もしタイムマシンがあったら1998年の自分に言いたいこと
1998年の自分
1998年。私は大学2年生だった。20歳。
あの頃の自分を思い出してみる。キャンパスを歩いていた。ゼミに出ていた。バイトをしていた。友達と安い居酒屋で飲んでいた。将来のことは漠然と考えていたが、深刻に悩んではいなかった。「なんとかなる」と思っていた。
1998年。バブル崩壊から数年が経ち、景気は低迷していたが、大学2年生の私には実感がなかった。就職活動はまだ先の話だった。先の話だから、心配していなかった。
もしタイムマシンがあったら、1998年のあの自分に会いに行きたい。会って、いくつかのことを伝えたい。伝えたら、未来は変わるだろうか。変わらないかもしれない。だが「知っていれば違った判断ができた」ことは、確実にある。
言いたいこと、その1:就職活動を舐めるな
まず言いたいのは、「就職活動を舐めるな」だ。
1998年の私は、就職活動の厳しさをまだ知らなかった。先輩の話を聞いても、「自分は大丈夫だろう」と思っていた。根拠のない自信。20歳の楽観。
2年後の2000年、就職活動が始まる。その頃には氷河期の真っ只中だ。100社落ちることになる。だが1998年の時点で準備していれば、結果は変わったかもしれない。
「インターンシップに行け」と言いたい。1998年の時点ではインターンシップはまだ一般的ではなかったが、存在はしていた。インターンに行けば、企業との接点ができる。接点があれば、採用のチャンスが広がる。大学2年生からインターンに参加する同級生は少なかった。少ないからこそ、参加した人間は目立つ。目立つことが、就活では有利に働く。
「資格を取れ」とも言いたい。簿記でもTOEICでもいい。何か客観的な指標を持っておけ。「何ができるか」を数字で示せるものがあれば、書類選考で少しだけ有利になる。20歳の時間があるうちに、資格の勉強をしておけ。
「OB訪問をしろ」とも言いたい。大学のキャリアセンターで卒業生の連絡先をもらい、社会人の話を聞く。リアルな就職市場の情報を得る。情報があるかないかで、戦い方が変わる。
だがこれらのアドバイスを1998年の自分に言っても、聞くだろうか。20歳の自分は、「就職なんてまだ先の話」と笑って聞き流すかもしれない。聞き流して、2年後に地獄を見る。見てから慌てても遅い。遅いことを、45歳の今、知っている。
言いたいこと、その2:お金の知識を身につけろ
次に言いたいのは、「お金の知識を早く身につけろ」だ。
20歳の私は、お金のことを何も知らなかった。税金の仕組み。社会保険の仕組み。年金の仕組み。投資の基礎。複利の効果。これらのことを一切知らずに社会に出た。
知らないまま10年、20年と過ごした。知っていれば避けられた損失がたくさんある。ふるさと納税を16年間使わなかった損失。NISAを遅く始めた損失。確定申告をしていなかった損失。「知らなかった」で損をした金額の合計は、数十万円にのぼる。
20歳の自分に言いたい。「お金の本を1冊でいいから読め」。図書館で借りればタダだ。タダで読める本から、一生使える知識が得られる。その知識が、将来の数十万円の差になる。
「複利の効果を知れ」とも言いたい。20歳から月5000円を積み立てれば、50歳で240万円以上になる(年利3%の場合)。45歳から始めた私は、50歳でもまだ30万円程度にしかならない。25年の差。この差は、知識の差だ。知っているか知らないかで、人生の蓄えが100万円以上変わる。
言いたいこと、その3:健康を大事にしろ
「健康を大事にしろ」。これも伝えたい。
20歳の自分は、健康を当たり前のものだと思っていた。体力がある。風邪を引いてもすぐ治る。徹夜しても翌日は平気。この「当たり前」は、30代後半から徐々に失われていく。失われてから気づいても遅い。
「歯を大事にしろ」。これは特に強調したい。歯医者に定期的に行け。半年に1回でいい。数千円で済む。行かないと、45歳で5万円の治療費を払うことになる。
「運動の習慣をつけろ」。週に2回でいい。散歩でもジョギングでもいい。20代のうちに運動習慣をつけておけば、40代の体力低下を緩和できる。つけなかった私は、45歳で階段を上るだけで息が切れている。
「ストレスを溜めるな」。溜め込むと、40代で心療内科のお世話になる。20代のうちからストレスの発散方法を見つけておけ。運動でも趣味でも。発散方法がないまま20年経つと、発散する方法が「酒」しかなくなる。酒は発散ではなく麻痺だ。麻痺は解決ではない。
言いたいこと、その4:人間関係を大事にしろ
「友達を大事にしろ」。これも痛切に伝えたい。
20歳の自分には友達がいた。10人くらい。その友達が、30代、40代とかけて、一人ずつ消えていった。消えていった理由の一部は、自分から連絡しなくなったからだ。仕事に追われて、連絡する気力がなくなった。
「連絡しろ。月に1回でいいから」と言いたい。月に1回、LINEで「元気?」と送るだけでいい。送り続けていれば、関係は維持される。維持されていれば、45歳になっても友達がゼロにはならなかったかもしれない。
人間関係は、放置すると枯れる植物のようなものだ。水をやれば生きる。やらなければ枯れる。水をやるのは簡単だ。LINEの一通。電話の一本。飲み会の一参加。これらの小さな行動が、関係を維持する水だ。
45歳の自分には、水をやる先の植物がもう残っていない。全部枯らしてしまった。枯れた植物は、水をやっても復活しない。だが20歳の時点なら、まだ植物は元気に生きている。元気なうちに水をやり続けてほしい。
言いたいこと、その5:自分を責めすぎるな
最後に言いたいことは、「自分を責めすぎるな」だ。
これから先、うまくいかないことがたくさん起きる。就職に失敗する。正社員になれない。結婚できない。貯金ができない。これらの「うまくいかないこと」に対して、社会は「自己責任」と言ってくる。自分でも「自分のせいだ」と思い始める。
自分のせいではない。自分のせいの部分もあるが、社会のせいの部分も大きい。どちらがどれだけの割合かは、正確にはわからない。わからないが、「100%自分のせい」ではないことは確かだ。
自分を責めすぎると、行動力が失われる。行動力が失われると、状況が改善しない。改善しないと、さらに自分を責める。このスパイラルに入ると、抜け出すのに何年もかかる。
自分を責める代わりに、「今できることは何か」を考えろ。考えたら、やれ。やっても結果が出ないかもしれない。出なくても、やったこと自体に価値がある。やらなければ、結果がゼロで確定する。やれば、ゼロ以上の可能性がある。
タイムマシンは存在しない
タイムマシンは存在しない。1998年の自分に会いに行くことはできない。伝えたいことは伝えられない。
だが、このエッセイを読んでいる20歳の誰かに、同じことを伝えることはできる。2026年の20歳に。
就職活動を舐めるな。お金の知識を身につけろ。健康を大事にしろ。友達を大事にしろ。自分を責めすぎるな。
この5つを、20歳の自分に伝えられなかった代わりに、20歳のあなたに伝える。聞くか聞かないかは、あなた次第だ。聞かないかもしれない。20歳の私も、聞かなかっただろう。だが言っておく。言っておくことに意味がある。25年後に、「あのとき聞いておけばよかった」と思うかもしれないから。思ったとき、このエッセイのことを思い出してくれたら、45歳の私の筆は報われる。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。「あの頃の自分に伝えたいこと」がある人は、きっと少なくないはずです。
