本稿は、日本市場で活動する主要アクティビスト各社を一社ずつ詳細に解説するシリーズの第15回です。今回は、機関投資家向けがほとんどのアクティビストの世界で、個人投資家が公募投資信託を通じて参加できる極めて珍しい商品「マネックス・アクティビスト・ファンド(愛称:日本の未来、通称:まふ)」について、成り立ち、運用構造、投資哲学、投資手法、運用実績、投資方針を、公開情報をもとに包括的に整理します。なお本稿は特定の有価証券・金融商品の取得や売却を勧誘するものではなく、基準価額・運用実績等は時点により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。
0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かるマネックス・アクティビスト・ファンド
マネックス・アクティビスト・ファンド(以下、MAF)を一言で表すなら、「個人投資家がアクティビズムに参加できる、日本独自のイノベーション」です。これは、マネックスグループのマネックス・アセットマネジメントが運用する公募投資信託で、マザーファンドの運用はカタリスト投資顧問の投資助言を受けて行われます。中心人物は、マネックス証券(マネックスグループ)の創業者である松本大(まつもと・おおき)氏です。愛称は「日本の未来」、通称「まふ」と呼ばれます。
MAFの最大の特徴は、機関投資家(プロ投資家)向けがほとんどのアクティビストファンドの世界において、個人投資家が公募投資信託という身近な形で参加できる点です。100円から積み立てが可能で、つみたてNISAの成長投資枠の対象にもなります。エリオットやエフィッシモのような巨大ファンドが富裕層や機関投資家のものであるのに対し、MAFは「アクティビズムを個人に開く」という、まったく新しい発想に基づいています。
そして、その運用は本物です。中心人物の松本大氏は、ゴールドマン・サックスで当時同社最年少のゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任し、上場企業であるマネックスグループを20年以上率いてきた「経営の当事者」です。その経験を活かし、松本氏自らが投資先の経営トップと直接エンゲージメント(対話)を重ねます。運用実績も好調で、基準価額は3年で約2.5倍に上昇し、同期間のTOPIX(配当込み)を大きく上回る成績を上げています。本稿では、この「個人が参加できるアクティビスト投信」の実像を多面的に描き出していきます。
1. 商品概要――基本データ
- 正式名称:マネックス・アクティビスト・ファンド(愛称:日本の未来、通称:MAF「まふ」)。
- 形態:追加型投資信託(国内/株式/特化型運用)。公募投資信託。
- 運用会社:マネックス・アセットマネジメント株式会社。
- 投資助言:カタリスト投資顧問株式会社(マザーファンドの運用に関する投資助言)。
- 中心人物:松本大(マネックス証券/マネックスグループ ファウンダー、カタリスト投資顧問 取締役会長)。
- 設定:2019年以降に運用開始。2024年で5周年を迎え、記念誌が発行された。
- 手数料体系:純資産総額に対して年率2.20%+成功報酬(ハイウォーターマーク超過分の22%)。
- 投資手法:個別企業の分析を重視したボトムアップ手法による銘柄選択。比較的少数の銘柄に投資。
- 特徴:100円から積み立て可能、ノーロード(販売手数料なし)、つみたてNISA成長投資枠の対象。
- 運用実績:基準価額は2025年11月20日時点で25,160円と、3年で約2.5倍に上昇。同期間のTOPIX(配当込み)を17%以上上回る好成績。
MAFの大きな特徴は、その「報酬体系」にも表れています。年率2.20%の信託報酬に加えて、成功報酬(ハイウォーターマーク=過去最高値を超えた分の22%)を採用しています。これは、ヘッジファンドに近い「成果連動型」の報酬体系であり、運用者と投資家の利益が一致しやすい仕組みです。公募投資信託でありながら、本格的なアクティビスト運用を行う――この「ハイブリッド」な性格が、MAFのユニークさです。
2. 中心人物・松本大――上場企業を率いた「経営の当事者」
MAFを理解するには、その中心人物である松本大氏を知る必要があります。
2-1. ゴールドマン・サックス最年少パートナー
松本大氏は、日本の金融界を代表する人物の一人です。彼は、世界最高峰の投資銀行ゴールドマン・サックスで、当時同社最年少のゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任したという、輝かしい経歴を持ちます。30歳でパートナーになったというこの逸話は、彼の卓越した能力を物語っています。
2-2. マネックス証券の創業と20年以上の経営
松本氏は、ゴールドマン・サックスを離れ、1999年にマネックス証券を創業しました。日本のインターネット証券のパイオニアとして、マネックスグループを東証プライム上場企業へと育て上げ、20年以上にわたって率いてきました。つまり松本氏は、「投資のプロ」であると同時に、「上場企業を経営してきた当事者」でもあるのです。
この「経営の当事者」という経歴こそが、MAFの最大の強みです。従来のアクティビズムが「投資の専門家」の経験をベースにしていたのに対し、MAFは「上場企業を20年以上経営してきた人物」の視点を持ち込んでいます。資本政策とはどうあるべきか、取締役会はどう機能すべきか、投資家とどう対話すべきか――松本氏は、これらを「経営する側」として実体験してきました。だからこそ、投資先の経営者と対等に、説得力をもって対話できるのです。
2-3. 現在の松本大
松本氏は現在、マネックスグループの取締役会議長(および創業者)であり、MAFの投資助言を担うカタリスト投資顧問の取締役会長を務めています。さらに、米マスターカードの社外取締役も務めるなど、グローバルな経営の舞台でも活躍しています。数社の上場企業の社外取締役を歴任してきた経験も、彼の「経営を知る投資家」としての厚みを支えています。MAFのエンゲージメントの現場でも、松本氏自らが率い、その経験を活用しています。
3. 運用の仕組み――マネックスとカタリスト投資顧問
3-1. 二つの会社の役割分担
MAFの運用は、二つの会社の連携によって行われます。一つは、投資信託の運用会社である「マネックス・アセットマネジメント株式会社」。もう一つは、マザーファンドの運用に関する投資助言を行う「カタリスト投資顧問株式会社」です。
実質的な投資判断とエンゲージメントを主導するのは、カタリスト投資顧問です。そして、そのカタリスト投資顧問の取締役会長を務めるのが、松本大氏なのです。つまり、「マネックス・アセットマネジメントが運用会社として器を提供し、カタリスト投資顧問(松本氏ら)が中身の運用とエンゲージメントを担う」という役割分担になっています。
3-2. カタリスト投資顧問の専門家集団
カタリスト投資顧問には、松本氏のほかにも、日本のスチュワードシップとエンゲージメントの専門家が参画しています。例えば、上智大学卒業後にJPモルガン銀行に入行し、2000年からゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで多岐にわたる資産運用業務に従事、2016年からは日本におけるスチュワードシップ責任推進の統括としてESGリサーチや企業との対話を年間200社以上実施してきた専門家が、2020年にカタリスト投資顧問に入社しています。この人物は、ジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ(JSI)運営委員会の委員長も務めています。
カタリスト投資顧問の取締役共同社長兼ポートフォリオ・マネージャーには、舞台役者などを経てSBIリアルマーケティングに入社したという、異色の経歴を持つ人物もいます。日本の企業セクター・規制環境・社会構造を深く理解する、多様なプロフェッショナルが集まっているのです。
3-3. 松本氏自らがエンゲージメントを主導
MAFの運用プロセスの核心は、松本氏自らがエンゲージメントを主導することにあります。松本氏は次のように語っています。「MAFの最大の特徴は、私自身が投資先の経営トップらと直接エンゲージメント(対話)を重ねていることです」。
具体的なプロセスは、こうです。まず、企業価値が高まりそうな銘柄、あるいは企業価値が高いのに株価に十分反映されていない銘柄をリサーチします。次に、それらの企業がさらなる成長を遂げるには何が必要かを議論したうえで、直接経営陣に提案すべくアプローチします。現在、エンゲージメント対象の投資先は20社ほどで、松本氏や運用チームのメンバーが先方の経営陣を知っていたり、誰かを介せばアクセスできる企業がほとんどだといいます。松本氏は「多くの経営者は経営のことは知っていても、企業価値向上につながる資本政策とはどうあるべきか、必ずしも熟知しているわけではない。最近は、資本市場のプロとしての私の意見を聞きたいと言ってくださる経営者が増えています」と語ります。一対一での面談は、時には2時間を超えることもあるといいます。
4. 投資哲学と手法
4-1. ボトムアップによる少数厳選投資
MAFの投資手法は、個別企業の分析を重視した「ボトムアップ手法」による銘柄選択です。マクロ経済の動向から銘柄を選ぶのではなく、一社一社の企業を丹念に分析し、その本質的な価値を見極めて投資します。そして、比較的少数の銘柄に集中投資します。エンゲージメント対象は20社ほど。一社一社と深く向き合い、目的を持ったエンゲージメント(対話)や提案を通じて、企業価値と株主価値の中長期的な向上を目指すのです。
4-2. 「経営の当事者」目線のエンゲージメント
MAFのエンゲージメントを最も特徴づけるのは、「上場企業を経営した当事者」の目線です。松本氏は、マネックスグループを20年以上率いてきた経験から、経営者が何に悩み、何を必要としているかを熟知しています。だからこそ、彼のエンゲージメントは「外野からの批判」ではなく、「経営を知る者からの実践的な助言」となります。
「多くの経営者は経営のことは知っていても、企業価値向上につながる資本政策とはどうあるべきか、必ずしも熟知しているわけではない」という松本氏の指摘は、本質を突いています。日本の経営者の多くは、事業運営には長けていても、資本市場との対話や資本政策(資本コスト、株主還元、ガバナンス)については十分な知見を持っていないことがあります。MAFは、この「資本市場のプロの視点」を経営者に提供することで、企業価値向上を促すのです。
4-3. 「包括的なエンゲージメント」――個人投資家の声を届ける
MAFのユニークさは、エンゲージメントの対象が「投資先企業の経営者」だけにとどまらない点にあります。MAFは、個人投資家・機関投資家、さらには政府との規制・ルールに関する議論、メディアを巻き込んだ情報発信まで含む、「包括的なエンゲージメント」を志向しています。
特に注目すべきは、「個人投資家の声」を企業に届けるという発想です。MAFは、個人投資家を単なる「資金の出し手」ではなく、「投資家であると同時に消費者でもある存在」と捉えます。例えば、ある企業の商品やサービスに対する個人投資家(=消費者)の生の声を、経営陣に届ける。これは、機関投資家だけのエンゲージメントにはない、新しい視点です。「日本の未来」という愛称が示すように、MAFは「日本の未来を、個人投資家とともに創る」という、いわば社会運動的な側面を持っているのです。
4-4. 「マネックス・アクティビスト・フォーラム」――啓発の場
MAFの「包括的なエンゲージメント」を象徴するのが、年に一度開催される「マネックス・アクティビスト・フォーラム」です。2019年の初回開催時には1,000名を超える参加者が集まり、オンライン開催となった年には3,000名以上が参加するなど、大規模なイベントに成長しています。
このフォーラムには、松本氏をはじめとするMAFの運用メンバーが登壇し、ファンドの活動やアクティビズムについて語ります。さらに、日本初のアクティビストファンドの運用に従事した経験を持つストラテジックキャピタルの丸木強氏が登壇して松本氏と対談したり、経営学者の楠木建氏との対談、ダルトン・アドバイザリー(ダルトン・インベストメンツの日本拠点)の西田真澄氏が出演するパネルディスカッションが行われたりするなど、日本のアクティビズムの「啓発の場」としての役割を担っています。アクティビズムを一部の専門家のものから、より広く個人投資家に理解されるものへと開いていく――このフォーラムは、その象徴的な取り組みです。
5. 運用実績と評価
5-1. TOPIXを上回る好成績
MAFの運用実績は、好調に推移してきました。基準価額は2025年11月20日時点で25,160円となり、これは3年で約2.5倍に上昇したことを意味します。同期間のTOPIX(配当込み)の推移と比較すると、17%以上上回る好成績を上げています。「アクティビストファンドは成績で選ぶ」というマネックス証券のメッセージが示すように、MAFは単なる理念先行のファンドではなく、実際に市場平均を上回るリターンを投資家にもたらしてきたのです。2024年には設定5周年を記念した記念誌も発行されました。
5-2. 日経ヴェリタス賞の受賞
MAFの革新的な発想は、世間からも高く評価されました。2020年には、日経優秀製品・サービス賞において「日経ヴェリタス賞」を受賞しています。「個人投資家がアクティビズムに参加できる」という、日本では前例のない商品設計が、金融イノベーションとして認められたのです。
5-3. 「アクティビズムの民主化」という意義
筆者は、MAFの最大の意義を「アクティビズムの民主化」にあると考えています。従来、アクティビズムは、エリオットやエフィッシモのような巨大ファンドが、富裕層や機関投資家の資金を使って行うものでした。一般の個人投資家には、参加する手段がありませんでした。
しかしMAFは、公募投資信託という身近な形で、しかも100円から積み立てられるという手軽さで、個人投資家にアクティビズムへの参加の道を開きました。前稿で触れたダルトンのNAVF(ロンドン上場で個人も購入可能)と並んで、MAFは「アクティビズムを一部の富裕層・機関投資家だけのものから、個人投資家も参加できるものへ」と開いた、日本独自のイノベーションなのです。
6. 投資方針の総括――MAFは何を狙っているのか
6-1. ターゲットの選定基準
MAFが狙う企業の共通点は、「企業価値が高まりそうな銘柄」または「企業価値が高いのに株価に十分反映されていない銘柄」です。ボトムアップの分析で、こうした企業を発掘します。そして、松本氏や運用チームが経営陣にアクセスできる(人的ネットワークがある)企業を選ぶ点も特徴です。エンゲージメントを成功させるには、経営陣との対話のチャネルが不可欠だからです。
6-2. 求めるものの本質
MAFが企業に求めるものは、突き詰めれば「企業価値向上につながる資本政策の実現」です。松本氏が「多くの経営者は資本政策をどうすべきか熟知していない」と指摘するように、MAFは「資本市場のプロの視点」を経営者に提供し、資本コストを意識した経営、適切な株主還元、ガバナンスの改善を促します。その目的は、企業価値と株主価値の中長期的な向上です。さらに、個人投資家の声を企業に届けることで、「投資家であり消費者でもある個人」の視点を経営に反映させることも目指します。
6-3. 「経営者目線」と「個人投資家との共創」という方針
MAFの投資方針を最も特徴づけるのは、「経営者目線のエンゲージメント」と「個人投資家との共創」です。上場企業を率いた松本氏が、経営者と対等に資本政策を語る。そして、個人投資家を巻き込み、フォーラムなどを通じてアクティビズムを社会に開いていく。「日本の未来を、個人投資家とともに創る」という理念が、その方針の核心です。
7. 評価とリスク――筆者の見立て
7-1. 強み
MAFの最大の強みは、「経営の当事者である松本氏のエンゲージメント力」と、「個人投資家への開放性」、そして「実際の運用実績」です。上場企業を20年以上率いた松本氏は、経営者と対等に、説得力をもって対話できます。公募投資信託という形で個人投資家に開かれている点は、他の巨大アクティビストにはない独自性です。そして、TOPIXを17%以上上回る運用実績は、理念だけでなく結果も伴っていることを示しています。「アクティビズムの民主化」という社会的意義も、MAFの大きな価値です。
7-2. 弱みと留意点
一方で、MAFにも留意点があります。第一に、手数料が比較的高いことです。年率2.20%の信託報酬に加えて成功報酬(22%)があり、一般的なインデックスファンド(信託報酬0.1%台)と比べると高コストです。アクティブ運用・エンゲージメントには手間がかかるため当然ではありますが、長期的にこのコストを上回るリターンを上げ続けられるかは、運用の腕にかかっています。第二に、エンゲージメントの効果は不確実です。対話で経営が必ず変わるとは限りません。第三に、松本氏という「個人」への依存度が高く、その人的ネットワークと能力に大きく依存しています。
7-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか
筆者の見立てでは、MAFは「アクティビズムを個人に開いた、日本独自のイノベーション」です。エリオットやエフィッシモが「外部の脅威」として企業に向き合うのに対し、MAFは「経営を知る者の助言」と「個人投資家との共創」という、まったく異なるアプローチを取ります。前稿のみさき投資、次稿のタイヨウ・パシフィックと並んで、「友好的エンゲージメント」の重要な担い手です。
個人投資家にとって、MAFは「アクティビズムに参加する」最も手軽な手段の一つです。100円から積み立てられ、つみたてNISAの対象にもなります。ただし、手数料が高めである点、エンゲージメントの効果が不確実である点は理解しておく必要があります。また、MAFの「マネックス・アクティビスト・フォーラム」は、アクティビズムを学ぶ絶好の機会です。丸木強氏や楠木建氏との対談など、日本のアクティビズムの第一線の議論に触れることができます。松本氏の「資本市場のプロの視点を経営者に提供する」という発想、そして「個人投資家の声を企業に届ける」という理念は、私たち個人投資家が「株主としての権利と責任」を考えるうえで、大きな示唆を与えてくれます。
8. 参考資料
本稿は、以下の公開情報・報道・公式資料をもとに構成しています(主なもの。基準価額・運用実績等は執筆時点で確認できた範囲のものであり、時点により変動します)。
公式・一次情報
- マネックス証券「マネックス・アクティビスト・ファンド」特設サイト・ファンド詳細(info.monex.co.jp、fund.monex.co.jp)、交付目論見書・販売用資料
- カタリスト投資顧問株式会社 公式情報
新聞・通信社・経済誌
- 日経ビジネス電子版 Special(カタリスト投資顧問 取締役会長 松本大氏インタビュー=エンゲージメントの実際)
専門メディア・その他
- マネックス証券「最新情報」(MAFの運用実績=3年で約2.5倍・TOPIX比17%超、5周年記念誌、松本大の経歴、アクティビスト・フォーラム2025の登壇者)
- SBI新生銀行(マネックス・アクティビスト・フォーラムの案内=松本×丸木対談、カタリスト投資顧問メンバーの経歴)
百科事典等(一次情報の確認は上記公式・報道で実施)
- 各種公開資料(松本大氏の経歴。一次情報の確認は上記公式・報道で実施)
本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
補論:「アクティビズムの民主化」が持つ意味――独自分析
最後に、MAFが体現する「アクティビズムの民主化」が、日本の資本市場にとってどのような意味を持つのか、独自の分析を加えておきます。
なぜ「個人が参加できる」ことが重要なのか
本シリーズで取り上げてきた16のアクティビストのうち、その大半は機関投資家や富裕層の資金を運用するものでした。エリオットの運用資産は約760億ドル、エフィッシモは日本株だけで約1兆円。これらの巨大ファンドに、一般の個人投資家が直接出資することはできません。アクティビズムは長らく、「資本を持つ者だけの特権」だったのです。
MAFが画期的なのは、この構図を打ち破った点にあります。公募投資信託という形で、100円から積み立てられ、つみたてNISAの対象にもなる。これにより、一般の会社員や主婦、若者でも、アクティビズムの成果を享受し、間接的にその活動に参加できるようになりました。これは、資本市場における「参加の平等」を一歩前進させた、重要なイノベーションだと筆者は考えます。
「投資家であり消費者でもある」個人の力
MAFのもう一つの重要な発想が、「個人投資家は、投資家であると同時に消費者でもある」という視点です。機関投資家は、企業を「投資対象」としてしか見ません。しかし個人投資家は、その企業の商品やサービスを実際に使う「消費者」でもあります。
例えば、ある食品メーカーに投資する個人投資家は、その会社の商品を毎日スーパーで買っているかもしれません。ある鉄道会社に投資する個人投資家は、毎日その電車に乗っているかもしれません。こうした個人投資家は、機関投資家のアナリストが見落とすような「生活者の視点」を持っています。「この商品はもっとこうすれば売れるのに」「このサービスのここが不便だ」――こうした消費者としての声は、企業価値向上の貴重なヒントになりえます。MAFが「個人投資家の声を企業に届ける」と掲げるのは、この「生活者の視点」を経営に反映させる試みなのです。これは、機関投資家中心のアクティビズムにはない、まったく新しい価値だと筆者は考えます。
日本の「貯蓄から投資へ」を後押しする
MAFの取り組みは、日本政府が進める「貯蓄から投資へ」という大きな政策の流れとも合致しています。日本では長らく、個人金融資産の多くが現預金として眠っており、その有効活用が課題とされてきました。NISAの拡充など、個人の投資参加を促す政策が進められています。
MAFは、この流れのなかで、個人投資家に「ただ株を持つ」だけでなく、「株主として企業に関与する」という、より能動的な投資のあり方を示しています。アクティビスト・フォーラムに数千人が集まるという事実は、個人投資家のあいだに「自分たちも企業に声を届けたい」という潜在的なニーズがあることを示しています。MAFは、この個人投資家の「参加への欲求」を、具体的な形にした商品なのです。
松本大という「触媒」
筆者が最後に強調したいのは、MAFが松本大という稀有な人物の存在によって成立しているという点です。ゴールドマン・サックスで最年少パートナーになった「投資のプロ」であり、マネックスグループを20年以上率いた「経営の当事者」であり、そしてマネックス証券という「個人投資家向けプラットフォーム」を持つ起業家。この三つの顔を併せ持つ人物は、日本に他にいません。
「投資のプロ」だからこそ、企業価値の本質を見抜ける。「経営の当事者」だからこそ、経営者と対等に対話できる。「個人投資家向けプラットフォーム」を持つからこそ、アクティビズムを個人に開ける。MAFは、この松本氏の三つの顔が交差する点に生まれた、まさに「日本独自のイノベーション」なのです。
もちろん、松本氏という個人への依存度の高さは、MAFのリスクでもあります。将来、松本氏が運用から退いたとき、MAFが同じ求心力を保てるかは未知数です。しかし、彼が切り開いた「アクティビズムの民主化」という道は、日本の資本市場に確実に新しい可能性をもたらしました。前稿のみさき投資が「経営と金融の距離を近づける」ことを目指したように、MAFは「アクティビズムと個人投資家の距離を近づける」ことを目指しています。日本の資本市場が真に成熟するためには、巨大ファンドによる外圧型アクティビズムだけでなく、こうした「個人が参加できる、開かれたアクティビズム」が育っていくことが不可欠だと、筆者は考えます。「日本の未来」という愛称に込められた理念は、決して大げさなものではないのです。
そして、MAFが示した「個人投資家との共創」というモデルは、日本のコーポレートガバナンス改革の文脈でも重要な意味を持ちます。東証が掲げる「資本コストや株価を意識した経営」は、究極的には「企業が誰のために経営されるべきか」という問いに行き着きます。MAFは、その答えの一つとして「経営者・機関投資家・個人投資家・消費者が一体となって企業価値を高める」という姿を提示しました。これは、前稿のみさき投資が説いた「経営者・従業員・株主がみなで豊かになる」という三位一体の思想とも響き合うものです。日本のアクティビズムが、対立と排除の論理から、共創と協調の論理へと成熟していく――その最前線に、MAFは立っているのです。個人投資家にとって、自らの一票(議決権)と一声(消費者としての声)が、日本企業をより良くする力になりうる。MAFは、そんな希望を体現したファンドだと言えるでしょう。

