日本を動かす「物言う株主」たち――主要アクティビスト16社徹底解説

この記事は約63分で読めます。
  1. はじめに――なぜ今、アクティビストを知る必要があるのか
  2. 第1部:そもそもアクティビストとは何か
    1. 「物言う株主」という日本語訳の妙
    2. アクティビストが企業に突きつける「武器」
    3. 日本市場がアクティビストの「ホットスポット」になった理由
    4. アクティビストの「世代論」
  3. 第2部:主要アクティビスト16社・徹底解説
    1. 1. エリオット・マネジメント(Elliott Management)――世界最強の「ハゲタカ」
      1. 日本での活動の歴史
      2. 2025〜2026年:豊田自動織機TOBを巡る歴史的攻防
      3. 筆者の評価
    2. 2. オアシス・マネジメント(Oasis Management)――香港発、対話と劇場型を使い分ける戦略家
      1. 投資哲学と手法
      2. 主要な投資事例
      3. 筆者の評価
    3. 3. サード・ポイント(Third Point)――ソニーを動かした「辛辣な手紙」の名手
      1. 投資哲学と手法
      2. 日本での投資事例
      3. 筆者の評価
    4. 4. バリューアクト・キャピタル(ValueAct Capital)――取締役を送り込む「協調型」の雄
      1. 投資哲学と手法
      2. 日本での投資事例
      3. 筆者の評価
    5. 5. 3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners)――シンガポール発、富士ソフトを動かした論客
      1. 投資哲学と手法
      2. 主要な投資事例
      3. 筆者の評価
    6. 6. ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments)――日本株投資の「老舗」エンゲージメント・スペシャリスト
      1. 投資哲学と手法
      2. ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)
      3. 筆者の評価
    7. 7. シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(Silchester International Investors)――「アクティビストではない」と名乗る静かなる巨人
      1. 「アクティビストではない」という自己規定
      2. 地方銀行への一斉株主提案
      3. 筆者の評価
    8. 8. AVI/アセット・バリュー・インベスターズ(Asset Value Investors)――割安持株会社を狙う英国の老舗
      1. 投資哲学と手法
      2. 日本での投資事例
      3. 筆者の評価
    9. 9. ファーツリー・パートナーズ(Fir Tree Partners)――JR九州に挑んだディストレスト型
      1. JR九州を巡る攻防
      2. 筆者の評価
    10. 10. スターボード・バリュー(Starboard Value)――取締役会刷新も辞さない米国の強硬派
      1. 投資哲学と手法
      2. 日本との関わり
      3. 筆者の評価
    11. 11. シティインデックスイレブンス(旧村上ファンド系)――日本アクティビズムの「原点」の現在
      1. 村上ファンドの歴史
      2. 旧村上ファンド系の「現在」
      3. フジ・メディア・ホールディングスへの再登場
      4. 筆者の評価
    12. 12. ストラテジックキャピタル(Strategic Capital)――「ガバナンス絶対主義」を掲げる丸木強の挑戦
      1. 丸木強という人物
      2. 投資哲学と手法
      3. 筆者の評価
    13. 13. エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(Effissimo Capital Management)――東芝を動かした「国内最強のサイレント・アクティビスト」
      1. 村上ファンドのDNAと「沈黙」
      2. 川崎汽船――「クリーピング・テイクオーバー」の見本
      3. 東芝――日本ガバナンス史に残る「歴史的勝利」
      4. 筆者の評価
    14. 14. みさき投資(Misaki Capital)――敵対せず「ともに働く」エンゲージメント投資の旗手
      1. 中神康議という人物
      2. 投資哲学と手法
      3. 筆者の評価
    15. 15. マネックス・アクティビスト・ファンド(Monex Activist Fund)――個人投資家が参加できる「日本初」のアクティビスト投信
      1. ファンドの仕組み
      2. 「個人投資家の声」を企業に届ける
      3. 筆者の評価
    16. 16. タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(Taiyo Pacific Partners)――「友好的アクティビスト」の草分け
      1. ブライアン・ヘイウッドという人物
      2. 投資哲学と手法――「友好的アクティビスト」
      3. 主要な投資事例
      4. 筆者の評価
  4. 第3部:16社を俯瞰する――類型化と総括
    1. 拠点による分類
    2. スタイルによる分類――「敵対型」と「友好型」のスペクトラム
    3. 共通する「論点」――なぜ彼らの主張は無視できないのか
    4. 筆者の総括――アクティビズムをどう受け止めるべきか
  5. 第4部:日本のアクティビズム小史――年表で振り返る
  6. 第5部:個人投資家のためのQ&A
  7. 用語解説(ミニ・グロッサリー)
  8. 参考資料

はじめに――なぜ今、アクティビストを知る必要があるのか

ここ数年、日本の株式市場を語るうえで「アクティビスト(物言う株主)」という言葉を避けて通ることはできなくなりました。新聞の経済面を開けば、どこかの上場企業が海外ファンドから書簡を受け取った、株主提案を出された、株主総会で委任状争奪戦(プロキシーファイト)が起きている、といったニュースが連日のように並んでいます。2025年から2026年にかけては、米エリオット・マネジメントがトヨタグループによる豊田自動織機の非公開化(TOB)に真っ向から反対し、旧村上ファンド系がフジ・メディア・ホールディングスの筆頭株主に躍り出るなど、誰もが知る巨大企業がアクティビストの標的になる時代が訪れています。

本記事は、日本市場で活動する代表的なアクティビスト16社(運用主体・ファンド)について、その成り立ち、運用規模、投資哲学、そして実際にどのような企業にどのような要求を突きつけてきたのかを、できる限り分かりやすく一つの記事にまとめたものです。取り上げるのは次の各社です。

  1. エリオット・マネジメント(Elliott Management)
  2. オアシス・マネジメント(Oasis Management)
  3. サード・ポイント(Third Point)
  4. バリューアクト・キャピタル(ValueAct Capital)
  5. 3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners)
  6. ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments)
  7. シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(Silchester International Investors)
  8. AVI/アセット・バリュー・インベスターズ(Asset Value Investors)
  9. ファーツリー・パートナーズ(Fir Tree Partners)
  10. スターボード・バリュー(Starboard Value)
  11. シティインデックスイレブンス(旧村上ファンド系)
  12. ストラテジックキャピタル(Strategic Capital)
  13. エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(Effissimo Capital Management)
  14. みさき投資(Misaki Capital)
  15. マネックス・アクティビスト・ファンド(Monex Activist Fund)
  16. タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(Taiyo Pacific Partners)

筆者は特定のファンドの関係者でも、これらの企業に投資助言を行う立場でもありません。あくまで公開情報――各社のプレスリリース、大量保有報告書、新聞・経済誌の報道、そして各社が自ら開示している投資哲学のドキュメント――を丹念に読み込んだ上で、市場を一人の観察者として見続けてきた視点から、独自の分析を交えて整理していきます。本記事は特定の銘柄やファンドへの投資を勧誘するものではなく、投資判断はご自身の責任で行っていただくようお願いします。


第1部:そもそもアクティビストとは何か

「物言う株主」という日本語訳の妙

アクティビスト(activist)は、英語の本来の意味では「活動家」です。政治運動の活動家と同じ単語を投資の世界で使うところに、この投資手法の本質が表れています。普通の投資家は、ある企業の経営に不満を持てば、黙ってその株式を売却します。これを「ウォール街ルール(Wall Street Rule)」とも呼びます。気に入らないなら出ていけばよい、という考え方です。

ところがアクティビストは違います。彼らは株式を売却するのではなく、株主としての権利――議決権、株主提案権、帳簿閲覧請求権など――を積極的に行使し、経営陣を内側から動かして企業価値そのものを引き上げようとします。日本語の「物言う株主」という訳語は、この「黙って売らずに、声を上げて変えさせる」という姿勢を実によく言い当てています。

彼らの最終的な目的は、投資先企業の企業価値を高め、その結果として株価を上昇させ、キャピタルゲイン(売却益)を得ることにあります。慈善活動ではなく、あくまで投資リターンの追求です。しかし、その過程で行われる「資本効率の改善」「不採算事業の整理」「ガバナンス(企業統治)の強化」「株主還元の拡充」といった要求は、結果的に日本企業全体の体質改善を促す「触媒(カタリスト)」として機能してきた側面があります。ここがアクティビズムを評価するうえで難しくも面白いところです。

アクティビストが企業に突きつける「武器」

アクティビストが経営陣に対して用いる手段は、概ね次のように整理できます。

第一に、最も穏やかな手段が「エンゲージメント(対話)」です。水面下で経営陣と面談し、改善提案を行います。多くのファンドはまずここから入ります。

第二に、対話で動かない場合の「公開書簡(オープンレター)」です。自社のウェブサイトやプレスリリースを通じて、投資先企業の問題点と改善要求を公にします。近年は専用の特設サイトを立ち上げてプレゼンテーション資料を一般公開する手法が定着しました。3Dインベストメントの「compoundfujisoft.com」「compoundsapporo.com」などはその典型です。

第三に、株主総会における「株主提案」です。会社側の議案とは別に、株主として増配・自社株買い・取締役選任などの議案を総会に提出し、他の全株主に賛否を問います。

第四に、最も激しい手段が「委任状争奪戦(プロキシーファイト)」です。他の株主から議決権行使の委任状を集め、会社提案を否決し自らの提案を可決させようとする総力戦です。

そして極端な場合には、自らTOB(株式公開買付け)を仕掛ける、あるいは「クリーピング・テイクオーバー(市場で少しずつ株式を買い集めて支配権に近づく手法)」によって経営の重要事項に対する拒否権を握る、といった支配権を巡る攻防にまで発展します。

日本市場がアクティビストの「ホットスポット」になった理由

ここで筆者の独自の視点を述べておきます。なぜ今、これほどまでに日本市場がアクティビストに狙われているのでしょうか。理由は大きく三つあると考えています。

一つ目は、構造的な「割安さ」です。日本企業の多くは長年にわたり、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込む水準で放置されてきました。PBR1倍割れとは、理論上は「会社を解散して資産を売り払ったほうが株価より価値がある」という異常な状態です。潤沢な現金を貯め込み、本業と関係のない政策保有株式(持ち合い株)を大量に抱え、それでいて資本効率(ROE=自己資本利益率)が低い。アクティビストから見れば、これは「磨けば光る原石」の宝庫です。

二つ目は、制度的な「追い風」です。2014年に金融庁が「日本版スチュワードシップ・コード」を、2015年に東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を導入しました。さらに2023年には東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現」を上場企業に要請し、いわゆる「PBR1倍割れ問題」が公式の政策課題となりました。2023年8月には経済産業省が「企業買収における行動指針」を策定し、これまで「敵対的買収」と呼ばれていたものを「同意なき買収」と言い換え、企業価値を高める買収提案には真摯に検討するよう企業に求めました。国も取引所もアクティビストの主張を半ば後押しする方向に動いたのです。

三つ目は、「持ち合い構造の崩壊」です。これまで日本企業は、取引先銀行や事業会社と互いに株式を持ち合うことで、外部株主の圧力を回避してきました。しかし政策保有株の縮減が進み、安定株主の壁が崩れ始めたことで、アクティビストの議決権が相対的に重みを増しています。

Bloombergの報道でも、米法律事務所の専門家が「日本は急速にグローバルなアクティビストのホットスポットになり、エリオットはその中心的役割を果たしてきた」と指摘しているように、この潮流は当面続くと筆者は見ています。

アクティビストの「世代論」

みずほ証券の菊地正俊氏の整理を参考にすると、日本におけるアクティビズムは大きく三つの世代に分けて理解できます。第一世代は1980年代末、米著名投資家ブーン・ピケンズ氏が小糸製作所株を買い占めた事件に代表される投機的アクティビズム。第二世代は21世紀初頭、スティール・パートナーズや村上ファンドに代表される、株主還元の拡大を狙った短期志向型のアクティビズム。そして第三世代は、投資対象を中長期で保有し、企業内容を精査したうえでガバナンス改善を通じて株主価値を高めようとする現在の潮流です。本記事で取り上げる16社の多くは、この第三世代に位置づけられます。

それでは、ここから各社を一社ずつ詳しく見ていきましょう。


第2部:主要アクティビスト16社・徹底解説

1. エリオット・マネジメント(Elliott Management)――世界最強の「ハゲタカ」

本拠地:米国ニューヨーク|設立:1977年|創業者:ポール・シンガー|運用資産(AUM):約560億ドル規模

エリオット・マネジメント(正式にはエリオット・インベストメント・マネジメント)は、世界最大級にして最も恐れられているアクティビスト・ファンドです。1977年に米国人投資家ポール・シンガー氏が設立しました。日本では「世界を揺るがすハゲタカファンド」といった刺激的な表現で語られることも多いのですが、その実態は単なる株式アクティビストにとどまりません。

筆者が注目しているのは、エリオットの「二重構造」です。運用総額(AUM)が約560億ドルであるのに対し、米国証券取引委員会(SEC)への報告(フォーム13F)で開示が義務付けられている米国上場株のポートフォリオは、2025年第2四半期時点で約176億ドルにすぎません。この差額にあたる約380億ドルもの資金は、米国以外の株式(日本の東京ガスや東芝など)、非公開資産、不動産、そして同社の代名詞でもある「ディストレスト債(経営難に陥った国や企業の債券)」――かつてアルゼンチン国債を巡って同国政府と長年法廷闘争を繰り広げたことは有名です――に投じられていると見られます。つまりエリオットは「株式アクティビスト」として有名でありながら、その本質は株式・債券・為替・不動産まであらゆる資産クラスに投資する「マルチストラテジー・ファンド」なのです。この資金力の厚みと執念深さこそが、エリオットを他のアクティビストから際立たせています。

日本での活動の歴史

エリオットは日本でも数々の大型案件に関与してきました。古くはソフトバンクグループへの投資(自社株買いを要求)、東芝の再建局面での関与、そして近年では東京ガス株の大量保有が知られています。2025年3月には、国内不動産大手の住友不動産の株式を取得したことがBloombergによって報じられ、市場に衝撃が走りました。住友不動産は「意見交換をしたのは事実だ」と認めつつ、「当社の経営実績、経営方針については、おおむね賛同を頂いていると理解している」とコメントし、報道直後に株価は急騰して上場来高値を更新しています。

2025〜2026年:豊田自動織機TOBを巡る歴史的攻防

そして2025年から2026年にかけて、エリオットは日本のアクティビズム史に残る大型案件に乗り込みました。トヨタ自動車グループによる豊田自動織機の非公開化(TOB)を巡る攻防です。

日経BPのAI・データラボが大量保有報告書を解析した独自集計によれば、2025年のアクティビストによる企業単位の投資額で第1位となったのが、まさにこの豊田自動織機への約2700億円というエリオットの案件でした。

経緯を整理すると次のようになります。トヨタ自動車の豊田章男会長とトヨタ不動産は、持ち株会社と特別目的会社(SPC)を通じて豊田自動織機を買収・非公開化する計画を立て、2025年6月3日に1株あたり16,300円でのTOB計画を予告しました。これに対しエリオットは、この価格が豊田自動織機の本源的価値を「著しく過小評価している」と猛反発。2025年12月には同社株を5%超保有していることを開示し、2026年1月、2月にかけてさらに買い増して7%超の保有比率に達しました。

エリオットの主張は具体的かつ論理的でした。豊田自動織機はトヨタグループ各社の上場株式を大量に保有しており、その価値は当初TOBの予告以降40%超も上昇している。エリオットの分析では、同社の本源的な純資産価値(NAV)は2026年1月16日時点で1株あたり26,000円超に達し、改定後TOB価格をほぼ40%上回る水準だというのです。さらに「スタンドアローン・プラン(独立企業として歩む計画)」を実行すれば、株価は2028年までに40,000円を超える水準に到達しうると主張しました。トヨタグループは株価上昇を受けて2026年1月にTOB価格を18,800円へと15%引き上げましたが、エリオットは「表面的な修正にすぎず、依然として著しい過小評価でガバナンス上の重大な問題が残る」として応募を拒否し、他の株主にも応募しないよう呼びかけました。一時は対抗TOBも視野に入れていると報じられました。

この攻防には、後述するオアシス・マネジメントや、GMO系のアクティビストなども反対の意思を表明して加わりました。早稲田大学大学院の鈴木一功教授がBloombergの取材に「エリオットがこのTOBを阻止できれば、大きな前例になる」「トヨタのケースは、日本企業の経営陣がガバナンス改善にどこまで本気で取り組んでいるかを問う重要なテストだ」と語ったように、これは単なる一企業の買収案件ではなく、「支配的な親会社が上場子会社を安く非公開化する」という日本に根強く残る慣行と、少数株主の権利保護をどう両立させるかという、日本のコーポレートガバナンスの本質を問う試金石となりました。

筆者の評価

エリオットの強みは、圧倒的な資金力と、法廷闘争も辞さない執念、そして緻密なバリュエーション分析にあります。トヨタという日本最大の企業グループにすら正面から戦いを挑むその姿勢は、良くも悪くも「日本のアクティビズムが新たな次元に入った」ことを象徴しています。一方で、その手法は対象企業にとっては脅威そのものであり、「短期的な利益のために企業を揺さぶる」という批判も根強くあります。エリオットを評価する際には、彼らが提起する論点(少数株主の権利、親子上場の是非)の正当性と、その手法の過激さを切り分けて見る必要があると筆者は考えます。


2. オアシス・マネジメント(Oasis Management)――香港発、対話と劇場型を使い分ける戦略家

本拠地:香港|設立:2002年|創業者:セス・フィッシャー|特徴:日本株を中心としたアジアのガバナンス改革を提唱

オアシス・マネジメントは、セス・フィッシャー氏が2002年に設立した香港拠点のヘッジファンドです。フィッシャー氏はニューヨークのイェシーバー大学を1993年に卒業後、イスラエル国防軍に勤務し、その後1995年から米ヘッジファンドのハイブリッジ・キャピタル・マネジメントでアジア投資業務に7年間従事した経歴を持ちます。2020年6月には「オアシス・ジャパン・ストラテジック・ファンド」を設立し、運用資産の大半を日本株で運用しています。

投資哲学と手法

オアシスの基本姿勢は「割安で放置されていることに相応の原因がある企業」を対象とし、コーポレートガバナンス改善のためのエンゲージメント(対話)を経営陣に要求することです。そして提案が受け入れられない場合には、株主総会やマスメディアに対して論拠を揃えてガバナンス欠如を主張する、いわば「対話」と「劇場型」を巧みに使い分けるスタイルが特徴です。フィッシャー氏自身は東洋経済オンラインのインタビューなどで、アジアのコーポレートガバナンス改革を提唱する立場を一貫して示しています。

オアシスの主張を読み解く際には、①論点(資本政策なのか、事業再編なのか、ガバナンスなのか)と、②フェーズ(対話→公開→株主総会/法的手段のいまどこにいるのか)に分けて理解すると分かりやすい、と筆者は考えています。

主要な投資事例

オアシスの名を最初に広めたのは、任天堂への投資でした。2014年2月、フィッシャー氏は当時の任天堂社長・岩田聡氏に直接書簡を送り、「世界最大級のカジュアルゲームライブラリを持ちながらモバイル市場に参入していないのは機会損失だ」として、モバイルゲーム開発への参入を強く提言しました。この書簡はウォール・ストリート・ジャーナルなどで報道され、株主からのモバイルシフト圧力の象徴となりました。後に任天堂がスマートフォン向けゲーム事業に乗り出したことで、これはオアシスの「成功事例」として広く語られるようになります。

その後の代表的な事例としては、サン電子(2019年に大株主となり、2020年に業績不振を理由とした取締役4人の解任を要求してプロキシーファイトとなり、オアシスの提案が過半数の賛成で可決され4人が解任)、東京ドーム(2020年に「非効率的な経営」として取締役解任を要求しTOBを示唆。読売新聞グループ本社の仲介で三井不動産が完全子会社化を表明すると一転して支援に回った)などが挙げられます。

また、英AVI(後述)が点火したフジテックのガバナンス問題(創業家と会社の不透明な取引)を引き継ぎ、2023年2月の臨時株主総会で創業家出身の内山高一会長(当時)を事実上解任に追い込んだ案件は、日本のコーポレートガバナンス史でも極めて異例の「アクティビストによる会長解任」として記憶されるべき出来事です。

なお、過去には負の歴史もあります。2011年9月、香港証券先物委員会は、2006年の日本航空の公募増資における相場操縦を理由に、オアシスとフィッシャー氏に対して戒告処分と750万香港ドルの制裁金を課したことを発表しています。

2025〜2026年にかけては、前述のエリオットと並んで豊田自動織機のTOB価格が過小評価だとして反対の意向を表明するなど、大型案件でも存在感を示し続けています。

筆者の評価

オアシスの巧みさは、「対話を尽くしたが動かなかった」という大義名分を積み上げたうえで、ここぞという局面で劇場型の攻勢に転じる、その緩急の付け方にあります。日本企業のガバナンスの「弱点」――特に創業家支配や不透明な関連当事者取引――を鋭く突くのが得意で、フジテックの事例はその真骨頂と言えるでしょう。


3. サード・ポイント(Third Point)――ソニーを動かした「辛辣な手紙」の名手

本拠地:米国ニューヨーク|設立:1995年|創業者:ダニエル・ローブ|運用資産:約110〜170億ドル規模

サード・ポイントは、1995年にダニエル・ローブ氏が設立したニューヨーク拠点のヘッジファンドです。ローブ氏は1983年にコロンビア大学を卒業後、PE投資会社のウォーバーグ・ピンカスでキャリアを始め、ジェフリーズ、シティグループなどを渡り歩き、セルサイド・バイサイド双方の経験を積んだうえで同社を設立しました。

投資哲学と手法

サード・ポイントは厳密にはアクティビストに特化したファンドではなく、株式・債券などあらゆる資本構成のなかで、産業や地域の枠を越えて機会があれば投資する「イベント・ドリブン型」のヘッジファンドです。ローブ氏自身は「抜け目のないオポチュニスト(好機主義者)」と評され、市場やファンダメンタルズが変化すれば、保有ポジションを臆することなく売却して新たな機会を追求します。

そんな同社がアクティビストとして恐れられる理由は、ローブ氏が投資先企業の経営幹部に対して、洞察に富んだ、時に辛辣な内容の「手紙」を送りつけ、場合によってはそれを公表することにあります。米国では過去にヤフーへの投資で当時のCEOを辞任に追い込んだことでも知られます。レバレッジは抑制的で、買いポジションが全体の110〜120%程度、売りはそれより少なくしつつ「流行・不正・失敗」をキーワードに積極的な空売りも行うのが特徴です。

日本での投資事例

日本でサード・ポイントの名を一躍有名にしたのが、ソニー(現ソニーグループ)への二度にわたる関与です。一度目は2013年、エンタテインメント事業の一部分離・上場を求めた案件。二度目は2019年5月、15億ドル相当のソニー株保有を公表し、半導体部門(イメージセンサー事業)のスピンオフ(分離・独立)と、上場子会社の整理を求めました。いわゆる「コングロマリット・ディスカウント(複合企業ゆえの株価の割安さ)」の解消を狙ったものです。しかしソニー経営陣は「事業シナジー」を理由にこれを退け、取締役会と株主の支持を維持することに成功しました。この事例は、当時の日本市場におけるアクティビストの「影響力の限界」を示すものとして記憶されています。

このほか、セブン&アイ・ホールディングス(2015年頃から投資し、複雑なコングロマリット構造を批判して不採算事業の分離・売却を要求)、IHI、ファナック(2015年に株式取得を公表し、1兆円規模の手元資金の有効活用=自社株買いを要求)、ソフトバンクなどに投資してきました。

そして2025年、サード・ポイントは数年ぶりに日本へ「再投資」しました。半導体ウエハーの研磨装置を手掛ける荏原製作所の株式を取得したのです。ローブ氏は日本経済新聞の取材に対し、「企業自身がコスト削減、株主還元などを推し進め、資本市場にとっていい方向に進み始めた」と日本企業の変化を語り、投資手法も「圧力から対話へ」と軸足を移しつつあることを示唆しました。

筆者の評価

サード・ポイントの面白さは、純粋なアクティビストというより「機を見るに敏なマルチストラテジスト」である点です。ソニーで見せた強硬姿勢から、近年の荏原での対話路線へと、日本企業の変化に合わせて自らのスタイルも柔軟に変えてきました。ローブ氏の「手紙」は今や一つの文芸ジャンルと言えるほど有名で、その一通が経営陣を震え上がらせる――そんな影響力を持つ稀有な投資家です。


4. バリューアクト・キャピタル(ValueAct Capital)――取締役を送り込む「協調型」の雄

本拠地:米国カリフォルニア州サンフランシスコ|設立:2000年|創業者:ジェフリー・アッベン|運用資産:約150億ドル

バリューアクト・キャピタルは、2000年にジェフリー・アッベン氏がサンフランシスコで設立した投資ファンドです。運用資産は約150億ドル(約1.6兆円)とアクティビストのなかでも有数の規模を誇りますが、サード・ポイントなど他のアクティビストと比べると「穏健派」「協調型」と見なされています。

投資哲学と手法

バリューアクトは自らの目標を「投資先企業がポテンシャルを最大限発揮し、グローバルチャンピオン企業へ変革する過程をサポートすること」と位置づけています。同時に10〜18社程度の投資先を持ち、発行済株式の5〜10%程度を握ったうえで、経営陣の合意を得て取締役を派遣し、内部から財務体質の改善や事業の立て直しを行うのが基本スタイルです。同社の内部チームはこれまでに55を超える上場企業の取締役会の席を経験してきました。過去の投資先にはマイクロソフト(バルマーCEO時代の低迷期に関与)やロールス・ロイスなど40社以上が含まれます。

「非公式の場で常に経営陣との関係構築に努める一方、その方法が効果的でない場合は株主としての権利を行使することを厭わない」――これがバリューアクトの基本姿勢です。

日本での投資事例

バリューアクトは2017年から日本投資を本格化させました。

最初の象徴的な成功事例がオリンパスです。投資した2017年当時、オリンパスは粉飾決算事件の後遺症から経営危機にありました。バリューアクトは取締役を送り込む株主提案を行い、社内には否定的な声もありましたが、北米でのモトローラなど他の投資先への調査で好意的な反応が多かったこともあり、最終的にオリンパスは提案を受け入れました。その後オリンパスは非中核事業を売却して医療(メドテック)分野に集中し、2023年3月期には売上・利益ともに過去最高を記録、営業利益率は3%台から20%超へと劇的に改善しました。これはバリューアクトの「建設的アプローチ」の成功モデルとされています。

また2020年3月には化学メーカーのJSRの株式を6.2%保有していることを公表し、社外取締役を派遣。JSRはその後、産業革新投資機構(JIC)による非公開化(TOB)へと進みました。任天堂やトプコンへの投資も知られています。

一方で、すべてが成功だったわけではありません。セブン&アイ・ホールディングスでは2020年から主要株主となり、コンビニ事業を中核としたグローバルチャンピオン創出を提言。2022年1月には部門売却や分社化を含む「戦略的選択肢」の検討を求める書簡を送り、4.4%の株式を保有していることを明らかにしました。2023年には取締役選任を巡って会社側と公然と対立し、株主総会で委任状争奪戦(プロキシーファイト)にまで発展しましたが、最終的にバリューアクトは敗北を喫しました。日本投資責任者はこのとき「目標達成まで保有する」と語りましたが、この敗北は同社にとって大きな学習機会となったはずです。近年はマネーフォワードのような成長企業との資本業務提携など、関与の手法を多様化させています。

筆者の評価

バリューアクトの真価は、「敵対」ではなく「同盟」によって企業を変えるところにあります。経営陣の合意を得て取締役を送り込み、内部から地道に改革を進めるオリンパスの手法は、エリオットやサード・ポイントの「外圧型」とは対照的です。ただしセブン&アイでの敗北が示すように、協調型であっても経営陣の支持と他の株主の賛同を得られなければ目的は達成できません。「穏健派」というレッテルの裏に、目的達成のためには委任状争奪戦も辞さない強かさがある点を見落としてはなりません。


5. 3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners)――シンガポール発、富士ソフトを動かした論客

本拠地:シンガポール|設立:2015年|創業者:長谷川寛家(はせがわ・かんや)|特徴:日本株特化のバリュー投資

3Dインベストメント・パートナーズは、2015年に長谷川寛家氏がシンガポールで設立した、日本株特化のバリュー投資を行う独立系資産運用会社です。長谷川氏は設立前、シンガポールのマルチストラテジーファンドBroad Peak、ゴールドマン・サックス、そしてヘッジファンドのチューダー・インベストメントで勤務した経歴を持ちます。SEC(米証券取引委員会)にも投資顧問業者として登録されています。

投資哲学と手法

3Dは投資哲学を「複利的な資本成長を通じた中長期的な価値創造」と「経営陣とのパートナーシップ」と公式に掲げています。運用対象を日本株に特化させ、割安(特にPBR1倍割れ)と判断した銘柄に投資するバリュー投資を専門とします。2022年2月には日本版スチュワードシップ・コードに基づく責任ある機関投資家としての声明を発表し、2025年5月には議決権行使方針も公表するなど、制度的な正統性を重視する姿勢が目立ちます。

3Dのビジネスモデルは、いわば「ガバナンス・アービトラージ(裁定取引)」と表現できます。非効率な経営や低い株価に甘んじてきた日本企業に、資本市場からの規律を強烈に突きつけることで、企業価値の改善と株価上昇を狙うのです。彼らの特設サイトの命名(「compound=複利」を冠する)にも、その哲学が表れています。

主要な投資事例

3Dの名を決定づけたのが富士ソフトの非公開化を巡る一連の攻防です。3Dは富士ソフトの企業価値最大化のため、まず非公開化の検討プロセスの実現を求め、社外監査役や独立社外取締役の選任を株主提案。専用サイト「compoundfujisoft.com」でプレゼンテーション資料を公開し、「取締役会の独立性と監督機能を向上させ、企業価値を飛躍的に成長させる」と訴えました。この案件は最終的に大型のTOB(買収)合戦へと発展し、3Dはその中心的な役割を果たしました。

もう一つの代表例がサッポロホールディングスです。3Dは「compoundsapporo.com」を立ち上げ、サッポロが「資本規律の不備、及び株主へのコミットメント不備により、深刻なアンダーマネジメントの状況に陥っている」と痛烈に批判しました。具体的には、①ROE(自己資本利益率)がグローバル最低水準、②営業利益率もグローバル最低水準、③海外酒類における大型M&Aがすべて減損を計上――といった点を挙げ、さらに「過去19年間で発表した中期経営計画の最終計画達成率は0%」という衝撃的な数字を突きつけました。サッポロが保有する不動産事業の切り離し(不動産価値の顕在化)が大きな論点となった案件です。

このほか大日本印刷、日鉄ソリューションズ(日本製鉄の上場子会社)などにも公開書簡を送るなど、近年最も活発に活動するアクティビストの一つとなっています。前述のとおり、エフィッシモやシルチェスターと並ぶ上位の投資残高を持ち、2025年には投資残高が大きく増加したと報じられています。

筆者の評価

3Dの強みは、感情論ではなく徹底したデータと論理で経営陣を追い詰める「論客」ぶりにあります。「中期経営計画の達成率0%」のような、誰が見ても反論しにくいファクトを積み上げて世論を味方につける手法は非常に効果的です。シンガポールを拠点としながら日本企業のガバナンスを知り尽くした創業者の存在が、その精緻な分析を支えていると見ています。


6. ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments)――日本株投資の「老舗」エンゲージメント・スペシャリスト

本拠地:米国カリフォルニア州ロサンゼルス|設立:1999年|創業者:ジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世ほか|運用資産:約54億ドル(2025年6月末時点)

ダルトン・インベストメンツは、1999年にジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世氏、スティーブン・D・パースキー氏、ギフォード・コムズ氏の3人が米ロサンゼルスで設立したプライベート投資顧問会社です。創業メンバーや運用担当者自身が出資している点が大きな特徴で、投資家とファンド側の利益が一致しやすい仕組みを採っています。東京・香港・ソウル・ムンバイ・シドニーなどに調査拠点を持ち、運用資産は約54億ドル(約8,370億円、2025年6月末時点)規模です。

投資哲学と手法

ダルトンはバリュー型の投資戦略を採り、厳格なボトムアップ調査に基づいて割安銘柄を発掘します。自らを「エンゲージメント・スペシャリスト」と称し、「株主民主主義の発展と健全な資本市場の形成に貢献すること」を使命に掲げています。日本株ファンドの代表例「Dalton Kizuna Fund(ダルトン絆ファンド)」は、対話を重ねながら厳選銘柄に集中投資するロングオンリー戦略です。

ダルトンが東京に事務所を構えたのは2000年と、会社設立の間もない頃。それだけ早くから日本株に強い関心を持っていたことがうかがえます。2003年には日本のMBO(経営陣による買収)に焦点を当てたファンドを立ち上げ、2004年には帝国臓器製薬(現あすか製薬ホールディングス)にMBOを提案するなど、当時としては時期尚早とも言える先進的な活動を行っていました。

ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)

ダルトンを語るうえで欠かせないのが、共同創業者のローゼンワルド氏が2020年1月に英国で立ち上げた「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)」です。運用規模2億ポンド(約290億円)でスタートし、日本の中堅企業20社程度に投資して、自社株買いや増配による資本効率の向上を目指します。ロンドン証券取引所に上場する投資会社という形態をとり、日本の小型バリュー株に特化したアクティビズムを展開しています。冒頭で触れたアクティビスト投資残高ランキングでも、このNAVFが2025年に大きく順位を上げたことが報じられました。

近年はフジ・メディア・ホールディングスや江崎グリコへの関与も知られ、2025年にはSBIアセットマネジメントと組んで「SBI ダルトン日本アジア・アクティビストファンド」という個人向け投資信託も登場しました。

筆者の評価

ダルトンは、日本のアクティビズムにおける「生き字引」とも言える老舗です。20年以上にわたり日本企業と対話を重ねてきた蓄積があり、その手法は派手な劇場型というより、地道で長期的なエンゲージメントが中心です。創業者自身が資金を投じている点も、投資家との利益一致という観点で評価できます。エフィッシモやダルトンの兄弟ファンドが投資残高上位に並ぶ事実は、日本株バリュー投資の世界における同社の存在感を物語っています。


7. シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(Silchester International Investors)――「アクティビストではない」と名乗る静かなる巨人

本拠地:英国ロンドン|設立:1994年|創業者:スティーブン・バット(モルガン・スタンレー出身)|運用資産:約4.4兆円(2018年時点)〜約550億ドル(2025年6月末時点)

シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは、米モルガン・スタンレー出身のスティーブン・バット氏が1994年にロンドンで設立した投資ファンドです。財務分析をもとに割安銘柄をピックアップし、長期保有するバリュー投資家として世界的に知られています。運用資産は2018年時点で約4.4兆円、うち約1兆円が日本企業に投資されており、2025年6月末時点では約550億ドルへと規模を拡大しています。日本市場でのアクティビストとしては、旧村上ファンド系のエフィッシモに次ぐ規模とされてきました。

「アクティビストではない」という自己規定

シルチェスターの最大の特徴は、同社が自らを「アクティビスト投資家ではない」と規定している点です。同社は「少数株主の長期利益を守る」という原則を掲げ、議決権行使ガイドラインを毎年公開し、英国スチュワードシップ・コードと日本版コード双方に署名、議決結果の要約を四半期ごとに報告するなど、透明性の高い「建設的アクティビズム」を志向しています。平均保有期間は5年以上と長く、京都銀行の事例では2006年の投資開始から十数年にわたって業績や資本配分について定期的に協議してきたと述べています。「買ってから育てる」方針を徹底し、激しい委任状争奪戦は避ける傾向にあります。

地方銀行への一斉株主提案

しかし、「穏健派」と見られていたシルチェスターが日本の地銀業界に衝撃を与えたのが、2022年の地方銀行への一斉株主提案でした。岩手銀行、滋賀銀行、京都銀行、中国銀行といった複数の地銀に対し、株主総会で配当に関する株主提案を行ったのです。

きっかけは2019年、滋賀銀行の高橋祥二郎頭取(当時)宛てに届いた一通の英文書簡でした。シルチェスターは滋賀銀株を非公開分も含め9.1%保有していると記し、自らを「アクティビスト投資家ではない」と断りつつも、コーポレートガバナンスが不十分で配当などの資本政策が適切でないと指摘。取締役の一部交代や増配、自社株買いなど株主還元の充実を求めました。滋賀銀のPBRは0.35倍と極端な割安水準にありました。

その後の地銀への株主提案で示した「増配方程式」とも呼ぶべき計算式が秀逸でした。彼らは単に「増配しろ」と求めるのではなく、配当総額を「(A) 各行が保有する株式の受取配当金の全額」+「(B) (A)以外の純利益の50%」と定めるよう要求したのです。これは「銀行の本業(融資)と関係のない政策保有株から得る配当は全額株主に返し、本業の利益も半分は還元せよ」という、極めて論理的かつ反論しにくいロジックでした。経営陣が「低位にとどまるROEを改善する姿勢を見せない」ことに業を煮やした結果と報じられています。

このほか奥村組(2007年から保有し、ピーク時には12%超)、中国銀行、沖縄銀行、ヤマハ発動機、ニコン、京都フィナンシャルグループなど、PBRの低い割安銘柄を中心に幅広く投資しています。2017年にはADKホールディングスのMBO提案に反対し、価格引き上げを実現させた実績もあります。

筆者の評価

シルチェスターは、その名のとおり「静かなる巨人」です。普段は表に出ず、長期保有のバリュー投資家として振る舞いますが、いざ経営陣の怠慢に「業を煮やす」と、地銀一斉提案のように極めて論理的な要求を突きつけてきます。「アクティビストではない」という自己規定は、過度に敵対的なイメージを避けつつ実質的な圧力をかける、賢明なブランディングとも言えるでしょう。地銀の「増配方程式」は、政策保有株問題に切り込む象徴的な提案として、今後も他の投資家に影響を与えると見ています。


8. AVI/アセット・バリュー・インベスターズ(Asset Value Investors)――割安持株会社を狙う英国の老舗

本拠地:英国ロンドン|特徴:投資信託(クローズドエンド・ファンド)運用の老舗で、割安な持株会社・資産バリュー株に投資

AVI(アセット・バリュー・インベスターズ)は、英FCA(金融行動監視機構)の認可を受け、米SECにも投資顧問として登録されているロンドン拠点の運用会社です。同社が運用する投資信託「ブリティッシュ・エンパイア・トラスト(BTEM)」などを通じて、世界中の割安な資産(特に持株会社や資産バリュー株)に投資してきた歴史を持ちます。

投資哲学と手法

AVIの得意分野は、「保有資産の価値に対して株価が著しく割安に放置されている持株会社」を見つけ出すことです。日本企業には、本業に加えて大量の上場株式や不動産、現金を抱えながら、その合計価値よりも時価総額が低い――いわゆる「資産バリュー株」が数多く存在します。AVIはこうした企業に投資し、保有資産の価値を顕在化させる(株主に還元させる、あるいは事業に集中させる)よう求めます。

日本での投資事例

AVIの日本での代表的な投資先には、ソニー、TBSホールディングス、フジテック、加藤産業、カナデン、大和冷機工業、帝国繊維、東亜合成、デジタルガレージ、西松屋チェーン、コニシ、積水樹脂、三ツ星ベルト、日産車体など、多数の中堅企業が並びます。

特筆すべきは二つの事例です。一つはフジテックです。AVIは2020年に指名委員会等設置会社への移行などのガバナンス改革案を株主提案しましたが否決されました。しかしAVIが点火した「創業家と会社の不透明な取引」という火種は消えず、2022年にこの問題を引き継いだオアシス・マネジメントが徹底追及し、2023年2月の臨時株主総会で創業家出身の会長が事実上解任される結果につながりました。AVIは直接の勝者ではないものの、問題提起の「着火点」として重要な役割を果たしたのです。

もう一つはTBSホールディングスです。AVIは運用する投資信託BTEMがTBSの株主である立場から、TBSが保有する大量の政策保有株式(投資有価証券)を問題視しました。「TBSの時価総額が保有資産価値を大幅に下回っている」として、保有有価証券の現物配当または現金配当を行う株主提案を株主総会に提出。専用ウェブサイトを開設して他の株主に支持を呼びかけました。結果は否決に終わり、AVIは「同じTBSの株主から多くの支持を得られなかったことはとても残念だ」とのコメントを残しています。

筆者の評価

AVIは派手さこそないものの、「資産価値と時価総額の乖離」という一点を徹底的に突く専門性の高さが光ります。フジテックの事例が示すように、必ずしも自らが勝者にならなくとも、問題提起そのものが後続のアクティビストや市場全体を動かす「触媒」となることがあります。日本に数多く眠る「資産バリュー株」を発掘する眼力は、今後も注目に値します。


9. ファーツリー・パートナーズ(Fir Tree Partners)――JR九州に挑んだディストレスト型

本拠地:米国ニューヨーク|設立:1994年|特徴:ディストレスト投資・イベントドリブン型のマルチストラテジー

ファーツリー・パートナーズは、1994年に設立されたニューヨーク拠点のヘッジファンドです。世界中の企業を投資対象とし、ディストレスト債(経営難企業の債券)やイベントドリブン投資を得意とするマルチストラテジー型のファンドで、東芝のアクティビスト連合に参加したこともあります。日本企業にも投資してきましたが、大量保有報告書で保有比率が5%を超えたのは、後述するJR九州が初めてでした。

JR九州を巡る攻防

ファーツリーの名を日本で広めたのが、JR九州(九州旅客鉄道)への株主提案です。JR九州は2016年10月に上場した、旧国鉄から続く公共性の高い鉄道会社です。ファーツリーはこのJR九州に対し、2020年・2021年と連続して株主提案を行いました。

注目すべきは、2020年6月の株主提案にあたり、ファーツリーが自ら株主提案の内容を説明するウェブキャスト(ライブ配信)を行ったことです。アクティビストが提案先企業の株主に向けて直接メッセージを発信するこの手法は、当時「アクティビストの活動が新しい次元に入った」と評されました。

ファーツリーの主張の核心は、JR九州が保有する不動産事業の収益性に関する情報開示の要求でした。具体的には「JR九州が保有する一切の居住用・商業用不動産に係る収益、EBITDA、NOI(純営業収益)及び鑑定NOI利回りを開示せよ」という要求と、新規取締役の選任、配当性向の引き上げ(35%目標、最低1株93円)などです。

これに対しJR九州側は、「駅ビル運営は鉄道事業と一体で運営されているため、個別不動産の情報開示は不適切だ」などとして反対。株主総会ではファーツリーの提案は否決されました(不動産情報開示の支持率は34%程度)。マネージング・ディレクターのアーロン・スターン氏は記者会見で「鉄道事業には口出ししない」と述べる一方、赤字ローカル線を多く抱えるJR九州の鉄道事業をどう持続させるかという、人口減少下の日本社会全体に通じる課題を投げかけることにもなりました。

筆者の評価

ファーツリーのJR九州案件は、「公共性の高いインフラ企業にアクティビズムは馴染むのか」という難問を浮き彫りにしました。株主価値の最大化を求める論理と、地域の足を守るという公益性は、必ずしも一致しません。ウェブキャストで直接株主に訴えるという先進的な手法は評価できますが、提案が否決された事実は、公益企業に対するアクティビズムの難しさを示しています。近年の日本では、エリオットやエフィッシモほどの大きな存在感ではないものの、ディストレスト投資の知見を活かした独自のポジションを持つファンドです。


10. スターボード・バリュー(Starboard Value)――取締役会刷新も辞さない米国の強硬派

本拠地:米国ニューヨーク|設立:2002年|創業者:ジェフリー・スミス|特徴:徹底したボトムアップ分析と取締役会刷新を辞さない強硬なエンゲージメント

スターボード・バリューは、ジェフリー(ジェフ)・スミス氏が率いるニューヨーク拠点の投資顧問会社です。コーウェン・グループの投資運用子会社ラミアスLLCからのスピンオフによって設立され、2002年以来、ファンダメンタルズ重視の徹底したボトムアップ分析と、取締役会の刷新をも辞さない強硬なエンゲージメント手法で知られています。

投資哲学と手法

スターボードの真骨頂は、米国上場の中堅企業を中心に、企業の非効率性を冷徹に摘出し、再建のための具体的な「プラン」を提示することにあります。特にソフトウェア企業の評価では「Rule of 40(売上成長率と利益率の合計が40%を超えるべきという経験則)」のような明快な指標を用い、改善余地を数値で突きつけます。必要とあらば取締役会の全面刷新を求める委任状争奪戦も辞さない点で、典型的な「米国型アクティビスト」です。

米国での代表的な事例は枚挙にいとまがありません。古くはオフィス用品のステープルズ、レストランチェーンのダーデン・レストランツ(取締役会を総入れ替えさせたことで有名)、近年ではセールスフォース、スプランク(2023年にシスコへ280億ドルで売却)、オートデスク、半導体のクオルボ(Qorvo)、そしてジョンソン・エンド・ジョンソンからスピンオフしたケンビュー(Kenvue/タイレノールやリステリンのメーカー)などに関与しています。

日本との関わり

スターボードは活動の中心が米国市場であり、日本企業に対する大型の単独キャンペーンは、エリオットやエフィッシモほど目立つものではありません。日本で活動する主要アクティビストを論じる文脈では「米国系の強硬派」として名前が挙がる存在です。日本市場全体がアクティビストのホットスポットとなるなか、米国型の取締役会刷新手法がいつ本格的に日本へ持ち込まれるか、という観点で注視すべきファンドと言えます。

筆者の評価

スターボードは、ジェフ・スミス氏という「取締役会を入れ替える男」の存在感が際立つファンドです。ダーデン・レストランツで取締役全員を交代させた実績は、米国アクティビズムの一つの到達点でした。日本では本格展開していないものの、その手法――明快な指標と具体的な再建プラン、そして取締役会刷新という最終兵器――は、日本のアクティビストたちにとっても一つの「教科書」となっています。今後、日本の機関投資家がより株主提案に賛同するようになれば、スターボード型の手法が日本でも威力を発揮する可能性があると筆者は見ています。


11. シティインデックスイレブンス(旧村上ファンド系)――日本アクティビズムの「原点」の現在

本拠地:日本|系譜:旧村上ファンド(M&Aコンサルティング)|中心人物:村上世彰、野村絢(村上氏の長女)|特徴:日本のアクティビズムの草分けの系譜を継ぐ国内勢

シティインデックスイレブンスは、日本のアクティビズムの「原点」とも言える旧村上ファンド系の中核企業です。この系譜を理解するには、まず村上世彰(むらかみ・よしあき)氏という人物から語る必要があります。

村上ファンドの歴史

村上氏は経済産業省(旧通商産業省)の官僚出身で、1999年にM&Aコンサルティング(通称・村上ファンド)を設立。昭栄、東京スタイル、ニッポン放送など、潤沢な資産や現金を抱えながら株価が低迷する企業を次々と標的にし、「物言う株主」として一世を風靡しました。日本に「株主が経営に物を言う」という文化を初めて本格的に持ち込んだ存在です。しかし2006年、ニッポン放送株を巡るインサイダー取引(証券取引法違反)事件で村上氏が逮捕され、村上ファンドは事実上解体に追い込まれました。

旧村上ファンド系の「現在」

村上ファンドは1999年設立・2006年解散ですが、その系譜は途絶えていません。現在は村上世彰氏の長女である野村絢(のむら・あや)氏を中心に、シティインデックスイレブンス、シティインデックスファースト、ATRA、レノ、エスグラントコーポレーション、フォルティスといった複数の関連会社が連携しながら、活発に活動を続けています。なかでもシティインデックスイレブンスは、現在最も活発に大量保有報告書を提出している中核企業です。

その投資対象は、PBR1倍割れで、潤沢な現金や資産を抱えながら有効活用できていない企業――まさに村上ファンド時代から一貫した選定基準です。保有銘柄には、リョーサン、寺岡製作所、サカイオーベックス、東亜建設工業、中国塗料、ホシデン、日清紡ホールディングス、クレディセゾン、住友大阪セメント、エクセディ、髙島屋、あおぞら銀行など、幅広い企業が並びます。

フジ・メディア・ホールディングスへの再登場

2025年から2026年にかけて、旧村上ファンド系が最も世間の注目を集めたのが、フジ・メディア・ホールディングスへの大量投資でした。元アナウンサーへの性暴力問題が経営を揺るがし、広告主が離れて2025年3月期の連結業績は赤字に転落、長年の幹部が辞任に追い込まれたフジ・メディアHD。そこに目をつけたのが村上氏でした。

Bloombergの報道によれば、村上氏関連の投資会社などは2025年7月3日までに1100億円以上を投じてフジHD株の16%を保有する筆頭株主に躍り出ました(関連会社合計では一時17.95%)。村上氏らは保有比率を33%まで引き上げることをちらつかせつつ、子会社の売却などを要求しました。村上氏にとってフジHD(旧フジテレビ・ニッポン放送系)は、20年前のニッポン放送事件の因縁の相手でもあり、「物言う株主の草分けが20年ぶりにフジと再対決」という構図は大きな話題を呼びました。2025年末にはTOB(株式公開買付け)の買付方法を変更するなど、攻防は続いています。

このほか、DeNA(横浜DeNAベイスターズのオーナー企業。安定したゲーム事業のキャッシュフローと潤沢な現金が標的に。関連会社合計で11%超保有)、エクセディ(自動車部品。関連会社合計で約12%保有)なども旧村上系の代表的な保有銘柄です。

筆者の評価

旧村上ファンド系は、日本のアクティビズムの「生みの親」であり、今なお最前線に立ち続ける稀有な存在です。村上氏個人のインサイダー事件という負の歴史を抱えながらも、その投資哲学――「PBR割れ+資産・現金の有効活用余地」という選定基準――は一貫しており、現在は次世代の野村絢氏へと引き継がれています。フジ・メディアHDへの関与は、不祥事で混乱した企業に資本市場の規律を持ち込むという、アクティビズムの一つの典型例と言えるでしょう。海外勢が論理とデータで攻めるのに対し、村上系は世論とメディアを巧みに巻き込む「劇場型」の伝統を色濃く残しているのが特徴です。


12. ストラテジックキャピタル(Strategic Capital)――「ガバナンス絶対主義」を掲げる丸木強の挑戦

本拠地:日本(東京・渋谷)|設立:2012年|創業者:丸木強(まるき・つよし)|特徴:旧村上ファンド創業メンバーが率いる国内アクティビスト

ストラテジックキャピタルは、旧村上ファンド(M&Aコンサルティング)の創業メンバーであった丸木強氏が、2012年に設立した日本拠点のアクティビストファンドです。

丸木強という人物

丸木氏は東京大学農学部を卒業後、農林中央金庫に入庫し投資部門でオルタナティブ投資チームを主導。2004年に農林中金を退職後、村上世彰氏のM&Aコンサルティングでアクティビスト投資に従事しました。村上ファンドが解体された後、不動産関連の公開株投資などを経て、2012年にストラテジックキャピタルを設立、同年12月からアクティビスト戦略のファンド運用を再開しました。UCLAアンダーソン経営大学院でMBAも取得しています。

丸木氏は、日本におけるアクティビズムの「成功体験(企業を動かす力)」と「失敗体験(社会的批判と法的リスク)」の両方を当事者として知り尽くした人物です。ストラテジックキャピタルの設立は、その経験に基づき「社会的に受容されるアクティビズム」の形を模索した結果と見ることができます。

投資哲学と手法

ストラテジックキャピタルは、ミッションとして「顧客利益の最大化」と「日本経済の活性化への貢献」の二つを掲げています。丸木氏は「株主は企業の主権者だからもっと気軽に物を言えばいい」「世の中の付加価値は営利企業しか生まない。日本企業のROEがずっと低ければ、世の中に付加価値を生めていないということだ」と語り、東証のPBR1倍割れ改革を強く支持する立場です。

同社の手法の特徴は、株主提案の内容を専用サイトで詳細に公開し、WACC(加重平均資本コスト)やROEといった財務理論に基づいて論理的に経営改善を迫る点です。例えば極東貿易への提案では、「ROEがWACCを下回っている可能性があり、資本コストへの意識を高め、収益率の高い事業に集中すべきだ」と提言しました。投資先にはノリタケ、極東貿易、大阪製鉄(日本製鉄の上場子会社)などが知られ、2023年末には大阪製鉄株の大量保有を明らかにしました。調査会社のファンドランキングでは、2023年に日本株部門で首位になったと報じられています。

経済産業省が2023年8月に策定した「企業買収における行動指針」によって「敵対的買収」が「同意なき買収」と呼ばれるようになったことを、丸木氏は前向きに評価しています。

筆者の評価

ストラテジックキャピタルは、村上ファンドの「DNA」を継ぎつつ、その負の側面(社会的批判・法的リスク)を踏まえて「社会的に受容されるアクティビズム」を志向している点が興味深いファンドです。丸木氏の主張は財務理論に裏打ちされており、感情論ではなく「資本コストを上回るリターンを上げよ」という、東証改革の本質と完全に一致しています。後述するマネックス・アクティビスト・ファンドのフォーラムにも登壇するなど、日本のアクティビズムの「論客」としての役割も担っています。


13. エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(Effissimo Capital Management)――東芝を動かした「国内最強のサイレント・アクティビスト」

本拠地:シンガポール|設立:2006年|創業者:高坂卓志、今井陽一郎ら|運用資産:日本株の推定運用額1兆円超|特徴:日本企業主体の投資ファンドでは最大規模

エフィッシモ・キャピタル・マネジメントは、日本企業を主な投資対象とするアクティビストとして、日本株主体のファンドでは最大規模を誇り、しばしば「国内最強のアクティビスト」と呼ばれます。

村上ファンドのDNAと「沈黙」

エフィッシモのルーツも旧村上ファンドにあります。2006年6月、村上ファンドがニッポン放送株買い占めを巡る証券取引法違反事件で解体に追い込まれた直後、当時20代だった村上ファンドの幹部・高坂卓志氏、今井陽一郎氏らがシンガポールに当社を設立しました。設立後、エフィッシモは米国の大学基金を説得して出資を取り付けることに成功し、ミシガン州・バーモント州・ノースカロライナ州の退職年金基金、カナダ年金制度投資委員会、欧州合同原子核研究所(CERN)といった大口機関投資家の資産運用を担うまでになりました。ペンシルベニア州公立学校職員退職年金基金(PSERS)の開示資料によれば、2006年から2018年までの年平均実質利回りは12.9%と、同期間のMSCIジャパンインデックスの約2%を大きく上回っています。

エフィッシモの最大の特徴は、めったに公の場に姿を現さない「サイレント(沈黙)」な姿勢です。村上氏がマスコミを巻き込んで世論に訴える手法を多用したのに対し、エフィッシモは「正論で会社の非を論い、静かに、しかし執拗に追い詰める」手法を特徴とします。Bloombergが「設立から15年間の沈黙を経て、いまや東芝、ひいては『日本株式会社』に変化を迫るうねりの先頭に立っている」と評したとおりです。

川崎汽船――「クリーピング・テイクオーバー」の見本

エフィッシモの戦術を象徴するのが川崎汽船です。同社は2015年9月に川崎汽船株6.18%保有を開示した後、「クリーピング・テイクオーバー」と呼ばれる戦術――市場で少しずつ株式を買い集め、徐々に保有比率を高めて経営に揺さぶりをかける手法――を駆使しました。2018年6月には保有比率が38.99%に達します。株式を3分の1超保有すると、M&Aや定款変更などの「特別決議」を単独で阻止できる(拒否権を握る)ため、エフィッシモの提案を断ることは事実上不可能になりました。結果、2019年に川崎汽船はエフィッシモから内田龍平氏を社外取締役として受け入れました。2025年時点でも川崎汽船への保有比率は30%台後半(38.52%など)という支配的とも言える水準を維持しており、経営への強い影響力を持ち続けています。

東芝――日本ガバナンス史に残る「歴史的勝利」

エフィッシモの名を決定的にしたのが東芝です。2017年、東芝が巨額損失で株価が急落した局面で、エフィッシモは一気に買い増して8.14%を取得し、筆頭株主に浮上しました。

そして2021年3月18日、東芝の臨時株主総会で、筆頭株主であるエフィッシモの株主提案が可決されました。これは日本のコーポレートガバナンス史上、画期的な出来事と言われています。提案内容は、2020年7月の定時株主総会の運営の適正性について独立調査を求めるものでした。背景には、複数の株主の議決権行使書が信託銀行の集計業務で無効になっていたこと、さらに東芝側の圧力で議決権行使を断念した株主がいるとエフィッシモが主張したことがありました。会社側が「問題なし」とした調査に対し、エフィッシモは第三者による再調査を求め、それを株主総会で勝ち取ったのです。この独立調査の結果、東芝の株主総会運営に問題があったことが明らかになり、最終的に東芝は非公開化(後に日本産業パートナーズ=JIPによる買収)への道を歩むことになりました。

このほか、リコー、ヤマダホールディングス、第一生命ホールディングス、日産車体、不動テトラ、太平洋工業、UACJなど、製造業からサービス業まで幅広い企業の大株主として存在感を発揮しています。

筆者の評価

エフィッシモは、村上ファンドの「失敗」から最も多くを学んだファンドだと筆者は考えます。村上氏が世論を煽る派手な手法で社会的反発と法的リスクを招いたのに対し、エフィッシモは「忍耐」と「大義名分」を徹底しました。東芝で見せた「劇場型のガバナンス革命」と、川崎汽船で見せた「静かなる支配権の掌握」――この両極端の戦術を使い分けられる実行力こそが、彼らを「国内最強」たらしめています。沈黙を貫きながら、いざという時に正論で経営の本丸を突く。その静かな迫力は、他のどのアクティビストとも異なる独特のものです。


14. みさき投資(Misaki Capital)――敵対せず「ともに働く」エンゲージメント投資の旗手

本拠地:日本|設立:2013年(前身の投資助言会社は2005年)|創業者:中神康議(なかがみ・やすのり)|特徴:「働く株主®」を掲げる長期エンゲージメント投資

みさき投資は、「物言う株主」とも「ハゲタカ」とも一線を画す、独自のポジションを築いてきた国内ファンドです。掲げるコンセプトは「働く株主®(はたらくかぶぬし)」。投資先の経営陣と敵対するのではなく、「ともに働く」ことで上場企業の価値向上を応援する「エンゲージメント投資ファンド」を標榜しています。

中神康議という人物

創業者の中神康議氏は、慶應義塾大学経済学部を卒業後、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)やコーポレイトディレクション(CDI)のパートナーとして約20年弱にわたり経営コンサルティングに従事しました。数多くのクライアント企業の価値向上に携わった実体験から「働く株主®」投資モデルの有効性を確信し、2005年に投資助言会社を設立して厳選長期エンゲージメント投資を開始。2013年にみさき投資を設立しました。カリフォルニア大学バークレー校でMBAを取得し、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)でもあります。著書に『三位一体の経営――経営者・従業員・株主がみなで豊かになる』『投資される経営 売買される経営』などがあり、丸井グループの社外取締役、日本取締役協会副会長も務めるなど、投資家でありながら経営の実務にも深く関与しています。

投資哲学と手法

みさき投資の独自性は、「投資家でありながら経営に関する見識を持ち、経営者と膝詰めで事業の話ができ、データドリブンでロジカルに経営者を説得して意思決定を促す」という、極めて精緻なエンゲージメント・モデルにあります。受動的なパッシブ運用でもなく、経営陣と敵対しがちな従来型の「物言う株主」でもない――この第三の道を切り拓いてきました。比較的少数の銘柄に長期集中投資し、企業価値の向上をともに目指すスタイルです。

中神氏は、東証が求める「資本コストや株価を意識した経営」(PBR1倍割れ問題)についても積極的に発言しており、「経営者・従業員・株主がみなで豊かになる」という三位一体の経営観を提唱しています。

筆者の評価

みさき投資は、後述するタイヨウ・パシフィックと並んで「友好的アクティビスト」「エンゲージメント・ファンド」の代表格です。中神氏が経営コンサルタント出身で、自ら社外取締役も務めるという経歴は、「外から圧力をかける」のではなく「内側に入り込んで経営を底上げする」という同社の手法を体現しています。日本企業の経営者にとって、エリオットのような「敵」ではなく、頼れる「パートナー」になりうる存在であり、敵対型アクティビズムへのアレルギーが強い日本の風土に最もフィットしたモデルの一つと言えるでしょう。「働く株主®」という商標登録された概念は、日本のアクティビズムに新たな語彙を加えました。


15. マネックス・アクティビスト・ファンド(Monex Activist Fund)――個人投資家が参加できる「日本初」のアクティビスト投信

運用:マネックス・アセットマネジメント|投資助言:カタリスト投資顧問|中心人物:松本大(まつもと・おおき)|愛称:「日本の未来」(通称「まふ」)

マネックス・アクティビスト・ファンド(以下、MAF)は、これまで紹介してきたファンドとは性格が大きく異なります。機関投資家(プロ投資家)向けがほとんどのアクティビストファンドの世界において、個人投資家が公募投資信託を通じて参加できる、極めて珍しい商品なのです。

ファンドの仕組み

MAFは、マネックスグループのマネックス・アセットマネジメントが運用する公募投資信託で、マザーファンドの運用はカタリスト投資顧問の投資助言を受けて行われます。中心人物は、マネックス証券(マネックスグループ)の創業者である松本大氏です。松本氏はマネックスグループの取締役会議長であり、カタリスト投資顧問の取締役会長として、自ら投資先企業の経営陣や取締役会メンバーとの対話(エンゲージメント)をリードします。

MAFの最大の特徴は、松本氏が「東証プライム上場企業であるマネックスグループを20年以上率いた経験」を基に対話を行う点です。従来のアクティビズムが「投資の専門家」の経験をベースにしていたのに対し、MAFは「上場企業を経営した当事者」の視点を持ち込んでいるのです。投資手法は、個別企業の分析を重視したボトムアップによる銘柄選択で、比較的少数の銘柄に投資し、目的を持ったエンゲージメントや提案を通じて企業価値・株主価値の中長期的向上を目指します。報酬体系は信託財産に対して年率2.20%+成功報酬(ハイウォーターマーク超過分の22%)となっています。

カタリスト投資顧問には、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで日本のスチュワードシップ責任推進を統括し、年間200社以上の企業と対話してきた専門家なども参画しており、日本の企業セクター・規制環境・社会構造を深く理解するプロフェッショナルが多角的にエンゲージメントを行います。

「個人投資家の声」を企業に届ける

MAFのユニークさは、投資先企業の経営者だけでなく、個人投資家・機関投資家、さらには政府との規制・ルール議論、メディアを巻き込んだ情報発信まで含む「包括的なエンゲージメント」を行う点にあります。個人投資家の「声」――投資家としてだけでなく消費者としての声――を企業に届けるという発想は新しく、年に一度の「マネックス・アクティビスト・フォーラム」には数千名規模の参加者が集まります。このフォーラムには、前述のストラテジックキャピタルの丸木強氏が登壇して松本氏と対談するなど、日本のアクティビズムの「啓発の場」としての役割も担っています。

この革新的な発想は評価され、2020年には日経優秀製品・サービス賞において「日経ヴェリタス賞」を受賞しました。

筆者の評価

MAFは、アクティビズムを「一部の富裕層・機関投資家だけのもの」から「個人投資家も参加できるもの」へと開いた、日本独自のイノベーションだと筆者は評価しています。エリオットやエフィッシモが「外部の脅威」として企業に向き合うのに対し、MAFは「日本の未来を個人投資家とともに創る」という、いわば社会運動的な側面を持っています。上場企業経営の当事者である松本氏が前面に立つことで、対話の説得力も増しています。日本のアクティビズムの「裾野を広げる」という意味で、独特の意義を持つ存在です。


16. タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(Taiyo Pacific Partners)――「友好的アクティビスト」の草分け

本拠地:米国ワシントン州カークランド|設立:2001〜2003年|創業者・共同CEO:ブライアン・ヘイウッド|特徴:「友好的アクティビスト」「エンゲージメントファンド」の草分け|日本株運用額:35億ドル超

タイヨウ・パシフィック・パートナーズは、米ワシントン州カークランドに拠点を置く、「友好的アクティビスト投資のパイオニア」です。日本およびアジアで友好的・提案型の株主となるべく、日米双方の言語・文化に通じたプロフェッショナルにより設立されました。

ブライアン・ヘイウッドという人物

共同CEOのブライアン・ヘイウッド氏は、1991年にハーバード大学を卒業後、日本での宣教師経験を持ち、J.D.パワー・アンド・アソシエイツ、シティバンクなどで職務経験を積みました。日本語の読み書きも流暢で、鎌倉に居を構え、地元のタクシー運転手にも知られた存在だといいます。マクセルホールディングスやローランドDGなど複数の日本企業で社外取締役も務めています。

投資哲学と手法――「友好的アクティビスト」

タイヨウの手法は、これまで紹介してきた敵対型のファンドとは対極にあります。自らを「友好的アクティビスト(物言う株主)」と呼び、対話で企業価値を伸ばす「エンゲージメントファンド」の草分けとして知られます。

タイヨウの投資先選定は「①興味深いビジネス、②割安な企業価値、③オープンな経営者」という3条件に基づき、中小型株を中心に未カバーの有望銘柄を発掘します。投資を行う際には経営者と1年半から2年かけて話し合いを重ね、約20人の担当者が年間約800社もの企業訪問を行うという徹底ぶりです。

単なるアクティビストとの最大の違いは、投資先への「手厚い経営支援」にあります。IR資料の改善提案、海外投資家向けロードショーの支援に始まり、社外取締役の派遣、さらにはMBO(経営陣による買収)の資金面での援助まで行います。象徴的なのが、年に一度投資先の社長を集めて開催する「タイヨウ社長会」というイベントです。「日本のCEOは非常に孤独な役割だ。本当の悩みを相談できないことも多い」というヘイウッド氏の考えから、社長同士がつながりを持てる場を提供しているのです。

特筆すべきは、タイヨウがROIC(投下資本利益率)経営を日本に根付かせた立役者の一人であることです。オムロンの山田義仁前社長(現会長)が「これこそ私の求めていたものだ」と語ったように、タイヨウのROIC経営の導入支援は、今や日本企業のガバナンス改革の重要な要素となっています。

主要な投資事例

タイヨウの代表的な成功事例が電子楽器メーカーのローランドです。ローランドは流行の変化への対応が遅れて業績が低迷し、2013年3月期まで4期連続で最終赤字でした。そこで2014年、タイヨウと組んで426億円でMBO(上場廃止)を実施。経営改革を進めた後、2020年12月に再上場を果たしました。コロナ禍の巣ごもり需要も追い風に株価は公開価格の2倍以上に上昇し、2020年最大規模のIPOとなりました。

このほか全国保証(2021年に5%超取得。石川社長と友好的関係を構築)、堀場製作所、マクセルホールディングス、松井証券、Jトラスト、サイバーエージェントなどへの投資が知られます。また2014年4月には、日本の公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、タイヨウを新規運用委託先に選びました。米国のアクティビストにGPIFが「お墨付き」を与えたとして話題になりました。

2024年には、子会社ローランドDGのMBOを支援する過程で、ブラザー工業からの対抗的買収提案が出るという展開もありました。なお、タイヨウは2022年から任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」の傘下に入っています。

筆者の評価

タイヨウは、「アクティビスト」という言葉が持つ敵対的なイメージを根底から覆す存在です。みさき投資と並ぶ「友好的アクティビスト」の代表格ですが、社長会の開催やROIC経営の導入支援、MBOの資金援助まで踏み込む点で、より「経営パートナー」に近い立ち位置にあります。GPIFという日本の公的年金から資金を委託された事実は、その手法が日本社会から一定の信頼を得ていることの証左でしょう。「日本企業の潜在力を解き放つ」というヘイウッド氏の情熱は、敵対型アクティビズムとは異なる、もう一つのアクティビズムの可能性を示しています。


第3部:16社を俯瞰する――類型化と総括

ここまで16のアクティビストを個別に見てきました。最後に、これらを俯瞰して整理し、筆者なりの総括を述べたいと思います。

拠点による分類

まず拠点で分けると、次のように整理できます。

米国系は、エリオット、サード・ポイント、バリューアクト、ダルトン、ファーツリー、スターボード、タイヨウ・パシフィックです。運用資産が大きく、グローバルに活動するなかで日本市場にも参入しているケースが多いのが特徴です。エリオットのように数兆円規模の運用力を背景に大型案件に関与するファンドもあれば、タイヨウのように友好的なスタイルの米国ファンドもあります。

英国系は、シルチェスターとAVIです。いずれもバリュー投資・資産価値重視の伝統的な運用哲学を持ち、長期保有を基本とします。

シンガポール系は、3Dインベストメントとエフィッシモです。アジアの金融ハブを拠点としながら、日本株に特化している点が共通しています。エフィッシモは旧村上ファンドの系譜、3Dは独立系という違いはありますが、ともに日本企業のガバナンスを知り尽くした運用者が率いています。

香港系は、オアシスです。アジアのガバナンス改革を掲げ、日本を主戦場としています。

そして日本系(国内勢)は、シティインデックスイレブンス(旧村上ファンド系)、ストラテジックキャピタル、みさき投資、マネックス・アクティビスト・ファンドです。海外勢が「外圧」と見なされがちなのに対し、国内勢は日本の商習慣や心情を理解した活動が可能という強みがあります。

スタイルによる分類――「敵対型」と「友好型」のスペクトラム

より本質的なのは、その手法のスタイルによる分類です。筆者は16社を、「敵対型(強硬型)」から「友好型(協調型)」までの一つのスペクトラム(連続体)として捉えると理解しやすいと考えています。

最も強硬な「敵対型」の極にあるのが、エリオットです。豊田自動織機のTOBにトヨタグループ相手に真っ向から反対し、対抗TOBまで視野に入れる執念深さは群を抜いています。スターボードの取締役会刷新も辞さない手法、旧村上ファンド系の世論を巻き込む劇場型も、この強硬型に位置づけられます。

中間に位置するのが、対話を基本としつつ、動かなければ公開書簡や株主提案、委任状争奪戦に踏み込む「使い分け型」です。オアシス(対話と劇場型の使い分け)、3D(論理とデータで追い詰める)、シルチェスター(普段は静かだが業を煮やすと論理的提案)、エフィッシモ(沈黙と正論の両極端を使い分け)、ストラテジックキャピタル(財務理論に基づく提案)、ファーツリー、AVIなどがここに入ります。バリューアクトも、基本は協調型ながらセブン&アイでは委任状争奪戦に踏み込んだ点で、この中間帯に位置づけられるでしょう。

そして最も友好的な「協調型」の極にあるのが、みさき投資(「働く株主®」)、タイヨウ・パシフィック(「友好的アクティビスト」)、マネックス・アクティビスト・ファンドです。これらは経営陣と敵対するのではなく、内側に入り込んで、あるいはパートナーとして経営を底上げすることを目指します。タイヨウがGPIFから資金を委託され、みさき投資の中神氏が社外取締役を務めるという事実は、この協調型が日本社会から信頼を得ていることを示しています。

共通する「論点」――なぜ彼らの主張は無視できないのか

スタイルは多様でも、彼らが突きつける論点には驚くほど共通点があります。

第一に、資本効率の改善要求です。「ROEが低い」「資本コスト(WACC)を上回るリターンを上げていない」「PBRが1倍を割っている」――これらはほぼすべてのアクティビストが指摘する点であり、東証が2023年に掲げた「資本コストや株価を意識した経営」という政策課題と完全に一致しています。

第二に、株主還元の拡充です。貯め込んだ現金を増配や自社株買いで株主に返せ、という要求です。シルチェスターの「増配方程式」はその精緻化された一例です。

第三に、政策保有株式(持ち合い株)の縮減です。本業と関係のない株式を大量に保有することは資本効率を下げ、ガバナンスを歪めるという批判です。豊田自動織機を巡るエリオットの主張も、突き詰めればトヨタグループの株式持ち合い構造への批判でした。

第四に、ガバナンスの強化です。独立社外取締役の選任、不透明な関連当事者取引の排除、創業家支配の是正など。AVIとオアシスがフジテックで連携して創業家会長を退任に追い込んだ事例は象徴的です。

第五に、親子上場の解消と少数株主保護です。支配的な親会社が上場子会社を不当に安く非公開化することへの異議申し立てです。

これらの論点は、いずれも「日本企業の長年の課題」そのものであり、だからこそ国も取引所も機関投資家も、アクティビストの主張を完全には無視できなくなっているのです。

筆者の総括――アクティビズムをどう受け止めるべきか

最後に、一人の市場観察者としての筆者の見解を率直に述べます。

アクティビストに対しては、いまだに「ハゲタカ」「短期的な利益のために企業を食い物にする」といった負のイメージが根強く残っています。確かに、彼らの目的はあくまで投資リターンであり、慈善活動ではありません。村上ファンドのインサイダー事件のように、行き過ぎが法に触れた歴史もあります。エリオットのスタンドアローン・プランに「致命的欠陥がある」とする批判報道があるように、彼らの主張が常に正しいわけでもありません。

しかし、長年「ぬるま湯」に浸かってきた日本企業に、資本市場からの規律を持ち込み、PBR1倍割れという異常事態に終止符を打とうとする「触媒」としての役割は、正当に評価されるべきだと筆者は考えます。実際、オリンパスがバリューアクトの関与で営業利益率を3%台から20%超へと改善させたように、アクティビズムが企業価値の劇的な向上につながった事例は確実に存在します。

重要なのは、「アクティビスト=善 or 悪」という二分法を捨てることです。彼らが提起する論点(資本効率、ガバナンス、少数株主保護)の正当性と、その手法の過激さ・短期性は、切り分けて評価する必要があります。そして、みさき投資やタイヨウ・パシフィックのような「友好的アクティビスト」の台頭は、敵対と協調という二つのアプローチが日本市場で共存し、企業の規模や状況に応じて使い分けられる成熟期に入りつつあることを示しています。

2025年から2026年にかけての豊田自動織機を巡る攻防は、日本のアクティビズムが「誰もが知る巨大企業グループにすら正面から挑む」段階に到達したことを象徴しています。早稲田大学の鈴木教授が言うように、これは「日本企業の経営陣がガバナンス改善にどこまで本気か」を問う試金石です。アクティビストという「外からの目」を、脅威として排除するのか、それとも自己変革の鏡として活用するのか――その選択が、これからの日本企業の真価を分けることになるでしょう。

個人投資家にとっても、彼らの動向は決して他人事ではありません。大量保有報告書はEDINET(金融庁の開示システム)で誰でも無料で閲覧でき、アクティビストがどの企業に目をつけ、どんな改善を求めているかは貴重な投資の手がかりとなります。彼らの「物言う」姿勢から学ぶべきことは、私たち一人ひとりの投資家にも多くあるはずです。


第4部:日本のアクティビズム小史――年表で振り返る

16社の活動をより立体的に理解するために、日本のアクティビズムの歴史を年表形式で振り返っておきましょう。個々のファンドの動きが、大きな時代の流れのなかでどう位置づけられるかが見えてきます。

1980年代末(第一世代の萌芽) 米著名投資家ブーン・ピケンズ氏率いるブーン・カンパニーが小糸製作所株を買い占めた「小糸・ピケンズ事件」が起こります。外国人投資家による日本企業への投機的アクティビズムの先駆けでしたが、当時の日本では「黒船」として強い拒絶反応を招きました。

1999年〜2006年(第二世代・村上ファンドの時代) 1999年、村上世彰氏がM&Aコンサルティング(村上ファンド)を設立。昭栄、東京スタイル、ニッポン放送などを次々と標的にし、「物言う株主」という言葉を日本社会に定着させました。同時期、米スティール・パートナーズもブルドックソースなどに敵対的買収を仕掛けます。しかし2006年、ニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件で村上氏が逮捕され、村上ファンドは解体。アクティビズムへの世間の風当たりは一気に強まりました。

2006年〜2007年(村上系のディアスポラ=離散) 村上ファンドの解体後、その人材が国内外に散らばり、新たなファンドを設立します。2006年、高坂卓志氏らがシンガポールでエフィッシモ・キャピタル・マネジメントを設立。エフィッシモはその年のうちにダイワボウ情報システムの買い占めに着手しました。この「村上ファンドのDNAの拡散」が、後の日本アクティビズム第三世代の重要な源流となります。

2010年代前半(雌伏と種まきの時代) リーマン・ショック後の低迷期、表立った活動は少なかったものの、重要な種がまかれます。2012年、村上ファンド創業メンバーの丸木強氏がストラテジックキャピタルを設立。2013年、経営コンサルタント出身の中神康議氏がみさき投資を設立し「働く株主®」を提唱。2014年にはオアシスが任天堂にモバイル参入を提言する書簡を送付。同年、GPIFが友好的アクティビストのタイヨウ・パシフィックを運用委託先に選定しました。

2014年〜2015年(制度的転換点) 2014年に金融庁が「日本版スチュワードシップ・コード」、2015年に東証が「コーポレートガバナンス・コード」を導入。「機関投資家は投資先と建設的な対話をすべき」「企業は株主との対話を重視すべき」という規範が公式に確立し、アクティビズムが「正当な活動」として受け入れられる土壌が整いました。サード・ポイントがファナックやセブン&アイに、3Dインベストメントが設立(2015年)されたのもこの頃です。

2017年〜2020年(海外勢の本格参入) バリューアクトが2017年に日本投資を本格化し、オリンパスへ。エフィッシモが2017年に東芝の筆頭株主に浮上。シルチェスターが2019年に滋賀銀行へ書簡を送付。ファーツリーが2020年にJR九州へウェブキャストで株主提案。海外の有力アクティビストが続々と日本市場に参入し、対象も大企業へと広がりました。

2021年(東芝事件=歴史的転換点) 2021年3月、東芝の臨時株主総会でエフィッシモの株主提案(独立調査)が可決。アクティビストが日本を代表する大企業の総会で勝利を収め、後に株主総会運営の問題が明らかになったこの事件は、日本のコーポレートガバナンス史の分水嶺となりました。

2022年〜2023年(提案件数の急増と国策化) 2022年、シルチェスターが地銀4行に一斉株主提案。AVI・オアシスがフジテックの創業家会長を退任に追い込む。株主提案を受けた企業数・議案数が急増します。大和総研の集計では、2022年6月時点で株主提案を受けた会社数は75社、議案数は297議案に達し、前年からほぼ倍増しました。2023年、東証が「資本コストや株価を意識した経営」を要請し、PBR1倍割れ問題が国家的課題に。経産省が「企業買収における行動指針」を策定し、「敵対的買収」を「同意なき買収」と再定義。アクティビズムが事実上「国策」に後押しされる構図が生まれました。バリューアクトとセブン&アイの委任状争奪戦もこの時期です。

2024年〜2026年(巨大企業との総力戦の時代) 2024年、タイヨウが関わるローランドDGのMBOにブラザー工業が対抗提案。2025年、エリオットが住友不動産株を取得、旧村上ファンド系がフジ・メディアHDの筆頭株主に。そして2025年6月から2026年にかけて、エリオット・オアシスらがトヨタグループによる豊田自動織機の非公開化TOBに真っ向から反対する歴史的攻防が展開されました。アクティビズムはついに、日本最大の企業グループにすら挑む段階に到達したのです。

この年表を眺めると、日本のアクティビズムが「黒船としての拒絶」から「制度的受容」を経て、いまや「国策との共鳴」へと至った大きな流れが見えてきます。本記事で取り上げた16社は、それぞれこの歴史の異なる局面で重要な役割を果たしてきたのです。


第5部:個人投資家のためのQ&A

最後に、個人投資家の視点でよく寄せられる疑問に、Q&A形式で答えておきます。

Q1. アクティビストが投資した銘柄を買えば儲かりますか?

一概にそうとは言えません。アクティビストが大量保有を開示すると、「企業価値向上への期待」から短期的に株価が急騰することはよくあります(住友不動産がエリオット報道で上場来高値を更新したように)。しかし、提案が否決されたり、アクティビストが撤退したりすれば株価は元に戻ることもあります。また、アクティビストは数年単位で保有することが多く、彼らの投資成果が出るまでには時間がかかります。「材料」として短期で飛びつくのではなく、その企業のファンダメンタルズ(業績・資産・割安度)を自分で吟味することが大切です。

Q2. アクティビストの動きはどこで分かりますか?

最も確実なのは、金融庁の開示システム「EDINET」で大量保有報告書を閲覧することです。発行済株式の5%超を取得すると提出が義務づけられ、保有比率や「保有目的」(純投資か、経営陣への助言・重要提案行為かなど)が記載されます。この「保有目的」欄が、アクティビストの本気度を測る重要なヒントになります。また各社の特設サイトやプレスリリース、IRBANKなどの集計サイトも参考になります。

Q3. 「敵対型」と「友好型」のアクティビスト、どちらが優れていますか?

優劣ではなく「適性」の問題だと筆者は考えます。深刻なガバナンス問題や経営陣の保身がある企業には、エリオットやエフィッシモのような強硬な外圧が有効な場合があります。一方、潜在力はあるが磨き方が分からない中小型企業には、タイヨウやみさき投資のような「ともに働く」支援型が効果的です。オリンパス(バリューアクト)もローランド(タイヨウ)も、それぞれのスタイルが企業の状況に合致したからこそ成功したと言えます。

Q4. アクティビストに狙われやすい企業の特徴は?

共通する特徴があります。①PBRが1倍を割っている(資産価値より株価が安い)、②現金や政策保有株を過剰に貯め込んでいる、③ROEが低く資本効率が悪い、④親会社のある上場子会社(親子上場)、⑤創業家支配や不透明な関連当事者取引がある、⑥不祥事などで経営が混乱している――などです。逆に言えば、これらは「改善余地が大きい」企業でもあります。

Q5. なぜ海外のアクティビストがわざわざ日本企業を狙うのですか?

日本市場には、世界的に見ても「割安に放置された優良企業」が異常に多いからです。潤沢な現金、過小評価された資産、低い資本効率――これらは欧米企業ではアクティビストによってとうに「解消」されてきたものです。日本企業は持ち合い構造などで長らく株主の圧力を回避できましたが、その構造が崩れ、制度的にも株主重視へと舵が切られたいま、日本は「最後のフロンティア」として世界中のアクティビストの注目を集めているのです。


用語解説(ミニ・グロッサリー)

本記事に登場した主な専門用語を、最後に簡単にまとめておきます。

  • アクティビスト(物言う株主):株式を売却するのではなく、株主権を行使して経営に変革を迫り、企業価値向上を狙う投資家。
  • エンゲージメント:投資先企業の経営陣との対話。最も穏やかな関与の手段。
  • 株主提案:株主総会に、会社側議案とは別に株主が提出する議案。一定の要件を満たす株主に認められた権利。
  • 委任状争奪戦(プロキシーファイト):他の株主から議決権行使の委任状を集め、会社提案と争う総力戦。
  • TOB(株式公開買付け):不特定多数の株主から、市場外で株式を買い集める手法。
  • MBO(マネジメント・バイアウト):経営陣自らが参加して自社を買収し、非公開化すること。
  • クリーピング・テイクオーバー:市場で少しずつ株式を買い集め、徐々に支配権に近づく手法。エフィッシモの川崎汽船が典型。
  • PBR(株価純資産倍率):株価が1株あたり純資産の何倍かを示す指標。1倍割れは「解散価値より株価が安い」異常な割安状態。
  • ROE(自己資本利益率):自己資本に対してどれだけ利益を上げたかを示す資本効率の指標。
  • WACC(加重平均資本コスト):企業が資金を調達するのにかかるコストの平均。ROEがWACCを上回って初めて株主価値が増える。
  • コングロマリット・ディスカウント:複合企業(多角化企業)が、事業の寄せ集めゆえに各事業の合計より低く評価される現象。サード・ポイントがソニーで指摘。
  • 政策保有株式(持ち合い株):取引関係維持などのために保有する、本業と直接関係のない株式。資本効率低下とガバナンス歪曲の元凶として批判される。
  • 親子上場:親会社と子会社がともに上場している状態。少数株主の利益が親会社に害されるリスクが指摘される。
  • スチュワードシップ・コード/コーポレートガバナンス・コード:それぞれ機関投資家・上場企業に対する行動規範。アクティビズム受容の制度的基盤。
  • 大量保有報告書(5%ルール):上場企業の発行済株式の5%超を取得した際に金融庁へ提出が義務づけられる書類。EDINETで閲覧可能。

参考資料

本記事は、以下の公開情報・報道・各社開示資料をもとに構成しています(主なもの。各社の正式名称・数値は記事執筆時点で確認できた範囲のものであり、運用資産額・保有比率等は時点により変動します)。

各社・公的機関の公式情報

  • 各アクティビストの公式サイトおよびプレスリリース(Elliott Investment Management、Oasis Management、Third Point、ValueAct Capital、3D Investment Partners、Dalton Investments、Silchester International Investors、Asset Value Investors、Fir Tree Partners、Starboard Value、ストラテジックキャピタル、Effissimo Capital Management、みさき投資、マネックス・アクティビスト・ファンド、Taiyo Pacific Partners の各社サイト)
  • 3Dインベストメント特設サイト(compoundfujisoft.com、compoundsapporo.com)
  • バリューアクト・キャピタルによるセブン&アイ・ホールディングス取締役会宛て公開書簡
  • エリオットによる豊田自動織機に関する公開書簡・プレゼンテーション資料(elliottletters.com、PR Newswire)
  • AVI(Asset Value Investors)TBS関連特設サイト
  • 金融庁 EDINET(大量保有報告書)、IRBANK等の開示集計

新聞・通信社・経済誌

  • 日本経済新聞(住友不動産・エリオット報道、サード・ポイントCEOインタビュー、バリューアクトのセブン&アイ報道、タイヨウ・ヘイウッド氏インタビュー、ストラテジック丸木氏インタビュー、豊田織機TOB報道ほか)
  • Bloomberg(村上世彰氏のフジHD報道、東芝エフィッシモ報道、豊田織機TOB攻防報道、ローランドDG報道ほか)
  • 日経ビジネス/日経BP(独自集計「アクティビスト投資額ランキング」、タイヨウ社長会潜入記事、ローランドDG・MBO報道ほか)
  • ロイター、ダイヤモンド・オンライン(地銀とシルチェスター、豊田織機エリオット案分析ほか)、東洋経済オンライン(オアシス・フィッシャー氏インタビューほか)、日刊工業新聞

証券会社・専門メディアの解説

  • マネックス証券「アクティビストファンド」解説シリーズ(サード・ポイント、バリューアクト、シルチェスター、エフィッシモ、ファーツリー、ダルトン=ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド、タイヨウ・パシフィックほか)
  • きんざいOnline、QUICK Money World、deallab、各種解説記事
  • Wikipedia(オアシス・マネジメント、バリューアクト・キャピタル、シルチェスター、3Dインベストメント、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント等の各項目。一次情報の確認は上記公式・報道で実施)

書籍

  • 菊地正俊『アクティビストの衝撃』(中央経済社)
  • 中神康議『三位一体の経営』(ダイヤモンド社)、『投資される経営 売買される経営』(日本経済新聞出版社)

※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。

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