はじめに——「婚活に疲れた」は「甘え」ではない
マッチングアプリを開く。プロフィールを見る。「いいね」を送る。返ってこない。また送る。また返ってこない。たまにマッチングする。メッセージを送る。返事が来る。やりとりが続く。デートの約束をする。待ち合わせ場所に行く。会う。話す。「楽しかったです」。帰る。「次、いつ会えますか?」と送る。既読スルー。——また最初から。このサイクルを3ヶ月。6ヶ月。1年。「疲れた」。もうアプリを開きたくない。プロフィールを見たくない。メッセージを打ちたくない。「婚活疲れ」。これは「甘え」ではない。「燃え尽き症候群(バーンアウト)」の婚活版だ。
婚活疲れの症状。症状1は「アプリを開くのが億劫」。以前は「今日はどんな人がいるかな」のワクワクがあった。今は「また同じ画面か」の倦怠感。症状2は「メッセージを打つ気力がない」。「初めまして、プロフィール拝見しました」の定型文すら「打つのが面倒」。症状3は「デートが苦痛」。「会って話す」のが楽しかったはずが「会って話さなければならない」の義務感に変わった。症状4は「自己否定の悪化」。「マッチングしない→自分に魅力がない→さらにマッチングしなくなる→さらに自己否定」の悪循環。症状5は「もやし炒めが美味くない」。精神状態が味覚に影響する。もやし炒めの味が「いつもと違う」と感じたら——「心が疲れている」サイン。
第1章 「婚活疲れ」が起きるメカニズム——なぜ疲れるのか
メカニズム1は「認知資源の枯渇」。婚活は「判断の連続」。「この人にいいねを送るべきか」「このメッセージにどう返すべきか」「デートの場所はどこにすべきか」「この人は自分に合っているか」。毎回の「判断」が「認知資源(脳のエネルギー)」を消費する。認知資源は「有限」であり「使い続けると枯渇する」。「決定疲れ(Decision Fatigue)」と呼ばれる現象。もやし炒めの「120バリエーション」は「選ぶ楽しさ」だが「婚活の100人の候補」は「選ぶ疲れ」。
メカニズム2は「拒絶の蓄積」。「婚活で傷つかない技術」(別稿参照)で「拒絶1回1回のダメージを軽減する方法」は示した。だが「ダメージを軽減しても、蓄積はする」。「1回のダメージが0.5」に軽減されても「100回の拒絶=50のダメージ」は蓄積する。「軽いダメージ×大量の回数=大きな蓄積ダメージ」。これが「慢性的な婚活疲れ」の原因。
メカニズム3は「期待と現実のギャップ」。「婚活を始めれば出会いがある」の期待。現実は「マッチング率4%」「デートまで至る確率2%」「交際に発展する確率0.5%」。期待と現実のギャップが「失望」を生み、失望が「疲れ」に変わる。
メカニズム4は「比較の疲れ」。アプリで「他の男性のプロフィール」を(直接は見えないが想像する)。「自分より年収が高い男性がいるだろう」「自分よりイケメンの男性がいるだろう」。この「想像上の比較」が自己肯定感を削り、「自分には勝ち目がない」の無力感を生む。
第2章 「婚活疲れ」からの回復法7選——もやし炒めに戻れ
回復法1は「婚活を休む」。「休む」のは「やめる」のではない。「一時停止」。アプリのプロフィールを「休止中」に設定する(多くのアプリにこの機能がある)。「1ヶ月間、婚活をしない」。この1ヶ月間で「自分のための時間」を取り戻す。散歩。読書。もやし炒め。NISAの確認。「婚活以前の自分の生活」に戻る。「婚活以前の自分は不幸だったか?」——不幸ではなかった(はず)。もやし炒めは美味かった。散歩は気持ちよかった。読書は楽しかった。「婚活以前の幸福」を再確認する。再確認したら「婚活を再開するかどうか」を改めて判断する。
回復法2は「もやし炒めの新バリエーションを開発する」。「婚活に使っていた認知資源」を「もやし炒めの創造」に振り向ける。「チーズもやし炒め」「キムチもやし炒め」「梅しそもやし炒め」。「新しい味」を開発する楽しさが「認知資源の充電」になる。「婚活の拒絶で失った自己肯定感」を「もやし炒めの成功で回復する」。「料理の成功=自己効力感の回復=自己肯定感の回復」。
回復法3は「散歩の距離を増やす」。普段30分の散歩を「60分」に延長する。「歩くこと」は「脳のリセットボタン」。散歩中は「婚活のことを考えない」ルールを設定する。「考えないルール」は「認知資源の節約」であり「回復の加速」。「60分間、何も考えずに歩く」。これは「歩く瞑想」であり「もやし炒めの調理」と同じく「手を動かす(足を動かす)ことで頭を空にする」技術。
回復法4は「婚活以外の『成功体験』を意識的に作る」。「NISAの残高が先月より増えた」→「成功」。「読書ノートが1冊埋まった」→「成功」。「もやし炒めの新バリエーションが美味かった」→「成功」。「歯科検診で問題なしだった」→「成功」。これらの「婚活以外の成功」を「意識的にカウントする」。「今月の成功:4回」。「4回も成功している」。婚活の「0回の成功」ばかりに目が行くと「人生全体が失敗に見える」。「4回の成功」を数えれば「人生は順調」に見える。「見え方」が変わる。
回復法5は「友人・知人に話す」(友人がいれば)。いなければ「SNSで吐き出す」。「婚活疲れた」の投稿に「わかります」「私も」のリプライが来る。「同じ経験をしている人がいる」安心感。「孤独な婚活疲れ」が「共有された婚活疲れ」に変わる。共有された疲れは「孤独な疲れの半分の重さ」。
回復法6は「婚活の『目標』を下方修正する」。「1ヶ月以内に恋人を作る」→「3ヶ月以内にデートを1回する」。「年内に結婚する」→「年内に5人と会う」。目標を「達成可能なレベル」に下げる。「達成可能な目標」は「達成感」を生む。「達成感」は「回復のエネルギー源」。もやし炒めの目標も「120バリエーション達成」ではなく「今月1つ新しいバリエーションを試す」に設定する。「小さな目標の達成」の積み重ね。
回復法7は「婚活の『理由』を再確認する」。「なぜ婚活を始めたのか」。「孤独を軽減したかった」「おかえりと言ってくれる人が欲しかった」「一緒にもやし炒めを食べたかった」。この「原点の感情」を思い出す。「感情が蘇れば、エネルギーも蘇る」。「疲れたのは手段(アプリ、デート、メッセージ)であり、目的(パートナーと暮らす幸福)は変わっていない」。手段に疲れたら「手段を休む」。目的は「休まなくていい」。
第3章 「婚活疲れ」のサイン——こうなったら即座に休む
サイン1は「もやし炒めの味がしない」。前述の通り、精神状態は味覚に影響する。「いつもの味がしない」は「心が限界に近い」サイン。サイン2は「散歩に行く気力がない」。毎日30分の散歩が習慣なのに「今日は行きたくない」が3日以上続いたら——心が疲れている。サイン3は「発泡酒が2本目に手が伸びる」。普段は1本。「2本目を開けたい」衝動が出るのは「ストレスが1本分の発泡酒では処理しきれない」サイン。サイン4は「エスシタロプラムの効果が弱くなった気がする」。実際に効果が弱くなったのではなく「ストレスの量が薬の処理能力を超えている」可能性。心療内科に相談する。サイン5は「NISAの残高を確認する気力がない」。NISAの残高確認は「小さな楽しみ」のはず。それすら「億劫」なら——深刻な疲れ。
これらのサインが「2つ以上同時に出たら」——婚活を即座に休む。「即座に」がポイント。「もう少し頑張ろう」は「もう少し我慢しよう」の言い換えであり「限界突破のリスク」を高める。パニック障害の発症(37歳)を経験した自分は「限界突破のリスク」を身をもって知っている。「限界の手前で止まる」技術を——婚活にも適用する。
第4章 「婚活を再開する」タイミング——いつ戻るか
「休んだ後、いつ婚活を再開するか」。答えは「もやし炒めが美味いと感じたとき」。「もやし炒めの味」が「心の回復のバロメーター」。「味がしない」→「まだ回復途中」。「いつも通り美味い」→「回復した」。「いつも通りの美味さ+新バリエーションを試す気力がある」→「完全回復。婚活再開OK」。
回復にかかる期間の目安。軽度の婚活疲れ:1〜2週間の休みで回復。中度の婚活疲れ:1〜2ヶ月の休みで回復。重度の婚活疲れ:3ヶ月以上の休みが必要。心療内科の受診も検討。「どの程度疲れているか」は「もやし炒めの味」と「散歩の気力」で判断する。「味がしない+散歩に行けない」→重度。「味はする+散歩は行ける」→軽度〜中度。
再開時のルール。ルール1は「以前より低い頻度で始める」。「毎日アプリを開いていた」→「週3日に減らす」。ルール2は「期待値を下げる」。「すぐにマッチングする」の期待を捨てる。「3ヶ月で1人と会えればOK」。ルール3は「婚活以外の幸福を維持する」。「もやし炒め+散歩+読書+NISA」の「幸福の4本柱」を「婚活よりも優先する」。「4本柱が安定している状態で婚活をする」。「4本柱が揺らいだら婚活を止める」。
第5章 「婚活をやめる」という選択肢——「やめる」は「負け」ではない
婚活を「完全にやめる」選択肢もある。「休む」ではなく「やめる」。「やめる=諦め」「やめる=負け」に聞こえるかもしれない。だが「やめる=別の戦略に移行する」と捉えることもできる。
「婚活をやめた後の人生設計」。NISAに月2万円(婚活費用をNISAに振り替え)。推し活に月2500円。散歩30分。読書年40冊。もやし炒め120バリエーション。金魚(飼えるなら月521円)。「一人で穏やかに暮らす人生」。この人生は「不幸」か。「独身vs既婚の幸福度比較」(別稿参照)では「独身の幸福度4.86/10」だった。「5/10(普通)」に近い。「普通に近い幸福度」の人生は「不幸ではない」。「5/10の人生を65歳まで続ける」のと「婚活で疲弊して3/10の人生を数年過ごした後に6/10の結婚生活を得る(かもしれない)」のと。どちらが「幸福の総量」が多いか。計算してみる。
「婚活しない」の幸福総量:4.86/10×20年=97.2。「婚活する(2年間婚活疲れで3/10→その後結婚して6.86/10を18年間)」の幸福総量:3/10×2年+6.86/10×18年×成功確率10%=6+12.35=18.35。「婚活しない場合の97.2」>「婚活する場合の18.35(期待値ベース)」。——この計算は「成功確率10%」で「期待値」を出しているため「実際に結婚できた場合」とは異なる。だが「期待値ベースでは婚活しないほうが幸福の総量が多い」。
ただし——「期待値で人生を決める」のは「宝くじの計算」であり「人生の計算」ではない。「結婚できたときの6.86の幸福」は「4.86の独身の幸福」では得られない「質」の幸福。「壁ではなく人に『おかえり』と言ってもらえる幸福」。この「質の差」は数字には表れない。「数字に表れない価値」のために婚活するか。「数字に表れる合理性」のために婚活をやめるか。
結論——「もやし炒めに戻れば、いつでもリスタートできる」
婚活に疲れた。アプリを閉じた。もやし炒めを作る。フライパンを温める。油を引く。もやしを入れる。ジュージュー。醤油をかける。皿に盛る。食べる。「——美味い」。美味い。いつもの味。「もやし炒めが美味い」=「自分はまだ大丈夫」の確認。「大丈夫」であれば「いつでもリスタートできる」。今日リスタートしなくてもいい。明日でも。来月でも。来年でも。「もやし炒めが美味いうちは、いつでもリスタートできる」。この「いつでもリスタートできる安心感」が「婚活疲れの最大の回復薬」だ。
もやし炒めは「婚活の結果に左右されない幸福」だ。マッチングしなくても美味い。デートで断られても美味い。婚活をやめても美味い。「もやし炒めの美味さ」は「婚活の成否とは独立した変数」。「独立した幸福の柱」を持つことが「婚活疲れに耐える構造」を作る。「婚活がすべて」の人は「婚活が失敗したらすべてを失う」。「婚活は柱の1本にすぎない」人は「婚活が失敗しても他の柱が残る」。もやし炒め。散歩。読書。NISA。4本の柱。婚活は「5本目の柱」として追加する。「5本目が折れても4本が残る」。4本で——十分に立っていられる。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

