遠距離介護の現実——地方の親と都会の自分、往復の交通費と時間をどう工面するか

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遠距離介護の現実——地方の親と都会の自分、往復の交通費と時間をどう工面するか

はじめに——片道3時間の介護通勤

東京で派遣社員として働いている。母は地方の実家で一人暮らし。片道3時間。新幹線なら1時間半だが往復で3万円。高速バスなら片道3時間で往復6000円。金と時間、どちらを使うか。どちらも足りない。

遠距離介護とは、親と離れて暮らしながら介護を行う形態だ。同居していないため、毎日の介護は物理的に不可能。月に1〜2回の帰省で親の状態を確認し、日常の介護はプロのサービスに任せる。自分の役割は「管理者」であり「実務者」ではない。

遠距離介護は増えている。核家族化と地方から都会への人口移動の結果、親と子が離れて暮らすケースが増えた。氷河期世代は、仕事を求めて都会に出てきた人が多い。地方には帰れない。帰れば仕事がない。仕事がなければ生活できない。生活できなければ介護もできない。だから都会にいながら、遠距離で介護する。

遠距離介護の「3大課題」

課題1は「交通費」だ。月に1〜2回の帰省で、往復6000円(高速バス)〜30000円(新幹線)。月2回帰省すると、月12000〜60000円。年間144000〜720000円。手取り16万円の人間にとって、月12000円は家計の7.5%。月60000円なら37.5%。新幹線での月2回帰省は不可能だ。高速バスでも月12000円は痛い。

交通費を抑える方法。方法1は「高速バス」。新幹線の5分の1以下。時間はかかるが安い。方法2は「介護帰省割引」。JALとANAが「介護帰省割引」を提供している。通常運賃より30〜40%割引。利用には証明書(要介護認定証のコピー等)が必要。方法3は「青春18きっぷ」(期間限定)。1日あたり2410円で乗り放題。方法4は「帰省の頻度を減らす」。月2回→月1回に。日常の確認はケアマネジャーと電話で行い、帰省は月1回にする。月1回なら交通費は半額。

課題2は「時間」だ。高速バスで片道3時間。往復6時間。帰省日は1日のうち6時間が移動に消える。残り18時間のうち、親と過ごす時間は実質8〜10時間程度(睡眠を除くと)。1泊2日の帰省なら、実質の滞在時間は1日半。この1日半で、親の状態確認、ケアマネジャーとの面談、買い出し、家の掃除、通院の付き添いをこなす。忙しい。

時間を効率的に使う方法。帰省前にやることリストを作る。「ケアマネジャーとの面談予約→通院の予約→買い出しリスト→確認事項リスト」。リストに沿って行動すれば、漏れなく効率的に動ける。ケアマネジャーとの面談は帰省日に合わせて予約する。通院も帰省日に合わせる。これで「帰省1回」で複数の用事をまとめて片付けられる。

課題3は「精神的な不安」だ。離れているから、親の状態がリアルタイムでわからない。「今日は元気だろうか」「転んでいないだろうか」「火の始末は大丈夫だろうか」。毎日の不安が、精神を蝕む。不安は仕事にも影響する。集中できない。ミスが増える。

不安を軽減する方法。見守りサービスの導入。電力使用量で安否を確認するサービス(東京電力「遠くても安心プラン」等)。センサーで活動を検知するサービス。定期的な安否確認電話サービス。Webカメラの設置(親の同意が必要)。これらのサービスで「遠くにいても親の状態を把握できる」環境を作る。把握できれば、不安は軽減される。

遠距離介護の「日常のオペレーション」

遠距離介護では、日常の介護はプロに任せ、自分は「管理者」として動く。具体的なオペレーションを示す。

毎日やること。親に電話する(5分)。「今日はどうだった?」「ご飯食べた?」。短い電話で、親の声のトーンや話の内容から状態を推測する。異変があれば、ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに連絡する。

毎週やること。ケアマネジャーにメールまたは電話で状況確認(10分)。「今週の様子はいかがでしたか」「変わったことはありますか」。ケアマネジャーからの報告で、親の状態を把握する。

毎月やること。帰省1回(1泊2日)。親の状態を自分の目で確認する。ケアマネジャーと面談する。冷蔵庫の中身を確認する(期限切れの食品がないか、同じものを大量に買っていないか)。薬の管理を確認する(飲み忘れがないか)。家の安全を確認する(コンロの周り、浴室の滑り止め、段差)。必要に応じて買い出しをする。

3ヶ月ごとにやること。ケアプランの見直し。親の状態に変化があれば、サービスの内容や量を調整する。ケアマネジャーと一緒に見直す。

遠距離介護を支える「チーム」を作る

遠距離介護は一人ではできない。自分が離れている間、親をサポートしてくれる「チーム」を作る。

チームメンバー1は「ケアマネジャー」。介護のプラン作成と日常の管理。日々のサービスの調整。緊急時の対応。チームの司令塔。

チームメンバー2は「訪問介護のヘルパー」。定期的に親の自宅を訪問し、食事の準備、掃除、入浴の介助を行う。

チームメンバー3は「デイサービスのスタッフ」。日中の活動の場を提供し、入浴、食事、レクリエーションを行う。

チームメンバー4は「かかりつけ医」。親の健康管理。定期的な通院。処方箋の発行。

チームメンバー5は「近所の人」。近隣住民で親の様子を気にかけてくれる人がいれば、心強い。「何かあったら連絡してください」と電話番号を渡しておく。

チームメンバー6は「民生委員」。地域の民生委員は、高齢者の見守りを行っている。地域包括支援センターを通じて、民生委員に親の見守りを依頼できる。

これらのチームメンバーと、自分(管理者)で「遠距離介護チーム」を構成する。チームが機能していれば、自分が毎日そばにいなくても、親の生活は維持される。

遠距離介護の「限界」と「次のステップ」

遠距離介護には限界がある。親の状態が悪化し、頻繁な帰省が必要になったとき。認知症が進行し、徘徊や火の不始末が頻発するとき。ヘルパーやデイサービスだけでは対応しきれなくなったとき。これらの限界に達したら、「次のステップ」を検討する。

次のステップ1は「施設入所」。親を介護施設に入所させる。特養、グループホーム、有料老人ホーム。施設に入れば24時間の介護が受けられ、遠距離介護の負担は大幅に軽減される。自分は月1回の面会で十分。

次のステップ2は「親を自分の近くに呼び寄せる」。自分の住む都市に親を転居させる。近くにいれば、頻繁に会える。通院の付き添いもしやすい。ただし親が住み慣れた土地を離れることへの抵抗がある。認知症の場合、環境の急変が症状を悪化させるリスクもある。慎重に判断する。

次のステップ3は「自分が地元に帰る」。仕事を辞めて(または転職して)、親の近くに帰る。だがこれは「介護離職」のリスクを伴う。地方には仕事が少ない。給与も低い。「帰る」選択は、自分の経済的基盤を揺るがす可能性がある。最後の手段とする。

遠距離介護の費用をまとめて管理する

遠距離介護にかかる費用を整理する。

交通費。月1回の帰省で6000〜15000円。年間72000〜180000円。介護保険サービスの自己負担。月25000〜35000円(1割負担の場合)。年間300000〜420000円。見守りサービス。月1000〜5000円。年間12000〜60000円。通信費(親への電話代)。LINE通話なら0円。固定電話へかける場合は月500〜1000円。

合計。年間384000〜660000円。月あたり32000〜55000円。

この費用を「親のお金」と「自分のお金」に分ける。介護保険サービスの自己負担は親の年金から。交通費と見守りサービスは——原則として「自分の負担」になることが多い。自分の手取り16万円から月32000〜55000円を介護関連に使うのは、かなり厳しい。

節約で対応する。交通費は高速バスで最小化。見守りサービスは無料のもの(自治体の見守り事業)を活用。帰省の頻度を月1回に。これで月20000〜30000円程度に抑えられる可能性がある。

まとめ——遠距離介護は「マネジメント」

遠距離介護は「自分で介護する」のではなく「介護をマネジメントする」ことだ。プレイヤー(実務者)はプロに任せ、自分はマネージャー(管理者)に徹する。マネージャーの仕事は、情報の収集、判断、調整、コスト管理。これらをスマートフォンと電話とメールでこなす。

遠距離介護は大変だ。交通費がかかる。時間がかかる。不安が尽きない。だが「大変だから無理」ではない。「大変だから工夫する」。工夫すれば、なんとかなる。なんとかなれば、仕事を辞めなくて済む。辞めなくて済めば、自分の生活が維持される。維持されれば、介護も続けられる。

遠距離介護の最大の敵は「孤立」だ。一人で全部やろうとすると倒れる。チームを作る。ケアマネジャー、ヘルパー、デイサービス、かかりつけ医、近所の人、民生委員。チームの力で、遠距離を乗り越える。チームがあれば、遠くにいても親を守れる。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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