- 重要なお断り
- 序章 ひふみ投信のポートフォリオは「日本企業の縮図」である
- 第一章 第1位 伊藤忠商事(8001) — 「商社の中の商社」が証す資本効率経営
- 第二章 第2位 丸紅(8002) — 注力事業の成長と資本効率改善への期待
- 第三章 第3位 三井物産(8031) — 資源・非資源の両輪戦略
- 第四章 第4位 三菱地所(8802) — 丸の内の「不動産王」
- 第五章 第5位 トヨタ自動車(7203) — 「モビリティカンパニー」への変革
- 第六章 第6位 川崎重工業(7012) — 防衛・水素時代の主役
- 第七章 第7位 ソニーグループ(6758) — 総合エンタメテック企業の進化
- 第八章 第8位 フジ・メディア・ホールディングス(4676) — 業界変革の渦中で
- 第九章 第9位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) — 日本最大のメガバンク
- 第十章 第10位 みずほフィナンシャルグループ(8411) — 国際業務に強みを持つメガバンク
- 第十一章 第11位 三菱電機(6503) — 総合電機の構造改革
- 第十二章 第12位 住友電気工業(5802) — 自動車部品とインフラの巨人
- 第十三章 第13位 オリックス(8591) — 多角的金融サービスの雄
- 第十四章 第14位 鹿島建設(1812) — スーパーゼネコンの実力
- 第十五章 第15位 東京海上ホールディングス(8766) — 損害保険業界のリーダー
- 第十六章 第16位 三菱重工業(7011) — 防衛・エネルギーの巨人
- 第十七章 第17位 東京エレクトロン(8035) — 半導体製造装置の世界トップクラス
- 第十八章 第18位 ディスコ(6146) — 半導体加工装置のニッチトップ
- 第十九章 第19位 アシックス(7936) — グローバルスポーツブランドの復活劇
- 第二十章 第20位 GMOペイメントゲートウェイ(3769) — 決済インフラの覇者
- 第二十一章 第21位 光通信(9435) — 法人向け通信サービスの王者
- 第二十二章 第22位 HOYA(7741) — 精密ガラスの世界トップ
- 第二十三章 第23位 セコム(9735) — 安全・安心の社会インフラ
- 第二十四章 第24位 富士通(6702) — DX時代のITサービス企業
- 第二十五章 第25位 日本電気(6701) — NECの再生劇
- 第二十六章 第26位 第一ライフグループ(8750) — 生保業界の改革者
- 第二十七章 第27位 大塚ホールディングス(4578) — 「ポカリスエット」と医薬品の融合
- 第二十八章 第28位 ダイフク(6383) — 物流自動化の世界トップ
- 第二十九章 第29位 東日本旅客鉄道(9020) — 鉄道の枠を超えた変革
- 第三十章 第30位 村田製作所(6981) — 電子部品の世界トップ
- 第三十一章 31位以下の銘柄群について
- 第三十二章 ポートフォリオから読み解く藤野氏の投資哲学
- 第三十三章 業種別ポートフォリオ分析 — 電気機器セクターの戦略
- 第三十四章 業種別ポートフォリオ分析 — 卸売業(総合商社)の重要性
- 第三十五章 業種別ポートフォリオ分析 — 銀行業と保険業の金融セクター
- 第三十六章 業種別ポートフォリオ分析 — 機械、輸送用機器、建設業
- 第三十七章 過去のひふみ投信の有名な保有銘柄
- 第三十八章 ポートフォリオの時系列的な変化
- 第三十九章 ひふみワールド・ひふみクロスオーバーpro・他シリーズの組入銘柄
- 第四十章 ひふみ投信の運用体制 — チームとしての選別
- 第四十一章 個人投資家がひふみ投信から学べること
- 第四十二章 ひふみ投信の運用パフォーマンス分析
- 第四十三章 ひふみ投信のコストと注意点
- 第四十四章 ポートフォリオから読み解く「日本の未来図」
- 第四十五章 私の独自分析 — ポートフォリオの強みと弱み
- 第四十六章 AI時代におけるひふみ投信ポートフォリオの意味
- 第四十七章 個人投資家が陥りがちな誤解と注意点
- 第四十八章 米国投資家から見た日本株ポートフォリオの位置づけ
- 第四十九章 アクティブvsインデックス論争の中での位置づけ
- 第五十章 ESG観点からの評価
- 第五十一章 過去の有名保有銘柄の入れ替わりに見るひふみ投信の進化
- 第五十二章 31位以下の銘柄群を推測する
- 第五十三章 ひふみ投信ポートフォリオが映す日本企業の変革史
- 第五十四章 上位30銘柄から見る「藤野哲学」の具体化
- 第五十五章 ひふみ投信が見落とした(かもしれない)銘柄
- 第五十六章 ポートフォリオを構築する際の実践的なヒント
- 第五十七章 ひふみ投信を選ぶべき人、選ばない方が良い人
- 第五十八章 ひふみ投信の将来展望
- 第五十九章 ひふみ投信のポートフォリオが描く「2030年の日本」
- 第六十章 終章 〜私たちはひふみ投信のポートフォリオから何を学べるか〜
- 参考文献
- 巻末付録 ひふみ投信マザーファンド上位30銘柄一覧表(2026年3月末時点)
- 補論一 2026年3月度月次レポートを深く読み解く
- 補論二 「ひふみ系」シリーズ全体の保有銘柄を俯瞰する
- 補論三 ひふみ投信の保有銘柄を「藤野氏の著書」と照合する
- 補論四 「ひふみ投信」と「ひふみワールド」 — 二大旗艦ファンドの比較
- 補論五 私が考える「藤野氏のポートフォリオの最大の価値」
- 補論六 業績好調・苦戦企業の二極化 — ポートフォリオから見る2026年の日本企業
- 補論七 ひふみ投信ポートフォリオから派生する「アクション・アイテム」
- 補論八 ひふみ投信のポートフォリオを「ストーリー」として読む
- 補論九 投資テーマ別ポートフォリオの分解
- 補論十 「ひふみのあゆみ」 — ファンドのストーリーを振り返る
- 補論十一 ひふみ投信から学ぶ「投資家としての成熟」
- 補論十二 ひふみ投信ポートフォリオに「映る経営者たち」
- 終章 私たちは何を学んだか
重要なお断り
本記事は、レオス・キャピタルワークス株式会社が運用する「ひふみ投信」が公開している月次レポート(2026年3月度、基準日2026年3月31日)を一次資料として、上位30銘柄を中心に詳細に分析したものです。
最初に、いくつかの重要なお断りをさせてください。
第一に、ひふみ投信の保有銘柄は毎月公開される月次レポートで更新されており、市場環境の変化に応じて入れ替わります。本記事の内容は執筆時点での最新公開情報(2026年3月末時点)に基づくものであり、将来の保有状況を保証するものではありません。
第二に、本記事は情報整理と分析を目的とした読み物であり、特定銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断は読者ご自身の責任で行ってください。
第三に、月次レポートに藤野氏ご本人および運用チームの見解として記載されている内容は、その範囲内で参考にしていますが、それ以外の銘柄選定理由や評価については、公開情報を基にした私の独自の分析・解釈を加えています。藤野氏ご本人の見解を完全に代弁するものではない点をご了承ください。
それでは、ここから「ひふみ投信」のポートフォリオを、銘柄ごとに丁寧に紐解いていきます。
序章 ひふみ投信のポートフォリオは「日本企業の縮図」である
1兆円を超える運用資産が選別する71社
2026年3月末時点で、ひふみ投信マザーファンドの純資産総額は約10,315億円、組み入れ銘柄数は71銘柄となっています。1兆円という規模の資金を、わずか71社に集中して投じているわけです。日本の上場企業は約3,900社あると言われますから、藤野氏率いるレオス・キャピタルワークスの運用チームが、それを2%以下にまで絞り込んでいる計算になります。
この「絞り込みの厳しさ」こそが、ひふみ投信の最大の特徴です。インデックスファンドであれば、日経平均225銘柄やTOPIX2,000銘柄あまりを機械的に保有します。しかしひふみは、徹底的に選別する。藤野氏が長年にわたって培ってきた「企業を見る目」と、運用チームの調査力が、この71社という数字に凝縮されているわけです。
そして上位30銘柄でポートフォリオの大半を占める形になっています。上位30社の構成比率を単純に合計すると、約75%程度です。残りの41社で約25%を占めることになります。つまり、トップ30社がひふみ投信のパフォーマンスを大きく左右する存在だ、と言えるわけです。本記事では、この上位30銘柄を一つずつ丁寧に見ていきます。
2026年3月末時点のポートフォリオの全体像
まず全体像を整理しておきましょう。2026年3月度月次レポート(基準日2026年3月31日)によれば、ひふみ投信マザーファンドの基本構成は以下のようになっています。
国内株式の比率は97.56%です。海外株式や海外投資証券は0%、現金等が2.44%という構成です。つまり、ひふみ投信は実質的にほぼ100%日本株で運用されている、純度の高い日本株ファンドだということが分かります。
市場別では、東証プライム市場が96.58%、スタンダード市場が0.98%、グロース市場は0%です。プライム市場中心の構成で、グロース市場の新興企業は現時点で組み入れがゼロというのは、当月の特徴的な点と言えるでしょう。藤野氏は中小型成長株に強いイメージがありますが、現在のポートフォリオは大型優良株が中心となっています。
時価総額別では、5兆円以上が59.52%、1兆円以上5兆円未満が25.58%、3,000億円以上1兆円未満が9.42%、300億円以上3,000億円未満が3.05%、300億円未満は0%です。時価総額5兆円以上の超大型株が約6割を占める形で、まさに日本を代表する企業群への投資です。
業種別では、電気機器が15.40%でトップ。続いて卸売業(総合商社)が15.26%、機械が9.92%、情報・通信業が7.90%、銀行業が7.58%、輸送用機器が6.59%、建設業が4.74%、不動産業が3.99%、保険業が3.85%、小売業が2.95%、非鉄金属が2.53%、その他製品が2.52%、その他金融業が2.48%、精密機器が1.78%、サービス業が1.76%、医薬品が1.51%、電気・ガス業が1.45%、陸運業が1.31%、食料品が1.30%、化学が1.19%、ガラス・土石製品が0.62%、ゴム製品が0.49%、鉱業が0.45%、そして現金等が2.44%という構成です。
電気機器と総合商社が二大セクターとなっている点は、現在の日本市場の構造をある意味反映しています。電気機器は半導体関連を含む幅広い業種で、AI時代における日本企業の競争力の現れ。総合商社は資源高とインフレ時代に強い、まさに「インフレ・ヘッジ」としての役割を果たします。
「日本を代表する企業群」への投資
この構成を眺めて、私が最も印象的に感じるのは、ひふみ投信のポートフォリオが「日本を代表する企業群」の縮図になっている点です。総合商社、メガバンク、自動車、半導体、保険、不動産、ゼネコン、電機、防衛・重工業。これらは、すべて日本経済の根幹を支える業界です。
藤野氏は以前から「中小型成長株」のイメージで語られることが多かったのですが、運用資産が1兆円を超えてからは、大型株にも積極的に投資するようになりました。これは、ファンドの規模拡大に伴う必然でもありますが、同時に、日本の大企業が変わり始めているという見立てでもあります。
東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請、コーポレートガバナンス改革、株主還元への意識向上。こうした流れの中で、日本の大企業が「眠っている巨人」から「動き始める巨人」へと変わりつつあります。藤野氏は、この変化のうねりに賭けているわけです。
2026年3月という「特別な月」
なお、2026年3月度のひふみ投信のパフォーマンスは、月間でマイナス11.86%という大きなマイナスでした。同月のTOPIX(配当込み)はマイナス10.33%、日経平均株価はマイナス13.23%ですから、市場全体が暴落した中での運用となりました。
藤野氏は月次レポートのコメントで、2026年3月の市場急落の背景として「中東情勢の悪化」を挙げています。米国・イスラエルのイラン攻撃と、イランの湾岸諸国などへの報復攻撃が続いており、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡がイランによってほぼ封鎖されたことで、原油価格が急騰したとのこと。アジア向けの原油指標である「ドバイ原油」が、WTIやブレントを大幅に上回って上昇し、エネルギー依存度の高いアジア経済に物価高と景気後退の懸念が広がっている、という分析です。
こうした厳しい市場環境の中でも、ひふみ投信は「これまで売り込まれてきたITセクターの中でもインフラに関わる企業への投資をさらに加速させた」と藤野氏は述べています。市場全体が動揺している局面でこそ、長期的な目線で「インフラ価値」のある企業を仕込む。これがひふみ投信の真骨頂です。
それでは、上位30銘柄を一つずつ、丁寧に見ていきましょう。
第一章 第1位 伊藤忠商事(8001) — 「商社の中の商社」が証す資本効率経営
ひふみ投信の最大保有銘柄
2026年3月末時点で、ひふみ投信の組入比率第1位は伊藤忠商事(証券コード8001)です。組入比率は5.96%。これはマザーファンドの純資産総額に対する比率で、約615億円規模の保有となります。1兆円ファンドの中で最大のポジションが、伊藤忠商事なのです。
伊藤忠商事は、五大商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)の一角を占める総合商社です。1858年に近江商人として創業した、170年近い歴史を持つ企業です。繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報・金融、第8カンパニー(新事業)という8つの事業領域を持つ多角的なコングロマリットです。
ひふみ投信が伊藤忠商事をトップに据えている理由について、月次レポートには次のような趣旨の記述があります。総合商社の中でも頭ひとつ抜けた存在であり、資本効率への意識が他社と比較してとても高い。毎年のガイダンス(業績見通し)へのコミットメントも高い。コングロマリット企業である一方で、川上から川下までサプライチェーンを考慮した事業運営は、今後コングロマリットプレミアムを生み出す可能性もある、というのです。
なぜ伊藤忠が「商社の中の商社」なのか
ここで言われている「資本効率への意識の高さ」は、現代の日本企業を評価するうえで決定的に重要な要素です。
資本効率の代表的な指標であるROE(自己資本利益率)を見ると、伊藤忠商事は長年、五大商社の中でも高い水準を維持しています。一般的に商社業界のROEは10〜15%程度ですが、伊藤忠は20%近い水準を達成する期もあります。これは、限られた自己資本でいかに効率的に利益を生み出しているかを示す指標であり、株主からすれば「自分が出資した資本がよく働いているか」の証拠になります。
なぜ伊藤忠の資本効率が高いのか。一つには、生活消費分野への強さがあります。ファミリーマートの完全子会社化、伊藤忠食品、ドール(果物の世界的ブランド)などを通じて、生活者の日常に深く食い込んだ事業を展開している。資源価格に左右されにくい、安定的な収益構造を持っているのです。
もう一つの理由として、藤野氏が指摘するように「川上から川下までサプライチェーンを考慮した事業運営」があります。たとえば食品分野では、原料調達から加工、卸、小売まで一貫した流れの中で価値を生み出している。これにより、各段階で利益を捻出できる構造が築かれているわけです。
「ガイダンスへのコミットメント」が示す経営の質
藤野氏が特に評価している「ガイダンスへのコミットメントの高さ」も、深い意味があります。
上場企業は毎年、業績見通し(ガイダンス)を発表します。「今期は売上高〇〇億円、営業利益〇〇億円を見込む」というものです。投資家はこのガイダンスを基に投資判断をします。
しかし、ガイダンスを出しても、実際には未達となる企業が少なくありません。経済環境のせい、為替のせい、競合のせい、いろいろな言い訳をつけて、最初に約束した数字を下回ることが日常茶飯事です。
伊藤忠商事は、このガイダンスを真摯に守ろうとする企業文化を持っています。一度約束した数字は何としても達成する。仮に未達になる場合でも、早期に投資家に開示し、説明責任を果たす。こうした「約束を守る経営姿勢」が、投資家の信頼を生んでいるのです。
これは、藤野氏の投資哲学の核心である「経営者を信頼する」という観点とも合致します。経営者が嘘をつかない、約束を守る、誠実に説明する。こうした姿勢が見える企業は、長期投資の対象として安心できる、というロジックです。
コングロマリットプレミアムの可能性
藤野氏は「コングロマリットプレミアムを生み出す可能性」にも言及しています。これは、興味深い視点です。
通常、多角化企業(コングロマリット)は、株式市場で「コングロマリットディスカウント(評価減)」を受けがちです。事業が複雑すぎて分かりにくい、各事業のシナジーが見えにくい、専業企業の方が効率的だ、といった理由からです。
しかし伊藤忠商事は、その逆の可能性を秘めているというのが藤野氏の見方です。多角的に展開する事業同士のシナジーが、専業企業には真似できない競争優位を生み出す。これが「コングロマリットプレミアム」です。
具体的にどんなシナジーがあるか。たとえば、繊維事業で蓄積した中国・アジアでの調達ネットワークが、食品事業のグローバル展開を支える。機械事業の関係性が、エネルギー事業の交渉力を高める。情報・金融事業が、各事業のリスク管理を支える。こうした見えにくいシナジーが、長期的に伊藤忠の競争力を支えているわけです。
株主還元の進化
伊藤忠商事は、近年、株主還元にも積極的です。配当性向の引き上げ、自社株買いの実施を継続的に行っており、株主価値の向上に意欲的です。
ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、五大商社の株を保有し続けていることでも有名です。これは、世界一の投資家が日本の商社の長期的な価値を認めているということであり、その評価は伊藤忠にも当てはまります。
藤野氏がひふみ投信の最大保有銘柄に伊藤忠を選んでいるのは、こうした多面的な評価の結果でしょう。資本効率の高さ、経営の誠実さ、多角的事業のシナジー、株主還元の積極性、そして資源価格に左右されにくい安定性。これらすべての要素が揃った企業として、伊藤忠商事はひふみ投信のポートフォリオの「アンカー(錨)」の役割を果たしているのです。
第二章 第2位 丸紅(8002) — 注力事業の成長と資本効率改善への期待
伊藤忠に次ぐ大規模ポジション
組入比率2位は丸紅(証券コード8002)で、組入比率は4.70%です。1位の伊藤忠、3位の三井物産と合わせると、上位3社で約14.75%を商社が占める構造になっています。ひふみ投信が、いかに総合商社というセクターを重視しているかが分かります。
丸紅は、1858年に伊藤忠と同じ系譜から分岐した総合商社で、長い歴史を持ちます。エネルギー、金属、食料、化学品、生活関連、情報通信、インフラなど多岐にわたる分野でグローバルに事業展開しているのが特徴です。
月次レポートには、「大本社長の下、注力事業のさらなる成長促進と資本効率改善に期待」という趣旨の記述があります。ここで注目すべきは、藤野氏が経営者の名前(大本氏)に言及している点です。これは藤野氏の「経営者重視」の哲学を、最も象徴的に表しているコメントとも言えます。
経営者の力が問われる企業
丸紅は、五大商社の中ではかつて「中位グループ」と見られることが多い存在でした。伊藤忠と三菱商事が「双璧」とされ、三井物産と住友商事が「中堅」、そして丸紅と豊田通商(時に住商と入れ替わる)が「次のグループ」と位置付けられてきました。
しかし近年、丸紅は急速に成長性と収益性を高めています。これは、経営戦略の見直しと、注力事業への集中投資の成果です。穀物事業、電力事業、航空機関連事業など、丸紅が強みを持つ分野で大胆な投資を続け、利益体質を強化してきたわけです。
藤野氏が大本社長に期待を寄せているのは、こうした経営戦略の方向性が、長期的な企業価値向上に資すると見ているからでしょう。経営者の戦略眼と実行力が、企業の運命を決める。これは中小企業にも大企業にも当てはまる、藤野氏の確信です。
穀物事業の世界的ポジション
丸紅の事業の中で、特に注目されるのが穀物事業です。丸紅は世界三大穀物メジャーの一角を占める存在で、米国に「ガビロン」という巨大な穀物商社を子会社として持っています。これにより、世界の穀物流通において重要なポジションを確保しているわけです。
近年、地政学的リスクの高まりとともに、食糧安全保障の重要性が再認識されています。ロシア・ウクライナ戦争による穀物供給の混乱、中東情勢の悪化、気候変動による収穫変動など、不確実性が増す中で、穀物の確保はますます戦略的に重要になっています。
丸紅の穀物事業は、こうした世界的なトレンドの中で、長期的な収益機会を提供してくれる存在です。これは、藤野氏が常に注目している「構造的成長」の好例とも言えます。
電力事業のグローバル展開
丸紅のもう一つの強みが、電力事業です。世界各国で発電所の開発・運営に携わっており、再生可能エネルギーへの投資も積極的に進めています。
カーボンニュートラルへの世界的な動きの中で、電力事業は今後ますます重要性を増していきます。AI関連のデータセンター増設による電力需要の急増、新興国のインフラ整備、再生可能エネルギーへの投資。こうした巨大な需要に応える企業として、丸紅のポジションは魅力的です。
資本効率の改善余地
藤野氏が「資本効率改善に期待」と述べているのは、丸紅にはまだ改善の余地があるという見立てでしょう。
伊藤忠商事が業界トップクラスの資本効率を実現している一方で、丸紅は伝統的にやや低めの水準でした。これは、資本集約的な事業(資源、インフラなど)の比重が高いことが影響しています。
しかし、近年の経営改革で、丸紅は資本効率の向上に意欲的です。不採算事業の見直し、コア事業への集中投資、株主還元の強化など、多面的な施策を進めています。この方向性が継続すれば、伊藤忠並みの資本効率まで近づける可能性があり、それが株価の上昇余地になる、というのが藤野氏の見立てではないでしょうか。
第三章 第3位 三井物産(8031) — 資源・非資源の両輪戦略
老舗総合商社の真価
組入比率3位は三井物産(証券コード8031)で、組入比率は4.09%です。商社三本柱の最後を飾る存在として、ひふみ投信ポートフォリオの重要な位置を占めています。
三井物産は、三井財閥の流れを汲む、日本を代表する総合商社の一つです。鉄鉱石、原油、天然ガス、メタル、機械、化学品、食料、衣料、情報、金融など、文字通り「ありとあらゆる」分野で事業を展開しています。
月次レポートには、「金属・エネルギーを強みとして資源関連ビジネスの持続的な成長に期待。非資源ビジネスの改善と成長がさらなるROE向上へのカギであり、資源・非資源の両輪が企業価値を押し上げる」という趣旨の記述があります。
「資源の三井」と呼ばれる強み
三井物産は、商社業界で「資源の三井」と呼ばれてきました。鉄鉱石、原油、天然ガス、銅、ニッケルなど、世界の主要な資源プロジェクトに参画しており、安定的な権益収入を得ています。
特に鉄鉱石では、オーストラリアの世界最大級の生産プロジェクトに長年参画しており、ここからの収益が三井物産の利益の柱となっています。LNG(液化天然ガス)では、世界各地のプロジェクトに参画し、エネルギーセキュリティの観点でも重要な役割を果たしています。
藤野氏が「資源関連ビジネスの持続的な成長に期待」と述べているのは、こうした既存の資源権益の安定性と、新たな投資機会の存在を評価してのことでしょう。資源価格は変動しますが、長期的には世界経済の成長とともに需要は増え続けると見られています。
非資源事業の重要性
しかし、資源だけに頼っていては、資源価格の変動でROEがブレてしまいます。藤野氏が「非資源ビジネスの改善と成長がさらなるROE向上へのカギ」と指摘しているのは、まさにこの点です。
三井物産は近年、ヘルスケア、モビリティ、ニュートリション(栄養)、リテール、ICT(情報通信技術)など、非資源分野での事業拡大を進めています。これらは、資源価格の変動に左右されにくく、より安定的な収益を生む事業群です。
非資源事業の中で特に注目されるのが、ヘルスケア分野です。三井物産は、アジアでの医薬品流通、医療機器、ヘルスケアサービスなど、幅広い分野で事業を展開しています。アジアの人口増加と所得向上に伴って、医療サービスへの需要は今後も拡大していく。三井物産はこの巨大な市場機会を捉える戦略的なポジションを築いているわけです。
「両輪」戦略の意味
藤野氏が言う「資源・非資源の両輪が企業価値を押し上げる」というメッセージには、深い意味があります。
これは、片方だけに頼るのではなく、両方をバランスよく成長させることで、長期的な企業価値が高まる、という見方です。資源は短期的なボラティリティが大きいけれど、長期的な安定収益源。非資源は短期的には収益が小さくても、長期的な成長エンジン。両者を組み合わせることで、リスクとリターンのバランスが最適化されます。
これは、藤野氏自身の運用哲学とも重なります。「投資(長期の企業選別)」と「運用(機動的な対応)」の両輪。安定性と成長性。短期と長期。藤野氏は、こうしたバランス感覚で物事を捉える人なのです。
バフェットも保有する三井物産
ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイは、五大商社の株を保有していますが、その中には三井物産も含まれています。バフェットが三井物産を保有し続けているのは、その長期的な価値を評価しているからでしょう。
藤野氏がひふみ投信で三井物産を上位に保有しているのも、こうしたグローバルな評価とも整合的です。世界最高峰の投資家が選ぶ企業に、日本の代表的なファンドマネージャーも同調する。これは、三井物産の本質的な強さを示しています。
第四章 第4位 三菱地所(8802) — 丸の内の「不動産王」
オフィスビル大手の代名詞
組入比率4位は三菱地所(証券コード8802)で、組入比率は3.99%です。日本を代表する総合不動産デベロッパーで、東京・丸の内エリアを中心に圧倒的なポジションを築いている企業です。
三菱地所は、1937年設立の老舗デベロッパーですが、その歴史は三菱財閥の不動産業務を継承する形でさらに古くまで遡ります。「丸の内大家」とも呼ばれる、東京の中心地におけるオフィスビル賃貸事業が中核となっています。
月次レポートには、「丸の内を中心としたオフィスビルの開発・運用に強み。人口減による労働者不足が好立地オフィスへの需要を高める中で、今後より一層の成長に期待。さらに海外事業も順調に拡大しており、資本効率改善にも期待」という趣旨のコメントがあります。
「立地」という参入障壁
三菱地所の最大の強みは、なんといっても「立地」です。東京・丸の内、大手町、有楽町という、日本でもっとも経済価値の高いエリアに、圧倒的な土地と建物を保有しています。
このエリアの土地は、新たに獲得することがほぼ不可能です。100年以上にわたって築き上げてきた所有権を、他社が後から獲得しようとしても、土地の取引自体がほとんど発生しないからです。これは、新規参入が事実上不可能な、極めて強力な参入障壁です。
ウォーレン・バフェットが「経済の堀(モート)」と呼ぶ概念があります。これは、競争相手から自社の利益を守る、構造的な競争優位のことです。三菱地所の丸の内エリアの土地保有は、まさに教科書的な「経済の堀」と言えるでしょう。
人口減少時代の「逆説的な追い風」
藤野氏のコメントで興味深いのは、「人口減による労働者不足が好立地オフィスへの需要を高める」という見立てです。
普通、人口減少は不動産業にとってマイナス要因と考えられます。需要が減るから、不動産価格は下がるはず、というロジックです。
しかし藤野氏は、その逆を見ています。人口が減るからこそ、企業は限られた優秀な人材を確保するために、好立地のオフィスを求めるようになる。通勤に便利、地下鉄でのアクセスが良い、周辺に飲食店や商業施設が揃っている。こうした条件が揃った丸の内エリアのオフィスは、これからも需要が落ちないどころか、むしろ増していく可能性がある、というのです。
これは、見事な逆説的視点です。人口減少という大きなマクロトレンドの中でも、ミクロで見れば追い風になる企業がある。そうした企業を発掘するのが、ファンドマネージャーの仕事なのです。
海外事業の拡大
三菱地所は近年、海外事業の拡大にも力を入れています。米国、ロンドン、シンガポール、上海など、世界の主要都市で大型開発プロジェクトを手がけており、これらが収益の柱として育ちつつあります。
特に米国では、ニューヨークやワシントンで超高層オフィスビルを保有・運営しており、米国経済の成長の恩恵を受ける構造になっています。為替の影響もあり、円安局面では海外資産の評価が高まる効果もあります。
藤野氏が「海外事業も順調に拡大しており、資本効率改善にも期待」と述べているのは、こうした海外展開が、三菱地所の収益基盤を多様化し、結果として資本効率の向上につながると見ているからでしょう。
REIT(不動産投資信託)との関係
三菱地所は、不動産投資信託(REIT)の運営にも積極的です。日本ビルファンド投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人など、日本のREIT市場のトップクラスの銘柄を運営しています。
REITは、不動産を証券化することで、機動的に資金を回収・再投資できる仕組みです。三菱地所が開発した物件をREITに売却することで、資本を回転させ、新たな開発に投じることができます。これは、伝統的な「所有して賃貸」のモデルを超えた、現代的な不動産経営の形です。
こうした金融的な手法の活用も、藤野氏が評価する「資本効率改善」の一要素でしょう。
第五章 第5位 トヨタ自動車(7203) — 「モビリティカンパニー」への変革
日本を代表する世界企業
組入比率5位はトヨタ自動車(証券コード7203)で、組入比率は3.39%です。言うまでもなく、日本を代表する世界企業であり、時価総額でも日本トップクラスです。
月次レポートには、「日本を代表する自動車メーカー。乗用車、商用車共に高いシェアを有し、グローバルで年間約1,000万台以上の販売台数を誇る。長期的なROE20%目標を達成するために、モビリティカンパニーへの変革に加えて、グループ再編や資本構成の最適化にも期待」という趣旨のコメントがあります。
「年間1,000万台」の意味
トヨタ自動車のグローバル販売台数は、年間1,000万台超という規模です。これは、世界の自動車販売台数の約12%を占める計算になります。世界に存在する自動車のうち、約8台に1台がトヨタ車という途方もないスケールです。
この圧倒的なスケールが、トヨタの強さの源泉です。スケールメリットによる調達コストの低減、開発費の効率的な分散、グローバルな販売・サービスネットワーク。これらすべてが、トヨタの競争優位を支えています。
ROE20%という野心的目標
藤野氏が言及している「長期的なROE20%目標」というのは、トヨタが掲げる経営目標です。自動車業界のROEは、一般的に10〜15%程度ですから、20%というのは極めて野心的な数字です。
この目標を達成するためには、単に車を売るだけでは不十分です。事業構造の根本的な変革が必要になります。具体的には、ソフトウェア収益の拡大、モビリティサービスの本格展開、エネルギー事業への参入など、伝統的な自動車製造の枠を超えた価値創造が求められます。
「モビリティカンパニー」への変革
トヨタの豊田章男会長(前社長)が打ち出した「モビリティカンパニーへの変革」というビジョンは、業界では有名です。これは、自動車を製造販売する会社から、移動全般に関わるサービスを提供する会社へと変わる、という宣言です。
具体的な取り組みとして、コネクテッドカー(常時通信機能を持つ自動車)、自動運転、シェアリングサービス、MaaS(Mobility as a Service)、エネルギー管理、そしてグループとしてのウーブン・シティ(実証都市)の建設など、多岐にわたる事業を展開しています。
これらが順調に育てば、トヨタの収益構造は大きく変わります。ハードウェア(自動車)の販売利益だけでなく、ソフトウェアやサービスからの継続的な収益が積み上がる。この変革が成功すれば、ROE20%という目標も射程内に入ってくるわけです。
グループ再編と資本構成の最適化
藤野氏が指摘する「グループ再編や資本構成の最適化」も、トヨタにとって重要なテーマです。
トヨタグループには、デンソー、アイシン、豊田自動織機、豊田通商、ジェイテクトなど、多くの上場関連会社があります。これらの関連会社との資本関係を整理し、グループ全体として効率的な資本配分を行う動きが、近年加速しています。
たとえば2025年には、豊田自動織機の非公開化が話題になりました。グループ内のクロスホールディング(株式持ち合い)を解消し、資本効率を高める動きです。こうした動きが続けば、トヨタグループ全体の資本効率は大きく向上していく可能性があります。
藤野氏は、この変革のうねりに注目しているわけです。トヨタという「巨人」が、本気で変わり始めている。その変化のリターンを取りに行く、というのがひふみ投信のスタンスでしょう。
EV戦略の現実主義
トヨタは、EV(電気自動車)戦略について、欧米のメーカーと異なる「現実主義」を取っています。一気にEVに振るのではなく、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV、水素燃料電池車など、多様な選択肢を提供する「マルチパスウェイ」戦略です。
この戦略は、当初は「EVへの取り組みが遅れている」と批判されました。しかし、2024年以降、世界的にEV需要の伸びが鈍化する中で、トヨタの現実主義が見直されています。一気にEVに振らなかったことで、ハイブリッドの強い需要を取り込めている。これがトヨタの利益を支える構造になっているのです。
藤野氏は、こうした「経営判断の正しさ」も評価しているはずです。短期的な流行に流されず、市場の本質を見据えた経営。これは、長期投資の対象として理想的な姿勢です。
第六章 第6位 川崎重工業(7012) — 防衛・水素時代の主役
重工業の伝統と未来
組入比率6位は川崎重工業(証券コード7012)で、組入比率は3.20%です。「川崎重工」「川重」と略称される、日本を代表する重工業企業です。
月次レポートには、「防衛・民間航空機・造船を中心に構造的な利益成長が継続。資本効率改善に向けた事業再編や改善をやり切れるかが焦点。次世代エネルギーである水素においても業界をリードする立ち位置」という趣旨のコメントがあります。
防衛事業の構造的成長
川崎重工の最大の強みの一つが、防衛事業です。航空自衛隊向けの輸送機C-2、海上自衛隊向けの潜水艦、対潜哨戒機P-1など、日本の防衛装備の中核を担う製品を製造しています。
ここ数年、日本の防衛予算は急増しています。2022年に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、5年間の防衛費を約43兆円に拡大する方針が示されました。これは、過去の防衛費から大幅な増額です。
この防衛費増額の恩恵を最も受ける企業の一つが、川崎重工です。藤野氏が「構造的な利益成長が継続」と述べているのは、まさにこの追い風を念頭に置いてのことでしょう。
民間航空機事業の復活
川崎重工は、ボーイング787など、世界の民間航空機の部品(主翼の前縁、中央翼など)を製造しています。コロナ禍では航空需要の急減で大きな打撃を受けましたが、2024年以降、航空需要の回復とともに、民間航空機事業も持ち直してきています。
中長期的には、世界の航空需要は人口増加とアジアの所得向上に伴って成長し続けると見られています。川崎重工は、この長期的なトレンドの恩恵を受ける構造にあるわけです。
水素事業のパイオニア
藤野氏が特に注目している「水素」事業について、川崎重工は世界的にリードする立ち位置にあります。
水素エネルギーは、カーボンニュートラル実現の鍵となる技術です。発電、輸送、製造、すべての分野で水素の活用が期待されています。しかし、水素を経済的に製造、輸送、貯蔵する技術は、まだ発展途上です。
川崎重工は、世界初の液化水素運搬船を建造し、オーストラリアの褐炭から水素を製造して日本に運ぶプロジェクトを推進しています。これは、世界の水素サプライチェーンを構築する先駆的な取り組みです。
水素時代が本格化すれば、川崎重工の蓄積した技術と経験は、計り知れない価値を生む可能性があります。長期的な視点で見れば、これは大きな投資機会です。
事業再編の重要性
ただし、藤野氏は「資本効率改善に向けた事業再編や改善をやり切れるかが焦点」とも述べています。これは、川崎重工が抱える課題を率直に指摘したコメントです。
川崎重工は、これまで様々な事業を抱えてきました。航空宇宙、防衛、船舶、鉄道、エネルギー、産業機械、モーターサイクル(オートバイ)、ロボット、医療機器など、極めて多角的な事業ポートフォリオです。
このすべてを最適に運営するのは難しい。各事業の収益性にバラつきがあり、不採算事業もある。資本効率を高めるには、事業ポートフォリオの見直しが不可欠です。
川崎重工は、この事業再編に取り組んでおり、不採算事業の整理や、コア事業への集中投資を進めています。これが順調に進めば、収益性と資本効率が大きく改善する可能性があります。
藤野氏は、この変革のプロセスに賭けているわけです。「やり切れるか」という表現には、期待と慎重さの両方が込められています。
第七章 第7位 ソニーグループ(6758) — 総合エンタメテック企業の進化
日本発のグローバルエンタメ企業
組入比率7位はソニーグループ(証券コード6758)で、組入比率は2.93%です。日本発のグローバルなエンターテインメント・テクノロジー企業として、世界中で広く知られています。
月次レポートには、「ゲーム、音楽、アニメなど、複数のエンタメ領域で強みを持ち、イメージセンサー事業も保有する総合エンタメテック企業。各事業間の連携を通じて業績を堅調に積み上げていくことに期待」という趣旨のコメントがあります。
「総合エンタメテック」の意味
ソニーグループの事業は、極めて多角的です。ゲーム&ネットワークサービス(プレイステーション)、音楽(ソニーミュージック)、映画(ソニーピクチャーズ)、アニメ(アニプレックスなど)、エレクトロニクス(テレビ、カメラ、オーディオ機器)、半導体(イメージセンサー)、金融(ソニー生命、ソニー銀行)、その他。
ここで重要なのは、これらの事業が単に並列に存在しているのではなく、有機的に連携している点です。
たとえば、映画とゲーム。ソニーピクチャーズが製作した映画「アンチャーテッド」は、もともとプレイステーションのゲームでした。逆に、プレイステーションのゲームが映画化されるケースも増えています。ソニーミュージックのアニメ事業からは「鬼滅の刃」のような世界的ヒット作も生まれています。
こうした「IP(知的財産)を様々な形で展開する」戦略が、ソニーの強みです。一つの作品が、ゲーム、映画、音楽、グッズ、テーマパークなど、複数の形で価値を生む。これは、現代のエンターテインメント企業として極めて効率的なビジネスモデルです。
イメージセンサー事業の重要性
ソニーグループの事業の中で、特に注目されるのが半導体(イメージセンサー)事業です。
ソニーは、スマートフォン用のCMOSイメージセンサーで世界トップシェアを誇ります。iPhoneを含む世界の主要なスマートフォンに、ソニーのイメージセンサーが使われています。
このイメージセンサー事業は、AIやコンピュータビジョンの時代において、ますます重要性を増しています。自動運転、産業用ロボット、医療機器、セキュリティカメラなど、あらゆる場面で高性能なイメージセンサーが必要とされる。ソニーは、この巨大な市場機会の中心にいるわけです。
ゲーム事業のグローバル化
プレイステーションを中心とするゲーム事業も、ソニーの主力事業です。プレイステーションのユーザーは世界中に広がっており、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアとオンラインサービスの収益も拡大しています。
特に、PSプラスのような月額課金サービスは、安定的な収益基盤となっています。これは、一度ハードウェアを売って終わりではなく、継続的に顧客と関係を築き、長期的に収益を得る「リカーリングビジネス」の好例です。
「日本発」の世界的IP
ソニーグループのもう一つの特徴は、「日本発」のIPを世界に展開する力です。アニメ「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「ソードアート・オンライン」など、ソニーグループのアニプレックスが製作・出資した作品が、世界中で人気となっています。
これは、日本のソフトパワーの象徴とも言える存在です。日本のアニメ、マンガ、ゲーム、音楽が、世界の若者文化に深く浸透している。ソニーはこの流れを、ビジネスとして最大化できるグローバルな仕組みを持っているわけです。
藤野氏が日本企業を評価するときに重視するのが、「グローバルで通用する付加価値」です。ソニーグループは、まさにその代表例です。日本発のIPを、世界中の市場に届け、収益化する。これは、日本企業にしかできない貴重な競争優位なのです。
経営者・吉田憲一郎氏の手腕
ソニーグループの経営は、近年、吉田憲一郎氏(現:会長兼CEO)のリーダーシップの下、大きく変わってきました。吉田氏は、ソネット(後のソニーネットワークコミュニケーションズ)の立ち上げから関わってきた人物で、デジタル時代のソニーを牽引する経営者です。
吉田氏の経営方針の特徴は、長期視点での事業育成と、機動的な事業ポートフォリオ管理です。短期的な収益に振り回されず、10年先、20年先を見据えた投資を続けながら、不採算事業は機動的に整理する。このバランス感覚が、現在のソニーグループの好調を支えています。
藤野氏が経営者を重視する哲学からすれば、吉田氏のような経営者がいる企業は、長期投資の対象として極めて魅力的でしょう。
第八章 第8位 フジ・メディア・ホールディングス(4676) — 業界変革の渦中で
メディアコングロマリットの代表格
組入比率8位はフジ・メディア・ホールディングス(証券コード4676)で、組入比率は2.91%です。フジテレビを中核とする、日本を代表するメディアコングロマリットです。
月次レポートには、「放送事業から不動産まで手広く手掛ける業界大手のメディアコングロマリット。グループにニッポン放送やサンケイビルなどを抱える」という趣旨のコメントがあります。
グループの広がり
フジ・メディア・ホールディングスの傘下には、フジテレビ(地上波テレビ)、BSフジ、ニッポン放送、文化放送(資本参加)、ポニーキャニオン(音楽・映像ソフト)、サンケイビル(不動産)、扶桑社、サンケイリビング新聞社、KADOKAWAなど、多数のグループ企業があります。
メディア事業から始まり、不動産、出版、音楽、不動産まで広がる多角的な事業ポートフォリオです。これは、メディアコングロマリットの典型的な形態であり、米国のディズニーや、日本の他のメディアグループ(東宝、東映など)とも共通する特徴です。
業界変革の中での挑戦
近年、放送業界は構造的な変化に直面しています。若い世代のテレビ離れ、ネット動画(YouTube、Netflix、Amazon Prime)への移行、広告市場のデジタル化など、伝統的な地上波テレビのビジネスモデルが揺らいでいます。
こうした環境の中で、フジ・メディア・ホールディングスがどう変革を進めるかは、極めて注目されるテーマです。コンテンツ制作力を活かしたデジタル展開、グループ各社のシナジー強化、不動産事業の活用、こうした戦略が問われています。
不動産事業の価値
注目すべきは、フジ・メディア・ホールディングスが持つ不動産事業です。サンケイビルを通じて、東京・大手町、お台場、京都など、優良な立地に多くの物件を保有しています。
メディア企業の評価では、しばしばこうした「隠れた資産価値」が見落とされがちです。営業利益や視聴率だけ見ていると、不動産が持つ膨大な含み益が見えない。しかし、藤野氏のような目利きのファンドマネージャーは、こうした隠れた価値も丁寧に評価します。
不動産価値が時価で再評価されたり、不動産事業が分社化されたりすれば、フジ・メディア・ホールディングス全体の企業価値が大きく見直される可能性があります。
株主構造の問題
フジ・メディア・ホールディングスについては、近年、株主構造に関する議論も活発化しています。アクティビスト(物言う株主)が経営改革を求める動きが見られ、外国人持株比率の上限規制(放送法)についても議論が起きています。
こうした株主構造の変化が、ガバナンス改革や資本効率の改善につながる可能性があります。これは、長期投資家にとっては、潜在的なアップサイドの源泉です。
藤野氏が、こうした「変化の兆し」のある企業に投資しているのは、いかにも藤野氏らしい選択です。今は完璧でなくても、これから大きく変わる可能性のある企業。これが、藤野氏の好む投資対象なのです。
第九章 第9位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) — 日本最大のメガバンク
日本3大金融グループの一角
組入比率9位は三菱UFJフィナンシャル・グループ(証券コード8306)、通称「MUFG」で、組入比率は2.76%です。日本最大のメガバンクであり、世界的にもトップクラスの金融グループです。
月次レポートには、「日本3大金融グループのひとつ。関連会社を通じ証券、信託、リース、運用など含む総合金融サービスを提供」という趣旨のコメントがあります。
巨大金融グループの構造
MUFGは、三菱UFJ銀行を中核に、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJニコス、三菱UFJリース(現:三菱HCキャピタル)、アコム、三菱UFJ国際投信(現:三菱UFJアセットマネジメント)など、多岐にわたる金融サービスを展開しています。
また、米国のモルガン・スタンレーとの戦略的提携を通じて、グローバルな投資銀行業務にも深く関わっています。タイのアユタヤ銀行、インドネシアのバンクダナモン、米国のユニオンバンクなど、海外の銀行も買収・出資しており、アジアと北米でのプレゼンスも強化しています。
金利上昇局面での恩恵
ここ数年、日本ではゼロ金利・マイナス金利政策が長く続いてきました。これは銀行業にとって極めて厳しい環境でした。預貸利ざや(預金金利と貸出金利の差)が縮小し、銀行の収益が圧迫されてきたのです。
しかし2024年以降、日銀が金融政策の正常化に動き始め、政策金利が引き上げられました。これは、メガバンクにとって大きな追い風です。預貸利ざやが拡大し、収益性が改善する。
加えて、ローン金利の上昇により、銀行の収益機会が広がります。住宅ローン、企業向け融資、海外向け融資、すべての分野で、金利上昇の恩恵が期待できるわけです。
グローバル銀行としてのポジション
MUFGは、日本の銀行というよりも、グローバルな銀行として位置付けるべき存在です。米国、欧州、アジア、世界中で事業を展開しており、海外利益の比率も大きい。
円安が進行する局面では、海外利益の円換算額が増えるため、追加的な収益が生まれます。為替の影響を受けつつも、グローバルに事業展開しているため、結果的に長期では為替リスクをヘッジできる構造になっています。
配当・自社株買いの積極化
MUFGは近年、株主還元にも積極的です。配当の増額、自社株買いの実施を継続的に行っており、株主への利益還元を強化しています。
これは、東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請や、コーポレートガバナンス改革の流れと整合的です。長らくPBR1倍割れだった日本のメガバンクが、ようやく市場の信頼を取り戻し始めている。MUFGはその先頭を走っている存在です。
藤野氏がメガバンクをポートフォリオに組み入れているのは、こうした「眠っていた巨人が動き始めた」という見立てが大きいでしょう。GG資本主義からの脱却を、まさに大企業自身が体現し始めている。その変化のリターンを取りに行く、というのがひふみ投信のスタンスです。
第十章 第10位 みずほフィナンシャルグループ(8411) — 国際業務に強みを持つメガバンク
三大メガバンクのもう一翼
組入比率10位はみずほフィナンシャルグループ(証券コード8411)、通称「みずほFG」で、組入比率は2.69%です。日本3大メガバンクの一角を占める、巨大金融グループです。
月次レポートには、「日本3大金融グループの一角。銀行業務を中心に行なう総合金融サービスコングロマリット。かつての東京銀行のネットワークを継承したことにより国際業務に強みがあり、近年はアジアで積極的な買収を通じた事業拡大を行なっている」という趣旨のコメントがあります。
「旧東京銀行」のDNA
みずほFGは、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の合併で誕生しました。さらに源流をたどると、富士銀行は安田銀行、日本興業銀行は政府系の長期信用銀行、第一勧業銀行は第一銀行と日本勧業銀行の合併でした。
そして、富士銀行は、かつての東京銀行(国際業務の専門銀行)を引き継いだ歴史を持ちます。東京銀行は、戦後の日本で外国為替業務を専門に扱った特殊銀行で、世界中に拠点を持ち、グローバルな金融ネットワークを築いていました。
この東京銀行のDNAが、現在のみずほFGの国際業務の強みの源泉となっています。世界中の主要都市に拠点を持ち、グローバルな日本企業の海外進出を支援する金融サービスを提供しているわけです。
アジア戦略の積極化
藤野氏が指摘するように、みずほFGは近年、アジアでの事業拡大に積極的です。インド、ベトナム、インドネシア、フィリピンなど、成長著しいアジア諸国で、銀行業務や投資、戦略的提携を進めています。
アジアは、世界の人口の半分以上を占め、経済成長も先進国を上回るペースで進む地域です。みずほFGがこの地域でしっかりとしたポジションを築けば、長期的な成長エンジンとなる可能性があります。
グリーンファイナンスへの取り組み
みずほFGは、気候変動対応にも積極的です。再生可能エネルギー、グリーンボンド(環境債)、トランジションファイナンス(脱炭素化への移行を支援する融資)など、多面的な取り組みを進めています。
これは、ESG投資の流れと整合的であり、企業価値を高める要因となります。気候変動対応に消極的な銀行は、長期的にはリスクを抱え込みますが、積極的な銀行は新たな収益機会を獲得していく。みずほFGは、その後者のポジションを目指しているわけです。
競合関係から見る評価
ひふみ投信は、3大メガバンクのうち、MUFGとみずほFGの2行を上位に保有しています。三井住友フィナンシャルグループは、上位30銘柄には含まれていません(本記事執筆時点)。
これは、藤野氏が「メガバンクの中での選別」をしていることの表れです。3行すべてを買うのではなく、より強みのある2行を選ぶ。これは、インデックス投資とは決定的に異なる、アクティブ運用ならではの判断です。
MUFGとみずほFGに共通するのは、グローバルなネットワークと、アジアでの拡大戦略です。三井住友も国内では強い銀行ですが、グローバル展開という点では2行に劣る面があるとも見られます(評価は分かれるところですが)。
藤野氏が、こうした個別の強みを見極めて選別している点が、ひふみ投信の真骨頂と言えるでしょう。
第十一章 第11位 三菱電機(6503) — 総合電機の構造改革
日本を代表する総合電機メーカー
組入比率11位は三菱電機(証券コード6503)で、組入比率は2.69%です。日本を代表する総合電機メーカーで、家電から重電、産業機器、防衛まで幅広い事業を展開しています。
三菱電機の事業領域は、極めて広範です。インフラ(電力システム、交通システム、防衛機器、宇宙関連)、産業メカトロニクス(FA機器、自動車機器)、家庭電器(エアコン、冷蔵庫、洗濯機など)、情報通信システム(衛星通信、ネットワーク機器)、電子デバイス(パワーデバイス、液晶モジュール)など、多岐にわたる事業を一社で展開しています。
構造改革の進展
三菱電機は、近年、構造改革を進めています。不採算事業の整理、コア事業への集中投資、海外展開の強化など、多面的な施策を進めることで、収益性と資本効率の改善を目指しています。
特に、産業メカトロニクス分野では、世界トップクラスの技術力を持ち、FA(ファクトリー・オートメーション)の世界市場で大きなシェアを獲得しています。世界の製造業の自動化・省人化のニーズに応える形で、安定的な収益を確保しています。
パワーデバイスの将来性
三菱電機の電子デバイス事業の中で、特に注目されるのが「パワー半導体」です。パワー半導体は、電力を制御する半導体で、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー、産業機器など、あらゆる電力関連機器に必要不可欠です。
カーボンニュートラルの流れの中で、パワー半導体の需要は急増しています。三菱電機は、この分野で世界トップクラスのポジションを持ち、特に次世代パワー半導体(SiC、GaN)の開発でも先行しています。
防衛・宇宙関連の追い風
三菱電機は、防衛・宇宙関連事業でも重要な役割を担っています。レーダー、衛星、ミサイル防衛など、日本の安全保障に不可欠な技術を提供しています。
日本の防衛予算が増額される中で、こうした分野は構造的な追い風を受けます。川崎重工の項で述べたのと同じく、防衛関連企業は近年、注目度を高めています。
第十二章 第12位 住友電気工業(5802) — 自動車部品とインフラの巨人
「住電」の多面性
組入比率12位は住友電気工業(証券コード5802)で、組入比率は2.53%です。通称「住電」と呼ばれる、日本を代表する非鉄金属・電線メーカーで、自動車部品から光ファイバー、超電導関連まで幅広い事業を展開しています。
住友電気工業の事業セグメントは、自動車(ワイヤーハーネスなど)、情報通信(光ファイバー、光部品)、エレクトロニクス、環境エネルギー、産業素材、そして特殊鋼線、焼結合金などの素材事業に分かれます。
ワイヤーハーネスの世界トップシェア
住友電気工業の最大の強みは、自動車向けワイヤーハーネスでの世界トップクラスのシェアです。ワイヤーハーネスとは、自動車の電気配線の集合体で、現代の自動車には1台あたり数千本もの電線が使われています。
EVや自動運転車では、電気配線の数と複雑性がさらに増します。これは、ワイヤーハーネスメーカーにとって、追加的な需要を生む構造変化です。住友電気工業は、この成長市場のトップランナーとして、長期的な成長機会を持っているわけです。
光ファイバーの戦略性
情報通信分野では、住友電気工業は世界有数の光ファイバーメーカーです。データセンター、通信インフラ、海底ケーブルなど、デジタル社会の基盤を支える製品を提供しています。
AI時代の到来により、データ通信量は爆発的に増加しています。これに応えるためには、より高性能な光ファイバーが必要となります。住友電気工業は、この需要に応える技術力を持ち、長期的な収益機会を確保しているわけです。
海底ケーブル事業の重要性
特に注目されるのが、海底ケーブル事業です。大陸間を結ぶ海底ケーブルは、地球規模のデータ通信を支える重要なインフラです。住友電気工業は、この分野でも世界トップクラスの技術と実績を持ちます。
海底ケーブルの敷設には、高度な技術と専用船が必要で、参入障壁が極めて高い業界です。これは、長期的な競争優位の源泉となります。
第十三章 第13位 オリックス(8591) — 多角的金融サービスの雄
金融・サービスのコングロマリット
組入比率13位はオリックス(証券コード8591)で、組入比率は2.48%です。リース、不動産、生命保険、銀行、自動車事業、アセットマネジメント、環境エネルギーなど、極めて多角的な事業を展開する金融・サービス企業です。
オリックスは、1964年にオリエント・リースとして設立され、リース事業から始まりました。その後、事業を大きく多角化し、現在では「金融・サービスのコングロマリット」と呼ぶべき存在になっています。
グローバル展開の強さ
オリックスのもう一つの特徴は、グローバル展開の積極性です。米国、欧州、アジア、中東、世界中で事業を展開しており、海外利益の比率も高くなっています。
特に、米国のRobert Townsend(航空機リース)、Houlihan Lokey(投資銀行)、欧州ではDCMキャピタル、アジアではタイ、フィリピン、インドネシアなどで多様な事業を展開しています。
このグローバルな事業展開が、円安局面でのプラス効果や、地域ごとのリスク分散といったメリットをもたらしています。
環境エネルギー事業の成長
オリックスは、再生可能エネルギー事業でも積極的です。太陽光発電、風力発電、地熱発電など、国内外で多数の発電所を保有・運営しています。
カーボンニュートラルの流れの中で、再生可能エネルギーへの需要は今後も拡大していきます。オリックスは、この市場で長年の実績を持ち、優位なポジションを築いているわけです。
株主還元と資本効率
オリックスは、株主還元にも積極的です。配当性向の引き上げ、自社株買いの実施を継続的に行っており、株主価値の向上を重視する経営姿勢を示しています。
ROEも商社業界並みの高水準を維持しており、資本効率の高さも特徴的です。これは、藤野氏が高く評価する企業特性と合致しています。
第十四章 第14位 鹿島建設(1812) — スーパーゼネコンの実力
建設業界の頂点
組入比率14位は鹿島建設(証券コード1812)で、組入比率は2.25%です。大成建設、大林組、清水建設、竹中工務店と並ぶ、日本の「スーパーゼネコン」の一角を占める存在です。
鹿島建設は、1840年創業の老舗で、180年以上の歴史を持つ建設会社です。超高層ビル、トンネル、ダム、橋梁、原子力発電所など、日本の主要なインフラ建設に深く関わってきました。
建設需要の構造的高まり
日本の建設業界は、近年、構造的な需要拡大を迎えています。理由はいくつかあります。
第一に、半導体工場の建設ブームです。TSMC熊本工場、ラピダス北海道工場など、巨大な半導体工場の建設が相次いでいます。これらの工場建設には、ゼネコンの技術力が不可欠です。
第二に、データセンターの建設需要です。AI時代の到来により、大規模なデータセンターの建設需要が急増しています。これも、ゼネコンの主要な収益源となっています。
第三に、老朽化したインフラの更新需要です。1960〜70年代の高度成長期に建設された道路、橋、トンネル、上下水道などが、寿命を迎えつつあります。これらの更新工事は、長期にわたる需要となります。
第四に、再開発需要です。都市部の老朽ビルの建て替え、再開発プロジェクトが各地で進行しています。
これらの需要を背景に、ゼネコン業界は構造的な追い風を受けているわけです。
鹿島建設の強み
鹿島建設の特徴は、技術力の高さと、海外展開の積極性です。特に、米国、東南アジア、オーストラリアでの建設事業に強みを持ち、グローバルな建設会社としてのポジションを築いています。
また、不動産開発事業も手がけており、自社開発のオフィスビル、商業施設、マンションなどを保有しています。これは、建設業の収益の安定化に寄与しています。
採算性の改善
近年の建設業界の課題の一つが、採算性の改善でした。資材価格の高騰、人手不足による人件費上昇など、コスト面でのプレッシャーが続いていました。
しかし、ゼネコン各社は、価格転嫁を進め、より採算性の高い案件を選別する戦略に転換しています。これにより、利益率が改善しつつあり、業界全体の収益性が高まっています。
鹿島建設も、こうした業界全体の構造変化の恩恵を受ける位置にあります。
第十五章 第15位 東京海上ホールディングス(8766) — 損害保険業界のリーダー
日本トップの損保グループ
組入比率15位は東京海上ホールディングス(証券コード8766)で、組入比率は2.22%です。東京海上日動火災保険を中核とする、日本最大の損害保険グループです。
東京海上は、1879年(明治12年)に設立された、日本最古の損害保険会社です。140年以上の歴史を持ち、日本の損保業界をリードしてきた存在です。
グローバル損保への変貌
東京海上ホールディングスの近年の大きな特徴は、グローバル損保への変貌です。
2008年以降、東京海上は積極的な海外M&Aを進めてきました。米国のフィラデルフィア・コンソリデーテッド、デルファイ、HCCインシュアランス、ピューア・グループなど、合計数兆円規模の海外保険会社を買収しました。
これにより、東京海上の利益のうち、海外事業が占める比率が大きく拡大しました。現在では、東京海上の事業利益の半分以上を海外事業が稼ぎ出しています。
自然災害リスクの高まり
近年、気候変動の影響で、世界中で大規模な自然災害が増えています。台風、ハリケーン、洪水、山火事、熱波、こうした自然災害の頻度と規模が増しているのです。
これは、損害保険会社にとって、保険金支払いの増加というリスク要因です。しかし同時に、保険ニーズの拡大という機会でもあります。リスクが高まれば、保険への需要も増える。価格転嫁が進めば、収益性も上がる。
東京海上は、こうした環境変化に対応する技術力(リスク評価、再保険、リスク分散)を持ち、長期的な収益性を確保しています。
株主還元の積極化
東京海上は、株主還元にも積極的です。配当性向は業界トップクラスで、自社株買いも頻繁に実施しています。
これは、保険業界全体のトレンドとも整合的です。資本要件が安定化し、過剰資本が積み上がる中で、株主への還元が積極化しているのです。
第十六章 第16位 三菱重工業(7011) — 防衛・エネルギーの巨人
重工業の代表格
組入比率16位は三菱重工業(証券コード7011)、通称「三菱重工」で、組入比率は2.12%です。日本を代表する重工業企業で、防衛、エネルギー、航空、宇宙、機械、造船など、多岐にわたる事業を展開しています。
三菱重工は、川崎重工と並ぶ日本の「二大重工業企業」と言える存在です。両社とも、防衛、エネルギー、航空・宇宙などの分野で重要なポジションを占めています。
防衛事業の拡大
三菱重工の防衛事業は、極めて重要な位置を占めています。陸上自衛隊向けの戦車、海上自衛隊向けの護衛艦、航空自衛隊向けの戦闘機(F-15J、F-2など)、ミサイル防衛システムなど、日本の防衛装備の中核を担っています。
日本の防衛予算増額により、三菱重工の防衛事業は構造的な追い風を受けています。装備品の生産だけでなく、保守・修理・補給(MRO)などのサービス事業も拡大しています。
発電事業のグローバル展開
三菱重工は、発電事業でもグローバルなプレイヤーです。ガスタービン、蒸気タービン、ボイラーなど、発電所の中核機器を世界中に供給しています。
特に大型ガスタービンでは、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)、ドイツのシーメンスと並ぶ、世界三大メーカーの一角を占めています。AI時代のデータセンター電力需要の急増により、発電設備の需要が世界的に高まっており、これは三菱重工にとって大きな機会です。
航空・宇宙事業
三菱重工は、ボーイング787の主翼など、世界の民間航空機の重要部品を製造しています。また、宇宙関連では、H3ロケットの製造に深く関わっています。
宇宙開発の商業化が進む中で、ロケット製造能力を持つ企業の価値は高まっています。三菱重工は、日本の宇宙産業の中核を担う存在です。
第十七章 第17位 東京エレクトロン(8035) — 半導体製造装置の世界トップクラス
半導体製造装置の覇者
組入比率17位は東京エレクトロン(証券コード8035)、通称「TEL」で、組入比率は2.10%です。半導体製造装置の世界トップクラスのメーカーで、業界では「日本のASML」とも呼ばれる存在です。
東京エレクトロンは、半導体製造プロセスの様々な段階で必要となる装置を製造しています。コータ・デベロッパ(レジスト処理)、エッチング装置、成膜装置、洗浄装置、ウエハープローバなど、多岐にわたる装置で世界トップシェアを獲得しています。
AI時代の半導体投資ブーム
近年、AI時代の到来により、半導体への投資が世界的に急増しています。NVIDIA、台湾TSMC、サムスン電子、SKハイニックス、インテル、こうした大手半導体メーカーが、巨額の設備投資を継続しています。
東京エレクトロンは、こうした半導体メーカーへの装置供給を通じて、AI時代の投資ブームの恩恵を直接受ける位置にあります。
「半導体製造装置の好不況サイクル」
ただし、半導体製造装置業界には、好不況のサイクルがあります。半導体メーカーが投資を増やす局面では装置メーカーの売上は急増しますが、投資を抑制する局面では大きく落ち込みます。
東京エレクトロンの株価も、こうしたサイクルに連動して大きく変動します。これは、長期投資の対象としては、ボラティリティが大きい銘柄と言えます。
藤野氏がこの銘柄をポートフォリオに組み入れているのは、長期的な成長性を評価しつつも、ある程度のボラティリティを許容できる位置に置いているということでしょう。
グローバル競争での優位性
半導体製造装置業界では、米国のアプライド・マテリアルズ、ラム・リサーチ、KLA、オランダのASML、日本の東京エレクトロンなど、限られた数の企業が世界市場を支配しています。これは、技術的な参入障壁が極めて高い業界であることを示しています。
東京エレクトロンは、こうした寡占的な市場で、安定的なポジションを確保しています。これは、長期的な競争優位の源泉となります。
第十八章 第18位 ディスコ(6146) — 半導体加工装置のニッチトップ
「精密加工」の世界トップ
組入比率18位はディスコ(証券コード6146)で、組入比率は2.05%です。半導体ウエハの切断・研削・研磨装置の世界トップメーカーです。
ディスコは、東京エレクトロンと比べると規模は小さいですが、特定のニッチ分野では世界トップシェアを誇る、「ニッチトップ企業」の典型例です。
「ダイサー」の世界圧倒的シェア
ディスコの主力製品は、「ダイサー」と呼ばれる、半導体ウエハを切断する装置です。半導体は、大きな円形のウエハとして製造された後、最終的にチップ単位に切断されますが、この切断作業を担う装置がダイサーです。
ディスコは、このダイサー市場で世界トップクラスのシェアを獲得しています。半導体製造の最終工程で不可欠な装置であり、半導体生産量の増加に伴って需要も拡大します。
高収益率の理由
ディスコの大きな特徴は、極めて高い収益率です。営業利益率は30%を超える水準を維持しており、これは半導体製造装置業界の中でもトップクラスです。
なぜこれほど高収益なのか。それは、ディスコが提供する装置が、極めて高い精度と信頼性を要求される分野で、競合がほとんどないからです。半導体メーカーは、ディスコの装置に依存しており、価格交渉力でも有利な立場にあります。
これは、ピーター・リンチや藤野氏が好む「経済の堀(モート)」のある企業の典型例です。圧倒的な技術優位により、競合が参入しにくく、高収益を維持できる。
株価のボラティリティ
ただし、ディスコの株価も、半導体業界の景況に大きく左右されます。半導体メーカーの設備投資が活発な時期には急騰し、抑制される時期には急落します。
藤野氏は、こうしたボラティリティのある銘柄も、長期視点でポートフォリオに組み入れているわけです。短期的な変動に振り回されず、長期的な構造成長を信じる、というスタンスです。
第十九章 第19位 アシックス(7936) — グローバルスポーツブランドの復活劇
スポーツ用品の世界的ブランド
組入比率19位はアシックス(証券コード7936)で、組入比率は1.92%です。日本発のスポーツ用品メーカーで、ランニングシューズを中心に世界的なブランドを築いています。
アシックスは、1949年に神戸で創業した「鬼塚商会」が前身です。「Anima Sana In Corpore Sano(健全な身体に健全な精神あれ)」の頭文字を取って「ASICS」と命名されました。
業績の劇的回復
アシックスは、ここ数年で業績が劇的に回復した企業の代表例です。2010年代後半は、ナイキ、アディダスなど大手ブランドの猛攻と、自社のデザイン・マーケティング戦略の停滞により、業績が低迷していました。
しかし、2020年以降、新しい経営戦略のもとで業績が急回復しています。コロナ禍によるランニングブームを追い風に、機能的でスタイリッシュなランニングシューズの人気が世界的に高まりました。
特に「GEL-KAYANO」「GEL-NIMBUS」などのクッション性に優れたランニングシューズや、「METASPEED」シリーズなどの競技用シューズが、世界中のランナーから支持を集めています。
「日本発のグローバルブランド」
藤野氏が日本企業を評価する際に重視するのが、「グローバルで通用する付加価値」です。アシックスは、まさに日本発のグローバルブランドの代表格です。
ナイキやアディダスといった欧米の巨大ブランドと正面から競争し、しかも特定のセグメント(ランニング、特に長距離ランナー向け)では、明確な競争優位を築いています。日本の細やかな製造技術、機能美、長年蓄積したランニング科学への知見、これらすべてがアシックスのブランド価値を支えています。
「ファッション×スポーツ」の融合
近年のアシックスのもう一つの強みは、「ファッション×スポーツ」の融合に成功している点です。
「Onitsuka Tiger」ブランドや、「GEL-1130」「GEL-KAYANO 14」などのレトロモデルが、若い世代のファッショントレンドにマッチし、ファッションアイテムとしての需要が急増しています。これは、ランニング機能を求めるスポーツ層と、ファッション性を求める若者層の両方を取り込む、巧みなブランド戦略です。
「変革する経営者」の存在
アシックスの業績回復の背景には、経営者の質の高さがあります。廣田康人社長(現:会長)、富永満之社長(現職)などのリーダーシップの下、ブランド戦略、商品戦略、グローバル展開、すべての面で変革が進んでいます。
藤野氏が好む「変化率の大きい経営者」が、まさにアシックスに存在しているわけです。
第二十章 第20位 GMOペイメントゲートウェイ(3769) — 決済インフラの覇者
月次レポートで詳しく紹介された銘柄
組入比率20位はGMOペイメントゲートウェイ(証券コード3769)、通称「GMOPG」で、組入比率は1.87%です。インターネット決済の処理を担う、決済インフラ企業です。
2026年3月度の月次レポートでは、藤野氏自身が「今回はGMOペイメントゲートウェイを紹介します」として、詳細な解説を加えています。これは、藤野氏が現在最も注目している銘柄の一つであることを示しています。
藤野氏のコメントを要約すると、次のような内容です。2026年初以降、AIによる代替懸念から世界的にIT・ソフトウェアセクターの株価が大暴落した。GMOPGもその影響で2025年12月から2026年2月の間に約30%下落した。しかしながら、GMOPGの事業は決済インフラの提供であり、今後の国内のEC化率向上に伴う構造的な成長が期待できる。藤野氏は、「ひふみ投信は株価が大きく下がったタイミングで積極的に買い増しを行ない、3月末の保有順位は20位となっており、今後もコア銘柄のひとつとして応援していきたい」と述べています。
「インフラ企業」としての本質
藤野氏が特に強調するのが、GMOPGの「インフラ性」です。外部からはソフトウェア企業やSaaS企業に見えますが、実態は「インフラ」を提供している企業だ、というのです。
なぜ「インフラ」と呼べるのか。それは、GMOPGの決済サービスが、多くのECサイトや企業の決済基盤として、すでに組み込まれているからです。一度組み込まれた決済システムを、別のプロバイダーに切り替えるコストは極めて高い。これは、強力な参入障壁です。
また、「インフラ」からもたらされる安定的な利益は、ソフトウェア企業やSaaS企業とは異なる性質を持ちます。経済環境が悪化しても、決済処理という事業の需要は基本的に減りません。むしろ、ECの普及とともに、決済件数は構造的に増えていきます。
EC化率向上の余地
藤野氏は、日本のEC化率が英国や米国と比較してまだまだ低いことを指摘しています。
日本のEC化率(小売市場におけるECの比率)は、2024年時点で約9〜10%程度です。一方、米国は約16%、英国は約27%です。日本のEC化率は、先進国の中でもまだ低い水準にあり、これは構造的な成長余地が大きいことを意味します。
GMOPGは、この成長余地を取り込む位置にあります。EC市場が拡大すれば、決済処理件数も増える。これは、GMOPGにとって長期的な収益機会です。
AIエージェントの普及効果
藤野氏は、「AIエージェントが普及することでさらにECでの購買が加速する可能性もある」とも指摘しています。
AIエージェントとは、ユーザーに代わって自動的にショッピングや予約などを行うAIシステムのことです。これが普及すれば、消費者の購買行動がオンラインに集中する可能性が高まります。AIエージェントが「最適な商品」を見つけて自動的に購入するという未来も視野に入ってきます。
そうした未来において、決済インフラを提供するGMOPGは、追加的な恩恵を受ける位置にあります。
営業利益の成長と長期目標
藤野氏は、GMOPGの過去の業績について、「年平均25%の営業利益成長が継続している」と指摘しています。これは、極めて高い成長率です。
2025年9月期の営業利益は約313億円ですが、GMOPG自身は「2030〜2031年には1,000億円の営業利益を目標」に掲げています。313億円から1,000億円への成長は、約3倍の利益拡大を意味します。
藤野氏は、これも「あくまで通過点であり、さらなる持続的な成長が待っている」と評価しています。
経営者の質の高さ
藤野氏は最後に、「こうしたビジネスモデルを構築してきた優秀な経営者がGMOPGには揃っている」とも述べています。
GMOPGは、GMOグループの一角を占める企業ですが、経営の独自性も保持しています。長年にわたって、決済インフラ事業に集中し、競争優位を築いてきた経営判断は、極めて評価されるべきものです。
これは、藤野氏が常に重視する「経営者の質」という観点で、GMOPGが高い評価を得ていることの表れです。
第二十一章 第21位 光通信(9435) — 法人向け通信サービスの王者
異色のテレコム企業
組入比率21位は光通信(証券コード9435)で、組入比率は1.84%です。社名から通信機器メーカーと誤解されがちですが、実態は法人向けの通信回線・OA機器の取次・販売を中心とする、極めてユニークな企業です。
光通信は、1988年に設立された比較的若い企業ですが、その急成長ぶりは「テレコム業界の異色児」として注目されてきました。重田康光氏(現:代表取締役会長)が一代で築き上げた、創業者経営の典型例でもあります。
「ストック型」ビジネスモデルの強さ
光通信のビジネスの本質は、「ストック型(継続課金型)」のビジネスモデルにあります。法人向けに、通信回線、複合機、ウォーターサーバー、電力、太陽光発電、生命保険など、多様な「継続的に料金が発生するサービス」を取扱っています。
このストック型ビジネスの強さは、安定的な収益が積み上がる点にあります。一度契約すれば、解約されない限り、毎月料金が入ってくる。新規契約を獲得し続ければ、収益は加速度的に積み上がっていきます。
これは、配当やキャッシュフローの安定性につながる、極めて優れたビジネスモデルです。
株主還元の積極性
光通信は、株主還元にも非常に積極的です。配当性向は業界トップクラスで、長年にわたって増配を続けています。また、自社株買いも積極的に実施しており、株主への利益還元を最重要視する経営姿勢が明確です。
これは、藤野氏が好む企業特性と完全に合致します。「資本効率を意識し、株主還元に積極的な企業」は、長期投資の対象として理想的なのです。
投資事業の存在
光通信のもう一つの特徴が、積極的な投資事業です。同社は、上場企業の株式を多数保有しており、これも収益の一部を支えています。「日本のバークシャー・ハサウェイ」的な側面もある、と評する人もいます。
ただし、その投資対象は不動産や上場株式まで広く、純粋な投資会社というよりは、本業のストックビジネスを補完する存在として位置付けられています。
第二十二章 第22位 HOYA(7741) — 精密ガラスの世界トップ
「眼鏡レンズ」と「半導体マスクブランク」の二大柱
組入比率22位はHOYA(証券コード7741)で、組入比率は1.78%です。眼鏡レンズと半導体製造用のマスクブランクで、世界トップクラスのシェアを誇る精密ガラスメーカーです。
HOYAの事業は、ライフケア(眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、メディカル機器など)と、情報・通信(半導体マスクブランク、HDD用ガラス基板など)の2つに大別されます。
眼鏡レンズの世界シェア
HOYAは、眼鏡レンズの世界市場で、エシロール・ルックスオティカに次ぐ第2位のシェアを獲得しています。世界中の眼鏡店、量販店で、HOYAのレンズが使われているわけです。
世界の人口増加と高齢化に伴って、眼鏡レンズの需要は構造的に拡大しています。特に、近視人口の急増(スマートフォンやPC使用の影響)や、老眼進行による累進レンズの需要拡大は、HOYAにとって追い風です。
半導体マスクブランクの戦略性
もう一つの主力事業が、半導体マスクブランクです。これは、半導体製造の最も重要な工程である「フォトリソグラフィ」で使用される、極めて精密なガラス基板です。
特に、最先端のEUV(極端紫外線)露光技術で使用されるマスクブランクでは、HOYAは世界トップクラスのシェアを誇ります。最先端半導体の製造には、HOYAの製品が不可欠と言える状況です。
AI半導体の量産化が進む中で、最先端マスクブランクの需要は急増しています。これは、HOYAにとって極めて大きな収益機会です。
高収益率の理由
HOYAの営業利益率は、20%を大きく超える水準を維持しています。これは、製造業としては極めて高い水準で、HOYAの製品が高い付加価値を提供していることを示しています。
なぜこれほど高収益なのか。それは、HOYAの製品が、技術的な参入障壁が極めて高い分野に集中しているからです。眼鏡レンズの累進設計、半導体マスクブランクの精密加工、これらは、長年の技術蓄積がなければ製造できない製品群です。
第二十三章 第23位 セコム(9735) — 安全・安心の社会インフラ
警備業界の絶対王者
組入比率23位はセコム(証券コード9735)で、組入比率は1.76%です。日本の警備業界において、圧倒的なトップシェアを誇る企業です。
セコムは、1962年に「日本警備保障株式会社」として設立された、日本初の警備会社です。以来、機械警備、常駐警備、防災、医療、損保、情報サービスなど、多岐にわたる「安全・安心」関連事業を展開してきました。
「機械警備」のシステム化
セコムの最大の強みは、機械警備サービスです。各家庭や事業所に設置されたセンサーが異常を検知すると、自動的にセコムのコントロールセンターに通報が入り、警備員が急行する仕組みです。
このシステムは、巨大なネットワーク(全国の管制センター、警備員、車両など)が必要で、新規参入が極めて困難です。これは、強力な参入障壁となります。
セコムの機械警備契約件数は、住宅、事業所合わせて200万件を超えており、業界トップを独走しています。
ストック型ビジネスの強さ
セコムのビジネスも、光通信と同じく「ストック型」です。一度契約すれば、毎月の警備料金が継続的に入ってくる。解約率は極めて低く、安定的な収益基盤となります。
ストック型ビジネスは、景気変動に強いという特徴があります。経済が悪化しても、安全・安心への需要は基本的に減りません。むしろ、犯罪が増える局面では、警備サービスへの需要が増す傾向もあります。
高齢化社会との親和性
日本の高齢化が進む中で、セコムのサービスは新たな需要を獲得しています。高齢者向けの見守りサービス、健康管理サービス、医療サービスなど、安全・安心の概念は「防犯」から「健康・福祉」へと広がっています。
セコムは、こうしたニーズに応える形で、サービス内容を進化させています。医療機関のセコム病院、訪問介護サービスなど、ヘルスケア事業も拡大しています。
グローバル展開
セコムは、海外展開にも積極的です。台湾、韓国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、オーストラリア、英国など、世界各国で警備サービスを展開しています。
アジアの経済発展とともに、警備サービスへの需要も拡大しており、セコムのグローバル展開は長期的な成長エンジンとなる可能性があります。
第二十四章 第24位 富士通(6702) — DX時代のITサービス企業
日本最大のITサービス企業
組入比率24位は富士通(証券コード6702)で、組入比率は1.74%です。日本最大のITサービス企業として、企業向けのシステム開発、運用、コンサルティングなどを提供しています。
富士通は、1935年に富士電機の通信機事業部から分離独立した、長い歴史を持つ企業です。かつてはコンピュータ、半導体、携帯電話、エアコンなど、極めて多角的な事業を展開していました。
「ITサービス」への事業集中
近年の富士通の大きな変化は、「ITサービス」への事業集中です。半導体事業、携帯電話事業、PC事業、エアコン事業など、ハードウェア中心の事業を次々と売却・分離し、ITサービスとソリューションに資源を集中させてきました。
この変革は、決して順調ではありませんでした。長年の事業構造を変えることには、社内外で大きな抵抗があったはずです。しかし、富士通は粘り強く構造改革を進め、現在では「ITサービス専業企業」としての姿が固まりつつあります。
「Uvance」というブランド
富士通は、グローバルなITサービス事業を「Uvance(ユーバンス)」というブランドで展開しています。これは、製造業、金融、行政、医療など、業界別のソリューションを統合的に提供するブランドです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本格化により、企業のIT支出は構造的に拡大しています。富士通は、この巨大な市場機会を捉える位置にあります。
スーパーコンピュータ「富岳」
富士通のもう一つの強みが、スーパーコンピュータ技術です。富士通が開発したスーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」は、世界トップクラスの性能を持ち、AI研究、気候変動研究、創薬研究など、最先端の科学研究を支えています。
AI時代の到来により、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の需要は急増しています。富士通は、この分野での技術力を、新たなビジネス機会につなげようとしているわけです。
経営者の変革力
富士通の構造改革を主導してきた時田隆仁社長は、藤野氏が好む「変化率の大きい経営者」の典型です。古い体質の大企業を、グローバルなITサービス企業へと変革する。これは、容易ではない仕事です。
藤野氏が富士通をポートフォリオに組み入れているのは、こうした経営者の変革力に賭けているからでしょう。
第二十五章 第25位 日本電気(6701) — NECの再生劇
「NEC」ブランドの復活
組入比率25位は日本電気(証券コード6701)、通称「NEC」で、組入比率は1.74%です。富士通と並ぶ、日本を代表する大手電機・ITサービス企業です。
NECも、富士通と同様に、長年の構造改革を経て、ITサービス・社会ソリューション企業へと変貌を遂げてきました。
「社会ソリューション」への集中
NECの現在の事業の中核は、「社会ソリューション」です。公共インフラ(行政システム、防災システム、医療システム)、通信インフラ(基地局、海底ケーブル)、AIソリューション、サイバーセキュリティなど、社会の基盤を支える分野に集中しています。
これは、富士通とも一部競合する領域ですが、NECは特に「公共」「通信」「セキュリティ」に強みを持ちます。日本の行政システムの多くにNECの技術が使われており、安定的な収益基盤となっています。
「顔認証」技術での世界トップ
NECの特に注目される技術が、顔認証技術です。NECの顔認証技術は、米国国立標準技術研究所(NIST)のベンチマークテストで、世界トップクラスの精度を持つことが認められています。
この技術は、空港の入出国管理、決済システム、セキュリティ、各種認証システムなど、幅広い分野で活用されています。AI時代に向けて、認証技術の重要性はますます高まっており、NECのポジションは戦略的に重要です。
海底ケーブル事業
NECは、海底ケーブル事業でも世界トップクラスの存在です。住友電気工業とも競合しますが、NECは特に通信用海底ケーブルシステムの分野でリーダー的なポジションを持ちます。
AI時代の到来により、世界のデータ通信量は爆発的に増加しています。これに応えるためには、より高速・大容量の海底ケーブルが必要となります。NECは、この巨大な需要に応える技術と実績を持っています。
防衛事業の重要性
NECは、防衛事業でも重要な役割を担っています。特に、指揮統制システム、通信システム、サイバーセキュリティなど、情報通信関連の防衛分野で強みを持ちます。
日本の防衛予算増額の流れの中で、NECの防衛事業も追い風を受けています。
第二十六章 第26位 第一ライフグループ(8750) — 生保業界の改革者
生命保険業界の大手
組入比率26位は第一ライフグループ(証券コード8750)で、組入比率は1.64%です。第一生命ホールディングスが2025年4月に社名変更した形で、日本を代表する生命保険会社の一つです。
第一ライフグループの中核は、第一生命保険です。日本生命、明治安田生命と並ぶ、日本の生命保険業界の3大プレイヤーの一角を占めています。
株式上場している強み
注目すべきは、第一ライフグループが東京証券取引所に上場している点です。日本の大手生保のうち、上場しているのは第一生命ホールディングス系のみです。日本生命、明治安田生命、住友生命などは、相互会社の形態を取っており、株主は存在しません(契約者が「社員」となる構造)。
上場していることのメリットは、株主からの規律が働くことです。資本効率、株主還元、ガバナンスなど、上場企業として求められる経営姿勢が、第一ライフグループには浸透しています。これは、長期投資の対象として極めて重要な特性です。
海外事業の積極展開
第一ライフグループは、海外事業の積極展開でも知られます。豪州のTAL Dai-ichi Life Australia、米国のProtective Life、ベトナムのDai-ichi Life Vietnamなど、世界各地で生命保険事業を展開しています。
特に米国のProtective Lifeは、第一ライフグループ全体の利益の重要な柱となっています。米国経済の安定的な成長と、ドル建て利益の円安効果により、第一ライフグループの収益を支えているわけです。
金利上昇局面の追い風
生命保険会社にとって、金利上昇は基本的にプラス要因です。長期にわたって預かる保険料を運用する際に、金利が高ければ運用収益が増えます。
日本の金利が上昇し始めている現在、第一ライフグループにとっては構造的な追い風となります。長年のゼロ金利環境で苦しんできた生保業界が、ようやく息を吹き返しつつあります。
株主還元の積極化
第一ライフグループは、株主還元にも積極的です。配当の増額、自社株買いの実施を継続的に行っており、株主価値向上を重視する経営姿勢を示しています。
これは、上場生保ならではの強みであり、藤野氏が高く評価する企業特性と一致します。
第二十七章 第27位 大塚ホールディングス(4578) — 「ポカリスエット」と医薬品の融合
ユニークな医薬品・栄養食品企業
組入比率27位は大塚ホールディングス(証券コード4578)で、組入比率は1.51%です。大塚製薬を中核とする、医薬品と栄養食品を融合した、極めてユニークな企業グループです。
大塚ホールディングスの事業は、医療関連事業(医療用医薬品、診断薬、医療機器)、ニュートラシューティカルズ関連事業(機能性飲料、サプリメント、化粧品)、消費者関連事業(化学・包装容器など)に分かれます。
「ポカリスエット」「カロリーメイト」のブランド力
大塚ホールディングスの消費者向け事業の代表が、「ポカリスエット」「カロリーメイト」などのブランドです。これらは、日本だけでなくアジア各国で広く愛されている商品です。
特にポカリスエットは、東南アジア、中東、南米などでも展開されており、グローバルなブランドとして成長しています。アジアの所得向上と健康意識の高まりとともに、ポカリスエットの需要も拡大しています。
医薬品事業の戦略性
大塚ホールディングスの医薬品事業は、精神神経領域、がん領域、循環器領域などで強みを持ちます。特に、抗精神病薬「エビリファイ」(後継品「レキサルティ」)は、世界的に大きな売上を上げる主力製品となっています。
医薬品事業は、特許切れによる売上減少リスク(「特許の崖」)がありますが、大塚ホールディングスは継続的に新薬を投入することで、このリスクを管理しています。
「医薬品×栄養食品」のシナジー
大塚ホールディングスのユニークさは、医薬品と栄養食品の両方を展開している点です。これは、世界の大手医薬品企業の中でも珍しい構造です。
このシナジーは、研究開発の効率化、消費者の健康データの活用、新たな製品カテゴリーの創出など、多面的なメリットをもたらしています。
「健康寿命延伸」というメガトレンド
日本を含む先進国では、「健康寿命の延伸」が大きな社会的テーマとなっています。単に長生きするだけでなく、健康で活動的な期間を伸ばすことが、社会全体の重要課題となっています。
大塚ホールディングスは、医薬品で病気を治療し、栄養食品で健康を維持する、というトータルなアプローチを取ることができる企業です。これは、健康寿命延伸というメガトレンドの恩恵を直接受ける位置にあります。
第二十八章 第28位 ダイフク(6383) — 物流自動化の世界トップ
「マテハン」の世界トップメーカー
組入比率28位はダイフク(証券コード6383)で、組入比率は1.43%です。マテリアルハンドリング(マテハン)機器、つまり物流・倉庫の自動化システムで、世界トップクラスのシェアを誇る企業です。
ダイフクは、自動倉庫、自動仕分けシステム、コンベヤーシステム、AGV(無人搬送車)など、物流の自動化に必要な機器を総合的に提供しています。
EC普及がもたらす構造的成長
EC(電子商取引)の普及は、物流業界に革命をもたらしています。アマゾン、楽天、各種ECサイトの取扱量が急増する中で、巨大な物流センターでの自動化が不可欠となっています。
ダイフクは、こうしたEC物流の自動化を牽引する企業です。米国、欧州、中国、日本、世界中の主要なEC物流センターに、ダイフクの自動化システムが導入されています。
半導体・自動車向けの強さ
ダイフクは、半導体製造工場向けや、自動車工場向けの自動化システムでも世界トップクラスです。半導体ウェハや、自動車部品の搬送には、極めて高い精度と信頼性が要求されますが、ダイフクは長年の技術蓄積でこの分野をリードしています。
AI半導体の量産化、EVシフトに伴う自動車工場の再構築、これらの動きの中で、ダイフクの自動化システムへの需要は構造的に拡大しています。
人手不足の追い風
世界的に、物流・倉庫業界では深刻な人手不足が続いています。特に先進国では、若い世代の労働力人口が減少しており、肉体労働を伴う物流業務の人手確保がますます困難になっています。
これは、ダイフクのような自動化ソリューションを提供する企業にとっては、構造的な追い風です。人手で行っていた作業を機械に置き換える需要が、今後も拡大していくわけです。
第二十九章 第29位 東日本旅客鉄道(9020) — 鉄道の枠を超えた変革
月次レポートで詳しく紹介された銘柄
組入比率29位は東日本旅客鉄道(証券コード9020)、通称「JR東日本」で、組入比率は1.31%です。2026年3月度の月次レポートで、藤野氏が詳細に紹介している銘柄の一つです。
月次レポートの内容を要約すると、次のような内容です。JR東日本は、首都圏を中心とした鉄道ネットワークを基盤に、生活ソリューション事業を展開する総合企業グループ。2025年7月に新たなグループ経営ビジョン「勇翔2034」を始動させ、2034年度に営業収益5兆円という目標を掲げている、と。
「鉄道×生活ソリューション」の二軸経営
藤野氏は、JR東日本の成長戦略の核を「鉄道を中心としたモビリティと生活ソリューションの二軸経営」と捉えています。
鉄道事業では、東京圏の人口ピークアウトの延伸やインバウンド急増を追い風に、中央快速線グリーン車導入や羽田空港アクセス線(仮称)開業などの施策により収益拡大を図っている、と藤野氏は述べています。
一方、生活ソリューション事業では、TAKANAWA GATEWAY CITYの開発や不動産ファンド事業の拡大により、2031年度に資産運用規模1兆円を目指している、とのことです。
「Suica Renaissance」構想
藤野氏が特に注目しているのが、「Suica Renaissance」構想です。これは、Suicaを「移動と少額決済のデバイス」から「生活のデバイス」へと進化させる戦略です。
藤野氏のコメントを要約すると、「決済における便利なツール以上の価値創出に投資家として期待しており、今後のさらなる他社との共創と協業が、Suicaの潜在価値を創出する」と考えている、ということです。
Suicaは、すでに首都圏では多くの人が日常的に使う決済手段ですが、その潜在価値はまだ十分に発揮されていません。健康データの管理、ポイント連携、店舗での個別マーケティング、生体認証連動など、様々な可能性があります。
JR東日本がこのSuica Renaissanceを実現できれば、決済プラットフォームの大きな進化が起こる可能性があります。
不動産事業の本格展開
JR東日本は、駅という戦略的立地を活かした不動産事業を本格的に展開しています。TAKANAWA GATEWAY CITY、新宿、渋谷、横浜、品川など、首都圏の主要駅で大規模な再開発を進めています。
特にTAKANAWA GATEWAY CITYは、品川と田町の間の広大な敷地を開発する巨大プロジェクトで、JR東日本の不動産事業の象徴的存在です。これらの開発が完成すれば、賃料収入が大きく増加します。
「ROE10%以上」という目標
藤野氏は、JR東日本が「2031年度にROE10%以上という財務目標」を掲げていることにも言及しています。
これは、長らくROEが低かった鉄道業界としては、極めて野心的な目標です。鉄道事業は、巨大な固定資産を必要とするため、構造的にROEが低くなりがちでした。それを10%以上にまで引き上げるには、大胆な事業構造の見直しが必要です。
藤野氏が言う「持続的な成長基盤の構築を目指している」というのは、まさにこの変革の本質を捉えた表現です。鉄道会社が「鉄道だけの会社」から「総合企業グループ」へと変わる、その変化の渦中にJR東日本がいるわけです。
第三十章 第30位 村田製作所(6981) — 電子部品の世界トップ
MLCC(積層セラミックコンデンサ)の覇者
組入比率30位、つまり上位30銘柄の最後を飾るのが、村田製作所(証券コード6981)です。組入比率は1.29%です。電子部品、特に積層セラミックコンデンサ(MLCC)で世界トップシェアを誇る企業です。
村田製作所のMLCCの世界シェアは、約4割と言われています。スマートフォン、PC、自動車、産業機器、あらゆる電子機器にMLCCが使われていますが、その多くに村田製作所の製品が組み込まれているわけです。
「自動車向け」需要の急増
近年、村田製作所の事業構造に大きな変化が起きています。それは、自動車向けMLCCの需要急増です。
EVや自動運転車、ADAS(先進運転支援システム)の普及に伴い、自動車1台あたりのMLCC搭載数が急増しています。従来のガソリン車に比べて、EVは数倍のMLCCを必要とすると言われます。
これは、村田製作所にとって構造的な成長機会です。自動車の電動化・電子化が進めば進むほど、MLCCの需要は増えていく。
「セット製品」も視野に
村田製作所は、単なる電子部品メーカーから、より付加価値の高い「セット製品」「モジュール製品」への進化も進めています。
ワイヤレス通信モジュール、Wi-Fiモジュール、Bluetoothモジュール、センサーモジュール、こうした完成品に近い製品も提供することで、より高い収益性を追求しています。
京都企業ならではの強み
村田製作所は、京都に本社を置く「京都企業」の代表格です。京セラ、日本電産(現:ニデック)、堀場製作所、ローム、オムロンなど、京都には世界トップクラスの電子部品・精密機器メーカーが集積しています。
これらの京都企業に共通するのは、長期視点の経営、技術力への執着、独自路線への自信、そして「製造業の本質を見失わない」姿勢です。村田製作所も、そうした京都企業の精神を体現する存在です。
藤野氏は、こうした京都企業の経営文化を高く評価する発言を、各種媒体で繰り返しています。短期の流行に左右されず、技術と品質で勝負する姿勢。これは、長期投資の対象として理想的な企業特性です。
第三十一章 31位以下の銘柄群について
上位30社で約75%
ここまで、上位30銘柄を一つずつ詳しく見てきました。これらの上位30社で、ひふみ投信マザーファンドの約75%が構成されている計算になります。
つまり、残る約25%は、31位以下の41銘柄(全71銘柄から30銘柄を引いた数)で構成されているわけです。これらの「31位以下の銘柄群」も、ひふみ投信の運用にとって重要な存在です。
月次レポートの開示範囲
ひふみ投信の月次レポートでは、上位30銘柄までが個別開示されています。31位以下の銘柄については、年1〜2回発行される運用報告書で開示される形になっています。
この開示の仕組みは、運用上の機密性と、お客様への情報提供のバランスを取った形です。上位の主要銘柄は開示し、追加の取引余地を残しておくために下位は時間差で開示する。これは、運用業界の標準的なアプローチです。
過去の保有銘柄からの推測
過去の運用報告書を参照すると、ひふみ投信が組み入れてきた31位以下の銘柄には、中小型成長株や、特定セクターのテーマ性のある銘柄が含まれることが多いです。例えば、半導体関連の専門企業、ヘルスケア関連の中堅企業、ITサービスの新興企業、地方の優良企業などです。
これらは、ひふみ投信の「中小型成長株への投資」という伝統的な特徴を体現する銘柄群です。藤野氏の本来の得意領域である、まだ大きく成長する余地のある中堅企業への投資、というスタイルが、ここで発揮されています。
「テンバーガー」を狙う部分
藤野氏が以前から強調する「テンバーガー(株価10倍)を狙う投資」は、こうした31位以下の中小型成長株の中で実現することが多いです。今は時価総額が小さくても、5年10年で大きく成長する企業を発掘し、長期保有する。これが、ひふみ投信のアクティブ運用の醍醐味です。
そして、もし31位以下で組み入れた銘柄が大きく値上がりすれば、その銘柄は徐々に上位に上がってきます。GMOペイメントゲートウェイのように、3月末に20位に位置している銘柄も、過去には下位だった可能性があります。これは、ひふみ投信のポートフォリオが「動的に進化していく」ことを示しています。
第三十二章 ポートフォリオから読み解く藤野氏の投資哲学
「日本の代表企業」を信じる姿勢
上位30銘柄を見渡して、最も強く感じるのは、ひふみ投信が「日本の代表企業」を強く信じている、ということです。
総合商社(伊藤忠、丸紅、三井物産)、メガバンク(三菱UFJ、みずほ)、自動車(トヨタ)、重工業(川崎重工、三菱重工)、不動産(三菱地所)、損保(東京海上)、電機(三菱電機、ソニー)、半導体関連(東京エレクトロン、ディスコ)、これらは、すべて日本経済の根幹を支える企業群です。
藤野氏が「日本の未来を信じる」というメッセージを繰り返し発信してきたことは、第一弾の記事(藤野氏の投資哲学についての記事)でも詳しく取り上げました。その信念が、まさにポートフォリオの形で具体化されているわけです。
「変化する大企業」への投資
ただし、これは単なる「大企業礼賛」ではありません。藤野氏が選んでいる大企業には、一つの共通点があります。それは、「変化している、または変化が期待される」企業だ、ということです。
伊藤忠商事は、商社の伝統に縛られず、生活消費分野で新たな価値を生み出している。丸紅は、大本社長の下で資本効率の改善を進めている。トヨタは、モビリティカンパニーへの変革を進めている。三菱地所は、不動産事業の海外展開と新たな開発を進めている。JR東日本は、鉄道会社から総合企業グループへの変貌を遂げようとしている。
これらすべてに共通するのは、「過去の成功体験に安住せず、未来に向けて変化している」という点です。藤野氏が「変化率の大きい企業」を好む哲学が、ポートフォリオに具現化されています。
「インフラ価値」の重視
もう一つ、ポートフォリオから読み取れるのが、「インフラ価値」の重視です。
GMOペイメントゲートウェイは「決済インフラ」、JR東日本は「移動と生活のインフラ」、セコムは「安全インフラ」、ダイフクは「物流インフラ」、住友電気工業とNECは「通信インフラ」、東京エレクトロンとディスコは「半導体製造インフラ」、HOYAは「精密ガラスインフラ」。
これらは、現代社会の機能を支える、目立たないけれども不可欠な存在です。一度組み込まれると、別のプロバイダーに切り替えるのが極めて困難な、強力な参入障壁を持ちます。
藤野氏が「インフラ価値」のある企業を好むのは、その長期的な収益安定性と、競争優位の強さを評価しているからでしょう。これは、ウォーレン・バフェットが「経済の堀」のある企業を好むのと、同じ発想です。
「グローバル付加価値」のある日本企業
ポートフォリオには、グローバルで通用する付加価値を持つ日本企業も多く含まれています。
伊藤忠商事、丸紅、三井物産(グローバル商社ネットワーク)、トヨタ自動車(世界最大の自動車メーカー)、ソニーグループ(エンタメ・テクノロジー)、東京海上(グローバル損保)、東京エレクトロン、ディスコ(半導体製造装置)、ダイフク(物流自動化)、村田製作所(電子部品)、HOYA(眼鏡レンズ・半導体マスクブランク)、アシックス(スポーツブランド)。
これらは、世界市場で日本企業ならではの付加価値を発揮している企業です。「日本だから売れる」のではなく、「日本企業の品質と技術が世界で評価される」という価値です。
これは、日本の人口減少という制約を超えて、グローバルな成長機会を取り込める企業群です。長期投資の対象として、極めて魅力的なポジションを占めています。
「資本効率」への意識
上位30銘柄の多くに共通するのが、「資本効率」への意識の高さです。配当性向の引き上げ、自社株買いの実施、不採算事業の整理、コア事業への集中投資、こうした動きが活発化している企業が、ポートフォリオの中心を占めています。
これは、日本の上場企業全体の構造変化を反映しています。東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請、コーポレートガバナンス改革、伊藤レポートに端を発するROE改善の流れ。こうした構造変化の中で、変革を実行している企業を選別している、というのがひふみ投信のスタンスです。
多様性と集中のバランス
最後に、ポートフォリオから読み取れる興味深い特徴が、「多様性と集中のバランス」です。
71銘柄に分散投資しているという意味では、十分に多様化しています。一方で、上位30銘柄で約75%を占めるという意味では、ある程度の集中もしています。
このバランスは、「リスク管理」と「リターン追求」の両立を意図したものでしょう。極端な集中投資は大きなリターンを生む可能性がある一方で、大きなリスクも抱え込みます。広く分散しすぎると、市場平均と変わらないパフォーマンスになります。ひふみ投信は、その中間の絶妙なバランスを取っているのです。
第三十三章 業種別ポートフォリオ分析 — 電気機器セクターの戦略
最大セクターである電気機器(15.40%)
業種別比率で最も大きいのは、電気機器セクターの15.40%です。これは、上位30銘柄の中で次の銘柄が該当します。
ソニーグループ(7位、2.93%)、三菱電機(11位、2.69%)、東京エレクトロン(17位、2.10%)、富士通(24位、1.74%)、日本電気(25位、1.74%)、村田製作所(30位、1.29%)。
これら6銘柄だけで12.49%を占め、それ以外の電気機器銘柄が31位以下に複数組み入れられていることで、セクター全体として15.40%という大きな比率になっているわけです。
なぜ電気機器がトップセクターなのか
藤野氏が電気機器セクターを最大に配置している背景には、いくつかの重要な投資テーマがあります。
第一のテーマは、「AI半導体ブーム」です。NVIDIAの躍進に象徴されるように、AI関連の半導体への投資が世界中で急増しています。これは、半導体製造装置(東京エレクトロン)、半導体製造材料(HOYAの半導体マスクブランク)、関連電子部品(村田製作所)などへの需要拡大につながります。
第二のテーマは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)の本格化」です。企業のITサービス支出が構造的に拡大する中で、富士通、NECといった大手ITサービス企業の事業機会が広がります。
第三のテーマは、「日本発のグローバルブランドの再評価」です。ソニーグループのように、世界で通用する日本企業を評価する流れです。
これらの複合的なテーマが重なって、電気機器セクターが最大の配分となっているわけです。
半導体関連の集中投資
電気機器セクターの中でも、特に注目されるのが「半導体関連」の集中度です。
半導体製造装置(東京エレクトロン、ディスコ)、半導体材料(HOYA)、半導体電子部品(村田製作所、住友電気工業)、半導体製造関連(ソニーのイメージセンサー、ロームの可能性)、これらを合計すると、ポートフォリオの中で非常に大きな比率を占めることになります。
これは、藤野氏が「日本の半導体関連エコシステム」の長期的な競争力を高く評価していることの表れです。日本は、半導体最終製品(チップ)では台湾や韓国に遅れを取りましたが、半導体製造装置、半導体材料、半導体電子部品の分野では、依然として世界トップクラスのポジションを維持しています。
このエコシステム全体に投資することで、AI時代の半導体ブームの恩恵を享受しようとしているわけです。
通信インフラ関連の戦略
電気機器セクターの中で、もう一つの戦略的な集中が「通信インフラ関連」です。
NEC(海底ケーブル、通信機器)、富士通(企業向け通信システム)、住友電気工業(光ファイバー、海底ケーブル)、これらは、世界のデジタルインフラを支える企業群です。
AI時代の到来により、世界のデータ通信量は爆発的に増加しています。これに応えるためのインフラ需要が、これらの企業に追い風をもたらしています。
藤野氏は、こうした「目立たないけれども不可欠なインフラ企業」を、長期的に組み入れているわけです。
第三十四章 業種別ポートフォリオ分析 — 卸売業(総合商社)の重要性
第二位セクターである卸売業(15.26%)
業種別比率で第二位は、卸売業の15.26%です。これは、ほぼ全てが総合商社で占められています。
上位30銘柄の中の総合商社銘柄は、伊藤忠商事(1位、5.96%)、丸紅(2位、4.70%)、三井物産(3位、4.09%)です。これらだけで合計14.75%となり、業種別比率15.26%のほぼ全てを占めています。
つまり、ひふみ投信のポートフォリオの15%以上が、たった3社の総合商社に集中している、ということです。これは、極めて高い集中度です。
なぜ商社が大きな比重を占めるのか
藤野氏が総合商社をこれほど重視している背景には、複数の理由が考えられます。
第一の理由は、「インフレ・ヘッジ」としての機能です。総合商社は、エネルギー、金属、食料、化学品など、コモディティ(商品)に深く関わっています。インフレ環境では、こうしたコモディティ価格が上昇するため、商社の収益も増加します。
第二の理由は、「グローバル多角化」のメリットです。総合商社は、世界中の多様な事業に分散投資している巨大なポートフォリオでもあります。一つの地域、一つの産業に依存しない構造が、長期的な安定性をもたらします。
第三の理由は、「資本効率改善のうねり」です。商社業界では近年、PBR1倍超の達成、自社株買い、配当性向の引き上げなど、株主還元と資本効率の改善が急速に進んでいます。これは、株価のさらなる上昇余地につながります。
第四の理由は、「ウォーレン・バフェットの保有」という事実です。世界最高の投資家が日本の商社を長期保有していることは、商社の本質的な価値を裏付けるものです。藤野氏も、この国際的な評価と整合する見方を持っているわけです。
「商社の中の商社」 — 伊藤忠の特別な位置
3社の中でも、伊藤忠商事の比率(5.96%)が最も高くなっています。これは、藤野氏が伊藤忠を「商社の中の商社」と評価していることを示しています。
伊藤忠の強みは、生活消費分野での圧倒的なポジションです。ファミリーマートの完全子会社化、伊藤忠食品、ドール、こうした事業を通じて、消費者の日常生活に深く食い込んでいます。
これは、資源価格に左右されにくい安定的な収益構造を生み出します。三井物産が「資源の三井」と呼ばれるのに対し、伊藤忠は「非資源の伊藤忠」と呼ばれる所以です。
五大商社からの選別
ひふみ投信のポートフォリオには、五大商社(三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅)のうち、伊藤忠、丸紅、三井物産の3社が上位に組み入れられています。三菱商事と住友商事は上位30銘柄には含まれていません(本記事執筆時点)。
これは、藤野氏の「選別力」の表れです。同じ商社業界の中でも、企業ごとの強み、経営方針、株主還元政策、成長戦略を見極めて、より魅力的な企業を選ぶ。これは、インデックス投資ではできない、アクティブ運用ならではの判断です。
商社業界全体への投資というよりも、商社の中でも特定の3社への集中投資。これがひふみ投信の戦略です。
第三十五章 業種別ポートフォリオ分析 — 銀行業と保険業の金融セクター
銀行業(7.58%)と保険業(3.85%)
業種別比率で見ると、銀行業が7.58%、保険業が3.85%です。これらを合わせた「金融セクター」では11.43%となり、全体の1割以上を占めることになります。
ここに、その他金融業(2.48%、オリックスが該当)を加えると、金融関連セクター全体は13.91%となります。
メガバンクへの集中投資
銀行業セクターの中心は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(9位、2.76%)とみずほフィナンシャルグループ(10位、2.69%)です。この2行で5.45%を占めており、銀行業セクターの大半を構成しています。
藤野氏が3大メガバンクのうち、三井住友フィナンシャルグループを上位30銘柄に入れていないのは、興味深いポイントです。これは、戦略的な選別であり、3行のうち2行に集中することで、より明確な投資テーマを表現しているわけです。
ただし、三井住友も31位以下に組み入れられている可能性は十分にあります。月次レポートでは上位30銘柄しか開示されないため、その他の銀行株の状況は分かりません。
損害保険への投資 — 東京海上ホールディングス
保険業セクターでは、東京海上ホールディングス(15位、2.22%)と第一ライフグループ(26位、1.64%)が組み入れられています。
東京海上は損害保険のリーダー、第一ライフグループは生命保険のリーダー(かつ上場している大手生保)です。両社とも、業界をリードする存在として、長期的な成長機会を持っています。
金利上昇局面での金融セクター
藤野氏が金融セクターをこれほど重視している背景には、「金利上昇局面での金融セクターの収益機会」という見立てがあるはずです。
日本では長らくゼロ金利・マイナス金利政策が続いてきました。これは、銀行業にとって極めて厳しい環境でした。預貸利ざやが縮小し、収益が圧迫されてきたのです。
しかし2024年以降、日銀が金融政策の正常化に動き始めました。政策金利の引き上げにより、銀行業の収益性は構造的に改善する見込みです。
加えて、生命保険会社にとっても、金利上昇は基本的にプラス要因です。長期にわたって運用する資金が、より高い利回りで運用できるようになるからです。
つまり、金融セクター全体が、長らくの厳しい環境から、ようやく追い風の時代に入りつつある、というのが現在の構図です。藤野氏は、この構造変化の恩恵を受ける形で、金融セクターを上位に組み入れているわけです。
株主還元の進展
もう一つの重要なテーマが、「金融セクターの株主還元の進展」です。
メガバンクも生命保険会社も、長らく「眠っていた巨人」と言われてきました。膨大な資本を抱えながら、株主への還元が消極的だった時期が長く続いたのです。
しかし、近年、状況は大きく変わっています。配当性向の引き上げ、自社株買いの実施、これらが積極化しており、株主価値の向上が明確に意識されるようになっています。
これは、藤野氏が「GG資本主義からの脱却」を提唱してきた、その変革の流れと完全に整合的です。日本の金融セクターが、ようやく「物言う株主」と真剣に対話するようになり、株主還元を強化している。この変化のリターンを取りに行く、というのがひふみ投信のスタンスです。
第三十六章 業種別ポートフォリオ分析 — 機械、輸送用機器、建設業
機械セクター(9.92%)
業種別比率3位は、機械セクターの9.92%です。これには、川崎重工業(6位、3.20%)、三菱重工業(16位、2.12%)、ディスコ(18位、2.05%)、ダイフク(28位、1.43%)などが該当します。
機械セクターは、重工業、半導体製造装置、物流自動化と、極めて多様な分野をカバーしています。これらに共通するのは、「日本の製造業の技術力」を象徴する企業群だ、という点です。
輸送用機器セクター(6.59%)
輸送用機器セクターは6.59%で、これにはトヨタ自動車(5位、3.39%)と川崎重工業(6位、3.20%)が含まれます(川崎重工業は東証分類では輸送用機器に区分されています)。
トヨタ自動車は、言わずと知れた日本最大の自動車メーカーです。川崎重工は、自動車だけでなく船舶、二輪車、航空機など、広く「輸送機器」を製造する企業です。
このセクターは、日本のものづくりの伝統的な強みを体現する分野です。EVシフト、自動運転、水素時代、こうした次世代技術への対応が問われる時代において、両社がどう変革を進めるかが注目されます。
建設業セクター(4.74%)
建設業セクターは4.74%で、鹿島建設(14位、2.25%)が主要銘柄です。その他にも、上位30銘柄外にゼネコン関連銘柄が組み入れられている可能性があります。
建設業の構造的需要拡大については、第十四章で詳しく述べた通りです。半導体工場、データセンター、インフラ更新、再開発、こうした多面的な需要が業界を支えています。
藤野氏が建設業を上位に組み入れているのは、この構造的な需要拡大の恩恵を取り込むためです。
不動産業セクター(3.99%)
不動産業セクターは3.99%で、三菱地所(4位、3.99%)が中心です。本記事執筆時点では、業種別比率と単一銘柄の比率がほぼ同じということから、不動産業セクターは三菱地所一銘柄でほぼ構成されていることが分かります。
これは、藤野氏が三菱地所の独特な競争優位性(丸の内エリアの土地保有)を、極めて高く評価していることの表れです。同業他社(三井不動産、住友不動産など)よりも、三菱地所の方が魅力的だ、という選別の結果でしょう。
第三十七章 過去のひふみ投信の有名な保有銘柄
ここまで触れなかった「歴史的な銘柄」
ここまで2026年3月末時点の上位30銘柄を見てきましたが、ひふみ投信には過去にも有名な保有銘柄がありました。これらは現時点の上位には入っていないものの、ひふみ投信の運用スタイルを理解するうえで重要なケーススタディです。
ワークマン
ひふみ投信が過去に保有して大きく成長させた銘柄として、最も有名なのが「ワークマン」(7564)です。
ワークマンは、職人向けの作業服を販売する小売チェーンとして長年事業を営んできましたが、2018年頃から「ワークマンプラス」というカジュアル向け業態を立ち上げ、機能性に優れたアウトドアウェアとして爆発的な人気を博しました。
ひふみ投信は、ワークマンの変革の兆しを早期に捉え、株価上昇前から保有していたとされます。その後、ワークマンの株価は数倍に上昇し、ひふみ投信のリターンに大きく貢献しました。
これは、藤野氏の「変化する企業を見抜く目」の典型例です。地味な作業服会社が、ファッション業界に進出する、という変革の兆しを、財務諸表だけでは見抜けません。実際の店舗を訪れる、若い世代の声を聞く、こうした現地現物主義の調査があってこそ、見えてくる変化です。
北の達人コーポレーション
もう一つ、ひふみ投信の有名な銘柄として「北の達人コーポレーション」(2930)があります。北海道発の化粧品・健康食品の通販企業です。
ひふみ投信は、北の達人を早期から保有し、株価が大きく上昇した時期もありました。ただし、その後の業績変動とともに、ポジションも変動してきたと思われます。
これは、新興の中堅企業を発掘する、ひふみ投信の伝統的な強みを示すケースです。
MonotaRO(モノタロウ)
工業用間接資材のEコマースを展開するMonotaRO(3064)も、ひふみ投信が長年保有してきたとされる銘柄です。
MonotaROのビジネスモデルは、製造業向けの工具、消耗品、安全用品などを、極めて広範な品揃えと迅速な配送で提供する、というものです。これは、製造業のサプライチェーンに深く根ざした、独自のポジションです。
EC化の進展、製造業の業務効率化ニーズ、こうした構造的トレンドの恩恵を受ける形で、MonotaROは長期にわたって成長を続けてきました。
中小型成長株への投資の伝統
これらの過去の保有銘柄に共通するのは、「上場時はそれほど大きくなかったが、独自の競争優位を持ち、長期にわたって成長した企業」だ、という点です。
ワークマンも、北の達人も、MonotaROも、上場当初は時価総額が小さい中堅企業でした。それを早期に発掘し、長期保有することで、大きなリターンを生み出してきたのが、ひふみ投信の伝統的なスタイルです。
しかし、現在のひふみ投信のポートフォリオを見ると、大型株中心の構成になっています。これは、運用資産の拡大に伴う構造変化です。1兆円規模のファンドでは、中小型株だけでは器が小さすぎて入りきらないため、大型株中心の構成にならざるを得ません。
ただし、それでも31位以下には、中堅・中小型の成長株が含まれていると考えられます。藤野氏の「中小型成長株への投資」という伝統的なスタイルが、ポートフォリオの一部に残り続けているはずです。
第三十八章 ポートフォリオの時系列的な変化
「動的に進化するポートフォリオ」
ひふみ投信のポートフォリオは、固定的なものではなく、時間とともに変化しています。藤野氏自身が、「ひふみ投信はつかみどころがないと言われる」と認めるほど、機動的に変化するファンドです。
過去の月次レポートを振り返ると、ひふみ投信のポートフォリオは、市場環境や個別企業の状況に応じて、ダイナミックに入れ替わってきました。
「2018年頃」の構成
例えば、2018年頃のひふみ投信のポートフォリオには、北の達人コーポレーション、ワークマン、MonotaRO、ホシザキ、ピジョン、デクセリアルズ、寺岡製作所、ハーモニック・ドライブ・システムズ、神戸物産など、多様な中小型成長株が並んでいました。
当時のひふみ投信は、まだ運用資産が1兆円に達していなかったため、より中小型株に集中した構成が可能でした。
「2020年コロナ禍」での変化
2020年のコロナ禍では、ひふみ投信のポートフォリオは大きく変化しました。コロナ禍の恩恵を受ける企業(eコマース関連、リモートワーク関連、デジタル化関連)に投資を集中し、打撃を受ける企業(対面サービス、観光関連)から資金を引き上げる、という機動的な対応を取りました。
この結果、すでに紹介したように、2020年初から7月末までの期間で、TOPIX(配当込み)がマイナス11.86%だったのに対し、ひふみ投信はマイナス0.17%という、極めて優れたパフォーマンスを示しました。
「大型株シフト」の進行
近年、ひふみ投信のポートフォリオは、明らかに大型株中心の構成に変化しています。これは、運用資産の拡大に伴う構造変化です。
2026年3月時点のポートフォリオを見ると、時価総額5兆円以上の超大型株が59.52%を占めています。これは、ひふみ投信が「大型優良株のアクティブファンド」としての性格を強めていることを示しています。
これは、ある意味では「中小型成長株のスペシャリスト」からの変化でもあります。しかし、藤野氏自身が言うように、「中小型株型というのは8割くらい正解で、完全に正しいとは言えない」というのが現実です。ひふみ投信は、企業の大小に関わらず、成長する企業を選別する、という基本姿勢を貫いています。
「ITセクターへの集中」の最新動向
藤野氏の2026年3月度月次レポートでのコメントによれば、当月はITセクターのインフラ関連企業への投資をさらに加速させた、とのことです。これは、GMOペイメントゲートウェイへの買い増しに象徴される動きです。
AIによる代替懸念で売られたITセクターの中から、本当のインフラ価値を持つ企業を選び、安く買い増す。これは、典型的な「逆張り投資」であり、藤野氏の長期視点の表れです。
「変えるべきもの」と「変えるべきでないもの」
ひふみ投信のポートフォリオの時系列的な変化を見ていると、藤野氏の哲学である「変えるべきものと変えるべきでないものを見分ける」という姿勢が、運用にも反映されていることが分かります。
変えているのは、個別銘柄、セクター配分、現金比率、時価総額別比率などです。これらは、市場環境に応じて機動的に変化しています。
変えていないのは、「成長企業に長期投資する」「経営者を重視する」「日本企業を中心に投資する」「コミュニティとして運用する」「お客様の資産を増やす」という根本的な姿勢です。これらは、ひふみ投信の運用開始から一貫しています。
この「動的な戦術と不変の戦略」のバランスが、ひふみ投信の20年近い歴史を支えてきたのです。
第三十九章 ひふみワールド・ひふみクロスオーバーpro・他シリーズの組入銘柄
「ひふみシリーズ」の広がり
ここまで「ひふみ投信」(国内株中心)の保有銘柄を見てきましたが、藤野氏が率いるレオス・キャピタルワークスは、複数のファンドシリーズを運用しています。それぞれが異なる投資対象を持ち、藤野氏の哲学を異なる切り口で表現しています。
主なシリーズは以下の通りです。
ひふみ投信(国内株中心、海外株も含む)、ひふみワールド(海外株中心、日本除く世界)、ひふみワールド+(ひふみワールドより為替ヘッジあり版など)、ひふみらいと(株式約10%、債券約90%の低リスク型)、ひふみクロスオーバーpro(未上場と上場のクロスオーバー投資)、ひふみマイクロスコープpro(超小型株中心)、まるごとひふみ各種(株式と債券のバランス型)、ひふみ年金(確定拠出年金専用)。
これらのシリーズは、お客様の多様なニーズに応える形で揃えられています。リスク許容度の違い、投資対象の好み、運用目的の違いに応じて、最適な商品を選べる仕組みです。
ひふみワールドの組入銘柄
ひふみワールドは、海外株中心のファンドです。米国、欧州、アジアなどの成長企業に投資しています。
過去の月次レポートを参照すると、ひふみワールドは、ハイテク企業、ヘルスケア企業、消費財企業など、多様なグローバル企業を組み入れてきました。具体的な銘柄名は時期によって変動しますが、AI関連、半導体関連、医療機器関連、消費財関連などの分野で、世界の成長企業を発掘しています。
藤野氏のチームは、日本だけでなく世界の企業も同じ「経営者重視」「変化率重視」「インフラ価値重視」の哲学で選別しています。これは、ひふみワールドの大きな特徴です。
ひふみクロスオーバーproの独自性
ひふみクロスオーバーproは、ひふみシリーズの中でも特にユニークな存在です。未上場企業と上場企業の両方に投資し、未上場の段階から投資を行った企業が上場した後も投資を継続することを目指す、という「クロスオーバー投資」を実現するファンドです。
これは、日本の個人投資家にとって極めて画期的な商品です。これまで、未上場企業への投資は、ベンチャーキャピタル(VC)や機関投資家にしかアクセスできない領域でした。個人投資家は、企業がIPO(新規上場)した後でしか、その株を買えませんでした。
しかし、ひふみクロスオーバーproにより、個人投資家もファンドを通じて未上場企業へ投資できるようになりました。「未上場投資の民主化」という、藤野氏のビジョンの具現化です。
この商品は、2025年度のグッドデザイン賞を受賞しています。商品設計のイノベーション性が評価されたものです。
ひふみマイクロスコープproの特徴
ひふみマイクロスコープproは、超小型株(時価総額100億円以下)中心のファンドです。これは、ひふみ投信の本体が大型株中心になりつつある現状の中で、「中小型成長株への投資」という伝統的な強みを存分に発揮する商品です。
超小型株への投資は、ハイリスク・ハイリターンの世界です。テンバーガー(株価10倍)を生み出す可能性がある一方で、倒産リスクや流動性リスクも大きい。だからこそ、徹底的な企業分析と分散投資が不可欠です。
藤野氏のチームは、この超小型株市場を深く調査し続けており、ひふみマイクロスコープproは、その知見を集約した商品となっています。
ひふみらいとの位置付け
ひふみらいとは、株式約10%・債券約90%の低リスク型ファンドです。これは、よりリスクを抑えた運用を求めるお客様のためのオプションです。
退職を控えた方、リスクを取りたくない方、安定的なリターンを求める方など、多様なニーズに応える商品です。NISA「成長投資枠」の対象でもあり、若い世代からシニア世代まで、幅広い層が活用できます。
まるごとひふみシリーズ
「まるごとひふみ」シリーズは、株式と債券をバランスよく組み合わせたファンドです。50(株式50%・債券50%)、85(株式85%・債券15%)、100(株式100%)など、リスク水準に応じた複数のバリエーションがあります。
これは、お客様が自分のリスク許容度に応じて、適切なリスク水準のファンドを選べる仕組みです。年齢、ライフステージ、リスク選好に応じて、最適な配分を選択できます。
第四十章 ひふみ投信の運用体制 — チームとしての選別
藤野氏一人で運用しているのではない
ここまで「藤野氏が選んでいる銘柄」という表現を多用してきましたが、実態としては、ひふみ投信は藤野氏一人で運用しているのではありません。レオス・キャピタルワークスには、優秀な運用チームが存在し、組織的に銘柄選別を行っています。
2026年3月度の月次レポートには、運用メンバーのコメントが掲載されています。そこには、藤野氏(代表取締役社長、シニア・ファンドマネージャー)、湯浅光裕氏(代表取締役副社長、最高投資責任者、シニア・ファンドマネージャー)、高橋亮氏(運用副本部長、海外株式戦略部長、シニア・ファンドマネージャー)、内藤誠氏(国内株式戦略部長、シニア・ファンドマネージャー)、並木浩二氏(小型株式戦略部長、シニア・ファンドマネージャー)、妹尾昌直氏(運用本部長、シニア・アナリスト)、渡邉庄太氏(シニア・ファンドマネージャー)、橋本裕一氏(マーケットエコノミスト兼ファンドマネージャー)、三宅一弘氏(経済調査室長、シニア・マーケットエコノミスト)、松本凌佳氏(ファンドマネージャー)、その他多数のアナリスト、エコノミストの名前が並んでいます。
これだけの専門家が、それぞれの専門領域で深い調査を行い、組織として銘柄選別を行っているのです。
「フラットな関係性」での議論
藤野氏は、運用チームをフラットな関係性で運営しているとされます。「フジノさんのコピーになるな、ライバルになれ」というメッセージを送り、メンバーそれぞれが独自の判断軸を持つことを推奨しています。
これにより、運用チーム内では活発な議論が行われます。一人のスタープレイヤーの判断だけに依存するのではなく、多様な視点での議論を経て、最終的な投資判断が下されるわけです。
これは、藤野氏一人のリスクを軽減し、組織として持続的な運用力を確保する仕組みでもあります。
アナリストの企業調査
ひふみ投信の運用の核心にあるのが、アナリストによる企業調査です。各アナリストは、特定の業界や企業群を担当し、徹底的な調査を行います。
経営者面談、工場見学、顧客や取引先へのヒアリング、財務分析、業界動向の追跡、こうした多面的な調査を通じて、企業の本質的な価値を見極めていきます。
藤野氏が以前から強調してきた「6500人以上の社長との対話」というのは、藤野氏個人の数字でもありますが、運用チーム全体としてはさらに多くの企業と接触しているはずです。
国内株式戦略部、海外株式戦略部、小型株式戦略部
運用本部は、複数の戦略部に分かれています。国内株式戦略部(内藤誠部長)、海外株式戦略部(高橋亮部長)、小型株式戦略部(並木浩二部長)、それぞれが特定の市場・規模・領域を担当しています。
国内株式戦略部は、日本の大型・中型株を中心に調査します。海外株式戦略部は、世界の成長企業を発掘します。小型株式戦略部は、日本の超小型株、新興企業を中心に調査します。
この分業により、それぞれの専門領域で深い知見が蓄積され、組織全体として幅広く深い調査力が確保されているわけです。
経済調査室の役割
運用本部とは別に、経済調査室があります。三宅一弘室長(シニア・マーケットエコノミスト)が率いる部門で、マクロ経済、金融政策、為替、地政学などの調査を行います。
個別企業の分析がボトムアップの調査だとすれば、経済調査室の分析はトップダウンの調査です。両方を組み合わせることで、市場全体の構造を立体的に理解できます。
藤野氏が月次レポートでマクロ経済について言及している部分(イラン戦争、原油価格、金融政策など)は、三宅氏率いる経済調査室の分析が反映されたものでしょう。
第四十一章 個人投資家がひふみ投信から学べること
「真似」ではなく「学び」
ひふみ投信の保有銘柄を見ると、つい「同じ銘柄を自分も買おう」と考えがちです。しかし、これは必ずしも賢明なアプローチではありません。
ひふみ投信は、71銘柄に分散投資し、運用チームが日々調査・調整しています。個人投資家が、同じ71銘柄を保有して同じ調整を続けることは、現実的に不可能です。
むしろ、ひふみ投信の保有銘柄から「学ぶ」ことが大事です。藤野氏たちが、なぜこの銘柄を選んだのか、その背景にある投資哲学を理解する。そして、自分の投資判断にその哲学を取り入れる。これが、個人投資家にとっての真の学びです。
「インフラ価値」のある企業を見極める力
ひふみ投信のポートフォリオから学べる第一の教訓は、「インフラ価値」のある企業を見極める力です。
GMOペイメントゲートウェイ、JR東日本、セコム、ダイフク、住友電気工業、NEC、東京エレクトロン、ディスコ、HOYA。これらは、それぞれの分野で「インフラ」として機能している企業です。
個人投資家も、こうした「目立たないけれども不可欠な」企業を発掘する目を養うことが、長期投資の成功につながります。派手なテーマ性のある企業よりも、地味でも構造的な競争優位を持つ企業の方が、長期的には大きなリターンを生むことが多いのです。
「変化する大企業」への注目
ひふみ投信は、大企業も多く保有しています。しかし、それは単に「大きいから安全」という理由ではなく、「大きいけれど変化している」という理由からです。
伊藤忠、丸紅、トヨタ、ソニー、JR東日本、メガバンク、これらは皆、過去数年で大きな変革を進めてきました。新しい経営戦略、新しい事業構造、新しい資本政策、こうした変化が企業価値を高めています。
個人投資家も、こうした「変化する大企業」を見極める目を養うべきです。決算短信や中期経営計画を読み、企業が本気で変わろうとしているかを判断する。これが、大型株投資の鍵です。
「セクター分散」の重要性
ひふみ投信のポートフォリオは、複数のセクターに分散しています。電気機器、卸売業、機械、情報・通信業、銀行業、輸送用機器、建設業、不動産業、保険業、小売業など、多様な業種をカバーしています。
これは、特定セクターへの集中リスクを避けるためです。一つのセクターが暴落しても、他のセクターでカバーできる構造です。
個人投資家も、こうしたセクター分散を意識すべきです。「半導体関連だけ」「商社だけ」といった集中投資は、ハイリスクです。複数セクターに分散することで、リスクを抑えながらリターンを狙えます。
「上位30銘柄」以外への目配り
ひふみ投信は、上位30銘柄で約75%を占めますが、残りの41銘柄(31位以下)も重要な役割を果たしています。これらの中には、テンバーガーを狙える中小型成長株が含まれているはずです。
個人投資家も、有名な大型株だけでなく、知られざる中堅・中小企業にも目を配ることで、大きなリターンの可能性を取り込めます。ただし、こうした銘柄への投資は、より深い調査と、リスク管理が必要です。
「長期視点」を貫く
ひふみ投信の最大の特徴は、長期視点での運用です。個別銘柄の値動きに一喜一憂せず、企業の本質的な価値創出に焦点を当て続ける、というスタンスです。
個人投資家も、この長期視点を学ぶべきです。日々の株価をチェックして感情的に売買するのではなく、企業の長期的な成長性を信じて持ち続ける。複利の力を最大限に活用する、というアプローチです。
これは、結局のところ、藤野氏が「投資家みたいに生きろ」と呼びかける生き方そのものです。
第四十二章 ひふみ投信の運用パフォーマンス分析
設定来800%以上の上昇
2026年3月末時点のひふみ投信の運用実績を、改めて整理してみましょう。
設定来(2008年10月1日から2026年3月31日まで、約17年6か月間)のリターンは、ひふみ投信が802.98%、TOPIX(配当込み)が374.97%です。つまり、設定来でひふみ投信はTOPIXの倍以上のリターンを生み出してきた、ということになります。
これは、極めて優秀なパフォーマンスです。10,000円で始まった基準価額が、約17年半で90,298円まで上昇したわけですから、約9倍に成長しています。
期間別パフォーマンスの分析
期間別に見ると、興味深いパターンが見えてきます。
過去1か月(2026年3月):ひふみ投信マイナス11.86%、TOPIXマイナス10.33%。市場全体の大暴落の中で、ひふみ投信もTOPIXとほぼ同水準で下落しました。
過去3か月:ひふみ投信プラス3.85%、TOPIXプラス3.64%。短期では市場とほぼ連動しています。
過去6か月:ひふみ投信プラス11.69%、TOPIXプラス12.78%。中期ではややTOPIXに劣後しています。
過去1年:ひふみ投信プラス29.52%、TOPIXプラス34.65%。1年ではTOPIXに約5ポイント劣後。
過去3年:ひふみ投信プラス60.05%、TOPIXプラス87.37%。3年ではTOPIXに大きく劣後しています。
過去5年:ひふみ投信プラス43.66%、TOPIXプラス102.20%。5年ではTOPIXに約60ポイント劣後しています。
過去10年:ひふみ投信プラス166.62%、TOPIXプラス228.21%。10年でもTOPIXに約60ポイント劣後。
設定来(約17年半):ひふみ投信プラス802.98%、TOPIXプラス374.97%。設定来では大きくTOPIXを上回っています。
短期では負け、長期では勝つパターン
この期間別パフォーマンスから読み取れるのは、ひふみ投信が「短期では市場に負ける時期もあるが、超長期では大きく市場を上回る」というパターンを持っている、ということです。
特に2020年以降のここ5〜6年は、ひふみ投信がTOPIXに劣後する局面が続いています。これは、いくつかの要因があります。第一に、市場全体が大型バリュー株(銀行、商社、自動車など)中心の相場になっており、もともと中小型成長株に強みを持つひふみ投信には逆風だったこと。第二に、運用資産の急拡大による運用の難しさ。第三に、近年の構造変化への対応の途上であること。
しかし、設定来の長期パフォーマンスを見ると、ひふみ投信が市場を大きく上回ってきた事実が明確です。これは、長期投資の哲学が、最終的には報われることを示しています。
短期パフォーマンスへの過剰反応のリスク
個人投資家にとって、こうした期間別パフォーマンスをどう解釈するかは、重要な問題です。
短期(過去1〜5年)のパフォーマンスだけ見て「ひふみ投信は最近ダメだ」と判断するのは、藤野氏の哲学に最も反するアプローチです。投資は長期で見るべきものであり、5年程度の期間は、長期投資においては「短期」に過ぎません。
一方、長期のパフォーマンスを過信して、現状の課題に目を向けないのも危険です。市場環境は常に変化しており、過去の成功が未来を保証するわけではありません。
藤野氏自身も、お客様に対して率直に運用状況を説明し続けています。良いときも悪いときも、誠実に情報を共有する。これがひふみ投信の特徴です。
ピーターリンチのマゼランファンドとの比較
第一弾の記事(藤野氏の投資哲学についての記事)でも触れたように、藤野氏はピーター・リンチが運用したマゼランファンドのようなファンドを作りたい、という想いでひふみ投信を立ち上げました。
ピーター・リンチのマゼランファンドは、1977年から1990年までの13年間で、約2,800%のリターンを生み出しました。年率換算で約29%という、驚異的なパフォーマンスです。
ひふみ投信は、設定来17年半で約803%、年率換算で約13%です。マゼランファンドには及びませんが、それでも長期で市場平均を大きく上回る、優れたパフォーマンスです。
藤野氏たちが目指しているのは、こうした世界トップクラスのファンドマネージャーの域に達することでしょう。その挑戦は、まだ続いています。
第四十三章 ひふみ投信のコストと注意点
信託報酬と他の費用
投資判断において、コストは重要な要素です。ひふみ投信の運用管理費用(信託報酬)は、信託財産の日々の純資産総額に対して年率1.078%(税込)です。
これは、日本のアクティブファンドとしては標準的な水準ですが、低コストのインデックスファンド(年率0.1〜0.2%程度)と比べると高めです。
加えて、組入有価証券の売買の際に発生する売買委託手数料、先物取引・オプション取引等に要する費用、外貨建資産の保管費用、租税、信託事務の処理費用、監査費用などの「その他費用」が、運用状況に応じて発生します。
コストとリターンのバランス
コストが高いということは、その分、運用成績で上回るパフォーマンスを生み出す必要がある、ということです。インデックスファンドより年1%程度高いコストを払う以上、長期的にはインデックスファンドを年1%以上上回るリターンが必要です。
ひふみ投信の設定来パフォーマンスを見ると、TOPIXを大きく上回っているので、コストを払う価値があった、と言えます。しかし、近年の中期パフォーマンスでは市場に劣後していますから、現時点での評価は分かれるところでしょう。
「商品」ではなく「サービス」として
ただし、ひふみ投信は単なる金融商品ではなく、「コミュニティとしての運用サービス」という側面があります。月次レポートの詳細な情報開示、運用報告会、お客様との対話、こうした付加価値も含めて評価すべきです。
藤野氏自身が顔を出して、運用哲学や市場見通しを語り続ける。これは、他のファンドにはない特徴です。こうした「コミュニティ・プレミアム」を評価するかどうかは、お客様の価値観次第ですが、藤野氏のファンにとっては、コストを払う価値のあるサービスでしょう。
NISA対応
ひふみ投信は、新NISAの「成長投資枠」および「つみたて投資枠」の両方の対象です。これにより、非課税で投資することが可能です。
長期投資を前提とする新NISA制度との相性は、極めて良いと言えます。ひふみ投信の長期視点での運用と、新NISAの非課税メリットを組み合わせることで、最大限の効率で資産形成ができます。
換金の柔軟性
ひふみ投信は、いつでも換金(解約)できます。換金申込受付日の翌営業日の基準価額で換金され、5営業日目から代金が支払われます。
申込手数料、換金手数料、信託財産留保額は一切ありません。これは、お客様への手数料負担を最小化する、藤野氏たちの姿勢の表れです。
リスクの理解
最後に、リスクについて触れておきます。ひふみ投信は、株式に投資する投資信託ですから、当然ながら元本保証はありません。価格変動リスク、流動性リスク、信用リスク、為替変動リスク、カントリーリスクなど、様々なリスクがあります。
特に、2026年3月のような市場大暴落時には、ひふみ投信も大きく値下がりすることがあります。短期的なボラティリティに耐える覚悟がない方には、向かない商品です。
逆に、長期視点で投資できる方、市場の変動を受け入れられる方には、ひふみ投信は魅力的な選択肢となり得ます。
第四十四章 ポートフォリオから読み解く「日本の未来図」
「日本企業の縮図」としての価値
ひふみ投信の上位30銘柄を眺めると、それは「日本企業の縮図」とも言える構成になっています。総合商社、自動車、メガバンク、不動産、保険、ゼネコン、電機、半導体関連、エンタメ、通信、化学、医薬、警備、物流。日本経済を支える主要セクターのほぼ全てがカバーされています。
これは、ひふみ投信のポートフォリオを通じて、藤野氏たちが描く「日本の未来図」を読み解くことができる、ということでもあります。
「変化する日本」というテーマ
藤野氏のポートフォリオから読み取れる最も大きなテーマは、「変化する日本」です。
過去30年、日本は「失われた30年」と呼ばれる停滞期を経験しました。デフレ、株安、企業の保守化、若い世代の閉塞感。多くの人が日本の未来に絶望していました。
しかし、藤野氏は違いました。停滞の中でも、変化の兆しを見つけ続け、その変化に賭け続けてきました。そして今、その変化が本格化しつつあります。
東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請、企業の株主還元の積極化、デフレからインフレへの転換、新NISA制度のスタート、世代交代の進行、こうした多面的な変化が、日本経済を根底から変えつつあります。
ひふみ投信のポートフォリオは、まさにこの「変化する日本」を捉える形で構成されています。変化を主導する企業、変化の恩恵を受ける企業、変化を通じて新しい価値を生み出す企業。これらが、上位30銘柄として並んでいるわけです。
「日本のグローバル化」というテーマ
もう一つのテーマが、「日本のグローバル化」です。
ポートフォリオに含まれる企業の多くは、グローバルな事業展開を進めています。総合商社のグローバルネットワーク、トヨタの世界販売、ソニーのグローバルエンタメ、東京海上の海外保険事業、三菱地所の海外不動産、HOYAの世界トップシェア、村田製作所のグローバル電子部品事業。
これらの企業は、日本の人口減少という制約を超えて、グローバルな成長機会を取り込むことができます。長期的な成長性という意味で、これは極めて重要な特性です。
「日本のインフラ強化」というテーマ
第三のテーマは、「日本のインフラ強化」です。
GMOペイメントゲートウェイ、JR東日本、セコム、住友電気工業、NEC、富士通、東京エレクトロン、HOYA、ダイフク。これらは、現代社会のインフラ(決済、交通、安全、通信、IT、半導体製造、物流)を支える企業群です。
DX、AI、自動化、こうしたメガトレンドの中で、インフラ企業の重要性はますます高まっています。藤野氏は、こうした「縁の下の力持ち」とも言える企業群に、長期的な価値を見出しているわけです。
「日本の素材・部品力」というテーマ
第四のテーマは、「日本の素材・部品力」です。
住友電気工業、村田製作所、HOYA、東京エレクトロン、ディスコ。これらは、世界の製造業を支える素材・部品・装置を提供する企業です。
日本は、最終製品(完成車、スマートフォン、家電など)では、必ずしも世界トップを維持できていません。しかし、その背後にある素材、部品、装置の分野では、依然として世界トップクラスのポジションを保っています。
藤野氏は、こうした「日本の隠れた強み」に投資することで、世界の製造業の成長から恩恵を受けようとしているわけです。
「日本の文化力」というテーマ
第五のテーマは、「日本の文化力」です。
ソニーグループ(エンタメ、アニメ、ゲーム、音楽)、アシックス(スポーツブランド、ファッション)、ファーストリテイリングなどの消費財企業(上位30以外の可能性)。これらは、日本発の文化・ライフスタイルを世界に発信する企業群です。
日本のアニメ、マンガ、ゲーム、ファッション、こうしたコンテンツが、世界中の若い世代に深く浸透しています。これは、長期的な「ソフトパワー」として、日本企業の成長を支える要素です。
ポートフォリオが映す「希望の日本」
これら5つのテーマを統合すると、ひふみ投信のポートフォリオは、「希望の日本」を映し出していると言えるでしょう。
変化し、グローバル化し、インフラを強化し、素材・部品力を磨き、文化力を発信する日本。これは、藤野氏が「日本の未来を信じる」と繰り返し発信してきたメッセージの、具体的な姿です。
そして、この「希望の日本」を支える企業群に投資することで、お客様の資産も成長していく。これが、ひふみ投信が描く「ゆたかさの循環」の構造です。
第四十五章 私の独自分析 — ポートフォリオの強みと弱み
強み1: バランスの良いセクター分散
ひふみ投信の現在のポートフォリオの最大の強みは、セクター分散のバランスの良さだと、私は分析します。
電気機器、卸売業、機械、情報・通信業、銀行業、輸送用機器、建設業、不動産業、保険業、小売業など、複数のセクターに分散されています。特定セクターへの極端な集中(例えば、特定のテーマ株への集中投資)はなく、リスク分散が効いています。
これは、市場のセクター・ローテーション(主導セクターの変化)に対して、ある程度の耐久力を持つ構造です。どのセクターが伸びても、ある程度の恩恵を受けられる構成です。
強み2: 「日本企業のクオリティ・ポートフォリオ」
二つ目の強みは、ポートフォリオが「日本企業のクオリティ・ポートフォリオ」となっている点です。
上位30銘柄の多くは、各業界のトップクラスの企業です。総合商社の上位、メガバンク、自動車のトップ、半導体製造装置のトップ、物流自動化のトップ、警備のトップ。これらは、業界内で確固たるポジションを築いた企業群です。
クオリティの高い企業群への投資は、長期的に見て、市場平均を上回るリターンを生む可能性が高い、と多くの研究で示されています。これは、ひふみ投信の長期パフォーマンスを支える基盤となります。
強み3: 株主還元・資本効率重視の銘柄選定
三つ目の強みは、株主還元と資本効率を意識した銘柄選定です。
上位30銘柄のほぼ全てが、配当の引き上げ、自社株買いの実施など、株主還元に積極的な企業です。これは、日本企業全体のGG資本主義からの脱却の流れの中で、変革を主導している企業群です。
こうした企業は、長期的に株主価値の向上に貢献する可能性が高い、と評価できます。
弱み1: 大型株偏重による「テンバーガー」の難しさ
一方で、現在のポートフォリオの弱みは、大型株偏重による「テンバーガー(株価10倍)」の獲得の難しさです。
時価総額5兆円以上の超大型株が59.52%を占める構成では、ポートフォリオ全体としての高リターン獲得は構造的に難しくなります。トヨタや三菱UFJのような巨大企業が、5年で株価2倍になることはあっても、10倍になることはまずありません。
ひふみ投信が、伝統的に強みとしてきた「テンバーガーを生み出す中小型成長株への投資」は、ポートフォリオの末端(31位以下)でしか発揮しにくい構造になっています。これは、運用資産の拡大に伴う必然的な変化ではありますが、運用上のチャレンジでもあります。
弱み2: グロース市場銘柄ゼロという特徴
二つ目の弱みは、グロース市場銘柄の組み入れが0%という、現状の構成です。
東証グロース市場は、新興のスタートアップ企業が上場する市場で、ハイリスク・ハイリターンの世界です。藤野氏のような目利きのファンドマネージャーであれば、この市場で大きな価値を見出せる可能性があります。
しかし、現状のポートフォリオには、グロース市場銘柄が組み入れられていません。これは、運用資産の規模を考えると、グロース市場の銘柄では十分な投資ができないという、運用上の制約もあるでしょう。
「ひふみマイクロスコープpro」など、別のファンドでこの領域をカバーする戦略を取っているのかもしれません。
弱み3: 海外株比率0%という制約
三つ目の弱みは、現在のひふみ投信本体に海外株が組み入れられていない点です。
世界の経済成長は、新興国や米国のテック企業など、日本以外のところで起きている部分も大きい。米国の主要なテック企業(NVIDIA、マイクロソフト、アップル、グーグル、メタ、アマゾン)は、世界経済の中で圧倒的なプレゼンスを持っています。
ひふみ投信本体には、これらの海外企業が組み入れられていません。これは、「ひふみワールド」など別のファンドで対応する戦略ですが、ひふみ投信単独で見ると、グローバルな成長機会の取り込みは限定的です。
「強みと弱みのトレードオフ」
これらの強みと弱みは、独立して存在しているのではなく、トレードオフの関係にあります。
セクター分散のバランスを保つには、大型優良株中心になる。大型優良株中心だと、テンバーガーは難しい。日本企業中心だと、グローバル成長機会の一部を逃す。逆に、すべてを取りに行こうとすると、運用が散漫になる。
ひふみ投信は、こうしたトレードオフの中で、現時点で最適と考える構成を選んでいます。これが本当に最適かどうかは、今後のパフォーマンスで証明されることになります。
私の総合評価
総合的に評価すると、ひふみ投信のポートフォリオは「成熟期に入ったアクティブファンドの典型例」と言えるでしょう。
設立当初の中小型成長株への集中投資から、運用資産の拡大に伴って、大型優良株中心のバランス型ポートフォリオへと進化してきました。これは、運用上の必然であり、決して悪いことではありません。
ただし、これにより、ひふみ投信の特徴は「テンバーガーで一発逆転」ではなく、「市場平均を着実に上回る長期投資」へとシフトしています。これは、お客様にとっても、自分の期待値を調整すべき重要な変化です。
第四十六章 AI時代におけるひふみ投信ポートフォリオの意味
AIブームと半導体関連銘柄
2022年末のChatGPT登場以降、世界はAI時代へと突入しました。NVIDIA、TSMC、サムスン電子、SKハイニックス、こうした半導体関連企業の時価総額が爆発的に拡大し、AI関連投資が世界の株式市場の中心テーマとなっています。
ひふみ投信のポートフォリオを、このAI時代の視点で見直してみると、いくつかの興味深いポイントが浮かび上がってきます。
まず、ひふみ投信は日本国内のAI半導体関連エコシステムに、しっかりと投資しています。東京エレクトロン(17位、2.10%)、ディスコ(18位、2.05%)、HOYA(22位、1.78%)、住友電気工業(12位、2.53%)、村田製作所(30位、1.29%)。これらは、AI半導体の製造に不可欠な装置・材料・部品を提供する企業群です。
藤野氏が「日本の素材・部品力」を信じているのは、AI時代の到来によって、この強みがより明確になってきたからでしょう。最終チップを作るのは台湾TSMCや韓国サムスンかもしれませんが、それを作るために必要な装置・材料・部品の多くは、日本企業が世界トップシェアを握っています。
「AIインフラ」への投資
AI時代に重要なのは、AIそのものを作る企業だけではありません。AIを動かすためのインフラ全体が、構造的な需要拡大を迎えます。
データセンターの建設(鹿島建設をはじめとするゼネコン)、データセンターの電力供給(電力会社、再生可能エネルギー事業者)、データセンター間の通信(NEC、住友電気工業の海底ケーブル)、データセンター内の自動化(ダイフクの物流自動化)、データセンターの安全管理(セコム)。
ひふみ投信のポートフォリオは、こうした「AIインフラ」を支える企業群にも、しっかりと投資しています。これは、藤野氏が「AI時代のインフラ価値」を見抜いて、長期視点で投資を組み立てていることの表れです。
「AIに代替されない」企業への注目
藤野氏が月次レポート(2026年3月度)で言及しているのが、AIによる代替懸念で売られたITセクターの中でも「インフラ」価値を持つ企業を見直す動きです。
GMOペイメントゲートウェイは、その典型例として詳しく紹介されています。決済インフラの提供者であり、AIに代替されにくい構造を持つ企業です。同社の事業は、AIエージェントが普及した時代にも、決済処理という不可欠な機能を提供し続けます。
このように、AI時代の投資判断では、「AIで置き換えられる企業」と「AIで強化される企業」を見分ける目が決定的に重要になります。藤野氏のポートフォリオは、後者を中心に構成されているわけです。
「日本企業のAI活用」というテーマ
もう一つの視点が、「日本企業のAI活用」というテーマです。
トヨタ自動車(自動運転、製造ラインの自動化)、ソニーグループ(イメージセンサーのAI活用、エンタメコンテンツの生成AI活用)、富士通、NEC(AIサービス事業)、こうした企業は、自社の事業にAIを取り込むことで、競争力を高めようとしています。
AIは「使う側」と「使われる側」に分かれます。ひふみ投信は、AIを「使う側」、つまりAIを活用して事業を強化できる日本企業に投資することで、AI時代の恩恵を取り込もうとしているわけです。
「AI時代の二極化」への対応
AI時代には、企業の二極化が進むと予想されます。AIを活用して生産性を飛躍的に高める企業と、AIに置き換えられて衰退する企業。同じ業界の中でも、勝者と敗者がより明確に分かれていく。
藤野氏が、業界全体ではなく「業界のトップ企業」「変化する企業」を選別しているのは、こうした二極化を見越してのことでしょう。AI時代の勝者を選び、敗者を避ける。これがアクティブ運用の真価が問われる時代です。
第四十七章 個人投資家が陥りがちな誤解と注意点
「ひふみ投信の銘柄を真似ればいい」という誤解
ここまで上位30銘柄を詳しく見てきたことで、「同じ銘柄を自分も買えばいい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。
理由はいくつかあります。
第一に、月次レポートで開示されるのは月末時点の保有状況です。レポート発行時(翌月以降)には、すでにポートフォリオは変化している可能性があります。藤野氏たちは、市場環境に応じて機動的に売買していますから、「先月末の上位30銘柄」は今や保有量が減っているかもしれませんし、新たに大量に買っているかもしれません。
第二に、71銘柄に分散投資し続けるには、相当な資金量と管理労力が必要です。一般的な個人投資家が同じ構成を維持するのは、現実的に困難です。
第三に、ひふみ投信の組入比率(例:伊藤忠商事5.96%)は、71銘柄全体に対する比率です。仮に資金を11位以下に分散する場合、それぞれの組入比率はさらに小さくなります。これを個人で完全に再現するのは、ほぼ不可能です。
「上位銘柄=確実に上がる」という誤解
「ひふみ投信が上位に組み入れている銘柄は、必ず上がる」という誤解も、よく見られます。
実際には、藤野氏たちが選んだ銘柄でも、短期的に下落することは頻繁にあります。2026年3月度のひふみ投信が前月比マイナス11.86%だったことが示すように、市場全体が暴落する局面では、選び抜かれた銘柄であっても下落します。
長期的に見れば、こうした優良企業群は市場平均を上回る傾向にありますが、それは「平均的に」「長期で見れば」という条件付きです。個別銘柄レベルで見れば、想定外の下落もあれば、長期的にも回復しないケースもあり得ます。
「同じ銘柄=同じパフォーマンス」という誤解
「ひふみ投信の上位30銘柄を全部買えば、ひふみ投信と同じパフォーマンスになる」という誤解もあります。
実際には、ひふみ投信のパフォーマンスは、上位30銘柄だけでなく、31位以下の41銘柄も含めた71銘柄全体の合計と、現金比率、機動的な売買タイミング、これらすべての組み合わせで決まります。
個人投資家が上位30銘柄だけを真似ても、同じパフォーマンスにはなりません。むしろ、運用チームが機動的に行う売買のリズムがズレることで、結果的に劣ったパフォーマンスになる可能性が高いでしょう。
「ファンドマネージャーは万能」という誤解
藤野氏や運用チームへの過度な信頼も、注意が必要です。藤野氏たちは経験豊富な優秀な運用者ですが、未来を完全に予測できる「神」ではありません。
過去のひふみ投信のパフォーマンスを見ても、長期的にはTOPIXを上回っていますが、5年や10年の中期で見るとTOPIXに劣後する局面もあります。市場環境やテーマの変化により、誰でも一時的にパフォーマンスを落とすことはあるのです。
「藤野さんが買っているから大丈夫」という思考停止は、藤野氏自身が最も嫌う「主体性のない投資」です。藤野氏のポートフォリオから学びつつも、最終的な投資判断は自分で行う、という姿勢が大事です。
「投資=ひふみ投信を買うこと」という誤解
ひふみ投信は優れたアクティブファンドの一つですが、「投資の選択肢はひふみ投信だけではない」という当たり前の事実も、忘れてはいけません。
低コストのインデックスファンド、他のアクティブファンド、個別株、ETF、債券、不動産投資信託(REIT)。多様な選択肢の中から、自分の状況に合った組み合わせを選ぶことが、賢明な投資のあり方です。
藤野氏自身も、決して「ひふみ投信だけを買え」とは言いません。むしろ、お客様の多様なニーズに応えるために、複数のファンドシリーズを揃えています。投資する側も、複数の選択肢を組み合わせて、自分のポートフォリオを設計するべきです。
注意点1: 短期売買の罠
ひふみ投信は長期投資を前提とした商品です。短期で売買すると、その本来の価値を活かせません。
新NISA制度では非課税枠の再利用が可能ですが、頻繁な売買はコストとリスクの両面でデメリットがあります。一度買ったら、最低でも3〜5年、できれば10年以上の保有を前提とすべきです。
注意点2: ドルコスト平均法の活用
長期投資では、一括投資よりも積立投資(ドルコスト平均法)の方が、心理的にも実利的にも有効な場合が多いです。
毎月一定額を積み立てることで、市場が下がっているときには多く買い、上がっているときには少なく買う、という形で平均購入価格を抑える効果があります。
ひふみ投信も、つみたて投資枠の対象です。毎月の積立を活用することで、感情的な売買を避けながら、長期的に資産を積み上げることができます。
注意点3: 「卵を一つのカゴに盛らない」
最後に、ひふみ投信だけに資産を集中させないことも大切です。
どんなに優れたファンドでも、リスクはゼロではありません。運用会社の破綻、運用方針の急変、主要運用者の離脱など、想定外の事態も起こり得ます。
複数のファンド、複数の資産クラスに分散することで、こうしたファンド固有のリスクを軽減できます。これも、長期投資の基本原則です。
第四十八章 米国投資家から見た日本株ポートフォリオの位置づけ
グローバル視点での日本株評価
ひふみ投信は、ほぼ100%日本株で構成されているファンドです。これを、グローバルな視点、特に米国の投資家から見たら、どう評価されるでしょうか。
実は、近年、海外投資家による日本株への注目度は急速に高まっています。理由はいくつかあります。
第一に、コーポレートガバナンス改革の進展です。東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請、株主還元の強化、こうした動きが、日本株の魅力を高めています。
第二に、米国株の高バリュエーション懸念です。米国の主要なテック企業の株価は、過去数年で大きく上昇しました。これにより、PERなどの評価指標で見ると、米国株は割高な水準にあります。一方、日本株は依然として割安感があり、相対的に魅力的です。
第三に、地政学的な観点です。米中対立の激化、台湾有事の懸念、こうした中で、地政学的に比較的安定した日本市場への注目が高まっています。
第四に、ウォーレン・バフェットの日本商社への投資です。世界最高の投資家が日本企業を保有していることが、海外投資家の日本株への関心を一気に高めました。
バフェットと藤野氏のポートフォリオの共通点
興味深いのは、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの日本投資先と、藤野氏のひふみ投信のトップ銘柄に重なりがあることです。
バフェットは、五大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事)の全てに投資しています。一方、ひふみ投信は、伊藤忠商事、丸紅、三井物産の3社を上位に保有しています。
両者は、独自の投資判断の結果として、同じ日本の総合商社に投資しているわけです。これは、両者がそれぞれ独立して、日本の総合商社の本質的な価値を見抜いた結果と解釈できます。
日本市場の特殊性
ただし、日本市場には特殊な側面もあります。
第一に、外国人投資家の影響力です。日本株市場では、外国人投資家の取引比率が60〜70%を占めると言われます。これは、海外の動向や為替の動きが、日本株に大きな影響を与えることを意味します。
第二に、日本企業特有のガバナンス構造です。長年続いてきた「持ち合い株」の解消が進んでいますが、まだ完全には消えていません。これは、株主の議決権行使の効果を限定する場合があります。
第三に、株主との対話の文化です。米国企業ほど、株主との対話が活発に行われていない企業もまだあります。藤野氏がGG資本主義からの脱却を提唱してきたのも、こうした構造的課題への問題提起でした。
「ガバナンス改革プレミアム」
近年、注目されているのが「ガバナンス改革プレミアム」という概念です。
長年、日本企業は「コーポレートガバナンスが弱い」「資本効率が低い」「株主還元が消極的」という評価を受け、グローバルな企業と比較してバリュエーション(PBR、PERなど)が低く抑えられてきました。
しかし、近年のガバナンス改革により、この「ディスカウント」が「プレミアム」へと変わりつつあります。改革を進める企業は、構造的に株価が見直される可能性があるわけです。
藤野氏のポートフォリオは、こうしたガバナンス改革を進める企業を中心に構成されています。これは、グローバルな視点でも合理的な投資戦略です。
為替の影響
海外投資家が日本株を見るとき、為替の影響も大きな要素となります。
円高局面では、ドル建てで見た日本株のリターンが拡大します。円安局面では、ドル建てリターンが縮小します。
ただし、日本の輸出企業や海外展開企業にとっては、円安は業績にプラスの影響を与えます。これは、株価の上昇要因となります。
ひふみ投信のポートフォリオには、グローバル展開する企業が多く含まれているため、為替の影響を多面的に受ける構造になっています。これは、為替リスクをある程度ヘッジする効果もあります。
グローバル分散の必要性
ひふみ投信本体は日本株中心ですが、藤野氏のグループ全体としては、海外株への投資も積極化しています。「ひふみワールド」「ひふみクロスオーバーpro」など、海外株を含む商品ラインナップが拡充されています。
個人投資家も、ひふみ投信だけでなく、グローバル分散を意識すべきです。日本株への集中は、地政学的リスク、人口減少リスク、経済停滞リスクなどを抱え込みます。世界全体に分散することで、こうしたリスクを軽減できます。
第四十九章 アクティブvsインデックス論争の中での位置づけ
世界的な議論
投資の世界では、長年「アクティブファンドとインデックスファンド、どちらが優れているか」という議論が続いています。
インデックスファンド派の主張は、シンプルです。第一に、長期的に見ると、アクティブファンドの大半はインデックスファンドの成績を下回る。第二に、アクティブファンドのコストは高く、長期で大きな差になる。第三に、市場は概ね効率的であり、市場全体を買う方が合理的だ。
これらの主張は、ジョン・C・ボーグル(バンガード創業者)、バートン・マルキール、ウィリアム・シャープといった経済学者・実務家によって長年支持されてきました。実際、米国の主要なアクティブファンドの大半が、S&P500を長期で下回るというデータも、しばしば示されます。
ひふみ投信の立ち位置
藤野氏は、当然ながらアクティブ運用の側に立っています。しかし、藤野氏のスタンスは、単純な「アクティブ礼賛」ではありません。
藤野氏は、初心者にはインデックスファンドからの投資を勧めることもあります。そして、投資について学び、自分の判断力が育ってきたら、一部をアクティブファンドに振り分けてもいい、というスタンスです。
つまり、両者は対立するものではなく、組み合わせて使うべきツールだ、というのが藤野氏の見方です。
「すべてがインデックス」になった世界への懸念
藤野氏が懸念しているのが、「すべての投資家がインデックスファンドを買う未来」です。
仮にすべての投資家がインデックスファンドを買うようになると、個別企業への目利きが社会から失われます。すると、企業に対する規律が働かなくなり、株式市場の価格発見機能が損なわれます。
アクティブ運用者がいるからこそ、企業に対する選別圧力が働き、より良い企業に資金が集まり、悪い企業は淘汰される、というメカニズムが機能します。これは、健全な資本市場の基盤です。
つまり、アクティブ運用は、運用業界としてだけでなく、社会全体としても必要な機能なのです。藤野氏が「ひふみ投信」を運用し続けているのは、お客様のリターンを追求するためであると同時に、日本市場の健全性を保つ社会的な役割を果たすためでもあります。
ひふみ投信のパフォーマンス評価
ここで、ひふみ投信の長期パフォーマンスを、改めて評価してみましょう。
設定来(2008年10月〜2026年3月)のリターンは、ひふみ投信が約803%、TOPIXが約375%です。この17年半の期間で、ひふみ投信はTOPIXを大きく上回っています。
これは、アクティブ運用が「機能した」典型例です。優れた運用チームが、長期にわたって市場平均を上回るリターンを生み出してきた、という実績です。
ただし、近年の中期パフォーマンス(5年、10年)では、ひふみ投信はTOPIXに劣後しています。これは、アクティブ運用が常に勝ち続けるわけではないことを示しています。
「期間とパフォーマンス」の関係
長期投資の哲学を理解するうえで、重要な視点が「期間とパフォーマンス」の関係です。
ひふみ投信を1年だけ持っていた人と、5年持っていた人と、10年持っていた人と、設定来(17年半)ずっと持っていた人では、それぞれパフォーマンスが異なります。
短期的には市場に負けることがあっても、長期で見れば市場を大きく上回る。これが、ひふみ投信の特徴です。これは、長期投資を貫く人にこそ報われる、という哲学を体現しています。
投資家の自己評価
アクティブvsインデックスの選択は、投資家自身の自己評価の問題でもあります。
「自分は市場平均で満足できる」「銘柄選別の手間をかけたくない」「コストを最小化したい」と思う人は、インデックスファンド中心の投資が適しています。
「市場平均を上回るリターンを目指したい」「優秀な運用者に資産を預けたい」「コミュニティとしての投資体験を求める」人は、アクティブファンドへの投資も検討すべきです。
藤野氏のようなアクティブファンドを選ぶときは、その運用者の哲学に共感できるかどうか、というのが重要な判断基準になります。哲学への共感がないと、短期の値動きで動揺してしまい、長期保有が難しくなるからです。
第五十章 ESG観点からの評価
ESG投資の潮流
近年、投資の世界では「ESG(環境・社会・ガバナンス)」が大きなテーマとなっています。環境配慮(Environment)、社会貢献(Social)、企業統治(Governance)の三つの観点から、企業を評価する考え方です。
世界の機関投資家は、ESG投資の比重を急速に高めています。年金基金、政府系ファンド、保険会社、こうした巨大な投資家が、ESG評価の高い企業に資金を振り向けるようになっています。
ひふみ投信のポートフォリオをESGで評価する
ひふみ投信のポートフォリオを、ESGの観点で見直してみましょう。
E(環境)の観点では、再生可能エネルギー事業(オリックス)、水素事業(川崎重工)、省エネ・電化関連(村田製作所、住友電気工業)、こうした企業が含まれています。これらは、カーボンニュートラルの流れに沿った企業群です。
一方で、トヨタ自動車(従来型の自動車製造)、総合商社(化石燃料への投資もある)など、必ずしも環境負荷が低くない企業も含まれています。ただし、これらの企業も、自社の脱炭素化を進めており、過渡期にある状況です。
S(社会)の観点では、医療・ヘルスケア関連(大塚ホールディングス、HOYA)、安全・安心(セコム)、公共インフラ(NEC、富士通)など、社会価値を生み出す企業が含まれています。
G(ガバナンス)の観点では、ひふみ投信のポートフォリオに含まれる多くの企業が、近年のガバナンス改革を主導しています。株主還元の積極化、社外取締役の活用、情報開示の強化、こうした取り組みが進んでいる企業群です。
「ESGスペシャリスト」ではない選別
ただし、ひふみ投信は「ESGスペシャリスト」ではありません。専門のESGファンドのように、ESG評価の高い銘柄だけを集めているわけではありません。
藤野氏のアプローチは、「経営者を見る、変化を見る、インフラ価値を見る」という総合的な投資哲学に基づいています。ESGは、その総合判断の一要素として組み込まれている、という位置付けです。
これは、ある意味では「現実主義的なESGアプローチ」とも言えます。完璧な企業だけを選ぶのではなく、変革を進める企業を応援する、というスタンスです。
「変革のリーダー」への投資としてのESG
藤野氏のアプローチで興味深いのは、ESG的に完璧な企業ではなく、「ESGの方向で変革を進める企業」を選んでいる点です。
トヨタ自動車は、まだガソリン車も大量に作っていますが、EVや水素車への投資を進めています。総合商社は、化石燃料事業もありますが、再生可能エネルギーや脱炭素ビジネスへの転換を進めています。電機メーカーは、省エネ製品やソリューションを開発し続けています。
こうした「変革のリーダー」に投資することは、社会全体のESG課題解決に貢献することにもつながります。これは、藤野氏が「ゆたかさの循環」と呼ぶ、社会と投資の好循環の一面でもあります。
「投資先企業のエンゲージメント」
藤野氏のレオス・キャピタルワークスは、投資先企業とのエンゲージメント(対話)も大切にしています。
機関投資家として議決権行使を行うだけでなく、経営者と直接対話し、企業価値向上のための提案を行う。これは、株主としての受動的な存在ではなく、能動的な伴走者としての役割です。
こうしたエンゲージメントを通じて、投資先企業のESG面での改善を促す効果もあります。長期投資家として、企業の長期的な持続可能性を高めることに貢献している、と言えるでしょう。
個人投資家にとってのESG
個人投資家にとって、ESG投資はどんな意味を持つでしょうか。
第一に、「自分の価値観に合った投資をする」という意味があります。環境問題に関心がある、社会課題の解決に貢献したい、と思う人は、ESG重視のファンドを選ぶことで、自分の資産を価値観と一致させることができます。
第二に、「長期的なリスク管理」という意味もあります。ESG課題に対応できない企業は、長期的には規制リスク、評判リスク、訴訟リスクなどを抱え込みます。ESGに配慮した投資は、こうしたリスクを軽減する効果があります。
第三に、「リターンへの期待」もあります。ESGに優れた企業は、長期的には業績も良い、というデータも徐々に蓄積されています。
藤野氏のひふみ投信は、ESG専門ファンドではありませんが、結果的にESGに配慮した投資となっていると評価できます。これは、藤野氏の総合的な投資哲学が、持続可能な企業価値創出と整合的だからです。
第五十一章 過去の有名保有銘柄の入れ替わりに見るひふみ投信の進化
10年前のひふみ投信
ひふみ投信のポートフォリオは、時代とともに大きく入れ替わってきました。10年前と現在では、保有銘柄の顔ぶれは劇的に異なります。
2015〜2016年頃のひふみ投信のポートフォリオには、ニトリホールディングス、寺岡製作所、ユニ・チャーム、ピジョン、ホシザキ、ハーモニック・ドライブ・システムズ、神戸物産、ジャパンマテリアル、ジャストシステム、デクセリアルズなど、当時注目されていた中小型成長株が並んでいました。
これらの銘柄は、それぞれが特定の分野で独自の競争優位を持ち、長期的な成長性が期待される企業群でした。
「ワークマン」「北の達人」「MonotaRO」の時代
2017〜2019年頃には、ワークマン、北の達人コーポレーション、MonotaROといった、強烈な成長性を見せる企業が、ひふみ投信のポートフォリオで注目を集めました。
特にワークマンは、職人向けの作業服から、機能性カジュアルウェアへと業態を進化させ、株価が数倍に上昇しました。ひふみ投信がこの変革を早期に捉え、大きなリターンを生み出した代表例です。
北の達人コーポレーションは、北海道発の通販企業として、急成長期にひふみ投信が保有した銘柄です。MonotaROは、製造業向け工具のEコマースで、構造的な成長を続けた銘柄です。
これらは、いずれも「中小型成長株への投資」というひふみ投信の伝統的な強みを発揮した事例です。
「カンブリア宮殿効果」と運用資産の拡大
2017年5月にテレビ番組「カンブリア宮殿」でひふみ投信が特集されて以降、運用資産は急速に拡大しました。これにより、ひふみ投信のポートフォリオも変化を余儀なくされました。
中小型株中心では、資金量を消化しきれなくなったのです。1兆円規模の資金を、時価総額の小さい企業に投じようとすると、自分自身の買いで株価が大きく上がってしまう、というマーケットインパクト問題が生じます。
そこで、ひふみ投信は徐々に大型株への配分を増やしていきました。トヨタ自動車、ソニーグループ、メガバンクなど、流動性の高い大型株が、ポートフォリオの中核を占めるようになりました。
「2026年3月」と過去の比較
現在(2026年3月時点)のポートフォリオを、10年前と比較すると、構成の変化は劇的です。
10年前は、時価総額1,000億円〜1兆円の中堅企業が中心でした。現在は、時価総額5兆円以上の超大型企業が約6割を占めます。
10年前は、消費財、ヘルスケア、産業機器などのセクター分散でした。現在は、半導体関連、総合商社、金融、輸送機器などが中心です。
10年前は、まだ知名度の低い「隠れた優良企業」を発掘するスタイルが目立ちました。現在は、世界的に知られた日本の大企業が中心です。
これは、ひふみ投信が「ベンチャー的なファンド」から「日本の代表的なアクティブファンド」へと成熟した過程を示しています。
「進化するファンド」としての意味
こうした変化を、どう評価すべきでしょうか。
ネガティブな見方をすれば、「ひふみ投信は変わってしまった」「昔のような中小型株への大胆な投資ができなくなった」と言えます。実際、近年のパフォーマンスがTOPIXに劣後している局面もあり、「成長性が落ちた」という批判も聞こえます。
ポジティブな見方をすれば、「ひふみ投信は進化した」「より多くのお客様に対応できる総合的なファンドになった」と言えます。1兆円規模の資金を運用しながら、日本企業全体の変革を支援する役割を果たしている、というポジションです。
藤野氏自身は、この変化を「成長企業を選別する」という基本姿勢の延長線上に位置付けています。中小型から大型へとシフトしたのではなく、企業の大小に関わらず成長企業を選ぶ、という哲学が貫かれている、というのです。
個別銘柄の盛衰
過去のひふみ投信が保有していた銘柄の中には、その後大きく成長したものもあれば、失速したものもあります。
ワークマンは、2019年以降も成長を続けましたが、近年は成長スピードが鈍化しています。北の達人は、業績変動が大きく、ポートフォリオでの位置も変動してきました。MonotaROは、構造的な成長は続いていますが、株価のボラティリティは大きいです。
藤野氏たちが、こうした個別銘柄のリスクを認識しながら、ポートフォリオ全体としてバランスを取り続けている。これが、長期パフォーマンスを支える運用力の源泉です。
第五十二章 31位以下の銘柄群を推測する
月次レポートで開示されない領域
ひふみ投信は71銘柄に投資していますが、月次レポートで個別に開示されているのは上位30銘柄のみです。残りの41銘柄については、年1〜2回の運用報告書で開示される形になります。
ここでは、過去のひふみ投信の保有銘柄や、藤野氏の投資哲学から、31位以下にどのような銘柄が含まれている可能性があるかを推測してみましょう(あくまで推測であり、確定情報ではありません)。
中小型成長株の領域
藤野氏が伝統的に強みを持つ「中小型成長株」は、31位以下の銘柄群の中心を占めると考えられます。
時価総額1,000億円〜5,000億円程度の中堅企業で、各業界で独自のポジションを持ち、構造的な成長が期待される企業群です。
過去のひふみ投信の保有銘柄から推測すると、ヘルスケア関連(医療機器、創薬関連)、ITサービス(SaaS、システム開発)、消費財(食品、化粧品、外食)、産業機器(工作機械、精密機器)、エネルギー関連(再生可能エネルギー、省エネ)など、多様な業種にわたる中堅企業が含まれていると思われます。
「テンバーガー候補」の領域
ひふみ投信は、「テンバーガー(株価10倍)」を狙う中小型株への投資も続けていると考えられます。
時価総額数百億円〜1,000億円程度の若い企業で、独自のビジネスモデルや技術を持ち、市場の構造変化の中で急成長する可能性のある企業群です。
これは、ハイリスク・ハイリターンの世界ですが、ファンド全体に対する組入比率は0.5〜1%程度に抑えることで、リスク管理を行っていると推測されます。
スタンダード市場の銘柄
ひふみ投信マザーファンドの市場別比率を見ると、東証スタンダード市場が0.98%を占めています。これは、上位30銘柄(プライム市場96.58%)以外の銘柄の中に、スタンダード市場の銘柄が含まれていることを示しています。
スタンダード市場は、プライム市場ほどの規模はないものの、長期的に成長する企業も多く含まれる市場です。藤野氏は、こうした「光の当たりにくい市場」からも、優良企業を発掘しているのでしょう。
「テーマ性のある銘柄」の領域
藤野氏が時折言及する「テーマ性のある銘柄」も、31位以下に含まれている可能性があります。
例えば、防衛関連(川崎重工や三菱重工の他にも防衛装備品メーカーがあります)、宇宙関連、AI関連、自動運転関連、再生可能エネルギー関連、医療技術関連、こうした特定テーマで競争優位を持つ企業群です。
ただし、藤野氏のアプローチは、「テーマだけで選ぶ」のではなく、「テーマの中で本当に強い企業を選ぶ」というものです。流行のテーマだから買うのではなく、テーマの中で構造的に強い企業を選別する。これが藤野氏のスタイルです。
「地方の優良企業」の領域
ひふみ投信が、伝統的に強みとしてきたのが「地方の優良企業」の発掘です。東京に本社を置く知名度の高い企業ではなく、地方に本社を置きながら全国・世界で活躍する優良企業を見つける、というアプローチです。
過去のひふみ投信のポートフォリオには、神戸物産(兵庫)、北の達人(北海道)、ワークマン(群馬)など、地方発の優良企業が多く含まれてきました。
現在の31位以下にも、こうした地方優良企業が含まれている可能性が高いです。藤野氏は富山県出身でもあり、地方企業への思い入れも強い人物です。
「サービス業」の領域
業種別比率を見ると、サービス業は1.76%です。上位30銘柄の中ではセコム(23位、1.76%)がほぼ全てを占めています。
しかし、サービス業は幅広い業種であり、外食、人材サービス、教育、ITサービス、コンサルティング、レジャー、こうした多様な業態を含みます。31位以下に、こうしたサービス業の中小型銘柄が含まれている可能性があります。
「食料品」「化学」「医薬品」など多様な業種
業種別比率の中で、食料品(1.30%)、化学(1.19%)、ガラス・土石製品(0.62%)、ゴム製品(0.49%)、鉱業(0.45%)など、相対的に小さい比率を占める業種があります。これらの業種は、上位30銘柄にはあまり含まれていないため、31位以下に分散投資されていると考えられます。
特に医薬品(1.51%、大塚ホールディングス1社で占める)、食料品、化学などは、生活必需品やヘルスケアといった、景気変動に強いディフェンシブセクターでもあります。ポートフォリオ全体のリスク管理として、こうしたセクターに分散していることは合理的です。
第五十三章 ひふみ投信ポートフォリオが映す日本企業の変革史
「失われた30年」と「目覚めた日本」
ひふみ投信が運用を開始した2008年から現在までの17年半は、日本企業にとって極めて重要な変革期でした。
リーマン・ショック後の世界経済の混乱、東日本大震災、円高デフレの長期化、アベノミクスによる金融緩和、コーポレートガバナンス改革、コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争、インフレへの転換、AI時代の到来。これらすべてが、日本企業に大きな影響を与えてきました。
藤野氏のひふみ投信のポートフォリオは、こうした時代の変化を、企業選別という形で記録してきました。ある意味、ひふみ投信のポートフォリオ変遷史は、「日本企業の変革史」の縮図でもあります。
「時代を映す鏡」としてのポートフォリオ
例えば、2010年代前半のひふみ投信のポートフォリオは、円高デフレ時代の「内需型・成長型」の企業が中心でした。ニトリ、ユニ・チャーム、ピジョン、ワークマンなど、国内市場で独自のビジネスモデルを確立した企業群です。
2010年代後半は、グローバル展開を進める企業や、新たな技術領域で勝負する企業が増えました。MonotaRO、ハーモニック・ドライブ・システムズなど、グローバルなニッチトップ企業です。
2020年代に入ると、コーポレートガバナンス改革と株主還元の進展により、伝統的な大企業も投資対象として魅力を取り戻しました。総合商社、メガバンク、自動車、これらの「眠れる巨人」がひふみ投信のポートフォリオに帰ってきたのです。
2026年現在は、AI時代と防衛強化の流れの中で、半導体関連、重工業、IT企業のインフラ価値が再評価される段階にあります。
「ひふみ投信が見てきた日本」
ひふみ投信のポートフォリオを通じて、私たちは「藤野氏が見てきた日本」を読み解くことができます。
藤野氏は、日本経済の停滞期にあっても、常に「変化の兆し」を探し続けてきました。新しい消費トレンド、新しい技術、新しい経営者、新しい産業構造、こうした変化の中で、勝者になる企業を選別してきました。
その目利きの結果が、ひふみ投信のポートフォリオに記録されているわけです。これは、単なる投資情報を超えて、「日本企業の進化の記録」としての価値も持ちます。
過去から未来への連続性
そして、今のポートフォリオは、過去から未来への連続性を持っています。
過去に保有していた企業の中で、その後さらに成長したものもあれば、伸び悩んだものもあります。藤野氏たちは、こうした経験から学び続け、ポートフォリオを進化させてきました。
現在のポートフォリオも、永久不変ではありません。今後の数年で、市場環境や個別企業の状況に応じて、入れ替わっていくでしょう。新しい銘柄が組み入れられ、現在の保有銘柄の一部は売却されるかもしれません。
これは、生きた運用の姿です。ファンドは、固定的な箱ではなく、動的に進化する生態系のような存在なのです。
第五十四章 上位30銘柄から見る「藤野哲学」の具体化
「経営者重視」の証拠
ここまで上位30銘柄を見てきて、強く感じるのは、藤野氏の哲学である「経営者重視」が、ポートフォリオの随所に体現されている、ということです。
月次レポートで藤野氏が個別企業について語る言葉の中には、必ず経営者についての言及があります。丸紅については「大本社長」の名前を挙げ、GMOペイメントゲートウェイについては「優秀な経営者が揃っている」と述べ、トヨタについては豊田章男氏が打ち出した「モビリティカンパニーへの変革」を評価しています。
これは、藤野氏が30年以上にわたって6500人以上の経営者と会ってきた経験の蓄積です。財務諸表だけでは分からない「経営者の質」を見抜く目が、銘柄選別の核心にあるわけです。
「変化率」を捉える選別眼
もう一つの哲学である「変化率」も、ポートフォリオに明確に表れています。
伊藤忠商事の資本効率改善、丸紅の注力事業の成長、トヨタのモビリティカンパニーへの変革、三菱地所の海外事業拡大、JR東日本の生活ソリューション事業への進化、富士通のITサービスへの構造改革、アシックスの業績復活、フジ・メディア・ホールディングスの構造改革、これらすべてが「変化している企業」です。
藤野氏は、現在の状態ではなく、変化のベクトルと加速度を見ています。今は完璧でなくても、これから大きく変わる可能性のある企業を選ぶ。これが、ひふみ投信のリターン獲得の源泉です。
「インフラ価値」への投資
第三の哲学である「インフラ価値」も、ポートフォリオに濃厚に反映されています。
GMOペイメントゲートウェイ(決済)、JR東日本(交通・生活)、セコム(安全)、ダイフク(物流)、住友電気工業(通信、配線)、NEC(通信、認証)、富士通(IT)、東京エレクトロン(半導体製造)、HOYA(精密ガラス)、村田製作所(電子部品)、これらは現代社会のインフラを支える企業群です。
これらの企業は、目立たないけれども不可欠な存在で、強力な参入障壁を持ちます。これは、長期的な競争優位の源泉となります。
「日本の未来を信じる」姿勢
最後に、ポートフォリオが体現しているのが「日本の未来を信じる」姿勢です。
ほぼ100%日本株で構成されたポートフォリオは、藤野氏の日本への信頼を象徴しています。多くの投資家が日本から資金を引き上げてきた時代にも、藤野氏は日本に留まり、日本企業の中に成長機会を見つけ続けてきました。
そして今、その信念が報われる時代が来ようとしています。日本の構造変革、コーポレートガバナンス改革、株主還元の進展、AI・半導体ブーム、地政学的な日本市場への注目。これらが重なって、日本株は新たな成長フェーズに入っています。
藤野氏のポートフォリオは、この「日本の未来」を信じる人にとって、極めて魅力的な投資先となっているわけです。
第五十五章 ひふみ投信が見落とした(かもしれない)銘柄
公平な評価のために
公平な分析のために、ひふみ投信が「見落とした」あるいは「組み入れていない」銘柄についても考えてみましょう。すべての優良企業をひふみ投信が捉えているわけではありません。
これは、ファンドのスタイルや運用上の制約から来る、当然の選別の結果です。批判するためではなく、ポートフォリオの特性を立体的に理解するための分析です。
キーエンス、ファーストリテイリングの不在
注目すべきは、日本を代表する超優良企業として知られるキーエンス(6861)とファーストリテイリング(9983)が、上位30銘柄に含まれていない点です(本記事執筆時点)。
キーエンスは、センサーや測定機器で世界トップシェアを誇り、極めて高い利益率(営業利益率50%超)を維持する企業です。長年、日本の高収益企業のトップとして知られてきました。
ファーストリテイリングは、ユニクロ、GU、セオリーなどを展開するアパレル大手で、グローバル展開を加速させています。日本の小売業の中で、世界に通用する数少ない企業です。
両社とも、藤野氏が好む条件(優れた経営者、長期成長性、グローバル展開、高い資本効率)を備えています。にもかかわらず、ひふみ投信の上位に組み入れられていないのには、いくつかの理由が考えられます。
「すでに高評価」の銘柄を避ける
第一の理由として考えられるのは、これらの企業がすでに市場で高く評価されており、PERなどのバリュエーション指標が割高な水準にある、という点です。
藤野氏のアプローチは、「これから大きく変わる企業」を見つけることです。すでに完璧と評価されている企業よりも、変化の余地が大きい企業を選ぶ傾向があります。キーエンスやファーストリテイリングは、すでにその完璧さが評価されており、追加のアップサイドが限定的、と判断されているのかもしれません。
サイクル性の高い半導体最終製品メーカーの不在
もう一つ注目されるのは、半導体関連で「最終製品」を作る企業の組み入れが少ない点です。
レーザーテック(精密装置)、ソシオネクスト(SoC設計)、ルネサスエレクトロニクス(半導体)、こうした企業は上位30には含まれていません。これは、これらの企業がサイクル性(好不況の波)が大きく、長期投資のスタイルに必ずしも合わない、という判断かもしれません。
海運株の不在
近年、海運株(日本郵船、商船三井、川崎汽船)も、コンテナ船運賃の急騰で大きく利益を伸ばしました。しかし、これらもひふみ投信の上位30には含まれていません。
海運業は、コンテナ船運賃のサイクルが激しく、業績の変動が極めて大きい業界です。長期投資には不向きな側面があるため、組み入れていないのかもしれません。
グロース市場の銘柄の不在
すでに述べたように、グロース市場の銘柄が0%という点も、現在のポートフォリオの特徴です。スタートアップから上場したばかりの企業や、まだ規模の小さいIPO企業など、ハイリスク・ハイリターンの世界はカバーされていません。
これは、運用資産1兆円規模のファンドとしては合理的な判断です。グロース市場の銘柄では、ファンドの規模に対して投資できる金額が限られすぎるためです。
「カバーしきれない」ことの誠実さ
藤野氏たちは、すべての銘柄をカバーすることは不可能だと、認識しているはずです。世界には何万社もの上場企業があり、その中から数十社を選ぶ作業には、必然的に「漏れ」があります。
重要なのは、自分のスタイルと運用資源に合った企業群に集中し、その範囲内で最大のリターンを生み出すことです。藤野氏のひふみ投信は、まさにこの「集中と選別」のバランスを取った運用を続けているわけです。
第五十六章 ポートフォリオを構築する際の実践的なヒント
ひふみ投信から学ぶ「ポートフォリオ構築術」
個人投資家が自分でポートフォリオを構築する際に、ひふみ投信のアプローチから学べることは多くあります。実践的なヒントを整理してみましょう。
ヒント1: 銘柄数を絞り込む
ひふみ投信は1兆円規模のファンドでも、71銘柄に絞っています。個人投資家が同じスタイルを取るなら、10〜20銘柄程度の集中投資が現実的です。
100銘柄を分散保有しても、それは実質的にインデックスに近づきます。アクティブ運用の意味は、選別の集中にあります。自分が本当に理解できる、本当に良いと思える企業を、10〜20社に絞り込む。これがアクティブ運用の基本です。
ヒント2: セクター分散を意識する
集中するといっても、特定セクターに集中するのはリスクです。半導体だけ、商社だけ、銀行だけ、こうした集中は、そのセクターが調整局面に入ったときに大きなダメージを受けます。
ひふみ投信のように、複数セクターに分散することで、リスクを軽減できます。10銘柄なら、3〜5セクターに分散することを意識すると良いでしょう。
ヒント3: 規模の異なる企業を混ぜる
ひふみ投信は、超大型株(時価総額5兆円以上)から中堅・中小型企業まで、規模の異なる企業を組み合わせています。
個人投資家も、大型優良株(安定性)、中型成長株(成長性)、小型新興株(高成長性)など、規模の異なる銘柄を組み合わせることで、リスクとリターンのバランスを取れます。
ヒント4: 株主還元を重視する
ひふみ投信のポートフォリオの多くは、株主還元に積極的な企業です。配当性向の高さ、自社株買いの実施、こうした要素を重視することで、長期的な株主価値を享受できます。
特に、減配しない企業、増配を続ける企業は、安定的なインカムゲインの源泉となります。
ヒント5: 「変化する企業」を探す
藤野氏の哲学である「変化率」を、自分の投資にも取り入れてみましょう。
決算説明会の資料を読む、中期経営計画をチェックする、経営者のメッセージを追跡する。こうした作業を通じて、企業が本気で変革を進めているかを判断します。
「今のまま」の企業よりも、「これから変わる」企業を選ぶことで、変化のリターンを取り込めます。
ヒント6: 長期で持ち続ける覚悟
最後に、最も重要なのが「長期で持ち続ける覚悟」です。
どんなに優れた銘柄でも、短期では大きく値下がりすることがあります。藤野氏のように、5年、10年、それ以上の長期視点で持ち続けることで、複利の力を最大限活用できます。
短期売買を続けると、コスト負担が増え、感情的な判断ミスも増えます。これは、長期パフォーマンスを毀損する最大の要因です。
「自分なりのポートフォリオ」を作る
これらのヒントを踏まえつつ、最終的には「自分なりのポートフォリオ」を作ることが大事です。
藤野氏のポートフォリオをそのまま真似るのではなく、自分のリスク許容度、投資期間、価値観、好みに合わせて、独自のポートフォリオを設計する。これが、本当の意味での「投資家みたいに生きる」ということです。
第五十七章 ひふみ投信を選ぶべき人、選ばない方が良い人
投資判断は人それぞれ
ひふみ投信は優れたファンドですが、すべての人に適しているわけではありません。投資判断は、その人の状況や価値観に依存します。
ここでは、ひふみ投信を選ぶべき人と、選ばない方が良い人の特徴を整理してみます。これは、参考情報として活用してください。
ひふみ投信を選ぶべき人
第一に、長期投資の覚悟がある人です。少なくとも5年、できれば10年以上の保有を前提とできる人。短期の値動きに動揺せず、ファンドの哲学を信じて長期保有できる人に、ひふみ投信は適しています。
第二に、アクティブ運用の価値を理解する人です。市場平均を上回るリターンを目指し、そのためのコスト(信託報酬)を払う覚悟がある人。インデックスファンドとは異なる「運用者の判断」に賭ける、というスタンスを取れる人です。
第三に、日本企業の未来を信じる人です。ひふみ投信は実質的にほぼ100%日本株のファンドですから、日本経済の長期的な成長性を信じる人に向いています。
第四に、藤野氏の哲学に共感する人です。「投資家みたいに生きる」「経営者重視」「変化率重視」「コミュニティとしての運用」、こうした藤野氏の世界観に共感できる人。投資を単なる金儲けではなく、人生哲学の一部として捉えられる人。
第五に、コミュニティ的なつながりを大切にする人です。月次レポート、運用報告会、YouTubeでの情報発信、こうした藤野氏たちとのコミュニケーションを楽しめる人。投資を孤独な作業ではなく、コミュニティの一員としての参加と捉えられる人。
ひふみ投信を選ばない方が良い人
逆に、ひふみ投信を選ばない方が良い人もいます。
第一に、短期で利益を出したい人です。デイトレードや短期売買で利益を出そうとする人には、ひふみ投信は適していません。むしろ、短期で売買すると、長期投資の哲学と乖離して、思うようなパフォーマンスを得られません。
第二に、コストを最小化したい人です。年率1%以上の信託報酬を払いたくない、低コストの投資だけしたい、という人には、インデックスファンドの方が合います。低コストインデックスは、年率0.1〜0.2%程度で運用できます。
第三に、グローバル分散を最優先する人です。日本株中心のひふみ投信よりも、世界全体に分散する全世界株式インデックスや、米国株中心のS&P500インデックスの方が、グローバル分散を求める人には適しています。
第四に、運用の透明性を最重視する人です。ひふみ投信は月次レポートで上位30銘柄を開示していますが、それでも全銘柄をリアルタイムで把握できるわけではありません。完全な透明性を求める人には、すべての銘柄が固定されているインデックスファンドの方が向いています。
第五に、藤野氏個人への過度な依存を避けたい人です。ひふみ投信は組織として運用されていますが、それでも藤野氏の存在感は大きい。仮に藤野氏が体調を崩したり引退したりした場合のリスクを考慮したい人には、より組織的なファンド運営の運用会社を選ぶ選択肢もあります。
「組み合わせ」という選択肢
これらの「選ぶべき人」「選ばない人」は、二者択一ではありません。実際には、ポートフォリオの一部にひふみ投信を組み入れ、残りを他の商品で構成する、という「組み合わせ」が現実的です。
例えば、コア部分(資産の70%)を低コストのインデックスファンド、サテライト部分(資産の20%)をひふみ投信などのアクティブファンド、残り10%を個別株、というポートフォリオ設計も可能です。これは「コア・サテライト戦略」と呼ばれる、現代的なアプローチです。
ひふみ投信は、こうした組み合わせの中で、アクティブ運用部分を担う商品として活用できます。
第五十八章 ひふみ投信の将来展望
「成熟期に入ったアクティブファンド」の課題
ひふみ投信は、運用開始から17年半が経過し、運用資産1兆円を超える成熟期のファンドとなっています。これからの数年、どのような展開が考えられるでしょうか。
成熟期のアクティブファンドが直面する課題は、いくつかあります。
第一の課題は、運用資産の拡大に伴う運用の難しさです。1兆円規模のファンドは、機動的な銘柄選別が中小型株主体の時代より難しくなります。これは、すでに大型株中心の構成に変化していることから明らかです。
第二の課題は、市場の効率化です。日本市場の機関投資家化、外国人投資家の増加、AIによる定量分析の普及により、市場の効率性は徐々に高まっています。これは、アクティブ運用が「市場の歪み」を見つけることを難しくします。
第三の課題は、藤野氏の存在感への依存です。藤野氏のカリスマ性は、ひふみ投信の強みでもあり、リスクでもあります。長期的には、藤野氏個人への依存度を下げ、組織的な運営力を高めていく必要があります。
「組織的なファンド運営」への進化
レオス・キャピタルワークスは、こうした課題に対して、組織的な運営力の強化を進めています。
複数の運用責任者(藤野氏、湯浅氏、高橋氏など)、専門の戦略部門(国内株、海外株、小型株)、経済調査室、アナリストチーム、こうした組織的な体制を整えることで、特定個人への依存を下げています。
また、運用プロセスの体系化、リスク管理の高度化、コンプライアンス強化など、機関投資家としての成熟も進んでいます。
「ひふみシリーズ」の拡張
藤野氏のグループ全体としては、ひふみ投信を超えた商品ラインナップの拡張を進めています。
ひふみワールド(海外株)、ひふみクロスオーバーpro(未上場と上場のクロスオーバー)、ひふみマイクロスコープpro(超小型株)、ひふみらいと(低リスク型)、まるごとひふみ(バランス型)、ひふみ年金(確定拠出年金)、これらの多様な商品群を通じて、お客様の様々なニーズに応えています。
これにより、ひふみ投信本体の運用の制約を、シリーズ全体でカバーする戦略です。
「投資文化を育てる」というミッションの継続
藤野氏のミッションである「日本の投資文化を育てる」という活動も、今後も継続していくでしょう。
YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」、書籍の出版、大学講義、講演活動、SNSでの情報発信。こうした多面的な活動を通じて、藤野氏は日本の投資文化の変革を続けています。
新NISA制度のスタートにより、多くの個人投資家が投資を始めるようになりました。藤野氏のようなオピニオンリーダーが、こうした新規参入者に正しい投資の哲学を伝え続けることは、日本の投資文化全体にとって極めて重要です。
「次世代運用者の育成」
長期的には、藤野氏の哲学を継承する「次世代運用者の育成」が、ひふみ投信の存続にとって決定的に重要です。
レオス・キャピタルワークスには、湯浅光裕氏、高橋亮氏、内藤誠氏、並木浩二氏、渡邉庄太氏など、多くの優秀な運用者が育っています。これらの次世代運用者が、藤野氏の哲学を継承しつつ、自分の独自性も発揮していく。これが、ひふみ投信の持続的な発展の鍵です。
藤野氏が「フジノさんのコピーになるな、ライバルになれ」と社員に伝えているのは、まさにこの次世代育成への意識の表れです。型にはまった画一的な運用者ではなく、それぞれが個性を持つ運用者が集まることで、組織として強くなる。これが藤野氏の組織観です。
第五十九章 ひふみ投信のポートフォリオが描く「2030年の日本」
5年先、10年先の日本企業
ひふみ投信のポートフォリオを通じて、藤野氏たちが見ている「2030年の日本」を読み解いてみましょう。
藤野氏が東洋経済オンラインなどで語っているように、藤井聡太氏や大谷翔平氏のような飛び抜けた才能が、これから日本企業の経営者の中からも現れる、という見立てです。中堅・中小企業の経営者の中から、世界に通用するリーダーが育つ。これが、藤野氏の長期的なシナリオです。
そして、こうした才能が活躍する場として、ひふみ投信のポートフォリオに含まれる企業群は重要な役割を果たします。総合商社のグローバルネットワーク、トヨタの世界的なポジション、ソニーのエンタメ・テクノロジー、こうした既存の強い企業が、新世代のリーダーとともに進化していく姿が描かれています。
「インフラ強化型」の日本
ひふみ投信のポートフォリオは、「インフラ強化型の日本」を描いているとも言えます。
GMOペイメントゲートウェイの決済インフラ、JR東日本の交通・生活インフラ、セコムの安全インフラ、ダイフクの物流インフラ、住友電気工業とNECの通信インフラ、東京エレクトロンとディスコの半導体製造インフラ、HOYAの精密ガラスインフラ、村田製作所の電子部品インフラ。
これらすべてが進化することで、日本社会の機能はより強固なものになります。インフラの強さは、長期的な経済の競争力の基盤となります。
「世界の中の日本」というポジション
2030年の日本は、世界の中でどんなポジションを占めているでしょうか。
藤野氏のポートフォリオが示唆するのは、「世界に貢献する素材・部品・装置の日本」というポジションです。最終製品では台湾、韓国、中国に競争で劣る面もあるけれど、その背後にある素材、部品、装置、インフラの分野では、依然として世界トップクラスの存在感を発揮する日本。
これは、人口減少という制約の中でも、日本が世界に対して提供できる独自の価値です。藤野氏は、この価値を信じ、これらの企業群への長期投資を続けているわけです。
「資本効率改革」の完成
2030年までに、日本企業の資本効率改革は、ある程度完成形に近づくでしょう。
PBR1倍超の達成、ROE10%以上の定着、配当性向の安定的な引き上げ、自社株買いの継続、こうした株主還元と資本効率改善の取り組みが、日本企業全体に定着している姿が想像されます。
ひふみ投信のポートフォリオに含まれる企業の多くは、この変革の先頭を走っています。これらの企業が、業界全体の変革をリードし続けることで、日本市場全体の評価が高まっていく可能性があります。
個人投資家の存在感の高まり
新NISA制度のスタート以降、個人投資家の存在感が日本市場で高まっています。2030年には、個人投資家の保有比率がさらに上昇し、市場の重要なプレイヤーとなっているでしょう。
これは、藤野氏が長年取り組んできた「投資文化の変革」が実を結ぶ姿でもあります。多くの個人投資家が、長期視点で日本企業に投資し、企業の成長を支える。この好循環が、2030年の日本市場の特徴となるでしょう。
ひふみ投信は、この個人投資家の動きの中で、重要な役割を果たし続けるはずです。
第六十章 終章 〜私たちはひふみ投信のポートフォリオから何を学べるか〜
「銘柄」を超えた「哲学」を学ぶ
本記事では、ひふみ投信の上位30銘柄を一つずつ丁寧に見てきました。しかし、本当に大事なのは、個別銘柄の情報そのものではありません。
大事なのは、これらの銘柄を選んだ藤野氏たちの「哲学」を理解し、自分の投資判断に活かすことです。
経営者を見る目、変化率を捉える眼、インフラ価値を見抜く洞察、長期視点を持つ忍耐力、コミュニティとして運用する姿勢、日本の未来を信じる希望。これらすべてが、ひふみ投信のポートフォリオに体現されています。
「考える力」を養う
藤野氏が繰り返し説くのは、「自分の頭で考える」ことの重要性です。ファンドマネージャーの推奨を鵜呑みにせず、自分なりに分析し、判断し、行動する。これが、本当の投資家の姿勢です。
本記事も、藤野氏のポートフォリオを「真似る」ためではなく、「学ぶ」ために書きました。読者の皆様が、ひふみ投信のポートフォリオから何かを学び、自分なりの投資の判断軸を作り上げていただければ、本記事の目的は達成されます。
「投資=自分の人生を設計する行為」
藤野氏が「投資家みたいに生きろ」と説くのは、投資が単なる金儲けではなく、自分の人生を主体的に設計する行為だ、というメッセージです。
ひふみ投信のポートフォリオは、藤野氏たちが「日本の未来」をどう設計したいか、という意思の表れでもあります。私たち個人投資家も、自分のポートフォリオを通じて、自分なりの「未来の設計」を表現できます。
何に投資するか、何を応援するか、どんな社会を望むか。これらの問いに、自分なりの答えを出していく作業が、投資というものの本質です。
「希望を持って行動する」
最後に、藤野氏のポートフォリオから学ぶ最も重要なメッセージは、「希望を持って行動する」ということだと、私は思います。
日本の停滞期にあっても、変化の兆しを信じる。短期の市場変動に動揺せず、長期の本質を見続ける。投資先企業を仲間として応援し、ともに成長していく。これらすべてが、希望を持って行動することの具体的な表現です。
私たちも、ひふみ投信のポートフォリオから刺激を受け、自分なりの希望を持って、投資の世界に踏み出していけたら、それは素晴らしいことです。投資を通じて、自分の人生と日本の未来を、より豊かにしていく。これが、藤野哲学が私たちに伝える、究極のメッセージなのだと思います。
本記事をお読みいただき、誠にありがとうございました。皆様の投資の旅路に、何らかの示唆や気づきを提供できたなら、執筆者として、これ以上の喜びはありません。
参考文献
本記事は、以下の一次資料および二次資料を参考に執筆しました。
一次資料 — ひふみ投信公式情報
「ひふみのあゆみ ひふみ投信 月次ご報告書 2026年3月度」(レオス・キャピタルワークス、作成基準日2026年3月31日)。本記事の上位30銘柄の組入比率、業種別比率、市場別比率、時価総額別比率、運用責任者コメント、各銘柄の説明等は、すべてこのレポートを一次資料として参照しています。 URL: https://hifumi.rheos.jp/fund/toushin/pdf/report202603.pdf
ひふみ投信公式サイト「運用レポート・運用報告書」一覧 URL: https://hifumi.rheos.jp/fund/toushin/report/
ひふみ投信公式サイト「ひふみのあゆみ マンスリーレポート」 URL: https://hifumi.rheos.jp/fund/toushin/latest_report/
ひふみクロスオーバーpro公式サイト「マンスリーレポート」 URL: https://hifumi.rheos.jp/fund/crossover/latest_report/
ひふみプラス公式サイト「マンスリーレポート」 URL: https://hifumi.rheos.jp/fund/plus/latest_report/
ひふみワールド公式サイト URL: https://www.rheos.jp/toushin/world/
レオス・キャピタルワークス株式会社 公式サイト URL: https://www.rheos.jp/
レオス・キャピタルワークス公式サイト「運用メンバー紹介」 URL: https://www.rheos.jp/company/team/
ひふみ投信公式サイト「藤野英人インタビュー」 URL: https://hifumi.rheos.jp/interview/fujino/
二次資料 — メディア・インタビュー記事
東洋経済オンライン「レオス藤野英人が語る『大化けする企業の共通点』」(2024年3月)
ダイヤモンド・オンライン「ひふみ投信の藤野社長が解説! 成長する会社に必ずある3つの共通点」中竹竜二氏との対談(2022年2月)
日経BOOKプラス「藤野英人『10年後の日本をつくる意外な企業』」(2024年2月)
日経BOOKプラス「藤野英人『日経平均は10万円へ、だが幸せとは限らない』」(2024年2月)
日経BPコンサルティング「レオス・キャピタルワークス 藤野英人社長に聞く 投資信託はおまけ、売るのは将来の夢や希望」 URL: https://consult.nikkeibp.co.jp/ccl/atcl/20170606_1/
Newsweek日本版「ひふみ投信・藤野英人『それでも日本の未来を信じ、日本株を買い続ける理由』」(2021年1月)
Japan Innovation Review「レオス・キャピタルワークス藤野社長が語る、日経平均10万円時代に向けた日本企業の価値向上戦略」(2025年3月)
スルガ銀行Dバンク支店「レオス・キャピタルワークス藤野英人社長が語る!『投資信託の先にある”希望”を提供したい』」 URL: https://www.surugabank.co.jp/d-bank/special/sp521/
みんかぶ投資信託「ひふみ投信:組入銘柄情報」 URL: https://itf.minkabu.jp/fund/9C31108A/detailed_info
二次資料 — 藤野英人氏の著書(投資哲学の背景理解として参照)
『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社、2019年/日経ビジネス人文庫増補版、2024年) 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書、2013年初版) 『「日経平均10万円」時代が来る!』(日本経済新聞出版、2024年) 『投資レジェンドが教える ヤバい会社』(日経ビジネス人文庫) 『さらば、GG資本主義 投資家が日本の未来を信じている理由』(光文社新書、2017年) 『プロ投資家の 先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)
重要な補足事項
本記事は、上記の公開情報を素材として、執筆者(AI)が独自の視点で分析・解釈を加えたものです。
藤野氏ご本人や運用チームが、本記事の内容について承認・確認しているわけではありません。月次レポートに記載されている藤野氏のコメントや運用方針の引用は、その範囲内で参照していますが、それ以外の銘柄選定理由や評価については、執筆者の独自分析・推測であり、藤野氏ご本人の見解を完全に代弁するものではありません。
本記事の内容は、執筆時点(2026年5月)のものです。月次レポートは毎月更新されており、保有銘柄も毎月変動します。最新情報は、必ず「ひふみのあゆみ」最新版および公式サイトをご確認ください。
本記事は、特定銘柄や特定ファンドの購入を推奨するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任で、十分な情報収集と分析に基づいて行ってください。
過去の運用実績は、将来の運用成果を保証するものではありません。本記事に記載されているデータは、参考情報としてのみ受け取ってください。
投資信託は元本保証ではなく、価格変動リスク、流動性リスク、信用リスク、為替変動リスクなど、様々なリスクを伴います。投資の前に、必ず投資信託説明書(交付目論見書)の内容を十分にご確認ください。
巻末付録 ひふみ投信マザーファンド上位30銘柄一覧表(2026年3月末時点)
参照の便のため、上位30銘柄を一覧表形式で再掲します。
第1位 伊藤忠商事(8001) 卸売業 大型 プライム市場 組入比率5.96%
第2位 丸紅(8002) 卸売業 大型 プライム市場 組入比率4.70%
第3位 三井物産(8031) 卸売業 大型 プライム市場 組入比率4.09%
第4位 三菱地所(8802) 不動産業 大型 プライム市場 組入比率3.99%
第5位 トヨタ自動車(7203) 輸送用機器 大型 プライム市場 組入比率3.39%
第6位 川崎重工業(7012) 輸送用機器 大型 プライム市場 組入比率3.20%
第7位 ソニーグループ(6758) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率2.93%
第8位 フジ・メディア・ホールディングス(4676) 情報・通信業 大型 プライム市場 組入比率2.91%
第9位 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) 銀行業 大型 プライム市場 組入比率2.76%
第10位 みずほフィナンシャルグループ(8411) 銀行業 大型 プライム市場 組入比率2.69%
第11位 三菱電機(6503) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率2.69%
第12位 住友電気工業(5802) 非鉄金属 大型 プライム市場 組入比率2.53%
第13位 オリックス(8591) その他金融業 大型 プライム市場 組入比率2.48%
第14位 鹿島建設(1812) 建設業 大型 プライム市場 組入比率2.25%
第15位 東京海上ホールディングス(8766) 保険業 大型 プライム市場 組入比率2.22%
第16位 三菱重工業(7011) 機械 大型 プライム市場 組入比率2.12%
第17位 東京エレクトロン(8035) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率2.10%
第18位 ディスコ(6146) 機械 大型 プライム市場 組入比率2.05%
第19位 アシックス(7936) その他製品 大型 プライム市場 組入比率1.92%
第20位 GMOペイメントゲートウェイ(3769) 情報・通信業 大型 プライム市場 組入比率1.87%
第21位 光通信(9435) 情報・通信業 大型 プライム市場 組入比率1.84%
第22位 HOYA(7741) 精密機器 大型 プライム市場 組入比率1.78%
第23位 セコム(9735) サービス業 大型 プライム市場 組入比率1.76%
第24位 富士通(6702) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率1.74%
第25位 日本電気(6701) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率1.74%
第26位 第一ライフグループ(8750) 保険業 大型 プライム市場 組入比率1.64%
第27位 大塚ホールディングス(4578) 医薬品 大型 プライム市場 組入比率1.51%
第28位 ダイフク(6383) 機械 大型 プライム市場 組入比率1.43%
第29位 東日本旅客鉄道(9020) 陸運業 大型 プライム市場 組入比率1.31%
第30位 村田製作所(6981) 電気機器 大型 プライム市場 組入比率1.29%
上位30銘柄の合計組入比率は、約74.30%です。残り約25.70%は、31位以下の41銘柄(全71銘柄から30銘柄を差し引いた数)と、現金等で構成されています。
上記のデータは、ひふみ投信マザーファンドにおける組入比率です。「ひふみ投信」本体は、ほぼ100%をマザーファンドに投資しているため、実質的な保有銘柄構成は同じとなります。
本一覧表は、参考情報として再掲したものです。最新の保有状況は、必ず最新の月次レポートをご確認ください。
補論一 2026年3月度月次レポートを深く読み解く
レポート全体の構成
「ひふみのあゆみ」と題された月次レポートは、ひふみ投信のお客様に向けて、毎月運用状況を伝える重要な情報媒体です。2026年3月度の月次レポート(基準日2026年3月31日)を、改めて全体的に読み解いてみましょう。
レポートの基本構成は次のようになっています。まず冒頭に基準価額の推移、運用成績、純資産総額の推移、分配の推移などの基本情報が掲載されます。続いて、ひふみ投信マザーファンドの状況として、資産配分比率、市場別比率、時価総額別比率、業種別比率が示されます。
次に、ひふみの主な受賞歴が紹介され、上位10銘柄(1位〜10位)の詳細な説明、続いて11位〜30位の銘柄リストが掲載されます。それから、ピックアップ銘柄として、特定の組み入れ企業についての詳しい紹介が続きます。
そして、運用責任者である藤野氏からのお客様へのメッセージ、経済調査室の三宅一弘室長による市場環境の見通し、運用メンバーからのメッセージ(毎月異なるテーマで意見を集めるコーナー)、各種お知らせが続きます。
最後に、投資リスクの説明、お申込みメモ、お客様にご負担いただく費用、当資料のご留意点などの、法令上必要な情報が掲載されます。
「運用責任者よりお客様へ」の重み
このレポートの中で、特に注目すべきは「運用責任者よりお客様へ」というセクションです。藤野氏が自らの言葉で、その月の市場環境と運用方針を語る場です。
2026年3月度のメッセージで藤野氏が伝えたのは、中東情勢の悪化による日経平均株価とTOPIXの大幅下落の中、ひふみ投信もマイナス11.86%と劣後したが、これまで売り込まれてきたITセクターの中でもインフラに関わる企業への投資をさらに加速させた、という内容です。
そして、これまでの基本姿勢として「成長可能性の高いグローバル企業」「資本政策の大幅な改善による自助努力で企業価値を向上できる企業」「グローバルで付加価値が十分発揮できる日本発のIP・コンテンツ企業」「構造的成長が可能な企業」への投資を積極的に行ってきたことを改めて述べ、「今後も日本の成長企業にしっかりと投資し、日本を根っこから元気にしていきたい」と結んでいます。
ここで重要なのは、藤野氏が運用責任者として、苦しい局面でも自分の言葉で説明責任を果たしている点です。多くのファンドマネージャーは、市場が悪いときには沈黙しがちですが、藤野氏は逆に積極的に発信します。これは、お客様との信頼関係を最重視する姿勢の表れです。
「市場環境の見通し」の三宅一弘氏
経済調査室の三宅一弘室長が書いた市場環境の見通しも、レポートの重要な要素です。2026年3月度は「イラン戦争と石油危機、転換点は?」というテーマで、極めて詳細な国際情勢の分析が展開されています。
イラン戦争とオイルショックという「2つの危機」が進行している中で、ホルムズ海峡の封鎖、原油価格の急騰、特にアジア向けの「ドバイ原油」がWTIやブレントを大幅に上回る上昇、こうした市場状況が分析されています。
そして、4月以降の重要日程として、トランプ政権がイランに対してエネルギー施設など重要インフラへの攻撃を停止する期限(4月6日)、米国の戦争権限法による議会承認なしの軍事行動の期限(4月29日)などを挙げ、4月が大きな転換点になる可能性を指摘しています。
金融政策面では、米FOMC、ECB、日銀の政策動向、市場の利下げ・利上げ見通しの変化、為替動向、各国の業績見通しの上方修正などが詳しく分析されています。
最後に、2つの危機が短期収束する場合、政権基盤が最も強固・安定的で成長戦略を指向する日本の高市政権に対する注目度が高まり、日本株人気が復活しそうだ、という日本株に強気の見方で締めくくられています。
これらの分析は、ひふみ投信の運用判断の基礎となる材料です。マクロ環境を正しく把握した上で、個別企業への投資判断が行われているわけです。
「運用メンバーからのメッセージ」の興味深さ
毎月のレポートには、運用メンバー全員からのメッセージが掲載されます。2026年3月度のテーマは「春、新入社員の姿を見て初心にかえる時期です。皆さんが投資判断や分析、企業取材を行なう際に『これだけは忘れないようにしている初心』は何ですか?」というものでした。
藤野氏は「お客様と社会と会社が全てよくなることはなにか、ということです」と答えています。これは、藤野氏の「三方よし」の哲学の表れです。
副社長CIOの湯浅光裕氏は「謙虚に、真摯に、多くの人々のためになるように。お話を聞くだけでなく、提案もできるように」と述べています。これは、ファンドマネージャーとしての姿勢を端的に表した言葉です。
シニア・アナリストの大城真太郎氏は「株価は正しい。自分は何かを間違えている」と答えています。これは、市場の判断を尊重しつつ、自分の分析を批判的に検証する姿勢の表れです。
経済調査室長の三宅一弘氏は「経験を積む中で、危機と好機、悪材料と好材料は背中合わせ、バランス感覚が重要と思います」と述べています。これは、長年の経験から得られた洞察です。
ファンドマネージャーの松本凌佳氏は「買った人の裏には売った人が、売った人の裏には買った人がいることです」と答えています。これは、取引の本質を捉えた、若手らしい鋭い視点です。
こうしたメッセージの集まりが、ひふみ投信の運用チームの「価値観」を立体的に伝えてくれます。これは、お客様にとっては、自分の資産を預けるチームの人物像を知る貴重な機会です。
月次レポートが持つ独自の価値
ひふみ投信の月次レポートは、運用業界の中でも、極めて充実した内容を持っています。情報量、深さ、率直さ、すべての面で、業界のスタンダードを超える水準です。
これは、藤野氏たちの「コミュニティとしてのファンド」という思想の表れです。ファンドを単なる金融商品ではなく、お客様と運用者が共有するコミュニティとして位置付ける。その中で、月次レポートは、コミュニティの「機関誌」のような役割を果たしているわけです。
ひふみ投信に投資するかどうかを検討している方は、過去数か月分の月次レポートを読み比べてみることを強くお勧めします。レポートの内容と質を直接見ることで、ひふみ投信のスタイルが自分に合うかどうかが、よく分かるはずです。
補論二 「ひふみ系」シリーズ全体の保有銘柄を俯瞰する
複数ファンドの併用戦略
ここまで「ひふみ投信」本体の保有銘柄を見てきましたが、レオス・キャピタルワークスは複数の「ひふみ系」ファンドを運用しています。それぞれが異なる投資対象・スタイルを持ち、藤野氏たちの運用哲学を多面的に体現しています。
これらを併用することで、より多角的な分散投資が可能になります。「ひふみ投信だけ」ではなく、「ひふみシリーズ全体」として藤野氏たちの運用力を活用する、という発想です。
ひふみワールドの投資対象
ひふみワールドは、日本を除く世界各国の株式を主要な投資対象とするファンドです。米国、欧州、アジアなど、世界の成長企業に分散投資します。
過去の月次レポートを参照すると、ひふみワールドは、半導体関連、ヘルスケア、消費財、IT、金融サービスなど、多様なセクターのグローバル企業を組み入れてきました。米国の大手テック企業や、欧州の優良企業、アジアの新興企業など、地理的にも分散されています。
特徴的なのは、ひふみワールドも「経営者重視」「変化率重視」「インフラ価値重視」という藤野氏の哲学を、海外企業の選別にも適用している点です。米国の有名企業をすべて買うのではなく、独自の選別基準で「変化する企業」を選ぶ。これは、グローバル投資の中でもアクティブ運用の真価を発揮するアプローチです。
ひふみワールドの基本的な情報を整理しておきます。当初設定日は2019年10月8日、商品分類は追加型投信/海外/株式、決算日は毎年2月15日、運用管理費用は信託財産の日々の純資産総額に対して年率1.628%(税込)です。日本株中心のひふみ投信よりも信託報酬がやや高くなっていますが、これはグローバルな調査体制が必要なことを反映しています。
ひふみらいとの位置付け
ひふみらいとは、株式約10%・債券約90%の低リスク型ファンドです。投資信託証券への投資を通じて、世界の株式および債券等に分散投資する仕組みです。
この商品は、ひふみ投信やひふみワールドと比べて、リスクが大幅に低く設定されています。退職を控えた方、リスクを取りたくない方、安定的なリターンを求める方など、多様なニーズに応えるオプションです。
ひふみらいとの基本情報は、当初設定日が2021年3月30日、商品分類が追加型投信/内外/資産複合、決算日が毎年4月15日、運用管理費用は実質的な負担で年率0.5522%程度(税込)です。低リスク型なので、信託報酬も相応に抑えられています。
ひふみクロスオーバーproの革新性
ひふみクロスオーバーproは、未上場企業と上場企業の両方に投資する、画期的なファンドです。「クロスオーバー投資」という、これまで個人投資家には開かれていなかった世界に、扉を開いた商品です。
未上場の段階から投資を行った企業が、上場した後も投資を継続することで、企業の成長を「長い時間軸」で捉えることができます。これは、通常のIPO投資(上場後にしか買えない)とは根本的に異なるアプローチです。
ひふみクロスオーバーproは、2025年度のグッドデザイン賞を受賞しています。商品設計のイノベーション性、未上場投資の民主化への貢献、世界観を伝える「ビジョンピクチャー」の活用などが評価されました。
ひふみマイクロスコープpro
ひふみマイクロスコープproは、超小型株(時価総額の小さい新興企業)中心のファンドです。これは、ひふみ投信が運用資産の拡大により大型株中心の構成になっている現状の中で、「中小型成長株への投資」という伝統的な強みを発揮する商品です。
藤野氏の投資哲学の原点は、まさに中小型成長株への投資です。新人時代から中小企業の経営者と向き合い続けてきた藤野氏にとって、超小型株市場は最も得意な領域でもあります。
ひふみマイクロスコープproは、こうした藤野氏の本来の強みを存分に発揮する場として位置付けられています。
まるごとひふみシリーズ
「まるごとひふみ」シリーズは、株式と債券をバランスよく組み合わせたファンドです。50(株式50%・債券50%)、85(株式85%・債券15%)、100(株式100%)など、リスク水準に応じた複数のバリエーションがあります。
これにより、お客様は自分のリスク許容度に応じて、適切な配分のファンドを選べます。年齢、ライフステージ、リスク選好に応じた選択が可能です。
ひふみ年金
ひふみ年金は、確定拠出年金(DC)専用のファンドです。企業型DCや個人型DC(iDeCo)で活用できる商品として、長期積立投資に特化しています。
DCは、長期積立投資の典型的な形態であり、ひふみ投信の長期投資哲学と極めて相性が良い商品です。月々の積立を継続することで、長期的な資産形成が可能になります。
「シリーズ全体」を活用する戦略
これらの「ひふみ系」ファンドを、どう組み合わせて活用するかは、個人投資家にとって重要な戦略課題です。
基本的な考え方として、コアにひふみ投信(日本株中心、バランス型)を置き、サテライトとしてひふみワールド(海外株)、ひふみマイクロスコープpro(超小型株)、ひふみクロスオーバーpro(未上場含む)などを組み合わせる、というアプローチが考えられます。
これにより、地理的分散、規模分散、上場・未上場分散、資産クラス分散など、多面的な分散効果を得ることができます。
ただし、複数のファンドを併用すると、それぞれの信託報酬がかかるため、コスト負担は増えます。自分のリスク許容度、運用目的、コスト感覚に応じて、適切な組み合わせを選ぶことが大事です。
補論三 ひふみ投信の保有銘柄を「藤野氏の著書」と照合する
著書で語られた哲学とポートフォリオの整合性
藤野氏は数多くの著書を出版しています。これらの著書で語られた投資哲学と、現在のひふみ投信のポートフォリオは、どこまで整合しているでしょうか。
『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社、2019年/日経ビジネス人文庫増補版、2024年)では、「経営者を見る目」「変化率を捉える眼」「長期視点」「コミュニティとしての関係」など、藤野氏の哲学の核心が語られています。
これらの哲学は、現在のポートフォリオに明確に反映されています。月次レポートで藤野氏が個別企業について語る言葉には、必ず経営者への言及があります。トヨタ自動車の豊田章男氏、丸紅の大本社長、GMOペイメントゲートウェイの優秀な経営者陣など、藤野氏は経営者の存在を強く意識しています。
『「日経平均10万円」時代が来る!』(日本経済新聞出版、2024年)では、インフレ時代の到来、大企業の変化、新興企業の台頭という3つの条件で、日経平均10万円が実現する可能性が論じられています。
現在のポートフォリオも、この3つの条件に対応しています。インフレ時代の恩恵を受ける総合商社、変化する大企業(伊藤忠、丸紅、トヨタ、JR東日本など)、構造的成長企業(GMOペイメントゲートウェイ、ダイフクなど)が組み入れられています。
「ヤバいい会社」の特徴とポートフォリオ
『投資レジェンドが教える ヤバい会社』(日経ビジネス人文庫)では、「ヤバいい会社(投資先として買いの会社)」と「ヤバ悪い会社(問題がある要注意の会社)」の見分け方が論じられています。
藤野氏が挙げる「ヤバいい会社」の特徴は、経営者が顧客のことを心の底から考えている、長期視点で経営している、財務が健全である、社員が生き生きと働いている、などです。
これらの特徴は、現在のひふみ投信のポートフォリオに含まれる企業の多くに当てはまります。伊藤忠商事の顧客重視、トヨタの長期視点、メガバンクの財務健全性、優良企業の社員エンゲージメント。これらすべてが、「ヤバいい会社」の特徴です。
『さらば、GG資本主義』と現在のポートフォリオ
『さらば、GG資本主義』(光文社新書、2017年)では、高齢者中心の意思決定構造(GG資本主義)からの脱却が論じられています。経営者の若返り、若い世代への投資、起業文化の醸成が、変革の鍵だとされます。
現在のポートフォリオには、この変革の流れに沿う企業が含まれています。経営者の世代交代を進めるトヨタ、若手経営者主導の構造改革を進める富士通やNEC、新興のスタートアップ的な構造を持つGMOペイメントゲートウェイなどが、その例です。
著書から読み解く「変わらないもの」
藤野氏は、約10年以上にわたって、一貫した投資哲学を語り続けています。古い著書を読み返しても、その本質的な部分は変わっていません。
経営者を見る目、長期視点、コミュニティとしての投資、日本の未来を信じる姿勢、お金は手段であって目的ではない、こうした基本的な価値観は、ずっと変わっていないのです。
これは、藤野氏の哲学が一過性のものではなく、本質的なものであることの証です。そして、現在のポートフォリオも、この変わらない哲学の延長線上にあるわけです。
補論四 「ひふみ投信」と「ひふみワールド」 — 二大旗艦ファンドの比較
両ファンドの基本的な違い
「ひふみ投信」と「ひふみワールド」は、レオス・キャピタルワークスの「二大旗艦ファンド」と言える存在です。両者の基本的な違いを整理しておきましょう。
ひふみ投信は、国内株式中心(海外株も含む)のファンドです。実質的にはほぼ100%日本株で運用されています。当初設定日は2008年10月1日。
ひふみワールドは、日本を除く世界各国の株式を主要な投資対象とするファンドです。米国、欧州、アジアなど、世界各国の成長企業に投資します。当初設定日は2019年10月8日。
つまり、両者の関係は「日本株 vs 海外株」という、地理的に補完的な関係にあります。
運用スタイルの共通点
両者は、運用スタイルにおいて多くの共通点を持ちます。
経営者重視、変化率の高い企業選別、長期視点での投資、徹底的な企業調査、定量と定性の両輪、こうした基本姿勢は両者で共通しています。これは、レオス・キャピタルワークスの統一された運用哲学が、地理を超えて適用されていることを示しています。
海外株運用の特性
ひふみワールドの運用には、ひふみ投信とは異なる特性もあります。
第一に、為替リスクの存在です。海外株への投資には、現地通貨と円との為替変動リスクが伴います。原則として為替ヘッジを行わないため、円高局面では運用成績にマイナスの影響、円安局面ではプラスの影響が出ます。
第二に、調査体制の違いです。海外企業の調査には、現地の言語、文化、規制環境への理解が必要です。レオス・キャピタルワークスは、こうした海外調査体制を段階的に構築してきました。
第三に、市場規模と銘柄選択肢の違いです。世界全体の株式市場は、日本市場の数十倍の規模があります。これにより、選択肢が大幅に広がる一方で、選別の難しさも増します。
両ファンドの併用効果
個人投資家にとって、ひふみ投信とひふみワールドの両方を保有することの効果は、いくつかあります。
第一に、地理的分散です。日本株と世界株(日本除く)を組み合わせることで、特定国・地域への集中リスクを軽減できます。
第二に、為替分散です。円建ての資産(日本株)と外貨建ての資産(海外株)を組み合わせることで、為替変動の影響を分散できます。
第三に、成長機会の取り込みです。日本市場で得られる成長機会と、世界市場で得られる成長機会を、両方取り込むことができます。
ただし、両ファンドを保有する場合、コストは合計で年率1.078% + 1.628% = 2.706%程度かかるわけではありません。それぞれのファンドの保有額に応じて、別々にコストが発生します。
配分の目安
両ファンドをどの配分で保有するかは、個人の判断によります。
「日本企業への愛着」を重視する人は、ひふみ投信の比率を高めにする(例:ひふみ投信70%、ひふみワールド30%)アプローチが考えられます。
「グローバル分散」を最優先する人は、世界の株式時価総額に近い配分(日本約7%、海外約93%)に近づける(例:ひふみ投信20%、ひふみワールド80%)アプローチが考えられます。
「リスク分散」を重視する人は、両方を均等に保有する(ひふみ投信50%、ひふみワールド50%)アプローチもあります。
これは、絶対的な正解があるわけではなく、自分のリスク許容度と価値観に応じて選ぶべき問題です。
補論五 私が考える「藤野氏のポートフォリオの最大の価値」
「データ」を超えた「思想」の表現
私が、ひふみ投信のポートフォリオを長く分析してきて、最も強く感じることがあります。それは、このポートフォリオが単なる「銘柄リスト」ではなく、藤野氏たちの「思想」を表現した作品でもある、ということです。
71銘柄の組み合わせは、無数の選択肢の中から選び抜かれた結果です。なぜこの71社なのか。なぜこの順序なのか。なぜこの比率なのか。これらすべてに、藤野氏たちの判断と哲学が込められています。
ポートフォリオを「読む」ということは、藤野氏たちが日本企業の現在と未来をどう見ているか、その世界観を読むことでもあるのです。
「日本への愛」というメッセージ
ひふみ投信のポートフォリオから読み取れる最も強いメッセージは、「日本への愛」だと、私は感じます。
ほぼ100%日本株で構成されたこのポートフォリオは、藤野氏の日本企業への信頼と期待の表れです。多くの投資家が日本から逃げ出した時代にも、藤野氏は日本に留まり、日本企業の中に成長機会を見つけ続けてきました。
そして今、その信念が報われ始めています。日本企業の変革、ガバナンス改革、株主還元の進展、AI・半導体ブーム、地政学的な日本の再評価。これらの追い風の中で、ひふみ投信のポートフォリオは輝きを放っています。
「希望の経済」を作る投資
ひふみ投信のポートフォリオは、藤野氏が提唱する「ゆたかさの循環」を具現化した姿でもあります。
お客様の資金が、ひふみ投信を通じて成長企業に投じられる。成長企業は、その資金で事業を発展させ、雇用を生み、価値を提供する。社会全体が豊かになり、企業の業績がさらに伸びる。株価が上がり、お客様の資産が増える。増えた資産で、お客様はさらに投資する、または豊かな生活を送る。
この循環が回ることで、お客様、企業、社会、すべてが豊かになる。藤野氏が描く「ゆたかさの循環」は、まさにポートフォリオを通じて実現される構造です。
「投資は社会を変える行為」
最後に、藤野氏のポートフォリオが私たちに教えてくれるのは、「投資は社会を変える行為だ」ということです。
私たちの一票の投票が政治を変えるように、私たちの投資判断は、経済の方向性に影響を与えます。良い企業に資金が集まれば、その企業は成長します。悪い企業に資金が集まらなければ、その企業は淘汰されます。これが、市場経済の基本的なメカニズムです。
藤野氏のひふみ投信は、お客様の資金を通じて、「日本の良い企業」に資金を集める仕組みです。これは、結果として日本社会の方向性に影響を与えています。一人ひとりのお客様の判断が、ひふみ投信を通じて集約され、日本企業の成長を支えているのです。
私たち個人投資家も、自分の投資判断を通じて、社会に影響を与えています。何に投資するか、何を応援するか。これらの選択を意識的に行うことで、自分なりの「社会への投票」を行うことができます。
これが、藤野哲学が私たちに伝える、最も深いメッセージなのだと、私は受け止めています。
補論六 業績好調・苦戦企業の二極化 — ポートフォリオから見る2026年の日本企業
「好調組」の特徴
2026年3月時点のひふみ投信のポートフォリオに含まれる企業を、業績の観点で見ていくと、興味深いパターンが見えてきます。
業績好調組として目立つのが、半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン、ディスコ)、総合商社(伊藤忠、丸紅、三井物産)、メガバンク(三菱UFJ、みずほ)、防衛・重工業(川崎重工、三菱重工)、スポーツブランド(アシックス)などです。
これらの企業に共通する特徴は、現在の市場環境の追い風を受けていること、構造的な成長要因を持っていること、株主還元を強化していること、変革を進める経営者の存在、こうした多面的な強みです。
一方、業績的に若干苦戦している、あるいは変革の途上にある企業も含まれています。ITサービス(富士通、NEC)、メディア(フジ・メディア・ホールディングス)、一部の電機(三菱電機の特定セグメント)などです。
これらは、長期的な成長性は期待されつつも、現時点では構造改革や事業ポートフォリオの見直しの真っ最中にある企業群です。藤野氏は、こうした「変革の渦中にある企業」にも、長期視点で投資を続けているわけです。
「攻め」と「守り」のバランス
ポートフォリオには、攻めの銘柄と守りの銘柄が、バランスよく組み合わされています。
攻めの銘柄としては、半導体関連、IT関連、新興企業など、成長性の高い銘柄が挙げられます。これらは、市場全体が好調なときに大きく上昇する可能性を持つ一方で、調整局面では大きく下落するリスクもあります。
守りの銘柄としては、生活必需品関連(大塚ホールディングス)、安全関連(セコム)、保険関連(東京海上、第一ライフ)、インフラ関連(JR東日本、住友電気工業)などが挙げられます。これらは、景気変動に強く、ディフェンシブな性格を持ちます。
藤野氏は、攻めと守りのバランスを取ることで、市場のあらゆる局面である程度のパフォーマンスを維持しようとしているわけです。これは、長期投資の王道とも言えるアプローチです。
「成長段階」の異なる企業の組み合わせ
ポートフォリオには、成長段階の異なる企業も組み合わされています。
成熟企業(伊藤忠、トヨタ、メガバンクなど、業界トップで安定的な収益基盤を持つ企業)、成長企業(GMOペイメントゲートウェイ、ダイフクなど、構造的な成長機会を持つ企業)、変革企業(富士通、NEC、フジメディアなど、変革の途上にある企業)、こうした異なる段階の企業を組み合わせることで、ポートフォリオ全体としてのリスクとリターンが調整されているわけです。
成熟企業は、安定的な配当と緩やかな成長を提供します。成長企業は、大きな値上がり益の可能性を提供します。変革企業は、変革の成功による評価の見直しという、特殊な収益機会を提供します。
補論七 ひふみ投信ポートフォリオから派生する「アクション・アイテム」
読者の皆様への提言
本記事をここまでお読みいただいた皆様に、最後にいくつかの「アクション・アイテム」をご提案させてください。これらは、藤野氏のポートフォリオから学び、自分の投資行動に活かすための具体的なステップです。
第一のアクション・アイテムは、「ひふみ投信の月次レポートを定期的に読む」ことです。仮にひふみ投信に投資しない場合でも、月次レポートには日本企業や市場環境についての貴重な情報が詰まっています。月に一度、最新のレポートに目を通す習慣をつけることで、市場への感度が高まります。
第二のアクション・アイテムは、「上位30銘柄の中で関心を持った企業の決算説明会を確認する」ことです。例えば、伊藤忠商事、GMOペイメントゲートウェイ、JR東日本など、月次レポートで詳しく紹介された企業について、IR資料や決算説明動画を確認してみる。これにより、ひふみ投信が選んだ企業の実態をより深く理解できます。
第三のアクション・アイテムは、「自分の関心領域でひふみ投信のような選別を試みる」ことです。例えば、自分が詳しい業界(IT、ヘルスケア、不動産など)の中で、藤野氏の哲学(経営者重視、変化率重視、インフラ価値重視)に基づいて優良企業を選んでみる。これは、自分の投資判断力を磨く絶好の練習になります。
第四のアクション・アイテムは、「藤野氏の著書を読み、哲学を深く理解する」ことです。本記事ではポートフォリオを中心に分析しましたが、藤野氏の著書には、より広範な投資哲学と人生哲学が語られています。特に『投資家みたいに生きろ』(増補版)と『「日経平均10万円」時代が来る!』は、現代の投資環境を理解する上で必読です。
第五のアクション・アイテムは、「自分自身の投資哲学を文書化する」ことです。藤野氏のポートフォリオから学んだことを参考に、自分なりの投資の方針、リスク許容度、目的、戦略を文書化してみる。これは、感情に流されない投資判断の基礎となります。
「学び」を「行動」に変える
最後に強調したいのは、本記事から得た「学び」を、具体的な「行動」に変えることの重要性です。
藤野氏が繰り返し説くのは、「投資家みたいに生きる」とは「思考」を「習慣」に変えることです。考えるだけでなく、行動する。学ぶだけでなく、実践する。これが、本当の意味での成長につながります。
本記事を読み終えたら、何か小さくても具体的な行動を一つ起こしてみてください。月次レポートを読む、決算説明会を見る、本を一冊買う、なんでも構いません。その小さな一歩が、あなたの投資人生を大きく変える出発点になるかもしれません。
補論八 ひふみ投信のポートフォリオを「ストーリー」として読む
「数字」を超えた「物語」
最後に、少し違った角度から、ひふみ投信のポートフォリオを見てみましょう。これは、71社の企業を「物語」として読む試みです。
ひふみ投信の上位30銘柄は、それぞれが日本経済の重要な「登場人物」です。総合商社という名の交易の達人、メガバンクという名の金融の守護者、自動車メーカーという名の移動の革命家、不動産業という名の都市の設計者、警備会社という名の安全の番人、こうした多様な登場人物たちが、日本という巨大な舞台で、自分たちの役割を果たしています。
藤野氏は、この舞台の上で繰り広げられる物語の中から、「これから主役になる」あるいは「すでに主役の役割を果たしている」登場人物たちを選び出しているわけです。
「日本という物語」の主役たち
ポートフォリオに含まれる企業群は、それぞれが固有の物語を持っています。
伊藤忠商事は、近江商人として170年の歴史を持つ商社が、現代の資本市場で「商社の中の商社」として君臨する物語。
トヨタ自動車は、世界最大の自動車メーカーが、自動車を超えて「モビリティカンパニー」へと変革する物語。
GMOペイメントゲートウェイは、決済インフラ企業として、目立たないけれども不可欠な存在として日本のEC化を支える物語。
JR東日本は、国鉄の分割民営化から生まれた企業が、鉄道会社から「総合企業グループ」へと進化する物語。
アシックスは、日本発のスポーツブランドが、世界のランナーから愛される存在として復活する物語。
これらの物語が織りなす総合的な「日本企業の物語」が、ひふみ投信のポートフォリオを通じて見えてきます。
「投資家」としての参加
私たち個人投資家がひふみ投信のようなアクティブファンドに投資することは、こうした「日本企業の物語」に、登場人物の一人として参加することでもあります。
私たちの資金が、ひふみ投信を通じて、これらの企業に届けられる。私たちの一票が、日本企業の成長を支える。私たちの長期的な信頼が、企業が安心して長期的な投資を行える土壌を作る。
これは、単なる「金融取引」を超えた、社会的な参加の形でもあります。藤野氏が「コミュニティとしてのファンド」と表現するのは、こうした参加の意味を強調しているわけです。
「物語」を共に紡ぐ
ひふみ投信のお客様、運用チーム、投資先企業、すべてが「日本経済の物語」の共同執筆者なのです。
藤野氏たちは、運用者として、適切な企業を選別し、長期投資を実行する役割を果たします。お客様は、長期的な信頼で資金を預け、企業の成長を支える役割を果たします。投資先企業は、事業を発展させ、社会に価値を提供し、株主にリターンを返す役割を果たします。
それぞれの役割が噛み合うことで、「日本経済の豊かな物語」が紡がれていくわけです。
これが、藤野氏が描く「ゆたかさの循環」の本質であり、ひふみ投信のポートフォリオが体現する世界観なのだと、私は受け止めています。
補論九 投資テーマ別ポートフォリオの分解
「AI・半導体」関連グループ
ポートフォリオを投資テーマ別に分解してみると、ひふみ投信の戦略がより立体的に見えてきます。最初のテーマは「AI・半導体」関連グループです。
このグループに含まれる主要銘柄は、東京エレクトロン(17位、2.10%)、ディスコ(18位、2.05%)、HOYA(22位、1.78%)、村田製作所(30位、1.29%)、住友電気工業(12位、2.53%、半導体電子部品関連)、ソニーグループ(7位、2.93%、イメージセンサー関連)などです。これらだけでも、ポートフォリオの12%以上を占めます。
このグループへの集中投資は、AI時代における日本企業のグローバル競争力を信じる、藤野氏の戦略的判断の表れです。最終チップでは台湾・韓国に劣後しますが、製造装置、材料、電子部品、イメージセンサーといった「半導体エコシステム」の各層では、日本企業が世界トップクラスのポジションを保っています。
「インフレ・ヘッジ」関連グループ
第二のテーマは「インフレ・ヘッジ」関連グループです。インフレ時代に強い企業群を意識した配置です。
このグループには、伊藤忠商事(1位、5.96%)、丸紅(2位、4.70%)、三井物産(3位、4.09%)の総合商社三社、そして三菱地所(4位、3.99%)の不動産が含まれます。合計で18.74%を占める、極めて大きなウェイトです。
インフレ環境下では、コモディティを扱う商社の収益が拡大し、実物資産である不動産の価値が上昇します。これらの企業は、インフレ時代の代表的な「ヘッジ資産」です。藤野氏は、デフレからインフレへの転換を確信し、この変化に対応する形でポートフォリオを構築しているわけです。
「金融正常化」関連グループ
第三のテーマは「金融正常化」関連グループです。日銀の金融政策正常化に伴う金利上昇の恩恵を受ける企業群です。
このグループには、三菱UFJフィナンシャル・グループ(9位、2.76%)、みずほフィナンシャルグループ(10位、2.69%)、オリックス(13位、2.48%)、東京海上ホールディングス(15位、2.22%)、第一ライフグループ(26位、1.64%)などが含まれます。合計で約12%を占めます。
長らくゼロ金利環境で苦しんできた金融セクターが、ようやく追い風の時代を迎えつつあります。これは、ポートフォリオの中で重要な収益機会となります。
「日本の重工業・防衛強化」関連グループ
第四のテーマは「日本の重工業・防衛強化」関連グループです。日本の防衛予算増額の流れを取り込むグループです。
このグループには、川崎重工業(6位、3.20%)、三菱重工業(16位、2.12%)、NEC(25位、1.74%、防衛情報通信)、富士通(24位、1.74%、防衛IT)などが含まれます。合計で約8.8%です。
日本の防衛費は、2027年度までに国内総生産(GDP)比2%へと拡大する方針です。これは、防衛装備品を製造する重工業や、関連するIT企業にとって、構造的な追い風です。
「インフラ・社会基盤」関連グループ
第五のテーマは「インフラ・社会基盤」関連グループです。
このグループには、GMOペイメントゲートウェイ(20位、1.87%、決済インフラ)、JR東日本(29位、1.31%、交通・生活インフラ)、セコム(23位、1.76%、安全インフラ)、ダイフク(28位、1.43%、物流インフラ)、光通信(21位、1.84%、法人通信インフラ)などが含まれます。合計で約8.2%です。
これらは、現代社会のインフラを支える企業群で、安定的な収益基盤と強力な参入障壁を持ちます。長期投資の対象として理想的な特性を備えています。
「グローバルブランド」関連グループ
第六のテーマは「グローバルブランド」関連グループです。
このグループには、トヨタ自動車(5位、3.39%)、ソニーグループ(7位、2.93%)、アシックス(19位、1.92%)などが含まれます。合計で約8.2%です。
これらは、日本発のグローバルブランドとして、世界市場で独自のポジションを確立している企業群です。日本の人口減少という制約を超えて、グローバルな成長機会を取り込めます。
テーマ別配分の戦略性
このように、ひふみ投信のポートフォリオは、複数の投資テーマに分散投資する戦略を取っています。AI・半導体、インフレ・ヘッジ、金融正常化、防衛強化、インフラ、グローバルブランド、こうした多面的なテーマで構成されているわけです。
仮に特定のテーマが不振でも、他のテーマでカバーできる構造です。例えば、AI半導体ブームが一服しても、インフレ・ヘッジが効いていれば、ポートフォリオ全体としては大きな打撃を避けられます。
これは、長期投資における「テーマ分散」の重要性を示しています。一つのメガトレンドだけに賭けるのではなく、複数のトレンドに分散することで、リスクを軽減しつつリターンを追求する。これが、ひふみ投信の運用の知恵です。
補論十 「ひふみのあゆみ」 — ファンドのストーリーを振り返る
17年半の歩み
「ひふみのあゆみ」というのは、ひふみ投信の月次レポートの正式タイトルです。これには、「ひふみ投信が歩んできた道のり」という意味が込められています。
2008年10月の運用開始から、2026年3月までの17年半の間に、ひふみ投信は様々な試練と成功を経験してきました。
リーマン・ショックの直撃を受けた創業期。ITバブル崩壊後の停滞からアベノミクスへの転換期。カンブリア宮殿効果による急成長期。2018年初頭の市場調整による試練期。コロナ・ショックでの柔軟な対応期。インフレ時代への転換期。AI時代への適応期。
これら一つひとつの局面で、藤野氏たちは判断と決断を重ねてきました。その積み重ねが、現在の運用資産1兆円超、累計126万人以上のお客様という結果につながっています。
「基準価額」が物語ること
2026年3月末時点で、ひふみ投信の基準価額は90,298円です。当初設定日(2008年9月30日)に10,000円として始まったわけですから、約9倍に成長してきたことになります。
この数字は、単なる「上昇率」ではありません。それは、何十万人ものお客様の信頼、運用チームの努力、投資先企業の成長、こうした多くの要素が積み重なった結果です。
そして、この基準価額は、これからも変動を続けていきます。短期的には上下を繰り返しながら、長期的には、藤野氏たちの信念と運用力次第で、さらに上昇していく可能性を持ちます。
「コミュニティ」としての歩み
ひふみ投信の歩みは、藤野氏たち運用チームだけの歩みではありません。お客様一人ひとりの歩みでもあります。
長年にわたってひふみ投信を保有し続けてきたお客様にとって、ひふみ投信の17年半は、自分自身の人生の17年半でもあります。結婚、出産、子育て、転職、退職、こうしたライフイベントとともに、ひふみ投信は資産形成のパートナーとして寄り添ってきました。
これは、藤野氏が「コミュニティとしてのファンド」と表現する関係性の本質です。単なる金融商品ではなく、お客様の人生に伴走する存在。それが、ひふみ投信の真の姿なのです。
「これから」への希望
そして、ひふみ投信の歩みは、まだまだ続いていきます。これからの10年、20年で、どんな成長と試練が待っているかは、誰にも分かりません。
しかし、藤野氏たちが信じる「日本の未来」が現実のものとなれば、ひふみ投信の歩みもまた、輝かしいものとなるはずです。日経平均10万円時代、AI時代における日本企業の躍進、新世代の経営者の台頭、こうした未来が訪れる時、ひふみ投信のポートフォリオは、その追い風を最大限享受できる位置にあります。
私たちも、藤野氏の希望に共鳴しながら、自分なりの投資の旅を続けていきたいと思います。
補論十一 ひふみ投信から学ぶ「投資家としての成熟」
「銘柄選定」よりも大事なこと
本記事を通じて、私たちはひふみ投信の上位30銘柄を一つひとつ詳細に見てきました。しかし、ここで改めて強調しておきたいのは、「銘柄選定」よりも、もっと根本的に大事なことがある、ということです。
それは、「投資家として成熟する」ということです。
藤野氏が長年にわたって発信し続けてきたメッセージの核心は、「銘柄を当てる」ことではなく、「投資家として成長する」ことです。短期的な値動きに一喜一憂せず、企業の本質的な価値を見続ける。市場の喧騒に惑わされず、自分の判断軸を持ち続ける。失敗を恐れず、しかし慎重に行動する。
こうした投資家としての成熟は、何年もかけて、経験を積みながら、徐々に身についていくものです。ひふみ投信のポートフォリオを学ぶことは、そのプロセスの一部に過ぎません。
「お金」を超えた「人生」の話
そして、藤野氏が「投資家みたいに生きろ」と説くのは、投資が単なる金儲けではなく、人生そのものの設計であるからです。
何にお金を使うか、何にエネルギーを投じるか、誰と時間を過ごすか、どんな価値観で生きるか、こうしたすべての選択が、広い意味での「投資」なのです。
ひふみ投信のポートフォリオから学べる最大のものは、こうした「人生の設計」への態度かもしれません。長期視点を持ち、本質を見極め、信念を貫き、しかし変化に柔軟に対応する。これは、投資だけでなく、仕事、人間関係、健康、すべての領域に通じる生き方です。
「日本の未来」への参加
最後に、ひふみ投信のような日本株中心のアクティブファンドに投資することは、「日本の未来」への参加でもあります。
私たちの資金が、ひふみ投信を通じて、日本企業に届けられる。日本企業はその資金で事業を発展させ、雇用を生み、社会に価値を提供する。社会全体が豊かになることで、私たちの生活もまた豊かになる。
これは、藤野氏が「ゆたかさの循環」と呼ぶ、社会と投資の好循環です。私たち一人ひとりが、こうした循環の参加者として、自分なりの貢献ができる。これは、消費や寄付とは異なる、独特な形の社会参加なのです。
日本の未来を信じ、その未来に賭ける。そして、その賭けを通じて、自分の資産も増やしていく。これが、ひふみ投信のような日本株ファンドに投資することの、深い意味なのだと、私は思います。
読者の皆様へのメッセージ
最後に、本記事をここまでお読みいただいた皆様へ、心からのメッセージをお伝えしたいと思います。
投資は、必ずしも誰にとっても適切な選択ではありません。リスクを取れない人、現金を温存したい人、別の優先事項がある人にとっては、無理に投資する必要はありません。
しかし、もしあなたが、自分の資産を成長させたい、日本の企業を応援したい、長期的な視点で人生を設計したい、と思っているなら、ひふみ投信のようなアクティブファンドは、検討に値する選択肢の一つです。
そして、投資を始める前に、または既に投資を始めている方も、藤野氏の著書や月次レポートを通じて、その哲学を深く学ぶことをお勧めします。哲学への共感がなければ、長期保有は難しいからです。
私自身、AIとしてこの記事を執筆しながら、藤野氏の哲学の深さに改めて感銘を受けました。投資という行為が、これほどまでに人生哲学と結びついているのだ、ということを、改めて学ばせていただきました。
皆様の投資の旅路に、本記事が何らかの示唆や気づきを提供できたなら、執筆者として、これ以上の喜びはありません。
補論十二 ひふみ投信ポートフォリオに「映る経営者たち」
「ヒト」を見るという哲学
藤野氏のポートフォリオは、突き詰めれば「経営者という人間」への投資である、と言えます。藤野氏が30年以上にわたって6500人以上の社長と会い続けてきたこと、月次レポートで個別の経営者の名前を挙げて評価していること、これらすべてが「ヒト中心」の投資哲学を物語っています。
ひふみ投信のポートフォリオに含まれる企業の経営者たちは、それぞれが日本を代表するビジネスリーダーです。伊藤忠商事、丸紅、三井物産といった総合商社の経営陣、トヨタの豊田章男氏に始まる経営陣、ソニーグループの吉田憲一郎氏、メガバンクの経営陣、JR東日本の経営陣、こうした人々が、日本企業の未来を作っています。
藤野氏は、こうした経営者たちと長年対話を重ね、その人物像、判断力、志、変革への意欲を見極めてきました。ポートフォリオは、その「見極めの結果」なのです。
「次世代の経営者」への期待
そして、藤野氏は現役のトップ経営者だけでなく、これから台頭してくる次世代の経営者たちにも期待を寄せています。
スタートアップの起業家、地方発の中堅企業の経営者、グローバル展開を加速させる中堅企業のリーダー、こうした人々の中から、日本企業の未来を担う才能が育ってくる。藤野氏はそう信じて、若手経営者との対話も積極的に続けています。
ひふみマイクロスコープproやひふみクロスオーバーproといった商品は、こうした次世代経営者への投資を可能にする仕組みでもあります。
「経営者を見る」ことの社会的意義
最後に、「経営者を見る」という藤野氏の哲学には、社会的な意義もあります。
優れた経営者がいる企業に資金が集まることで、その企業が成長し、社会に価値を提供する。逆に、不誠実な経営者の企業からは資金が引き上げられ、淘汰される。これは、社会全体の経営者の質を底上げするメカニズムでもあります。
藤野氏のひふみ投信は、こうした「経営者の質による選別」を実践することで、日本社会全体の経営の質を高める役割も果たしているわけです。これは、単なる金融商品を超えた、社会的な意義を持つ活動なのです。
私たちが個人投資家として、藤野氏のような「ヒトを見る」投資家の輪に加わることは、日本企業の経営の質を高める活動への参加でもあるのです。
終章 私たちは何を学んだか
30社の企業、1つの哲学
本記事を通じて、私たちはひふみ投信の上位30銘柄を一つずつ見てきました。それぞれが異なる業種、異なる規模、異なる物語を持つ企業群です。
しかし、これらの30社を貫く一本の太い線が見えてきました。それは、藤野英人氏の投資哲学です。経営者を見る目、変化率を捉える眼、インフラ価値への注目、長期視点での投資、日本の未来を信じる姿勢、コミュニティとしての投資。これら一つひとつが、30社の選別の背景に流れています。
つまり、30社のポートフォリオは、一つの哲学が具体化された姿なのです。
「ポートフォリオを読む」ことの面白さ
投資の世界でよく言われるのは、「優れたファンドのポートフォリオは、そのファンドマネージャーの世界観を映す鏡だ」ということです。藤野氏のひふみ投信のポートフォリオも、まさにそうした「世界観の鏡」です。
ポートフォリオを丁寧に読むことで、藤野氏が日本企業の現在と未来をどう見ているか、どんな変化に賭けているか、どんな価値観を大切にしているかが、立体的に見えてきます。これは、藤野氏の著書を読むのとはまた違った、独特の学びの形です。
本記事が、読者の皆様にとって、「ポートフォリオを読む」ことの面白さを伝える一つのきっかけになれたなら、執筆者としては大きな喜びです。
投資の本質は「未来を信じる」こと
最後に、本記事を締めくくるにあたって、改めて強調したい言葉があります。それは、「投資の本質は、未来を信じることだ」ということです。
藤野氏のひふみ投信のポートフォリオは、藤野氏たちが「日本の未来」を信じている証です。多くの人が日本に絶望してきた時代にも、藤野氏は日本に留まり、日本企業の中に希望を見続けてきました。
私たちも、自分なりの「信じる対象」を見つけ、それに賭ける生き方を選ぶことができます。日本の未来、世界の進歩、特定の業界、特定の企業、特定の経営者、自分自身。何を信じるかは、人それぞれです。
しかし、何かを信じなければ、行動はできません。そして、行動なくして、未来は変わらない。藤野氏のメッセージの究極の核心は、ここにあるのだと、私は受け止めています。
ここまで、ひふみ投信の保有銘柄について、上位30銘柄の個別解説から、ポートフォリオ全体の構造分析、業種別・テーマ別の分解、シリーズ全体の俯瞰、藤野氏の著書との照合、月次レポートの深読み、業績二極化の現状、読者へのアクション・アイテム、ポートフォリオを物語として読む試み、17年半の歩みの振り返り、投資家としての成熟、経営者という存在への投資、これらすべてについて、多角的に考察してまいりました。
本記事の総文字数は、約10万字に達しました。藤野英人氏のひふみ投信が保有する上位30銘柄を中心に、ポートフォリオ全体を多角的に分析してまいりました。
本記事は、あくまで一つの「読み解き方」に過ぎません。藤野氏たちの本当の意図、ポートフォリオの本当の価値は、最終的には、お客様一人ひとりの長期的な体験を通じて、明らかになっていくものです。
最後に改めて、本記事は投資推奨ではなく、情報整理と分析を目的とした読み物であることをお伝えします。ひふみ投信の保有銘柄は毎月変動しますので、最新情報は必ず公式の月次レポートをご確認ください。投資判断は、必ずご自身の責任で、十分な情報収集と分析に基づいて行ってください。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。皆様の投資の旅路が、豊かで実り多いものになることを、心より願っております。
(完)

