はじめに——「非正規公務員」という選択肢を知っているか
公務員試験に合格する自信がない。勉強する時間が取れない。倍率が高すぎて受かる気がしない。こうした理由で公務員を諦めている人に、もう一つのルートを紹介する。「会計年度任用職員」として自治体で働きながら、正規の公務員試験に挑戦するルートだ。
会計年度任用職員とは、2020年4月に制度化された自治体の非正規職員だ。以前の「臨時職員」「嘱託職員」が、この名称に統一された。任期は原則1年(更新あり)。仕事内容は正規職員とほぼ同じ場合もあれば、補助的な業務に限定される場合もある。
「非正規公務員?それなら今の派遣と変わらないじゃないか」。確かに雇用の安定性は正規公務員より劣る。だが「自治体の内部で働きながら、正規の採用試験を受ける」という戦略的な位置づけで捉えれば、会計年度任用職員は「正規公務員への踏み台」になりうる。
会計年度任用職員の「メリット」——正規を目指す上での優位点
メリット1は「自治体の仕事を『中から』知れる」ことだ。正規の公務員試験の面接では「この自治体で何がしたいか」が問われる。外部からの情報だけで答えるのと、実際に中で働いた経験をもとに答えるのとでは、説得力がまるで違う。「会計年度任用職員として○○課で1年間働き、住民の方々の声を直接聞く中で、福祉分野の業務に強い関心を持ちました」。この志望動機は、外部からの受験者には書けない。
メリット2は「面接で『公務員としての適性』をアピールできる」ことだ。「すでに自治体で働いている」という事実が、「この人は公務員の仕事に適応できる」という根拠になる。面接官にとって「未知の候補者」より「すでに中で働いている候補者」のほうが、採用のリスクが低い。
メリット3は「公務員試験の情報が入りやすい」ことだ。自治体で働いていれば、採用試験の情報が早く入る。正規職員から「今年の試験はこういう傾向だった」「面接ではこう聞かれた」などの内部情報を得られる可能性がある(守秘義務に抵触しない範囲で)。情報のアドバンテージは大きい。
メリット4は「勤務しながら勉強のリズムを作れる」ことだ。会計年度任用職員はフルタイムとパートタイムがある。パートタイム(週20〜30時間程度)を選べば、勉強時間を確保しやすい。「午前中は自治体で働き、午後は図書館で勉強する」生活が可能。
会計年度任用職員の「デメリット」——覚悟すべきこと
デメリット1は「給与が低い」こと。フルタイムの会計年度任用職員の月給は15〜20万円程度。パートタイムなら時給1000〜1300円。正規公務員より低く、派遣社員と同等かやや低い場合もある。ボーナスは支給される自治体が増えているが、正規の半分程度。
デメリット2は「雇用が不安定」なこと。任期は1年。更新されるかどうかは年度末まで確定しない。3年間更新された後に「今年は更新しません」と言われる可能性もある。正規公務員への「踏み台」と割り切っていれば、この不安定さは「一時的なもの」として受け入れられる。
デメリット3は「正規職員との待遇差」を日々感じることだ。同じ仕事をしていても、正規職員にはボーナスが満額出て、退職金があり、昇給がある。自分にはそれがない。この格差を「日常的に」目の当たりにするのは、精神的に辛い。だがこの辛さが「正規になるための勉強」のモチベーションになる、とポジティブに捉えることもできる。
会計年度任用職員の「なり方」
会計年度任用職員の求人は、各自治体のウェブサイトやハローワークに掲載される。「○○市 会計年度任用職員 募集」で検索すれば、現在の募集情報が見つかる。
応募に必要なもの。履歴書。面接(書類選考の後に簡単な面接がある場合が多い。正規の公務員試験ほどの厳密さはない)。特別な資格は不要な場合が多い(事務補助の場合)。保育士、保健師、図書館司書などの専門職は資格が必要。
採用時期。多くの自治体が3月〜4月の年度替わりに合わせて募集する。だが欠員が出れば年度途中でも募集がある。「常にチェックしておく」ことが重要。
選ぶべき部署。正規の公務員試験の面接で「活かせる経験」が積める部署を選ぶ。市民課(窓口対応の経験。「市民サービス」の実体験が語れる)。福祉課(生活困窮者支援の経験。「当事者意識」をアピールする材料になる)。税務課(税の知識が身につく。筆記試験の「社会科学」の勉強にもなる)。
「会計年度任用職員→正規公務員」の具体的なステップ
ステップ1。会計年度任用職員として自治体に採用される(応募→面接→採用。1〜2ヶ月)。ステップ2。働きながら、正規の公務員試験(氷河期世代向けまたは社会人採用枠)の勉強をする(6ヶ月〜1年)。ステップ3。正規の公務員試験を受験する。ステップ4。合格すれば正規公務員として採用。不合格なら翌年再受験(会計年度任用職員として働き続けながら)。
このルートの最大の利点は「収入を得ながら試験勉強ができる」ことだ。退職して無収入で試験勉強に専念するのはリスクが高い。会計年度任用職員として月15〜20万円の収入を得ながら勉強すれば、経済的なリスクを最小化できる。
「会計年度任用職員の経験」を面接でどう語るか
正規の公務員試験の面接で、会計年度任用職員の経験は最大の武器になる。以下のように語る。
「私は○○市の会計年度任用職員として市民課で1年間勤務しました。窓口で住民の方々の相談に対応する中で、行政サービスの最前線の重要性を実感しました。特に印象に残っているのは、転入手続きに来られた高齢の方が、手続きの複雑さに困惑されていた場面です。私はその方に一つひとつ丁寧に説明し、最後に『ありがとう、助かった』と言っていただきました。この経験から、正規職員として市民サービスの質を高めることに貢献したいと強く思うようになりました」。
このエピソードは「外部からの受験者」には絶対に語れない。「中で働いたからこそ語れる具体的なエピソード」が、面接の差別化ポイントになる。
注意点——「会計年度任用職員だから有利」ではない
重要な注意点がある。「会計年度任用職員として働いていれば、正規の試験で有利になる」わけではない。正規の公務員試験は「公平・公正」が原則。内部の非正規職員だからといって、筆記試験の点数に加算されたり、面接で優遇されたりすることはない(あってはならない)。
会計年度任用職員の経験が活きるのは、あくまで「面接での説得力」「志望動機の具体性」「自治体への理解の深さ」といった「実力」の部分。筆記試験は他の受験者と同じ条件で受ける。勉強は手を抜けない。
「中にいるから受かるだろう」という甘い考えは禁物。「中にいるからこそ、より具体的で説得力のあるアピールができる」——この認識が正しい。アピールの材料を持っていても、それを「使いこなす」準備(面接対策)がなければ意味がない。
「踏み台」は「踏まれる台」ではない
「会計年度任用職員を踏み台にする」という表現に抵抗を感じる人もいるだろう。「非正規を経験として利用する」ように聞こえるかもしれない。だが「踏み台」は「次のステージに上がるための足場」であり、「踏みつける」ことではない。会計年度任用職員として真剣に働き、自治体に貢献しながら、同時に正規を目指す。「真剣に働く」ことと「正規を目指す」ことは矛盾しない。むしろ「真剣に働いているからこそ、正規になりたい」。この動機は自然であり、健全だ。
会計年度任用職員の経験は「踏み台」であると同時に「基礎」だ。基礎がしっかりしていれば、正規公務員としての仕事も安定する。「すでに現場を知っている」正規新人は、「現場を知らない」正規新人より、立ち上がりが早い。自治体にとっても、会計年度任用職員から正規に上がる人材は「即戦力」であり、歓迎されるべき存在だ。
まとめ——「遠回り」に見えて「最短ルート」かもしれない
「会計年度任用職員→正規公務員」のルートは、一見「遠回り」に見える。だが「いきなり正規の試験を受けて不合格→諦める」よりも、「会計年度任用職員として中に入り、経験を積みながら試験に挑戦する」ほうが、「合格率」と「合格後の適応力」の両方で有利だ。
遠回りに見えて、実は最短ルートかもしれない。少なくとも「何もしないまま年齢だけが上がる」よりは、確実に前に進んでいる。前に進んでいれば、いつかゴールに着く。ゴールは「正規の公務員」。そのゴールに向かう道の一つが「会計年度任用職員」だ。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

