45歳独身が「エンディングノート」を書いてみた——書くことで見えた「今」の大切さ
はじめに——「終活」は高齢者だけのものか
「エンディングノート」と聞くと、70代80代の高齢者が書くものだと思っていた。45歳でエンディングノートを書くのは、早すぎるだろうか。
早すぎない。むしろ45歳こそ書くべきだ。理由は二つある。一つは「いつ死ぬかわからない」から。交通事故、突然の心臓発作、脳卒中。年齢に関係なく、突然命を失うリスクはある。独身で一人暮らしの自分が突然死んだら、誰がどうするのか。何の情報もなければ、残された人(母、兄弟)は途方に暮れる。
もう一つの理由は「書くことで『今の自分』が見えるから」。エンディングノートは「死後のための準備」であると同時に、「今の自分の棚卸し」でもある。資産、保険、人間関係、価値観。これらを書き出す作業は、「自分は何を持っていて、何を大切にしているか」を明確にしてくれる。
100均のノートで十分
書店でエンディングノートを探すと、1000〜2000円の専用ノートが売っている。項目が印刷されていて、記入するだけの形式。便利だが、100均のノート(110円)で十分だ。自分で項目を書けばいい。110円で「万が一への備え」が整う。
書くべき項目一覧
項目1は「基本情報」。氏名、生年月日、住所、本籍地、血液型。マイナンバー。健康保険証の番号。年金番号。運転免許証の番号。これらの情報が一カ所にまとまっていると、死後の手続きがスムーズになる。
項目2は「緊急連絡先」。母の名前・住所・電話番号。兄弟の名前・住所・電話番号。職場(派遣元)の連絡先。かかりつけ医の名前・電話番号。「自分が倒れたとき、最初に連絡してほしい人」のリスト。
項目3は「資産情報」。銀行口座(銀行名、支店名、口座番号)。証券口座(証券会社名、口座番号。NISA口座の有無)。クレジットカードの番号。ネット銀行のログイン情報。生命保険の加入状況(保険会社名、証券番号、受取人)。その他の資産(貯蓄型保険、iDeCo等)。借金がある場合は借入先と残高。
項目4は「デジタル資産」。スマートフォンのロック解除パスワード。メールアドレスとパスワード。SNSアカウント。サブスクリプションの一覧と解約方法。前のエッセイ(独身23「デジタル遺品問題」)で詳しく解説した。
項目5は「医療・介護の希望」。延命治療を望むか。人工呼吸器、心肺蘇生、胃ろう。これらを「する」か「しない」か。臓器提供の意思表示。アレルギーの有無。服用中の薬。
項目6は「葬儀の希望」。直葬(火葬のみ)か家族葬か一般葬か。宗派。読経を希望するか。花の種類。遺影の写真(「この写真を使ってほしい」と指定できる。スマートフォンに入っている写真の保存場所を記載)。
項目7は「埋葬の希望」。お墓に入るか(実家の墓がある場合)。永代供養墓(合祀墓)にするか。樹木葬にするか。海洋散骨にするか。費用の目安も添える。
項目8は「遺品の処理」。部屋の中の物をどうするか。「すべて処分してください」で十分。特定の物を特定の人に渡したい場合は、その旨を記載する。
項目9は「メッセージ」。母へ、兄弟へ、もし伝えたいことがあれば。「お母さん、今までありがとう」。この一文が書いてあるだけで、残された人の心が少し楽になる。
書いてみて気づいたこと
エンディングノートを書いてみて、いくつかの気づきがあった。
気づき1は「自分の資産が少ないこと」。銀行口座に50万円。NISA口座に数万円。これが全財産。少ない。だが「少ない」ことを正確に把握したことで、「だからこそ計画的に貯めなければ」という動機が強まった。
気づき2は「緊急連絡先に書く名前が少ないこと」。母と兄弟。それだけ。友人はいない。この事実を改めて突きつけられた。だが「いない」ことがわかったから、「つながりを作る」行動の動機になった。
気づき3は「『死後のこと』を考えると『今のこと』が見えてくる」こと。葬儀の希望を書きながら、「自分は何のために生きているのか」を考えた。大げさな問いだが、エンディングノートを書く行為が、この問いを自然に引き出してくれた。答えは見つからなかったが、問いを持つこと自体に価値があると感じた。
気づき4は「書くと安心する」こと。「万が一のとき、何も準備していない」不安が、「エンディングノートに全部書いた」安心に変わった。安心は、日常の精神的な安定につながる。不安が一つ減るだけで、日常が少し軽くなる。
エンディングノートの「保管場所」と「伝え方」
書いたエンディングノートは、自宅の目立つ場所に保管する。引き出しの奥にしまうと、見つけてもらえない。本棚の目立つ場所、ベッドサイドの棚。「ここにエンディングノートがあります」と、表紙に大きく書いておく。
保管場所を、緊急連絡先の人(母、兄弟)に伝えておく。「○○の棚にエンディングノートを置いてある。万が一のときは見てくれ」。伝えておかなければ、ノートの存在自体が知られない。
「遺言書」との違い
エンディングノートは法的拘束力がない。遺言書には法的拘束力がある。エンディングノートに「財産は母に」と書いても、法的には効力がない。法的に有効な遺言書を残したい場合は、「自筆証書遺言」を別途作成する。自筆証書遺言は、全文を自筆で書き、日付と署名と押印をする。法務局の保管制度(手数料3900円)を使えば、紛失や改ざんのリスクを防げる。
独身で資産が少ない場合、遺言書は不要なことが多い。法定相続人(母、兄弟)がいれば、法律に従って相続される。トラブルの余地が少なければ、遺言書なしでも問題ない。エンディングノートで十分。
まとめ——「死後の準備」は「今を生きるための準備」
エンディングノートを書くのに1〜2時間。100均のノート110円。このコストで、「万が一への備え」と「今の自分の棚卸し」が同時にできる。
書き終わった後、不思議と気持ちが軽くなった。「準備ができた」安心感。「自分の人生を俯瞰できた」充実感。そして「まだまだ生きなきゃ」という小さな決意。エンディングノートは「終わりの準備」ではなく「続きの準備」だ。続きを生きるために、終わりに備える。備えがあれば、安心して続きに集中できる。
今夜、100均で買ったノートを開いてみてほしい。最初のページに「エンディングノート」と書く。次のページに名前と生年月日を書く。それだけで、今日の自分は「備えた自分」に変わる。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

