ライザップグループの結果コミット×chocoZAP×ライフスタイルモデル ~ 194億円赤字からV字回復、月額2,980円で日本最大のジム会員数を達成~

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はじめに ~ 「結果にコミットする。」から「ちょこっと運動」へ

「結果にコミットする。」――2012年、衝撃的なテレビCMで日本中に知られた、パーソナルトレーニングジム「RIZAP」。Before-Afterの体型変化、専属トレーナーの徹底指導、2ヶ月で35万円超という高額な料金――。「本気で身体を変えたい人」のための、極端なサービスでした。

そして10年後の2022年、同じRIZAPグループから「chocoZAP(ちょこざっぷ)」という、まったく対照的なジムが登場しました。月額2,980円、無人セルフサービス、24時間営業、トレーナーなし、コンビニ感覚で「ちょこっと運動」できる。

私の友人にもchocoZAPに通う人がたくさんいます。「ジムに通うほどではないけど、運動はしたい」「家から徒歩5分」「マシンが空いていればいつでも行ける」――まさに、ジム業界のコンビニ化を実現したサービス。

chocoZAPの会員数は、2024年8月時点で126万人。店舗数1,500店超。サービス開始からわずか2年で、日本最大のフィットネスジムチェーンに躍進しました。

RIZAPグループ株式会社(証券コード2928、東証グロース)の2024年3月期業績は、売上収益1,663億円(前期比+7.6%)。chocoZAPがV字回復を牽引。

しかし、ライザップグループの財務状況は依然として厳しい。自己資本比率12.4%(2024年)、9.9%(2023年)。chocoZAPの急成長に伴う設備投資・広告宣伝費の負担、新規出店費による赤字計上。

2019年3月期には194億円の最終赤字を経験したRIZAPグループ。瀬戸健社長は、過去2回の最終赤字から構造改革を進め、chocoZAPでV字回復を実現。

しかし、現在も複数の弱点を抱えています。自己資本比率の低さ、退会率、競合の追撃、多角化失敗の影響、ESG課題――。

本記事では、ライザップグループの「結果コミット×chocoZAP×ライフスタイル」モデルを多角的に分析し、その独自の強さと、現代に直面する弱点の両面に迫ります。

ライザップの歴史 ~ 健康コーポレーションから瀬戸健の挑戦

ライザップの起源は、2003年、瀬戸健氏が設立した「健康コーポレーション株式会社」です。当初は健康食品・通販事業。

2012年2月、東京都新宿区に「RIZAP(ライザップ)」1号店をオープン。「結果にコミットする。」をキャッチフレーズに、専属トレーナーによる完全個別指導のパーソナルトレーニングジム。

2012年からのテレビCMが大反響。Before-Afterの体型変化を訴求する衝撃的な広告で、急成長。

2014年、東証JASDAQ上場。

2010年代後半、瀬戸社長は積極的なM&A戦略を展開。複数の経営不振企業を買収して再建を図る「事業再生」モデルを推進。

主な買収・連結子会社:

  • アンティローザ(婦人服)
  • タツミプランニング(住宅)
  • 日本文芸社(書籍出版)
  • パスポート(現HAPiNS、雑貨)
  • SDエンターテイメント(ゲオディノス、ボウリング場等)
  • 三鈴(婦人服飾雑貨)
  • 多数のM&A実施

2018年、ライザップグループは経営不振企業の急速な買収で「事業再生工場」と呼ばれましたが、買収企業の業績が想定通り改善せず、グループ全体の業績が悪化。

2019年3月期、194億円の最終赤字を計上。

2019年、構造改革を開始:

  • 不採算事業の整理
  • 役員報酬削減
  • 経費の徹底削減
  • M&Aを抑制
  • コア事業(フィットネス)への集中

2021年3月期、V字回復で営業黒字復帰。

2022年7月、コンビニジム「chocoZAP(ちょこざっぷ)」1号店オープン。

2023年8月、chocoZAP会員数80万人で日本一に到達。

2024年5月、chocoZAP会員数120万人超。店舗数1,500店超。

2024年6月、SOMPOホールディングスとの資本業務提携発表。

2024年9月、「RIZAPマーケティングコンサル」事業開始。

ライザップのビジネスモデル ~ 3つの事業セグメント

ライザップグループのビジネスモデルは、3つの事業セグメントから成り立っています。

第一に、「ヘルスケア・美容セグメント」(メインセグメント)。

  • chocoZAP(ちょこざっぷ):低価格コンビニジム、月額2,980円
  • RIZAP(ライザップ):パーソナルトレーニングジム、2ヶ月35万円超
  • RIZAPゴルフ、RIZAPイングリッシュ:英会話、料理教室
  • 健康食品、サプリメント
  • 体型補正用下着、化粧品
  • シニアプログラム(2ヶ月約30万円):身体機能向上、体力年齢改善
  • 法人向け健康プログラム

第二に、「ライフスタイルセグメント」。

  • アパレル:アンティローザ、三鈴
  • 雑貨:HAPiNS(旧パスポート)
  • インテリア:タツミマネジメント
  • スポーツ用品
  • エンターテインメント:ゲオディノス(ボウリング、カラオケ等)
  • 書籍出版:日本文芸社
  • リユース事業

第三に、「インベストメントセグメント」。

  • グループ会社間でのシナジーを支える機能会社群
  • フィットネス、アパレル、宝飾品等、ヘルスケア・ライフスタイル両セグメントに資するサービス

主力は「ヘルスケア・美容」セグメントで、特にchocoZAPが急成長中。

chocoZAP ~ 「ちょこっと運動」革命

ライザップグループの近年の急成長の中心は、「chocoZAP(ちょこざっぷ)」です。

chocoZAPのコンセプト:

  • 「スキマ時間に手軽に運動できるコンビニジム」
  • 月額2,980円(税抜)の低価格
  • 24時間営業
  • 無人セルフサービス(トレーナーなし)
  • アプリで入退室管理
  • スマホで予約・利用可能
  • 服装自由(運動着不要)

特徴的なサービス:

  • 標準的なフィットネスマシン
  • セルフエステマシン
  • 脱毛マシン
  • セルフホワイトニング
  • マッサージチェア
  • カラオケ(一部店舗)
  • 洗濯・乾燥機(一部店舗)
  • 漫画コーナー(一部店舗)

つまり、「ちょっと運動」「ちょっとエステ」「ちょっと脱毛」「ちょっとリラックス」を、1つの月額で楽しめる、極めて多機能な施設。

「フィットネスジム」というより、「町のサブスク(ライフスタイルプラットフォーム)」というポジショニング。

chocoZAPの実績:

  • 2022年7月:サービス開始
  • 2023年3月末:会員数35万人、店舗数479店
  • 2023年8月:会員数80万人で日本一達成
  • 2024年5月:会員数120万人超
  • 2024年8月:会員数126万人
  • 2024年8月:店舗数1,500店超
  • 全都道府県への出店達成
  • 退会率:2022年7月比60%程度まで改善

四半期売上:約90億円 営業利益率:約30% 年間営業利益見込み:約100億円(2025年3月期時点)

「結果にコミット」の対極にあるサービス

chocoZAPは、RIZAP(パーソナルトレーニングジム)の対極にあるサービスです。

RIZAPの特徴:

  • 「結果にコミットする。」
  • 完全個別のパーソナルトレーニング
  • 専属トレーナーによる徹底指導
  • 2ヶ月35万円超の高額
  • Before-Afterの劇的な体型変化
  • 食事制限・指導
  • メンタルサポート

chocoZAPの特徴:

  • 「結果にコミットしない(コンセプト的に)」
  • セルフサービス、トレーナーなし
  • 月額2,980円の超低価格
  • 「ちょこっと運動」が目的
  • スキマ時間活用
  • 服装自由、24時間

「結果にコミットしないコンビニジム」――この大胆な発想の転換が、ライザップグループのV字回復を支えました。

ライザップ瀬戸健社長は「進むも引くも地獄だった」と語っています。2019年の194億円赤字後、コア事業(フィットネス)への集中と、その中での新業態(chocoZAP)への大胆な賭けが、見事に成功しました。

加えて、chocoZAPからRIZAPボディメイク(本格パーソナル)への入会というポジティブなスパイラルも構築されてきています。

ローコスト運営とAIカメラ活用

chocoZAPの月額2,980円という低価格を実現する仕組みは、徹底的なローコスト運営です。

主なローコスト要素:

第一に、無人運営。トレーナー・受付スタッフを置かない。アプリで入退室・予約管理。

第二に、視認性の良い路面店中心の立地。当初は1階路面店、認知度上昇後は空中階(2階・地下)にも出店。

第三に、AIカメラの活用。店舗内のAIカメラで利用状況を自動解析。マシンの種類・台数の最適化、混雑状況のリアルタイム把握、不正利用の検知。

第四に、アプリでの徹底的なエンゲージメント。1週間来館がなかった会員に対し、アプリで来館を促すポップアップ画面表示。

第五に、店舗運営の標準化。マシン・什器・内装の徹底標準化で、新規出店コスト削減。

これらの仕組みで、月額2,980円という日本最安級の料金を実現しつつ、営業利益率約30%という、フィットネス業界では稀有な高収益体質を構築しています。

加えて、chocoZAPの広告マーケティングは、膨大な販促費を投じて4,000以上のバナーを作成し、Google、Yahoo!、Microsoft、SNS広告、YouTubeなど多数のチャネルに広告出稿。ABテストを繰り返すことで顧客獲得コストを最適化しています。

SOMPO HD提携とマーケティングコンサル事業

ライザップグループの新たな成長エンジンとなる事業展開も加速しています。

第一に、SOMPOホールディングスとの資本業務提携(2024年6月発表)。

  • chocoZAP ステーション(法人向け福利厚生サービス)
  • Growbase(クラウド型健康管理システム、継続率99.8%)
  • 従業員1人あたり月額1,000円(税別)の破壊的価格設定
  • 法人会員数の積み増し、広告宣伝費削減

第二に、「RIZAPマーケティングコンサル」事業(2024年9月発足)。

  • 完全成果報酬型マーケティング運用代行サービス
  • 初期費用・広告費0円で開始可能
  • マーケティング戦略設計、クリエイティブ制作、広告出稿
  • 「企業は変われる。」をコンセプト
  • 3ヶ月のテストマーケティング後、本契約

chocoZAPの急成長で培ったマーケティングノウハウ(4,000以上のバナー、多チャネル広告運用、ABテスト等)を外部企業に提供することで、新たな収益源を構築しています。

第三に、シニアプログラム。

  • 2ヶ月約30万円
  • 身体機能向上、体力年齢改善
  • 「人生100年時代」「健康寿命延伸」ニーズ対応

これらの新事業により、ライザップグループは「フィットネスジム会社」から「総合健康・ライフスタイル企業」への進化を目指しています。

業績の推移 ~ V字回復の軌跡

ライザップグループの近年の業績推移を整理しておきましょう。

2019年3月期:

  • 最終赤字 194億円
  • M&A戦略の失敗
  • 経営危機

2020年3月期~2022年3月期:

  • 構造改革断行
  • 不採算事業整理
  • V字回復

2023年3月期:

  • 自己資本比率 9.9%
  • chocoZAP事業の先行投資期間

2024年3月期:

  • 売上収益 1,663億円(前期比+7.6%)
  • 自己資本比率 12.4%
  • 営業損益 28億円赤字(前年同期は29億円赤字)
  • chocoZAP会員数 120万人超

2025年3月期:

  • chocoZAP四半期売上 90億円
  • chocoZAP営業利益率 約30%
  • chocoZAPの会員数 126万人
  • 出店スピード調整、既存会員満足度向上にシフト
  • マーケティングコンサル事業開始
  • SOMPO HD提携

2026年3月期目標:

  • chocoZAPで約200億円の営業利益達成必要
  • 中期経営計画達成のカギはchocoZAP

財務指標:

  • 総資産:1,571億円(2024年)
  • 自己資本:195億円(2024年)
  • 自己資本比率:12.4%(依然として低水準)

弱点1:自己資本比率の低さ

ライザップグループの最大の財務的弱点は、自己資本比率の低さです。

自己資本比率の推移:

  • 2020年:13.5%
  • 2021年:16.6%
  • 2022年:19.1%
  • 2023年:9.9%(最低)
  • 2024年:12.4%

一般的に、上場企業の自己資本比率は30-50%が健全とされます。ライザップグループは10%台前半という、極めて低い水準。

低い自己資本比率の意味:

  • 借入金への過度な依存
  • 金利上昇時の影響大
  • 大きな投資余力の制約
  • 株価ボラティリティの高さ
  • 投資家からのリスクプレミアム要求

chocoZAPの急成長に伴う設備投資(新規出店、マシン購入、広告宣伝)が、自己資本比率を低下させている要因。

成長を持続可能にするための財務戦略の見直しが、長年の課題です。

弱点2:chocoZAPへの過度な依存

ライザップグループの近年の業績好調は、chocoZAP一本足打法に近い構造です。

chocoZAPの位置付け:

  • 四半期売上90億円(年間約360億円ペース)
  • 営業利益率30%
  • 年間営業利益約100億円
  • ライザップグループ売上の約30%

chocoZAP以外のRIZAP関連事業(パーソナルトレーニングジム、料理教室、英会話、ゴルフ等)は、近年マイナス成長。

リスク:

  • chocoZAPブームが落ち着いたら?
  • 競合の追撃で会員流出したら?
  • 月額2,980円の値上げが必要になったら?
  • 設備投資の回収が遅れたら?

ライザップグループの2026年3月期および2027年3月期の営業利益目標達成には、chocoZAPで約200億円の営業利益(現状の2倍)が必要。これは、出店数増加・会員数増加・客単価上昇のすべてが順調に進む前提です。

弱点3:競合の追撃

chocoZAPの低価格コンビニジム市場には、強力な競合が参入しています。

主要競合:

  • カーブス:店舗数2,000以上、月額7,000円台(女性専用フィットネス)。2024年8月期の物販売上220.6億円(全体売上の6割)。
  • JOYFIT FIT365:月額2,980円、24時間。chocoZAPと同価格帯。
  • エニタイムフィットネス:会員数78万人、24時間ジム
  • ゴールドジム、コナミスポーツ、セントラルスポーツ:従来型ジム
  • 自治体の公共スポーツ施設

加えて、新興競合:

  • AIフィットネスアプリ
  • オンラインヨガ・パーソナルトレーニング
  • 家庭用フィットネス機器(Peloton、Mirror、Apple Fitness+等)

「月額2,980円のコンビニジム」というポジションは、参入障壁が比較的低く、競合が増えれば価格競争が激化するリスク。

弱点4:退会率の課題

フィットネスジム業界の永遠の課題が、「退会率」です。

ジム会員の典型的なパターン:

  • 入会直後の3ヶ月は通う(モチベーション高い時期)
  • 半年後には頻度が低下
  • 1年後には大半が退会または「幽霊会員」(払うが行かない)

chocoZAPは退会率を2022年7月比60%程度まで改善(来館アプリ通知、AIカメラ最適化等で)したものの、それでも継続率は完全ではありません。

新規会員獲得:

  • 多額の広告宣伝費が必要
  • 顧客獲得コスト(CAC)の上昇傾向
  • 「穴の開いたバケツに水を注ぐ」リスク

会員継続率の向上が、ライザップグループの長期的な成長の鍵。

弱点5:過去のM&A失敗の影響

ライザップグループは、2010年代後半に積極的なM&A戦略を展開しましたが、結果として194億円赤字を招きました。

失敗した買収案件の一部:

  • 多数の経営不振企業の買収
  • 買収後の改善が想定通り進まず
  • グループ全体のシナジーが薄かった
  • 経営資源の分散

これらの買収企業(アパレル、雑貨、書籍、エンタメ等)は、現在も「ライフスタイルセグメント」「インベストメントセグメント」として存続していますが:

  • 円安・原材料高で収益悪化
  • 主力事業(chocoZAP)への注力で相対的軽視
  • 一部事業の整理・売却検討

「事業再生工場」モデルの教訓は、ライザップグループの構造改革の根底にあります。

弱点6:パーソナルトレーニング市場の頭打ち

RIZAP(本家パーソナルトレーニングジム)の業績も、近年は伸び悩み傾向です。

RIZAPの課題:

  • 累計会員数18万人超(2024年8月時点)
  • 2ヶ月35万円超という高額
  • 体型改善以外のニーズ(健康、スポーツ、メンタル等)への対応
  • 競合パーソナルジム(24/7Workout、ELDORADO、Apple GYM、BEYOND等)の台頭

加えて、コロナ後の運動意識変化、家庭での運動の普及(YouTubeフィットネス動画、Apple Fitness+等)で、「ジムに通う必要性」自体が問われる時代に。

RIZAPは「シニアプログラム」(2ヶ月30万円)、法人向けプログラムなどで新規市場開拓を進めていますが、本家RIZAPの成長は限定的です。

弱点7:ESG・サステナビリティ対応

ライザップグループも、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが求められています。

環境:

  • 1,500店超の店舗の電力消費
  • マシン・什器の廃棄物
  • 24時間営業のエネルギー効率

社会:

  • スタッフ(chocoZAPは無人だが、本部・メンテナンスは必要)の労働環境
  • 顧客の安全管理(無人ジムでのトラブル対応)
  • 多様性

ガバナンス:

  • 取締役会の構成
  • 創業者(瀬戸健社長)への依存度
  • 過去のM&A戦略への反省と再発防止
  • 自己資本比率の低さに対する説明責任

ライザップグループのESG情報開示は、まだ業界平均並み。グローバル機関投資家からの評価は限定的です。

弱点8:創業者・瀬戸健社長への依存

ライザップグループは、創業者・瀬戸健社長への依存度が極めて高い企業です。

瀬戸社長の経歴:

  • 1978年生まれ
  • 2003年、健康コーポレーション(後のライザップグループ)創業
  • 2012年、RIZAP立ち上げ
  • 2019年、194億円赤字を経て構造改革
  • 2022年、chocoZAP立ち上げ
  • 現在、ライザップグループのほぼ全ての主要戦略判断を主導

瀬戸社長のリーダーシップが、ライザップグループの成功・失敗のすべてに影響しています:

  • 良い面:迅速な意思決定、大胆な転換、創業者ビジョン
  • 悪い面:個人依存リスク、後継者問題、ガバナンス課題

瀬戸社長は1978年生まれ、現在40代後半。10年後、20年後の後継者育成が、長期的な課題です。

弱点9:「町のサブスク」戦略の限界

ライザップグループは、chocoZAPを「町のサブスク(ライフスタイルプラットフォーム)」へと進化させる戦略を進めています。

chocoZAPで「ちょっと運動」「ちょっとエステ」「ちょっと脱毛」「ちょっとカラオケ」「ちょっと洗濯」――これらすべてが月額2,980円で楽しめる。

しかし、この「何でもあり」戦略には、複数のリスク:

第一に、本業(フィットネス)の希薄化。「ちょこっと運動」が中心メッセージなのか、「ちょこっと脱毛」が中心メッセージなのか、ブランドの軸がぼやけるリスク。

第二に、各サービスの専門性低下。エステ、脱毛、ホワイトニング等は、それぞれ専門サロンの方が高品質。

第三に、追加投資コスト。各種マシン・什器の追加投資が、利益率を圧迫。

第四に、「サブスク疲れ」。月額制サービスが乱立する現代、消費者の解約意欲が高まる傾向。

弱点10:金利上昇と財務リスク

ライザップグループの自己資本比率12.4%という低水準は、金利環境の変化に対して脆弱です。

リスク要因:

  • 日銀の金融政策正常化(マイナス金利解除、金利引き上げ)
  • 長期金利上昇
  • 借入コストの上昇
  • 設備投資の回収期間長期化

ライザップグループは:

  • 2024年に借入の活用による資金調達
  • 営業キャッシュフロー98億円(2024年)
  • 投資キャッシュフロー-136.9億円(2024年):chocoZAP急拡大の影響

投資キャッシュフローの大幅マイナスは、chocoZAPの急拡大に伴う設備投資・新規出店の影響と考えられます。投資回収の見込みと成長の持続可能性を慎重に評価する必要があります。

金利上昇が続けば、ライザップグループの財務戦略は、より厳しい局面を迎える可能性があります。

まとめ ~ 194億円赤字からの逆襲

ライザップグループの結果コミット×chocoZAP×ライフスタイルモデルを、改めて整理しましょう。

強みとしては、chocoZAP会員数126万人(日本最大級フィットネス)、店舗数1,500店超、全都道府県出店達成、月額2,980円という日本最安級の価格、無人セルフサービス・24時間営業、AIカメラ活用の運営最適化、4,000以上のバナーを使った高度なマーケティング、RIZAP(本家)累計会員18万人超のブランド力、「結果にコミットする。」というキャッチコピー、シニアプログラム(2ヶ月30万円)、SOMPO HD資本業務提携(2024年6月)、Growbase(クラウド型健康管理、継続率99.8%)、RIZAPマーケティングコンサル事業(2024年9月開始)、瀬戸健社長のリーダーシップ、2019年194億円赤字からのV字回復、退会率2022年比60%改善、創業2003年からの20年以上の経営蓄積。

ただし弱点も多数あります。自己資本比率12.4%の低さ、chocoZAPへの過度な依存(一本足打法)、競合の追撃(カーブス、JOYFIT、エニタイムフィットネス等)、退会率の課題(フィットネス業界共通)、過去のM&A失敗の影響(経営不振企業の買収)、パーソナルトレーニング市場の頭打ち、ESG・サステナビリティ対応、創業者・瀬戸健社長への依存、「町のサブスク」戦略の限界(ブランドのぼやけ)、金利上昇と財務リスク。

ライザップグループの本質的な特徴は、「194億円赤字からのV字回復」という、極めて稀有な企業再生ストーリーにあります。

「結果にコミットする。」という高額パーソナルジムから、「結果にコミットしない」コンビニジムへ――この大胆な発想の転換が、ライザップグループを救いました。「コア事業に集中する」「価格と利便性を究極まで追求する」「無人運営でローコスト化する」「マーケティング科学を徹底的に活用する」という戦略の組み合わせが、月額2,980円・会員126万人という驚異的な成果を生みました。

私たちが何気なく通うchocoZAPの店舗、月額2,980円で利用できるマシン、洗濯・乾燥機、カラオケ、エステ、脱毛、ホワイトニング――これらすべての背後には、瀬戸健社長の20年の挑戦、2回の最終赤字を経た構造改革、4,000以上の広告バナー、AIカメラによる運営最適化、SOMPO HDとの提携、そして「人は変われる。」というRIZAPグループの理念――これらすべてが結晶しています。

ビジネスを設計する人にとって、ライザップグループの事例は「事業再生(V字回復)の実例」「対極的なサービス展開(RIZAP×chocoZAP)」「ローコストオペレーションの威力」「無人運営×AI活用の実践」「マーケティングコンサル事業への横展開」「逆風時の集中戦略」「巨額赤字からの学び」――多面的な教訓を提供してくれます。

10年後、chocoZAPはまだ日本最大のフィットネスチェーンであり続けているでしょうか。RIZAPはどう進化しているでしょうか。自己資本比率は健全化しているでしょうか。瀬戸健社長は何代目に承継しているでしょうか――。それは、現代日本のヘルスケア業界における興味深いテーマの一つです。

参考資料

  • RIZAPグループ株式会社 公式IRサイト https://www.rizapgroup.com/ir/
  • 大阪取引所「RIZAPグループ(2928)企業調査レポート」(2024年7月2日)https://www.sse.or.jp/wp-content/uploads/2024/07/07a84ff6b2053e2c208eeedadbd28f21.pdf
  • フィスコ「RIZAPグループ レポート」https://www.fisco.co.jp/wordpress/wp-content/uploads/FISCO/rizap20240606.pdf
  • note「RIZAPグループの成長戦略:chocoZAPの急拡大と財務の課題を徹底分析」https://note.com/career_marke/n/na7e396e1fd12
  • 日経ビジネス「ライザップ、赤字からチョコザップでV字回復 持続的な回復続くか」https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/063000840/
  • 日本経済新聞「RIZAPグループが最終赤字28億円 4〜6月決算、チョコザップ新規出店費重荷」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG1476T0U4A810C2000000/
  • フェリチエ「チョコザップ(chocoZAP)のビジネスモデル解説」https://www.felicite-kobe.net/column/archives/10863
  • PRTimes「完全成果報酬型、初期費用・広告費0円で開始可能RIZAPマーケティングコンサル事業2024年9月発足」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000226.000030866.html
  • note「RIZAPグループの逆襲『chocoZAPの快進撃』Part4」YOSHI https://note.com/yoshi993/n/ncc1aaa13a43c
  • Business Insider Japan「『ちょこざっぷ』会員数が1年で日本一の80万人に」https://www.businessinsider.jp/post-273948
  • 瀬戸健『結果にコミットする「ライザップ」式 自分を変える教科書』
  • カーブス、エニタイムフィットネス、JOYFITなど競合企業の公式情報
  • SOMPOホールディングス公式情報
  • 日本経済新聞、東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンライン、Bloomberg等のライザップグループ関連報道
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