日本の個人投資家を語るとき、「最も謎めいた巨人」という冠を捧げたい人物が一人いる。それが五味大輔氏である。資産は推定300億円から400億円。長野県松本市在住の兼業投資家で、本業は会社員らしいが詳細は非公開。メディア露出は極めて限定的で、それでもネクセラファーマ(旧そーせいグループ)、MIXI、日本ファルコムなど多数の企業の大株主・筆頭株主として有価証券報告書に名前を連ね続けている。
私は五味氏を語るとき、いつも一つの問いから始めたいと思う。「サラリーマンと投資家は両立できるのか?」と。普通に考えれば答えは「無理」だ。情報格差、時間制約、心理負荷──兼業で勝ち続ける条件は揃っていない。しかし五味氏は、この常識を真っ向から否定し、しかも巨大ファンドにも勝つレベルで立証してしまった。今回はこの稀有な投資家の人生と哲学を、私なりにじっくり掘り下げてみたい。
中学生で100万円スタート──両親が株式投資をしていた家庭環境
五味氏の物語は、長野県松本市の一中学生から始まる。五味大輔氏は、長野県松本市在住の兼業投資家で、本業は会社員と見られるが非公開。中学生時代にお年玉やお小遣いで貯めた元手100万円で株式投資を開始。20年以上の投資歴を持ち、大学生で資産6,000万円に到達している。
そして注目すべきは、五味大輔氏は、両親が株式投資をしていた影響から、お年玉やお小遣いを貯め中学生の時に貯金100万円を使い株式投資を開始したという出発点である。
私はこの「両親が株式投資をしていた」という事実を、五味氏を理解する上で決定的な要素だと考えている。BNFは引きこもり大学生、cisはギャンブラー、テスタは高卒フリーター。彼らは「ゼロからのスタート」だった。しかし五味氏は違う。家庭環境の中に株式投資が空気のようにあり、両親と株の話題ができ、損失を出しても叱られない環境にいた。これはとてつもない優位性である。
中学生で100万円という金額。これも独自視点で強調したい。中学生がお年玉とお小遣いだけで100万円貯めることは、ほぼ不可能に近い。長野県松本市という地方都市で、おそらく金銭感覚のしっかりした両親に育てられた子供であることが想像できる。100万円という大金を中学生が「すべて株式投資につぎ込む」決断をした背景には、家庭の理解と子供自身の早熟な経済感覚があっただろう。
そして驚くべき成長スピードだ。中学2年生で100万円スタートした後、中学3年生で300万円、高校1年生で1,000万円、高校2年生で1,500万円。これは異次元の早熟ぶりである。多くの大人が一生かかっても達成できない金額を、高校生のうちに突破している。
大学生時代には資産6,000万円。五味氏が投資を始めてから、BNF氏やcis氏など個人で莫大な利益を出す投資家が登場し、五味氏自身も刺激を受けた。大学生時代に株式投資で6,000万円ほど稼ぎ出し、徐々に頭角を見せていった。つまり彼は、BNFやcisという「先輩スター」を見ながら、もっと稼がねばと意欲を燃やしていた。
ターニングポイント①──ミクシィでモンスト爆発
五味氏が一気に有名になったのは、2014年のミクシィ株への大量保有だ。五味大輔氏のターニングポイントは、2014年のミクシィ株の大量保有と2015年のそーせいグループの筆頭株主となったこと。SNSサービスからソーシャルゲーム会社に転換したミクシィが開発した「モンスターストライク」をプレイして、「このゲームはパズドラを超える」という感触を得たため、ミクシィ株の大量保有に踏み切り、莫大な利益を稼ぎ出した。
ここに私は五味流投資の本質を見る。彼は数字や財務諸表だけで判断していない。実際にゲームをプレイして、「このゲームはパズドラを超える」という肌感覚を持って投資した。これはピーター・リンチの「身近な観察から投資する」という思想そのものだ。
そして実際、ミクシィのモンスターストライクは大ヒット。株価は数倍に跳ね上がり、五味氏は莫大な利益を得た。同時期にガンホーのパズドラもプレイして、こちらも大儲けしている。ガンホーの「パズドラ」をプレイし、そのヒット性を確信してほぼ全資金を投資したエピソードは有名だ。
私の独自視点では、五味氏のこの時期の戦略は「コンシューマー観察+集中投資」と要約できる。スマートフォンゲームというコンシューマー製品は、実際にプレイすれば良し悪しが分かる。しかし金融機関のアナリストは、ゲームのプレイ体験まで踏み込まない。彼らは数字とインタビューで判断する。一般のユーザーである五味氏のほうが、機関投資家より圧倒的に「ヒットの予感」を察知する能力が高かったのである。
これは個人投資家が機関投資家に勝てる希少な領域だ。日々の生活者として、自分が使ってみて「これは良い」と感じたサービスや商品を提供する企業に投資する。これは知識量ではなく感性で勝つ戦略である。
ターニングポイント②──そーせいグループ筆頭株主の衝撃
そして2015年、五味氏は再び日本市場を驚かせる。そーせいグループは、創薬のバイオベンチャー企業。グローバルな研究活動や海外の製薬企業の買収などを積極的に行っている。勢いのある姿から「バイオベンチャー界のソフトバンク」と呼ばれている。五味氏の名を一躍有名にした企業としても知られている。
2015年、旧そーせいグループの筆頭株主となり、資産200億円を突破させた。同会社は2024年4月1日に「ネクセラファーマ」に社名を変更している。こちらの会社の株を大量購入した理由については「10年後、20年後に小野薬品工業を超える企業へ成長する」と期待したから。
ここで重要な独自視点を述べたい。個人投資家がバイオベンチャーの筆頭株主になるというのは、極めて異例の事態である。バイオベンチャーは技術理解の難易度が高く、機関投資家が好むセクターだ。しかも創薬は10年以上の長期投資を覚悟しなければならない。短期では儲からない。それを五味氏は個人で筆頭株主の座まで取りに行ったのだ。
「10年後、20年後に小野薬品工業を超える」という発言には、五味氏の時間軸が表れている。これは「今期の決算」「来期の業績」を見る短期投資家の視点ではない。10年・20年という超長期スパンで企業を見ている。彼はビジネスを所有しているのであって、株価を売買しているのではない。
投資手法の核心──「現物・長期・誰でも入手可能な情報」
五味氏の投資手法は、明確に3つの柱に整理できる。五味大輔氏の投資手法は大きく分けて3つ。現物取引、長期投資、誰にでも流通している情報での分析になる。
第一の柱は「現物取引のみ・信用取引なし」。五味氏の投資手法は「現物取引+長期保有」。「信用取引」は基本的に行わず、決めた銘柄に集中投資していくスタイル。「レバレッジ」をかけることもほとんどない。
第二の柱は「1日10〜20分の時間投入」。投資に使う時間は1日10分〜20分程で、1日中画面に張り付くようなスタイルではない。普段は会社員として勤務していることもあり、短期売買を繰り返す「デイトレーダー」のような取引は現実的ではない。
第三の柱は「公開情報のみで分析」。五味大輔氏は市井の個人投資家なので、組織のファンドマネージャーのように情報が豊富に手に入れられることはない。ツイッターや決算短信など誰にでもアクセスできる情報の中から銘柄選びをしている。
私の独自視点で言えば、この3つの柱は完全に「兼業サラリーマン投資家の最適解」になっている。会社員は1日中画面に張り付けない。だから長期投資。会社員は機関投資家ほど情報を集められない。だから誰でもアクセスできる情報で勝負する。会社員は失敗したときの追加証拠金リスクを取れない。だから現物取引のみ。すべてが整合的だ。
「プロとは戦うな」──個人投資家の優位性を徹底活用
五味氏の哲学を象徴する言葉がある。五味氏は「プロとは戦うな」という名言を残している。巨大ファンドと戦っても勝ち目はないので、”個人でできること”を最大限に生かして勝つという考え。投資のセオリーとされる「分散投資」ではなく、狙いの銘柄に大量の資金を一気に投入する「集中投資」が彼のスタイル。
ここに私は五味流の本質を見る。「プロと戦わない」とは、プロが見ていない領域で勝負するということだ。具体的にはこうなる。
第一に、プロは時価総額が小さすぎる銘柄を扱えない。彼らはファンド規模が大きすぎて、小型株では大株主になれない。一方、個人投資家は数億円〜数十億円規模で中小型株の筆頭株主になれる。
第二に、プロは長期保有しにくい。月次・四半期で評価される彼らは、含み損を抱え続けることが許されない。一方、五味氏のような個人投資家は10年・20年の時間軸で持ち続けられる。
第三に、プロはコンシューマー製品を実際に使う時間がない。一方、五味氏のような兼業投資家は、生活者として商品を体験できる。
これらの優位性を最大化するのが「集中投資」である。プロが手を出せない中小型株に、個人投資家として大量の資金を投じる。ヒットすれば数倍〜数十倍のリターンが得られる。これは分散投資では絶対に到達できないリターンだ。
ネクセラファーマでの大損──成功者にも訪れた試練
五味氏のキャリアにも、語り継がれる失敗エピソードがある。2025年2月末現在、五味氏がネクセラファーマ株の保有割合を8.39%から9.50%に上げている。再びネクセラファーマ株式会社の筆頭株主となった五味氏だが、過去には同じ会社(旧そーせいグループ)で大損した経験が。それは、2023年6月27日に公表されたそーせいグループのIRで、糖尿病治療薬の開発を中止したため「米ファイザー社との共同開発打ち切り」を発表したことがきっかけ。この日の終値は前日比から700円も下落し、ストップ安となった。
筆頭株主として保有していた銘柄が、開発中止のIRでストップ安。一日で何十億円もの含み損が発生したと推測される。普通なら心が折れる場面だ。しかし五味氏は売らなかった。むしろ2025年に入ってさらに買い増し、再び筆頭株主の座を奪還している。
私の独自分析では、これこそが五味氏の本物の凄さだ。普通の投資家は、含み損が出たら損切りする。あるいは塩漬けにして放置する。五味氏は違う。一度「この会社は10年・20年後に大化けする」と判断したら、悪材料が出ようがファンダメンタルズが変わらない限り、保有を続ける。むしろ安くなれば買い増す。これが「事業を所有する投資家」の真の姿である。
これはバフェットがコカ・コーラを保有し続けるのと同じ思想だ。短期の株価変動は、長期の事業価値とは無関係。事業価値が変わらないなら、株価が下がるほど「お買い得」になっただけ──そう判断できる胆力こそ、五味氏の競争優位の源泉である。
71銘柄の分散──集中と分散のハイブリッド
五味氏の保有銘柄を見ると、興味深いパターンが浮かび上がる。五味大輔さんは現在71銘柄を保有している。
71銘柄。これは「集中投資の人」というイメージと矛盾する数字だ。光通信(315銘柄)や吉田知広(137銘柄)ほどではないが、片山晃(25銘柄)よりはずっと多い。
私の独自解釈では、五味氏は「コア集中・サテライト分散」というハイブリッド戦略を取っていると見ている。コアにあるのはネクセラファーマ、MIXI、日本ファルコム、ステムリムなど、本人が特に思い入れの強い銘柄。これらは数十億円規模の集中投資。一方、サテライトには71銘柄ほどの「気になる中小型株」が並んでいる。
この戦略の合理性は明確だ。コアで大きなリターンを狙いつつ、サテライトでリスク分散を図る。一銘柄で開発中止が出ても、サテライト分散があれば全体への影響は限定的だ。これは「集中=リスク」というステレオタイプを超えた、賢い設計である。
「五味銘柄」というブランド──模倣されるカリスマ
五味氏の影響力は、彼の保有銘柄に対する市場の反応にも表れている。五味氏が保有する株は「五味銘柄」と呼ばれており、今後の上昇を期待して同じ株を購入している投資家が多く存在する。それだけ五味氏は投資家から信頼され、動向を注目されている人物と言える。
「五味銘柄」というブランドが市場で確立しているのは、彼の判断の的確さの証明だ。しかし私の独自視点では、これを単純に真似することには注意が必要だと思う。
理由は三つある。第一に、五味氏が買った時点と、報告書で判明した時点では、すでに株価が上がっている可能性が高い。第二に、五味氏のポジションサイズと我々個人のポジションサイズはまったく違う。彼は10年保有できても、我々は1年で耐えられないかもしれない。第三に、五味氏自身が売却した時に我々はそれを知る術がない。
だから「五味銘柄を真似する」のではなく、「五味氏の選定基準を真似する」のが正解だ。長期成長性、ニッチな競争優位、PBR割安、自分が使ってみて納得できる商品・サービス──これらの基準を自分のスクリーニングに組み込めば、五味氏ほどの規模ではなくとも、同じ哲学で勝てる可能性が高まる。
メディア露出を避ける理由──兼業投資家の現実的判断
五味氏はメディア露出をほとんどしない。五味大輔はプライバシーを重視し、メディア露出を避けている。これは、兼業投資家として本業と投資を両立させるため、市場への影響力を最小限に抑える意図があると考えられる。
私の独自分析では、これにはもっと深い理由がある。第一に、本業の会社員生活への影響。本業がある以上、投資家としての顔があまり目立つと職場での立場が複雑になる。第二に、市場への影響を抑えるため。彼が「次はこの銘柄に注目」と公に発言したら、瞬時に株価が動いてしまう。第三に、本人の性格。中学生から株一筋の人物が、突然テレビに出てトークするタイプとは思えない。
これらすべてが合わさって、「謎の兼業投資家」のキャラクターが完成している。私はこれを、ある意味で「最高の偽装」だと考えている。本業のサラリーマンとして社会に溶け込みながら、影では数百億円を動かす個人投資家。これは007のジェームズ・ボンドのような二重生活である。本人にとっては、これが最も精神的にバランスの取れた生き方なのだろう。
片山晃氏との対談──ゲームのスコアという感覚
五味氏は本当にメディアに出ないが、唯一の例外的な発信が、片山晃氏との対談である。現在はもう生活にはまったく困っておらず、3億円もあれば暮らせるので、ゲームのスコアをどこまで伸ばせるかに挑戦しているような境地に達していると、片山晃氏との対談で話している。
「ゲームのスコア」という表現に注目したい。これは前回紹介したcis氏も使った表現だ。「3億円あれば一生暮らせる、それ以上はゲームのスコア」という感覚。これは300億円規模の資産を持つ投資家に共通する感覚なのだろう。
そして「『この会社はいい』と判断した自分の目に責任を持つというか、この銘柄が潰れたら資産が半分になるくらいの覚悟が俺にはあるんだぞ、というのを示すために買っているんです」という発言もある。
「資産が半分になるくらいの覚悟」を持って一銘柄に投じる。これは普通の投資家の感覚を超えている。彼にとって投資とは、お金を増やす手段ではなく、自分の判断力を世に問う「自己表現」なのだ。だから半分失っても受け入れられる。だから10年・20年保有できる。だから300億円規模に到達できた。
「医師では?」という都市伝説
五味氏については、ある興味深い都市伝説がある。五味大輔氏は信州大学の医師ではないか?という見方もある。保有する銘柄に製薬会社の「そーせい」や再生誘導医療や遺伝子治療などの開発を行っている「ステムリム」がある事もあげられる。ただ、五味大輔氏は医者である事を否定していて、あくまでも会社員であり信州大学に務める同名の五味大輔さんとは面識もないとはっきりインタビューで述べている。
この都市伝説の発生は理解できる。創薬・再生医療の銘柄を多数保有し、しかも長野県松本市在住。信州大学医学部の医師という連想は自然だ。しかし本人は否定している。
私の独自視点で言えば、この噂が立つこと自体が五味氏の影響力を物語っている。誰もが「あれだけの選定眼があるなら、医師レベルの専門知識があるはず」と推測する。しかし実際は、本人の言葉によれば「会社員」である。これは何を意味するか。専門家でなくとも、深い研究と長期視点があれば、医療系銘柄でも勝てるということだ。
我々が五味氏から学べること
長くなったが、五味氏から私たち凡庸な個人投資家が学べる教訓を、私なりに5点に整理しておきたい。
第一に、「兼業は弱点ではなく強み」ということ。本業がある投資家は、生活者の感覚を持っている。プロが見えない領域で銘柄を発掘できる。1日10〜20分という時間制約が、無駄な売買を抑える効果もある。
第二に、「公開情報だけで十分」という事実。五味氏は決算短信とTwitterだけで300億円を築いた。インサイダー情報も、特別な人脈も必要ない。素材は誰の前にも転がっている。あとは自分の頭で考えるだけだ。
第三に、「自分が体験できる商品・サービスを優先」すること。スマホゲームでもカフェチェーンでも、自分が使って良いと感じたものは、他のユーザーにも響く可能性が高い。生活者の直感は、投資判断における強力な武器である。
第四に、「集中する勇気」。「この銘柄が潰れたら資産が半分」という覚悟があるからこそ、徹底的に調べる。徹底的に調べたからこそ、長期保有できる。中途半端な数百銘柄分散より、覚悟ある集中投資のほうが、深い学習を生む。
第五に、「メディア露出は必要ない」ということ。SNSやブログで発信しなくても、お金は増える。むしろ静かに投資家として生きるほうが、本業との両立、心の平穏、長期視点の維持の点で合理的である。
結びに──「松本市の謎の投資家」が残すもの
五味大輔氏は、日本の個人投資家の中で最も「市井の人らしい」スター投資家である。BNFは秋葉原のビルオーナー。cisは挑発的なTwitter発信者。テスタはテレビ出演する有名人。しかし五味氏は、長野県松本市のサラリーマン。会社では普通に仕事をして、家に帰って数十分だけ株を見て、また日常生活に戻る。
それでいて、彼の保有資産は推定300億円。この乖離こそ、現代日本の個人投資家文化の最大の魅力だと私は思う。「特別な人だけが大金持ちになるのではない」という実証なのだ。素質ある中学生が、親の理解と長期視点と複利効果で、大人になる頃には日本トップの投資家になっている。これが資本主義のロマンである。
次にネクセラファーマ、MIXI、日本ファルコムなどの大株主名簿を見るとき、五味大輔という名前を探してみてほしい。そこには、長野県松本市のどこかで今日もコツコツ仕事をしながら、20分だけ証券口座を覗いている、一人のサラリーマン投資家の影がある。彼が持つ300億円は、彼にとってはゲームのスコアに過ぎないかもしれない。しかし我々にとっては、株式市場の本当の魅力を教えてくれる、貴重な北極星なのである。

