はじめに——「壊れた=捨てる」は令和の贅沢病
ズボンのボタンが取れた。捨てる。傘の骨が折れた。捨てる。イヤホンの片方が聞こえなくなった。捨てる。棚の取っ手が外れた。捨てる。スマートフォンケースにヒビが入った。捨てる。私たちは「壊れたら捨てて買い替える」生活に慣れすぎている。
だが「捨てて買い替える」のにはお金がかかる。ズボン2000円。傘1000円。イヤホン1500円。棚5000円。スマートフォンケース1000円。合計10500円。年間に「壊れて買い替えたもの」を数えれば、3〜5万円は軽く超えるだろう。
手取り16万円の生活で、年間3〜5万円を「買い替え」に使うのは大きい。だがこの3〜5万円のうち半分は「修理すれば使い続けられたもの」だ。修理の費用は100〜500円。買い替えの5分の1〜10分の1。修理スキルを身につければ、年間15000〜25000円が浮く。
修理スキル1:「ボタン付け」——ズボン・シャツの延命術
ボタンが取れたシャツやズボンを「捨てる」必要はない。ボタン付けは5分で終わる。針と糸があればいい。100均で「裁縫セット」(110円)を1つ買えば、一生分のボタン付けができる。
ボタン付けの手順。糸を針に通す(30cm程度)。糸の端を結ぶ。布の裏側から針を刺す。ボタンの穴に針を通す。別の穴に針を通して布の裏側に出す。これを4〜5回繰り返す。最後に糸を結んで切る。5分。YouTubeで「ボタン付け やり方」と検索すれば、動画で手順を確認できる。
ボタン付けを覚えるだけで、「ボタンが取れた→捨てる→新しいシャツを買う(2000円)」が「ボタンが取れた→5分で直す→0円」に変わる。年間3回のボタン取れで6000円の節約。
修理スキル2:「裾上げテープ」——ズボンの裾ほつれに
ズボンの裾がほつれた。「捨てて新しいの買おうか」。待ってほしい。100均の「裾上げテープ」(110円)を使えば、アイロンで接着するだけで裾が直る。針と糸は不要。アイロンを持っていなければ、当て布をしてフライパンで代用する(温度調整に注意)。
裾上げテープは「ズボンの裾ほつれ」だけでなく「カーテンの丈詰め」にも使える。1つ買えば複数回使えるので、コスパは極めて高い。
修理スキル3:「接着剤」——壊れた食器・小物の修復
マグカップの取っ手が折れた。棚の取っ手が外れた。メガネのフレームが折れた。これらは「瞬間接着剤」(100均で110円)で直せる場合がある。
接着剤の選び方。瞬間接着剤(アロンアルフア等)は「硬い素材同士」の接着に適している。陶器、金属、プラスチック。エポキシ接着剤(2液混合タイプ)は「強度が必要な場合」に適している。力がかかる部分(棚の取っ手、メガネのフレーム等)。
注意点。食器(口に触れるもの)の修復に接着剤を使う場合は、食品安全性の高い接着剤を選ぶか、「接着部分が口に触れない位置」に限定する。心配なら、接着した食器は「花瓶」や「ペン立て」に転用する。
修理スキル4:「自転車のパンク修理」——1500円が200円に
自転車がパンクした。自転車屋に持っていくとパンク修理代1000〜1500円。自分で直せば、パンク修理キット(100均で110円。またはホームセンターで200〜300円)だけで済む。
パンク修理の手順。タイヤを外す。チューブを取り出す。チューブを水に沈めて泡が出る箇所を探す(穴の位置を特定)。穴の周囲をヤスリで磨く。ゴムのりを塗る。パッチを貼る。乾いたらチューブを戻してタイヤをはめる。空気を入れる。所要時間20〜30分。初めてなら1時間見ておく。YouTubeの動画を見ながらやれば、初回でも成功する。
年間2回のパンクで3000円の出費が400円に。差額2600円。2600円は発泡酒19本分。
修理スキル5:「家電の『軽い故障』」を自分で直す
家電の故障は「買い替え」の最大原因だ。だが「買い替えが必要なレベルの故障」と「自分で直せるレベルの故障」がある。
自分で直せる故障。リモコンが反応しない→電池切れ(電池交換110円)。扇風機が回らない→ホコリの詰まり(分解して掃除)。電気ケトルの蓋が閉まらない→パッキンの劣化(パッキン交換300〜500円。メーカーのウェブサイトで部品を注文)。掃除機の吸引力が落ちた→フィルターの目詰まり(フィルターを水洗い)。
買い替えが必要な故障。基盤が壊れた(素人には修理不可能)。モーターが焼けた(異臭がする場合は危険。使用中止)。10年以上使った家電の故障(修理しても別の箇所がすぐ壊れる可能性が高い。買い替えのほうが合理的)。
「故障かな?」と思ったら、まず「型番 故障 対処法」で検索する。多くの場合、同じ症状の人がネットに対処法を書いている。検索に5分。対処法が見つかれば、自分で直して買い替え費用を節約。見つからなければ、買い替えを検討。「検索する5分」が、数千円〜数万円の買い替えを防ぐことがある。
修理スキル6:「靴の延命術」——かかとの修理で3000円浮かす
靴のかかとがすり減った。靴を捨てて新しいのを買う(3000〜5000円)。だが待ってほしい。かかと修理のキット(100均で110円。またはホームセンターで300〜500円)を使えば、自分でかかとを補修できる。
靴底補修用のゴムパッド(接着式)を貼るだけ。10分の作業。靴修理屋に頼めば1500〜3000円。自分でやれば110〜500円。差額1000〜2500円。年間2回の靴底修理で2000〜5000円の節約。
さらに「防水スプレー」(100均で110円)を靴に定期的にかけることで、汚れの付着を防ぎ、靴の寿命を延ばせる。月1回のスプレーで、靴の買い替えサイクルが1.5〜2倍に延びる。
「修理道具セット」を100均で揃える——合計660円
修理に必要な道具を100均で揃える。裁縫セット(110円)。瞬間接着剤(110円)。裾上げテープ(110円)。靴底補修パッド(110円)。プラスドライバー・マイナスドライバーセット(110円)。ビニールテープ(110円)。合計660円。660円で「修理の基本道具」が揃う。この660円が、年間15000〜25000円の買い替えを防ぐ。投資効率は年利2272〜3687%。NISAの比ではない。
「修理できるか」の判断基準——3つの質問
壊れたものを見たとき、3つの質問をする。質問1。「これは安全に使い続けられるか?」。修理しても安全性に問題がある場合(電気系統の故障、ガス機器の故障等)は買い替える。安全第一。質問2。「修理のコストは買い替えの半額以下か?」。修理に3000円かかり、新品が4000円なら、新品を買うほうが合理的。修理が500円なら修理。質問3。「自分で修理できるか?」。YouTubeで検索して、自分でできそうなら修理。できそうにないなら、プロに依頼するか買い替え。
3つの質問に「YES、YES、YES」なら修理。1つでも「NO」なら買い替えを検討。この判断基準を持っておけば、「迷い」が減る。迷いが減れば、判断が速くなる。速い判断は、時間の節約にもなる。
「修理する暮らし」の精神的な効果
「壊れたら自分で直す」生活を続けると、精神的な変化が起きる。変化1は「物を大切にする意識が芽生える」。自分で修理した物には「愛着」が湧く。愛着が湧くと、丁寧に使うようになる。丁寧に使えば、壊れにくくなる。壊れにくくなれば、買い替えが減る。正のスパイラル。
変化2は「自己効力感が上がる」。「自分で直せた」という達成感。「買い替えなくて済んだ」という節約の喜び。「自分は何でもできる」という自信。これらの精神的なリターンは、金銭的な節約以上に価値がある。
変化3は「消費社会への『小さな抵抗』」。「壊れたら捨てて買い替える」は消費社会の論理だ。企業は「新しいものを買ってほしい」。だが修理すれば買わなくて済む。買わなければ企業の売上にはならない。だが自分の財布は潤う。「自分の財布を守る」ことが「小さな抵抗」になる。抵抗する必要はないが、抵抗できることは「自由」の証だ。
年間の節約効果まとめ
ボタン付け(年3回):6000円。裾上げテープ(年2回):3000円。接着剤での修復(年3回):4500円。自転車パンク修理(年2回):2600円。家電の軽い修理(年2回):5000円。靴の補修(年2回):3000円。合計:年間約24100円。月あたり約2008円。
修理道具セットの初期費用660円を差し引いても、年間約23440円の純節約。月1953円。発泡酒15本分。NISAに月2000円追加で20年運用すれば約82万円。660円の道具セットが、20年後に82万円に化ける。
まとめ——「壊れたら直す」が最強の節約術
「壊れたら捨てる」を「壊れたら直す」に変えるだけで、年間2万円以上が浮く。直すための道具は660円。直すためのスキルはYouTubeで無料で学べる。直すための時間は1回5〜30分。
次にズボンのボタンが取れたとき。捨てる前に、裁縫セットを取り出す。針に糸を通す。5分で直す。直したら、「今、2000円浮いた」と心の中でガッツポーズする。このガッツポーズが、「修理する暮らし」の第一歩だ。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

