この世代が60代になったとき、社会は何を後悔するか
15年後の風景
2040年頃。氷河期世代は60代に突入する。1970年代前半生まれが70歳前後、後半生まれが60代半ば。この世代が一斉に「高齢者」になる時期だ。
そのとき、日本社会は何を目の当たりにするか。想像してみたい。
年金だけでは暮らせない高齢者が大量に発生する。氷河期世代は、非正規雇用の期間が長かった人が多い。厚生年金の加入期間が短く、受給額が低い。国民年金だけの人もいる。月5万円、6万円の年金で、家賃を払い、食費を確保し、医療費を捻出する。足りない。足りない人が、数百万人規模で存在する。
生活保護受給者が急増する。年金で暮らせない高齢者が生活保護に流れる。生活保護の財源は税金だ。現役世代の税負担が増える。現役世代は「なぜこの人たちの面倒を税金で見なければならないのか」と疑問に思うかもしれない。
孤独死が日常化する。氷河期世代の未婚率は高い。子どもがいない人も多い。一人暮らしの高齢者が大量に生まれる。見守る家族がいない。発見が遅れる孤独死が、統計上の数字を押し上げる。
介護の担い手が不足する。氷河期世代は子どもが少ない(いない人も多い)。子どもによる介護が期待できない。介護サービスに頼るしかないが、介護職の人手不足は深刻化している。需要は増え、供給は減る。
このような風景が、15年後に広がる可能性がある。可能性ではなく、高い蓋然性で。
社会が後悔すること
そのとき、社会は何を後悔するだろうか。
後悔1。「もっと早く支援すべきだった」。氷河期世代への就労支援は、2019年に始まった。就職氷河期から20年後だ。20年間放置した結果、問題は固定化した。40代、50代になってからの支援は、効果が限定的だった。20代のうちに手を打っていれば、正社員への移行率はもっと高かっただろう。もっと早く支援していれば、年金受給額も高くなっていた。もっと早く支援していれば、生活保護受給者の数はもっと少なかったはず。
後悔2。「非正規雇用を拡大しすぎた」。1990年代後半から2000年代にかけて、労働者派遣法の規制緩和が進んだ。企業は人件費を抑えるために、正社員を減らし、非正規を増やした。短期的には企業の利益になったが、長期的には社会全体のコストを増やした。非正規の低賃金→低消費→経済停滞→税収減少。非正規の低年金→生活保護増加→財政圧迫。企業が節約した人件費の何倍もの社会的コストが、20年後、30年後に発生する。
後悔3。「自己責任論で片づけてしまった」。氷河期世代の問題を「個人の努力不足」として処理した。構造的な問題を個人に帰責した結果、政策的な対応が遅れた。対応が遅れた結果、問題が深刻化した。自己責任論は、社会の責任回避のための便利な道具だった。だがその道具のツケは、社会全体に回ってくる。
後悔4。「この世代の声を聞かなかった」。氷河期世代は声を上げにくい世代だ。政治的な発言力が弱い。投票率が低い(投票に行く余裕がない、あるいは「投票しても変わらない」という諦め)。声が小さいから、政策の優先順位が低かった。優先順位が低かったから、対策が後手に回った。
後悔しても遅い
後悔は、事後にしか生まれない。2040年に「もっと早くやるべきだった」と言っても、2020年には戻れない。タイムマシンは存在しない。
だが2026年の今なら、まだ14年ある。14年あれば、多少の対策は打てる。
氷河期世代が60代になる前に、何ができるか。年金受給額を増やす施策(厚生年金の適用拡大、追納制度の充実)。住居の確保(公的賃貸住宅の拡充、セーフティネット住宅の増加)。孤独死防止のための見守りシステムの構築。介護体制の整備。
これらの施策は、今から始めれば効果が出る時間がある。今から始めなければ、2040年に「後悔」が確定する。
このエッセイを読んでいる政策関係者がいるとは思わないが、もしいたら、伝えたい。今やれ。今やらないと、15年後に後悔する。後悔するのは政策関係者だけではない。社会全体が後悔する。後悔の代償は、莫大な社会保障費として、現役世代に請求される。
氷河期世代自身にできること
社会の対応を待っているだけでは足りない。自分でできることもやる。
NISAの積立を続ける。健康を維持する。介護の準備をする。住居の確保を計画する。エンディングノートを書く。使える制度を調べて利用する。
これらは個人レベルの対策であり、構造的な問題の解決にはならない。だが個人レベルの対策を積み重ねることで、自分の「なんともならない」ラインを少しでも遠ざけることができる。
社会が後悔するのを待つ余裕はない。社会が後悔する前に、自分で動く。動いても足りないかもしれない。足りなくても、動かないよりはましだ。ゼロよりまし。このフレーズを、あと何回書くことになるだろう。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。この世代の未来に危機感を持っている人は、きっと少なくないはずです。

