- はじめに ~ いつの間にか、街中に増えていた
- ワークマンの歴史 ~ 作業服店からの出発
- 客層拡大という発想転換
- 「ワークマンプラス」の誕生
- FC(フランチャイズ)モデルの特徴
- 「しない経営」の哲学
- データ経営 ~ Excel経営の真髄
- ブランド展開 ~ 多業態で20年戦う
- 業績 ~ 急成長と踊り場
- 弱点1:アウトドアブーム終焉への依存
- 弱点2:客層拡大によるブランド混乱
- 弱点3:個人FC(家族経営)モデルの限界
- 弱点4:データ経営の浸透度
- 弱点5:円安・コスト上昇への脆弱性
- 弱点6:競合の台頭
- 弱点7:女性客戦略の難しさ
- 弱点8:店舗網拡大の物理的限界
- 弱点9:海外展開の遅れ
- 弱点10:消費者の値ごろ感の変化
- まとめ ~ 空白市場の発見者が、次の段階に進めるか
- 参考資料
はじめに ~ いつの間にか、街中に増えていた
数年前まで、私の中で「ワークマン」といえば、現場仕事をする職人さんの店という印象でした。汚れにくい作業着、安全靴、ヘルメット、防寒着――そういったプロ向けの実用品を売る店、というイメージです。
ところが気が付くと、街中のショッピングモールに「ワークマンプラス」というおしゃれな看板が掲げられ、休日には若いカップルや子連れファミリーが買い物カゴを片手に並んでいるのを目にするようになりました。
「あれ、ワークマンってこんな店だったっけ?」――そんな違和感を覚えたのは、私だけではないはずです。
ワークマンは2018年に「ワークマンプラス」という新業態を立ち上げ、職人さん向けの作業服を、そのまま一般消費者向けにブランディングし直して大ヒットさせました。「機能性アウトドアウェアが破格の安さで買える店」として、SNSやテレビで一躍話題になり、2010年代後半から2020年代前半にかけて、急成長を遂げます。
ところが2024年3月期は、9年ぶりに既存店売上高が前年割れ。2年連続の営業減益となり、「ワークマン挫折」という言葉まで業界紙に踊るようになりました。
成功と試練が交錯するワークマンのビジネスモデルとは、どのようなものなのでしょうか。本記事では、ワークマンの「空白市場の発見」「FCモデル」「しない経営」「データ経営」「ブランド展開」を多角的に分析しつつ、最近の業績失速の背景にある「ビジネスモデルの弱点」も率直に掘り下げていきます。
ワークマンの歴史 ~ 作業服店からの出発
ワークマンは1980年、群馬県伊勢崎市に1号店として開業しました。
母体はベイシアグループ(カインズ、セーブオン、ベイシアなどを擁する流通グループ)です。創業者の土屋嘉雄氏は、「全国の職人さんに、ベストコストパフォーマンスの作業服を届けたい」という思いから、ワークマンを立ち上げました。
当初のターゲットは明確でした。建設現場、工場、運送業、農業、漁業、清掃業など、屋外や肉体労働に従事する職人さんたちです。耐久性、機能性、コストパフォーマンスを最優先した作業服を、ローコストで提供する――これが創業時のビジネスモデルでした。
ワークマンは順調に店舗を拡大し、2000年代には全国に数百店舗を展開する大手作業服チェーンに成長しました。2014年時点で売上高は約500億円、店舗数は600店超に達しました。
ただし、この成功には限界が見えていました。日本の作業服市場は約1,000億円規模で、ワークマンはすでにそのシェアの大部分を握っていました。職人人口は少子高齢化で減少する一方で、放っておけば「あと数年で市場を取り尽くしてしまう」という危機感が、経営陣の中で芽生えていたのです。
客層拡大という発想転換
2014年、ワークマンの転換点が訪れます。三井物産から土屋哲雄氏(土屋嘉雄会長の甥)が転職し、専務取締役として経営に加わりました。土屋哲雄氏は、三井物産時代にデジタル事業に携わった経験から、データ分析と戦略立案の専門家でした。
土屋哲雄氏が着目したのは、「ワークマンの商品は、作業服としてだけでなく、一般消費者にも訴求できるのではないか」という仮説でした。
調べてみると、ワークマンの店舗には、すでに一定数の一般消費者が来店していました。バイク愛好家、釣り好き、キャンパー、ガーデニング趣味の人、DIY愛好家、犬の散歩中に作業服の機能性に注目した主婦――こうした「アウトドア・ホビー層」が、職人さんに紛れて作業着の機能性を評価し、購入していたのです。
土屋氏はここに大きなチャンスを見出しました。
第一に、機能性ウェア市場は約4,000億円規模で、ワークマンの本業(作業服約1,000億円)の4倍ありました。
第二に、機能性ウェア市場は、ノースフェイス、コロンビア、モンベルなど、高価格帯のブランドが中心でした。
第三に、ワークマンの作業服は、機能性は同等以上なのに、価格は半額以下でした。
つまり、「機能性×低価格」という空白市場が、すでに目の前に広がっていたのです。
「ワークマンプラス」の誕生
土屋氏の戦略は秀逸でした。新しい商品を作るのではなく、既存の作業服を「見せ方を変えて」一般消費者に訴求するという発想です。
ワークマンプラスの1号店は、2018年9月に千葉県内のららぽーとTOKYO-BAYに出店しました。
ここで重要な工夫が、「空間戦略」です。
通常のワークマン店舗は、蛍光灯の白色照明で、商品は機能本位に陳列されていました。これだと、いかにも「作業服店」の雰囲気です。
ワークマンプラスでは、オレンジ系の暖色照明に変え、商品をマネキンに着せてアウトドアシーンを想起させるディスプレイにしました。結果、同じ商品なのに「アウトドアウェアの店」に見えるようになったのです。
この戦略の天才的なポイントは、「商品開発コストがゼロ」ということ。新しいラインを開発するのではなく、既存商品の見せ方だけ変えることで、新たな顧客層を取り込めるのです。
ワークマンプラスは、オープンと同時に大反響を呼びました。テレビやSNSで「機能性アウトドアウェアが破格の安さで買える」と話題になり、開店初日から長蛇の列ができました。
2018年以降、ワークマンプラスは急速に店舗を増やし、2022年時点で400店舗を超える規模に成長。ワークマン全体の売上を急速に押し上げました。
FC(フランチャイズ)モデルの特徴
ワークマンの店舗網は、その大部分がフランチャイズ(FC)店舗です。直営店は全店舗の5%程度に過ぎず、残り95%はFC加盟店が運営しています。
ワークマンのFCモデルは、業界でも特筆すべき特徴を持っています。
第一に、「家業」志向。ワークマンは長らく、個人または家族で店舗を経営することを推奨してきました。「お父さんと息子」「夫婦」「親子3代」など、家族で運営する店舗が多くを占めます。
第二に、店舗の標準化。全店舗が約100坪のサイズに統一され、品揃えもほぼ同じ。これにより、運営コストを大幅に削減できます。
第三に、安定した売上。FC店舗1店あたりの平均年商は1.5億円前後、平均年収は1,300万円超といわれており、フランチャイジー(加盟店オーナー)にとって極めて魅力的な水準です。
第四に、開業資金の手頃さ。加盟金41.25万円、開店手数料55万円、研修費27.5万円、保証金100万円(返還あり)程度で開業でき、外食フランチャイズなどに比べて圧倒的に安いです。
第五に、本部からの強力サポート。9日間の事前研修、SV(スーパーバイザー)による定期サポート、商品供給、システム提供などが整備されています。
ワークマンの土屋哲雄専務は、自社のFCを「ホワイトフランチャイズ」と呼んでいます。これは、加盟店オーナーが「人生を賭けて経営する」存在であり、本部はそのリスクに最大限配慮しなければならない、という考え方です。
そのため、ワークマンは「絶対に勝てると分からない店舗は出店しない」という慎重な姿勢を貫いてきました。ワークマンプラスの1号店オープンに4年もの準備期間を要したのも、加盟店オーナーに迷惑をかけないためでした。
「しない経営」の哲学
ワークマンの経営哲学を象徴する言葉が、「しない経営」です。
土屋哲雄氏の著書『ワークマン式「しない経営」』(ダイヤモンド社、2020年)でも詳述されていますが、これは「価値を生まないことは、いっさいしない」という思想です。
具体的には、以下の「しない」が挙げられます。
第一に、「広告宣伝をしない」。テレビCMやチラシなど、大規模広告は基本的に打ちません。代わりに、商品力とSNS、アンバサダー(ブロガーやインフルエンサー)の口コミに頼ります。広告費はほぼゼロを目指しています。
第二に、「値引きをしない」。シーズン終わりのバーゲンセールなどは原則行いません。徹底した「ロープライス維持」が方針です。
第三に、「ノルマを課さない」。本部は店舗に対し、無理な販売目標を押し付けません。これがFC加盟店との信頼関係を支えています。
第四に、「ストレスを与えない」。社員、加盟店、取引先のすべてに、過度なプレッシャーをかけないことを重視します。
第五に、「ダントツ商品以外、作らない」。商品開発は厳選され、「ダントツ」(圧倒的に優位な)商品しかラインアップに加えません。
これらの「しない経営」は、ユニクロやニトリなど、攻めの経営で知られる企業とは対照的なアプローチです。「やらないことを決める」ことで、限られたリソースを成果の出る領域に集中させているのです。
データ経営 ~ Excel経営の真髄
ワークマンの経営を支えるもう一つの柱が、徹底した「データ経営」です。
土屋哲雄氏が三井物産時代の経験を生かし、ワークマンに「Excelによるデータ分析文化」を持ち込みました。
全社員にExcel研修を義務付け、店舗の売上、在庫、客数、客単価、商品別販売動向などのデータを、社員自身が分析・活用できるようにしました。
特に有名なのが、「需要予測モデル」です。気象データ、地域属性、過去の販売実績などを組み合わせて、店舗ごとに最適な発注量を算出します。これにより、欠品と過剰在庫を同時に減らせるようになりました。
また、商品開発でもデータが活用されています。「どの色のジャケットが、どの地域で、どんな職種の人に売れたか」「アウトドア用途で買われたか、作業用途で買われたか」――こうした情報を分析することで、次の商品開発に生かしています。
土屋氏は、これを「全員参加型のデータ経営」と表現しています。一部のデータサイエンティストだけが分析するのではなく、現場の社員が日々のExcel作業を通じてデータと向き合う文化です。
ブランド展開 ~ 多業態で20年戦う
近年のワークマンは、複数のブランドを並行展開しています。
「ワークマン」は元祖の作業服店業態。職人さん向けで、郊外ロードサイドに多く立地します。
「ワークマンプラス」は2018年に始まったアウトドア寄り業態。ショッピングモールや郊外の好立地に出店し、一般消費者を取り込みます。
「ワークマンプロ」は職人向けに特化したプロ業態。技術職向けの専門品を強化しています。
「#ワークマン女子」(旧名称)は2020年に始まった、女性客向け業態。あえて「女子」というあえて時代と逆行する名前を冠したのは、女性客を維持しつつ男性客の流入を抑え、既存店との競合を防ぐ意図がありました。
2025年からは、これがリブランドされて「Workman Colors(ワークマンカラーズ)」となり、デザイン性とカラーバリエーションを前面に押し出した業態に進化しました。
「ワークマンプラス2」など、エリアや顧客層に応じた業態も追加されています。
土屋氏は、「これら複数業態を使い分ければ、向こう20年は既存店と競合せずに出店拡大できる」と語っています。これは、加盟店オーナーが既存店の売上を奪われないよう守るための戦略でもあります。
業績 ~ 急成長と踊り場
ワークマンの業績推移を見てみましょう。
2014年に客層拡大戦略をスタートしてから、ワークマンの売上は急成長を遂げました。2018年9月のワークマンプラス1号店以降、特に伸びが顕著です。
売上高(チェーン全店)は、2014年の約500億円から、2022年には1,700億円超へと、約8年で3倍以上に拡大しました。営業利益率も10%を超え、小売業界トップクラスの収益性を実現していました。
ところが2023~2024年にかけて、業績は明らかな踊り場に入ります。
2024年3月期決算では、売上高1,752億5,000万円、営業利益197億円、営業利益率約11.2%と、依然として高水準ながら、2年連続の営業減益となりました。何より、既存店売上高が9年ぶりにマイナスへ。
業界紙『WWDJAPAN』は2025年1月、「ワークマン挫折の必然 チェーンストアとしての未熟さ露呈」という辛口の記事を掲載しました。コンサルタントの小島健輔氏は、「アウトドアブームが沈静化して『ワークマンプラス』が勢いを失い、『#ワークマン女子』を前面に打ち出したカジュアル路線が顧客ともビジネスモデルともすれ違い、さまざまな効率が悪化して業績が傾き出している」と分析しています。
2025年3月期も増収基調は維持しつつ、利益面では引き続き厳しい状況が続いています。
弱点1:アウトドアブーム終焉への依存
ワークマンプラスの急成長を支えたのは、コロナ禍以降の「アウトドアブーム」でした。
キャンプ、ハイキング、釣り、ソロキャンプ――三密を避けた屋外レジャーが大ブームとなり、機能性アウトドアウェアの需要が爆発的に伸びました。ワークマンは、この時流に完璧に乗ったのです。
ところが2023年頃から、アウトドアブームは明らかに沈静化しました。コロナ禍が一段落し、人々の関心は再び旅行、外食、エンタメへと移っています。
このブーム終了は、ワークマンプラスを直撃しています。アウトドア需要に支えられていた既存店の売上が、本格的に落ち込み始めたのです。
「ブームに乗った成長」の脆さが、ここに現れています。ブームに依存しないモデル作りが、ワークマンの大きな宿題となりました。
弱点2:客層拡大によるブランド混乱
ワークマンの戦略は、「同じ商品を別ブランドで売る」というものでした。しかし、ブランドが増えすぎたことによる「ブランド混乱」が、徐々に表面化しています。
「ワークマン」「ワークマンプラス」「ワークマンプロ」「#ワークマン女子→Workman Colors」「ワークマンプラス2」――一般消費者にとって、これらの違いは分かりにくいのです。
特に「#ワークマン女子」というネーミングには、当初から賛否がありました。女性蔑視的に受け取られるとの批判もあり、結局2025年に「Workman Colors」へとリブランドされました。
新業態の乱立は、本部側のオペレーションコストも上昇させます。各業態に応じた店舗デザイン、什器、マネキン、研修などが必要になり、規模の経済が薄まる可能性があります。
弱点3:個人FC(家族経営)モデルの限界
ワークマンのFCモデルは「個人または家族による経営」を前提にしてきました。これが地域密着型店舗のホスピタリティを生む源泉でしたが、近年、構造的な限界に直面しています。
第一に、人手不足。日本全体で人手不足が深刻化する中、家族経営の店舗を新たに引き受ける個人が減っています。ワークマンが注力しているWorkman Colors業態は、毎年40店舗の出店を予定していますが、経営を担う個人FCが40人も集まらない状況に陥っています。
第二に、都市近郊での適地不足。地方の過疎地(人口5~10万人エリア)では、そもそも経営を担える人材が不足しています。
第三に、モール出店の難しさ。中型以上のショッピングモールからの出店要請は多く寄せられているものの、家族経営では大型店の売場維持が難しいのです。
これに対しワークマンは、2025年に方針を大転換しました。9月以降、法人FC(同一フランチャイジーによる複数店運営)を解禁したのです。
「家族経営」という伝統的なFC観を一部諦め、法人FCに「Workman Colors」の都市部・大型モール出店を任せる、という戦略です。これは「ホワイトフランチャイズ」の哲学とは、ある意味で矛盾する一手でもあります。
弱点4:データ経営の浸透度
ワークマンのデータ経営は注目を浴びましたが、これが全社員、全加盟店に均一に浸透しているかは別の話です。
Excel研修を受けた本部社員と、現場の店舗オーナー・パート従業員との間で、データ活用のレベル差が生まれます。本部が高度な需要予測を提示しても、現場でその意味を理解し、運用に落とし込めなければ意味がありません。
また、近年では生成AIの登場により、Excelによるデータ分析より、もっと高度な分析手法が主流になりつつあります。「Excel経営」が、これからのデジタル時代でどこまで競争優位を保てるかは、不透明な部分があります。
弱点5:円安・コスト上昇への脆弱性
ワークマンの商品の多くは海外(中国、ベトナム、バングラデシュなど)で生産されています。円安が進むと、仕入れ価格が大幅に上昇します。
2022~2024年の急激な円安は、ワークマンの利益率を圧迫しました。原価率が上昇する中で、ワークマンのコアバリューである「機能性×低価格」を維持するのが、年々難しくなっています。
しかも、ワークマンは「値引きをしない」「広告で値上げを正当化しない」という方針のため、原価上昇分を販売価格に転嫁しづらい構造的弱点があります。
弱点6:競合の台頭
ワークマンの成功を見て、競合各社も「機能性×低価格」セグメントに参入を始めました。
ユニクロは、機能性ウェア(ヒートテック、エアリズム)の延長で、より本格的なアウトドアラインも展開しています。
しまむらも、ファッション要素を取り入れた機能性ウェアを増やしています。
無印良品、GU、専門のアウトドアブランド各社も、機能性とコストパフォーマンスを両立した商品を増やしており、「ワークマンだから安い」という独占的地位は徐々に薄まっています。
EC側からは、AmazonやワークマンEC、Temu、SHEINなど、新興のオンライン低価格チャネルが脅威となっています。特にTemuやSHEINは、「ワークマン以下の価格」で機能性ウェアを売ることが可能なため、若年層の取り込みで影響が懸念されます。
弱点7:女性客戦略の難しさ
「#ワークマン女子」を始めた狙いは女性客の獲得でしたが、これは難しいチャレンジでした。
第一に、女性アウトドア・カジュアル市場には、ノースフェイス、コロンビア、パタゴニア、ユニクロ、無印良品、3COINSなど、強力な競合がひしめいています。
第二に、女性消費者は男性消費者よりもデザイン・ファッション性への要求水準が高く、機能性だけでは選んでもらえないことも多いのです。
第三に、「ワークマン」のブランドイメージそのものが、「ゴリゴリの作業服」「男性的」というイメージを持っており、これを女性向けに転換するのは時間がかかります。
「#ワークマン女子」からのリブランド「Workman Colors」は、こうした課題への対処ですが、まだ確実な成功とは言い切れない状況です。
弱点8:店舗網拡大の物理的限界
ワークマンは「向こう20年は既存店と競合せず出店できる」と言いますが、物理的な店舗網拡大には限界があります。
第一に、日本の人口減少。地方では、店舗を維持できる商圏人口が確保できなくなる地域が増えています。
第二に、店舗オペレーションのコスト上昇。最低賃金の上昇、エネルギー価格の高騰、家賃の上昇など、店舗運営コストは年々重くなっています。
第三に、ECの台頭。リアル店舗網を増やしても、ECでの購買比率が高まると、店舗の坪当たり売上が下がります。
ワークマンはECも展開していますが、「実物を試したい」「サイズ感を確認したい」という消費者ニーズを考えると、店舗主体のモデルは大きく変えにくいのが現状です。
弱点9:海外展開の遅れ
ユニクロやニトリが積極的に海外展開を進める一方で、ワークマンの海外展開はまだ限定的です。
2024年に台湾に初の海外店舗をオープンしましたが、本格的な海外進出はこれからです。日本市場が成熟する中、海外展開のスピードと成功度合いが、長期成長を左右します。
弱点10:消費者の値ごろ感の変化
最近、ワークマンの商品価格は、徐々に上昇傾向にあります。原材料費、人件費、為替の影響で、「ワークマンだから安い」という感覚が、消費者の中で揺らぎ始めています。
特に、ユニクロのヒートテックやエアリズムと比較すると、価格差が縮まっています。「ワークマンプラスより、ユニクロのほうがデザインも良くて値段も同じくらいなら、ユニクロでいい」と考える消費者が出てくる可能性があります。
ブランドの差別化要素を、「価格」から「価値」へと進化させていく必要があります。
まとめ ~ 空白市場の発見者が、次の段階に進めるか
ワークマンのビジネスモデルを改めて整理しましょう。
強みとしては、職人向け作業服市場での圧倒的シェアと信頼、客層拡大戦略(ワークマンプラス)による空白市場の発見、見せ方を変えるだけで一般客を取り込む「空間戦略」、店舗標準化と低コスト運営、家族経営FC(ホワイトフランチャイズ)、しない経営という独自哲学、データ経営による効率化、複数業態のブランドポートフォリオ、広告ゼロを目指す独自マーケティング、そして強力な口コミ・SNS活用が挙げられます。
ただし弱点も明確です。アウトドアブーム終焉への依存、客層拡大によるブランド混乱、個人FCモデルの構造的限界、データ経営の浸透度、円安・コスト上昇への脆弱性、競合の台頭、女性客戦略の難しさ、店舗網拡大の物理的限界、海外展開の遅れ、消費者の値ごろ感の変化。
これらの弱点が、2024年からの業績失速に複合的に影響しています。
ワークマンの真価が問われるのは、これからの数年です。アウトドアブームが去った後、何で集客するか。FCモデルをどう進化させるか。海外展開や新業態をどう成功させるか。ブランド混乱をどう整理するか。
土屋哲雄氏が始めた「客層拡大戦略」は、日本のビジネス史に残る名作戦略でした。しかし、戦略には必ず賞味期限があります。空白市場の発見者として一世を風靡したワークマンが、次の発想転換で再び成長軌道に戻れるか、注目したいところです。
私たち消費者は、ワークマンプラスでアウトドアウェアを安く買えた幸せな時代を経験できました。今後も「機能性×低価格×ホワイトフランチャイズ」というワークマンの良さを残しつつ、新しい時代に進化していくことを期待したいと思います。
そしてビジネスを設計する側にとっては、ワークマンの事例は「空白市場を発見し、既存資産を生かして新市場を作る」という戦略の見本であると同時に、「成功した戦略にも賞味期限がある」という現実も教えてくれます。常に次の一手を考え続けることの大切さを、ワークマンの軌跡は示しているのです。
参考資料
- 株式会社ワークマン「2025年3月期 決算説明会資料」https://www.workman.co.jp/ir_info/pdf/2025/44ki_03_kessan.pdf
- 株式会社ワークマン 公式IRサイト https://www.workman.co.jp/ir_info/
- 流通ニュース「ワークマン/法人フランチャイズを解禁、中型・大型モール内に年20店舗オープン」https://www.ryutsuu.biz/strategy/r071778.html
- DXマガジン「ワークマンが法人FCを本格解禁、個人FCモデルの限界で方針転換」https://dxmagazine.jp/news/dhsui67/
- WWDJAPAN「ワークマン挫折の必然 チェーンストアとしての未熟さ露呈【小島健輔リポート】」https://www.wwdjapan.com/articles/1814311
- ビジネスチャンス「【連載 第1回】ワークマン式ホワイトフランチャイズ経営論」土屋哲雄氏 https://www.bc01.net/serialize/workman_001/
- JAFCO Group「【図解】直近10年で伸びた市場に学ぶ、ビジネスアイデア⑰〜ワークマン〜」https://note.com/jafcogroup8595/n/n7b661d3555b1
- フランチャイズ比較ネット「ワークマンのフランチャイズとは?加盟条件や年収など詳しく解説」https://www.fc-hikaku.net/franchises/3035
- strate.biz「ワークマンのフランチャイズは儲かる?開業資金や評判・年収は?」https://strate.biz/fcs/workman/
- グリッドベース「ワークマンフランチャイズの魅力とは?」https://www.grid-based.com/?p=784
- フランチャイズの始め方.jp「フランチャイズワークマンの成長戦略と将来展望」https://franchise.wpx.jp/blog11/
- 土屋哲雄『ワークマン式「しない経営」』ダイヤモンド社、2020年
- 酒井大輔『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』日経BP、2020年
- 日経クロストレンド、日経MJ、東洋経済オンライン等の関連記事

