3Dインベストメント・パートナーズ徹底解剖――富士ソフトを動かした、シンガポール発の「論客」アクティビスト

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本稿は、日本市場で活動する主要アクティビスト各社を一社ずつ詳細に解説するシリーズの第5回です。今回は、徹底したデータと論理で日本企業に経営改革を迫る、シンガポール拠点の日本株専門ファンド「3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners Pte. Ltd.)」について、その成り立ち、運用構造、投資哲学、日本における主要な投資案件、投資銘柄、そして投資方針を、公開情報をもとに包括的に整理します。なお本稿は特定の有価証券・金融商品の取得や売却を勧誘するものではなく、運用資産額・保有比率等は時点により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。


  1. 0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かる3Dインベストメント
  2. 1. 会社概要――基本データ
  3. 2. 創業者・長谷川寛家と、ゴールドマン出身のチーム
    1. 2-1. 長谷川寛家――ゴールドマンとチューダーで磨いた投資の眼
    2. 2-2. 「全員ゴールドマン出身」の精鋭部隊
    3. 2-3. 「Integrity before everything」
  4. 3. ファンドの構造と投資哲学
    1. 3-1. 「複利的な資本成長」と「経営陣とのパートナーシップ」
    2. 3-2. 「ガバナンス・アービトラージ」というビジネスモデル
    3. 3-3. データと論理による「説得」
    4. 3-4. 「非公開化」という究極の解決策
  5. 4. 日本における主要キャンペーン
    1. 4-1. 東芝(2020〜2021年)――車谷社長の解任を狙う
    2. 4-2. 富士ソフト(2021〜2025年)――3Dの名を決定づけた「最大の案件」
    3. 4-3. サッポロホールディングス(2024〜2025年)――「中計達成率0%」と不動産
    4. 4-4. 大日本印刷・日鉄ソリューションズ・日本製鉄(2024〜2025年)
    5. 4-5. ワコールホールディングス・東洋建設ほか
  6. 5. 3D流「compound」サイト戦略の分析
  7. 6. 投資銘柄一覧(整理)
  8. 7. 投資方針の総括――3Dは何を狙っているのか
    1. 7-1. ターゲットの選定基準
    2. 7-2. 求めるものの本質
    3. 7-3. 「論理で勝つ」という方針
  9. 8. 評価とリスク――筆者の見立て
    1. 8-1. 強み
    2. 8-2. 弱みと批判
    3. 8-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか
  10. 9. 参考資料

0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かる3Dインベストメント

3Dインベストメント・パートナーズを一言で表すなら、「ゴールドマン・サックス出身者が率いる、日本株特化の『論客』アクティビスト」です。創業は2015年、創業者は長谷川寛家(はせがわ・かんや)氏。拠点はシンガポールに置き、運用対象を日本株に特化させた「バリュー投資」を専門としています。

3Dの最大の武器は、感情論ではなく、徹底したデータと論理で経営陣を追い詰める「論客」ぶりです。彼らは投資先企業ごとに「compound(複利)」を冠した専用ウェブサイト(compoundfujisoft.com、compoundsapporo.comなど)を立ち上げ、数十ページに及ぶ精緻なプレゼンテーション資料を一般公開して、世論と他の株主を味方につけていきます。サッポロホールディングスに対して「過去19年間で発表した中期経営計画の最終計画達成率は0%」という衝撃的な数字を突きつけた手法は、その典型です。

3Dの名を決定づけたのが、システム開発会社・富士ソフトの非公開化を巡る一連の攻防です。3Dは2022年頃から筆頭株主として富士ソフトに保有不動産の売却や創業家中心のガバナンスの是正を迫り、ついには同社の非公開化(買収)プロセスそのものを主導しました。その結果、米大手投資ファンドのKKRとベインキャピタルが買収価格を競り上げる、日本企業買収史に残る「TOB合戦」が繰り広げられたのです。本稿では、この「眠れる価値を呼び覚ます論客」の実像を多面的に描き出していきます。


1. 会社概要――基本データ

まず、3Dインベストメントの基本的なプロフィールを整理します。

  • 正式名称:3Dインベストメント・パートナーズ(3D Investment Partners Pte. Ltd.)。
  • 形態:非公開(プライベート)の資産運用会社。米国証券取引委員会(SEC)にも投資顧問業者として登録。
  • 設立:2015年。
  • 創業者・CEO・CIO:長谷川寛家(Kanya Hasegawa)。
  • 本社:シンガポール。
  • 運用対象:日本株に特化。割安と判断した銘柄に投資する「バリュー投資」を専門とする。
  • 投資部門の特徴:投資部門のメンバーは、ゴールドマン・サックス証券出身者を中心に構成されている。
  • コアバリュー:「Integrity before everything(何よりもまず誠実さ)」を掲げる。
  • 制度的姿勢:2022年2月に日本版スチュワードシップ・コードに基づく「責任ある機関投資家」としての声明を発表。2025年5月には議決権行使方針も公表。

3Dは、シンガポールという日本国外を拠点としながら、運用対象を「日本株のみ」に絞り込んでいる点が特徴です。これは、創業者をはじめとするチームが日本市場とその企業文化を熟知しているからこそ可能な、極めて専門特化した戦略です。SECにも登録し、スチュワードシップ・コードに署名している点からは、「我々は短期的な投機家ではなく、責任ある長期投資家である」という、制度的な正統性を重視する姿勢がうかがえます。


2. 創業者・長谷川寛家と、ゴールドマン出身のチーム

3Dを理解するには、創業者・長谷川寛家氏と、彼が率いるチームの素性を知る必要があります。

2-1. 長谷川寛家――ゴールドマンとチューダーで磨いた投資の眼

長谷川寛家氏は、ゴールドマン・サックス証券の日本法人出身の投資家です。彼は日本やアジアの市場において、株式・不動産・クレジット(債券)といった多様な資産クラスで、約20年にわたる投資経験を積んできました。

3Dを設立する以前、長谷川氏は複数の名門金融機関で経験を重ねています。シンガポールのマルチストラテジーファンドであるブロード・ピーク(Broad Peak)、世界最高峰の投資銀行ゴールドマン・サックス、そして著名なヘッジファンドであるチューダー・インベストメント(Tudor Investment)です。これらの経験を通じて、彼はトレーディングからバリュー投資、イベント・ドリブン投資まで、幅広い投資手法を体得しました。

そして2015年、長谷川氏はシンガポールで3Dインベストメント・パートナーズを設立しました。社名の「3D」が何を意味するかは諸説ありますが、立体的・多角的に企業を分析するという姿勢を表していると解釈できます。

2-2. 「全員ゴールドマン出身」の精鋭部隊

3Dの大きな特徴は、その投資部門のメンバーが、ゴールドマン・サックス証券出身者を中心に構成されている点です。これは、3Dの分析が極めて高度で精緻なものであることの背景となっています。

東芝への関与の際に3Dが社外取締役候補として推した人物の顔ぶれが、そのネットワークの質を物語っています。一人は、ひびき・パース・アドバイザーズの最高投資責任者である清水雄也氏。彼は長谷川氏のゴールドマン・サックス証券時代の先輩でした。もう一人は、アラン・チュー(Allen Chu)氏。チューダー・キャピタルなどの著名な国際投資機関で20年以上のキャリアを積んだ投資家です。一流の金融プロフェッショナルのネットワークを動員できることが、3Dの提案に重みと説得力を与えています。

2-3. 「Integrity before everything」

3Dは、コアバリューとして「Integrity before everything(何よりもまず誠実さ)」を掲げています。これは、短期的な利益のために手段を選ばない「ハゲタカ」のイメージとは一線を画し、誠実さと長期的な企業価値創造を重視するという、同社の理念を表明したものです。長期視点での企業価値創造を強調しつつも、必要に応じて株主提案や取締役選任反対といった強い手段も辞さない――この「誠実さ」と「強硬さ」の両立こそが、3Dのスタイルです。


3. ファンドの構造と投資哲学

3-1. 「複利的な資本成長」と「経営陣とのパートナーシップ」

3Dは、その投資哲学を「複利的な資本成長を通じた中長期的な価値創造」と「経営陣とのパートナーシップ」と公式に掲げています。彼らが投資先企業ごとに立ち上げる特設サイトに「compound(複利)」という言葉を冠しているのは、この哲学の表れです。複利の力で長期的に資本を成長させる――これは、短期的な株価の変動で利益を狙う投機とは対極にある考え方です。

3-2. 「ガバナンス・アービトラージ」というビジネスモデル

筆者は、3Dのビジネスモデルを「ガバナンス・アービトラージ(裁定取引)」と表現できると考えています。すなわち、非効率な経営や低い株価に甘んじてきた日本企業に、資本市場からの規律を強烈に突きつけることで、企業価値の改善と株価上昇を狙うのです。

日本には、潤沢な資産(特に不動産や保有株式)を抱えながら、その資産を有効活用できず、結果として株価が割安に放置されている企業が数多く存在します。3Dは、こうした「眠れる価値」を持つ企業を見つけ出し、資産の売却や事業の選択と集中、株主還元の拡充を求めることで、その価値を顕在化させます。本来あるべき企業価値と現在の株価との「差(ギャップ)」こそが、3Dの収益の源泉なのです。

3-3. データと論理による「説得」

3Dの手法を最も特徴づけるのは、徹底したデータと論理に基づく「説得」です。彼らは、感情的に経営陣を非難するのではなく、ROIC(投下資本利益率)やROE(自己資本利益率)、不動産の簿価と時価の差、中期経営計画の達成率といった、客観的で反論しにくいファクトを積み上げます。

サッポロホールディングスへの「過去19年間で中期経営計画の達成率は0%」という指摘は、その典型です。誰が見ても「これは確かに問題だ」と思わざるを得ない事実を突きつけることで、議決権行使助言会社(ISSなど)や他の機関投資家、そして個人株主の支持を取り付けていくのです。富士ソフトの株主提案では、有力な議決権行使助言会社であるISSが3Dの提案に賛成を推奨したことが、その論理の説得力を物語っています。

3-4. 「非公開化」という究極の解決策

3Dの手法のなかでも特筆すべきは、企業の「非公開化(プライベタイゼーション)」を解決策として積極的に提示・主導する点です。上場企業のままでは経営陣が短期的な株価に縛られて抜本的な改革ができない場合、いっそ非公開化して腰を据えて改革すべきだ、という考え方です。富士ソフトのケースでは、3Dは単に要求を突きつけるだけでなく、複数の投資ファンドを募って買収(非公開化)プロセスそのものを主導しました。アクティビストが買収プロセスの「主催者」となるこの手法は、日本では極めて新しいものでした。


4. 日本における主要キャンペーン

ここからは、3Dが日本で展開してきた主要なキャンペーンを見ていきます。3Dは設立以来、一貫して日本企業を対象としてきました。

4-1. 東芝(2020〜2021年)――車谷社長の解任を狙う

3Dが大型案件で名を上げたのが、経営再建の渦中にあった東芝への関与です。3Dは東芝の大株主として、ガバナンスの改善を強く求めました。

2021年、3Dは社外取締役として、前述のアラン・チュー氏と清水雄也氏の2名の選任を求める株主提案を行いました。さらに同年7月20日、3Dは東芝の車谷暢昭社長と社外取締役・藤森義明氏の取締役再任に反対すると発表します。3Dの狙いが、車谷氏の事実上の解任にあることが、これではっきりしました。

3Dの主張は、独立性に関する鋭い指摘でした。藤森氏は投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ日本法人の最高顧問であり、車谷氏もかつて同社の会長兼共同代表だったため、社外取締役としての独立性に疑義がある、というものです。当時、東芝はCVCから買収提案を受けており、その提案と経営陣との関係性が問題視されていました。3Dをはじめとするアクティビストの圧力もあり、車谷社長は最終的に退任に追い込まれました。東芝はその後、株主総会運営の問題(エフィッシモが追及)などを経て、最終的に日本産業パートナーズ(JIP)による非公開化へと至ります。3Dは、この東芝を巡るアクティビストの攻防において、ガバナンスの独立性という観点から重要な役割を果たしました。

4-2. 富士ソフト(2021〜2025年)――3Dの名を決定づけた「最大の案件」

3Dの活動の真骨頂であり、その名を日本中に轟かせたのが、システム開発会社・富士ソフトを巡る一連の攻防です。これは日本のアクティビズム史、そしてM&A史に残る重要案件となりました。

発端――不動産と創業家ガバナンスへの批判:3Dは2021年12月の大量保有報告書時点で富士ソフト株を9%強保有し、後に筆頭株主となりました。3Dが問題視したのは、二つの点でした。一つは、富士ソフトが抱える膨大な不動産です。富士ソフトは創業者が自社ビルにこだわる背景もあり、地上31階建ての秋葉原のビルをはじめ、横浜、錦糸町、名古屋、さらには汐留や博多にも自社ビルを保有し、その保有物件の簿価は1,000億円にも上りました。まるで不動産会社のようなポートフォリオです。3Dは、金融的な観点から、この本業(システム開発)と関係の薄い不動産がROIC(投下資本利益率)を押し下げているとして、その売却を求めました。もう一つは、創業家中心の企業統治体制です。3Dはこのガバナンスに問題があるとして、長谷川氏自身を含む社外取締役の選任を株主提案しました。

株主提案の否決、しかし圧力は続く:2022年3月の定時株主総会で、3Dによる長谷川氏ら社外取締役2人の選任を求める株主提案は否決されました。この提案にはISSが賛成を推奨していましたが、富士ソフトは「特定の株主の利益代表になりえる可能性を危惧する」として反論し、否決に持ち込みました。しかし3Dの圧力は続き、富士ソフトは2024年に入って合計80億円程度の不動産を売却するなど、徐々に3Dの要求に応じざるを得なくなっていきました。

非公開化の主導とTOB合戦:そして3Dは、より抜本的な解決策として「非公開化」を主導します。富士ソフトは2022年10月、複数の投資ファンドに声をかけて非公開化の余地を探り始めました。この入札手続きの主催者が、筆頭株主でアクティビストの3Dだったのです。資産査定や経営陣との面談を経て、2024年6月にKKRを含む2社から提案を受領し、7月にKKRが選定されました。KKRは2024年8月、1株あたり8,800円での買付けを提示しました。

ところが、ここから日本企業買収史に残る「TOB合戦」が始まります。3D主導の入札にあえて参加しなかったベインキャピタルが、富士ソフトとの直接交渉を経て、2024年10月11日に1株9,450円での対抗TOBの意向を公表したのです。これに対しKKRは11月15日、買付価格を9,451円(ベインをわずか1円上回る)に引き上げて第2回TOBを開始。ベインは12月11日に9,600円へと上積みし、KKRは最終的に9,850円(当初の8,800円から1割強の大幅アップ)まで引き上げました。

この攻防のカギを握ったのは、まさに3Dが指摘し続けてきた「不動産」の評価でした。富士ソフトの隠れた資産価値こそが、二大ファンドが買収価格を競り上げる原動力となったのです。3Dはこのプロセスを通じて、保有株式を高値で売却し、大きな投資リターンを得たと見られます。アクティビストが非公開化プロセスを主導し、複数のPEファンドを競わせて株主価値を最大化する――この富士ソフトのモデルは、「不動産を多く抱える老舗上場企業に対する、アクティビストの新たな常套手段になりうる」と専門家から評されました。

4-3. サッポロホールディングス(2024〜2025年)――「中計達成率0%」と不動産

富士ソフトに続いて3Dが照準を定めたのが、ビール大手のサッポロホールディングスです。3Dは特設サイト「compoundsapporo.com」を立ち上げ、サッポロを痛烈に批判しました。

3Dの主張の核心は、サッポロが「資本規律の不備、及び株主へのコミットメント不備により、深刻なアンダーマネジメント(経営の不全)の状況に陥っている」というものでした。具体的には、①ROE(自己資本利益率)がグローバルの同業他社と比べて最低水準、②営業利益率もグローバル最低水準、③過去に行った海外酒類事業の大型M&Aがすべて減損(損失計上)を計上――といった点を挙げました。そして極めつけが、「過去19年間で発表した中期経営計画の最終計画達成率は0%」という衝撃的な数字でした。19回の中計を立てて、19回とも未達――これは経営の信頼性を根本から問う、反論しがたいファクトです。

そして富士ソフトと同様、ここでも「不動産」が大きな論点となりました。サッポロは恵比寿ガーデンプレイスをはじめとする優良な不動産事業を抱えています。3Dは、この不動産事業を本業(酒類・食品)から切り離し、その価値を顕在化させる(株主に還元する)ことを求めました。本業と不動産という異なる事業が混在することで企業価値が割安に評価されている、という典型的なコングロマリット・ディスカウントへの指摘です。

4-4. 大日本印刷・日鉄ソリューションズ・日本製鉄(2024〜2025年)

3Dは、その後も活発に活動を続けています。

大日本印刷(DNP):印刷大手の大日本印刷にも公開書簡を送り、保有資産の効率化や株主還元の拡充を求めました。DNPは、エリオット・マネジメントも関与した銘柄であり、複数のアクティビストが注目する「割安な優良企業」の代表例です。

日鉄ソリューションズ・日本製鉄(2025年):3Dは2025年、日本製鉄の上場子会社である日鉄ソリューションズ(システム会社)に関与しました。親会社の日本製鉄との関係(親子上場)における少数株主の利益や、資本効率の改善が論点となります。親会社である日本製鉄にも関与の対象を広げています。

東邦ホールディングス(2025年):医薬品卸大手の東邦ホールディングスにも2025年に関与しました。

4-5. ワコールホールディングス・東洋建設ほか

このほか3Dは、下着大手のワコールホールディングスなど、さまざまな企業に投資・関与してきました。日経新聞が「資本騒乱 膨張アクティビスト」の連載で3Dと富士ソフト、ワコールを並べて取り上げたように、3Dはいまや日本市場で最も活発に活動するアクティビストの一つとなっています。前稿までで触れたとおり、3DはエフィッシモやシルチェスターやダルトンのNAVFと並んで、近年のアクティビスト投資残高ランキングで上位に位置し、2025年には投資残高が大きく増加したと報じられています。


5. 3D流「compound」サイト戦略の分析

ここで、3Dの手法を理解するうえで欠かせない「特設サイト戦略」について、独自に分析を加えておきます。

近年のアクティビストは、こぞって投資先企業ごとに専用ウェブサイトを開設するようになりました。3Dの「compoundfujisoft.com」「compoundsapporo.com」は、その代表例です。なぜ彼らは特設サイトを作るのでしょうか。

第一の理由は、「情報の非対称性の打破」です。従来、企業と株主の情報戦は、企業側が圧倒的に有利でした。企業は決算説明会やIR資料を通じて、自社に都合のよい情報を発信できます。一方、アクティビストの主張は、新聞報道などを通じて断片的に伝わるにすぎませんでした。しかし特設サイトを作れば、アクティビストは自らの分析と主張を、数十ページにわたって、すべての株主に直接、詳細に届けることができます。これは情報戦の構図を一変させました。

第二の理由は、「論理の可視化」です。3Dの主張は、ROICや中計達成率といった定量的な分析に基づいています。こうした込み入った財務分析は、口頭の説明だけでは伝わりにくいものです。しかし、グラフや表を多用したプレゼンテーション資料として可視化すれば、機関投資家のアナリストから個人投資家まで、誰もがその論理を検証できるようになります。「過去19年間で中計達成率0%」という一文がこれほどの破壊力を持つのは、それが検証可能なファクトとして可視化されているからです。

第三の理由は、「議決権行使助言会社への働きかけ」です。ISSやグラス・ルイスといった議決権行使助言会社は、株主総会での投票方針に大きな影響力を持ちます。詳細な特設サイトは、これらの助言会社が3Dの主張の正当性を評価するための重要な判断材料となります。富士ソフトでISSが3Dの提案に賛成を推奨したことは、この戦略の有効性を示しています。

3Dの「compound」サイト戦略は、データと論理を武器とする同社の哲学を、最も効果的に体現した手法だと筆者は考えます。


6. 投資銘柄一覧(整理)

3Dがこれまでに関与・投資してきた主な銘柄を整理します。なお、これは「これまでに関与が報じられた主な銘柄」であり、現時点の保有を示すものではありません。保有比率は時点により変動します。

  • 東芝(2020〜2021年、社外取締役選任を提案、車谷社長の退任に関与)
  • 富士ソフト(2021〜2025年、筆頭株主、不動産売却・ガバナンス是正・非公開化を主導、KKR対ベインのTOB合戦に発展)
  • サッポロホールディングス(2024〜2025年、「compoundsapporo」、中計達成率0%を指摘、不動産事業の分離を要求)
  • 大日本印刷(DNP)(公開書簡で資産効率化・株主還元を要求)
  • 日鉄ソリューションズ(2025年、日本製鉄の上場子会社、親子上場と資本効率を追及)
  • 日本製鉄(2025年)
  • 東邦ホールディングス(2025年、医薬品卸)
  • ワコールホールディングス(下着大手)

このリストから見えてくる3Dのターゲットの共通点は、第一に「本業と関係の薄い資産(特に不動産)を抱える企業」(富士ソフト、サッポロ)、第二に「資本効率(ROIC・ROE)が低く、株価が割安な企業」(サッポロ、DNP)、第三に「ガバナンスに問題がある企業」(富士ソフトの創業家支配、東芝の独立性問題、日鉄ソリューションズの親子上場)です。


7. 投資方針の総括――3Dは何を狙っているのか

7-1. ターゲットの選定基準

3Dが狙う企業の共通点は、「眠れる価値」を持つことです。具体的には、①本業と関係の薄い資産(不動産・保有株式)を抱え、その価値が株価に反映されていない、②資本効率(ROIC・ROE)が同業他社と比べて著しく低い、③創業家支配や親子上場など、ガバナンスに構造的な問題がある、といった特徴です。これらはいずれも、改善すれば株価が大きく上昇する余地があることを意味します。3Dは、日本企業に特化することで、こうした「割安な優良企業」を効率的に発掘する目を養ってきました。

7-2. 求めるものの本質

3Dが企業に求めるものは、突き詰めれば「資本の規律」です。本業と関係のない不動産は売却して資本効率を高めよ、低いROICを改善せよ、達成できない中計を立てるのをやめて株主への約束を果たせ――これらはすべて、「投じた資本に見合うリターンを上げる」という資本市場の基本原則に基づいています。そして、上場企業のままでは抜本的な改革が難しい場合には、「非公開化」という究極の解決策を主導します。3Dの目的は、こうした規律の導入を通じて「眠れる価値」を顕在化させ、複利的な資本成長を実現することなのです。

7-3. 「論理で勝つ」という方針

3Dの投資方針を最も特徴づけるのは、「論理で勝つ」という姿勢です。彼らは、感情的な対立や世論の扇動ではなく、徹底したデータと論理によって、議決権行使助言会社や他の株主を説得します。「Integrity before everything」というコアバリューが示すように、誠実で検証可能な分析こそが、彼らの最大の武器なのです。富士ソフトで非公開化プロセスを主導し、複数のPEファンドを競わせて株主価値を最大化した手腕は、この「論理の力」の到達点と言えるでしょう。


8. 評価とリスク――筆者の見立て

8-1. 強み

3Dの最大の強みは、「日本株への特化」と「データと論理に基づく分析力」、そして「非公開化を主導する実行力」です。ゴールドマン・サックス出身者を中心とする精鋭チームが、日本企業を熟知したうえで精緻な分析を行うため、その主張は反論しにくく、ISSなどの支持を得やすいものとなっています。「中計達成率0%」のような鋭いファクトの発見力は群を抜いています。そして富士ソフトで見せたように、単に要求するだけでなく、買収プロセスそのものを設計・主導して株主価値を最大化する実行力は、他のアクティビストにはない独自の強みです。

8-2. 弱みと批判

一方で、3Dにも批判はあります。第一に、富士ソフトの事例について、日経新聞が「企業、自主性失い迷走」という見出しで報じたように、アクティビストの圧力で企業が振り回され、本来の事業に集中できなくなるという批判があります。3D主導の非公開化プロセスについても、「富士ソフトは3Dのなすがまま」と評する向きもありました。第二に、富士ソフトのTOB合戦が示すように、3Dの最終的な目的が「高値での売却(エグジット)」である以上、その利益が必ずしも従業員や取引先など他のステークホルダーの利益と一致するとは限りません。第三に、株主提案そのものは否決されることも多く(富士ソフトの2022年提案など)、世論戦と実利(不動産売却、非公開化)を組み合わせて初めて成果を上げる、という側面があります。

8-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか

筆者の見立てでは、3Dは「日本企業の資本効率の低さと隠れ資産を映す、最も論理的な鏡」です。彼らが指摘する論点――不動産の塩漬け、低いROIC、達成できない中計、創業家支配――は、いずれも日本企業が長年放置してきた弱点そのものです。特に、本業と関係のない不動産を大量に抱える老舗企業は、富士ソフトのモデルが示すように、いつ3Dのようなアクティビストに狙われてもおかしくありません。

個人投資家にとっては、3Dの特設サイト(compoundシリーズ)は、その企業の問題点を理解する格好の教材です。彼らが大量保有を開示し、特設サイトでキャンペーンを始めた銘柄は、不動産売却や非公開化、株主還元の拡充による企業価値向上の可能性を秘めています。富士ソフトのTOB合戦のように、隠れた資産価値が買収プレミアムとして顕在化することもあります。ただし、3Dは最終的に高値で売却するため、彼らのエグジットのタイミングにも注意が必要です。彼らの「不動産の簿価と時価の差」「ROIC」「中計達成率」といった分析の視点は、割安な隠れ資産株を発掘するうえで、大いに参考になるでしょう。


9. 参考資料

本稿は、以下の公開情報・報道・公式資料をもとに構成しています(主なもの。数値・保有比率等は執筆時点で確認できた範囲のものであり、時点により変動します)。

公式・一次情報

  • 3D Investment Partners 公式サイト、および各キャンペーン特設サイト(compoundfujisoft.com〔富士ソフト〕、compoundsapporo.com〔サッポロ〕等)とプレゼンテーション資料
  • 3Dによる責任ある機関投資家としての声明(2022年2月)、議決権行使方針(2025年5月)
  • 各社の適時開示・大量保有報告書(東芝、富士ソフト、サッポロ等)

新聞・通信社・経済誌

  • 日本経済新聞(富士ソフトの株主提案否決、「資本騒乱 膨張アクティビスト」連載ほか)
  • 東洋経済オンライン(富士ソフト争奪戦・KKR対ベイン、不動産評価の分析ほか)
  • 財界オンライン(ベインによる富士ソフト対抗買収提案ほか)
  • NetIB-News/data-max(東芝・車谷社長の再任反対、社外取締役提案の詳細)

専門メディア・その他

  • note(Activist Times「3D Investment Partners Pte. Ltd.って❔〜東芝vsアクティビスト編〜」、富士ソフトTOB解説ほか)
  • インプロ・キャリア、M&Aマッチング各種解説(富士ソフトの不動産簿価・TOB価格推移の分析)
  • 101 LIFE(3Dの投資哲学・コアバリューの解説)

百科事典等(一次情報の確認は上記公式・報道で実施)

  • Weblio辞書/Wikipedia「3Dインベストメント・パートナーズ」

 

本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。

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