独身・一人暮らしの氷河期世代が今から始める「終活」完全ガイド——エンディングノート・遺言・デジタル遺品・葬儀の全準備
はじめに——「終活」は高齢者だけのものではない
「終活」と聞くと、70代80代の高齢者が行うものというイメージがある。だが独身・一人暮らしの氷河期世代にとって、終活は「今から」始めるべきものだ。
理由はシンプルだ。一人暮らしの独身者が突然死んだら、誰が後始末をするのか。預金はどうなるのか。部屋の片付けは誰がするのか。スマートフォンのデータは。SNSのアカウントは。葬儀は。埋葬は。
家族がいれば、家族がこれらを処理してくれる。だが独身で、親も高齢で、兄弟とは疎遠で、友達もいない。この状態で死んだら、すべてが宙に浮く。宙に浮いた問題は、最終的に自治体や関係機関が処理することになるが、処理されるまでに時間がかかり、思い通りの結果にはならない。
自分の最期を、少しでも自分でコントロールするために、今から準備を始める。このガイドでは、独身・一人暮らしの人が最低限やっておくべき終活の全知識を解説する。
エンディングノートを書く
終活の第一歩は「エンディングノート」を書くことだ。エンディングノートとは、自分に万が一のことがあったときのために、必要な情報や希望を書き残すノートだ。法的な拘束力はないが、残された人が対処するための「道しるべ」になる。
エンディングノートに書くべき項目を挙げる。
項目1は「基本情報」。氏名、生年月日、住所、本籍地、マイナンバー、健康保険証番号、年金番号。これらの情報が一カ所にまとまっていると、手続きがスムーズに進む。
項目2は「資産の情報」。銀行口座(銀行名、支店名、口座番号)、証券口座(NISA口座を含む)、生命保険・火災保険の契約情報、クレジットカードの情報、負債(ローン、借金)の情報。残された人が、資産と負債の全体像を把握するために必要。
項目3は「デジタル資産の情報」。スマートフォンのパスワード、メールアカウント、SNSアカウント(Twitter、Facebook、LINE等)、クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox等)、サブスクリプション(動画配信、音楽配信等)の契約情報。これらはパスワードがわからないとアクセスできない。パスワードをエンディングノートに記載するか、パスワード管理ツールのマスターパスワードを記載する。
項目4は「医療に関する希望」。延命治療を希望するか否か。臓器提供の意思。かかりつけ医の連絡先。服用中の薬のリスト。アレルギーの情報。
項目5は「葬儀に関する希望」。葬儀の形式(家族葬、直葬、一般葬、宗教葬、無宗教葬)。宗派。菩提寺。埋葬方法(墓、納骨堂、樹木葬、海洋散骨、永代供養)。遺影に使う写真。参列してほしい人のリスト。
項目6は「連絡先リスト」。親族の連絡先。友人の連絡先(いれば)。職場の連絡先。大家・管理会社の連絡先。万が一のとき、最初に連絡すべき人のリスト。
項目7は「伝えたいこと」。家族へのメッセージ。感謝の言葉。謝りたいこと。遺したい言葉。法的な効力はないが、残された人の心の支えになりうる。
エンディングノートは、市販のもの(1000〜2000円)でもいいし、普通のノートに自分で書いてもいい。自治体が無料で配布しているケースもある。ダウンロードして印刷できるテンプレートもネット上にある。費用はゼロでも始められる。
書いたエンディングノートは、信頼できる人に保管場所を伝えておく。「この引き出しにエンディングノートが入っている」と伝えておかなければ、ノートの存在自体が知られないまま終わる可能性がある。伝える相手がいない場合は、後述する「死後事務委任契約」を検討する。
遺言書を作成する
エンディングノートには法的拘束力がない。財産の分配について法的に有効な指示を残したい場合は「遺言書」を作成する。
独身で子どもがいない場合、法定相続人は親。親が亡くなっていれば兄弟姉妹。兄弟姉妹もいなければ(または全員亡くなっていれば)、財産は最終的に国庫に帰属する。
「自分の財産を特定の人に遺したい」「お世話になった人に少額でも渡したい」「特定の団体に寄付したい」という希望があれば、遺言書で指定する。遺言書がなければ、法定相続のルールに従って分配される。
遺言書の種類は主に二つ。「自筆証書遺言」は、全文を自分の手で書く。日付と署名を入れ、押印する。費用はほぼゼロ(紙とペン代のみ)。ただし形式に不備があると無効になるリスクがある。法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、法務局で保管してもらえる(手数料3900円)。保管してもらえば、紛失や改ざんのリスクがなくなる。
「公正証書遺言」は、公証役場で公証人に作成してもらう。証人2人が必要。費用は財産額に応じて数万円〜十数万円。形式の不備がないため、無効になるリスクが低い。確実を期するなら公正証書遺言がおすすめ。
財産が少ない(貯金50万円程度)場合、「わざわざ遺言書を作るほどではない」と思うかもしれない。だが50万円でも、誰に渡すかを指定しておかないと、法定相続のルールに従って疎遠な兄弟に分配されるか、国庫に入る。「この50万円は、自分の葬儀費用に使ってほしい」と遺言書に書いておけば、希望通りに使われる可能性が高い。
死後事務委任契約——「身寄りがない」人のための制度
独身で、身近に頼れる人がいない場合、「死後事務委任契約」を検討する価値がある。
死後事務委任契約とは、自分が死んだあとの事務手続き(葬儀の手配、遺品整理、各種契約の解約、行政への届出など)を、第三者に委任する契約だ。委任先は、弁護士、司法書士、行政書士、NPO法人、社会福祉法人などが一般的。
契約内容としては、死亡届の提出、葬儀・火葬の手配、埋葬の手配、賃貸住宅の明け渡し(家財の処分を含む)、公共料金・通信費等の解約、SNSアカウントの削除、関係者への連絡、遺品の整理・処分などが含まれる。
費用は、契約内容によって異なるが、契約時の報酬として30万〜100万円程度。さらに、死後事務の実費(葬儀費用、遺品整理費用など)が別途かかる。合計で50万〜200万円程度を、事前に預けておく(預託金方式)か、遺言で死後に支払う方法がある。
費用は安くない。貯金50万円の人間にとっては、全財産に匹敵する。だが死後事務委任契約を結ばずに死んだ場合、自治体が「行旅死亡人」として対応する。この場合、葬儀は最低限の直葬(火葬のみ)になり、遺品は処分され、希望通りの最期にはならない。
すぐに契約する必要はないが、「こういう制度がある」ことは知っておくべきだ。将来、少しでも貯蓄ができたら、検討する価値がある。
デジタル遺品の整理
現代の終活で見落としがちなのが「デジタル遺品」の問題だ。
デジタル遺品とは、故人が残したデジタルデータやオンラインアカウントのことだ。スマートフォンの中の写真、メール、LINE のトーク履歴、SNSのアカウント、クラウド上のファイル、ネットバンキングの口座、証券口座、サブスクリプションの契約。
これらのデジタル遺品は、パスワードがわからないとアクセスできない。スマートフォンのロック画面を解除できなければ、中のデータにはたどり着けない。ネットバンキングのIDとパスワードがわからなければ、口座の存在すら知ることができない(通帳がないオンライン専用口座の場合)。
対策として、まず「デジタル資産のリスト」を作成する。どの銀行にネット口座があるか、どの証券会社にNISA口座があるか、どのサービスにアカウントがあるか。リストをエンディングノートに記載する。
次に「パスワードの管理方法」を決める。すべてのパスワードをエンディングノートに書くのはセキュリティ上のリスクがある。パスワード管理アプリ(1PasswordやBitwardenなど)を使い、そのマスターパスワードだけをエンディングノートに記載する方法が安全だ。
SNSアカウントについては、死後にどうしたいかを決めておく。Facebookには「追悼アカウント管理人」を指定する機能がある。指定しておけば、死後にアカウントが追悼モードに切り替わる。Googleにも「アカウント無効化管理ツール」があり、一定期間ログインがなければ、指定した人にデータを共有する設定ができる。
サブスクリプション(月額課金サービス)は、死後に解約されないと課金が続く。口座が凍結されるまでの間、課金が積み上がる。リストを作っておき、解約の手順を記載しておくと、死後事務がスムーズになる。
葬儀と埋葬——費用を最小限にする選択肢
独身・一人暮らしの場合、葬儀の規模は最小限でいい。参列者が少ない(あるいはゼロに近い)なら、盛大な葬儀は不要だ。
最も費用が安いのは「直葬(火葬式)」。通夜も告別式も行わず、火葬のみ。費用は10万〜20万円程度。最もシンプルで、最も安い。「自分の葬式に人が来ない」なら、直葬で十分だ。
「家族葬」は、親族のみの少人数で行う葬儀。費用は30万〜80万円程度。親や兄弟が参列する場合はこちら。
埋葬の選択肢も複数ある。一般的な墓地への納骨は、墓石代・永代使用料で100万〜300万円。独身者にとっては高すぎる。代替手段として、「永代供養墓」(合祀墓)は5万〜30万円で利用できる。寺院や霊園が永続的に管理してくれるので、墓の維持管理が不要。「樹木葬」は10万〜50万円。自然の中に埋葬される。「海洋散骨」は5万〜30万円。海に遺骨を撒く。いずれも、従来の墓地より大幅に安い。
葬儀と埋葬の費用を合わせて、最低限なら15万〜50万円程度で完結できる。この費用を事前に確保しておく(貯蓄として残す、または死後事務委任契約の預託金に含める)ことが、終活の経済的な準備だ。
「今から」始める意味
45歳で終活は早すぎるだろうか。早すぎない。
人はいつ死ぬかわからない。事故、急病、突然死。明日死ぬかもしれない。明日死んだとき、何の準備もなければ、すべてが混乱する。準備があれば、少なくとも事務的な混乱は最小化できる。
終活は「死ぬための準備」ではない。「残りの人生を安心して生きるための準備」だ。準備ができていれば、「万が一のときはこうなる」と安心できる。安心すれば、日常のストレスが一つ減る。ストレスが減れば、生活の質が少しだけ上がる。
終活の第一歩は、エンディングノートを書くことだ。100均のノートでいい。今日、1ページ目を書いてみる。名前と生年月日。銀行口座の情報。緊急連絡先。5分で書ける。5分の作業で、「万が一」への備えが始まる。
5分の作業。それだけで、人生の最後の章に、ほんの少しだけ自分の意思を反映させることができる。反映させることが、自分の人生を最後まで自分でコントロールする、ということだ。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。終活について考え始めた人は、きっと少なくないはずです。

