氷河期世代の「沈黙」の技術——1日に話す言葉が50語以下の日がある

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はじめに——「今日、誰とも話さなかった」

金曜日の夜。帰宅してもやし炒めを作り、発泡酒を開け、「ふぅ」と息をつく。ふと考える。「今日、誰と話した?」。思い出す。朝、コンビニで「袋いりません」(5語)。職場で「おはようございます」「お疲れ様です」(10語)。派遣先の電話応対で定型文を数回(30語程度)。帰宅後——誰とも話していない。合計:約45語。「今日、自分の口から出た言葉は45語」。

45語。俳句は17音。45語は「俳句3句分」くらいの情報量。1日の会話が「俳句3句分」。これは——「普通」なのか。日本人の1日の平均発話語数は約1万6000語とされる。自分はその0.28%。「平均の350分の1しか話していない」。

「沈黙」は氷河期世代の一人暮らし独身男性にとって「日常」だ。話す相手がいない。話す必要がない。話すスキルが衰える。衰えるからさらに話さなくなる。「沈黙のスパイラル」。このエッセイでは「沈黙」を多角的に分析し、「沈黙の中で生きる技術」と「沈黙から抜け出す方法」を示す。

第1章 「1日の発話量」を測定する——沈黙の定量分析

平日の発話量を推定する。朝の挨拶(コンビニまたは通勤路で):5〜10語。職場での業務連絡:20〜50語(派遣事務は「定型的なやりとり」が中心。「この書類、確認お願いします」程度)。電話応対(ある日):50〜100語。電話応対(ない日):0語。昼食時の会話:0語(一人で食べるため)。帰宅後:0語(一人暮らしのため)。

平日の発話量:推定25〜160語。「電話応対がない日」は25〜60語。「ある日」は100〜160語。月の半分が「電話応対なし」とすると、月の平均は1日約90語。

休日の発話量。散歩中に誰かに会って挨拶する:0〜5語(挨拶する相手がいない日もある)。スーパーで買い物:5〜10語(「袋いりません」「ポイントカード持ってません」)。帰宅後:0語。休日の発話量:5〜15語。「休日は15語以下」。俳句1句分以下。

「発話量が最も少なかった日」を推定する。休日。散歩なし(雨の日)。買い物なし(冷蔵庫に食材がある)。誰にも会わない。1日の発話量:0語。「ゼロ語の日」が存在する。24時間、一度も「人間の言葉」を発しなかった日。「あ」とも「おはよう」とも言わなかった日。「ゼロ語の日」が月に1〜2回ある。

第2章 「沈黙」が体と心に与える影響——話さないと何が起きるか

影響1は「声帯の衰え」。長期間話さないと「声帯の筋肉」が衰える。「久しぶりに長時間話したら声が枯れた」経験がある。帰省して親と3時間話した翌日、のどがガラガラになった。「声帯が長時間の発声に耐えられなくなっている」。声帯も「筋肉」であり「使わなければ衰える」。

影響2は「コミュニケーション能力の低下」。話す機会が少ない→話す練習ができない→話すのが下手になる→話すのが億劫になる→話す機会がさらに減る。「コミュニケーションの筋肉」も衰える。「何を話していいかわからない」「言葉がすぐに出てこない」「会話のテンポについていけない」。これらは「能力の問題」ではなく「練習不足の問題」。

影響3は「精神的な影響」。「話さない」ことは「感情を外に出さない」ことでもある。嬉しいこと、悲しいこと、怒り、不安——これらの感情を「誰にも話さない」まま「体の中に溜め込む」。溜め込んだ感情は「ストレス」として蓄積される。「話すことはストレスの排出行為」であり「話さないことはストレスの蓄積行為」。「お薬手帳を読み解く」で述べたパニック障害の一因は「感情を話す相手がいなかった」ことかもしれない。

影響4は「認知機能への影響」。研究では「社会的な交流が少ない人は認知機能が低下しやすい」ことが示されている。「話す」行為は「脳の言語野、前頭前皮質、側頭葉を同時に使う」高度な認知活動。「話さない」と「これらの脳領域が刺激されない」→「認知機能が低下する」リスク。「1日45語の生活」は「脳のサボり」を許容している状態。

第3章 「沈黙」の中で生きる技術——話さなくても精神を保つ方法

技術1は「独り言を意識的に増やす」。「独り言は精神が不安定な証拠」と思うかもしれないが、「独り言は脳の言語野を活性化する有効な手段」でもある。「今日のもやし炒め、ニンニク多めにしよう」「いい天気だな」「NISAが500円増えてた」。これらの「独り言」を「意識的に口に出す」。声に出すことで「発声の練習」と「脳の活性化」が同時に行われる。0円。

技術2は「音読する」。本を「声に出して読む」。1日10分の音読。通勤電車では無理だが「帰宅後に自宅で」なら可能。「音読は黙読の3倍の脳領域を使う」とされている。「読書の効果×発声の練習=二重の脳トレーニング」。0円。10分。もやし炒めを作った後、発泡酒を飲む前の10分で。

技術3は「ラジオに相槌を打つ」。ラジオのトーク番組を聴きながら「うんうん」「なるほど」「へぇ」と相槌を打つ。「疑似会話」。ラジオのパーソナリティは「自分に話しかけてくれている」わけではないが「自分が相槌を打つ」ことで「会話に参加している感覚」が得られる。「相槌」は「最もハードルの低い発話」であり「沈黙を破る最初の一歩」。0円。

技術4は「歌う」。風呂で歌う。もやし炒めを作りながら鼻歌を歌う。散歩中に小さな声で口ずさむ。「歌う」は「話す」より「ハードルが低い」(相手が不要。テーマを考える必要がない。歌詞に沿って声を出すだけ)。「歌うことは声帯のメンテナンス」であり「精神のデトックス」。カラオケに行く必要はない(カラオケは1時間500円。手取り16万円には高い)。自宅の風呂で十分。0円。

技術5は「SNSで発信する」。「話す」代わりに「書く」。SNSへの投稿は「言語化の練習」であり「感情の排出」でもある。「今日のもやし炒め、カレー粉バージョン。美味い」。30文字の投稿。「話す」のが苦手でも「書く」ならできる人は多い。「書くこと=沈黙を破る文字版」。0円。

第4章 「沈黙」から抜け出す——話す相手を見つける5つの方法

方法1は「コンビニの店員に一言多く話す」。「袋いりません」だけではなく「今日暑いですね」を追加する。1秒。5語。だがこの5語が「自分から話しかける練習」になる。コンビニの店員は「嫌な顔をしない」(接客のプロだから)。「練習相手として最適」。

方法2は「散歩中にすれ違う人に挨拶する」。「こんにちは」。3語。散歩のルート上で「顔見知り」になった人に挨拶する。最初は無視されるかもしれない。だが「毎日同じ時間に同じルートを歩いている人」は「相手も自分を認識している」可能性がある。「こんにちは」→「こんにちは。今日はいい天気ですね」→「よく散歩されてますね」。3語→10語→15語。段階的に発話量を増やす。

方法3は「推しのファンコミュニティに参加する」(推し活経済学参照)。「オンラインのテキストコミュニケーション」から始めて「オフ会」で実際に会話する。「推し」という「共通の話題」があれば「何を話していいかわからない」問題が解消される。

方法4は「図書館のイベントに参加する」。読書会。朗読会。講演会。図書館は「無料のイベント」を定期的に開催している。参加費0円。「同じ本を読んだ人と感想を交わす」のは「会話のハードルが低い」。「この本の○○の部分が好きです」。15語。これだけで「会話が成立する」。

方法5は「電話相談窓口に電話する」。「悩みがある」わけではなくても「話す相手がいない」こと自体が「相談の対象」になる。「よりそいホットライン(0120-279-338)」は「なんでも相談できる」窓口であり「話し相手がいない」相談も受けている。0円(フリーダイヤル)。「プロの相談員が話を聞いてくれる」。「45語しか話さない日々が辛い」と言えば「それは辛いですよね」と返ってくる。「辛いですよね」。この6語が——もやし炒め以上に心を満たす瞬間がある。

第5章 「沈黙」の価値——話さないことのメリット

ここまで「沈黙のデメリット」を書いてきたが「沈黙のメリット」もある。メリット1は「思考の深化」。話す相手がいない→頭の中で考える時間が増える→「もやし炒めの哲学」が生まれる。「通勤電車22年史」で述べた「通勤電車の中で哲学が生まれた」のは「通勤電車が沈黙の空間だったから」。騒がしい環境では深い思考はできない。沈黙が深い思考を育てる。

メリット2は「観察力の向上」。話さない分「聞く」「見る」に集中できる。通勤電車の人間観察。散歩中の風景観察。「話さない人間は観察する人間になる」。260冊の読書ノートの「観察の深さ」は「沈黙の中で育った観察力」のおかげかもしれない。

メリット3は「余計なトラブルを避ける」。「話す=情報を出す」。情報を出すと「誤解」「噂」「争い」のリスクが生じる。「話さない=情報を出さない=トラブルのリスクがゼロ」。職場で「余計なことを言って問題になる」リスクが「話さない人間にはない」。「沈黙は金」は「リスク管理の格言」でもある。

メリット4は「エネルギーの節約」。「話す」は「エネルギーを消費する行為」。内向的な人間にとって「長時間の会話」は「精神のバッテリーを急速に消耗させる」。「話さない」ことで「精神のバッテリー」を温存できる。温存したバッテリーを「読書」「散歩」「もやし炒めの調理」に使う。「沈黙はバッテリーの充電行為」。

結論——「沈黙」と「発話」のバランスを見つける

「沈黙しすぎ」は体と心に悪い。「話しすぎ」は——自分には無縁の問題だが——エネルギーを消耗する。「沈黙と発話のバランス」を見つけることが「45歳独身男性の生存戦略」の一つ。現在の発話量:1日45〜90語。目標:1日200語。「200語」は「自販機の前の葛藤を声に出す」「独り言を10回言う」「ラジオに相槌を20回打つ」「散歩中に3人に挨拶する」「SNSに50文字投稿する」で達成可能。

「200語のうち、自分に向けた言葉が100語。他人に向けた言葉が100語」。この「半々のバランス」が「沈黙の中で生きる技術」の「最適解」だ。100語の独り言が「自分の精神を守り」、100語の会話が「社会とのつながりを維持する」。200語。もやし炒め1食分のレシピは20語くらい。「もやしを炒める。油を引く。豚こまを入れる。醤油をかける。皿に盛る」。20語。200語はもやし炒めのレシピ10回分。「レシピ10回分の言葉」を1日に話す。それだけで——「沈黙の日々」が「少しだけ音のある日々」に変わる。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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