一人暮らしの部屋で「話し相手がいない」問題——声を出す機会をどう作るか

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一人暮らしの部屋で「話し相手がいない」問題——声を出す機会をどう作るか

はじめに——1週間で「ありがとうございます」しか言っていない

先週、自分が発した言葉を振り返ってみた。月曜日から金曜日まで、職場で交わした最低限の業務連絡。「おはようございます」「お疲れさまです」「はい、わかりました」「ありがとうございます」。これだけだ。雑談はない。ランチは一人。休憩時間もスマートフォンを見ている。

土日は完全に無言。一人暮らしの部屋に話し相手はいない。テレビに向かって「へえ」と相槌を打つことはあるが、会話ではない。スーパーのレジで「袋いりません」と言うのが、休日の唯一の発声。

「1週間で意味のある会話をしていない」。この事実に気づいたとき、背筋が寒くなった。声を出さない生活が続くと、声帯が衰える。滑舌が悪くなる。言葉が出にくくなる。コミュニケーション能力が低下する。低下すると、ますます会話を避けるようになる。避けると、ますます衰える。この悪循環が、一人暮らしの独身中年を静かに蝕んでいる。

「声を出さない」ことの身体的リスク

声を出さない生活が続くと、身体にも影響がある。

リスク1は「声帯の萎縮」だ。声帯は筋肉で動く。使わなければ筋肉は萎縮する。長期間声を出さないと、声がかすれる、声が小さくなる、声が出にくくなるなどの症状が現れる。高齢者に「声が小さい」人が多いのは、加齢だけでなく「声を出す機会が減った」ことも原因の一つだ。45歳から声を出さない生活を続ければ、65歳のときには声帯がかなり衰えている可能性がある。

リスク2は「嚥下機能の低下」だ。声帯は食べ物を飲み込む(嚥下する)ときにも使われる。声帯が衰えると、嚥下機能も低下し、誤嚥(食べ物が気管に入ること)のリスクが高まる。誤嚥性肺炎は高齢者の死因の上位だ。声を出さない生活は、将来の誤嚥性肺炎のリスクを高める。

リスク3は「認知機能への影響」だ。会話は脳にとって高度な活動だ。相手の言葉を聞き取り、理解し、返答を考え、言語化し、発声する。このプロセスが脳の広い領域を活性化する。会話がないと、この活性化の機会が失われる。会話の減少は、認知機能の低下と相関するという研究がある。

「声を出す機会」を意識的に作る方法

一人暮らしでも、声を出す機会は作れる。意識的に作らなければ、ゼロのまま。意識的に作れば、ゼロから脱出できる。

方法1は「音読する」ことだ。本、新聞、ウェブ記事。何でもいい。声に出して読む。1日5分で十分。朝起きたら、ニュースサイトの記事を1つ音読する。音読は声帯のトレーニングになるだけでなく、読解力の向上、記憶の定着にも効果がある。一人暮らしなら、誰に聞かれることもなく、思い切り声を出せる。

方法2は「歌う」ことだ。入浴中に歌う。洗い物をしながら歌う。掃除をしながら鼻歌を歌う。カラオケに行く必要はない(行ってもいいが、費用がかかる)。自宅で好きな曲を口ずさむだけでいい。歌は声帯のトレーニングとして最適だ。さらに、歌うことはストレス発散にもなる。一人暮らしの部屋で熱唱する。誰にも迷惑はかけない(壁の薄いアパートでなければ)。

方法3は「独り言を言う」ことだ。「独り言はヤバい人の行動」と思われるかもしれないが、一人暮らしの部屋で誰も聞いていないなら問題ない。料理しながら「よし、次は塩を入れよう」。テレビを見ながら「いや、そうじゃないだろう」。散歩しながら「今日はいい天気だな」。独り言を言うことで、思考が言語化され、声帯が使われ、脳が活性化する。

方法4は「オンラインの音声コミュニケーションを使う」ことだ。Discordの音声チャット、スタンドFM、Clubhouseなどの音声SNS。テキストのチャットではなく、音声でコミュニケーションする場を利用する。匿名で参加できるので、リアルの知人に知られるリスクがない。趣味のコミュニティ(将棋、映画、料理など)に参加すれば、共通の話題で会話ができる。

方法5は「電話をかける」ことだ。親に電話する。兄弟に電話する。月に1回、5分でいい。「元気?」「うん、元気」。この短い会話だけでも、声帯は使われ、人との接点が維持される。電話が苦手な人もいるが、LINE通話なら通話料も無料だ。メッセージではなく、あえて「電話」にする。文字では声帯は動かない。声を出すことが目的なのだから、電話がベストだ。

方法6は「接客のある場所に行く」ことだ。カフェで「アイスコーヒーをください」。本屋で「○○という本はありますか?」。美容室で「短めにお願いします」。店員との会話は短いが、「人と言葉を交わす」機会になる。接客のある場所に意識的に足を運ぶことで、最低限の会話機会を確保する。

方法7は「朗読のボランティアに参加する」ことだ。視覚障害者向けの朗読ボランティア、高齢者施設での読み聞かせボランティア。社会福祉協議会のウェブサイトで情報を探せる。声を出すトレーニングになり、社会貢献にもなり、人との交流も生まれる。一石三鳥だ。

「話し相手がいない」問題の心理的側面

声を出す機会を作るのは「身体的な維持」の問題だが、「話し相手がいない」のはもっと深い「心理的な問題」でもある。

人間は社会的な動物だ。他者とコミュニケーションすることで、自分の存在を確認する。「誰かに話を聞いてもらう」ことで、自分の感情や考えが「現実」のものとして認識される。話し相手がいないと、自分の感情や考えが「宙に浮いた」状態になる。宙に浮くと、「自分はここにいるのか」という存在感の希薄化が起きる。

この存在感の希薄化が、精神的な健康に影響する。「自分がいなくなっても誰も困らない」「自分の言葉を聞いてくれる人がいない」。これらの思いが、自己肯定感を蝕む。

対策は「自分の言葉を受け取ってくれる場所を見つける」ことだ。対面の会話が難しければ、オンラインでいい。SNSへの投稿でいい。ブログの記事でいい。日記でもいい。「自分の言葉を世界に発信する」行為が、存在感の希薄化を防ぐ。誰かに読まれなくても、「発信した」という行為自体が、自分の存在を自分で確認する手段になる。

「沈黙の快適さ」も受け入れる

ここまで「声を出す機会を作ろう」と書いてきたが、逆のことも書いておく。「沈黙の快適さ」もある。

一人暮らしの部屋の静けさは、時に最高の贅沢だ。誰にも気を遣わない。誰の声も聞かなくていい。自分のペースで、自分の時間を過ごせる。この静けさを「孤独」と感じるか「自由」と感じるかは、その日の気分による。

「自由」と感じる日は、沈黙を楽しめばいい。「孤独」と感じる日は、上記の方法で声を出す機会を作ればいい。どちらの日もあっていい。どちらの感覚も正しい。「沈黙=悪」ではない。「沈黙が永続する=リスク」なだけだ。

沈黙と会話のバランスを取る。このバランス感覚が、一人暮らしの独身中年の「心の健康」を維持する鍵だ。

まとめ——「声」は使わなければ衰える。使えば維持できる

声帯も筋肉も脳も、「使わなければ衰える」。一人暮らしの独身中年は、意識しなければ「声を出す機会がゼロ」になりうる。ゼロが数年続けば、声帯が衰え、嚥下機能が低下し、コミュニケーション能力が鈍る。

対策はシンプルだ。毎日5分、声を出す。音読でも歌でも独り言でもいい。5分の声出しが、声帯を維持し、脳を活性化し、存在感の希薄化を防ぐ。5分のコストはゼロ。リターンは「健康な声」と「健全な精神」。

明日の朝、起きたら声を出してみてほしい。「おはようございます」。誰もいない部屋で。自分に向かって。それだけで、今日の「声を出した記録」が1になる。ゼロと1の差は、数学的には小さいが、人生的には大きい。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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