- はじめに ~ 不要品が一瞬で「商品」になる時代
- C2Cプラットフォームとは何か
- メルカリの歴史 ~ 10年で1兆円規模へ
- メルカリの収益構造
- 「メルカリエコシステム」というネットワーク効果
- 越境取引とメルカリShopsへの拡張
- 「メルカリ ハロ」というスキマバイト
- メルカリの強み ~ 数字で見るスケール
- 弱点1:米国事業の長期低迷
- 弱点2:トラブル・不正取引の絶えない問題
- 弱点3:本業のGMV成長鈍化
- 弱点4:手数料率引き上げの限界
- 弱点5:競合の台頭と差別化の難しさ
- 弱点6:高価格帯カテゴリーの課題
- 弱点7:プラットフォーム責任の重さ
- 弱点8:景気変動への脆弱性
- 弱点9:新規事業の収益化の不確実性
- 弱点10:物流コストの上昇
- まとめ ~ プラットフォームビジネスの強さと宿命
- 参考資料
はじめに ~ 不要品が一瞬で「商品」になる時代
ふとした瞬間、家の中を見回してみると、使わなくなったものが目に入ります。
着なくなった服、子どもがもう遊ばないおもちゃ、古いゲーム機、買ったけど読まなかった本、押し入れに眠っているブランドバッグ。10年前なら、これらは「捨てるしかない」「リサイクルショップに持っていけば二束三文」というのが当たり前でした。
ところが今は、スマホを取り出してメルカリのアプリを開き、商品の写真を撮って、簡単な説明と価格を書くだけで、数分後には「いいね」が付き、数時間で売れることも珍しくありません。
私自身、引っ越しの前にクローゼットの中を整理して、メルカリで30点ほどの古着を売ったことがあります。3週間ほどで合計4万円ほどになり、「捨てるしかなかったもの」が現金に変わる体験に、率直に感動しました。
このような「個人と個人が直接モノを売り買いする」という体験を、スマホ1台で完結させる仕組みを作ったのが、メルカリです。
2013年7月のサービス開始から、わずか10年で国内取引総額(GMV)は1兆円規模へと成長。2025年6月期第3四半期の流通取引総額は単独で2,923億円、コア営業利益は過去最高を更新中です。
ところが、メルカリのビジネスにも明確な弱点があります。米国事業の苦戦、不正取引・トラブル問題、競合との激しい競争、新規事業の不確実性――。
本記事では、メルカリのC2Cプラットフォームモデルがなぜここまで成功できたのか、そしてどのような弱点を抱えているのかを、最新の業績データを踏まえて掘り下げていきます。
C2Cプラットフォームとは何か
まず、メルカリのビジネスモデルを理解する前提として、「C2Cプラットフォーム」という概念を整理しておきましょう。
C2Cとは「Consumer to Consumer」の略で、個人と個人が直接取引するビジネス形態を指します。
これに対し、B2Cは「Business to Consumer」、つまり企業から個人への販売です。Amazonや楽天市場(直営部分)、ユニクロ、ニトリなどは基本的にB2Cです。
C2Cの典型例は、ヤフオク!、メルカリ、ラクマなどのフリマアプリ・オークションサイトです。eBayも代表的なC2Cプラットフォームです。これらは「個人と個人をつなぐ場所」を提供し、取引手数料で稼ぐビジネスモデルです。
C2Cプラットフォームのビジネスの強みは、「自社で在庫を持たない」「自社で物流をしない」(メルカリ便など物流提携はあるが、配送は外部)「自社で商品開発しない」という点にあります。
プラットフォーム運営者は、システム開発、ユーザーサポート、決済代行、配送提携、ブランディング、マーケティングを担えばよく、巨大な物流倉庫や工場、生産設備は基本的に必要ありません。
これは極めて利益率の高いビジネスモデルになり得ます。ただしその前提として、「ユーザー数の臨界点」を突破する必要があります。出品者がいない場所には買い手は来ません。逆に、買い手のいない場所には出品者も集まりません。「ニワトリと卵」の問題を、どう解決するかが鍵です。
メルカリはこの問題を、テレビCMによる大規模なユーザー獲得、シンプルなUI/UX、徹底した本人確認・トラブル対応、メルペイ・あとばらいなど決済システムの整備、提携配送(メルカリ便)の充実、といった多面的な施策で解決してきました。
メルカリの歴史 ~ 10年で1兆円規模へ
メルカリは2013年2月に山田進太郎氏、富島寛氏、石塚亮氏らによって創業されました。
山田進太郎氏は、楽天創業時に参画した経験を持つ起業家で、2001年に「ウノウ」を創業し、写真共有サービス「フォト蔵」やソーシャルゲームを手がけた後、Zyngaに会社を売却。世界一周の旅から帰国した後、メルカリを創業します。
山田氏は、「世界中のあらゆる場所で、誰でも安全・簡単にモノが売り買いできるサービスを作りたい」というビジョンを持っていました。当時すでにヤフオク!というオークションサイトはありましたが、PCベースが主流で、スマホで気軽に使えるサービスではありませんでした。
メルカリは2013年7月、Android版・iOS版を同時にリリース。スマホ専用アプリとして、徹底的に使いやすさにこだわりました。
特に革新的だったのが、「写真を撮るだけで出品できる」というUIです。商品の写真をスマホで撮影し、価格と簡単な説明を入力するだけで出品が完了。これがそれまでのオークションサイトの面倒さを一気に解消しました。
サービス開始からわずか1年で、ダウンロード数は400万を突破。2014年5月にはフジテレビの人気番組「テラスハウス」出演者を起用したテレビCMを開始し、認知度が爆発的に拡大しました。
その後も、メルカリは年率数十%という驚異的なペースで成長を続けます。2018年6月には東証マザーズ(現グロース市場)に上場し、初値時価総額は7,000億円を超え、一時はメガベンチャーの代表格となりました。
2023年6月期には国内GMVが1兆円を突破。創業からわずか10年で、日本の流通史に残る規模のサービスに成長したのです。
メルカリの収益構造
メルカリの収益構造を、もう少し詳しく見ていきましょう。
メルカリの売上は、大きく以下のセグメントに分かれます。
第一に、Marketplace(マーケットプレイス)事業。これがメルカリの中核事業で、フリマアプリ「メルカリ」の取引から得られる手数料収入です。
販売手数料は、商品が売れたときに販売価格の10%を売主から徴収します。商品が1,000円で売れた場合、メルカリは100円を手数料として受け取り、売主には900円が入金されるという仕組みです。
加えて、振込手数料、本人確認サービス、有料広告などからも収入を得ています。
第二に、Fintech(フィンテック)事業。スマホ決済「メルペイ」、後払いサービス「あとばらい」、クレジットカード「メルカード」などの金融サービスです。メルカード(2022年11月開始)が好調で、Fintech事業は成長を続けています。
第三に、US(米国)事業。「Mercari」として米国で展開しているC2Cアプリです。日本と同じビジネスモデルで運営されていますが、現地市場では苦戦が続いています。
第四に、新規事業として「メルカリ ハロ」(2024年3月開始のスポットワークサービス)、「メルカリShops」(BtoC向けプラットフォーム)など、メルカリ経済圏の拡大施策があります。
2025年6月期第3四半期累計の連結売上収益は1,440億6,700万円(前年同期比2.3%増)、コア営業利益は199億8,500万円(同48.7%増)と、利益率の改善が顕著です。
「メルカリエコシステム」というネットワーク効果
メルカリの強さの中核にあるのが、「ネットワーク効果」です。
ネットワーク効果とは、利用者が増えれば増えるほど、サービスの価値が高まる現象です。電話、SNS、フリマアプリなど、多くのプラットフォームに共通する特性です。
メルカリの場合、出品者と購入者が両方とも増えることで、サービス全体の価値が指数関数的に上がります。
出品者から見れば、購入者が多ければ多いほど商品が早く売れる。価格も適正水準で取引が成立する。
購入者から見れば、出品者が多ければ多いほど、欲しい商品が見つかりやすい。希少な商品も検索で発見できる。
このサイクルが回り始めると、競合が新規参入しても太刀打ちできない構造になります。「メルカリにしか出品されていない商品」「メルカリにしか集まらないコレクター」が増えるからです。
さらにメルカリは「メルカリエコシステム」と呼ばれる独自の経済圏を構築しています。
メルカリで売った代金(売上金)は、メルペイ残高として保有でき、これをメルカリ内の購入や、外部のメルペイ加盟店(コンビニ、スーパー、飲食店など)での支払いに使えます。
ユーザーは「自分の財布のお金を使わずに、メルカリの売上金で次の買い物ができる」という快適な体験を得られます。これがユーザーをエコシステム内に留め、繰り返し利用される構造を作り出しているのです。
越境取引とメルカリShopsへの拡張
近年のメルカリは、本業のCtoCに加えて、新しい取引形態を積極的に開拓しています。
まず「越境取引」です。これは、日本のメルカリの商品を海外の購入者が買えるようにする仕組みです。米国、台湾、香港など複数の地域で展開しており、2024年6月期は越境取引のGMVが前期比3.4倍に成長しました。
日本のアニメグッズ、ゲーム、トレーディングカード、ブランド品、ファッション、伝統工芸品など、海外で需要のある日本独自の商品が、メルカリを通じて世界中の購入者に届けられています。
次に「メルカリShops」です。これは、企業や個人事業主が、メルカリ上に「ショップ」を開設して、新品商品を販売できるBtoCプラットフォームです。2021年に開設され、当初はコロナ禍で販路を失った農家や生産者を支援することからスタートしました。
メルカリShopsの2024年6月期のGMVは前期比2.7倍に拡大。ブックオフ、コメ兵、大黒屋などの大手リユース店、食品・飲料メーカー、ファッションブランドなどが続々と出店しており、楽天市場やヤフーショッピングに迫る存在感を見せ始めています。
楽天市場の2024年1~9月期国内EC流通総額が前年同期比5.5%減と苦戦している中、メルカリShopsは急成長しており、メルカリの新たな成長エンジンとして期待されています。
「メルカリ ハロ」というスキマバイト
2024年3月、メルカリは新しいサービス「メルカリ ハロ」を全国で本格展開しました。
これは、いわゆる「スキマバイト」と呼ばれる、隙間時間に短時間労働ができるマッチングサービスです。スポットワーク市場には、すでに「タイミー」が圧倒的なシェアを持っていましたが、メルカリは独自の戦略で参入しました。
メルカリ ハロの強みは、メルカリの1.2億人以上のユーザー基盤を活用できる点です。フリマアプリのユーザーがそのままバイトワーカーとして登録でき、報酬はメルペイ残高として受け取れます。
2024年第1四半期時点で、メルカリ ハロのワーカー登録者数は800万人、パートナー拠点数は12万店舗を突破しています。サービス開始からわずか1年程度で、これだけの規模に達したのは驚異的です。
これは「メルカリエコシステム」をフリマから労働市場へと拡張する戦略です。働く→お金を稼ぐ→メルカリで使う、というサイクルが回ることで、ユーザーのライフタイムバリューがさらに高まる狙いです。
メルカリの強み ~ 数字で見るスケール
メルカリの強みを、もう少し数字で確認してみましょう。
国内MAU(月間アクティブユーザー数)は2,300万人を超え、累計ダウンロード数は1.5億回を突破しています。日本の人口の約2割が、毎月メルカリにアクセスしている計算です。
国内GMVは2023年6月期で9,846億円、2024年6月期には1兆円を突破。これは日本の中古品流通市場(リユース市場規模約2.7兆円)の半分近くを取り込んでいる計算です。
特筆すべきは、リユース品の市場拡大スピードです。日本のリユース市場は環境意識の高まり、Z世代の「サステナブル消費」志向、物価高による節約志向などを背景に、年々10%前後の成長を続けています。
メルカリはこの市場成長の波に乗りつつ、シェアもさらに拡大している好循環にあります。
利益率の高さも特徴です。プラットフォーム事業のため、限界費用がほぼゼロ。コア営業利益率は40%近い水準を維持しています。これは製造業や小売業の利益率(10%未満)と比較して、桁違いに高い水準です。
弱点1:米国事業の長期低迷
メルカリの最大の弱点は、米国事業(Mercari US)の長期にわたる低迷です。
メルカリは2014年から米国に進出し、米国版アプリ「Mercari」を展開してきました。山田CEOは「世界一のフリマアプリを目指す」と宣言し、米国市場攻略に巨額の資金を投じてきました。
しかし、結果は芳しくありません。米国にはeBay、Facebook Marketplace、Poshmark、Depop、OfferUpなど、競合がひしめいています。文化的にも、米国はガレージセール文化はあるものの、スマホでフリマアプリを使う習慣は日本ほど浸透していません。
2024年6月期、米国事業のGMV成長率は前年同期比マイナス圏にありました。販売手数料無料化キャンペーン、人員削減、組織再編など、様々な施策を打ちましたが、決定的な突破口は見出せていません。
2025年6月期にはついにブレイクイーブン(黒字化)を達成したと発表していますが、これは大幅なコスト削減と新手数料モデル導入による短期的成果に近く、本格的な事業拡大には程遠い状況です。
米国事業に投じてきた巨額の資金が、想定通りのリターンを生まなかった点は、メルカリの戦略上の大きな課題です。「日本で成功したサービスは、必ずしも海外で成功するわけではない」という普遍的な真理が、ここに表れています。
弱点2:トラブル・不正取引の絶えない問題
C2Cプラットフォームの宿命的な弱点として、トラブル・不正取引が絶えない点が挙げられます。
メルカリでは、長年にわたって以下のような問題が指摘されてきました。
第一に、商品の品質に関するトラブル。「写真と実物が違う」「壊れていた」「偽物だった」など、商品のコンディションをめぐる売主と買主の認識違いから生じるクレームが発生し続けています。
第二に、無在庫転売。出品者が手元に商品を持たず、Amazonなどから取り寄せて発送する「無在庫転売」が問題化しています。注文を受けてから商品を仕入れるため、配送が遅れたり、別の商品が届いたりするトラブルが発生します。
第三に、盗品流通。万引きされた商品、不正に入手された商品がメルカリで売られる事例が、警察や報道で指摘されてきました。「現金」を直接出品して換金する手法(クレジットカード現金化)も大きな問題となり、規制対応に追われました。
第四に、出品禁止物の流通。法律で禁じられた商品、医薬品、アルコール、武器類、危険物などの違法出品が後を絶ちません。
第五に、誹謗中傷・嫌がらせ。取引相手への低評価コメント、悪質な評価操作、いやがらせなどのトラブルも発生しています。
メルカリはAIによる出品監視、本人確認の厳格化、24時間カスタマーサポート、不正利用者の永久BANなど、対策に膨大なリソースを投じています。しかし、利用者数が爆発的に増える中、トラブルを完全に防ぐのは構造的に困難です。
これは「個人と個人をつなぐ」というC2Cビジネスの根本的な弱点と言えます。B2C型のECモールでは、出品者が法人なので一定の品質保証が期待できますが、C2Cでは「相手が誰なのか分からない」という不確実性が常につきまといます。
弱点3:本業のGMV成長鈍化
近年、メルカリの本業である国内マーケットプレイスのGMV成長率が、明らかに鈍化しています。
2018年頃の年率30~40%の高成長から、近年は一桁台に落ちました。2024年6月期は通期GMV成長率が目標10%に対し9%と、初の目標未達となりました。2025年6月期第3四半期も6%成長と、緩やかな成長ペースに転換しています。
この成長鈍化の理由は、いくつか考えられます。
第一に、市場の成熟。日本の人口の2割以上がすでにMAU利用者となっており、新規ユーザー獲得の余地が縮小しています。
第二に、競合の台頭。ヤフオク!(PayPayフリマ)、楽天ラクマ、PayPayフリマ(旧名)など、競合サービスとのユーザー奪い合いが激化しています。
第三に、出品意欲の頭打ち。多くのユーザーがすでにメルカリで「売れるもの」を出品済みで、新しい出品が減ってきています。
第四に、購買力の制約。物価高により、新しいモノを買うより節約志向が強まっており、中古品市場全体も影響を受けています。
メルカリは「越境取引」「高価格帯カテゴリー強化(ラグジュアリーブランドの鑑定機能など)」「メルカリShops」「メルカリ ハロ」「Fintech」など、多方面の成長施策で対応していますが、本業のCtoC市場の成熟への対応は、長期的な課題です。
弱点4:手数料率引き上げの限界
メルカリの売上は、販売手数料(10%)が中心です。これを引き上げれば売上は増えますが、出品者がメルカリ離れを起こすリスクがあります。
実際、メルカリは2023年4月から、購入者からも一定の手数料を徴収する仕組みを試験導入しましたが、ユーザーからの反発も含めて、影響は慎重に評価されています。
販売手数料を上げすぎると、ユーザーは他のフリマアプリ(ラクマは手数料6%台と安い、ヤフオク!の手数料も比較対象になる)に移行する可能性があります。
C2Cプラットフォームは「ユーザー数×取引額×手数料率」で売上が決まるため、手数料率を簡単に上げられない構造的な制約があります。
弱点5:競合の台頭と差別化の難しさ
C2Cフリマアプリ市場には、メルカリの牙城を脅かす競合が増えています。
ヤフー(LINEヤフー)が運営するPayPayフリマは、PayPay経済圏との連携で急速にユーザーを増やしています。
楽天が運営する楽天ラクマは、手数料の安さと楽天ポイントとの連携を武器にしています。
スポットワーク領域では、競合のタイミーが圧倒的シェアを持ち、メルカリ ハロは追随する立場です。
BtoC ECでは、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Qoo10、SHEIN、Temuなど、巨大プレイヤーがひしめいています。
メルカリShopsは急成長していますが、規模ではまだAmazonや楽天市場には大きく届きません。
「日本でフリマアプリといえばメルカリ」というブランドは強いですが、それぞれの隣接領域では、強力な競合との消耗戦が続いています。
弱点6:高価格帯カテゴリーの課題
メルカリは長らく「日用品・衣類・本など、低価格の中古品」を中心としたプラットフォームでした。1取引あたりの平均単価は1,500~2,000円程度といわれています。
これを高価格帯に拡張しようとすると、いくつかの課題に直面します。
ラグジュアリーブランド(時計、バッグ、ジュエリー)は、「本物か偽物か」という鑑定の問題があります。メルカリは2024年から鑑定サービスを強化していますが、専門のブランド買取・販売サイト(コメ兵、ブランディア、ヴィンテージサウンドなど)と比べると、まだ信頼性で劣ります。
自動車、不動産、芸術品など、超高額商品の取引は、個人間で完結するのが難しく、契約や移転登記などの専門知識が必要です。メルカリのプラットフォーム上では、本格的な取引は困難です。
トレーディングカード(ポケモンカード、遊戯王カードなど)は近年大ヒットしていますが、相場変動が激しく、詐欺や偽造カードのリスクもあります。
高価格帯への拡張は、メルカリのGMV成長の鍵ですが、技術的・信頼性的にハードルが高いのです。
弱点7:プラットフォーム責任の重さ
C2Cプラットフォーム運営者は、ユーザー間のトラブルに対して、社会的・法的責任を求められる場面が増えています。
たとえば、メルカリで違法商品が流通した場合、運営者にも一定の責任が問われます。盗品が流通すれば、警察・捜査機関への協力義務があります。著作権侵害商品、偽ブランド品、危険物などの流通防止は、運営者の責務となっています。
これらの対応には、膨大な人件費とシステム投資が必要です。AIによる出品監視、24時間カスタマーサポート、本人確認システム、不正利用者の検知、警察対応、コンプライアンス強化など、見えないコストが事業を圧迫しています。
特にEU・米国では、プラットフォーム事業者への規制が年々強化されており、欧米市場で事業展開する以上、対応コストはさらに重くなる可能性があります。
弱点8:景気変動への脆弱性
メルカリのビジネスは、消費者の購買力に強く影響されます。
景気が悪化し、可処分所得が減ると、人々はモノを買う頻度を下げます。すると、メルカリでの取引総額も減少します。同時に「不要品を売って小遣い稼ぎ」という需要は逆に増えるため、出品は増えるものの、買い手が減って取引が成立しにくくなります。
逆に景気が良くて新品市場が拡大すると、中古品市場は相対的に縮小する傾向があります。
メルカリのGMVは「景気の良し悪し」と「節約志向」と「サステナブル意識」の3つの綱引きで動いており、外部環境の変化に対する脆弱性があります。
弱点9:新規事業の収益化の不確実性
メルカリは、本業のCtoCフリマの成長鈍化を補うため、次々と新規事業を立ち上げてきました。
メルカード(クレジットカード)、メルペイ(決済)、メルカリ ハロ(スポットワーク)、メルカリShops(BtoC EC)、メルカリビットコイン(暗号資産取引)、越境取引、Mercari US(米国事業)、Mercari Hallo for Business、メルカリAIなど。
これらすべてが成功するわけではありません。米国事業のように長期にわたって苦戦するケースもあれば、まだ収益化が見えない事業も多くあります。
新規事業への投資は、短期的には利益を圧迫します。2024年6月期も、新規事業への投資が利益率を下げる要因となりました。
「投資を続けながら、本業の利益を出し続ける」というバランスは、メルカリ経営の永続的な課題です。
弱点10:物流コストの上昇
メルカリは自社で物流を持ちませんが、ヤマト運輸(らくらくメルカリ便)、日本郵便(ゆうゆうメルカリ便)と提携し、配送サービスを提供しています。
ところが、物流業界の人手不足、ドライバーの労働環境改善(2024年問題)、燃料費上昇などにより、配送料金は年々上昇しています。
メルカリでは「送料込みで価格設定する出品者」が大多数のため、配送料の上昇は実質的に出品者の手取りを圧迫します。配送料が上がるほど、低価格商品は採算が合わなくなり、出品が減るという悪循環があり得ます。
メルカリは「メルカリ ポスト」(街中に設置された配送ボックス)の拡充や、配送料の最適化など、対策を打っていますが、構造的な物流コスト上昇は今後も続く見込みです。
まとめ ~ プラットフォームビジネスの強さと宿命
メルカリのC2Cプラットフォームモデルを、改めて整理しましょう。
強みとしては、スマホファーストの徹底したUI/UX、ネットワーク効果による参入障壁、自社で在庫・物流・製造を持たない高利益率構造、メルカリエコシステム(メルペイ、メルカード、メルカリ ハロ)による顧客ロックイン、越境取引・メルカリShopsなどの拡張領域、AIによる商品レコメンドと不正検知、リユース市場拡大の追い風、累計1.5億ダウンロードという圧倒的なユーザー基盤。
ただし弱点も多数あります。米国事業の長期低迷、トラブル・不正取引が絶えない構造的問題、本業のGMV成長鈍化、手数料率引き上げの限界、競合の台頭(ラクマ、PayPayフリマ、タイミー、Amazon、楽天市場、SHEIN/Temuなど)、高価格帯カテゴリーの課題、プラットフォーム責任の重さ、景気変動への脆弱性、新規事業の収益化の不確実性、物流コストの上昇。
メルカリの本質的な強さは、「個人がモノを売り買いする」という人類最古の商行為を、スマホ時代に再発明した点にあります。
しかしその一方で、C2Cプラットフォームは「個人と個人を直接つなぐ」という性質上、品質保証、トラブル対応、不正対策、責任問題など、永続的な課題を抱えています。
私たちが何気なく行う「不要品をメルカリで売る」「掘り出し物を買う」という日常的な行為。その背後には、複雑なAIシステム、24時間体制のカスタマーサポート、配送ネットワーク、決済システム、本人確認、コンプライアンス対応など、膨大なインフラが動いています。
メルカリの今後を左右するのは、「日本の成熟市場でいかに新しい価値を生み出すか」「海外市場で本格的に勝てるモデルを確立できるか」「Fintechや新規事業を本業に匹敵する規模に育てられるか」――この3つの問いへの答えです。
ビジネスを設計する人にとって、メルカリの事例は「ネットワーク効果の威力」「プラットフォームビジネスの利益率の高さ」「日本発のサービスが世界で勝つことの難しさ」「成熟市場での新規事業展開の必要性」という、多面的な教訓を提供してくれます。
次にメルカリのアプリを開いたときは、その背後にある10年間の積み重ねと、世界を変えようとした起業家たちの挑戦に、ほんの少し思いを馳せてみてください。
参考資料
- 株式会社メルカリ「2025年6月期 第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」https://about.mercari.com/ir/
- 株式会社メルカリ「FY2025.6 1Q 決算説明資料」https://pdf.irpocket.com/C4385/LXNk/vDVU/VCqm.pdf
- Circular Economy Hub「メルカリ、第3四半期コア営業利益が前年同期比85%増、過去最高を更新」https://cehub.jp/news/mercari-ir-20253q/
- Impress Watch「メルカリ、『高価格帯』強化へ 堅調な日本事業、USは反転せず」https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1615860.html
- WWDJAPAN「創業10年で国内流通総額1兆円!『メルカリ』から始まる新しい経済圏」齊藤孝浩氏 https://www.wwdjapan.com/articles/1640204
- 日本ネット経済新聞「【飛躍する『メルカリShops』】モール3強に迫れるか/GMVは前期比2.7倍に成長」https://www.bci.co.jp/netkeizai/article/16310
- FASHIONSNAP「大手EC取り込み急伸する『メルカリ』のECプラットフォーム その強みと弱み」https://www.fashionsnap.com/article/2025-05-01/b2c-c2c-mercari/
- 東洋経済オンライン「『メルカリ』、米国進出で一気に勝負へ 激闘C2C市場最前線を追う」山田進太郎氏インタビュー https://toyokeizai.net/articles/-/46409
- スタートアップドライブ「【上場企業決算分析】メルカリの最新決算・事業内容・業績・歴史を徹底解説」https://legaltec.jp/mercari-info/
- Funda Navi「業種別の決算書の読み方!-プラットフォームの貸借対照表編-」https://navi.funda.jp/article/coconala-mercari-jmty
- 国民生活センター・消費者庁 メルカリ関連消費者トラブル相談事例
- 日経クロストレンド、日経MJ、Bloomberg等の関連報道記事
- 山田進太郎『メルカリ希望と挑戦 メルカリと、未来をつくる仲間たち』2018年関連書籍

