ジョージ・ソロスの保有銘柄を徹底解説 ― ソロス・ファンド・マネジメント2025年第4四半期13F報告書から読み解く投資戦略の全貌

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はじめに ― この記事を読む前に知っておいてほしいこと

ジョージ・ソロスの保有銘柄を語る前に、まず読者の皆さまにご理解いただきたい重要な前提があります。

ソロス・ファンド・マネジメントは、現在もう「ヘッジファンド」ではありません。2011年7月、同ファンドは外部投資家への資金返還を発表し、ドッド・フランク法の報告要件を回避するため、家族投資グループに転換しました。つまり現在のソロス・ファンド・マネジメントは、ソロス家の資産を運用する「ファミリーオフィス」として運営されています。

それでも、米国証券取引委員会(SEC)への13F報告書の提出義務は続いており、四半期ごとに保有銘柄の一部が公開されます。本記事では、この公開情報を中心に、ソロス・ファンド・マネジメントの投資戦略を読み解いていきます。

ただし、13F報告書には重要な制約があります。米国上場株式のロング・ポジションのみが対象で、空売り、外国株式、通貨、債券、デリバティブの大半は含まれません。ソロスの真骨頂であった「グローバル・マクロ戦略」の全貌を13Fだけで把握することは不可能なのです。

それでもなお、公開される保有銘柄からは多くのことが見えてきます。何を買い、何を売り、どんなテーマに賭けているのか。これらの情報は、世界最高峰の投資家の思考を垣間見る貴重な手がかりとなります。

最後に、もう一つ重要な点があります。ソロス自身は2023年に投資の第一線から退き、息子のアレックス・ソロスがオープン・ソサエティ財団を引き継ぎました。現在のファンドの実際の運用は、最高投資責任者(CIO)であるドーン・フィッツパトリックが指揮しています。ですから現在の保有銘柄は、ジョージ・ソロス本人というよりも、彼の哲学を受け継ぐ運用チームの判断を反映していると理解した方が正確です。

それでは本題に入りましょう。

第1章 2025年第4四半期の全体像

ポートフォリオの規模と構造

まず最新のデータから見ていきます。2025年第4四半期、ソロス・ファンド・マネジメントの13Fポートフォリオの価値は86.3億ドルに上昇し、保有銘柄数は244に拡大しました。アマゾン・ドットコム、アルファベット、セールスフォースに顕著な集中が見られます。

ここで興味深い数字があります。2025年12月31日時点で、ソロス・ファンド・マネジメントは221銘柄を保有し、ポートフォリオ価値は67.8億ドル、回転率は40%でした。データソースによって若干数値が異なるのは、デリバティブやその他の保有を含めるか含めないかの違いです。

重要なポイントは、ポートフォリオが前四半期から大きく拡大していることです。第3四半期は70.2億ドルだったので、第4四半期にかけて約20%増加しています。

そして「回転率40%」という数字は、ソロス哲学を象徴しています。これは年率換算すると相当高い水準で、買い持ちの長期投資ではなく、市場の変化に応じてポジションを機動的に変更していることを示しています。ジョージ・ソロスは「再帰性」の理論を投資に応用し、株式・債券・通貨の価格は人間の感情的反応に動かされるという前提に立ちます。この高い回転率は、市場参加者の認識の変化を捉えようとする彼の哲学の実装です。

トップ5銘柄の確認

2025年第4四半期末時点のトップ5銘柄を見てみましょう。データソースによって若干違いがありますが、最も信頼性の高いGuruFocusの集計によると以下の通りです。

第1位はアマゾン・ドットコム(AMZN)でポートフォリオの8.03%、第2位はアルファベット(GOOGL)で2.95%、第3位はセールスフォース(CRM)で2.03%、第4位はTKOグループ・ホールディングス(TKO)で1.96%、第5位はマイクロソフト(MSFT)で1.88%でした。

ホールディングス・チャンネルの集計だと、コンバーチブル債を含めるとやや異なる結果になります。2025年12月31日時点で86.2億ドルの13Fポートフォリオで、最大の保有銘柄にはアマゾン、コンフルエント、ドロップボックス、スポティファイ USA、アルファベットが含まれていました。

これは「現物株のみ」と「コンバーチブル債を含む」の違いです。コンフルエント、ドロップボックス、スポティファイの大きなポジションの一部は、通常株式ではなく、転換社債(コンバーチブル債)の形で保有されている可能性があります。

このような複雑な保有形態自体が、ソロス・ファンドの特徴です。単純に「株を買って持つ」のではなく、コンバーチブル債、オプション、ETFなどを組み合わせて、リスク・リワードを最適化しているのです。

第2章 第1位アマゾン(AMZN)― なぜビッグテックの王様なのか

ソロス・ファンドの最大の保有銘柄であるアマゾンについて、詳しく見ていきましょう。

ポジションの規模と変遷

アマゾンはポートフォリオの7.11%を占めるトップ・ホールディングで、今四半期さらに約12%のスタンスを増やしました。株価が約211ドルから259ドルの間で取引されている期間です。

これは2025年第3四半期からの継続的な動きです。第3四半期、アマゾンはポートフォリオの7.43%を占める最大ポジションとなり、ソロス・ファンドはコール・オプションを含めて、株価が約211ドルから239ドルの間で大きく買い増しました。

つまり、2025年後半を通じて、ソロス・ファンドはアマゾンを継続的に買い増しています。これは確信の高い長期ベットを示唆しています。

歴史的な経緯も興味深いです。2013年第1四半期時点では、アマゾンへのポジションはわずか799万ドル相当の3万株でした。当時のソロス・ファンドの保有上位だったグーグル(2億6,780万ドル)と比べると、極めて小さいポジションでした。それから10年以上を経て、アマゾンが第1位の保有銘柄となったわけです。

なぜアマゾンなのか

ソロス・ファンドのチームがアマゾンに大きく賭けている理由を、再帰性の観点から考えてみます。

第一に、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)というクラウドコンピューティング事業の存在です。AIブームによって企業のクラウド需要は爆発的に増加しており、AWSはその最大の受益者の一つです。データセンター、AI半導体、クラウドインフラへの巨額投資が継続的に行われており、これがアマゾンの中長期的な成長エンジンとなっています。

第二に、Eコマース事業のマージン改善です。アマゾンは長年「成長優先、収益性は二の次」と批判されてきましたが、近年は物流効率化と広告事業の拡大により、収益性が大幅に改善しています。

第三に、再帰性の観点から見れば、株価上昇自体がアマゾンのファンダメンタルズを強化する効果があります。優秀な人材の獲得、有利な条件での資金調達、買収機会など、株価が高いほど企業の競争力が高まる構造があります。

ソロス・ファンドのポジション増加のタイミングを見ると、明らかに上昇トレンドの中で買い増しています。これは「逆張り」ではなく「順張り」のアプローチです。トレンドが続く限り乗り続け、転換点を察知したら離脱する、というソロス流の典型的な動きです。

リスク要因

もちろん、アマゾンへの集中投資にはリスクもあります。

第一に、評価倍率の高さです。アマゾンのPER(株価収益率)は歴史的にも高く、わずかな業績期待の下方修正で大きく下落する可能性があります。

第二に、規制リスクです。米国と欧州で巨大テック企業への独占禁止法上の圧力が強まっており、アマゾンも継続的に標的となっています。

第三に、AI競争のリスクです。マイクロソフト・OpenAI、グーグル、メタなどとの競争激化で、AWSの優位性が脅かされる可能性があります。

ソロス・ファンドはこれらのリスクを認識した上で、なお大きく賭けています。リスクとリターンのバランスを総合的に判断した結果としての集中投資なのです。

第3章 第2位アルファベット(GOOGL)― グーグルへの大型ベット

ポジションの構築過程

アルファベットはポートフォリオの2.95%を占める第2位の保有銘柄です。

実は、アルファベットへの投資にはちょっとした紆余曲折があります。2025年第2四半期、ソロス・ファンドはアルファベットのポジションを削減しました。同時にゴールドマン・サックス、エアキャップ、サイバーアークも削減対象でした。

しかし第4四半期にはアマゾンへの追加買いと共に、マイクロソフト、エヌビディア、台湾積体電路製造(TSMC)への持ち分も増加させています。アルファベットへの大型ポジションは維持されています。

アルファベットの魅力

ソロス・ファンドがアルファベットを保有し続ける理由を考えてみましょう。

第一に、検索広告ビジネスのキャッシュフロー創出力です。グーグル検索は依然として世界中で圧倒的なシェアを持ち、安定した収益源となっています。

第二に、AI分野での競争力です。生成AIの登場で「グーグル検索が脅かされる」という懸念が広がりましたが、グーグル自身も大規模言語モデル「Gemini」を開発し、自社の検索やクラウドサービスに統合しています。

第三に、グーグル・クラウド事業の急成長です。AWS、マイクロソフト・アジュールに次ぐ第3位のクラウド事業者として、AIブームの恩恵を受けています。

第四に、YouTube、Waymo(自動運転)、その他の事業ポートフォリオです。検索広告以外の複数の収益源があり、リスクが分散されています。

過去との比較

歴史的に見ると、ソロス・ファンドはグーグル/アルファベットを長期間保有してきました。2013年第1四半期時点で、グーグル(クラスA)は337,271株、価値2億6,780万ドルで、当時のソロス・ファンドの主要ポジションの一つでした。

10年以上の時間軸でアルファベットを保有し続けていることは、ソロス・ファンドにしては珍しい長期保有のパターンです。それだけ確信が高い銘柄だということでしょう。

第4章 第3位セールスフォース(CRM)― エンタープライズSaaSの王者

2025年に強化されたポジション

セールスフォースはポートフォリオの2.03%を占める第3位の銘柄です。

2025年第3四半期、ソロス・ファンドはNVIDIA、アップル、セールスフォース、マイクロソフトへの持ち分を増やしました。これは、エンタープライズ・テクノロジーへの集中したベットを示しています。

なぜセールスフォースなのか

セールスフォースは、顧客関係管理(CRM)ソフトウェアの世界的リーダーです。SaaS(Software as a Service)モデルの先駆者として知られ、年間契約に基づく安定的な収益が魅力です。

近年、セールスフォースは「Einstein」というAIアシスタント機能を全製品に統合し、AIを活用したセールス自動化、顧客サービスの自動化、マーケティング最適化を提供しています。これは「企業AI」の最大の受益者の一つになる可能性があります。

ソロス・ファンドがエンタープライズSaaS銘柄に集中投資しているのは、「AI革命の本当の受益者は、消費者向けではなく企業向けである」という見立てを反映している可能性があります。

第5章 第4位TKOグループ・ホールディングス(TKO)― 意外な賭け

スポーツエンターテインメントへの集中投資

TKOグループ・ホールディングスはポートフォリオの1.96%を占める第4位の保有銘柄です。

これは多くの人を驚かせるポジションです。なぜなら、TKOは伝統的にソロス・ファンドが保有しそうな種類の銘柄とは異質に見えるからです。

TKOグループ・ホールディングス(NYSE:TKO)は、2023年9月に設立された、UFC(総合格闘技)とWWE(プロレスエンターテインメント)の親会社で、エンデバー・グループ・ホールディングスとWWEの合併によって誕生しました。

TKOグループ・ホールディングスへの新規ポジションは、アメリカン・エレクトリック・パワーやエンタジーと共に2025年第1四半期に取得されました。これは公益事業とエンターテインメントへの傾斜を反映しています。

TKOへの投資理由

ソロス・ファンドがTKOに賭ける理由は、複数考えられます。

第一に、合併シナジーです。UFCとWWEはともに格闘技・エンターテインメントの世界的リーダーであり、合併によって運営コストの削減、コンテンツ制作の効率化、メディア権利交渉力の強化などのシナジーが期待できます。UFCは2023年の収益が14.06億ドルでMMA企業として最も価値があり、WWEは同年の収益が13.98億ドルでプロレス団体として最も価値ある企業です。

第二に、メディア権利の長期成長です。TKOグループのUFC部門は次のメディア権利更新が2032年に予定されています。スポーツコンテンツの希少性は年々高まっており、メディア権利料も上昇しています。

第三に、ライブイベント需要の回復と成長です。TKO傘下のブランド全体で210か国以上、10億世帯以上にリーチし、年間500以上のライブイベントを開催し、300万人以上のファンを動員しています。

第四に、新規事業の展開です。2025年2月28日、TKOはエンデバーからIMG、オン・ロケーション、プロフェッショナル・ブル・ライダーズ(PBR)を全株式取引で32.5億ドルで買収しました。エンデバーへの新株発行を伴い、エンデバーのTKO株式保有比率を増加させました。

リスク要因

バーンスタイン・ソジェン・グループはTKOグループ・ホールディングスへのアウトパフォーム評価を維持していますが、目標株価を250ドルから240ドルに引き下げました。

リスクとしては、ライブイベント市場の景気感応度、選手・タレント費用の上昇、媒体権利更新の不確実性などがあります。中東イベントカレンダーへの懸念と出演者報酬の問題が短期的なオペレーション・リスクとして挙げられています。中期的には、メディア権利の更新とサウジアラビアのPIFファンディングのレビューが潜在的な逆風となる可能性があります。

しかし、これらのリスクを織り込んでも、ソロス・ファンドはなおこのポジションを維持しています。長期的なスポーツ・エンターテインメント業界の成長への確信が伺えます。

第6章 第5位マイクロソフト(MSFT)― AIの本命

マイクロソフトへの賭け

マイクロソフトはポートフォリオの1.88%を占める第5位の保有銘柄です。

2025年第3四半期、ソロス・ファンドはNVIDIA、アップル、セールスフォース、マイクロソフトへの持ち分を増やしました。これにより、ソロス・ファンドはマイクロソフト、アマゾン、アルファベット、エヌビディア、セールスフォースという「AI受益銘柄」を網羅的にカバーする形になっています。

マイクロソフトの強み

マイクロソフトをポートフォリオの中心に据える理由は、いくつもあります。

第一に、OpenAIとのパートナーシップです。マイクロソフトはOpenAIに巨額投資を行い、ChatGPTやGPTシリーズの技術を自社製品(Office、Azure、Copilotなど)に統合しています。これは「企業AI」分野での圧倒的な競争優位を生み出しています。

第二に、Azureクラウドの急成長です。AWSと並ぶ世界第2位のクラウド事業者として、AIワークロードの増加から大きな利益を得ています。

第三に、企業向けソフトウェアの圧倒的なシェアです。Office 365、Windows、Teamsなど、企業のIT基盤を握る存在として、安定したキャッシュフローを生み出しています。

第四に、AI時代の「価格決定力」です。CopilotなどのAIアシスタント機能を既存製品に追加料金で提供することで、ARPU(ユーザー1人あたり収益)を大幅に引き上げることが可能になっています。

第7章 包装業界の巨人 ― スマーフィット・ウェストロック(SW)の物語

ソロス・ファンドのポートフォリオを理解する上で、スマーフィット・ウェストロックの動きは特に教訓的です。

急上昇から大幅削減へ

2025年初頭、トップ・ホールディングスの表を見ると、包装業界の巨人スマーフィット・ウェストロックPLCが第1位で約3億880万ドル、ポートフォリオ全体の約6%を占めていました。

そしてつい1年前、ソロス・ファンドは第3四半期にスマーフィット・ウェストロックの株式約680万株を購入し、SWを単独で最大の株式保有銘柄としていました。スマーフィット・ウェストロックへのソロスのスタンスは約3億4,000万ドル相当でした。

ところが2025年中に大きな変化が起きました。第1四半期の主要削減には、スマーフィット・ウェストロック、アストラゼネカ、エアキャップ、アルファベット、シンクロニーが含まれ、選択的な保有銘柄での積極的なポートフォリオ・リバランスと利益確定を示しています。

そして2025年第4四半期、ジョージ・ソロスはスマーフィット・ウェストロックPLC(SW)への持ち分を5,344,942株削減し、株式数で-68.99%の減少、ポートフォリオに-4.47%のインパクトを与えました。

つまり、わずか1年ほどでトップ・ホールディングから、大幅な縮小ポジションへと変化したのです。

スマーフィット・ウェストロックとは何か

スマーフィット・ウェストロックは、アイルランド本社の世界最大級の包装企業の一つです。2024年7月にスマーフィット・カッパとウエストロック(米国の包装大手)の合併によって誕生しました。

この銘柄は、Eコマースの成長によって需要が増加する段ボール包装、持続可能なパッケージング、紙製品の中核プレイヤーです。Eコマース企業(特にアマゾン)の急成長は、その商品を運ぶ包装業界にも追い風となります。

なぜソロスは買って売ったのか

ソロス・ファンドの動きを再帰性の観点から解読してみましょう。

2024年〜2025年初頭、合併直後のスマーフィット・ウェストロックには、いくつかの好材料がありました。合併シナジー期待、Eコマース成長、持続可能な包装へのシフトなど、複合的なテーマが投資家を引きつけました。

ソロス・ファンドはこのトレンドに早期から乗り、大きなポジションを構築しました。再帰性のフレームワークでは、これは典型的な「トレンドの早期発見」フェーズです。

しかし2025年中盤以降、スマーフィット・ウェストロックの株価は調整局面に入りました。合併後の統合に時間がかかり、業績の改善ペースが期待を下回ったという見方もあります。

ソロス・ファンドの動きは、まさに哲学通りです。トレンドが続く限り保有し、トレンドの転換点を察知したら速やかに離脱する。「自分が間違っているかもしれない」という仮説を常に持ち続け、データが反証したら方針を変える。スマーフィット・ウェストロックの一連の動きは、ソロス哲学の見事な実演です。

第8章 製薬業界 ― アストラゼネカ(AZN)からの撤退

大型ポジションの構築と撤退

ソロス・ファンドの保有銘柄の中で、もう一つ印象的なのが製薬大手アストラゼネカの動きです。

ソロス・ファンドは2024年初頭にアストラゼネカに新規投資し、第3四半期には201,233株を買い増しました。当時、ソロス・ファンドは260万株のアストラゼネカ株を保有し、価値約2億600万ドルで、ファンドの第2位の株式保有銘柄でした。

2025年初頭、ポートフォリオ第2位は製薬大手アストラゼネカPLCで2億1,600万ドルでした。

しかし2025年第2四半期に状況は変化します。ソロスはアストラゼネカ、アメリカン・エレクトリック・パワー、JPモルガン、ナスダックのポジションを完全に売却しました。

アストラゼネカ撤退の理由

なぜソロス・ファンドはアストラゼネカから撤退したのでしょうか。

アストラゼネカは英国の製薬大手で、タグリッソ(肺がん)、ファルシガ(糖尿病)などの主力薬を持つ純粋な製薬企業の一つです。

製薬業界全体が、いくつかの逆風に直面しています。第一に、米国でのインフレ削減法(IRA)による薬価交渉の影響です。第二に、特許切れによる主力薬の収益減少リスクです。第三に、開発パイプラインの不確実性です。

ソロス・ファンドが製薬業界から撤退し、テクノロジー、特にAIテクノロジーへの集中度を高めているのは、こうした業界横断的なトレンドの読み替えを反映している可能性があります。

第9章 航空機リース ― エアキャップ(AER)の物語

興味深い長期保有

エアキャップ・ホールディングスは、ソロス・ファンドが比較的長期間にわたって保有してきた銘柄の一つです。

エアキャップは2023年第1四半期にソロスの新規ポジションとなり、ソロス・ファンドは第3四半期に約32,000株を追加で買い、約150万株(約1億5,000万ドル相当)を保有していました。

エアキャップ(AER)は16.78%上昇し、航空機リースセクターの追い風に乗りました。これはソロスが回復のサイクルと供給に影響を与える不足のために楽観的な見方をしていた市場です。

エアキャップとは

エアキャップ・ホールディングスは世界最大級の航空機リース会社です。ボーイングやエアバスから新規航空機を購入し、世界中の航空会社にリースする事業を展開しています。

この株式は魅力的に評価されており、予想PERでわずか7.4倍で取引されていました。

投資のロジック

エアキャップへの投資は、いくつかのテーマに賭けたものと考えられます。

第一に、コロナ後の国際航空旅行の回復です。ソロスは国際ビジネス旅行の継続的な回復がエアキャップの追い風になると予想していたのかもしれません。エアキャップ株は2023年初頭から64%上昇しました。

第二に、航空機供給の構造的不足です。ボーイングとエアバスの生産能力は需要に追いついておらず、これがリース会社の交渉力を強化しています。

第三に、低い評価倍率です。PER7倍台というのは、循環的な業界としてもかなり低く、安全マージンが確保されています。

削減の動き

しかし2025年第2四半期、ソロス・ファンドはエアキャップへの持ち分を削減しました。これは利益確定と、より魅力的な投資機会への資金移動を示唆しています。

第10章 環境サービスへの賭け ― GFLエンバイロメンタル(GFL)

環境ビジネスへの集中投資

GFLエンバイロメンタルの市場資本化は249.8億ドルで、ソロスのポートフォリオでこの保有は1億5,347万ドル相当でした。アナリストはGFLエンバイロメンタルの目標株価を54.67ドルに設定しています。

GFLエンバイロメンタルは、固体および液体廃棄物の輸送、管理、リサイクルを行い、土壌修復サービスを提供しています。

なぜ廃棄物管理なのか

廃棄物管理ビジネスは、一見地味ですが、極めて魅力的な特性を持っています。

第一に、収益の安定性です。廃棄物処理は景気サイクルの影響を比較的受けにくく、安定したキャッシュフローを生み出します。

第二に、規制による参入障壁です。環境規制は厳しく、新規参入が困難です。これが既存企業の競争力を保護しています。

第三に、ESGトレンドの追い風です。持続可能性への関心の高まりが、リサイクル事業、汚染管理、土壌修復への需要を押し上げています。

第四に、北米市場の統合機会です。GFLは多角化された環境サービス企業で、北米全体で事業を展開しています。地方自治体、住宅、商業、産業顧客に非危険性固体廃棄物管理、インフラと土壌修復、液体廃棄物管理サービスを提供しています。

スマーフィット・ウェストロックとGFLの共通点

実は、スマーフィット・ウェストロック(包装)とGFLエンバイロメンタル(廃棄物管理)には、興味深い共通点があります。両者ともEコマースの成長と密接に関連しています。Eコマースの拡大は、包装材の需要を増やし、それと同時に廃棄物量も増やします。

ソロス・ファンドが両方に賭けていることは、「Eコマース成長」というメガトレンドの周辺で利益を得る戦略の一環と読めます。直接的なEコマース銘柄(アマゾン)への投資と、その周辺ビジネス(包装、廃棄物処理)への投資を組み合わせているのです。

第11章 ギャンブル業界への賭け ― フラッター・エンターテインメント(FLUT)

トップ・ホールディングスの一つにフラッター・エンターテインメントPLCが入っています。

フラッター・エンターテインメントは、世界最大級のオンラインスポーツベッティングとギャンブル企業です。米国市場ではFanDuelブランドで知られ、英国・アイルランドではPaddy Powerなど複数のブランドを展開しています。

なぜフラッターか

第一に、米国スポーツベッティング市場の急成長です。米国では2018年の最高裁判決以降、スポーツベッティングが州ごとに合法化されています。市場規模は急速に拡大しており、FanDuelはトップ・プレイヤーの一つです。

第二に、TKOグループ・ホールディングスとの相互補完性です。UFCやWWEのファンは、スポーツベッティングの主要な顧客層と重なります。ソロス・ファンドが両方を保有していることは、エンターテインメント・ベッティング・エコシステム全体への賭けを示唆しています。

第三に、ネットワーク効果と規模の経済です。オンラインギャンブル業界では、流動性と顧客基盤が大きいほど、より良いオッズを提供でき、さらに多くの顧客を引きつけることができます。これは典型的な「勝者総取り」型の市場であり、再帰性が強く働く分野です。

第12章 リバティ・ブロードバンド ― 旧経済テクノロジー銘柄への投資

マルカテレコムの巨人

リバティ・ブロードバンドは、ジョン・マローン率いるリバティ・メディア帝国の一部です。同社の主要資産は、米国のケーブル・テレビとブロードバンド・インターネット大手のチャーター・コミュニケーションズの大株主としての持分です。

2025年6月30日時点で、ソロスの上位保有銘柄は、規模順にスマーフィット・ウェストロック、GFLエンバイロメンタル、フラッター、リバティ・ブロードバンド、インタラクティブ・ブローカーズでした。

なぜリバティ・ブロードバンドか

ケーブルテレビ会社は、ストリーミングサービスの台頭で苦境にあると見られがちです。しかしソロス・ファンドが投資する理由は、いくつかあります。

第一に、ブロードバンド事業の堅固な基盤です。ケーブルテレビ視聴者は減少していますが、高速インターネット接続の需要は増加しています。

第二に、評価倍率の低さです。市場は「衰退産業」として割安に評価していますが、ファンダメンタルズは思ったほど悪くないという見立てが可能です。

第三に、ジョン・マローンの経営手腕への信頼です。マローンは長年にわたって株主価値を最大化する取引(スピンオフ、合併、自社株買い)を実行してきた実績があります。

第13章 金融セクター ― インタラクティブ・ブローカーズとKKR

インタラクティブ・ブローカーズへの増加投資

ソロスはインタラクティブ・ブローカーズ、エヌビディア、リバティ・ブロードバンド、スノーフレーク、KKR & Co.への持ち分を増やしています。

インタラクティブ・ブローカーズは、プロフェッショナル・トレーダーとアクティブな個人投資家向けのオンライン・ブローカレッジ大手です。

なぜこの銘柄か。第一に、金利上昇環境下での収益性の高さです。ブローカレッジ会社は顧客の現金残高から金利収入を得るため、高金利環境は追い風になります。

第二に、グローバルな投資家層の拡大です。世界中で個人投資家が金融商品にアクセスする機会が増えており、IBKRはその恩恵を受けています。

第三に、アルゴリズム取引と高頻度取引の成長です。プロフェッショナル・トレーダーの主要なプラットフォームとして、テクノロジー投資への先行的な賭けです。

KKR & Coへの投資

KKRは世界最大級のプライベートエクイティ・ファームの一つです。プライベートエクイティ業界は、近年めざましい成長を遂げており、ソロス・ファンドはこのトレンドに賭けています。

プライベートエクイティへの投資には、いくつかの魅力があります。第一に、フィー収入の安定性。第二に、AUM(運用資産残高)の継続的増加。第三に、金融リテラシーの高い富裕層の増加とともに高まる需要。

第14章 半導体への賭け ― エヌビディア(NVDA)と台湾積体電路製造(TSM)

AIブームの中心銘柄

第4四半期、マイクロソフト、エヌビディア、台湾積体電路製造への持ち分が増加しました。

エヌビディアと台湾積体電路製造(TSMC)は、AIブームの最も直接的な受益者です。エヌビディアはAI用GPUの圧倒的なリーダーで、TSMCはそのGPUを製造する半導体ファウンドリーの最大手です。

半導体への投資理由

第一に、AI用半導体需要の爆発的増加です。データセンターはAI訓練と推論のために膨大な計算能力を必要としており、エヌビディアのGPUはほぼ独占的な地位にあります。

第二に、構造的な供給制約です。先端半導体の製造能力は限られており、TSMCは事実上の独占的地位を持っています。

第三に、地政学的な複雑性です。米中対立、台湾情勢など、半導体業界には大きなリスクもありますが、それが評価倍率を抑える要因にもなっています。

慎重なバランス

ただし、ソロス・ファンドは半導体への賭けと同時に、リスクヘッジも行っています。第3四半期の上位5つの買いターゲットは、アマゾン、平均加重指数ETF(Rydex S&P、RSP)、グーグル、フォワード・インダストリーズの社債、半導体指数ETF(バンエック)のプット・オプションでした。

つまり、エヌビディアやTSMCを買いながらも、半導体セクター全体に対してはプット・オプションでヘッジを取っているのです。これは典型的なリスク管理の手法です。

第15章 公益事業への新規参入

アメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)とエンタジー

2025年第1四半期、アメリカン・エレクトリック・パワー、エンタジー・コーポレーション、TKOグループ・ホールディングスに大きな新規ポジションが取得され、公益事業とエンターテインメントへの傾斜を反映しています。

公益事業は通常、ヘッジファンドが好む銘柄ではありません。成長が遅く、規制が厳しく、退屈な事業だからです。なぜソロス・ファンドはこれらに投資したのでしょうか。

AI時代の電力需要

答えは、AIです。AIの訓練と推論には膨大な電力が必要で、データセンターの電力消費は急増しています。

アメリカン・エレクトリック・パワーは、米国中西部と南部で電力供給を行う大手電力会社です。エンタジーは、ルイジアナ州を中心に南部で事業を展開しています。これらの地域には、新規データセンターが多数建設される予定です。

つまり、ソロス・ファンドの公益事業への投資は、「AI受益銘柄」のもう一つのレイヤーなのです。テクノロジー企業(アマゾン、グーグル、マイクロソフト)、半導体(エヌビディア、TSMC)、そして電力供給(AEP、エンタジー)。AIエコシステム全体への網羅的な賭けが見て取れます。

撤退の動き

ただし2025年第2四半期、ソロス・ファンドはアストラゼネカ、アメリカン・エレクトリック・パワー、JPモルガン、ナスダックのポジションを完全に売却しました。

つまり、AEPには短期間でエントリーし、エグジットしたわけです。電力テーマは継続していますが(エンタジーは保有継続の可能性)、個別銘柄の判断は機動的に変えています。

第16章 中型成長株への賭け ― ジャズ・ファーマシューティカルズなど

新規ポジションの興味深い顔ぶれ

ソロス・ファンド・マネジメントの新規ポジションには、スポティファイUSA、ジャズ・ファーマシューティカルズ(JAZZ)、コンバーチブル・ゼロ債、ドロップボックスのコンバーチブル債、コアウィーブ(CRWV)が含まれていました。

これらの銘柄は、それぞれ異なるテーマを表しています。

スポティファイ(SPOT)

世界最大級の音楽ストリーミングサービス。ポッドキャストへの大規模投資、AI推薦エンジンの改良、価格決定力の向上などで、収益性が急改善しています。クリエイター・エコノミーとサブスクリプション・モデルの代表選手です。

ジャズ・ファーマシューティカルズ(JAZZ)

希少疾病、神経科学、腫瘍学に特化した特殊製薬企業。アストラゼネカからの撤退の代替として、より集中したスペシャリティ製薬への投資です。

ドロップボックスのコンバーチブル債

クラウドストレージサービスのドロップボックスへの投資。ただし、株式ではなく転換社債(コンバーチブル債)の形での投資です。これは、株式の上昇余地を確保しつつ、債券としてのダウンサイド保護を得る賢い方法です。

コアウィーブ(CRWV)

AIインフラ専門のクラウドコンピューティング企業。2024年に上場した比較的新しい銘柄です。エヌビディアGPUを大量に保有し、AI企業に貸し出すビジネスを展開しています。「AIのAWS」を目指す野心的な企業です。

ただし2025年第3四半期にはコアウィーブを完全に売却しています。これも機動的なポジション管理の例です。

第17章 オプション戦略 ― 隠れた重要な部分

13Fでも見えるオプション・ポジション

13F報告書では、オプション・ポジションも一部開示されます。これはソロス・ファンドの戦略を理解する上で極めて重要です。

第4四半期、ソロスの最大のオプション・ポジションはエネルギーETF(XOPとXLE)に集中し、AI・半導体への戦略的ベットがコアウィーブ、SMH、アマゾン、コンフルエントを通じて表れていました。マクロヘッジングとしてSPYプットが市場全体の評価に対する慎重な姿勢を示しています。

これは複雑なポートフォリオ構成です。一方では成長株(アマゾン、AI関連)への大きなロング・ポジション。他方では市場全体への弱気のヘッジ(SPYプット)。さらに特定セクターへのロング(エネルギー)。

これは典型的な「ヘッジ付き集中投資」の手法です。確信の高い個別銘柄に大きく賭けつつ、市場全体の下落リスクをプットで保護する。利益のチャンスを最大化しながら、損失を限定する戦略です。

エネルギーへの賭け

XOPは石油・ガス探鉱・生産企業ETF、XLEはエネルギー・セレクト・セクターSPDRです。これらへの大きなロング・ポジションは、エネルギー価格の上昇または安定への賭けを意味します。

2025年のエネルギー市場は、地政学的緊張、OPEC+の減産、AIデータセンターの電力需要などで複雑な動きを見せました。ソロス・ファンドはこの混乱から利益を得るために、エネルギーETFを使った効率的なエクスポージャーを構築したと考えられます。

プット・オプションによるヘッジ

第3四半期の上位5つの売りターゲットには、ファースト・ソーラー・コール・オプション、iシェアーズ・ラッセル2000 ETFプット・オプション、インベスコQQQトラスト・シリーズ1コール・オプションが含まれていました。

これらのオプション操作は、特定セクターやサブセクターへの賭けを精密に行うための手段です。コール・オプションを売る(カバード・コール)ことで追加収入を得たり、プット・オプションを買うことで下方保護を得たりします。

第18章 銘柄の出入り ― 2025年通年の動き

主要な売却

2025年を通じて、ソロス・ファンドは多くの銘柄を売却しました。

2025年第2四半期、ソロス・ファンドはアストラゼネカ、アメリカン・エレクトリック・パワー、JPモルガン、ナスダックのポジションを完全に売却しました。

第3四半期には、最近強さを示していたメモリーチップ株のサンディスク、ウェスタンデジタル、テスラ(3,209株のみ残す)を完全に売却し、コアウィーブを売却しました。

これらの売却は、いくつかのテーマを示しています。第一に、製薬・公益事業・金融といった分野からの撤退。第二に、メモリーチップ業界の特定銘柄からの利益確定。第三に、テスラからの実質的な完全撤退。

テスラからの撤退

テスラからの撤退は、ソロス・ファンドの哲学を示す重要なシグナルです。テスラの保有を3,209株のみに削減しました。

テスラは多くの投資家が「次の成長株」として保有していますが、ソロス・ファンドはこれを大幅に削減しました。これは、テスラのファンダメンタルズと評価倍率のギャップが大きくなりすぎたという判断、あるいはイーロン・マスクの政治的活動の不確実性への懸念を反映している可能性があります。

新規エントリー

同時に、ソロス・ファンドはブラウン・アンド・ブラウン、アラマーク、アイダコープ、JBTマーレルに新規投資しました。

これらは比較的小型の銘柄で、それぞれ異なるテーマを表しています。ブラウン・アンド・ブラウンは保険ブローカー、アラマークはフードサービス、アイダコープは公益事業、JBTマーレルは食品・飲料処理機器メーカーです。

ソロス・ファンドが大手テック株への集中度を高めながら、同時に幅広い中小型成長株にも分散投資していることが分かります。

第19章 セクター別の集中度

テクノロジーへの圧倒的な傾斜

2025年第4四半期のソロス・ファンドのポートフォリオを見ると、テクノロジーセクターへの傾斜が極めて顕著です。

トップ5の中で、アマゾン、アルファベット、セールスフォース、マイクロソフトの4社がテクノロジー(およびテクノロジー隣接)銘柄です。さらに、エヌビディア、TSMC、コンフルエント、ドロップボックス、スポティファイなどもテクノロジー銘柄です。

ポートフォリオ全体の中で、テクノロジーセクターへの実効的な集中度は30%を超えている可能性があります。これは、テクノロジーが2020年代の最大の構造的成長セクターであり、AIブームによって特にその傾向が加速しているという認識を反映しています。

多角化された二次的ポジション

テクノロジー以外でも、ソロス・ファンドは幅広い分野に投資しています。スポーツ・エンターテインメント(TKO、フラッター)、産業(エアキャップ、JBTマーレル)、消費(アラマーク)、環境サービス(GFL)、公益事業(エンタジー)、製薬(ジャズ)、金融(インタラクティブ・ブローカーズ、KKR)など。

これは「コア・サテライト戦略」に近い構造です。テクノロジー銘柄をコアとして大きく保有し、サテライトとして多様なテーマや個別ストーリーを追求する戦略です。

第20章 13Fの限界と裏の戦略

表に出ない投資

ここで重要な留保を述べておきます。13F報告書はソロス・ファンドの戦略の「一部」しか示していません。

ソロス・ファンドはグローバル・マクロ戦略のヘッジファンドとして名を馳せました。為替、金利、国債、商品、新興国市場など、13Fでは見えない領域での大きなポジションを取ってきた歴史があります。

現在も、外国株式(米国上場のADRを除く)、空売り、通貨、商品、債券、デリバティブの大半は13Fに含まれません。

つまり、私たちが見ているのは、本当のポートフォリオ全体の一部に過ぎないかもしれません。「氷山の一角」という表現が当てはまります。

グローバル・マクロの遺産

ソロス哲学を受け継ぐドーン・フィッツパトリック率いる現在のチームも、グローバル・マクロの伝統を継承していると考えられます。為替、金利、地政学的動向への賭けは、おそらく依然として重要な戦略の一部です。

これらの活動は四半期報告書には現れませんが、ファンドの全体的なパフォーマンスとリスク・プロファイルには大きな影響を及ぼしています。

第21章 ソロス・ファンドの哲学的継承

再帰性理論の現代的応用

現在のソロス・ファンドの保有銘柄を見ると、ジョージ・ソロスの再帰性理論がどう継承されているかが分かります。

第一に、トレンドに乗ること。AI、Eコマース、ストリーミング、スポーツエンターテインメントなど、明確な構造的成長トレンドに早期から大きく賭けています。

第二に、転換点を察知すること。スマーフィット・ウェストロックやアストラゼネカからの大幅削減は、トレンドの終わりを察知して機動的に動くソロス哲学の体現です。

第三に、確信と規模の一致。アマゾンへの集中(8%超)は、確信の高い銘柄には大きく賭けるという哲学を反映しています。

第四に、リスク管理。プット・オプションによるヘッジ、転換社債を使ったリスク限定的なエクスポージャーなど、洗練されたリスク管理が実装されています。

高い回転率の意味

ポートフォリオの回転率は40%です。これは、保有銘柄の40%が四半期内に変化することを意味します。

伝統的な「バイ・アンド・ホールド」投資家から見れば、この回転率は驚異的に高いものです。しかしソロス・ファンドにとっては、これが哲学の実装です。市場参加者の認識、ファンダメンタルズ、価格の相互作用は絶えず変化しており、その変化にポートフォリオを適応させる必要があるのです。

第22章 個人投資家への示唆

ソロス・ファンドの保有銘柄をどう活用するか

ここまで読まれて、「これらの情報を自分の投資にどう活かせるか」と考える方も多いでしょう。

第一に、13Fフォロー戦略は使えるが、注意が必要です。投資家はソロス・ファンド・マネジメントを四半期ごとの13Fファイリングを通じてフォローできます。これは、1億ドル以上を運用する機関投資家のために四半期末から45日以内に必要とされます。しかし、この報告遅延は、現在見ているポートフォリオが現在のポジショニングを反映していない可能性があることを意味します。

つまり、私たちが今見ている2025年12月末時点のデータを、私たちが知る頃には、ソロス・ファンドはすでにポジションを大きく変えている可能性があるのです。45日のタイムラグは、機動的なヘッジファンドにとっては永遠とも言える時間です。

第二に、テーマを学ぶことです。個別銘柄をコピーするのではなく、ソロス・ファンドが追求しているテーマ(AI、Eコマース、スポーツエンターテインメント、エネルギー、環境サービスなど)を理解することの方が価値があります。

第三に、リスク管理を学ぶことです。ソロス・ファンドは確信のある銘柄に集中しながら、同時にヘッジを活用しています。これは個人投資家にも応用可能なアプローチです。

ソロス哲学を自分のスタイルに

最も重要なのは、ジョージ・ソロスの個別銘柄ではなく、彼の思考プロセスを学ぶことです。

仮説を立て、それを反証可能なものとして扱う。市場が反証する証拠を出したら速やかに修正する。確信の度合いに応じてポジションサイズを調整する。トレンドに早期に乗り、転換点を察知したら離脱する。

これらの原則は、規模に関係なく、すべての投資家が応用できるものです。

第23章 アレックス・ソロスとファミリーオフィスの未来

次世代への継承

2023年、ジョージ・ソロスは投資の第一線から退き、息子のアレックス・ソロスがファミリーオフィスを引き継ぎました。これは大きな世代交代です。

アレックス・ソロスは父親と異なるバックグラウンドを持ちます。歴史学の博士号を持ち、政治と慈善活動により強い関心を持っています。実際の投資判断は、CIOのドーン・フィッツパトリックと運用チームに任されています。

ドーン・フィッツパトリックの役割

2017年、ドーン・フィッツパトリックはテッド・バーディックの後任として最高投資責任者(CIO)に就任しました。彼女はソロス・ファンドの実質的な投資判断を統括しています。

フィッツパトリックは、ヘッジファンド業界で長年のキャリアを持ち、特にUBSのオコナー部門で活躍した実績があります。彼女の下で、ソロス・ファンドはより組織化された運用体制に移行しています。

ただし、ジョージ・ソロス自身が築いた哲学的フレームワーク(再帰性、可謬性、適応的判断)は依然として運用の基盤となっています。

第24章 過去のソロス・ファンドとの比較

1980〜90年代の絶頂期との違い

クォンタム・ファンドの絶頂期、1980〜90年代のソロス・ファンドは、現在とは大きく異なる姿でした。

第一に、規模が違います。最盛期のクォンタム・ファンドは、1969年から1994年まで年率35%のリターンを記録し、ソロスは1,200万ドルから始めたファンドを250億ドル以上に成長させました。今日のソロス・ファンド・マネジメントの13Fポートフォリオは86億ドル程度です。

第二に、戦略が違います。当時は通貨、金利、商品など、グローバル・マクロの賭けが中心でした。現在は、個別株式への投資の比重が高まっています。

第三に、リスクテイクの規模が違います。1992年のポンド売りのような、レバレッジを最大限活用した一発勝負はもはや行われていません。

歴史的な13F報告書から見える進化

2006年の13F報告書を見ると、ソロス・ファンドはADCテレコミュニケーションズ、AGCO、AESコープ、AMRコープ、アボット・ラボなど、当時の典型的な大型株を保有していました。

1998年の報告書では、MCIコミュニケーションズへの10億ドル超という巨額ポジション、ノースロップ・グラマンへの1.2億ドルなど、当時の重要銘柄が並んでいました。

時代によって保有銘柄は大きく変わってきましたが、共通しているのは「その時代の最も重要な構造的トレンド」に集中して賭ける姿勢です。1990年代の通信革命、2000年代の中国の台頭、2010年代のテクノロジー革命、2020年代のAI革命。常にメガトレンドの中心に資金を集中させてきたのです。

第25章 限界とリスクを正しく認識する

13F分析の本質的な制約

何度も強調してきましたが、13F分析にはいくつかの根本的な限界があります。

第一に、報告遅延です。45日のタイムラグは、機動的なファンドにとっては大きな情報の歪みを生みます。

第二に、ロングのみです。空売り、ショート、ペアトレードなど、ヘッジファンドの重要な戦略の多くは13Fに反映されません。

第三に、ロケーションの問題です。米国上場株式のみが対象で、外国株式や非上場投資は含まれません。

第四に、文脈の欠如です。なぜそのポジションを取ったか、いつエグジットするか、どんなリスクヘッジを取っているか、といった情報はありません。

「コピー投資」の危険性

ソロス・ファンドの保有銘柄を単純にコピーする投資戦略には、深刻なリスクがあります。

第一に、すでに上昇した後でポジションを取ることになります。13Fが公開された時点で、既に株価は織り込んでいる可能性が高いです。

第二に、エグジットのタイミングを知ることができません。ソロス・ファンドが売却した時、私たちはそれを知るのに最大45日かかります。

第三に、ポジションサイズの判断ができません。ファンドにとって0.1%の小さなポジションを、個人投資家がポートフォリオの10%にしてしまうと、リスク特性が全く違うものになります。

第四に、リスクヘッジが見えません。ファンドはオプションや空売りで多角的にリスク管理していますが、個人投資家がロングだけ真似ると、リスクが大きく増幅される可能性があります。

健全な活用方法

それでもなお、13F分析は価値があります。健全な活用法は以下の通りです。

第一に、テーマの確認です。プロの投資家が何に関心を持っているかを把握できます。

第二に、自分の投資仮説の検証です。自分が興味を持っている銘柄を、プロの投資家がどう扱っているかを確認できます。

第三に、リスクシグナルの確認です。複数のヘッジファンドが特定の銘柄を一斉に売却し始めたら、何かが起きている可能性があります。

第四に、知的好奇心の刺激です。なぜこの銘柄を保有しているのか、を考えることで、自分自身の投資判断の質を高めることができます。

おわりに ― ソロス・ファンドの保有銘柄から学ぶこと

長い旅をご一緒していただきました。ここまでお読みいただいた方は、ソロス・ファンド・マネジメントの2025年第4四半期時点の主要保有銘柄について、深く理解されたことと思います。

最後に、いくつかの大事なメッセージをお伝えして締めくくります。

第一に、ソロス・ファンドのポートフォリオは「動いている」ということです。トップ・ホールディングは四半期ごとに変化し、新規エントリーとエグジットが絶えず行われています。「ソロスは何々を保有している」という単一のスナップショットを神格化するのは間違いです。

第二に、テーマと哲学が個別銘柄より重要だということです。AIへの集中投資、ヘッジによるリスク管理、確信に応じたサイズ調整、トレンドの早期発見と転換点の察知。これらの原則は、保有銘柄の変化を超えて一貫しています。

第三に、データは表層に過ぎないということです。13Fが見せてくれるのは、巨大な投資マシンの一部の景色だけです。本当に重要なのは、その表層の奥にある、思考のプロセスです。

第四に、自分自身のスタイルを持つ重要性です。ソロス・ファンドは独自の哲学と巨大なリソースを持つ存在です。私たち個人投資家は、それを盲目的にコピーするのではなく、彼らから学んだことを自分のスタイルに統合する必要があります。

最後に、市場は常に変化するということです。今のソロス・ファンドの保有銘柄も、来年には大きく変わっているでしょう。継続的な学習と適応が、投資家として生き残るための条件です。

ジョージ・ソロスの保有銘柄を学ぶことは、単なる「銘柄選択のヒント」を得ることではありません。それは、世界トップクラスの投資哲学が現実の市場でどう実装されているかを、生きた事例として学ぶ機会なのです。その学びが、皆さまの投資の旅に役立つことを願っています。


参考資料

本記事は、以下の公的資料および信頼性の高い金融情報源に基づいて作成されました。

SEC(米国証券取引委員会)の一次資料

ソロス・ファンド・マネジメントLLC、フォーム13F-HR、各四半期報告書。米国証券取引委員会のEDGAR電子データベースから入手可能。

ソロス・ファンド・マネジメントLLC、2025年第4四半期13F報告書、2025年12月31日付(https://13f.info/13f/000090266426000998-soros-fund-management-llc-q4-2025)。

主要な分析資料

Seeking Alpha「Tracking George Soros’s 13F Portfolio – Q4 2025 Update」2026年2月27日付(https://seekingalpha.com/article/4875958-tracking-george-soross-13f-portfolio-q4-2025-update)。

Seeking Alpha「Tracking George Soros’s 13F Portfolio – Q3 2025 Update」2025年12月12日付(https://seekingalpha.com/article/4852755-tracking-george-soross-13f-portfolio-q3-2025-update)。

Seeking Alpha「Tracking George Soros’s 13F Portfolio – Q1 2025 Update」2025年7月2日付(https://seekingalpha.com/article/4794219-tracking-george-soross-13f-portfolio-q1-2025-update)。

GuruFocus「George Soros Current Portfolio, 13F Holdings」2026年2月20日更新(https://www.gurufocus.com/guru/george+soros/current-portfolio/portfolio?view=table)。

GuruFocus「George Soros Reduces Stake in Smurfit WestRock PLC by 68.99%」2026年2月16日付(https://www.gurufocus.com/news/8621046/george-soros-reduces-stake-in-smurfit-westrock-plc-by-6899)。

Holdings Channel「Soros Fund Management LLC 13F Portfolio: Top Holdings & Latest Filing」(https://www.holdingschannel.com/13f/soros-fund-management-llc-top-holdings/)。

Insider Monkey「Soros Fund Management 13F Holdings」2026年2月13日更新(https://www.insidermonkey.com/hedge-fund/soros+fund+management/2/holdings/)。

Stockcircle「George Soros Portfolio Top Holdings」2025年各月版(https://stockcircle.com/portfolio/george-soros)。

関連記事と分析

The Fly(TipRanks経由)「Soros boosts, exits stake in AstraZeneca, cuts position in Alphabet」2025年8月(https://www.tipranks.com/news/the-fly/soros-boosts-exits-stake-in-astrazeneca-cuts-position-in-alphabet-thefly)。

AInvest「George Soros Exits AstraZeneca, Cuts Alphabet Position」2025年8月15日付(https://www.ainvest.com/news/george-soros-exits-astrazeneca-cuts-alphabet-position-2508/)。

Tiger Brokers/itiger「George Soros’s Playbook in 2025: Opportunistic, Nimble, and Undeniably Contrarian」(https://www.itiger.com/news/2548163803)。

ValueSense Blog「Soros Fund 13F Q3 2025: Top Holdings & Recent Moves」2025年10月24日付(https://blog.valuesense.io/george-soros-soros-fund-management-llc-portfolio-q22025-top-holdings-recent-changes/)。

Voronoi App「George Soros’s Q4 2025 Options Matrix — Strategic Bets in Motion」2026年2月14日付(https://www.voronoiapp.com/investing/George-Soross-Q4-2025-Options-Matrix–Strategic-Bets-in-Motion-7654)。

Futu News「Soros Q3 Holdings: Amazon Becomes Top Holding」2025年11月15日付(https://news.futunn.com/en/post/64970475/soros-q3-holdings-amazon-amznus-becomes-top-holding-exits-positions)。

Webull News「Soros Q3 holdings: Amazon promoted to top stock」(https://www.webull.com/news/13858314791764992)。

Fintel「Soros Fund Management LLC Portfolio Holdings」(https://fintel.io/i/soros-fund-management-llc)。

Grufity「George Soros 13F, SOROS FUND MANAGEMENT Portfolio」(https://www.grufity.com/funds/1029160)。

Whale Wisdom「SOROS FUND MANAGEMENT LLC Top 13F Holdings」(https://whalewisdom.com/filer/soros-fund-management-llc)。

個別企業に関する参考資料

ブリタニカ・マネー「TKO Group Holdings」(https://www.britannica.com/money/TKO-Group-Holdings)。

Wikipedia「TKO Group Holdings」(https://en.wikipedia.org/wiki/TKO_Group_Holdings)。

Wikipedia「Soros Fund Management」(https://en.wikipedia.org/wiki/Soros_Fund_Management)。

TKO Group Holdings Investor Relations(https://investor.tkogrp.com/overview/default.aspx)。

Insider Monkey「TKO Group (TKO) Stock: Are You Ready to Look Beyond the Near-Term Concerns?」(https://www.insidermonkey.com/blog/tko-group-tko-stock-are-you-ready-to-look-beyond-the-near-term-concerns-1754531/)。

Stock Investment Analysis「Seven of the Soros Fund’s top stock holdings」2024年11月19日付(https://www.stockhu.com/seven-of-the-soros-funds-top-stock-holdings/)。

Pestel-Analysis「Who Owns TKO Company?」2025年12月27日付(https://pestel-analysis.com/blogs/owners/tkogrp)。

重要な注意事項

本記事に記載されている保有銘柄やポジションの情報は、すべて2025年12月31日時点もしくはそれ以前の公開された13F報告書に基づいています。13F報告書は四半期末から45日以内に提出されるため、現在のソロス・ファンド・マネジメントの実際のポートフォリオは大きく異なっている可能性があります。

また、本記事に記載されている金額、株数、割合などの数値は、出典資料によって若干の違いがある場合があります。これは、計算時点の違い、コンバーチブル債やオプションの扱いの違い、データ集計のタイミングの違いなどが理由です。本記事では複数の情報源を相互照合し、可能な限り正確な情報を提供するよう努めましたが、最も正確な情報を必要とする場合は、SECのEDGARから直接ソロス・ファンド・マネジメントの13F報告書を確認することをお勧めします。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の購入または売却を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

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