【保有銘柄から逆算する】個人投資家・吉田知広氏の投資哲学

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〜130銘柄超を保有する「サイレント・バリュー投資家」の全貌を一次情報から読み解く〜


はじめに:本稿で目指すもの

個人投資家・吉田知広氏は、日本の株式市場において極めてユニークな存在です。

2024年6月時点で約137銘柄、2025年現在でも100銘柄を超える上場企業の大株主に名を連ねながら、本人は一切メディアに登場しません。書籍を書くこともなく、ブログもなく、SNSでの発信も確認できません。それでいて保有資産は推定数十億円規模に達し、彼が大株主になったというだけで「色々な思惑を持った投資家を呼び込む」材料となるほどの存在感を持っています。

このような「沈黙する大投資家」の投資哲学を、どう読み解けばよいのでしょうか。

答えは一つしかありません。「彼が何を買っているか」という一次情報そのものを徹底的に分析することです。

幸いなことに、日本の上場企業は毎期、株主上位10名を有価証券報告書に開示する義務を負っています。吉田氏が大株主となっている企業の有価証券報告書を網羅的に追えば、彼の投資行動の全貌が浮かび上がります。これは本人の言葉以上に雄弁な「行動による哲学」です。

本稿では、IRBANK、バフェット・コード、株探、バリュートレンドなどに集約されている公開データ(すべて有価証券報告書を一次情報源とするもの)をもとに、私なりの視点で吉田氏の投資哲学を分析していきます。


第1章:吉田知広氏とは何者か — 確認できる事実だけを並べる

1-1. 基本プロフィール

まず、公開情報から確認できる吉田知広氏の基本データを整理してみましょう。

IRBANKに登録されている情報によれば、吉田知広氏の英語表記は「Yoshida Tomohiro」、読み仮名は「よしだともひろ」、生年月日は昭和61年(1986年)7月30日、業種区分は「個人」となっています。

2026年現在で39歳ということになります。これは個人投資家として極めて重要な事実です。なぜなら、彼は決して「相続で巨万の富を得た老人」でも「事業を大成功させて引退した経営者」でもないからです。私の世代感覚で言えば、まだまだ働き盛りの若手〜中堅世代。にもかかわらず、すでに日本中の上場企業の大株主リストに名前が連なっている。これは何を意味するのでしょうか。

私は、ここに吉田氏の哲学の出発点があると見ています。「若くして大量の資産を株式市場で築いた人」という前提で彼の投資行動を見ると、その合理性が際立って見えてくるのです。

1-2. 保有銘柄数の推移 — 異常なほどの分散

IRBANKの登場社数推移を見ると、2014年に1社からスタートし、2015年8社、2016年11社、2017年17社、2018年12社、2019年9社、2020年22社、2021年40社、2022年45社、2023年54社、2024年53社、そして2025年は2社(前回報告から-51社)となっています。

ここに非常に重要なポイントがあります。

まず2020年〜2024年にかけて急速に「大株主登場社数」が増えています。これはコロナショック時の安値で大量買い付けを行った結果と推測されます。多くの個人投資家がパニック売りをしていた2020年3〜4月、吉田氏は逆に大規模な買い増しを行っていた、と読み取れます。

そして2025年の「-51社」という数字。これは多くの保有株が大株主上位10名から外れたことを意味します。考えられる理由は2つ:

  • 株価上昇で他の機関投資家の保有額が相対的に増え、ランキング外に押し出された
  • 吉田氏自身が一部を利益確定売りした

おそらくは前者の要素が大きいでしょう。2024〜2025年は日経平均が史上最高値を更新し、特に低PBR銘柄が大きく見直された時期だからです。彼が買っていた「眠っていた銘柄」が市場で評価されるようになったとも言えます。

バフェット・コードによれば、吉田知広氏は現在131銘柄を保有しています。一方、2024年6月のnote記事の時点では137銘柄を保有しており、保有額のデータは2014年9月30日から2024年6月16日までで、最大約49.7億円規模に達しています。

つまり、有価証券報告書ベースで把握できる範囲だけで約50億円の運用資産があるということです。実際には大株主上位10位以下にも多数保有しているはずなので、総運用資産は数十億円〜100億円規模である可能性が高いと推測されます。

1-3. 「主要保有銘柄」トップ20の一覧

ここで具体的な数字を見ていきましょう。2024年6月時点のえづれ氏のnote記事に掲載された吉田知広氏の主要保有銘柄上位は次のようになっています。 Note

順位 銘柄コード 会社名 保有額(百万円) 保有割合(%)
1 8130 サンゲツ 4,968 2.80
2 1885 東亜建設工業 2,760 3.12
3 7433 伯東 2,439 2.38
4 7199 プレミアグループ 2,325 3.02
5 7905 大建工業 2,276 2.90
6 3431 宮地エンジニアリンググループ 1,966 3.05
7 1890 東洋建設 1,903 1.46
8 8707 岩井コスモホールディングス 1,645 3.19
9 6237 イワキ 1,612 2.79
10 2362 夢真ホールディングス 1,442 1.82

これは強烈なデータです。1位のサンゲツ(インテリア商社)に約50億円相当を投じ、2位の東亜建設工業(マリコン)に約28億円。10位までで合計約234億円規模の保有額。これだけでも国内屈指の個人投資家であることが分かります。

しかも上位10銘柄の業種を見てください。インテリア商社、海洋土木、半導体商社、リース、建材、橋梁建設、海洋土木、地方証券、化学、建設派遣——ほとんどが「地味で目立たない、しかし社会インフラを支える業種」です。

ここに吉田氏の投資哲学の核心が透けて見えます。


第2章:「サイレント投資家」現象 — なぜ表に出ないのか

2-1. 表に出ない投資家たち

吉田氏について語る前に、まずは「日本の大口個人投資家の世界」を俯瞰しておきましょう。

マネーポストWEBの記事は、この世界の構造を端的に描写しています。「1人で10社以上の大株主となった人のほとんどは、巨額の資金を長期投資する『個人投資家』です。市場への影響も大きく兜町も大物個人投資家の動向には注目していますが、基本的に表舞台に出てこないので情報が少ないのです」と、株式会社ノークリーのファイナンシャルプランナー松澤健一郎氏は述べています。

吉田氏もまさにこのカテゴリに属しています。

これは日本特有の現象でもあります。アメリカではウォーレン・バフェットやレイ・ダリオのように、大投資家が自ら本を書き、株主総会で語り、年次書簡を公開するのが当然です。一方、日本の大物個人投資家の多くは「表に出ない」を貫きます。

なぜでしょうか?私の見立てでは、3つの理由があると思います。

①「見せる」ことで失うものの方が大きい
吉田氏は約130銘柄を保有しています。仮に彼が表に出て「私は○○銘柄を保有しています」と語った瞬間、その銘柄は「吉田銘柄」として注目され、株価が急騰してしまいます。すでに彼が大株主になったというだけでYahoo!掲示板で「吉田知広氏が大株主になられたようですね。この株価なら色々な思惑を持った投資家を呼び込むでしょう」と話題になる状況です。

ということは、彼にとって「沈黙」自体が利益の源泉なのです。買い増し時、利益確定時、いずれにおいても「他の参加者に動きを読まれない」ことに価値があります。

②「教える側」になることへの根本的な無関心
本を書いて印税を得る、講演で講演料を得る——これらは年に数億円の含み益を当然のように動かす大口投資家にとって、ほぼ「ノイズ」程度のリターンしかありません。むしろ、本を書く時間を相場分析に充てた方が遥かに合理的です。

③ 注目されることのリスク
日本では大金持ちは妬まれます。表に出ることで犯罪に巻き込まれる、家族が嫌な思いをする、税務当局から目をつけられる——こうしたリスクを冒してまで表に出る合理性は乏しいわけです。

2-2. 「サイレント」であること自体が投資哲学

私は、この「表に出ない」という姿勢こそが、吉田氏の投資哲学の第一原則だと考えています。

考えてみてください。彼は約130銘柄もの保有銘柄を持っています。もしこれらをすべて「公言・解説」していたら、彼自身が市場のインフルエンサーになってしまいます。すると、自分の動きが自分の利益を毀損する。これを避けるために、最初から「徹底的に黙る」ことを選んでいると考えるのが自然です。

これは投資哲学というより運用上の規律です。しかし、規律こそが哲学の最も重要な要素である、というのが私の見解です。

「相場では大声で語る者ほど儲かっていない」——これは古今東西の鉄則です。吉田氏は静かに、しかし大量に、買い続けている。これだけでも十分に学びがあるのではないでしょうか。


第3章:保有銘柄から逆算する投資哲学 — 5つの特徴

ここから本論に入ります。吉田氏の保有銘柄リストを徹底的に分析すると、5つの明確な特徴が浮かび上がってきます。

3-1. 特徴①:時価総額の小さい「スタンダード市場銘柄」への集中

これは最も顕著な特徴です。

上位保有銘柄のサンゲツ、東亜建設工業、伯東あたりは時価総額1,000億円以上のプライム企業ですが、それ以下の保有銘柄を眺めると、時価総額50億円〜300億円のスタンダード市場・グロース市場銘柄が圧倒的多数を占めます。

例えば、保有銘柄に含まれるスペースバリューホールディングス(1448)、KHC(1451)、三井金属エンジニアリング(1737)、工藤建設(1764)、藤田エンジニアリング(1770)、富士古河E&C(1775)、常磐開発(1782)、大末建設(1814)、田辺工業(1828)など、いずれも建設関連の中小型株が並びます。

この戦略の背景には、明確な合理性があります。「就職氷河期世代ニートのサバイバル」というブログが鋭く指摘していますが、時価総額数十億から300億円程度の小型銘柄を分析するアナリストは皆無に近く、これはプロにとって採算に合わないためです。何兆円ものプロの資金が流入すれば、時価総額が300億円程度の小型株を大量に買い付けることは困難で、小型株は売買が少ないので、プロ自らの買いで値段が吊り上がってしまい、池の中のクジラのような状態になってしまうのです。

つまり、「プロが入って来られないニッチな市場」で個人として最大の存在感を発揮する戦略です。これは伝説の個人投資家・五味大輔氏の「プロとは戦うな」という名言と通底する考え方であり、巨大ファンドと戦っても勝ち目はないので、”個人でできること”を最大限に生かして勝つという考えに基づきます。

ただし、五味氏が「集中投資」を選ぶのに対し、吉田氏は対照的に「徹底的な分散投資」を選んでいます。同じ「プロと戦わない」哲学から、まったく異なるアプローチが生まれている点が興味深いところです。

3-2. 特徴②:建設・工業セクターへの異常な集中

保有銘柄リストを建設業セクターだけで抽出すると、その傾向の強さが際立ちます。

私が確認できた建設・土木関連の保有銘柄だけでも以下があります:

  • 1448 スペースバリューHD(プレハブ建築)
  • 1451 KHC(建設)
  • 1737 三井金属エンジニアリング
  • 1764 工藤建設
  • 1770 藤田エンジニアリング
  • 1775 富士古河E&C
  • 1782 常磐開発
  • 1814 大末建設
  • 1828 田辺工業
  • 1885 東亜建設工業(マリコン)
  • 1890 東洋建設(マリコン)
  • 1939 四電工
  • 1948 弘電社
  • 1997 暁飯島工業
  • 3431 宮地エンジニアリンググループ(橋梁)
  • 6489 前澤工業(上下水道)
  • 8157 都築電気
  • 5921 川岸工業
  • 6797 名古屋電機工業

合計19社以上、保有上位の相当部分が建設関連です。

なぜ吉田氏は建設セクターをこれほど偏愛するのでしょうか。

私は3つの理由を推測しています。

①「資産価値が見える」業種だから
建設会社の特徴は、保有資産(土地、機材、未成工事支出金、受注残)が比較的把握しやすいことです。そのため、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込んでいる「割安銘柄」を見つけやすい業種です。バリュー投資の聖地と言ってもよいでしょう。

②「PBR1倍割れ問題」の追い風
2023年3月、東京証券取引所が「PBR1倍割れ企業」に対して資本コストや株価を意識した経営の改善要請を出しました。これにより、PBR1倍割れの建設株は一斉に見直されました。吉田氏が保有していた東亜建設工業や東洋建設の株価は、この時期に大きく上昇しています。彼はこの「政策的追い風」をコロナショック時に大量に仕込んでいたわけです。

③「日本のインフラ更新需要」という長期テーマ
日本の高度経済成長期に作られた橋梁、トンネル、上下水道、港湾施設などは、すでに更新時期を迎えています。今後数十年にわたって安定的に発注がある業種なのです。短期的には地味でも、長期的には需要が確実に存在する。これはバリュー投資家にとって最も「読める」テーマの一つです。

つまり吉田氏は、「①バランスシートが見える、②政策の追い風がある、③長期需要が確実」という三拍子そろった建設セクターに、徹底的にベットしているわけです。これは表面的には地味でも、極めて理論的な選択です。

3-3. 特徴③:低PBR・高配当銘柄への明確な傾倒

吉田氏の保有銘柄を眺めると、もう一つ明確な特徴が浮かびます。それはPBRが低く、配当利回りが比較的高い銘柄が圧倒的に多いことです。

例えば代表的な保有銘柄である:

  • 三陽商会(8011):アパレル、PBR長期的に1倍前後
  • ニチモウ(8091):水産商社、PBR0.5倍前後
  • 高島(8007):建材商社、PBR0.5〜0.7倍
  • いちよし証券(8624)、岩井コスモHD(8707):中小型証券、PBR低位

これらはすべて、伝統的な「ディープ・バリュー株」と呼ばれる類のものです。成長性は乏しいけれども、保有資産に対して株価が極端に安い銘柄群。

ここで私が重要だと思うのは、吉田氏が**「グロース株」をほぼ保有していない**ということです。彼の保有銘柄リストには、半導体製造装置の大手企業(東京エレクトロン、レーザーテックなど)も、テスラやエヌビディアのような米国成長株も、生成AI関連株も、目立つ形では入っていません。

これは何を意味するのでしょうか。

私は、吉田氏は「成長を買わない」投資家なのだと解釈しています。成長性を見抜くのは難しい。将来のことは誰にも分からない。一方、すでにバランスシートに乗っている資産は「事実」として確認できる。だから、彼は「事実」だけを買っている。これは極めて保守的で、極めて知的なアプローチです。

3-4. 特徴④:徹底した分散投資(130銘柄超)

ここまで述べてきた「小型・建設・バリュー」という方向性を、彼は130銘柄超に分散して実行しています。

これは個人投資家としては異常な分散度合いです。普通の個人投資家は、せいぜい10〜20銘柄、多くても30銘柄程度の保有が一般的でしょう。

なぜ吉田氏はここまで分散するのでしょうか。

考えられる理由は以下のとおりです。

①個別企業リスクの最小化
小型株は、不祥事や急な業績悪化で株価が半値になることが珍しくありません。1銘柄に集中していると、これに直撃されると致命傷になります。130銘柄に分散していれば、1銘柄が半値になっても、ポートフォリオ全体への影響は1%未満です。

②流動性リスクへの対処
小型株は出来高が少ないため、大量に買い集めるには時間がかかります。逆に売る時も、急いで売ると株価が暴落します。多数の銘柄に分散しておけば、流動性リスクは大幅に低減されます。

③「インデックス的バリュー」の構築
130銘柄ともなれば、もはやアクティブ運用というよりも「自作の小型バリュー株インデックス」に近い状態です。実際、TOPIX Smallの値動きと相関が高くなる傾向があるはずです。これは「自分でファンドを作って運用している」ようなものです。

④機会損失の排除
「これは安い」と思った銘柄を、機会があるたびに買っていく。すると自然と銘柄数が増えていく。徹底的な「割安銘柄ハンティング」を続ければ、結果として分散投資になる、というアプローチです。

私は④の解釈が最も実態に近いのではないかと考えています。「分散させよう」と意図して分散しているのではなく、「割安なものをすべて拾っていく」結果として、130銘柄になっているのです。

3-5. 特徴⑤:保有割合は1〜3%が中心

最後の特徴として、各銘柄での保有割合(発行済株式数に対する比率)に注目すると、おおむね1〜3%程度に収まっています。

これには2つの戦略的意味があります。

①「ものを言う株主」ではなく「静かなる株主」を選択
日本の会社法では、5%以上の保有で「大量保有報告書」の提出義務が発生します。さらに10%以上では税法上・経営上の影響が大きくなります。吉田氏が意図的に5%以下に抑えているのは、こうした規制を回避し、「静かに保有する」スタンスを貫いているからでしょう。

②流動性の確保
仮に1銘柄で発行済株式の5%を持ってしまうと、売る時に問題になります。買い手が見つからず、自分自身の売りで株価が暴落するからです。1〜3%程度であれば、何回かに分けて売り抜けることが現実的に可能です。

ただし例外もあります。ありがとうサービス(3177)では一時2.24%、東亜建設工業(1885)では3.22%、グッドコムアセット(3475)では2.82%、シノブフーズ(2903)では3.17%といった具合に、3〜4%台に達している銘柄も複数あります。

このあたりは、吉田氏が「特に確信を持っている銘柄」と推測できます。


第4章:個別銘柄分析 — 吉田氏の眼鏡にかなった企業たち

総論を踏まえた上で、いくつかの代表的な保有銘柄を分析していきます。これは「彼が買ったから良い銘柄」ではなく、「彼がどんな視点で銘柄を選んでいるかを逆算する」ための作業です。

4-1. サンゲツ(8130)— ポートフォリオ最大の保有銘柄

サンゲツは壁紙・床材などインテリア商材の最大手です。吉田氏は約50億円相当、保有割合2.8%を持っており、これが彼のポートフォリオ最大の保有銘柄です。

サンゲツが吉田氏の眼鏡にかなった理由を考えてみましょう。

①ニッチ業界の独占的地位
壁紙という、誰もが必要としながら、ほとんど話題にならない地味な市場。サンゲツはこの市場で圧倒的なシェアを持っています。「ニッチ独占」は、バリュー投資家の好物の一つです。

②堅実なROEと配当
サンゲツは長年、ROE10%前後、配当性向50%超、配当利回り4%前後を実現してきた、堅実な「インカム銘柄」です。派手な成長はないが、確実にキャッシュを生む。

③インバウンド・リフォーム需要
ホテル建設、リフォーム需要、商業施設のリニューアル等で、壁紙・床材の需要は底堅い。日本の住宅・建築のストック更新は今後数十年続く構造的テーマです。

吉田氏が建設セクターを偏愛しているのと一脈通じる「住宅・建築インフラ」へのベットと見ることができます。

4-2. 東亜建設工業(1885)と東洋建設(1890)— マリコン・ダブル投資

2大保有銘柄として並ぶのが、東亜建設工業と東洋建設。両社とも**「マリコン」(マリーン・コンストラクター)と呼ばれる海洋土木の専業ゼネコン**です。

吉田氏はこの2社に合計約47億円を投じています。これは偶然ではないでしょう。

マリコンに集中投資する戦略的意味は次の通りです。

①洋上風力発電という長期テーマ
日本政府は2050年カーボンニュートラルを掲げ、特に洋上風力発電に注力しています。洋上風力の建設には港湾整備、基礎工事、海底ケーブル敷設が不可欠で、すべてマリコンの仕事です。これは10〜20年単位の構造的テーマです。

②老朽化港湾の更新需要
日本の港湾施設の多くは戦後〜高度成長期に作られ、すでに耐用年数を超えつつあります。国土強靭化計画の中で、港湾整備は重点項目です。

③参入障壁の高さ
マリコンは特殊な作業船舶、技術、ノウハウが必要で、新規参入は事実上不可能。寡占市場であり、価格決定力を持ちやすい。

④旧村上ファンド系の介入
東洋建設には旧村上ファンド系のヤマウチ・ナンバーテンファミリーオフィスが介入し、TOB騒動を巻き起こしました。この「アクティビスト介入による株価カタリスト」を吉田氏は事前に読んでいた可能性があります。

つまり吉田氏は、「長期構造テーマ × 政策後押し × 参入障壁 × アクティビスト・カタリスト」という4つのファクターが揃ったマリコンに大胆にベットしていると読み取れるわけです。これは極めて理論的な銘柄選択です。

4-3. 伯東(7433)— 半導体商社という「隠れた成長セクター」

意外な保有銘柄として注目したいのが伯東です。約24億円、保有割合2.38%。

伯東は半導体・電子部品の専門商社ですが、世間で言うところの「半導体株」とは少し違います。製造装置メーカーや半導体メーカーではなく、その間をつなぐ商社です。

ここに吉田氏らしさが現れています。

「半導体ブーム」が起きたとき、誰もが東京エレクトロン(8035)やレーザーテック(6920)に向かいます。これらは時価総額数兆円のプライム銘柄で、PER数十倍まで買われます。

しかし吉田氏は、その**「裏方」である中堅商社**を買っているのです。伯東のPERは長期的に10倍前後、PBRは1倍前後で推移してきました。半導体産業全体の成長を取り込みつつ、バリュー的に安全マージンも確保する——この「ピックアンドショベル戦略」とでも呼ぶべき発想が、吉田氏の真骨頂です。

ゴールドラッシュで儲かったのは金を掘った人ではなく、シャベルを売った人だった——という有名な逸話があります。伯東への投資は、まさにこの哲学を体現しています。

4-4. プレミアグループ(7199)— 中古車ローン保証の「インフラ企業」

プレミアグループは、中古車向けの保証・ローンを手掛ける金融サービス企業です。約23億円、保有割合3.02%の大型保有銘柄。

ここでも吉田氏の眼の付け所が光ります。中古車市場そのもの(カーセンサーやガリバーなど)ではなく、その背後で「保証」を担う企業を選んでいる。

①ストック型ビジネスモデル
保証ビジネスは保証期間中継続的に収益が発生する、安定したストック型収益。

②高ROE
プレミアグループはROE20%超の高収益企業。にもかかわらず時価総額は比較的小さく、見過ごされがち。

③配当性向上昇傾向
近年は配当性向を引き上げており、株主還元姿勢が明確。

ここでも「地味だがキャッシュを生む、しかも見落とされている」という吉田氏の選好パターンが完全に当てはまります。

4-5. 岩井コスモホールディングス(8707)— 中堅証券への「逆張り」

中堅証券会社、岩井コスモホールディングスへの約16億円の投資。保有割合3.19%。

これは興味深い選択です。なぜなら、証券業界は構造的に縮小傾向にあるからです。ネット証券との価格競争、若年層の流入減、対面営業の苦戦——苦戦するセクターの代表例と言ってもよい。

なぜ吉田氏はあえてこのセクターを選ぶのか。

私の推測では、3つの理由が考えられます。

①PBR0.5倍前後の極端な割安水準
中堅証券は軒並みPBR0.5倍を割っており、純資産価値に対して半額以下で買える状態。下値リスクが限定的。

②NISA拡充による中長期の追い風
新NISA制度の本格スタートにより、個人の株式投資参加が増加。中堅証券にも一定の恩恵が見込まれる。

③資産の現金化(清算価値)でも採算が取れる水準
極論、会社が清算しても帳簿上の現金・有価証券等の換金で投資金額を回収できる可能性。これは「グラハム流ネットネット投資」の発想です。

吉田氏は岩井コスモHDだけでなく、いちよし証券、今村証券、豊トラスティ証券、HSホールディングスなど、複数の中堅証券・地方証券に分散投資しています。これは「中堅証券セクター全体が割安」というマクロ判断と、「個社リスクを分散」という戦術の組み合わせです。

4-6. ありがとうサービス(3177)— 異色の小売・FC本部銘柄

愛媛県今治市に本社を置く小売業、ありがとうサービス。「BOOK OFF」「HARD OFF」のFCを多店舗展開する、知る人ぞ知る企業です。

保有割合は3.09%(2024年時点の旧データ)。最新の2025年時点では2.24%と若干減少していますが、依然として大株主の地位を維持しています。

なぜこのような地方の小規模企業を吉田氏が選ぶのか。

①ストック型ビジネスとしてのリユース市場
中古市場は景気変動に強く、むしろ不景気でも収益が出やすい。SDGsの追い風もあり、長期的に成長余地がある。

②高ROE・高配当の小型優良株
ありがとうサービスは中小規模ながら、安定的に利益と配当を出し続けてきました。

③地方発の本物の優良企業
地方の中堅企業には、大都市のアナリストの目が届かない優良銘柄が眠っている。これを地道に掘り出す姿勢が、吉田氏らしさです。


第5章:他の著名個人投資家との比較 — 「吉田流」の位置づけ

吉田氏の投資スタイルを浮き彫りにするため、他の著名な個人投資家との比較を行ってみます。

5-1. 内藤征吾氏との比較

内藤征吾氏は、日本の個人投資家界で最も有名な大株主の一人です。マネーポストWEBによれば、保有企業数22社でトップになっており、「兜町では知る人ぞ知る投資家で、彼が株を大量保有する企業は信頼できると評判になり、『内藤銘柄』として投資基準のひとつになっています」と言われる存在です。

内藤氏と吉田氏の共通点:

  • メディアに登場しない
  • 中小型株への投資が中心
  • 長期保有スタイル

相違点:

  • 銘柄数:内藤氏が大株主として登場するのは22社程度(記事公表時)。吉田氏は130銘柄超。吉田氏の方が圧倒的に分散度が高い
  • 業種分布:内藤氏は不動産・建設系に強い傾向があるが、吉田氏はさらに業種が広範囲

つまり、吉田氏は内藤氏よりも「より広く、薄く」分散する戦略を取っていると言えます。

5-2. 五味大輔氏との比較

カリスマ投資家として有名な五味大輔氏は、対照的な投資哲学を持っています。「五味氏は『プロとは戦うな』という名言を残しており、巨大ファンドと戦っても勝ち目はないので、”個人でできること”を最大限に生かして勝つという考えで、投資のセオリーとされる『分散投資』ではなく、狙いの銘柄に大量の資金を一気に投入する『集中投資』が彼のスタイルです」と言われています。

吉田氏との対比は非常に鮮明です:

項目 五味大輔氏 吉田知広氏
哲学 集中投資 超分散投資
銘柄数 数銘柄〜十数銘柄 130銘柄超
銘柄選択 大化け期待の成長株 バリュー・配当株
1銘柄保有比率 筆頭株主級(10%超も) 1〜3%程度
メディア露出 一定の発信あり ほぼゼロ
リターン特性 ハイリスク・ハイリターン ミドルリスク・ミドルリターン

両者とも「プロと戦わない」という共通の認識を持ちながら、まったく異なるアプローチを取っているのが興味深い点です。集中投資の極致が五味氏、分散投資の極致が吉田氏、と整理できるでしょう。

5-3. 御発注氏(コジ活投資家)との比較

東洋経済オンラインで紹介された「コジ活投資家」の御発注氏は、サラリーマン投資家として足かけ20年で約8億円もの資産を築き上げ、年間配当2000万円を実現し、コロナ禍の2020年にキャッシュポジションを徐々に株式投資に回して、最終的にはすべて株に振り分けたという経歴を持ちます。

御発注氏も吉田氏と同様に:

  • 配当・優待重視
  • 時短発想
  • 着実な資産形成

しかし、御発注氏が「8億円」を語る本を出版しているのに対し、吉田氏はすでにその数倍の資産を持ちつつも沈黙を貫いています。ここに「兼業投資家として体験を共有する投資家」と「専業として黙々と運用する投資家」の違いが見えます。

5-4. 「吉田流」の独自性

以上の比較から、吉田流の独自性を整理すると次のようになります。

  1. 超分散×バリュー×小型という三位一体
  2. 完全沈黙というスタンス
  3. 建設・インフラ・地味業種への偏重
  4. **個社では穏当な保有比率(1〜3%)**を堅持
  5. アクティブな経営介入や提案はしないスタイル

これは「日本版の小型ディープ・バリュー・インデックスを自作している」と表現することもできます。あるいは「個人ベンジャミン・グレアム」と呼んでも良いかもしれません。バフェットの師として知られるグレアムは、徹底した分散投資と純資産価値に対する割安銘柄の発掘を基本哲学としていました。吉田氏のスタイルはまさにこのグレアム流を、現代日本の中小型株市場で実践したものに見えます。


第6章:吉田流の哲学を整理する — 私の解釈

ここまで観察してきた事実を踏まえ、私なりに吉田氏の投資哲学を体系化してみます。これはあくまで「彼の行動から逆算した解釈」であり、ご本人が語った哲学ではありません。

6-1. 哲学の第一原則:「事実だけを買う」

吉田氏は、「将来の予測」ではなく「現在の事実」を買っているように見えます。

  • バランスシートに記載された資産価値は事実
  • 過去5年間の配当実績は事実
  • 自己資本比率は事実
  • 業界での独占的地位は事実

これらすべて、未来の予測ではなく、現時点で確認できる事実です。

一方で、彼は「次の10年でこの会社が3倍になるか」「AI革命の勝者になるか」といった予測には、ほぼベットしていないように見えます。

これは極めて知的で謙虚なアプローチです。「自分は未来を予測できない。だから事実に基づいて投資する」という認識。投資の本質的な意味で言えば、この姿勢こそが「プロフェッショナル」と呼ぶに値するのかもしれません。

6-2. 哲学の第二原則:「プロが入れない市場で個人として戦う」

これは前述の通り、五味大輔氏の「プロとは戦うな」と通底する哲学です。

ただし吉田氏は、五味氏のように「集中投資」で勝負するのではなく、「分散投資」で勝負するという、より地味で着実なアプローチを取っています。

  • プロが入れない=時価総額の小さい市場
  • 個人として戦える=1〜3%の保有比率に抑える
  • 数を打って勝つ=130銘柄に分散

これは野球で言えば、「ホームラン狙いではなく、コツコツヒットを打ち続ける」スタイル。チームの勝利確率は、ホームラン狙いより高くなります。

6-3. 哲学の第三原則:「沈黙という規律」

何度か触れてきましたが、これは吉田氏の哲学の最も特徴的な部分です。

彼は語らない。だから語る人々(メディア、評論家、SNSインフルエンサー)に振り回されない。情報の波に乗らず、自分自身が情報の波を作ることもない。

これは現代の投資環境において、極めて重要な「ノイズ・フィルタ」です。SNS上ではあらゆる「投資家」が大声で投資判断を語っています。その騒音の中で冷静に判断を下せるかどうかが、長期的なリターンを左右します。

吉田氏は「そもそもその騒音に参加しない」という、最もシンプルで強力な対処法を選んでいます。

6-4. 哲学の第四原則:「コロナのような暴落時に大量買い」

IRBANKのデータが示すように、吉田氏が大株主として登場した社数は2020年に22社、2021年40社、2022年45社、2023年54社と急増しています。

これは、コロナショック時の暴落で大量の買い付けを行い、その結果として大株主上位に名を連ねるようになったことを示しています。

つまり、暴落時に「買える」投資家だということです。これは言うは易く行うは難い。多くの個人投資家はコロナショック時にパニック売りをしましたが、吉田氏は逆に買っていた。規律と現金ポジションがなければ実行できない哲学です。

6-5. 哲学の第五原則:「政策の風を読む」

吉田氏が建設セクターに集中投資し、その後PBR1倍割れ問題で建設株が大きく見直されたこと。この符合は偶然ではないでしょう。

東証のPBR改革、新NISA制度、洋上風力推進、国土強靭化計画——日本政府が打ち出す政策の風を、彼は冷静に読んでいると推測されます。

これは「政策トレード」とは少し違います。政策トレードは政策発表の瞬間に飛びつくスタイルですが、吉田氏は**「政策が今後5〜10年で何をもたらすか」を見据えて、政策発表前から地味なバリュー株を仕込む**スタイル。より長期的で、より戦略的です。


第7章:吉田流から私たちが学べること — 実践的視点

ここまで分析してきた吉田氏の投資哲学から、私たち一般の個人投資家は何を学べるでしょうか。私自身の視点で、5つのレッスンを抽出してみます。

7-1. レッスン①:「面白くない銘柄」こそ宝の山

SNSやYouTubeで話題になる銘柄は、すでに多くの人が知っており、株価に織り込まれていることが多いです。

逆に、サンゲツ、東亜建設工業、伯東、ありがとうサービスのように、「名前を聞いてもピンとこない、何をしているか説明しづらい」企業にこそ、割安に放置された宝が眠っている可能性があります。

実践のヒント:

  • 会社四季報のページをランダムに開く習慣をつける
  • 業種別株価指数で出遅れている業種を定期チェックする
  • 自分の生活で接点はないが、社会インフラを支えている企業を意識する

7-2. レッスン②:分散と集中のトレードオフを自覚する

五味氏は集中投資で大成功し、吉田氏は分散投資で大成功しました。どちらが正解かはありません。

重要なのは、自分の性格と能力に合った道を選ぶことです。

  • 集中投資は、銘柄選択能力が極めて高い人でないとリスクが大きい
  • 分散投資は、銘柄選択能力が平均以下でも、市場全体の上昇に乗れる

おそらく多くの個人投資家にとって、吉田流の分散アプローチの方が「現実的」です。「自分は天才ではない」と認める謙虚さを持つこと、これが投資の第一歩かもしれません。

7-3. レッスン③:政策と構造変化を長期で読む

短期的な株価変動を当てるのは不可能でも、10年単位の構造変化はある程度予測可能です。

  • 日本のインフラ更新需要は、向こう30年は確実に続く
  • 高齢化に伴う医療・介護需要は構造的に拡大する
  • カーボンニュートラル政策は、各国とも逆戻りしにくい
  • AI・半導体は、米中対立の中で日本のポジショニングが重要

これらの「ほぼ確実な構造変化」に乗る銘柄を地道に集めていけば、平均以上のリターンは期待できるはずです。吉田氏が建設セクターに張っているのは、まさにこれです。

7-4. レッスン④:暴落時のために、平時から現金を持つ

吉田氏のように暴落時に大量買い付けができるためには、平時から十分な現金ポジションが必要です。

しかし、多くの個人投資家は「機会損失が怖い」「インフレで現金が目減りする」と考え、常にフルポジションを取りがちです。これでは、本物の暴落が来た時に何もできません。

実践のヒント:

  • ポートフォリオの10〜20%は現金で保有する
  • 暴落時の「買い増しリスト」をあらかじめ作っておく
  • 大暴落(S&P500が30%以上下落するレベル)は10年に一度は来ると想定する

7-5. レッスン⑤:「黙る」ことの効用

最後のレッスンは、もしかしたら最も重要かもしれません。

自分の投資判断を、人に説明しない」という規律。

これは2つの意味で大切です。

①ポジショントークから自由でいられる
投資判断を公言すると、その判断を擁護しなければならない心理的圧力が働きます。「自分は間違っていなかった」と証明するために、間違いを認められなくなる。これは「保有バイアス」の最も危険な形です。

②市場のノイズから距離を取れる
自分が話さなければ、他人の反応もない。自分の投資判断は、自分のロジックだけで完結する。これは精神衛生上も、投資パフォーマンス上も、極めて健全です。

吉田氏の沈黙は、規律であると同時に、自分自身を市場のノイズから守る盾でもあるのです。


第8章:吉田流投資の弱点・リスク — 公平な視点で

吉田氏の投資哲学は素晴らしいですが、完璧ではありません。公平な視点で、その弱点とリスクも整理しておきましょう。

8-1. 弱点①:「次のGoogle」を逃す

吉田氏のスタイルでは、グロース株を意図的に避けているように見えます。これは、「次のGoogle」「次のテスラ」「次のエヌビディア」のような爆発的な成長銘柄を取り逃がすことを意味します。

過去20年、米国市場で最大のリターンを生んだのは、これら一握りのスーパー・グロース株でした。吉田流のディープ・バリュー戦略では、これに乗ることはできません。

ただし、これは「弱点」というより「戦略的選択」とも言えます。次の大化け株を当てるのは難しい。それを諦めて、確実に取れるリターンを取りに行く——という哲学的選択です。

8-2. 弱点②:管理コストの高さ

130銘柄を管理するのは、本人にとっても膨大なエネルギーが必要なはずです。各銘柄の四半期決算、配当、コーポレートアクション(増配、自社株買い、株式分割、TOB等)をフォローするのは、専業でないと厳しい。

一般のサラリーマン投資家がこれを真似するのは、ほぼ不可能です。せいぜい20〜30銘柄が現実的な上限でしょう。

8-3. 弱点③:日本市場への過度な依存

私が確認できる範囲では、吉田氏の保有銘柄はすべて日本株です。米国株、欧州株、新興国株は見当たりません。

これは為替リスク・カントリーリスクの観点で集中投資になっていることを意味します。日本円・日本市場が長期的に下落した場合、ポートフォリオ全体が下落圧力を受けます。

ただし、日本人投資家として、自分が理解できる市場(日本市場)に集中するのも一つの合理性です。「自分のサークル・オブ・コンピテンス(能力の輪)の中で勝負する」というバフェットの教えにも通じます。

8-4. 弱点④:「サイレント」であるがゆえの孤独

これは投資パフォーマンスとは別の問題ですが、誰とも投資の話をしない、誰からも教えてもらえない、というのは精神的に厳しいかもしれません。

吉田氏が実際にどう感じているかは分かりませんが、私たち一般人にとっては、投資仲間との対話や議論は学びの大きな源泉です。これを完全に断つのは、現実的ではないでしょう。


第9章:「真似してはいけない」吉田銘柄投資の落とし穴

最後に、吉田氏の保有銘柄を「真似する」ことについて、注意点を整理しておきます。

「就職氷河期世代ニートのサバイバル」というブログが、この点について鋭く指摘しています。「大口個人投資家もどのような思惑を持って保有しているかは、直接会うことができたとしても知ることは難しい。もしかしたら、一時的に利ザヤ稼ぎで持っているだけかもしれないし、長期投資で大きな成長を狙っているかもしれない。安易に大口個人投資家が保有している銘柄を真似して売り買いすると損失を出す可能性がある」と。

これは極めて重要な警告です。

9-1. タイミングの問題

仮に吉田氏が、ある銘柄を5年前に300円で買っていたとします。今、その銘柄が600円になっています。あなたが600円で買って真似をしても、吉田氏の含み益は2倍ですが、あなたはこれから0円スタートです。

つまり「買値が違う」のです。吉田氏は安く仕込んでいるから含み益があり、強気を維持できる。あなたが今の株価で買えば、ちょっとした下落で含み損になり、握力が試されます。

9-2. 保有目的の問題

吉田氏は130銘柄を分散保有しています。1銘柄が半値になっても、ポートフォリオ全体への影響は限定的。だから彼は気にせず保有し続けられる。

しかし、あなたが資金の20%をその銘柄に投じたら?半値になったら資金全体の10%が消えます。これは精神的に耐えがたい状況になり得ます。

「同じ銘柄を持っていても、ポジションサイズが違えば心理は全く違う」のです。

9-3. 売却タイミングの問題

吉田氏がいつ売るかは誰にも分かりません。あなたが「吉田銘柄」を買って数年後、ある日突然、有価証券報告書から吉田氏の名前が消えていることに気づきます。すでに彼は売り終わっており、株価は天井圏。あなたは出口を逸する。

このような状況は十分に起こり得ます。

9-4. 結論:参考にはできるが真似はできない

吉田氏の保有銘柄は、「この投資家がこの銘柄を見つけて買った」という事実を教えてくれます。これは「スクリーニングの参考情報」としては極めて価値があります。

しかし、買うかどうかは、自分自身でその銘柄を分析し、自分自身のポートフォリオの中での位置づけを考えて決めるべきです。「吉田氏が買っているから買う」は、最も愚かな投資判断の一つです。


第10章:日本市場における小型バリュー株投資の構造的優位性

吉田氏が体現しているスタイル——日本の中小型バリュー株への分散投資——には、実は強力な学術的・構造的な裏付けがあります。

10-1. ファーマ=フレンチの「3ファクターモデル」

ノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマと、ケネス・フレンチによる古典的な研究によれば、長期的に市場平均を上回るリターンを生むファクターとして、以下の3つが挙げられます:

  1. マーケット・ファクター(市場リスク)
  2. サイズ・ファクター(小型株プレミアム)
  3. バリュー・ファクター(割安株プレミアム)

吉田氏のポートフォリオは、見事に2と3の両方を取りに行っています。理論的には、長期で市場平均を上回るリターンが期待できる構成なのです。

10-2. 日本市場特有の「PBR1倍割れ問題」

東証は2023年3月、プライム市場・スタンダード市場の上場企業に対し、PBR1倍割れの是正と資本コストを意識した経営を要請しました。これは日本市場の構造改革とも言える政策です。

吉田氏が保有する建設・地味業種・中堅証券などは、まさにこの政策の主たる対象セクターです。コロナショック時に安値で仕込んでいた彼は、この政策の最大の受益者の一人になったと推測されます。

10-3. 日本市場の情報非効率性

米国市場と異なり、日本の中小型株市場は、アナリスト・カバレッジが極めて薄い領域です。時価総額数十億から300億円程度の小型銘柄を分析するアナリストは皆無に近く、これはプロにとって採算に合わないため。

つまり、ここは**「公開情報の中に、まだ市場が織り込んでいない事実が眠っている**」可能性が高い領域。個人投資家が時間と労力をかけて分析すれば、プロを出し抜ける数少ない場所なのです。

吉田氏はここで戦っている。これは戦略的に極めて賢明な選択です。


第11章:吉田知広氏の投資哲学を一言で表すなら

長い分析を終えて、吉田氏の投資哲学を一言で表現してみたいと思います。私の解釈はこうです:

「未来を当てに行かず、現在の事実を、誰よりも広く、誰よりも静かに、誰よりも長く保有する」

これが吉田流の本質ではないでしょうか。

ここには:

  • 未来予測の困難さを認める謙虚さ
  • 現時点の事実に基づく実証性
  • 130銘柄超の徹底分散
  • メディアに登場しない沈黙
  • 長期保有という忍耐

すべてが含まれています。

そしてこの哲学は、ベンジャミン・グレアムから現代の小型バリュー投資理論まで、投資の正統な伝統に連なるものでもあります。突飛なものは何もない。けれども、徹底して実践できる人は極めて少ない。だからこそ、彼は成功している。


第12章:吉田知広氏の哲学が私たちに問いかけるもの

最後に、吉田知広氏の投資スタイルが、現代の日本に住む私たち個人投資家に問いかけているものを考えたいと思います。

12-1. 「派手な銘柄」への依存からの卒業

新NISAが始まり、SNSでは「この銘柄は5倍になる」「この銘柄を買え」という発信が溢れています。多くの人が、派手な銘柄、話題の銘柄、成長期待の高い銘柄に殺到します。

しかし吉田氏が示しているのは、地味な、退屈な、誰も話題にしない銘柄にこそ、長期的なリターンの源泉があるという事実です。

派手な銘柄を追いかける疲労感に、もしあなたが心当たりがあるなら、吉田流の「地味銘柄リスト作成」は、新しい視点を提供してくれるはずです。

12-2. 「自分の頭で考える」ことの価値

吉田氏は誰の真似もしていません。流行のテーマ株も買っていない。仮想通貨もNFTも触っていない(少なくとも公開情報上は)。

彼は、自分自身で発掘した、自分自身が確信できる銘柄だけを、自分のロジックで買っています。

これは現代において、最も希少な能力かもしれません。情報が氾濫する時代に、自分の頭だけで判断する力。

12-3. 「長期保有」の本当の意味

「長期保有」という言葉は、よく使われすぎて、もはや陳腐化しています。

しかし吉田氏の保有銘柄リストを見ると、2014年から登場しているような銘柄もあれば、10年以上保有し続けているケースが多々あります。これが本当の「長期保有」です。

長期保有とは、「買って忘れる」ことではありません。「買って、毎日のニュースに動揺せず、しかし会社の本質的な変化はしっかりモニターし、本質的な変化がない限り保有を続ける」という、実は極めて能動的な行為です。

12-4. 投資家としての「成熟」とは何か

最後に、吉田氏の生き方から感じるのは、投資家としての「成熟」とは何か、という問いです。

派手なリターンを追わない。SNSで自慢しない。メディアに出ない。書籍を書かない。それでいて、市場で確実に資産を増やし続ける。

これは、投資という行為が「自分を承認してもらう手段」ではなく、「人生の経済基盤を作る手段」だと、深く理解している人の姿です。

私たちはどうしても、投資を通じて「自分の正しさ」を証明したくなります。儲かれば自慢したい。負ければ言い訳したい。これは人間として自然な感情です。

しかし吉田氏は、これらすべてを手放しているように見えます。結果だけが残ればいい、というシンプルで力強い姿勢。

これこそが、私が彼から最も学びたいと思った姿勢です。


おわりに:本稿の限界と読者への謝辞

長い記事をここまでお読みいただき、ありがとうございました。

最後に、本稿の限界について率直にお伝えします。

本稿は、有価証券報告書という一次情報源と、それを集約した公開データ(IRBANK、バフェット・コード、株探、バリュートレンド、各種記事)をベースに、私なりの視点で吉田知広氏の投資哲学を「推察」したものです。

吉田氏ご本人が、ここに書かれた哲学に同意するかどうかは分かりません。むしろ、ご本人は「私はそんなに大層な哲学を持っているわけではない」と仰るかもしれません。あるいは、ここに書かれている解釈とは全く異なる動機で投資されているかもしれません。

ですから、本稿はあくまで「吉田知広氏という事象を、彼の保有銘柄という一次データから読み解いた、私の分析」としてお読みいただければ幸いです。

そして、もし読者の皆さまが、ご自身の投資判断に何らかのヒントを得てくださったとすれば、それが本稿の最大の意義だと思っています。

ただし、繰り返しになりますが、「吉田氏が買っているから買う」という判断だけは避けてください。投資判断は、必ずご自身の頭で、ご自身のロジックで行ってください。

吉田氏の哲学から学ぶべき最大のレッスンは、結局のところ、**「自分の頭で考える」**ということなのですから。


参考資料・一次情報源

一次情報源(有価証券報告書ベースの公開データ)

  1. IRBANK「吉田知広 | 投資家・起業家情報、大量保有」
    https://irbank.net/E31538
    ※基本プロフィール、登場社数推移、保有銘柄詳細
  2. バフェット・コード「吉田知広さんが保有する銘柄一覧と評価額」
    https://www.buffett-code.com/shareholder/51d535af80a9aff094ad0da701f94cad
    ※保有銘柄一覧、評価額データ
  3. 株探(かぶたん)「【吉田知広】が保有する株式一覧・時価総額」
    https://kabutan.jp/holder/lists/?holdername=%E5%90%89%E7%94%B0%E7%9F%A5%E5%BA%83
    ※保有銘柄の時価総額、PER、PBR、利回り等
  4. バリュートレンド「吉田 知広 大株主 保有情報」
    https://e-actionlearning.jp/holders/%E5%90%89%E7%94%B0%20%E7%9F%A5%E5%BA%83
    ※長期投資家向けIR情報
  5. COVAVIS「吉田知広 – 株主詳細」
    吉田知広 - 株主詳細
    吉田知広が保有している株式の一覧です。保有株数や保有割合、保有株評価額の過去3年間の推移を確認することができます。企業名をクリックすると、それぞれの企業の財務状況を見ることができます。

二次情報源(解説・分析記事)

  1. マネーポストWEB「個人投資家、保有企業数で見る『多株主』ランキング その経歴を紹介」(2024年8月29日)
    https://www.moneypost.jp/742862
    ※大物個人投資家の特徴解説
  2. 就職氷河期世代ニートのサバイバル「個人投資家が複数企業の大株主となっている例」(2022年6月10日)
    就職氷河期世代ニートのサバイバル | 就職氷河期世代向けの婚活、資産形成、転職など明るく語ります。
    就職氷河期世代がサバイバルするテクニックです。婚活、就職転職など。
    個人投資家が複数企業の大株主となっている例/
    ※小型株投資の構造的優位性
  3. note「851 吉田知広氏の保有銘柄」(えづれ氏、2024年6月17日)
    https://note.com/ezuremanagement/n/n96045921f1d4
    ※保有銘柄の詳細データと推移
  4. 株探ニュース「『株探 超活用法DX 大株主の研究』<書籍紹介>」(2022年4月15日)
    https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n202204150451
    ※書籍内で吉田知広氏が分析対象として取り上げられている
  5. 書籍『株探 超活用法DX 大株主の研究』(宝島社、2022年4月15日発売)
    著者:柿沼佑一/嶋村吉洋/平松裕将/水口翼/今亀庵/逆張り天国/御発注/Akito/DokGen/Yoshi
    ※吉田知広氏、鈴木智博氏といった大口投資家の保有銘柄の傾向を分析
  6. 東洋経済オンライン「自由な時間は週に27時間しかないサラリーマンへ…20年で8億円貯めた『コジ活投資家』が勧める”時短投資術”」(2025年4月23日)
    https://toyokeizai.net/articles/-/870482
    ※他の個人投資家との比較材料
  7. Yahoo!ファイナンス掲示板「No.57510 吉田知広氏が大株主になられたよ…」
    https://finance.yahoo.co.jp/cm/message/1009702/
    ※市場参加者の反応

投資哲学の理論的背景

  1. Fama, Eugene F., and Kenneth R. French. “Common Risk Factors in the Returns on Stocks and Bonds.” Journal of Financial Economics, 1993.
    ※小型株プレミアム、バリュー株プレミアムの古典的研究
  2. Benjamin Graham, “The Intelligent Investor” (1949)
    ※分散投資・バリュー投資の原典
  3. 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)
    https://www.jpx.co.jp/
    ※PBR1倍割れ問題に関する公式文書

本稿で示した解釈・分析・推察は、すべて筆者個人の見解です。投資判断はご自身の責任において行ってください。本稿は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

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