「未経験歓迎」の求人に10年以上騙された記録

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「未経験歓迎」の求人に10年以上騙された記録

希望の二文字

求人票を眺めるとき、最初に目が行く場所がある。給料でも勤務地でもない。「未経験歓迎」の四文字だ。

未経験歓迎。この四文字は、スキルも経歴も乏しい人間にとって、砂漠のオアシスのような存在だ。「あなたのような人間でも、受け入れます」と言ってくれている。門前払いされない。エントリーする権利がある。その権利があるだけで、少しだけ前を向ける。

だが10年以上、「未経験歓迎」の求人に応募し続けて気づいた。この四文字には、いくつかの隠された意味がある。字面通りの「未経験でも歓迎します」ではないケースが、圧倒的に多い。

パターン1、「未経験歓迎」だが実際は経験者優遇

最も多いパターンだ。求人票には「未経験歓迎」と書いてあるが、応募してみると書類選考で落ちる。何度も落ちる。

なぜ落ちるのか。「未経験歓迎」と「未経験のみ募集」は違う。「歓迎」は、「来てもいいですよ」程度の意味であり、「優先的に採用します」ではない。実際には経験者が同時に応募しており、経験者が優先される。未経験者は、経験者が集まらなかった場合の補欠要員だ。

つまり「未経験歓迎」は、「応募の門戸は開いていますが、採用は別の話です」という意味だ。門は開いているが、中に入れるかどうかは保証されない。開いた門に吸い寄せられて応募し、書類で落ちる。これを何十回と繰り返した。

企業が「未経験歓迎」と書く理由は、応募母数を増やしたいからだ。応募が多ければ、その中から良い人材を選べる。未経験者が応募してくれることで、選択肢が広がる。企業にとっては合理的な戦略だが、応募する側にとっては「期待させて落とす」ことの繰り返しだ。

パターン2、「未経験歓迎」だが労働条件が過酷

「未経験歓迎」で実際に採用される求人もある。ただし、その多くは労働条件に問題がある。

経験者が来ない理由がある。給料が安い。労働時間が長い。離職率が高い。要するにブラック企業だ。経験者はこういう企業を避ける。避けられた結果、未経験者を「歓迎」せざるを得ない。歓迎しているのではなく、他に来る人がいないだけだ。

ある求人に応募して面接に行った。「未経験歓迎、正社員、月給20万円」。悪くない条件に見えた。面接で詳しい話を聞いたら、「月給20万円には固定残業代40時間分が含まれています」。つまり基本給は14万円程度で、40時間分の残業が最初から組み込まれている。40時間を超えた分は別途支給されるとのことだが、「超えることはほぼありません」と面接官は笑った。つまり毎月40時間の残業が想定されている。月の労働時間は200時間超。時給換算すると1000円を下回る。

「未経験歓迎」の裏に、こういうカラクリが隠れている。未経験者は相場を知らないから、カラクリに気づきにくい。気づかないまま入社し、過酷な労働に従事させられる。気づいた頃には辞めにくくなっている。

パターン3、「未経験歓迎」だが年齢で落とされる

「未経験歓迎」と「年齢不問」はセットで書かれることが多いが、実態は違う。

35歳以上で「未経験歓迎」の求人に応募すると、書類の段階で落ちることが多い。法律上、年齢制限は原則禁止だが、「長期勤続によるキャリア形成のため」という例外規定で、事実上の年齢制限が行われている。

求人票には「年齢不問」と書いてある。だが応募すると「今回は見送らせていただきます」。理由は開示されない。だが薄々わかっている。年齢だ。45歳の未経験者と25歳の未経験者が同時に応募したら、25歳が選ばれる。育成のコストを考えれば、若いほうが有利。これは合理的な判断だが、45歳の未経験者にとっては門前払いだ。

「未経験歓迎」「年齢不問」。この二つのフレーズが揃った求人票を見て、期待して応募して、落ちる。期待と落胆のサイクルを、10年以上繰り返してきた。

パターン4、「未経験歓迎」だが研修が存在しない

運よく採用されたケースでも、「未経験歓迎」の嘘が待っていることがある。研修がないのだ。

「未経験歓迎」と書いてあれば、当然、未経験者向けの研修や教育体制が整っていると思う。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)なり、座学なり、何らかの教育があるはずだ。

だが実際に入社してみると、「見て覚えて」「前任者の資料を読んで」「わからなかったら聞いて」。これが研修の全てだった。前任者はすでに退職しており、資料はどこにあるのかわからない。聞こうにも、忙しそうな先輩に声をかけるタイミングがつかめない。

「未経験歓迎」と書いておきながら、未経験者を受け入れる体制がない。歓迎はするが、育てる気はない。歓迎するだけなら、誰にでもできる。育てるのにはコストがかかる。コストをかけたくないから育てない。育てないなら「未経験歓迎」と書くな、と言いたいが、言ったところで何も変わらない。

「未経験歓迎」の正しい読み方

10年以上の経験から編み出した、「未経験歓迎」の正しい読み方を共有する。

読み方1。「未経験歓迎」=「応募は受け付けますが、採用は経験者優先です」。応募のハードルを下げているだけで、採用のハードルは別。

読み方2。「未経験歓迎」+「急募」=「人が足りなくて困っています。誰でもいいから来てください」。急募の裏には、人がすぐ辞める理由がある。

読み方3。「未経験歓迎」+「アットホームな職場」=「人間関係が濃密で逃げ場がない職場です」。アットホームは良い意味でも悪い意味でもある。

読み方4。「未経験歓迎」+「やる気重視」=「スキルは教えませんが、やる気でカバーしてください」。やる気だけで仕事はできないが、やる気を求められる。

読み方5。「未経験歓迎」+「幹部候補」=「入社直後からハードワークです。幹部になれるかどうかは不明」。幹部候補の「候補」は永遠に候補のまま終わる可能性がある。

これらの読み方を身につけるのに10年かかった。10年分の応募と不採用と入社と退職の経験が、この読解力を培った。高い授業料だった。

それでも「未経験歓迎」に応募し続ける

騙されてきた。何度も騙された。それでも「未経験歓迎」の求人に応募し続けている。

なぜか。他に応募できる求人がないからだ。「経験者優遇」「○年以上の実務経験」「マネジメント経験必須」。これらの条件を満たさない私には、「未経験歓迎」しか門戸が開いていない。閉じられた門の前で立ち尽くすより、開いた門に入ってみるほうがまだ可能性がある。

10回応募して1回面接に呼ばれる。10回面接して1回採用される。打率1%。低いが、ゼロではない。ゼロでない限り、打席に立ち続ける。三振しても、次の打席がある。打席に立つこと自体をやめたら、ヒットの可能性は完全にゼロになる。

「未経験歓迎」は、嘘が多い。だが、たまに本当のこともある。本当に未経験者を歓迎し、研修を用意し、育ててくれる企業。そういう企業に出会えるまで、応募し続ける。10年で出会えなかったが、11年目に出会えるかもしれない。出会えないかもしれない。だが応募することを止めたら、出会いの確率はゼロだ。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。「未経験歓迎」に翻弄された経験がある人は、きっと少なくないはずです。

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