買いが一巡している

などの兆候です。

特に「出来高が直近最大」を、BNFさんは重視していました。

「出来高が直近最高値をつけたような日には、もう相場が過熱していることが多く、含み損益にかかわらず、手仕舞いする方がリスクが小さいように思います」

これは、相場の天井のサインです。誰も買い手がいなくなった天井圏で、出来高が爆発的に増えるのは、「最後の買い手」が入ってきている証拠でもあります。

6-8. 順張りでも損切りは徹底

順張りの場合、買った後に上昇トレンドが崩れたら、即座に損切りします。

「順張り・逆張り問わず、想定を超えて下落するケースはすぐさま損切りをするそうです」

ここに、BNFさんのプロフェッショナリズムが表れています。

「順張りで買ったから、トレンドが続くまで持ち続ける」ということはしません。トレンドが崩れた瞬間に、躊躇なく売る。これができるかどうかが、勝てる投資家とそうでない投資家の決定的な差です。

6-9. 大型株中心への移行

BNFさんは、資金が大きくなるにつれて、ターゲットを変えていきました。

「買って逃げてまたすぐ買い直すなんて手法は、資金が少ないときしかできないんです。だから手法は順張りに変わったし、銘柄も何十億円入れてもビクともしない大型株に変わった。出来高の少ない銘柄はもう監視してません。逆張り時代は2〜3銘柄しか保有してなかったけど、いまは20〜50銘柄に分散しています」

これは、極めて合理的な判断です。

資金が小さいうちは、小型株でも問題なく売買できます。しかし、資金が100億円規模になると、小型株を一気に売買すれば、自分の売買で株価が大きく動いてしまいます。

たとえば、時価総額10億円の小型株に100億円のポジションを取ろうとしても、物理的に不可能です。買いの段階で株価が10倍くらいに跳ね上がってしまうでしょう。

だから、大型株中心にシフトせざるを得なくなったのです。

そして、大型株は値動きが小さいので、利益率は下がります。その代わり、ポジションサイズを大きく取れるので、絶対額の利益は確保できます。

6-10. 「住友金属事件」——順張りの威力

順張りの威力を示すエピソードとして、BNFさんは住友金属工業の事例を挙げています。

「大型株って、普通はそんなに動かないものなんです。ところが、05年夏以降、あり得ないほど急騰した。住友金属工業なんて1ヵ月半で200円から400円へと倍になっちゃった。流れに乗っかってれば儲かったんですね。05年春の30億円が冬には80億円と、いつの間にか増えていた」

2005年の小泉郵政選挙の前後、日本株は大型株中心に急騰しました。住友金属、新日本製鐵などの素材株、メガバンク、不動産株などが軒並み2倍、3倍になる、まさにバブル的な相場でした。

BNFさんは、この相場で「逆張り」ではなく「順張り」に切り替えました。下げを待つのではなく、上昇トレンドに乗っかったのです。

その結果、2005年春に30億円だった資産が、冬には80億円になりました。半年で資産2.5倍以上、純粋に50億円増えたわけです。

これは、相場環境に応じて手法を切り替えられる柔軟性が、いかに重要かを示すエピソードです。

次の章では、BNFさんの哲学の核心ともいえる「損切り」について、徹底的に深掘りしていきます。


第7章 損切りの哲学——「コツコツ負けてドカンと勝つ」

7-1. なぜ損切りが投資のすべてなのか

投資の世界で、「最も大事なことは何か」と聞かれたら、どんな投資家もこう答えるでしょう。

「損切り」。

利確のテクニックや、銘柄選びのノウハウは、いくらでも学べます。しかし、損切りができない限り、絶対に勝てません。これは、断言できます。

BNFさん自身も、これを強調しています。

「大事なのは損切りを早くすることでしょうか。僕自身は、想定より下がった場合には、上がるまで待つことはせず、早めに損失を確定させています」(週刊ポスト2006年1月号)

「早めに損失を確定させる」——これが、彼の最も基本的なルールです。

7-2. 「コツコツ負けてドカンと勝つ」という発想

BNFさんの損切りスタイルを表現する言葉として、こんな表現があります。

「下げ相場ではコツコツ負けてドカンと勝つという感じで私は資産を増やしました」

これ、世間でよく言われる「コツコツ勝ってドカンと負ける」(プロスペクト理論的な敗北パターン)の真逆です。

普通の人は、小さな勝ちを積み重ねた後、損切りができずに大きく負けます。これが「コツコツ勝ってドカンと負ける」パターンです。

しかしBNFさんは、逆を行きます。「小さな損切りを何度も繰り返し、大きな勝ちを掴む」のです。

これを実現するためには、

  1. 小さな損切りを躊躇しない
  2. 利益が乗ったら早めに利確しすぎず、伸ばす(順張りの場合)
  3. 大きなチャンスでは大きく張る

という、感情に逆らった行動が必要です。

これができるかどうかが、勝てる投資家と負ける投資家の決定的な差です。

7-3. 「セクター単体の損切り」を躊躇しない

BNFさんは、特定のセクターだけが下落しているケースについて、こう語っています。

「よく損切りを失敗するパターンとして、自分が買った銘柄やセクターだけ下げるというときがあります。今のリバではうまく金融セクターを初動で持ち越せたなら問題はありませんが、金融セクターの初動時点ではディフェンシブ・資源・内需関連などはまだ下げ続けていました。そんな場合でも迷わず損切りします」

これ、多くの人が苦しむポイントです。

「日経平均は上がっているのに、自分の持っている株だけが下がっている」——こういう状況は、本当によくあります。

普通の人は、「明日には他の株と一緒に上がるだろう」と希望的観測を持って保有し続けます。しかし、BNFさんは「迷わず損切り」します。

なぜなら、

「結果的に出遅れで上昇することもあるのですが、それは今回のような強い上昇のときだけで、下げ相場では特定のテーマ株だけ一時的に買われてもそれ以外の銘柄には資金が回って来ずに、ダラダラ下げ続けるということもよくあります」

「ダラダラ下げ続ける」——これが、塩漬けの始まりです。

7-4. 「資金効率」という発想

BNFさんは、損切りについて、もう一つ重要な発想を示しています。

「自分の資金が少ないならば、そういった銘柄をいつまでも持って資金拘束されるよりも、上昇していく銘柄に乗り換えた方が資金効率がイイと思います」

これは、「機会費用」の考え方です。

仮にあなたが100万円持っているとして、それを下がり続ける株Aに投じているとします。一方、別の株Bは上昇トレンドにあります。

あなたが株Aを保有し続けている限り、株Bで儲けるチャンスを逃しています。これが「機会費用」です。

たとえ株Aで10%の含み損があっても、すぐに損切りして株Bに乗り換えれば、株Bの上昇で取り戻せる可能性があります。逆に、株Aにこだわり続ければ、機会損失がどんどん拡大していきます。

普通の人は、「いま損切りすると、損が確定するから嫌だ」と思います。しかしBNFさんは、「いま損切りしないと、機会損失で実質的にもっと損する」と考えるのです。

7-5. 損切りラインの設定

BNFさんは、損切りラインを「数値」で機械的に決めているわけではありません。

ラジオNIKKEIのインタビューで、こう語っています。

アナウンサー:「損切りを速くする……これは例えば自分で何パーセント損が出たら損切りをするとか決めてらっしゃるんですか?」

B・N・F氏:「コツっていうより感覚の部分がけっこう大きいので、特にはないですけど。まあ、感覚の部分でやってるんで。損切りは早くした方がいいとか、そういう感じですかね」

「感覚の部分」——この言葉が、本当に重要です。

機械的なルールでは、相場の変化に対応できません。「マイナス5%で損切り」と決めていても、相場の地合いが極端に悪い日にそれを守ると、底値で損切りすることになります。逆に、地合いが極端に良い日なら、もう少し我慢して持っていれば反発する場面もあります。

BNFさんは、その日の地合い、銘柄の特性、出来高、関連銘柄の動きなど、複数の要素を見て、「これは損切りすべき」と感覚的に判断しています。

これは、機械的なルールよりも、はるかに難しい技術です。しかし、それができるからこそ、彼は勝ち続けられたのです。

7-6. 「リーマン株7億円損失」の教訓

BNFさんの損切り哲学を象徴するエピソードとして、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の話があります。

2008年9月、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが経営危機に陥っていました。BNFさんは、「これだけ下げれば反発するだろう」と判断して、リーマン株を約7億円分購入します。

しかし、購入後わずか2日でリーマンは破綻。BNFさんは7億円の損失を出すことになりました。

このときの様子を、彼は2008年12月のラジオNIKKEIインタビューで、率直に語っています。

「パソコンのモニター2台をリモコンで叩いて壊してしまった」

これ、私は彼の人間味を感じる、本当に好きなエピソードです。

冷静沈着な天才トレーダーといえども、7億円の損失はやはりショックだったのです。モニター2台を叩き壊すほどの怒りや悔しさがあった。

しかし、注目すべきは、彼が「リーマン株を持ち続けなかった」ことです。倒産が決まった時点で、すぐに損切りしているはずです(少なくとも、追加投入はしていない)。

もしここで「いずれ国が救済するはずだ」と希望的観測を持って持ち続けていれば、損失はさらに膨らんだ可能性があります。

7億円の損失は痛いですが、それで済んだのは、彼の損切り判断の早さがあったからです。

7-7. 「年間37億円のプラスでも、危なかった」

このリーマン・ブラザーズの一件があった2008年は、リーマンショックで日経平均が大暴落した年です。

BNFさんは、ラジオNIKKEIのインタビューで、2008年について「今年は37億くらいプラスでしたけど」と語っています。

37億円のプラス——普通の人にとっては夢のような数字です。

しかし、彼自身は「今年は危なかったですね、かなり」と振り返っています。

「下落のスピードはかなり速かったんで。2001年とか2002年とかもけっこう下げ相場だったんですけど、こんなにスピード早くなかったんで、ちょっとびっくりした感じでした」

2008年9月以降のリーマンショックは、日経平均が1ヶ月で4割下落するという、歴史的な暴落でした。BNFさんでさえ、ついていくのが大変だったのです。

それでも年間プラス37億円——これは、損切りの徹底があったからこそできた結果です。

もし損切りができない投資家がこの相場に巻き込まれていたら、間違いなく退場していたでしょう。

7-8. 「メンタル」と「ルール」のバランス

BNFさんの損切り手法は、「感覚的」と言いつつ、その実、非常にルール的な部分もあります。

たとえば、

  • 想定外の動きをしたら、すぐに損切り
  • セクター全体ではなく、自分の銘柄だけが下げているなら、即損切り
  • 出来高が直近最高値をつけた日は、含み損益関係なく手仕舞いも検討

これらは、「感覚」ではなく「明確なルール」です。

ただし、その「感覚的な判断」と「ルール的な判断」の境界線が、彼の場合は曖昧で、相場に応じて流動的に切り替えられているのです。

これを「曖昧」と捉えるか、「柔軟」と捉えるかで、印象が大きく変わります。私は「柔軟」と捉えています。なぜなら、相場自体が柔軟(流動的)だからです。

7-9. 「大損だけはしないように」

最後に、BNFさんの損切りに対する姿勢を象徴する言葉を引用しておきます。

「特に一日損切りが遅れただけで致命的な損失を被るような相場だから、自分としてはとにかく大損だけはしないように心がけました。だからトヨタショックの日もチャート的に中途半端だったから買わなかった。大損すると流れが悪くなって、そこから元に戻すのは大変なんです」

「大損だけはしないように」——これが、彼の最も基本的なポリシーです。

そして、もう一つ重要なポイント。

「大損すると流れが悪くなって、そこから元に戻すのは大変」

これは、心理的な意味です。

大きな損失を出すと、人は冷静さを失います。「取り返さなければ」と焦って、無理なトレードをします。結果、さらに損が拡大します。

これが、いわゆる「コツコツ勝ってドカンと負ける」の正体です。一度の大損が、その後の判断をすべて狂わせるのです。

だからBNFさんは、「大損だけは絶対にしない」ことを最優先しているのです。

7-10. 損切りの本質——「自分の判断が間違っていたことを認める」

最後に、私なりに損切りの本質を整理しておきます。

損切りができない最大の理由は、「自分の判断が間違っていたことを認めたくない」というプライドです。

人間は、誰でも「自分は正しい」と思いたい生き物です。買った株が下がるのは、「自分の判断が間違っていた」という証拠です。それを認めたくないから、損切りができないのです。

しかしBNFさんは、自分の判断ミスを冷静に認めることができる人です。

「私はその株が上がると思って買っているのではなく、移動平均線の乖離から、その相場や銘柄に応じて買いが入る可能性が高い乖離位置で買い、強いならば持ち続けるだけ」

「上がると思って買っているのではなく、買いが入る可能性が高い位置で買う」——これは、「自分の予想が当たることに賭けるのではなく、確率的に有利な位置で買う」ということです。

つまり、最初から「外れるかもしれない」前提でエントリーしている。だから、外れたら淡々と損切りできるのです。

プライドを捨て、確率に従う——これが、損切りの本質です。

次の章では、BNFさんが頑なに守り続けた「現物取引のみ」というポリシーと、資金管理について見ていきます。


第8章 資金管理——現物取引へのこだわりと分散の思想

8-1. 「信用取引は絶対やっちゃいけない」

BNFさんの投資スタイルを語る上で、絶対に外せない特徴があります。それは、「現物取引のみ」を貫いていることです。

200億円もの資産を作りながら、彼は基本的に信用取引を使いませんでした(先物取引は一部使っているようですが、レバレッジを大きくかけるような使い方はしていません)。

「空売りどころか、信用取引という発想自体なかったんです。いまもほとんど現物取引ですが、資産を作る段階で信用だけは絶対やっちゃいけない。信用に手を出すと、資産がゼロ以下になることだってあるんで、危ないなと思って」

「資産がゼロ以下になることだってある」——これが、信用取引の最大のリスクです。

8-2. 信用取引のリスクを理解する

信用取引というのは、簡単に言うと「証券会社からお金や株を借りて取引する」仕組みです。

たとえば、100万円の証拠金を入れれば、最大で3倍の300万円分の取引ができます。これがレバレッジです。

レバレッジを使えば、儲かるときは3倍儲かります。しかし、損するときも3倍損するのです。

問題は、損失が証拠金(100万円)を超えた場合です。普通の現物取引なら、最悪でも投資した金額がゼロになるだけです。しかし、信用取引では、証拠金を超える損失が発生します。

これを「追証(おいしょう)」と呼びます。追加で証拠金を入れないと、強制決済されます。

つまり、信用取引で大きく失敗すると、「持っているお金をすべて失った上に、さらに借金を背負う」ことになるのです。

これが、「資産がゼロ以下になる」という意味です。

8-3. なぜBNFさんは現物にこだわったのか

ここで一つ、興味深い疑問が湧きます。

200億円もの資産を持つBNFさんが、なぜ信用取引を使わないのか?

理論的には、信用取引を使えば、もっと大きな利益を上げられるはずです。たとえば、200億円の資金で3倍のレバレッジをかければ、600億円分の取引ができます。

しかし、彼はそれをしません。

理由は、おそらく二つあります。

理由1:精神的な安定

信用取引でレバレッジをかけると、値動きが何倍にも増幅されます。普通なら1%の動きが、3%の動きになります。これは、精神的な負担を3倍にするということです。

BNFさんは、冷静な判断を維持することを最優先しています。レバレッジによる精神的負担は、その「冷静さ」を脅かします。

理由2:致命的な失敗を避ける

すでに第7章で見たように、BNFさんは「大損だけはしないように」と心がけています。

信用取引で大失敗すると、致命的なダメージを受ける可能性があります。「資産200億円が一夜にしてゼロ」もあり得ます。

それを避けるために、現物取引にこだわっているのです。

8-4. 「資産を作る段階で」という限定

ここで、BNFさんの発言で重要なポイントがあります。

「資産を作る段階で信用だけは絶対やっちゃいけない」

つまり、「ある程度の資産を作った後なら、信用取引を使ってもいい」とも読めるのです。

実際、彼は後年、先物取引もしているようです(2006年度の課税証明書には、先物取引所得が約3,100万円ありました)。

ただし、先物取引も、現物取引の補完として使っている程度で、メインではないようです。

要するに、初心者や資産の少ない人ほど、信用取引のリスクは致命的になる、というメッセージなのです。

8-5. ポジションの分散——資産規模による変化

BNFさんは、資産規模に応じて、保有銘柄の数を変えていきました。

初期(資産1〜10億円程度):2〜3銘柄の集中投資

中期(資産10〜100億円程度):20〜50銘柄に分散

後期(資産100億円以上):30〜70銘柄に分散

この変化、興味深いと思います。

普通の投資指南書は、「分散投資が大事」と教えます。卵を一つのカゴに盛るな、と。

しかしBNFさんは、初期は集中投資をしています。資金が少ないうちは、分散しすぎると、勝っても利益が小さくなるからです。

そして、資金が増えるにつれて、自然と分散していきました。これは、個別銘柄に巨額のポジションを取れないため、複数銘柄に分けざるを得ないという現実的な理由もあります。

8-6. 「現金比率」も柔軟に変える

BNFさんは、「常にフルポジションを取る」ことはしません。

リスクが高いと判断したときは、現金比率を高めます。

「今回ほどの下げ相場の場合、一日中チャートを見る時間がない限り、『損切り』を恐れずに現金で持った方がよいでしょうね」

「現金で持つ」——これも、立派な投資判断です。

普通の人は、「現金で持っていても何も生まない」と思いがちです。しかしBNFさんは、「現金で持つ」ことの価値を理解しています。

現金で持っていれば、

  • 暴落時に底値で買える
  • 突然のチャンスに即座に飛び込める
  • 精神的な安定が保てる

というメリットがあります。

逆に、フルポジションで投資していると、

  • 暴落時に追加で買えない
  • チャンスがあっても資金がない
  • 含み損で精神的に追い込まれる

というデメリットがあります。

BNFさんは、相場環境を見て、現金比率を柔軟に調整していました。これも、彼の柔軟性の表れです。

8-7. 「持ち越し」をするかどうかの判断

スイングトレードでは、「今日買った株を、明日以降も持ち越すか」という判断が常にあります。

BNFさんは、これも相場環境で判断していました。

「上がりそうもなければさっさと損切ればいいわけです」

つまり、明日以降に上昇する見込みがなければ、その日のうちに損切りする。

逆に、上昇トレンドが続きそうなら、持ち越して伸ばす。

このシンプルな判断を、淡々と繰り返すのが、彼のスタイルです。

8-8. 孫正義さんの依頼を断った理由

ここで、有名なエピソードを一つ紹介します。

ソフトバンクの孫正義さんが、BNFさんに資産運用を依頼したことがあります。これは、SBIホールディングスの北尾吉孝さんとBNFさんの対談の中で、北尾さんの発言から明らかになった話です。

しかし、BNFさんはきっぱりと断りました。

理由は明確で、

「他人の金の運用はしたくない」

なぜか。

私の解釈ですが、これは「自分の責任で完結したい」という彼の哲学の表れだと思います。

他人のお金を運用すると、その人の人生にも責任を負うことになります。儲ければ感謝されますが、損すれば恨まれます。プレッシャーも増えます。

BNFさんは、自分の判断のミスは自分で受け止める覚悟がありました。しかし、他人のミスの責任まで引き受けたくはなかったのでしょう。

これは、ファンドマネージャーになる道を選ばなかったということでもあります。普通、彼ほどの実績があれば、ヘッジファンドを立ち上げて、何兆円もの資金を運用することも可能だったはずです。

しかし、彼はそれを選ばなかった。「自分のお金を、自分の判断で運用する」ことに、徹底的にこだわったのです。

8-9. 「税金は逃げない」というスタンス

意外と語られませんが、BNFさんは税金もきちんと払っています。

2006年度の所得は、株式関連で約57億8,700万円、先物取引で約3,100万円。これらに対して、当然、所得税や住民税がかかります。

日本の税率(株式譲渡益の総合課税)を考えると、税金だけで20億円近く払っている計算になります。

「お金持ちの最大の支出は税金」と言われますが、彼はそれをきちんと負担しているのです。

海外に移住して税金を節約する人もいる中で、BNFさんは日本に居続け、税金もきちんと払っています。これも、彼の「シンプルさ」を象徴する姿勢だと思います。

8-10. 資金管理の本質——「致命傷を避ける」

ここまでの内容を整理すると、BNFさんの資金管理の本質は、以下の一言に集約されます。

「致命傷を避ける」

  • 信用取引を使わない(致命的な損失を防ぐ)
  • 現金比率を柔軟に変える(暴落に備える)
  • セクター単体の下げでも損切りする(塩漬けを防ぐ)
  • 他人の金を運用しない(プレッシャーから解放される)

これらすべては、「致命傷を避ける」という一つの目的に貫かれています。

投資の世界では、「ホームランを打つ」ことよりも、「市場から退場しないこと」のほうがはるかに大事です。

ウォーレン・バフェットの有名な言葉に、こんなものがあります。

「ルール1:お金を絶対に失わないこと。ルール2:ルール1を忘れないこと」

BNFさんの資金管理は、まさにこのバフェットの哲学と一致しています。

スタイルは全然違うのに、根本のところでは同じことを言っているのです。これが、本当に勝てる投資家の共通点なのかもしれません。

次の章では、BNFさんが唯一読んだ投資本、ジェシー・リバモアの「世紀の相場師」について見ていきます。


第9章 唯一の師、ジェシー・リバモア——BNFが読んだたった一冊の本

9-1. 「投資本は一冊しか読んでいない」

BNFさんの逸話の中でも、特に印象的なのが、これです。

「自分が唯一読んだ投資関連の本はこのリバモア本だけだ」

200億円以上を稼いだ天才トレーダーが、生涯で読んだ投資本がたった1冊——。

しかも、その1冊は『世紀の相場師ジェシー・リバモア』(リチャード・スミッテン著)という、20世紀初頭のアメリカの伝説的トレーダーの伝記です。

これ、本当にすごい話だと思いませんか?

世の中には、何百冊もの投資本があります。バフェットの本、ピーター・リンチの本、グレアムの本、テクニカル分析の本、相場心理の本……。

しかしBNFさんは、それらをほぼすべて無視しました。たった1冊だけを精読し、あとは自分の経験から学んだのです。

9-2. ジェシー・リバモアとは何者か

リバモアという人物について、少し説明します。

ジェシー・リバモア(1877〜1940年)は、アメリカの伝説的な投機家です。15歳でわずか5ドルを元手に株式投機を始め、1929年の世界大恐慌の引き金となった「暗黒の木曜日」では、空売りによって1億ドル(現在の価値で約6,700億円)を稼いだといわれています。

「ウォール街のグレートベア(大熊)」と呼ばれ、当時のアメリカで最も恐れられた相場師でした。

しかし、その人生は波乱万丈で、生涯に4回も破産しています。最終的には、1940年に63歳でホテルの一室で自殺。彼の遺書には「もう疲れた」「人生は失敗だった」という言葉が残されていました。

なぜBNFさんが、こんなにも悲劇的な人物の本を「唯一の聖書」としたのか。これは、深く考える価値があるテーマです。

9-3. リバモアの教えとBNFの実践

リバモアの本には、多くの相場の格言が出てきます。その中で、BNFさんの手法と特に重なる教えを、いくつか挙げてみます。

教え1:「相場の動きそのものに集中せよ」

「株価が変動する姿にのみ意識を集中させよ。変動の理由に気をとられるな」(リバモア)

BNFさんも、企業の業績や財務などのファンダメンタルズはあまり見ません。チャートと出来高、相場全体の動きから判断します。これは、リバモアの教えと完全に一致しています。

教え2:「損切りができなければ市場から消えるしかない」

「証券取引所では、大物相場師だって先のことは見当がつかない。彼らが闇ブローカーから主に学んだことは、損切りができなければ市場から消えるしかないということだった」(リバモア)

BNFさんの損切り哲学は、まさにこのリバモアの教えそのものです。

教え3:「市場は決して間違っていない」

「市場は決して間違っていない。人の意見はしばしば間違っている」(リバモア)

これは、BNFさんが言う「相場に自分の思いは一切通用しない」と同じ意味です。

教え4:「歴史は繰り返す」

「ウォール街に、あるいは株式投資・投機に新しいものは何もない。ここで過去に起こったことは、これからもいく度となく繰り返されるだろう。この繰り返しも、人間の本性が変わらないからだ」(リバモア)

つまり、過去のパターンを学べば、未来も予測できる。BNFさんが600〜700銘柄のチャートを頭に入れているのも、過去のパターンを膨大に記憶しているからこそ、未来を予測できるのです。

9-4. なぜリバモアだったのか——「破産しても再起する」精神

私が考えるに、BNFさんがリバモアを選んだのは、リバモアの「破産しても再起する不屈の精神」に共感したからではないでしょうか。

リバモアは生涯に4回破産しています。普通なら、一度破産すれば再起は不可能です。しかし彼は、その都度復活し、また巨万の富を築きました。

これは、彼の手法が「再現可能なもの」だったからです。一度成功したのは運ではなく、確固たる手法と精神力に基づいていた。だから、何度でも再現できたのです。

BNFさんが2ちゃんねるで「B・N・F」というハンドルネームを使ったのも、ニーダーホッファー(リバモアと同じく破産から再起した投資家)のイニシャルからとったものでした。

つまり、BNFさんは「破産から再起する強さ」に憧れていたのです。

これは、彼自身が「いつか自分も大失敗するかもしれない」という覚悟を持っていたことを示しているのかもしれません。

9-5. リバモアの悲劇的な最期

リバモアの本を読むと、その最期の悲しさに胸を打たれます。

何度も大金を稼いでは失い、最後は精神的に追い詰められて自殺してしまう——。

これは、「お金で人は幸せになれない」というメッセージにも見えます。

BNFさんは、リバモアのこの悲劇から、何を学んだのでしょうか。

私の推測ですが、彼は「お金よりも、人生のバランスのほうが大事」ということを学んだのではないかと思います。

実際、BNFさんは、200億円もの資産を持ちながら、贅沢な暮らしをしません。質素な生活を続け、メディアにも出ず、ひっそりと暮らしています。

これは、リバモアの悲劇を反面教師にしているのかもしれません。「派手に稼いで派手に使う」のではなく、「淡々と稼いで、淡々と暮らす」ほうが、長く投資家として生きられる、と。

9-6. 「自分の手で学ぶ」という姿勢

リバモアの教えの中で、BNFさんが最も重視したのは、おそらくこれです。

「市場で自らを鍛え、何かを学び取りたいと念じるなら、身銭を投じて、自らの手口を注視し、失敗から教訓を得ることだ」(リバモア)

BNFさんは、まさにこれを実践しました。

本やセミナーで学ぶのではなく、自分の身銭を投じて、毎日の取引から学ぶ。失敗したら、その失敗の原因を分析し、次に活かす。

これを8年間、ひたすら繰り返しました。

普通の人は、本やセミナーに頼ります。なぜなら、「他人の成功体験を聞いた方が、自分で失敗するより楽」だからです。

しかし、本に書いてある手法は、すでに広く知られています。みんなが同じ手法を使えば、市場の歪みは消えてしまいます。

本当に儲かる手法は、「自分自身で発見した手法」です。それは、本には書いていない。なぜなら、本に書いた瞬間に、その手法は通用しなくなるからです。

BNFさんが「投資本を読まない」のは、こうした理由もあると思います。

9-7. 「リバモア+BNF流」の独自進化

BNFさんは、リバモアの教えを、現代の日本市場に合わせてアレンジしています。

リバモアの本来の手法は、「順張りトレンドフォロー」が中心でした。上昇トレンドの株を買い、下落トレンドの株を空売りする、というシンプルな手法です。

しかしBNFさんは、空売りをしません。代わりに、現物の逆張りを多用します。

これは、日本の市場特性(個人投資家にとって空売りが不利、信用取引のリスクが大きい)に合わせた、独自のアレンジです。

「リバモアの哲学を吸収しつつ、自分の市場に合わせて進化させる」——これが、BNFさんの真骨頂です。

9-8. 投資本との付き合い方

私たち凡人は、投資本をどう活用すればいいのでしょうか。

BNFさんのやり方をそのまま真似する必要はありません。彼は「天才」だから、たった1冊でも吸収できたのです。

普通の人は、何冊も読んで、いろいろな視点を学ぶ必要があると思います。しかし、ここで重要なのは、

「本に書いてある通りに行動するのではなく、自分の頭で考える」

ことです。

本は「考えるきっかけ」を提供してくれます。しかし、最終的な判断は、自分でしなければなりません。

BNFさんがたった1冊しか読まなかったのは、「本に頼らず、自分で考える」という姿勢の表れでもあると思います。

9-9. 「リバモア本」を読むべきか

最後に、皆さんに『世紀の相場師ジェシー・リバモア』を読むべきかどうかをアドバイスしておきます。

結論:読んだほうがいいと思います。

ただし、「これを読めば勝てる」というつもりで読まないでください。「これを読んで、相場の本質を理解する」つもりで読んでください。

リバモアの教えは、現代でも100%通用します。なぜなら、相場を動かしているのは、いつの時代も「人間の感情」だからです。テクノロジーが進化しても、人間の本性は変わりません。

したがって、リバモアが100年前に発見した「相場の真理」は、今でも色あせていないのです。

BNFさんが、たった1冊の本からあれだけのものを学んだ事実が、その証拠です。

次の章では、BNFさんの資産運用におけるもう一つの軸、「不動産投資」について見ていきます。


第10章 不動産投資への進出——「現金化しにくいもの」への分散

10-1. なぜ不動産だったのか

2008年10月、BNFさんは秋葉原駅前の商業ビル「チョムチョム秋葉原」を、約90億円で購入します。

これが、彼の不動産投資の始まりです。

しかし、なぜ200億円も稼いだ天才トレーダーが、突然「不動産」に手を出したのでしょうか。

ご本人は、こう語っています。

「昔から理性ではヤバイとわかっていても、チャンスと思うと無意識に株を買っている。今まではそれがたまたま良い方向に作用したけど、資金が膨らんでそうもいかなくなってきた。だから、一部を簡単には売買できないものに、替えてしまいたかったんです」

これ、めちゃくちゃ示唆に富む発言です。

彼は、自分の「投資中毒」を自覚していたのです。チャンスを見ると、無意識に買ってしまう。それが、資金が増えるにつれてリスキーになってきた。

だから、「簡単に売買できないもの」に資産を逃がしたかった——これが、不動産投資の動機です。

10-2. 「自己コントロール」のための不動産投資

普通、不動産投資は、

  • 賃料収入を得るため
  • インフレヘッジのため
  • 相続税対策のため

といった理由で行われます。

しかしBNFさんの場合は、それらの「経済的合理性」もさることながら、より深い理由があったようです。

「自分の衝動を抑えるため」

これは、本当に賢い判断だと思います。

人間は、いざというときに自分をコントロールできるとは限りません。むしろ、コントロールできない前提で、「物理的に行動できない仕組み」を作る方が確実です。

不動産は、株のように一瞬で売買できません。買うのも売るのも、契約や登記など、面倒な手続きが必要です。だからこそ、「衝動的な判断」を防ぐ装置として機能します。

ユリシーズが、セイレーンの誘惑から逃れるために、自分を船のマストに縛り付けたエピソードを思い出します。BNFさんも、自分自身を市場の誘惑から守るために、不動産という「マスト」に縛り付けたのです。

10-3. 「チョムチョム秋葉原」の購入

BNFさんが最初に購入したビル、「チョムチョム秋葉原」は、秋葉原駅前にある地上10階・地下1階の商業ビルです。

購入価格は約90億円。賃貸利回りは年7%程度で、年間賃料は約6.3億円が見込まれていました。

これだけの規模の物件を、現金一括で購入できる個人は、日本でもごく僅かです。それを30歳前後の若者がやってしまったのです。

なお、このビルは2018年3月に売却され、東京海上プライベートリート投資法人が取得しました。売却額は120〜130億円とも、145億円ともいわれています(日経新聞は145億円と報じています)。

10年間で約30〜55億円の値上がり益、さらに10年間の賃料収入が合計60億円超——合計で90〜115億円の収益を上げた計算になります。

最初の購入価格を考えると、実質「100億円が10年で200億円超」になった計算です。株式投資と比べても、十分すぎるリターンです。

10-4. 「AKIBAカルチャーズZONE」と渋谷のビル

2011年には、秋葉原のもう一つの商業ビル「AKIBAカルチャーズZONE」を、推定170億円で購入します。

東京都千代田区外神田一丁目(秋葉原)にある、敷地面積800平方メートル、地上6階・地下2階建てのビルです。

このビルも、後に「いちご株式会社」に売却されたとされています。

さらに、2013年頃には、渋谷センター街にもビルを建設していたと報じられています。

2014年には、札幌の歓楽街・すすきのに土地を購入し、2019年には商業ビル「リディア(Lydia)ビル」をオープンするなど、不動産投資を多角的に展開していきました。

10-5. なぜ「秋葉原」と「渋谷」と「すすきの」だったのか

BNFさんの不動産購入先を見ると、「秋葉原」「渋谷」「すすきの」という、いずれも繁華街・歓楽街です。

なぜでしょうか。

私の推測ですが、彼は「人の集まる場所」「賃料の高い場所」を重視しているのだと思います。

秋葉原は、サブカルチャーの聖地で、観光客も多い。テナントも入れ替わりが少なく、安定した賃料が見込めます。

渋谷は、若者の街として、いつの時代も需要があります。

すすきのは、北日本最大の歓楽街。夜の経済が回っており、賃料も高い。

つまり、「日本国内の長期的な人気スポット」に投資しているのです。これは、株でいえば「永遠の優良株」に投資するようなものです。

10-6. 株式投資との違い

不動産投資と株式投資、それぞれの特徴を整理してみます。

株式投資

  • 流動性が高い(瞬時に売買できる)
  • レバレッジが効きにくい(信用取引でも3倍程度)
  • 値動きが激しい
  • 配当(賃料に相当)は数%程度
  • 知識と判断力が重要

不動産投資

  • 流動性が低い(売却に数ヶ月かかる)
  • レバレッジが効きやすい(ローンで5〜10倍も可能)
  • 値動きが緩やか
  • 賃料利回りは5〜7%程度
  • 立地と物件選定が重要

BNFさんは、株式投資で資産を作り、それを不動産にシフトすることで、ポートフォリオを安定させました。

これは、極めて合理的な戦略です。

10-7. 「ステルス化」した資産運用

近年、BNFさんは『会社四季報』の大株主欄からも名前が消えました。これは、「株式投資から引退した」のではなく、「保有比率を5%未満に抑える」ことで、表に名前が出ないようにしているといわれています。

なぜか。

おそらく、これも「目立ちたくない」という彼の哲学の表れです。

大株主として名前が載ると、メディアに追われたり、なりすましが現れたりします。実際、BNFさんの名前を使って「投資手法を教える」と称する詐欺アカウントが、後を絶ちません。

それを避けるために、保有比率を意図的に低くしているのです。

さらに、株式以外の資産(不動産、債券など)も保有することで、「資産のステルス化」を図っているとされています。

10-8. 「東京電力債」の購入

意外な情報として、BNFさんは2013年頃に、東京電力債を40億円分保有していたと報じられています。

これは、福島原発事故後、東京電力の信用が大きく毀損して、社債が大幅に値下がりしていた時期のことです。

「皆が怖がって買わないもの」を、BNFさんは買っていたのです。

これも、彼の逆張り哲学の発露です。「人々が悲観しているとき」こそ、買い場である。

社債は、株式と違って、満期に元本が返ってくれば(発行体が破綻しない限り)損はしません。利回りも、株式の配当より高めです。

東京電力は、国が事実上の支援をしていたため、社債の元本割れリスクは小さいと判断したのでしょう。

これも、BNFさんの「リスクとリターンの天秤」を見極める眼力の一例です。

10-9. 不動産投資から学ぶこと

最後に、BNFさんの不動産投資から、私たちが学べることをまとめておきます。

1. 資産が増えたら、分散を考える

株だけに偏らず、不動産、債券など、異なる資産クラスに分散する。

2. 「衝動的な行動」を防ぐ仕組みを作る

自分の弱さを認め、物理的に行動できない仕組みを作る。

3. 「人気のある立地」を選ぶ

不動産は、立地がすべて。長期的に需要がある場所を選ぶ。

4. 「皆が買わないもの」を買う

東京電力債のように、悲観で値下がりしているものに価値を見出す。

5. 「目立たない」工夫をする

資産が大きくなるほど、目立つことのデメリットも大きくなる。

これらは、株式投資にも応用できる教訓です。

次の章では、BNFさんと同時代に活躍した他の天才投資家たちと、彼を比較しながら、その独自性を浮かび上がらせていきます。


第11章 同時代の天才たち——cis、テスタ、片山晃との比較

11-1. 「日本三大個人投資家」と言われた時代

2000年代後半から2010年代にかけて、日本の個人投資家界では、「三大個人投資家」とも呼べる存在がいました。

  • BNF(小手川隆):資産200億円超、ジェイコム男
  • cis(しす、本名:森貴義):資産230億円超
  • テスタ:資産100億円超

この3人を比較してみると、それぞれの個性が際立ち、BNFさんの特徴がより鮮明に見えてきます。

11-2. cis(森貴義)との比較

cisさんは、BNFさんと並び称される伝説のトレーダーです。

経歴:

  • 2000年に株式投資を開始(BNFさんと同年)
  • 大学生時代に300万円を元手にスタート
  • 2018年には資産230億円を突破

ジェイコム事件では、cisさんも約6億円の利益を上げており、BNFさんと並んで時の人になりました。

両者の共通点:

  • 同じ2000年スタート
  • ジェイコム事件で同時に有名に
  • 大学生時代に始めた
  • 短期売買が中心

両者の違い:

1. 取引スタイル

  • BNFさん:スイングトレード(数日〜1週間保有)
  • cisさん:デイトレード〜スキャルピング(数秒〜数時間)

2. 板読み

  • BNFさん:チャート中心(マクロ的)
  • cisさん:板読み中心(ミクロ的)

3. 情報発信

  • BNFさん:ほぼ沈黙(2009年以降)
  • cisさん:Twitter(現X)で積極的に発信、書籍も出版

cisさんは『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』など、複数の書籍も出版しています。一方、BNFさんは一切書籍を出していません。

二人がジェイコム事件後に対談したことがあるそうで、お互いを認め合っていたようです。

私が興味深いと思うのは、両者の「沈黙と饒舌」の対比です。同じくらい稼いだ二人でも、世間との関わり方は正反対なのです。

11-3. テスタとの比較

テスタさんも、現代の日本を代表する個人投資家です。

経歴:

  • 2005年に300万円から株式投資を開始
  • スキャルピング中心の取引で資産を拡大
  • 2021年時点で利益累計100億円超

テスタさんの特徴は、

  • 数秒〜数分単位の超短期売買(スキャルピング)
  • 一日に何百回もトレードする
  • メディアにも積極的に登場
  • YouTubeチャンネルも運営

BNFさんとの最大の違いは、「保有時間の長さ」です。BNFさんが「日〜週単位」なのに対し、テスタさんは「秒〜分単位」。完全に別の時間軸で戦っています。

また、テスタさんは「メディア露出に積極的」という点でも、BNFさんと対照的です。

ただし、テスタさんも資産が大きくなった後は、長期投資にもシフトしているようです。

「短期売買で稼ぐ → 資産が大きくなったら長期にシフト」という流れは、BNFさんとも共通します。

11-4. 片山晃(五月)との比較

片山晃さん(旧ハンドルネーム「五月」)も、外せない名前です。

経歴:

  • ネトゲ廃人だった青年時代
  • 投資を始めて資産100億円超を達成
  • 現在は機関投資家として活動

片山さんの特徴は、

  • 中長期のファンダメンタル分析
  • 企業の財務、ビジネスモデルを深く分析
  • 「小型成長株」を発掘する目利き力

BNFさんとは、ほぼ正反対のスタイルです。

BNFさんが「チャートと値動き」を見るのに対し、片山さんは「企業の本質的価値」を見ます。BNFさんが「数日〜数週間」の保有なのに対し、片山さんは「数年」の保有です。

しかし、二人とも億単位の資産を作っています。これは、「投資の世界には、複数の勝ち筋がある」ということを示しています。

ファンダメンタル派かテクニカル派か、長期投資か短期投資か、集中投資か分散投資か——どれが正解かは、その人の性格や能力次第です。

11-5. なぜBNFさんは「沈黙」を選んだのか

cis、テスタ、片山——他の天才トレーダーたちが、それぞれ自分のスタイルで情報発信しているのに対し、BNFさんは完全に沈黙しています。

なぜでしょうか。

私の推測ですが、BNFさんは「自分の手法が広まることのデメリット」を最もよく理解していたのだと思います。

実際、彼は2ちゃんねるで自分の逆張り手法を公開したことを、後に少し後悔していたようです。

「手法をほぼ公開したことに関して、BNF氏は『市場参加者は幅広く存在するからあまり影響はないだろう』と思っていたようですが、有効性が低くなったのは予定外で、昔ほど乖離率逆張り手法は使えなくなったと本人も認めています」

つまり、自分の手法が広まることで、その手法自体が機能しなくなる現象を経験したのです。

その教訓から、彼は「もう何も話さない」という選択をしたのではないでしょうか。

これは、ある意味で、彼の合理性の表れでもあります。情報発信して有名になっても、本人にメリットは少ない。むしろ、なりすましやスパムの標的になるだけです。

cis、テスタの場合、書籍やYouTubeで「情報発信そのものが収益」になっています。しかしBNFさんは、それを必要としていません。資産200億円もあれば、追加収益は不要です。

「不必要なリスクは取らない」——これも、BNFさん流の合理主義です。

11-6. ジム・ロジャーズや孫正義との対比

世界的な投資家との対比も考えてみましょう。

ジム・ロジャーズは、世界中を旅して、現地の経済を肌で感じながら投資判断をします。彼は「人と会うこと」「現場を見ること」を重視します。

孫正義さんは、「ビジョン」を語り、「人」に投資します。ソフトバンクグループは、世界中のスタートアップに投資する巨大なベンチャーキャピタルです。

これらと比べると、BNFさんは「人と会わない」「現場に行かない」「ビジョンを語らない」投資家です。

彼が見ているのは、ただチャートと出来高だけ。会社の経営陣に会うことも、工場を見学することも、業界の懇親会に参加することも、一切しません。

これは、ある意味で、究極の「データ投資家」と言えます。情報の歪みを排除し、純粋に市場のデータだけから判断する。これが、BNFさんのスタイルです。

11-7. 「天才」の定義の多様性

ここまで見てきた天才投資家たちは、それぞれ全く違うスタイルを持っています。

  • BNF:チャート分析、スイングトレード、現物のみ
  • cis:板読み、スキャルピング、信用取引も使用
  • テスタ:超短期売買、メディア露出
  • 片山晃:ファンダメンタル分析、中長期投資

これらの誰もが「天才」と呼ばれる存在です。

つまり、「天才」と呼ばれるトレーダーには、唯一の正解はないということです。

重要なのは、「自分のスタイルを確立すること」と、「そのスタイルで圧倒的に勝ち続けること」の二つです。

BNFさんから学べる最大の教訓は、「自分の性格や能力に合った手法を見つけ、それを徹底的に磨く」ということだと思います。

11-8. 「孤独」を選んだトレーダー

BNFさんの最大の特徴は、おそらく「孤独」だと思います。

他の天才トレーダーたちは、それぞれの形で「他者との関わり」を持っています。cisさんはSNSで、テスタさんはメディアで、片山さんは機関投資家としてのコミュニティで。

しかしBNFさんは、徹底的に孤独を貫いています。

メディアにも出ず、SNSもせず、誰にも師事せず、誰も弟子にしません。本も書きません。

これは、孤独に強い人でなければ、絶対にできない生き方です。

おそらく、彼にとって「市場との対話」だけが、唯一の人間関係なのでしょう。市場が冷静に、淡々と、彼に応えてくれる。それで十分なのです。

これは、私たち凡人には到底真似できない境地です。しかし、その「孤独に耐える力」こそが、彼を頂点に押し上げた要因の一つなのかもしれません。

次の章では、BNFさんの「生活」について、人間味あふれるエピソードを見ていきます。


第12章 BNFの生活哲学——カップ麺を食べる190億円の男

12-1. 「高いものを食べるのは苦痛」

BNFさんの生活ぶりについて、私が最も衝撃を受けたのは、これでした。

「生活はストイックそのもの。旅行にも行かず、車や服などに大金をはたくこともない。高いものを食べるのは『苦痛』」(日経ネットPLUS、2007年12月)

「高いものを食べるのは苦痛」——これ、本当に意味が分かりますか?

普通、お金持ちになったら、「高級レストランで美味しいものを食べる」のが楽しみになるはずです。フランス料理、寿司の名店、和牛のステーキ——お金があれば、こうした美食を楽しめます。

しかしBNFさんは、それを「苦痛」と感じるのです。

なぜか。

私の解釈ですが、それは「高い食事に見合う価値を感じない」からだと思います。彼にとって、コンビニのおにぎりや、カップ麺で十分なのです。

そして、もっと深い理由として、「高いものを食べる時間が無駄」と感じている可能性もあります。高級レストランは、予約して、ドレスコードに気を遣って、ゆっくり食事を楽しむ場所です。それに比べて、カップ麺なら3分で食べられます。

時間効率を考えれば、カップ麺の圧勝です。

12-2. 「家から出ない」生活

BNFさんは、こう語っています。

「株を始めて約7年、まともに家から出ていません。取引時間以外は、インターネットしているか、テレビや漫画を見ているだけ」

「7年間、家から出ていない」——これも、普通の感覚では理解しがたい話です。

しかし、彼にとっては、これが「最も効率的」な生活なのでしょう。

外に出ても、株は儲かりません。むしろ、相場から離れることで、機会損失が発生します。だったら、家にいて、ずっと相場を見ているほうが、彼にとっては合理的なのです。

しかも、彼は人付き合いが得意ではありません。外に出れば、知り合いに会ったり、見知らぬ人と関わったりする可能性があります。それは、彼にとってストレスです。

だったら、家にいるほうが、精神的にも楽。

合理的すぎる結論ですが、おそらくBNFさんはこれを実行しているのです。

12-3. タワーマンションのトレードルーム

2007年、BNFさんはタワーマンションの最上階の1室を4億円で購入し、トレードルームにしたとされています。

東京タワーがきらめく夜景を一望できる、超高層マンションのペントハウス。

普通の感覚なら、こんな素晴らしい家に住んでいれば、毎日が楽しいはずです。

しかし、彼にとっては、これは単なる「仕事場」です。彼が見ているのは、外の夜景ではなく、目の前のモニターに映る株価チャートだけ。

なぜタワーマンションを買ったのか?

おそらく、「集中できる環境」を整えるためです。一般的なマンションだと、隣人の生活音が気になります。最上階のペントハウスなら、上の階の音もなく、防音も完璧。集中してトレードに専念できます。

つまり、「贅沢」ではなく「業務効率化」のための投資なのです。

12-4. 親孝行の高級車

BNFさんは、自分自身の贅沢はしませんが、親には高級車をプレゼントしたとされています。

これは、私が好きなエピソードです。

200億円もの資産がありながら、自分にはお金を使わない。しかし、両親には親孝行する——。

この姿勢に、彼の人間味を感じます。

普通の人は、自分の欲望を満たすことを優先します。「親孝行」は、後回しになりがちです。

しかしBNFさんは、自分には何も買わなくても、親には何かをしてあげたい、という気持ちを持っています。

これは、お金持ちであっても、根本的な人間性は変わらないことを示すエピソードだと思います。

12-5. 「2億円の豪邸」

地元の千葉県内には、約2億円の豪邸を購入したとされています。

2億円は、確かに豪邸ですが、200億円の資産を持つ人にしては「控えめ」な金額です。

世界のトップ富裕層なら、何十億、何百億の豪邸を建てる人もいます。それに比べれば、2億円は「身の丈に合った住まい」と言えるでしょう。

これも、BNFさんの「過度な贅沢を避ける」姿勢の表れです。

12-6. 「お金を使わない」という選択

ここまで見てきたBNFさんの生活を整理すると、

  • カップ麺などで食事を済ませる
  • 旅行に行かない
  • 車や服に大金を使わない
  • 高いものを食べるのは苦痛
  • 家から出ない

これらすべてが、「お金を使わない」ことに収束しています。

なぜなのでしょうか。

私が考える理由は、二つあります。

理由1:価値観の問題

BNFさんにとって、「お金を使う」ことは喜びではないのです。豪華な食事や旅行に、彼は価値を感じません。

人それぞれ、何に価値を感じるかは違います。彼にとっては、「市場と向き合う時間」が最も価値ある時間。だから、それ以外の時間にお金を使う必要がないのです。

理由2:合理性の問題

「お金を使う」ことは、時間を消費することでもあります。

たとえば、高級レストランで2時間食事をすれば、その間、相場を見れません。海外旅行に1週間行けば、その間の取引機会を逃します。

BNFさんにとって、「お金を使う時間」は、「機会損失を生む時間」でもあるのです。

合理主義者の彼は、これを徹底的に嫌います。

12-7. 浦えりかさんとの噂

BNFさんに関する女性関係の噂で、一時期広まったのが「タレントの浦えりかさんと交際していた」というものです。

しかし、これは2006年にテレビ東京系列の『給与明細』という番組に出演した際に、「好みの女性」としてグラビアアイドルの浦えりかさんの名前を挙げただけのこと。実際に交際していたわけではないようです。

ネット上では、長年「BNFと浦えりかが結婚した」という噂が広まっていますが、これは2ちゃんねる発のデマだとされています。

実際、BNFさんが結婚したという情報は、現在に至るまで確認されていません。

200億円もの資産を持つ独身男性——もし結婚したら、大ニュースになるはずです。しかし、それがないということは、現在も独身である可能性が高いです。

12-8. 「儲かっても浪費しない」

BNFさんの生活哲学を、一言でまとめるなら、

「儲かっても浪費しない」

これに尽きると思います。

彼が200億円もの資産を築けたのは、稼ぐ能力が高かっただけではありません。「稼いだお金を浪費しなかった」ことが、大きな要因です。

普通、年収が増えれば、生活レベルも上がります。これを「ライフスタイル・インフレーション(生活水準のインフレ)」と呼びます。

しかしBNFさんは、これを徹底的に避けました。資産が10億円になっても、100億円になっても、200億円になっても、生活水準はほぼ変わらない。

だから、彼の資産は減らずに、複利で増え続けたのです。

これは、私たち一般人にも応用できる教訓です。

たとえば、年収500万円の人が、年収800万円になったとします。多くの人は、これに合わせて生活レベルを上げます。家賃の高い場所に引っ越し、車を買い替え、食事を豪華にする。

すると、貯金は増えません。年収が上がっても、相対的な余裕は変わらないのです。

しかし、BNFさんのように「生活レベルを上げない」選択をすれば、年収アップ分の300万円が、丸々貯金や投資に回せます。

これを長期で続ければ、複利で資産は加速度的に増えます。

12-9. 「お金を使わない」ことのデメリット

ただし、BNFさんの生活には、デメリットもあります。

家から出ないため、健康に影響が出ているかもしれません。運動不足、日光浴不足、社会との交流不足——これらは、長期的には健康やメンタルに悪影響を与える可能性があります。

実際、彼は2008年12月のラジオNIKKEIインタビューで、リーマン株での損失からモニター2台を叩き壊したエピソードを語っています。これは、ストレスが相当蓄積していた証拠でしょう。

200億円もの資産があっても、幸せかどうかは別問題なのです。

私たちは、彼の合理主義を尊敬しつつ、自分の人生バランスは別途考える必要があります。

12-10. 「お金は道具」という哲学

最後に、BNFさんの生活哲学から、私が読み取った最も重要なメッセージを書いておきます。

それは、

「お金は目的ではなく、道具である」

ということです。

普通の人は、「お金持ちになること」を目的にします。お金があれば、幸せになれると信じています。

しかしBNFさんは、お金持ちになっても、生活はほとんど変わりませんでした。これは、彼にとって「お金そのもの」に価値がないことを示しています。

彼にとって、お金は「市場との戦いで得た戦利品」であり、「次の戦いの軍資金」でしかありません。

そして、お金を使うこと自体には、特に喜びを感じない。

これは、ある意味で、究極の境地です。お金に振り回されず、お金を使いこなす。

私たちも、こうした姿勢から学べることは多いと思います。

次の章では、現代の市場で、BNFさんの手法がどこまで通用するのかについて、リアルに考察していきます。


第13章 現代の市場でBNF手法は通用するのか

13-1. 「2000年代の相場」と「2020年代の相場」は別物

ここから、より実践的な話に入ります。

BNFさんが活躍した2000年代と、現代(2026年)の株式市場は、もはや別物といっていいほど変化しています。

主な変化を挙げると、

1. 市場参加者の構成

  • 2000年代:個人投資家が中心、一部に機関投資家
  • 現代:HFT(高頻度取引)、AI、アルゴリズムが大半

2. 取引のスピード

  • 2000年代:人間が考えて発注(秒〜分単位)
  • 現代:マイクロ秒(100万分の1秒)単位の自動取引

3. 情報の伝達速度

  • 2000年代:ニュースが市場に反映されるまで分〜時間単位
  • 現代:AIがニュースを瞬時に解析し、ミリ秒で売買

4. 個人投資家の数

  • 2000年代:数百万人程度
  • 現代:1,000万人以上(NISA口座だけで2,000万超)

これらの変化により、BNFさんが2000年代に行っていた手法は、そのままでは通用しにくくなっています。

13-2. HFT(高頻度取引)の影響

最大の変化は、HFT(High Frequency Trading)の登場です。

HFTというのは、コンピュータが超高速で売買を繰り返す取引のことです。1秒間に何百回、何千回もの取引を行います。

これにより、以下のような変化が起きています:

1. 価格の歪みがすぐに修正される

過去は、悪材料が出て株価が下げすぎたら、人間の投資家が「これは下げすぎだ」と判断するまでに、数分〜数時間かかりました。

しかし今は、AIがミリ秒単位で「下げすぎ」を判断し、自動的に買い戻します。

結果、BNFさんが狙っていた「25日移動平均線から30%以上の乖離」が発生する場面は、極端な暴落時を除いて、ほぼなくなりました。

2. 「板情報」が複雑化

HFTは、見せかけの注文を出したり、瞬時にキャンセルしたりします。「板」の情報が、人間には読み取れない複雑さになっています。

cisさんのようなスキャルピング(板読み)派にとっては、特に不利な環境になっています。

13-3. それでもBNF哲学は通用する

しかし、私は「BNFさんの哲学は、現代でも100%通用する」と確信しています。

なぜなら、手法(テクニック)は時代と共に変わりますが、哲学(プリンシプル)は普遍だからです。

たとえば、

「相場に自分の思いは一切通用しない」——これは、HFTの時代でも変わりません。むしろ、AIが冷酷に動く時代だからこそ、感情を捨てた判断が重要になります。

「損切りを徹底する」——これも、いつの時代でも真理です。HFT時代の方が、損切りが遅れた時のダメージは大きくなっています(株価の変動が早いため)。

「相場環境に応じて手法を変える」——これも、永遠に重要なスキルです。

つまり、BNFさんの「手法」は時代に合わせてアップデートが必要ですが、「哲学」はそのまま使えるのです。

13-4. 25日移動平均乖離率は、まだ機能するのか

具体的に、BNFさんの代表的な手法である「25日移動平均乖離率の逆張り」は、現代でも機能するでしょうか。

結論:限定的に機能します。

過去の検証データを見ると、

  • 平時の相場:以前ほど機能しない(HFTが歪みを修正するため)
  • 暴落時:今でも機能する(極端な乖離が発生するため)

具体的には、2020年3月のコロナショック、2022年のロシア・ウクライナ問題、2023年のシリコンバレーバンク破綻など、大きな相場の変動があったときは、極端な乖離が発生しました。

こうした「ショック相場」では、BNFさんの逆張り手法は、今でも威力を発揮する可能性があります。

ただし、平時の相場では、乖離の幅が小さいため、利幅も限定的です。

13-5. 「監視銘柄700」は現代でも有効か

BNFさんが600〜700銘柄を監視していたのは、連れ高を捕まえるためでした。

これは、現代でも有効な発想です。ただし、現代では「監視ツール」が進化しています。

2000年代:マーケットスピードで手動で監視

2020年代:AIによる自動スクリーニング、機械学習を使った異常検知

つまり、現代の個人投資家は、自分で700銘柄を監視する必要はなく、ツールに任せられます。

しかし、ツールが教えてくれるのは「データ」だけです。それを解釈する「相場観」は、結局、自分で身につける必要があります。

BNFさんが700銘柄を眺めることで「相場観」を身につけたのと同じように、現代の投資家もデータと向き合うことで、自分なりの相場観を養う必要があります。

13-6. 「順張り戦略」は今こそ重要

意外なことに、「順張り戦略」は、現代の方が機能しやすくなっているかもしれません。

なぜなら、HFTやアルゴリズムは、トレンドが発生すると、それを増幅する傾向があるからです。

たとえば、ある銘柄が上昇トレンドに入ると、トレンドフォロー型のアルゴリズムが買いに動き、さらに上昇を加速させます。

この「トレンドの増幅」を利用すれば、順張りで大きな利益が取れます。

実際、近年の米国株市場(特にテック株)では、「強い銘柄がさらに強くなる」傾向が顕著です。アップル、エヌビディア、テスラなど、過去10年間で何十倍にもなった銘柄が多数あります。

BNFさんの「順張り戦略」の本質——「強い銘柄に乗っかる」——は、現代でも有効、いやむしろより有効になっているかもしれません。

13-7. 「個人投資家のアドバンテージ」は何か

機関投資家、HFT、AIに対して、現代の個人投資家にもアドバンテージはあります。

1. 機動力

個人投資家は、一人で意思決定できます。組織の承認も、報告書も不要。一瞬で売買できます。

2. 時間軸の自由度

機関投資家は、「四半期ごとのパフォーマンス報告」というプレッシャーがあります。短期で結果を出さないと、投資家から資金を引き上げられます。

しかし、個人投資家は、自分のお金なので、時間軸を自由に設定できます。10年、20年単位で投資することも可能です。

3. ニッチ市場へのアクセス

機関投資家は、運用額が大きすぎて、小型株を売買できません。1兆円規模のファンドが、時価総額10億円の銘柄を買えば、すぐに流動性枯渇になります。

しかし、個人投資家は、こうしたニッチな小型株を自由に売買できます。

これらのアドバンテージを活かせば、現代でも個人投資家が機関投資家に勝つことは可能です。

BNFさんは、まさにこれらのアドバンテージを最大限に活用した投資家でした。

13-8. 「BNF時代」と「現代」の架け橋

私が考える、BNFさんの手法を現代に適用するための「架け橋」は、こんな感じです。

1. 哲学はそのまま活かす

  • 相場に思いを込めない
  • 損切りを徹底する
  • 環境に応じて柔軟に手法を変える

2. 手法は現代版にアップデートする

  • 25日移動平均乖離率 → 平時は機能しにくいので、ショック相場時に絞る
  • 監視銘柄 → ツールで効率化
  • 連れ高戦略 → セクターETFの動きも参考にする

3. 新しいツールを取り入れる

  • 機械学習スクリーニング
  • ニュース感情分析(センチメントAI)
  • ソーシャルメディアのトレンド分析

これらを組み合わせれば、BNFさんの哲学を引き継ぎながら、現代の市場で戦える戦略が組み立てられます。

13-9. 「個人投資家の黄金時代」は終わったのか

ここで一つ、重要な問いを投げかけます。

「BNFさんのような個人投資家が、今後も登場するのか?」

答えは、「条件付きでイエス」だと思います。

過去のような「160万円から200億円」というスケールは、今は難しいかもしれません。市場の歪みが小さくなり、HFTやAIが幅を利かせる現代では、個人が圧倒的なエッジを持つのは難しい。

しかし、「数千万円から数十億円」レベルの成功なら、今でも十分可能です。

実際、テスタさんは2010年代以降に登場し、すでに利益累計100億円を超えています。片山晃さんも、長期投資で成功しています。

時代に応じた手法を見つけ、それを徹底すれば、現代でも個人投資家として大きな成功は可能なのです。

13-10. 「BNFになるための条件」

最後に、私が考える「現代版BNFになるための条件」を整理しておきます。

1. 圧倒的な勉強量と相場との接触時間

BNFさんは、毎日6時間以上、相場と向き合い続けました。同等以上の時間を投資できる人だけが、頂点に立てます。

2. 感情を排除する能力

これが、最も難しい条件です。生まれつきの性格や、長年の訓練が必要です。

3. 自分のスタイルを確立する独自性

本やセミナーで学んだ手法は、すでに広まっています。自分独自の手法を発見できる人だけが、市場の歪みを取れます。

4. 致命的な失敗をしない注意深さ

200億円の資産を作るには、長期間にわたって「市場退場しない」ことが必須です。1回の大失敗で、すべてを失う可能性があります。

5. 適度な孤独耐性

BNFさんのように完全な孤独は必要ありませんが、「群衆の意見」に流されない強さは必要です。

これらすべてを満たす人は、滅多にいません。だからこそ、BNFさんは伝説なのです。

しかし、「BNFになる」ことを目指す必要はありません。彼の哲学を学び、自分なりのスタイルを確立すれば、市場で十分に勝てるはずです。

次の章では、BNFさんが個人投資家全員に遺してくれた、普遍的な教訓を整理していきます。


第14章 BNFが個人投資家に遺した教訓

14-1. 教訓1:「相場に自分の思いは一切通用しない」

すでに何度も引用していますが、これがBNFさんの最大の教訓です。

希望、欲望、期待、恐怖——これらすべてを、相場は無視します。

私たち個人投資家ができることは、自分の感情を脇に置いて、市場のシグナルだけを冷静に読み取ること。

これを徹底するだけで、勝率は劇的に上がります。

14-2. 教訓2:「損切りは早く、徹底的に」

BNFさんが200億円を築けたのは、損切りを徹底したからです。

「あと少し待てば戻るかも」「いまさら損切りしたら損が確定する」——こうした感情を捨て、機械的に損切りすること。

これができれば、致命的な損失を避けられます。

14-3. 教訓3:「自分のスタイルを確立する」

BNFさんは、本を読まず、誰にも師事せず、自分のスタイルを確立しました。

私たちは、本やセミナーで学ぶこと自体は悪くありません。しかし、それを鵜呑みにせず、自分の頭で考え、自分のスタイルにアレンジする必要があります。

「他人の成功事例」を真似ても、それが自分に合うとは限りません。

14-4. 教訓4:「資金管理を徹底する」

信用取引を避ける、現金比率を柔軟に変える、致命的な損失を避ける——。

これらの「守り」のスキルは、「攻め」のスキル以上に重要です。

どれだけ攻めが強くても、一度の大失敗で資産がゼロになれば、終わりです。

14-5. 教訓5:「相場環境に応じて手法を変える」

上げ相場と下げ相場で、戦略を変える。バブル期とショック期で、ポジションを変える。

「一つの手法に固執しない柔軟性」が、長期で勝ち続けるための鍵です。

14-6. 教訓6:「市場との接触時間を増やす」

BNFさんは、毎日何時間も相場と向き合い続けました。

「相場観」というのは、本を読んでも身につきません。実際の相場を、自分の目で見続けることでしか養えないのです。

私たち個人投資家も、たとえ短時間でも、毎日相場と接する習慣をつけることが大切です。

14-7. 教訓7:「儲かったお金を浪費しない」

BNFさんは、200億円の資産を作りながら、生活水準をほとんど上げませんでした。

これにより、稼いだお金がそのまま再投資に回り、複利で増え続けました。

私たちも、収入が増えたからといって、生活水準を上げる必要はありません。

14-8. 教訓8:「分散と集中のバランスを取る」

資金が少ないうちは集中投資、資金が大きくなったら分散投資。

このバランス感覚は、BNFさんの実践から学べる重要な教訓です。

14-9. 教訓9:「市場退場しないこと」

ウォーレン・バフェットも、BNFさんも、共通して強調するのが、「市場退場しないこと」の重要性です。

100年に1度のチャンスが来ても、その時に市場にいなければ、何もできません。

「生き残ること」こそが、最大の戦略なのです。

14-10. 教訓10:「孤独に耐える」

最後に、BNFさんから学べる最も難しい教訓は、「孤独に耐える」ことです。

群衆と同じ動きをしていれば、絶対に大きな利益は得られません。「皆が悲観しているとき」に買い、「皆が楽観しているとき」に売る——これができる人は、群衆と一線を画す覚悟が必要です。

それは、孤独な道です。しかし、その孤独に耐えられる人だけが、市場の勝者になれるのです。


おわりに

ここまで、BNFこと小手川隆さんの投資哲学について、できる限り深く、そして分かりやすく解説してきました。

書き終えてみて、改めて感じるのは、彼が「天才」と呼ばれる理由は、「特別な能力」ではなく、「特別な姿勢」にあるということです。

160万円から200億円——この数字だけ見れば、確かに常人離れしています。しかし、その過程を見れば、「当たり前のことを、徹底的に続けた結果」にすぎないのです。

  • 相場に感情を持ち込まない
  • 損切りを徹底する
  • 自分のスタイルを磨く
  • お金を浪費しない
  • 孤独に耐える

これらは、誰もが知っている「当たり前」のことです。

しかし、これを8年間、毎日続けられる人は、ほとんどいません。

だからBNFさんは、伝説になったのです。

私たち個人投資家にとって、彼から学べる最大の教訓は、「天才になる必要はないが、当たり前のことを徹底的に続ける覚悟は必要」ということです。

これを心に留めて、明日からの相場と向き合っていきたいと思います。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

BNFさんの哲学が、少しでも皆さんの投資人生のヒントになれば嬉しいです。

ちなみに、BNFさんは現在も、株式市場のどこかで、淡々とポジションを取り続けているはずです。

彼が、今、何を見ているのか、何を考えているのか——それは、誰にも分かりません。

しかし、確かに彼は、市場のどこかにいる。

その事実だけで、私は何だか勇気をもらえる気がするのです。

それでは、皆さんの投資ライフが、健全で実り多きものになることを、心から祈っています。


参考資料

一次資料(BNF氏本人の発言・インタビュー)

  1. 『CIRCUS(サーカス)』2006年04月号 – 連れ高戦略についての本人インタビュー
  2. 『マネーの王道 vol.1』 – 投資手法と銘柄選定について
  3. 『週刊ポスト』2006年1月号 – 損切りの哲学について
  4. 『ダイヤモンドZAi』2006年12月号 – 投資手法の詳細
  5. 『ダイヤモンドZAi』2007年10月号 – 投資手法の詳細
  6. 『KING』2007年10月号 – 監視銘柄600〜700についての発言、サブプライムショック時のインタビュー
  7. 『日経新聞』2007年12月(日経ネットPLUSにも掲載) – 「資産170億円、でも……」生活ぶりについて
  8. 『ZAKZAK(夕刊フジ)』2008年1月24日 – 「ジェイコム男190億円儲けの極意」
  9. 『日経新聞』2008年5月17日 – 1面記事、顔写真入り紹介
  10. 『日経金融新聞』2007年8月30日 – サブプライムショックインタビュー
  11. ラジオNIKKEI 2008年12月30日 – 電話インタビュー、リーマン株損失について
  12. テレビ東京『ガイアの夜明け』 2006年2月28日放送
  13. テレビ東京『給与明細』 2006年放送
  14. 2ちゃんねる『デイ・スイング超短期売買技法研究会』スレッド – 2004年頃のB.N.F.氏の書き込み(乖離率逆張り手法の詳細)
  15. 2ちゃんねる『【株の天才】B・N・F 【資産は2億ほど】』スレッド – 2004年頃の書き込み

二次資料(解説・分析)

  1. Wikipedia「B・N・F」 https://ja.wikipedia.org/wiki/B%E3%83%BBN%E3%83%BBF
  2. Wikipedia「ジェイコム株大量誤発注事件」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%A0%E6%A0%AA%E5%A4%A7%E9%87%8F%E8%AA%A4%E7%99%BA%E6%B3%A8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
  3. みずほ証券「誤発注に係る再発防止に向けた改善策の策定について」(2006年1月20日付プレスリリース)https://www.mizuhobank.co.jp/release/cb/pdf/20060120.pdf
  4. 大量保有報告書, ジェイコム株式会社, 平成17年12月16日提出(本名による記載、法に基づく公開情報)
  5. オリックス「第46回定時株主総会招集通知」(2009年6月1日) – BNF氏が第9位の大株主として記載
  6. 株式会社ランド「第25回定時株主総会招集ご通知」(2021年) – 小手川隆氏が大株主として記載
  7. 楽待新聞「伝説の投資家BNF氏がビルを売却! 価格は?」(2020年4月5日閲覧)
  8. ザイ・オンライン編集部「アベノミクスで資金はさらに増加中!?伝説の投資家『B.N.F.』さんが渋谷センター街のド真ん中にビルを建築中!」(2013年9月18日、ダイヤモンド社)
  9. 日経コンピュータ「みずほ証-東証の誤発注裁判、10年経て終結、問われ続ける『責任の所在』」

関連書籍

  1. リチャード・スミッテン著『世紀の相場師ジェシー・リバモア』 – BNF氏が唯一推薦した投資本
  2. 『億超えトレーダーが絶対に教えたくない アベノミクス株投資の法則』(扶桑社、2013年)
  3. cis著『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(KADOKAWA) – 同時代の投資家cisさんの書籍

漫画・メディア

  1. 藤崎聖人『WILD LIFE(ワイルドライフ)』第19巻 – BNFがモデルとなったキャラクターが登場(週刊少年サンデー)

関連解説サイト

  1. プロフィールまとめblog「BNF(小手川隆)の経歴は?」 https://human-profile.hatenablog.com/entry/bnf
  2. 株ブログ各種「BNF氏の投資手法をまとめ」「BNF氏の乖離率逆張り手法」など、多数の解説ブログ

補足

本記事は、上記の一次資料を中心に、複数の二次資料を組み合わせて構成しました。BNF氏は2009年以降、メディアに一切出ていないため、現在の状況については推測を含む部分があります。また、引用部分は、原典に当たることが難しいものもあり、複数のメディアで引用されている内容を再構成しています。

なお、BNF氏の名前を悪用して「投資手法を教える」などと称する詐欺アカウントが多数存在します。本人がメディア露出を完全に避けているため、SNSやLINEグループなどで「BNF」を名乗るアカウントは、すべて偽物だと考えて間違いありません。十分にご注意ください。


本記事は2026年5月時点での公開情報に基づいて執筆しました。投資判断はあくまで自己責任でお願いいたします。

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