はじめに——「月曜日の朝が来る」という恐怖
日曜日の夜。20時頃から「あの感覚」が始まる。胃の奥がキュッと締まる。「明日は月曜日だ」。楽しかった休日(もやし炒めを食べて、発泡酒を飲んで、散歩して、本を読んだだけだが)が終わる。明日から「仕事」が始まる。5日間の勤務。5日間の「耐久レース」。そして次の休日まで120時間。120時間を「生き延びる」。これが月曜日の朝から始まる「サバイバル」だ。
月曜日の朝の目覚ましは「最も聞きたくない音」だ。ピピピピ。「もう朝か」。布団から出たくない。出なければ——出勤できない。出勤できなければ——「欠勤」。欠勤が続けば——「契約終了」。契約終了は——「無収入」。この「連鎖の恐怖」が布団から体を引きずり出す。「行きたいから行く」のではない。「行かないと困るから行く」。これが23年間の「月曜日の朝」の正体だった。
23年間×52週=約1196回の月曜日の朝。1196回、布団から起き上がった。1196回、「行きたくない」を飲み込んだ。1196回、玄関のドアを開けた。1196回、駅に向かって歩いた。「1196回の月曜日を乗り越えた自分」は——偉い。本気で偉い。
第1章 「月曜日の憂鬱」の正体——心理学が明かすメカニズム
月曜日の憂鬱は「サンデー・スクラリーズ(Sunday Scaries)」と呼ばれ、英語圏でも認知されている心理現象だ。日曜の夜に「翌日の仕事への不安」が襲い、憂鬱になる。
メカニズム1は「予期不安」。人間は「まだ起きていない嫌なこと」を「先取り」して不安を感じる。月曜の仕事はまだ始まっていない。だが脳は「月曜の仕事」をシミュレーションし、「嫌な場面」を先取りして再生する。「あの上司にまた嫌味を言われるかも」「あのクライアントからクレームが来るかも」「ミスしたらどうしよう」。これらの「まだ起きていない嫌なこと」が日曜の夜に「心の中で起きる」。結果、「まだ月曜になっていないのに、もう月曜が辛い」。
メカニズム2は「コントラスト効果」。休日の「自由」と平日の「拘束」のコントラスト(落差)が大きいほど、月曜の朝の憂鬱が強くなる。休日に「楽しいことをしすぎる」と月曜の落差が激しくなる。逆に休日に「何もしない」と月曜との落差は小さいが「休日が虚しい」。最適なのは「休日を穏やかに楽しむ」こと。「穏やかな幸福」は「激しい落差」を生まない。もやし炒めと発泡酒と散歩と読書。これが「穏やかな休日」の最適解。
メカニズム3は「自律神経の乱れ」。休日に「遅く寝て遅く起きる」と体内時計が乱れる。月曜の朝に「平日のリズム」に戻そうとすると自律神経が混乱し、倦怠感、頭痛、胃の不調が出る。「社会的時差ボケ(Social Jet Lag)」と呼ばれる現象。対策は「休日も平日と同じ時刻に起きる」(眠れない夜を科学する参照)。
第2章 「月曜の朝」を乗り越える15の技術
技術1は「日曜の夜にToDoリストを書く」。月曜の仕事の「ToDoリスト」を日曜の夜に紙に書き出す。書き出せば「脳が安心する」(不安ノートと同じ原理)。「明日やるべきこと」が明確になれば「漠然とした不安」が「具体的な計画」に変わる。
技術2は「月曜の朝に『小さな楽しみ』を用意する」。「月曜の朝にだけ飲むコーヒー」。「月曜の朝にだけ食べるバナナヨーグルト」。「月曜の朝にだけ聴くお気に入りのポッドキャスト」。月曜の朝に「ご褒美」を設定することで「月曜の朝に起きる動機」が生まれる。ご褒美のコスト:0〜200円。
技術3は「朝の5分ルーティンを実行する」(独自13参照)。ストレッチ5分。体を動かすことで「倦怠感」が軽減され、「行動モード」に切り替わる。
技術4は「通勤電車で本を読む」(独自23参照)。月曜の通勤電車を「読書の時間」にすることで「通勤=嫌な時間」が「通勤=読書の時間」に変わる。「月曜の通勤が楽しみ」になれば月曜の憂鬱が軽減される。
技術5は「職場に着いたら最初に簡単な仕事をする」。月曜の朝は「エンジンがかかっていない」状態。いきなり難しい仕事をすると「エンストする」。最初の30分は「メールチェック」「書類の整理」「簡単なデータ入力」など「頭を使わない作業」で「ウォーミングアップ」する。
技術6は「月曜の昼食を楽しみにする」。「月曜の昼は少しだけ良いものを食べる」。普段のおにぎり2個(260円)を「おにぎり1個+小さいおかず1品」(350円)にグレードアップ。100円の追加で「月曜の昼食が楽しみ」になる。
技術7は「月曜日の目標を1つだけ設定する」。「今日1日で、これだけは達成する」を1つ決める。大きな目標ではなく小さな目標。「書類を3枚処理する」「メールを10件返信する」。小さな目標を達成すれば「今日は1つ達成した」の達成感が得られる。達成感は「明日も頑張ろう」のエネルギーになる。
技術8は「帰宅後のもやし炒めを『月曜スペシャル』にする」。月曜の夕食のもやし炒めに「いつもと違う味付け」をする。「月曜はニンニク醤油」「月曜はカレー粉」。「月曜日だけの特別な味」があれば、「帰宅後の楽しみ」が月曜の1日を支える。
技術9は「発泡酒を月曜の夜だけ2本にする」。普段は1本。月曜だけ2本。「月曜を乗り越えたご褒美」。追加費用135円。135円で「月曜を乗り越えた自分への祝杯」が挙げられる。
技術10は「月曜の帰り道に少し遠回りする」。いつもと違う道で帰る。「いつもの景色」とは違う「非日常感」が脳をリフレッシュする。遠回りの時間は10分程度。10分で「脳のリセット」ができる。コスト0円。
技術11は「月曜の夜に『今日よくやった3つ』を書く」。ノートに「今日よくやったこと」を3つ書く。「出勤した」「書類を3枚処理した」「もやし炒めを作った」。3つ書けば「今日も頑張った」と自分を肯定できる。「月曜を乗り越えた自分」を褒める。褒める言葉は自分で用意する。
技術12は「火曜日が来れば月曜は終わっていると知る」。当たり前だが「月曜日は24時間で終わる」。永遠に続くわけではない。「あと○時間で月曜が終わる」カウントダウンを心の中でする。8時に出勤→17時退社=あと9時間。昼休みに「あと4.5時間」。15時に「あと2時間」。カウントダウンは「終わりが見える安心感」を提供する。
技術13は「休日に平日と同じ時刻に起きる」。社会的時差ボケの防止。日曜日の朝を「平日と同じ6時半」に起きる。「休日の朝寝坊をやめるだけ」で月曜の朝の辛さが半減する。
技術14は「金曜の夜に翌週のスケジュールを確認する」。「翌週の月曜に何があるか」を金曜のうちに確認しておく。「月曜に会議がある→資料を金曜中に準備する」。「月曜の準備を金曜に済ませておく」ことで「日曜夜の不安」を軽減できる。
技術15は「最悪のシナリオを想像して安心する」。「月曜の最悪のシナリオは何か?」。「ミスして怒られる」——怒られても死なない。「仕事が終わらない」——明日に持ち越せばいい。「契約終了を告げられる」——失業保険がある。生活防衛資金もある。「最悪のシナリオでも死なない」とわかれば、不安のボリュームが下がる。
第3章 23年間×52週=1196回の月曜日の年代記
22歳の月曜日。初めての出勤。緊張。不安。「何をすればいいかわからない」。だが「希望」もあった。「これから頑張るぞ」。22歳の月曜日は「希望が不安を上回っていた」数少ない時期。
25歳の月曜日。3社目の派遣先。「また新しい職場か」。「前の職場のルール」が使えない。「前の職場の人間関係」はリセットされた。「ゼロからのスタート」の月曜日。派遣社員は「月曜日にゼロからスタートする回数」が正社員の10倍以上。13回の「新しい月曜日」。
29歳の月曜日。リーマンショック直後。派遣切りされた翌日が月曜日だった。月曜日なのに「出勤しなくていい」。開放感と絶望が同時に来た。「出勤しなくていい月曜日」は「嬉しい」はずだが「怖い」。「次の月曜日も出勤しなくていい」が3ヶ月続いた。あの3ヶ月の月曜日は「最も長い月曜日」だった。
35歳の月曜日。もやし炒めが定番になった時期。月曜の夕食は必ずもやし炒め。「月曜の夜のもやし炒め」が「1週間の始まりの儀式」になった。フライパンの音が「月曜を乗り越えた」合図。
40歳の月曜日。NISAを始めた時期。月曜の朝に「今月のNISAの積立が完了した」通知が来る。「月曜の朝に良いニュース」が届く珍しい日。NISAの通知は「月曜の唯一のポジティブな通知」。
45歳の月曜日(現在)。1196回目の月曜日。「行きたくない」は変わらない。だが「行く理由」は変わった。22歳のときは「行かないと怒られるから」。45歳の今は「行かないとNISAの積立ができないから」「もやし炒めの材料費を稼がないといけないから」「来月の発泡酒代を稼がないといけないから」。動機が「恐怖」から「目的」に変わった。目的があれば「行きたくない」を超えられる。
第4章 「月曜日の朝」が変わる日——公務員になったら月曜日は変わるか
公務員になったら月曜日の朝は「楽になる」だろうか。答えは「部分的にYes」。「クビの恐怖がない」分だけ月曜の朝の不安が軽減される。「来月の仕事がない」恐怖がゼロになる。だが「仕事そのものの大変さ」は変わらない。むしろ「住民対応のストレス」「異動のリセット」「組織の硬直性」が新しい月曜の憂鬱を生む可能性がある。
「月曜が楽になる」のではなく「月曜の憂鬱の質が変わる」。派遣社員の月曜:「クビが怖い」「来月が不安」。公務員の月曜:「今日の業務が大変」「住民対応が辛い」。どちらも「月曜は辛い」が、辛さの「深さ」が違う。派遣社員の辛さは「存在の不安」。公務員の辛さは「業務の負荷」。前者は「生存に関わる辛さ」。後者は「仕事に関わる辛さ」。生存の辛さのほうが「重い」。
「月曜日の朝が完全に楽しくなる」日は来ないかもしれない。だが「月曜の朝の辛さの度合いを下げる」ことは可能だ。第2章の15の技術を実践すれば、辛さが「10」から「7」くらいに下がる。「7」でも辛いが「10」よりはマシ。マシなら——起き上がれる。起き上がれれば——出勤できる。出勤できれば——もやし炒めの材料費を稼げる。それで十分だ。
結論——「1197回目の月曜日」も乗り越える
来週の月曜日。1197回目。目覚ましが鳴る。ピピピピ。「行きたくない」。22年間と同じ感情。でも起き上がる。22年間と同じ行動。着替える。もやし炒めの残りを電子レンジで温めて朝食にする。財布を確認する。スマートフォンを持つ。玄関のドアを開ける。「行ってきます」。言う相手はいない。壁に向かって言う。壁は何も答えない。だが「言った」ことが大切だ。「行ってきます」は「帰ってくる宣言」であり「今日を生き延びる宣言」だ。
1197回目の月曜日も乗り越える。1198回目も。1199回目も。もやし炒めのために。発泡酒のために。NISAのために。そしていつか「月曜日が怖くなくなる日」のために。その日が来るかどうかはわからない。だが「来るかもしれない日」のために「今日の月曜日を乗り越える」。これが「サバイバル」だ。
月曜日の朝。発泡酒はまだ飲めない(朝だから)。だが帰宅後に飲む発泡酒を想像する。プシュッ。ゴクッ。「ふー」。この「ふー」のために今日を乗り越える。「ふー」のために8時間働く。「ふー」は135円。135円のために8時間。時給17円。安い。安すぎる。だが「ふー」の価値は135円以上だ。「1日を乗り越えた報酬」としての発泡酒は——プライスレス。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。
