寝そべり族
寝そべり族とは、中国のネット上で話題になった、激しい競争から逃れて必要最小限の労働と必要最小限の消費のみしかしない中国の人々のことです。競争に疲れた若い世代に多く、その考え方は一定の支持を得ているようです。
中国では、科挙の伝統を受け継いで進学競争が非常に激しく、大学入試の結果で人生が決まると言われるほどです。進学塾が乱立し、多額の金銭や親の莫大な労力が費やされるようになったため、政府が進学塾を規制したことは記憶に新しいところです。難関大学を卒業したとしても、待遇のよい大手企業に入社する際にも厳しい競争が待ち受け、入社後も高い実績を上げ続けなければなりません。
生活面でも、結婚するためには多額の結納金や、高額な不動産や自動車がなければ婚活のスタートラインにも立てません。まずは、経済的に恵まれていなければ、どんなに人柄が良くても結婚すらできません。子供が生まれたあとも、教育に多額の金銭と、莫大な労力が必要です。競争に勝ち続けなれば、後は滑り落ちるだけの激しい競争社会です。
こうした激しい競争社会を嫌って、最小限の労働と最小限の消費を行うだけで、結婚もせず、子育てもしない人たちが中国では増えているようです。社会からしてみれば、消費が減り、人口減にもつながりかねないため好ましくない動きであると考えている人たちもいるようです。
ミニマリスト
日本を含めた先進国でもミニマリストと呼ばれるような、消費に価値を見いださず、自分のライフスタイルを貫く人たちが増えているようです。書店でもそうした人たちの書籍が数多く見られます。年収200万円で暮らす、田舎で暮らすなどキャッチーなタイトルの書籍もあります。それだけ競争社会や消費社会に疲れている人が多いという表れなのかもしれません。実際はまともな生活をするためにはある程度の年収は必要ですし、田舎で暮らすことも人間関係や職業探しが難しいなど楽ではないので現実逃避という側面は否定できません。
食べる者にも困るような貧困状態では消費に憧れがあるかもしれませんが、ある程度富が社会で循環してくると消費社会というものが意外と意味がないものだという風に考える人たちが出てくるかもしれません。他人と所有物の豪華さを競ったり、意味もなく見せびらかすだけの消費をするなど、意味のない消費もあります。中国も「寝そべり族」のように消費に否定的な人たちが増えてきていることもある意味では中国が成熟化しつつあることの表れなのかもしれません。
就職氷河期世代とミニマリスト
就職氷河期世代は、非正規雇用やブラック企業で低賃金での労働を強いられたため、所得が限られていました。贅沢をしようと思っていても、日々の生活費を稼ぐことに精いっぱいで、無駄な消費をする余裕がありませんでした。つつましやかな生活を強いられ、期せずしてミニマリストとなったのです。ミニマリストは、消費に価値を見出さない為、保守的な消費態度を取ります。消費が行われることで、企業が発展し国が成長する側面があると強く考えている人たちにとっては、消費をあまり行わない人たちは魅力的なマーケットとは言えません。消費とは、単に生命維持だけを目的をするのではなく、無駄使いの側面があることは否定できないので、消費の為に消費をすることが経済にとっては望ましいこともあり得ます。一個人にとっては倹約することが望ましくても、皆が倹約をしてしまったら経済が成り立たなくなることも考えられます。
現在の日本経済や、日本企業は内需がかなりの部分を占めています。外国から原材料を輸入し、付加価値を付けて輸出する経済体制で日本経済が成り立っていた時代もありましたが、現在ではむしろ内需のほうが大きいと言われています。就職氷河期世代がマーケットの大きな部分を占めてはいますが、以前の世代ほど消費は活発ではありません。経済や雇用の先行きに対する不安や消費習慣の変化から、こどもを持たなかったり自動車や家屋など耐久消費財に対しても購買意欲が低くなっています。
内需主導の経済となった日本経済において、国民が消費をしないことは大きな問題です。国民が消費をしなければ、雇用も生まれず、おカネも循環しません。日本経済や国内向けに事業を行っている企業は苦境に立たされています。就職氷河期世代が活発に消費を行っていれば少し状況は違ったかもしれませんが、政府や企業が就職氷河期世代を見捨てるような行動を取った結果、就職氷河期世代は消費をしない・できないようになりました。ある意味、就職氷河期世代からしっぺ返しを受けているのかもしれません。
費用対効果が見込めない土木事業や意味のないバラマキ政策など一部の人たちだけが潤うような政策をやめ、国民が安心して消費を楽しめるように環境を整えていくことが日本にとっての最大の景気対策であると考えます。例えば、雇用や賃金を安定化させるような労働政策や、老後の資金の心配ばかりをしなくて済むような経済政策も必要になるでしょう。
結論
就職氷河期世代とミニマリズムは、一見すると直接の関連性がないように思えますが、実際には深いつながりがあります。就職氷河期世代は、経済的な困難から、質素なライフスタイルを選択することがしばしば強いられてきました。これはミニマリズムの考え方と一部重なる部分があります。
ミニマリストは、物質的な所有物を極力減らし、生活をシンプルにすることで、人生の質を高めようとするライフスタイルを採用しています。これは、物への依存を減らし、人生の目的や意味、価値に焦点を当てることを意味します。結果として、財物への欲求を抑制し、消費を抑える傾向があります。
一方、就職氷河期世代は、厳しい経済状況と戦いながら生活を送ってきました。その結果、経済的な理由からミニマリストのような生活を送ることが多くなっています。つまり、無駄な消費を避け、物事をシンプルに保つことで生活費を節約するといった行動パターンが見られます。
ただし、就職氷河期世代がミニマリストのライフスタイルを採用する背後には、経済的な制約が主な動機であるのに対し、ミニマリズムは、一般的には、自己啓発や人生のクオリティを高めることを目指した選択です。これらは基本的な動機が異なるため、同じライフスタイルを送っていても、その背後にある意識や価値観は異なる場合があります。
それでも、ミニマリズムの考え方は就職氷河期世代にとって一部有用な側面があるとも言えます。所有物を減らすことで生活のシンプル化を追求することは、物質的な欲求や消費社会に対する依存を減らすことにつながります。これにより、就職氷河期世代が経済的に困難な状況を少しでも軽減し、より安定した生活を送ることを支えるかもしれません。また、物への依存から解放されることで、自身の内面や人間関係、自己実現により多くの時間とエネルギーを注ぐことが可能になり、全体的な生活の質の向上につながる可能性もあります。