「親が認知症かもしれない」と気づいた日——独身の子どもが最初にやるべき10のこと

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「親が認知症かもしれない」と気づいた日——独身の子どもが最初にやるべき10のこと

はじめに——「おかしい」と感じた最初の瞬間

月に1回の電話。母の声はいつもと同じ。元気そうだ。だが会話の中に「あれ?」と思う瞬間がある。同じ話を3回繰り返す。先週話した内容を覚えていない。「あの人の名前、なんだっけ」と、近所の人の名前が出てこない。

「年を取ればそんなもんだろう」と最初は思った。75歳なら物忘れは普通だ。だが帰省したとき、違和感は確信に変わった。冷蔵庫に同じヨーグルトが5個入っている。買ったことを忘れて、また買っている。ガスコンロの上に鍋が空焚きの跡。リビングのカレンダーが3ヶ月前のまま。

「これは普通の物忘れじゃない」。認知症の可能性が頭をよぎる。だがどうすればいいかわからない。病院に連れて行くべきか。何科を受診すればいいか。本人にどう伝えるか。「認知症」という言葉を出したら、怒るだろうか。傷つくだろうか。

このエッセイでは、「親が認知症かもしれない」と気づいたとき、独身の子どもが最初にやるべき10のことを、順序立てて解説する。パニックにならないための手引書だ。

やるべきこと1:「認知症の初期症状」を確認する

まず、自分が感じた違和感が「認知症の初期症状」に該当するかを確認する。以下は一般的な認知症の初期症状だ。

同じ話を何度もする。最近の出来事を忘れる(昨日の夕食の内容を覚えていない等)。日付や曜日がわからなくなる。よく知っている場所で道に迷う。料理の手順がわからなくなる。お金の管理ができなくなる(同じものを何度も買う、請求書を払い忘れる)。性格の変化(怒りっぽくなる、無気力になる、疑い深くなる)。身だしなみに気を遣わなくなる。趣味や社交に興味を示さなくなる。

これらの症状が複数当てはまり、かつ半年〜1年の間に目立つようになっているなら、認知症の可能性がある。ただし「可能性がある」だけであり、確定ではない。同様の症状は、うつ病、甲状腺機能低下症、薬の副作用、栄養不足でも起こりうる。医師の診断が必要だ。

やるべきこと2:地域包括支援センターに相談する

「認知症かもしれない」と感じたら、まず「地域包括支援センター」に相談する。親が住んでいる地域のセンターに電話する。「離れて暮らしている親のことで相談したいのですが。最近物忘れが増えて心配です」と伝える。

地域包括支援センターには、認知症に詳しい専門スタッフ(認知症地域支援推進員)がいる。相談すれば、受診先の案内、サービスの紹介、今後の対応方針のアドバイスを受けられる。相談は無料。電話でも可能。

「まだ認知症と決まったわけじゃないのに相談していいの?」と迷うかもしれない。いい。むしろ早い段階で相談するほうがいい。認知症は早期発見・早期対応が極めて重要だ。早期に適切な対応を始めれば、進行を遅らせることができる。

やるべきこと3:受診先を確認する——「もの忘れ外来」

認知症の診断は「もの忘れ外来」または「神経内科」「精神科(老年精神科)」で行う。「もの忘れ外来」は認知症の診断と治療に特化した外来だ。総合病院やクリニックに設置されていることが多い。

受診先の探し方。「もの忘れ外来 ○○市」で検索すれば、近くの医療機関が見つかる。地域包括支援センターでも紹介してもらえる。かかりつけ医がいれば、かかりつけ医から「もの忘れ外来」への紹介状を書いてもらう。

診断では、問診(いつから症状があるか、どんな症状か)、認知機能テスト(長谷川式簡易知能評価スケール等)、脳の画像検査(MRIやCT)が行われる。診断結果は当日〜数日後に出る。

やるべきこと4:親をどうやって病院に連れて行くか

最大の難関は「親を病院に連れて行く」ことだ。認知症の初期段階では、本人に自覚がないことが多い。「自分は大丈夫」と思っている。「病院に行こう」と言えば、「なぜ?」「自分はボケていない」と拒否されるリスクがある。

連れて行き方のコツ1は「認知症という言葉を使わない」こと。「最近ちょっと疲れやすいみたいだから、健康診断を受けてみない?」「かかりつけの先生が、年齢的に脳の検査を勧めてるらしいよ」。認知症ではなく「健康チェック」として提案する。

コツ2は「かかりつけ医を経由する」こと。かかりつけ医に事前に連絡し、「次の受診時に認知機能のチェックをしてほしい」と依頼する。いつもの通院のついでに検査を受ける形にすれば、本人の抵抗が少ない。

コツ3は「帰省のタイミングに合わせる」こと。帰省時に「一緒に病院に行こう」と誘う。遠距離なら、帰省のスケジュールに合わせて予約を取る。

やるべきこと5:認知症と診断された場合の「最初の対応」

診断の結果、認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症など)と診断された場合。最初の対応を整理する。

対応1は「治療方針の確認」。現在の医学では認知症を完治させる薬はないが、進行を遅らせる薬(ドネペジル等)がある。早期に服用を開始すれば、進行を数年遅らせることが可能とされる。医師と治療方針を確認する。

対応2は「要介護認定の申請」。認知症の診断を受けたら、要介護認定の申請を行う。認知症は「介護が必要な状態」と認定される可能性が高い。認定を受ければ、介護保険サービスが利用できる。

対応3は「財産管理の準備」。認知症が進行すると、お金の管理ができなくなる。銀行口座の暗証番号を忘れる。詐欺に騙される。高額な買い物をしてしまう。進行する前に「成年後見制度」や「家族信託」の準備を検討する。または「日常生活自立支援事業」(社会福祉協議会が提供する金銭管理のサポートサービス)を利用する。

対応4は「生活環境の安全確認」。ガスコンロをIHに交換する(火災防止)。玄関に鍵のかけ忘れ防止の工夫をする。徘徊のリスクがある場合はGPSデバイスを持たせる。

やるべきこと6:お金の管理を確保する

認知症で最も問題になるのが「お金の管理」だ。

リスク1は「銀行口座が使えなくなる」こと。認知症が進行し、銀行が「本人の判断能力がない」と判断した場合、口座が凍結される可能性がある。凍結されると、年金の引き出しも、公共料金の引き落としもできなくなる。

対策は「成年後見制度」の利用だ。家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任してもらう。後見人が本人に代わって財産を管理する。後見人には弁護士、司法書士、社会福祉士、または家族がなれる。申立費用は1〜2万円。後見人への報酬は月2〜6万円(家庭裁判所が決定)。費用は本人の財産から支払われる。

認知症の初期段階なら「任意後見制度」が使える。本人の判断能力があるうちに、将来の後見人を本人が指定しておく制度。公正証書で契約する。将来、判断能力が低下した段階で後見が開始される。費用は公証人手数料11000円+弁護士等への報酬。

やるべきこと7〜10:生活の安全・サービスの手配・自分の心のケア・長期計画

やるべきこと7は「介護サービスの手配」。ケアマネジャーと相談して、認知症に対応したサービスを組み入れる。認知症対応型デイサービス、認知症対応型グループホーム。これらは認知症の人に特化したケアを提供する。

やるべきこと8は「親の安全を確保する」こと。火災防止(IHへの交換、火災報知器の設置)、転倒防止(手すりの設置、段差の解消)、徘徊対策(GPSデバイス、靴にQRコードシールを貼る)、詐欺対策(固定電話に迷惑電話ブロック機能をつける)。

やるべきこと9は「自分のメンタルをケアする」こと。親が認知症と診断されたとき、子どもは大きなショックを受ける。「あの元気だった親が」「自分のことも忘れてしまうのか」。悲しみ、怒り、絶望。これらの感情は自然だ。感情を否定せず、受け止める。一人で抱え込まず、地域包括支援センターや介護者の会に相談する。

やるべきこと10は「長期計画を立てる」こと。認知症は進行する。今は軽度でも、数年後には中度、重度になる可能性がある。進行した場合にどうするか。在宅介護を続けるか、施設に入所するか。費用はどうするか。成年後見制度を使うか。長期的な見通しを立てておく。見通しがあれば、変化に対応できる。見通しがなければ、変化のたびにパニックになる。

認知症の親との「コミュニケーション」

認知症になっても、親は親だ。感情は残っている。楽しい、悲しい、嬉しい、怒り。これらの感情は、認知機能が低下しても失われない。

コミュニケーションのコツ。ゆっくり、短い文で話す。「あれ」「それ」ではなく、具体的な言葉を使う。否定しない。「違うでしょ」「さっきも言ったでしょ」は禁句。「そうだね」「うんうん」と受け止める。同じ話を繰り返されても、初めて聞いたように反応する。笑顔で接する。声のトーンを穏やかにする。

認知症の親とのコミュニケーションは、忍耐が必要だ。忍耐が尽きそうになったら、その場を離れる。深呼吸する。「これは病気のせいだ。親のせいではない」と自分に言い聞かせる。

まとめ——「気づいた日」が「始まりの日」

「親が認知症かもしれない」と気づいた日は、恐怖と不安に満ちた日だ。だがその日は「始まりの日」でもある。気づいたから、行動できる。行動すれば、早期の対応ができる。早期の対応ができれば、進行を遅らせ、親の生活の質を少しでも長く維持できる。

気づかなかった場合の「最悪のシナリオ」を想像してほしい。気づかないまま放置し、認知症が進行し、ガスの火災、詐欺被害、徘徊による事故。気づいていれば防げたかもしれない事態が、気づかなかったために起きる。

気づいたなら、行動する。行動の第一歩は「地域包括支援センターに電話する」。電話1本。5分。この5分が、親の人生と自分の人生を大きく変える可能性がある。今日、電話番号だけでもスマートフォンに登録しておこう。「もしも」のときに、すぐに電話できるように。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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