「高齢者は入居をお断り」の賃貸市場で老いていく恐怖

この記事は約5分で読めます。

「高齢者は入居をお断り」の賃貸市場で老いていく恐怖

不動産屋で言われた一言

40歳のとき、引っ越しを検討した。当時住んでいたアパートの建て替えが決まり、退去を求められたのだ。

不動産屋を何軒か回った。希望条件は「家賃5万円以下、駅徒歩15分以内、1K以上」。贅沢は言わない。最低限の条件だ。

ある不動産屋で、条件を伝えたあと、担当者がこう言った。「40歳でしたら今のうちに決めたほうがいいですよ。50歳を過ぎると、紹介できる物件がぐっと減りますから」。

50歳を過ぎると物件が減る。なぜか。「高齢の単身者は、大家さんが嫌がるんです。孤独死のリスクがありますから」。

孤独死のリスク。大家が嫌がる。だから貸さない。年齢が上がるほど、借りられる物件が減る。50歳、60歳、70歳と上がるにつれて、選択肢はさらに狭まる。

40歳の時点で、この警告を受けた。あと10年で、賃貸市場から締め出される可能性がある。持ち家がない人間にとって、賃貸から締め出されることは、住む場所を失うことだ。住む場所を失えば、生活の基盤が崩壊する。

この恐怖は、40歳から始まり、年齢を重ねるごとに強くなっている。45歳の今、あと5年で「50歳の壁」に到達する。壁の向こうには、選択肢の少ない賃貸市場が待っている。

大家が高齢単身者を避ける理由

大家が高齢の単身者を避ける理由は、主に以下の通りだ。

理由1。孤独死のリスク。入居者が部屋の中で亡くなり、発見が遅れると、物件の価値が下がる。特殊清掃の費用がかかる。事故物件として扱われ、次の入居者を見つけにくくなる。家賃を下げなければならない。大家にとっては経済的損失だ。

理由2。家賃滞納のリスク。高齢者は収入が年金のみであることが多く、家賃の支払い能力が不安定だと見なされる。年金額が低い場合、家賃が払えなくなるリスクがある。

理由3。保証人の問題。高齢の単身者は、保証人を立てにくい。配偶者がいない。子どもがいない、あるいは疎遠。親は他界しているか高齢。保証人不在の入居者は、大家にとってリスクが高い。

理由4。火災のリスク。高齢者は認知機能の低下により、火の不始末のリスクがある。火災が起きれば、物件だけでなく近隣にも被害が及ぶ。

これらのリスクを総合して、大家は「高齢の単身者は避けたい」と判断する。個々の入居希望者の実態ではなく、「高齢単身者」というカテゴリ全体に対するリスク回避だ。

私個人のリスクは低いかもしれない。健康だし、火の取り扱いは注意している。家賃は今まで一度も滞納していない。だがそんなことは、大家の目には映らない。映るのは「45歳、独身、派遣社員」というスペックだけだ。このスペックが、年齢とともにさらに不利になっていく。

住む場所がなくなる恐怖

住む場所がなくなる。この恐怖は、経験した人にしかわからない。

建て替えで退去を求められたとき、次の部屋が見つかるまでの2ヶ月間、毎日不安だった。「見つからなかったらどうしよう」。ホームレスになる? ネットカフェで暮らす? 現実的に考えると、住所不定になれば仕事も失う。住所がなければ、派遣登録も維持できない。住所→仕事→収入→住所、のサイクルが崩壊する。

結局、保証会社を利用して、なんとか次の部屋を見つけた。だが50歳、60歳になったとき、同じように見つけられるか。見つけられる保証はない。年齢が上がるほど、保証会社の審査も厳しくなる。審査に落ちたら、部屋を借りられない。借りられなかったら——。

この「借りられなかったら」の先を想像するのが怖い。怖いから想像しないようにしているが、たまに夜中に浮上してくる。浮上したら、深夜2時のスマートフォンで「高齢者 賃貸 借りられない 対策」と検索する。検索結果を読んで、少し安心するか、さらに不安になるか。

対策として考えていること

対策1。今の部屋にできるだけ長く住む。引っ越さなければ、新規の審査を受ける必要がない。更新を続ける限り、今の部屋に住み続けられる。建て替えや取り壊しがなければ。

対策2。UR賃貸を検討する。URは保証人不要、礼金不要、更新料不要。高齢者の入居も拒否しない。URがある限り、住む場所は確保できる。だがURの物件は人気があり、立地の良い物件は空きが少ない。

対策3。自治体の住宅支援を調べる。一部の自治体では、高齢者向けの住宅あっせんや家賃補助を行っている。現時点では対象年齢に達していないが、将来のために情報を集めておく。

対策4。セーフティネット住宅を知っておく。住宅確保要配慮者(高齢者、低所得者、障害者など)向けに登録された賃貸住宅の制度がある。入居を拒まない物件として登録されている。数はまだ少ないが、増加傾向にある。

対策5。最悪の場合、実家に戻る。実家は持ち家だ。親が亡くなったあと、実家を相続できれば住む場所は確保できる。だが実家は地方にあり、仕事がない。仕事がなければ収入がない。住む場所はあるが食べていけない。

どの対策にも一長一短がある。完璧な対策はない。不完璧な対策を複数組み合わせて、リスクを分散する。リスクがゼロにはならないが、少しでも小さくする。この「少しでも」の積み重ねが、老後の住居戦略だ。

持ち家という選択肢がない人間

「持ち家を買えば、老後の住居問題は解決する」。正論だ。持ち家があれば、大家の審査もないし、家賃もかからない。固定資産税と修繕費はかかるが、家賃よりは安い。

だが持ち家を買う余裕がない。頭金がない。住宅ローンの審査に通らない。派遣社員で年収300万円弱。銀行は貸してくれない。貸してくれても、返済が続くか不安だ。契約が切れて収入がゼロになったら、ローンが払えない。払えなければ家を取られる。

持ち家は、ある程度の安定した収入がある人間のための選択肢だ。安定していない人間には、賃貸しかない。賃貸は、年齢とともに不利になる。持ち家を買えない人間が、年齢とともに住む場所を失っていく。この構造は不公平だが、不公平を嘆いても住む場所は見つからない。

「高齢者は入居をお断り」の賃貸市場で、私は年を取っていく。取っていく年齢は止められない。止められない年齢と、狭まっていく選択肢。この二つが交差する地点に、住居喪失のリスクが待っている。

そのリスクに到達する前に、何らかの対策を打つ。打てるかどうかは、今後の行動次第だ。行動するための情報は集めた。あとは実行するだけ。実行する気力があるうちに。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。老後の住まいに不安を感じている人は、きっと少なくないはずです。

タイトルとURLをコピーしました