半導体の「切る・削る・磨く」で世界トップ ― AI半導体が必ず通る「料金所」を握る、営業利益率42%の異次元企業
注意:数値は確認できた時点のもので、決算期・為替・半導体市況・受注動向により変動します。投資判断の前に必ず最新の有価証券報告書・決算短信・決算説明資料をご確認ください。本稿は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。シェアは同社開示・各資料に基づく推計を含みます。
- 0. エグゼクティブサマリー
- 1. 企業概要と沿革 ―「砥石屋」から半導体加工の王者へ
- 2. ダイシング・グラインディングとは何か ― 半導体製造の「料金所」
- 3. 事業構造 ―「装置+消耗品+アプリケーション」の三位一体
- 4. ビジネスモデルの核心 ―「料金所」「囲い込み」「3工程特化」
- 5. Will会計という経営文化 ― 高収益の隠れた源泉
- 6. 競争環境 ―「ダイシングの王者」と少数の競合
- 7. 財務分析 ― 異次元の高収益と、AIによる過去最高更新
- 8. 成長ドライバー ― 生成AI・HBM・先端パッケージ
- 9. 強み(独自の視点)
- 10. 弱み・リスク(独自の視点)
- 11. ガバナンス・株主還元
- 12. バリュエーションの考え方
- 13. シナリオ分析
- 14. 投資家としての着眼点(まとめ)
- 15. 参考資料(ディスコ)
0. エグゼクティブサマリー
ディスコ(証券コード6146、東証プライム、機械)は、東京都大田区に本社を置く、半導体・電子部品の精密加工装置メーカーである。半導体ウエハを個々のチップに「切る」ダイシング装置、ウエハを薄く「削る」グラインダ(裏面研削装置)、表面を「磨く」研磨装置という、「Kiru・Kezuru・Migaku(切る・削る・磨く)」の3工程で世界トップシェアを握る。とりわけ主力のダイシング装置では、世界シェア推定70〜80%超という圧倒的な地位を持つ。
ディスコのビジネスは、しばしば「AIという技術革新のスーパーハイウェイにおける料金所(トールゲート)」に例えられる。AI社会を支えるすべての先端半導体(ハイウェイを走る車)は、完成するために、ダイシングとグラインディングというディスコの工程(料金所)を必ず通過しなければならない。しかも、生成AIに不可欠なHBM(高帯域メモリ)のような積層チップは、その構造上、何度もこの「料金所」を通過し、その都度より高付加価値の「通行料」が発生する。この料金所の約80%をディスコが所有している――これが、同社の驚異的な収益性の根源だ。
その収益性は、製造業として異次元の領域にある。営業利益率42%超、粗利率(GP率)約70%、ROE20%台半ば〜後半を一貫して達成し、2025年3月期には過去最高業績を更新、6期連続で最高益を更新してきた。この高収益を支えるのが、(1)装置と消耗品(ブレード・砥石)のセット販売による「囲い込み」、(2)「切る・削る・磨く」への深い特化、そして(3)社内通貨「Will」を使った独自の管理会計という、徹底した採算意識の経営文化である。
成長を牽引するのは、生成AI×HBM需要だ。一方で、リスクは明快だ。AI半導体需要への一極依存(IC用途が約69%)、半導体サイクル、顧客集中、そして極めて高いバリュエーションである。本稿では、AI半導体の料金所を握るディスコを、その事業の本質から、独自の経営文化、財務、シナリオまで立体的に解剖する。
1. 企業概要と沿革 ―「砥石屋」から半導体加工の王者へ
1-1. 研削砥石から始まった
ディスコの源流は、1937年に創業した工業用研削砥石(といし)のメーカーにある。社名「DISCO」も、この砥石(abrasive)の事業に由来する。金属やセラミックスを削り、磨くための砥石を作る――この「削る・磨く」の技術が、企業のDNAに最初から組み込まれていた。やがて、その精密加工技術を、半導体という最先端の分野に応用していく。
1-2. 半導体を「切る」技術へ
決定的な展開は、半導体ウエハを個々のチップに切り分ける「ダイシング」への進出だった。半導体は、1枚のシリコンウエハ上に多数のチップをまとめて作り、最後にそれを一つひとつに切り分けて完成品にする。この「切り分ける」工程が、極めて精密で難しい。髪の毛より細い切り幅で、チップを傷つけずに、高速・高精度に切断しなければならない。ディスコは、砥石技術を応用した極薄の精密ブレード(刃)と、それを使う装置で、このダイシングを究めた。そして、ダイシング(切る)、グラインディング(削る)、ポリッシング(磨く)という「切る・削る・磨く」の3工程を、半導体加工の領域で世界トップへと押し上げた。本社は東京都大田区。
1-3. 「Kiru・Kezuru・Migaku」という企業の核
ディスコは、自社の事業を「Kiru・Kezuru・Migaku」という言葉で定義する。この3工程に徹底的に特化することが、同社の戦略の核だ。半導体製造には数百もの工程があるが、ディスコはその中の「切る・削る・磨く」という特定の工程だけを、誰よりも深く究める。広く手がけるのではなく、狭く深く――これが、ディスコを世界トップの高収益企業にした戦略の本質である。
2. ダイシング・グラインディングとは何か ― 半導体製造の「料金所」
ディスコのビジネスを理解するには、その装置が半導体製造のどこで、なぜ不可欠かを押さえる必要がある。
2-1. ウエハをチップに「切る」ダイシング
半導体は、円盤状のシリコンウエハの上に、何百〜何千ものチップを一度に作り込む。製造の最終段階で、このウエハを格子状に切断し、一つひとつのチップに切り分ける。この工程がダイシングだ。切り分けられなければ、チップは製品にならない。ダイシングは、極薄のブレード(砥石でできた刃)を高速回転させてウエハを切るか、レーザーで切る。切り幅は数十マイクロメートル、チップを傷つけず、欠けさせず、高速で正確に切る――これには高度な装置技術が要る。ディスコは、この精密ブレードと装置で世界を席巻している。
2-2. ウエハを薄く「削る」グラインディング
もう一つの主力が、ウエハを薄く削るグラインディング(裏面研削)だ。半導体チップは、薄ければ薄いほど、小型化でき、放熱しやすく、積層しやすい。とくに、生成AIに使うHBM(高帯域メモリ)のように、チップを何層も積み重ねるデバイスでは、一枚一枚のチップを極限まで薄く削る必要がある。ディスコのグラインダは、ウエハをミクロン単位の精度で薄化する。この「薄く削る」技術が、AI時代の積層チップに不可欠になっている。
2-3. なぜ「料金所」なのか ― すべての先端半導体が通る
ここで重要なのが、AI社会を支えるすべての先端半導体が、ディスコの工程を必ず通るという事実だ。どんなに高度なAIチップ(NVIDIAのGPU、HBMなど)も、最後はダイシングで切り分けられ、グラインディングで薄く削られなければ、製品にならない。ディスコは、AI半導体製造という「スーパーハイウェイ」の「料金所(トールゲート)」を握っているのだ。
さらに巧妙なのは、HBMのような積層チップは、この料金所を何度も通ることだ。HBMは、DRAMチップを何層も積み重ねて作るため、各層の薄化研削(グラインディング)と、最終的な切断(ダイシング)が、より多く・より高度に必要になる。チップが複雑で大きくなるほど、ディスコの工程を通る回数が増え、その都度より高付加価値の「通行料」が発生する。生成AIの普及で半導体が高度化・積層化するほど、ディスコの出番と単価が増える――これが、料金所モデルの強さだ。ディスコは、この料金所の約80%を所有している。
3. 事業構造 ―「装置+消耗品+アプリケーション」の三位一体
ディスコの事業は、「切る・削る・磨く」の単一領域に特化しているが、その収益構造には三つの柱がある。
3-1. 精密加工装置
第一の柱が、精密加工装置だ。ダイシング装置(ブレードダイサー、レーザソー=レーザダイサー)、グラインダ(裏面研削装置)、研磨装置などを製造・販売する。これが、フロー収益の中核だ。
3-2. 精密加工ツール(消耗品)
第二の柱が、精密加工ツール(消耗品)だ。ダイシングに使う極薄のブレード(刃)や、グラインディングに使う砥石(ホイール)は、使えば摩耗する消耗品で、継続的に買い替えられる。ディスコの装置を使う限り、これらの消耗品もディスコから買い続けることになる。砥石屋を起源とするディスコは、この消耗品でも高い競争力を持つ。消耗品は、装置販売の波を和らげるストック収益であり、後述する「囲い込み」の要だ。
3-3. アプリケーション(加工技術・サービス)
第三の柱が、アプリケーションだ。これは、顧客が抱える「この材料をどう切るか」「どこまで薄くできるか」といった加工課題を、ディスコが装置・ツール・ノウハウを駆使して解決する技術・サービスだ。新しい材料や新しいパッケージ構造が登場するたびに、その加工方法を一緒に開発する。この深い技術的関与が、顧客との関係を強固にする。
なお、ディスコの売上は、用途別ではIC(半導体集積回路)向けが約69%を占め、生成AI関連半導体への依存度が高い。海外売上比率も高く、世界の半導体メーカー・後工程メーカー(OSAT)が主要顧客だ。
4. ビジネスモデルの核心 ―「料金所」「囲い込み」「3工程特化」
4-1. 料金所(トールゲート)という構造的ポジション
ディスコのビジネスモデルの核心の第一は、前述の料金所(トールゲート)ポジションだ。すべての先端半導体が、完成のためにディスコの「切る・削る」工程を必ず通る。AIチップやHBMが増え、高度化・積層化するほど、料金所を通る回数と通行料が増える。ディスコは、特定の半導体メーカーやデバイスの勝敗に賭けるのではなく、「半導体が作られ続け、高度化し続ける」という構造的なトレンドに賭けられる。どのAIチップが勝っても、ディスコの料金所を通る――本シリーズで論じた「武器商人/ツルハシ売り」の極致だ。
4-2. 装置+消耗品のセット販売による囲い込み
第二が、装置と消耗品のセット販売による囲い込みだ。一度ディスコの装置を導入すると、その装置に最適化された消耗品(ブレード・砥石)も、継続的にディスコから購入するインセンティブが働く。装置と消耗品が一体となって最高の加工性能を発揮するため、顧客は他社の消耗品に簡単には切り替えられない。これにより、装置販売(フロー)に加えて、消耗品(ストック)が継続的に積み上がる。プリンターとインク、髭剃りと替刃のような「ジレットモデル」を、半導体加工で実現しているのだ。この消耗品のストック収益が、半導体サイクルの波を和らげ、収益の底堅さを支える。
4-3. 3工程特化による技術的堀
第三が、「切る・削る・磨く」の3工程への深い特化だ。半導体製造の数百工程のうち、この3工程だけを誰よりも深く究める。装置、消耗品、アプリケーションを一体で磨き上げ、新しい材料・新しいパッケージ構造にいち早く対応する。この深い特化が、競合が容易に参入できない技術的な堀を築いている。広く浅くではなく、狭く深く――この戦略が、ダイシング世界70〜80%という圧倒的シェアと、異次元の収益性を生んでいる。
5. Will会計という経営文化 ― 高収益の隠れた源泉
ディスコを語る上で欠かせないのが、その独特の経営手法だ。これが、料金所ポジションと並ぶ、高収益のもう一つの源泉である。
ディスコは、「Will(ウィル)」という社内通貨を使った独自の管理会計を運用している。社内のあらゆる業務やリソース(設備、スペース、時間、部署間のサービスなど)に、Willという仮想通貨で価格をつけ、各部署や個人が、社内でそれらを「売買」する。たとえば、ある部署が別の部署に仕事を頼めばWillを支払い、頼まれた側はWillを受け取る。会議室を使えばWillがかかり、無駄を減らせばWillが残る。こうして、社員一人ひとりが、自分の仕事の採算(どれだけWillを稼ぎ、どれだけ使ったか)を常に意識する。
この「Will会計」は、京セラのアメーバ経営にも通じる、徹底した採算意識の仕組みだ。一人ひとりが経営者の視点を持ち、無駄を排し、付加価値を最大化しようとする。この企業文化が、営業利益率42%という異次元の高収益を、現場の隅々から支えている。料金所という「強いポジション」だけでなく、Will会計という「強い文化」が両輪となって、ディスコの収益性を生んでいるのだ。ちなみに、高い収益性は社員にも還元され、平均年収は1,700万円規模と、製造業として極めて高い水準にある。優秀な人材を惹きつけ、それがさらに技術力を高めるという好循環も生んでいる。
6. 競争環境 ―「ダイシングの王者」と少数の競合
ダイシング・グラインディングの市場は、少数のプレーヤーによる寡占だ。その中で、ディスコは圧倒的なトップに立つ。ダイシング装置の世界シェアは推定70〜80%超とされ、競合を大きく引き離している。
主要な競合は、国内の東京精密(アクレーテック、7729)だ。東京精密も、ダイシング装置やウエハ研削装置、半導体測定器を手がける有力メーカーで、ディスコに次ぐポジションにある。この2社が、半導体の精密加工装置の二強だが、ダイシングにおいてはディスコが圧倒的に優位だ。このほか、レーザダイシングや一部の加工装置では、他のメーカーも存在する。
ディスコの圧倒的シェアを支えるのは、(1)砥石を起源とする精密加工ツール(消耗品)の競争力、(2)装置+消耗品+アプリケーションの三位一体、(3)新しい材料・パッケージへの対応力、(4)世界中の半導体メーカーとの長年の関係、である。新しい難削材(炭化ケイ素=SiCなどのパワー半導体材料や、新しいパッケージ材料)が登場するたびに、その加工方法をいち早く確立することで、トップの座を守り続けている。
7. 財務分析 ― 異次元の高収益と、AIによる過去最高更新
7-1. 営業利益率42%・GP率70%という異次元
ディスコの財務は、製造業の常識を超えている。営業利益率は42.3%(2025年3月期)と、40%超を一貫して達成。粗利率(GP率)は約70%、ROEは20%台半ば〜後半という高水準で推移する。2025年3月期には過去最高業績を更新し、6期連続で最高益を更新してきた。売上の4割超が営業利益として残るという、装置メーカーとしては突出した収益性だ。前述の「料金所ポジション」「装置+消耗品の囲い込み」「3工程特化」「Will会計の採算文化」が、この異次元の高収益を支えている。
7-2. AIスーパーサイクルによる成長
足元の成長を牽引するのは、生成AI×HBM需要だ。AIサーバー向けのHBMや先端ロジック半導体の製造が拡大し、それに伴って、ディスコのグラインダ(薄化研削)やレーザソー(ダイシング)の出荷が増えている。HBMの積層化が進むほど、ディスコの工程を通る回数と単価が増える。ディスコは、このAIスーパーサイクルを乗りこなし、業績を伸ばしている。
7-3. 消耗品ストックという底堅さ
ただし、装置販売は半導体の設備投資サイクルに連動するため、波がある。ここで効くのが、消耗品(ブレード・砥石)のストック収益だ。世界中に積み上がった装置の設置ベースが、消耗品の継続需要を生む。装置販売が一時的に鈍っても、稼働中の装置が使う消耗品の需要はゼロにはならない。この消耗品のストックが、業績の底堅さを支える。投資家としては、(1)AI/HBM需要の動向、(2)装置受注のサイクル、(3)消耗品ストックの積み上がり、(4)先端パッケージ向けの単価上昇、を見ていくことになる。
8. 成長ドライバー ― 生成AI・HBM・先端パッケージ
ディスコの成長を支えるドライバーを、時間軸で整理する。
短期(1年):HBM需要。 生成AI向けHBMの需要継続が、グラインダ(薄化研削)とレーザソー(ダイシング)の出荷を牽引する。HBMの積層化は、ディスコの工程の出番を直接増やす。
中期(2〜3年):先端パッケージング。 CoWoS(TSMCの先端パッケージ技術)、3D-IC、チップレットといった先端パッケージングの本格普及が、パッケージ用途の構成比拡大と単価上昇をもたらす。チップを高密度に統合する先端パッケージは、より高度な「切る・削る」を必要とし、ディスコの付加価値を高める。
長期(3年超):用途多様化と消耗品ストック。 PC・スマホ・車載向け半導体の回復に伴う用途の多様化と、消耗品のストック収益基盤の拡大が、持続的な利益成長を支える。パワー半導体(SiC)など新材料の加工需要も広がる。
これらに加え、「切る・削る・磨く」の技術を、半導体以外の電子部品や新材料へ展開する余地もある。AIという強力な短期ドライバーと、先端パッケージという中期ドライバー、そして消耗品ストックという長期の底堅さが、重層的に成長を支える構造だ。
9. 強み(独自の視点)
第一に、料金所(トールゲート)という構造的ポジション。 すべての先端半導体がディスコの「切る・削る」工程を必ず通り、HBMのような積層チップは何度も通る。半導体が高度化・積層化するほど出番と単価が増える、AI時代の最強ポジションの一つだ。
第二に、装置+消耗品の囲い込みとストック収益。 装置と消耗品のセット販売が顧客を囲い込み、消耗品の継続需要が半導体サイクルの波を和らげる。ジレットモデルを半導体加工で実現している。
第三に、3工程特化の技術的堀とダイシング70〜80%。 「切る・削る・磨く」に深く特化し、ダイシングで圧倒的シェア。新材料・新パッケージへの対応力が、トップの座を守る。
第四に、Will会計という採算文化。 社内通貨Willによる徹底した採算意識が、現場の隅々から営業利益率42%を支える。料金所という「強いポジション」と、Will会計という「強い文化」の両輪。
第五に、異次元の収益性と人材。 営業利益率42%・GP率70%・ROE20%台後半。高収益が高い人材還元(平均年収1,700万円)を可能にし、それがさらに技術力を高める好循環を生む。
10. 弱み・リスク(独自の視点)
第一に、AI半導体需要への一極依存。 IC用途が約69%を占め、生成AI関連半導体への依存度が高い。AI投資サイクルが反転すれば、最大のドライバーが消失し、利益に大きなインパクトをもたらす。足元の絶好調が、依存の裏返しのリスクでもある。
第二に、半導体サイクル。 装置販売は半導体の設備投資に連動する。消耗品ストックが緩衝するとはいえ、設備投資が冷えれば装置需要は鈍る。本シリーズ本編で論じた「好業績時のPERの低さが天井のサイン」というシクリカルの罠に注意が要る。
第三に、顧客集中。 最先端半導体・HBMを作れるのは、TSMC、メモリ大手、先端OSATなど少数。顧客集中が、最大顧客の投資動向や地政学リスクへの感応度を高める。
第四に、極めて高いバリュエーション。 高収益・高成長を背景に、株価は成長期待を極めて高く織り込んできた。高PER株は、AI需要の鈍化や成長率の低下といった失望に敏感に反応し、大きく調整しやすい(高PER株の非対称性)。事業の質と、株価の割安・割高は別問題だ。
第五に、技術代替。 ブレードダイシングからレーザダイシングへの移行、新しいパッケージ・実装技術の登場が、加工方法を変える可能性がある。ディスコは自らレーザソーも手がけてヘッジするが、技術トレンドの変化には常に注意が要る。
第六に、競合(東京精密)と為替。 二強の一角である東京精密との競争、海外比率の高さゆえの為替変動も、リスク要因だ。
11. ガバナンス・株主還元
ディスコは、Will会計に象徴される独自の経営文化と、高い資本効率(ROE20%台後半)を持つ。高収益で稼いだキャッシュを、研究開発・設備投資・株主還元・人材還元(高い給与)に配分している。投資家としては、(1)AI/HBM・先端パッケージという成長の持続性、(2)消耗品ストックの積み上がり、(3)半導体サイクルへの対応、(4)株主還元(配当・自社株買い)の方針、を継続的に確認することが重要だ。Will会計という独自の文化が、好況・不況を通じて高収益を維持する規律として機能し続けるかも、長期の注目点だ。
12. バリュエーションの考え方
ディスコのバリュエーションは、本シリーズで論じてきた論点が先鋭に現れる。事業の質は最上級(料金所ポジション、異次元の収益性、AI追い風)だが、その質が極めて高く株価に織り込まれている。
第一に、シクリカルとAI依存。業績は半導体サイクルとAI投資に連動し、IC用途69%という一極依存を抱える。好業績時にPERが低く見えてもそれが天井のことがあり、AI投資の反転には敏感に反応する。単年度のPERで割安・割高を判断すると振り回される。
第二に、高PER株の非対称性。期待が高い分、好材料への反応は鈍く、悪材料(AI需要鈍化、半導体調整、成長率低下)への反応は過敏。料金所という強いポジションと異次元の収益性は本物だが、それを「世界一高い値段」で買えば、リターンは出にくい。
第三に、消耗品ストックという底堅さの評価。装置販売の波に対し、消耗品ストックがどれだけ収益を下支えするかは、サイクルの谷での強さを左右する。サイクルを通した平均的な利益水準と、AI・先端パッケージという構造的成長を、バランスよく見ることが要る。
13. シナリオ分析
強気シナリオ(AIスーパーサイクル+先端パッケージ) 生成AI×HBM需要が拡大を続け、HBMの積層化と先端パッケージ(CoWoS・3D-IC)の普及で、ディスコの工程の出番と単価が構造的に増える。料金所ポジションがフル稼働し、消耗品ストックも積み上がる。営業利益率42%超を保ったまま、過去最高益を更新し続ける。AI時代の料金所の王者として、業績・株価が伸びる。
基本シナリオ(成長トレンド+サイクルの波) AI・先端パッケージという構造的な追い風は続くが、その過程で半導体サイクルの波を周期的に受ける。装置販売は山と谷を繰り返すが、消耗品ストックが底堅さを与える。ダイシング70〜80%の地位を守り、長期では成長。ただし高バリュエーションゆえ、株価はAI需要と半導体サイクルに敏感に反応する。最も蓋然性が高い。
弱気シナリオ(AI反転+サイクル調整+高評価剥落) AI投資が一巡・反転し、IC用途69%という一極依存が裏目に出て、装置需要が急減する。半導体サイクルの調整も重なり、消耗品ストックでも補いきれない。極めて高いバリュエーションが剥落し、株価が大きく調整する。料金所の質は変わらなくても、高すぎた期待の修正が株価を押し下げる。
14. 投資家としての着眼点(まとめ)
ディスコは、本シリーズの三類型でいう「独占型」GNTの極致の一つだ。半導体の「切る・削る・磨く」で世界トップ、ダイシング70〜80%、そしてAI半導体が必ず通る「料金所」を握る。営業利益率42%・GP率70%・ROE20%台後半という異次元の収益性は、料金所ポジションとWill会計の採算文化という両輪が生んでいる。事業の質は文字通り最上級だ。
向き合う際の論点は明確だ。第一に、AI半導体需要への一極依存(IC用途69%)と、半導体サイクルのどの局面で見ているか。足元の絶好調は依存の裏返しでもあり、シクリカルの罠とAI反転リスクに注意が要る。第二に、先端パッケージ(CoWoS・3D-IC)と消耗品ストックという、構造的な成長の持続性。第三に、そして最も重要なのが、極めて高いバリュエーションをどう評価するか。「AI時代の料金所」を「世界一高い値段」で買えば、いくら事業が優れてもリターンは出にくい。
結論として、ディスコは「世界が半導体への依存を深め、AIで半導体が高度化・積層化し続ける限り、その料金所で異次元の高収益を稼ぐ」唯一無二の企業だ。料金所ポジション、Will会計、ダイシング70〜80%という強みは本物で、AI・先端パッケージの追い風も強力だ。だが、その株式は、AI一極依存、半導体サイクル、そして極端に高い期待という大波の上に乗っている。「営業利益率42%」「AIの料金所」という華やかな物語に酔わず、AI依存・サイクルの局面・バリュエーションという論点で、誰よりも冷静に値踏みすることが、切る・削る・磨くの王者と付き合う要諦である。事業の質が最上級であることと、その株が今買うべき値段であることは、最後まで別の問題なのだ。
15. 参考資料(ディスコ)
- ディスコ IR:2025年3月期 決算短信・決算説明資料、2026年3月期 第2四半期決算(disco.co.jp、営業利益率42.3%・GP率約70%・ROE・過去最高業績・「Kiru・Kezuru・Migaku」・装置/精密加工ツール/アプリケーション)
- 日本経済新聞 会社情報(nikkei.com/nkd/company/?scode=6146、半導体製造装置大手・ウエハーを削る/磨く/切断する工程で世界シェア首位・海外売上多い)
- FIC投資研究所「ディスコ(6146)売上ドライバー徹底分析:生成AI×HBM需要で過去最高を更新し続ける精密加工装置メーカーの因果構造」(fic-investment.biz、2026年5月、ダイシング世界シェア70〜80%超・装置+消耗品の囲い込み・GP率約70%・IC用途69%・HBM/CoWoS/3D-IC・消耗品ストック・短中長期の成長ドライバー)
- note「ディスコ(6146)2026年3月期第2四半期決算分析:AIスーパーサイクルを乗りこなす」(note.com/noted_jacana411、2025年10月、料金所〔トールゲート〕モデル・約80%所有・HBM積層は何度も通過・営業利益率40%超・ROE20%台半ば〜後半・過去最高)
- note「【徹底解剖】ディスコ(6146)営業利益率42.3%・6期連続最高益、平均年収1,700万円のニッチトップ」(note.com/yama_shukatsu、2026年、3D実装/チップレット・HBM・TSMC・先端パッケージ)
- バフェット・コード/松井証券/QUICK Money World(buffett-code.com・finance.matsui.co.jp・moneyworld.jp、財務・決算)
- 経済産業省「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」選定企業一覧(精密加工装置関連)
※ダイシング装置の世界シェア(70〜80%超)、料金所の所有割合(約80%)、IC用途比率(約69%)等は各資料・同社開示に基づく推計を含みます。財務・株価は決算期(3月期)・半導体市況・受注動向により変動します。「Will会計」の運用詳細は同社公表情報・各報道に基づきます。

