本稿は、日本市場で活動する主要アクティビスト各社を一社ずつ詳細に解説するシリーズの第8回です。今回は、世界の割安な「持株会社」「資産バリュー株」を発掘し、フジテックのガバナンス問題に火をつけた英国の老舗運用会社「AVI(Asset Value Investors/アセット・バリュー・インベスターズ)」について、成り立ち、運用構造、投資哲学、日本における主要な投資案件、投資銘柄、そして投資方針を、公開情報をもとに包括的に整理します。なお本稿は特定の有価証券・金融商品の取得や売却を勧誘するものではなく、運用資産額・保有比率等は時点により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。
0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かるAVI
AVI(アセット・バリュー・インベスターズ)を一言で表すなら、「保有資産の価値に対して株価が著しく割安に放置された企業を発掘する、英国の老舗『ディープ・バリュー』投資家」です。AVIの起源は1985年。運用する旗艦ファンド「AVIグローバル・トラスト(AGT)」は、その前身をたどると1889年設立という135年超の歴史を持つ、ロンドン証券取引所上場の老舗投資信託です。運用資産はAVI全体で約18億ポンド(おおむね3,000億円超)規模です。
AVIの得意技は、「保有する資産(上場株式・不動産・現金)の合計価値よりも、時価総額が低い」という、割安な持株会社や資産バリュー株を世界中から見つけ出すことです。日本には、本業に加えて大量の政策保有株式や不動産、現金を抱えながら、その合計価値より時価総額が低い――いわゆる「過大資本(over-capitalised)」の企業が数多く存在します。AVIは2018年、こうした日本の割安小型株に特化した専門ファンド「AVIジャパン・オポチュニティ・トラスト(AJOT)」を立ち上げ、日本市場での活動を本格化させました。
AVIの名を日本で広めたのが、エレベーター大手フジテックのガバナンス問題です。AVIは2020年、フジテックの創業家支配の問題に火をつけ、その「着火点」となりました。後にこの問題を引き継いだオアシス・マネジメントが2023年に創業家会長を退任に追い込んだことは、前稿でも触れたとおりです。AVIは必ずしも自ら勝者にならずとも、問題提起によって他のアクティビストや市場全体を動かす「触媒(カタリスト)」として、独特の役割を果たしてきました。本稿では、この「割安持株会社ハンター」の実像を多面的に描き出していきます。
1. 会社概要――基本データ
まず、AVIの基本的なプロフィールを整理します。
- 正式名称:アセット・バリュー・インベスターズ(Asset Value Investors Limited、AVI)。
- 形態:非公開(プライベート)の投資運用会社。英FCA(金融行動監視機構)の認可を受け、米SEC(証券取引委員会)にも投資顧問として登録。
- 設立:1985年(英国ロンドン)。
- CEO・CIO:ジョー・バウアンフロインド(Joe Bauernfreund)。
- 本社:英国ロンドン(2 Cavendish Square)。
- 運用資産(AUM):AVI全体で約18億ポンド規模(時期により変動)。
- 運用ファンド:
- AVIグローバル・トラスト(AGT):1985年に運用開始(前身は1889年設立)。ロンドン証券取引所上場、FTSE250指数採用。運用資産は約13億ポンド(2025年末)。
- AVIジャパン・オポチュニティ・トラスト(AJOT):2018年10月に上場。日本の割安小型株に特化。
- AVIファミリー・ホールディング・カンパニーズ・ファンド:2019年12月に設定。
- 少数株主:ロンドン拠点の独立系「マルチブティック」資産運用会社グッドハート・パートナーズが2016年から少数株主として出資し、事業開発・営業・マーケティングを支援。
AVIの大きな特徴は、その運用が主に「クローズドエンド型の投資信託(投資会社)」を通じて行われる点です。AGTもAJOTもロンドン証券取引所に上場しており、英国の個人投資家も購入できます。AVIと従業員自身もこれらのファンドに出資し、株主との利益を一致させています。AVIは「自分たちが投資する側の論理」を熟知した、投資信託運用のプロフェッショナルなのです。
2. 135年の歴史――大英帝国時代から続く老舗
AVIを理解するには、その運用する旗艦ファンドAGTの長い歴史を知る必要があります。
2-1. 1889年、大英帝国の時代に
AGTの起源は、1889年2月6日にロンドンで設立された「トランスバール・モーゲージ・ローン・アンド・ファイナンス・カンパニー」に遡ります。その後、「ブリティッシュ・エンパイア・ランド・モーゲージ・アンド・ローン・カンパニー(1906年〜)」「ブリティッシュ・エンパイア・セキュリティーズ・アンド・ジェネラル・トラスト(1964年〜)」と名を変えながら、大英帝国の時代から続く由緒ある投資会社として存続してきました。「ブリティッシュ・エンパイア(大英帝国)」という名前そのものが、その歴史の古さを物語っています。
2-2. 1985年、AVIの誕生
転機が訪れたのは1985年です。当時、ブリティッシュ・エンパイア・トラストの運用資産はわずか600万ポンドにすぎませんでした。この年、AVI(アセット・バリュー・インベスターズ)が同トラストの運用者(マネージャー)に任命され、現在へと続く投資哲学――割安な資産価値を持つ企業への投資――が採用されたのです。つまり、「AVI」という運用会社の歴史は1985年に始まり、それが運用する「ファンド」の歴史は1889年に遡る、という二重構造になっています。
その後、ブリティッシュ・エンパイア・トラストは順調に成長し、2019年5月24日に現在の「AVIグローバル・トラスト(AGT)」へと改称しました。600万ポンドで始まった運用資産は、2025年末には13億ポンド超にまで拡大しています。実に200倍以上の成長です。この長い歴史と一貫した投資哲学こそが、AVIの「老舗」としての信頼の源泉です。
3. 運用を率いる人々――ジョー・バウアンフロインドと日本チーム
3-1. ジョー・バウアンフロインド――不動産出身のディープ・バリュー投資家
AVIの運用を率いるのが、CEO兼CIOのジョー・バウアンフロインド氏です。彼はAVIのすべての戦略(グローバル戦略とジャパン戦略)における投資判断に責任を持つ、唯一のポートフォリオ・マネージャーです。
バウアンフロインド氏の経歴は興味深いものです。AVIに入社する2002年以前、彼はロンドンの不動産投資会社で6年間勤務していました。この「不動産畑」の経験が、後に彼が「企業の保有資産(特に不動産)の価値」に着目する目を養ったのかもしれません。彼はロンドン・ビジネス・スクールで金融学修士号を取得した後、2002年に投資アナリストとしてAVIに入社しました。当初は、AGTの前身であるブリティッシュ・エンパイアの運用責任者だったジョン・ウォルトン氏とともに、欧州の持株会社(ホールディング・カンパニー)への投資を担当しました。その後ポートフォリオ全体を担当するようになり、2015年10月(CEO就任は2016年)に運用責任者となりました。金融業界で25年以上の経験を持つベテランです。
3-2. 日本に根を張る専門チーム
AVIの日本株投資を支えるのが、専門の日本チームです。チームは7名前後で構成され、その大半が日本語話者、5名が日本国籍とされます。うち1名は日本に常駐しています。「日本企業を相手にするなら、日本の文化と言語を理解した人材が不可欠だ」という考えの表れです。
日本調査責任者は坂井一成氏が務め、メディアの取材にもたびたび応じてTBSやフジテレビ業界のガバナンス問題について発言しています。また2025年1月には、レッドホイール(旧RWCパートナーズ)出身でみずほインターナショナルやゴールドマン・サックス(日本)で日本株業務を担ったニコラ・タカダ・ウッド氏が、日本担当のマネージング・ディレクターとして加わりました。日本市場への一段のコミットメントを示す人事です。リサーチ責任者は2011年入社のトム・トレーナー氏が務めます。
4. 投資哲学――割安な「ファミリー系持株会社」を狙う
4-1. 「資産価値 > 株価」を探す
AVIの投資哲学の核心は、「保有資産の純価値(ネット・バリュー)が、現在の株価を上回っている企業」を見つけ出すことです。AVIの言葉を借りれば、「自らが良質で割安な事業を保有しており、その純価値が現在の株価を上回っている企業」に投資するのです。
具体的には、AVIは企業の「本源的価値(intrinsic value)」と「市場価値(株価)」の差――すなわち「ディスカウント(割引)」に着目します。そして、そのディスカウントが縮小することで利益を得るのです。彼らが特に好むのが、家族・創業家が支配する「持株会社(ホールディング・カンパニー)」です。こうした会社は、保有する子会社株や資産の価値に対して、株価が大幅にディスカウントされていることが多いからです。AGTが米国への投資を抑えているのも、「米国にはファミリー支配の持株会社が少ない」という理由からです。
4-2. 日本企業の「過大資本」に着目
AVIが日本市場に注目する理由は明快です。日本企業の多くが、最適資本構成の観点から「過大資本(over-capitalised)」になっている――つまり、必要以上に現金や政策保有株式、不動産を抱え込み、資金配分が非効率になっているからです。AVIは、こうした「キャッシュリッチ(現金潤沢)で過大資本な小型株」を主な投資対象とします。日本版スチュワードシップ・コードの策定など、コーポレートガバナンス改革の兆しが見えてきたことも、AVIにとって追い風となりました。
日本企業の評価において、AVIは「ネットキャッシュ(純現預金)」「政策保有株」に加えて、「賃貸等不動産の含み益」まで細かく見ています。不動産畑出身のバウアンフロインド氏らしい着眼点です。こうした「隠れた資産」を抱えながら株価が割安な企業こそ、AVIの格好の標的なのです。
4-3. 「建設的関与」と「文化の尊重」
AVIの手法は、「建設的なエンゲージメント(constructive engagement)」を基本とします。投資先の取締役会や経営陣と対話し、隠れた価値を解放するよう働きかけます。バウアンフロインド氏は、日本での株主アクティビズムは英国よりも「機微(ニュアンス)に富む」と語り、「文化を尊重しなければならない」と強調します。欧米流の強硬なやり方をそのまま持ち込むのではなく、日本の商習慣や企業文化に配慮しながら、粘り強く対話を重ねる――この姿勢が、AVIの日本での活動を特徴づけています。
5. AVI流「三つの戦略」――触媒・消耗戦・キャンペーンファンド
AVIの日本での活動を分析すると、その手法は大きく三つの戦略に整理できます。これはAVIの巧みさを理解するうえで、極めて重要な視点です。
戦略1:触媒(カタリスト)戦略
AVIは、自ら戦いの口火を切り、詳細な分析レポートを公開することで、他のアクティビストや一般株主を呼び込み、経営変革の「触媒」として機能します。フジテックやワコムがその例です。AVIは必ずしも自らが最後まで戦って勝者になる必要はありません。問題提起によって火をつけ、他のより資金力のあるアクティビスト(オアシスなど)や、ISSなどの議決権行使助言会社、そして一般株主を動かせば、目的は達成されるのです。「着火点」としての役割に徹するこの戦略は、AVIの運用規模(必ずしも巨大ではない)を考えれば、極めて合理的です。
戦略2:消耗戦(ウォー・オブ・アトリション)戦略
創業家が支配する企業に対しては、AVIは「あえて否決される提案を繰り返す」という消耗戦を展開します。エスケー化研(藤井家が支配)がその典型です。創業家が議決権の過半を握っている企業では、株主提案は通常否決されます。それでもAVIは提案を繰り返すのです。なぜか。それは、「創業家 vs 一般株主」という対立構造を、株主総会の投票結果という「公的な証拠」として蓄積し続けるためです。一般株主の多くがAVIの提案に賛成しているのに、創業家の議決権で否決される――この事実を積み重ねることで、AVIは規制当局(東証)や世論を味方につけ、徐々に外堀を埋めていくのです。短期的には敗北に見えても、長期的にはガバナンス改革を促す、したたかな戦略です。
戦略3:キャンペーン・ファンド(AJOT)戦略
こうした長期かつ高コストな戦略を実行するために、AVIは日本株専用ファンド「AJOT」を組成しました。AJOTは21銘柄程度に厳選されたポートフォリオを持ち、その一つひとつが「キャンペーン(経営変革の働きかけ)」の対象です。いわばAJOTは、「キャンペーンの集合体」として運用されているのです。日本市場でじっくり腰を据えて戦うための専門ビークル(手段)を用意したこと自体が、AVIの日本市場へのコミットメントの強さを物語っています。AJOTは2025年11月にフィデリティ・ジャパン・トラストと合併し、規模を拡大しました。
6. 日本における主要キャンペーン
ここからは、AVIが日本で展開してきた主要なキャンペーンを見ていきます。AVIによれば、その日本株投資の歴史は20年以上に及びます。
6-1. TBSホールディングス(2017〜2020年)――「東京エレクトロン株を売れ」
AVIの日本での活動が最初に大きく目立ったのが、2017年のTBSホールディングスへの株主提案でした。
AVIが問題視したのは、TBSが保有する大量の政策保有株式、とりわけ半導体製造装置大手・東京エレクトロンの株式でした。TBSは当時、ROE(自己資本利益率)が過去5期平均で3%弱と低迷し、2017年3月末の株価1,988円に対して1株あたり純資産(BPS)は約2,878円。つまりPBR(株価純資産倍率)は0.69倍と1倍を割り込み、保有資産を有効に活用できていない状態でした。
AVIは、TBSが保有する東京エレクトロン株式770万株(株式分割前)のうち、約300万株を株主に対して「現物配当」するよう求める株主提案を行いました。本業(放送)と関係のない巨額の保有株を、株主に直接還元せよという要求です。この提案は賛成率11%で否決されましたが、AVIはその後も粘り強く保有株の売却を訴え続けました。そしてついに、TBSは2020年3月期に株式売却による特別利益の計上を発表します。一定の成果を引き出したわけです。
しかし、AVIはその2020年、TBS株を全株売却しました。日本調査責任者の坂井一成氏は、「経営陣と建設的な対話を続けてきたが、変革のスピードが遅いと感じ、他のより良い投資機会に集中することにした」と説明しています。長期投資家であるAVIですら見切りをつけるほど、TBSの変革は遅々として進まなかったのです。なお坂井氏は2025年、フジ・メディアHDの不祥事を巡る取材に対し、TBSの事例を引き合いに、テレビ業界全体に共通するガバナンスの統治不全(政策保有株や賃貸不動産を多く抱える構造)を指摘しています。
6-2. フジテック(2020年〜)――ガバナンス改革の「着火点」
AVIの「触媒戦略」が最も鮮やかに発揮されたのが、エレベーター大手フジテックです。フジテックはAJOTの筆頭保有銘柄でもありました。
AVIは2020年、フジテックに対してガバナンス改革を提案しました。専用の特設サイトを開設し、詳細なプレゼンテーションを公開して、フジテックの「慢性的なアンダーパフォーマンス(業績低迷)」を解消するための抜本的な改革を要請したのです。その内容は多岐にわたりました。①資本効率改善の第一歩として、政策保有を目的とする上場株式を売却すること、②将来の設備投資に対するハードルレート(最低限の収益基準)を定め、明快で透明な資本政策を策定すること、③ガバナンス改善のため、指名委員会等設置会社へ移行し、経験豊富な独立取締役・会長を採用すること――。バランスシートの改善にとどまらず、戦略やガバナンスにまで踏み込んだ総合的な提案でした。
AVIの2020年の株主提案(指名委員会等設置会社への移行など)そのものは否決されました。しかし、AVIが点火した「フジテックのガバナンスには問題がある」という火種は消えませんでした。2022年、この問題を引き継いだオアシス・マネジメントが、創業家(内山家)の不透明な取引を徹底追及し、2023年2月の臨時株主総会で創業家出身の会長を事実上解任に追い込んだのです。AVIは直接の勝者ではありませんが、まさにこの一連のガバナンス改革の「着火点」として、決定的な役割を果たしました。AVIはその後、フジテック株で利益を確定(一部売却)しています。「自ら火をつけ、他者を巻き込んで企業を変える」という触媒戦略の、教科書的な成功例です。
6-3. 帝国繊維(帝繊)――創業家支配への「消耗戦」
AVIは、防災製品・繊維の帝国繊維(帝繊)に対しても、専用サイトを開設してガバナンス改革を提案してきました。帝国繊維もまた、潤沢な資産を抱えながら、その活用が不十分とされた企業です。AVIは、AGTおよびAJOTの資産運用者の立場から、帝国繊維の事業およびガバナンス体制に関する見解を公開し、改善を求めました。創業家や安定株主の存在によって提案が通りにくい構造のなかで、AVIは粘り強く問題提起を続けています。
6-4. エスケー化研――「公的な証拠」を積み上げる消耗戦
AVIの「消耗戦戦略」を最も象徴するのが、塗料大手のエスケー化研への関与です。エスケー化研は藤井家が支配する企業で、株主提案は通常否決されます。それでもAVIは、あえて否決される提案を繰り返します。「一般株主の多くは賛成しているのに、創業家の議決権で否決される」という事実を、株主総会の投票結果という公的な記録として積み上げ続けるのです。これにより、「創業家 vs 一般株主」という対立構造を可視化し、規制当局や世論に訴えていくのです。即座の勝利は得られなくとも、長期的にガバナンス改革を迫る、AVIならではのしたたかな手法です。
6-5. ワコム・日鉄ソリューションズほか
このほかAVIは、ペンタブレット大手のワコムに対しても触媒戦略で関与し、同社は戦略見直しを行い、余剰資金をM&Aや設備投資に充てることに合意。株価は大きく上昇しました。また、日本製鉄の上場子会社である日鉄ソリューションズなど、親子上場で少数株主の利益が問題となる企業にも関与しています。AVIの日本株投資先は、ソニー、TBS、フジテック、加藤産業、カナデン、大和冷機工業、帝国繊維、東亜合成、デジタルガレージ、西松屋チェーン、ニューフレアテクノロジーズ、コニシ、積水樹脂、タチエス、ナカノフドー建設、三ツ星ベルト、日産車体など、多数の中堅企業に及びます。
7. 投資銘柄一覧(整理)
AVI(AGT・AJOT)がこれまでに関与・投資してきた主な銘柄を整理します。なお、これは「これまでに関与が報じられた主な銘柄」であり、現時点の保有を示すものではありません。保有比率は時点により変動します。
日本企業(主にAJOTを通じて)
- TBSホールディングス(2017〜2020年、東京エレクトロン株の現物配当を提案、賛成率11%、2020年に全株売却)
- フジテック(2020年〜、AJOT筆頭保有、ガバナンス改革を提案、創業家会長解任の着火点に)
- 帝国繊維(特設サイトでガバナンス改革を提案、消耗戦)
- エスケー化研(藤井家支配、否決前提の提案を繰り返す消耗戦)
- ワコム(触媒戦略、戦略見直しと余剰資金活用を実現、株価上昇)
- 日鉄ソリューションズ(日本製鉄の上場子会社、親子上場の少数株主問題)
- ソニー、加藤産業、カナデン、大和冷機工業、東亜合成、デジタルガレージ、西松屋チェーン、ニューフレアテクノロジーズ、コニシ、積水樹脂、タチエス、ナカノフドー建設、三ツ星ベルト、日産車体ほか
- ※AJOTは21銘柄程度に厳選して集中投資
海外企業(AGTを通じて、参考)
- 欧州・アジアの家族支配の持株会社(ホールディング・カンパニー)
- クローズドエンド型ファンド(割安に放置された投資会社)
運用ファンド
- AVIグローバル・トラスト(AGT):ロンドン上場、FTSE250採用、約13億ポンド
- AVIジャパン・オポチュニティ・トラスト(AJOT):日本特化、2018年上場、2025年にフィデリティ・ジャパン・トラストと合併
- AVIファミリー・ホールディング・カンパニーズ・ファンド:2019年設定
8. 投資方針の総括――AVIは何を狙っているのか
8-1. ターゲットの選定基準
AVIが狙う企業の共通点は、「保有資産の純価値に対して株価が著しく割安」であることです。具体的には、①本業と関係の薄い資産(政策保有株式・不動産・現金)を大量に抱えている、②それゆえ「過大資本(over-capitalised)」で資金配分が非効率、③PBRが1倍を割り込むほど割安(TBSは0.69倍)、④創業家・親会社の支配によって外部の意見が遮断され、非効率な経営が続いている、といった特徴です。日本市場は、こうした「割安なファミリー系企業」が数多く存在する、AVIにとって世界で最も魅力的な「狩り場」の一つなのです。
8-2. 求めるものの本質
AVIが企業に求めるものは、突き詰めれば「隠れた資産価値の解放」と「ガバナンスの改善」です。TBSへの「東京エレクトロン株を売って株主に返せ」、フジテックへの「政策保有株を売却し、指名委員会等設置会社へ移行せよ」という要求が、それを端的に示しています。本業と関係のない保有資産を売却・還元させて資本効率を高め、創業家支配を是正して独立した取締役会を作る――これらはすべて、市場が認識していない「隠れた価値」を顕在化させ、株価を本来あるべき水準へと引き上げるための手段です。
8-3. 「触媒として火をつける」という方針
AVIの投資方針を最も特徴づけるのは、「触媒として火をつける」という発想です。AVIは必ずしも巨大なファンドではないため、自らの資金力だけで巨大企業を屈服させることは難しい。そこで彼らは、詳細な分析レポートを公開して問題提起を行い、他のアクティビストや一般株主、議決権行使助言会社、規制当局を巻き込んでいくのです。フジテックの事例が示すように、AVIが点火した火種が、後により大きなアクティビスト(オアシス)の手によって燃え広がり、創業家会長の解任という結果に至りました。「勝者になること」より「変化を起こすこと」を重視する、賢い戦略です。
9. 評価とリスク――筆者の見立て
9-1. 強み
AVIの最大の強みは、「割安資産の発掘力」と「触媒としての影響力」、そして「長期戦を戦う専門ビークル」です。不動産畑出身のバウアンフロインド氏を中心に、企業の保有資産(特に不動産や政策保有株)の隠れた価値を見抜く眼力は群を抜いています。自らが勝者にならずとも問題提起によって市場全体を動かす「触媒戦略」は、運用規模の限界を補う賢い手法です。そしてAJOTという日本専用ファンドを持つことで、長期かつ高コストなキャンペーンを腰を据えて戦えます。フジテックの着火点となった実績は、その影響力を証明しています。
9-2. 弱みと批判
一方で、AVIにも限界があります。第一に、その提案は否決されることが多いことです。TBS(賛成率11%)もフジテック(2020年提案)も、AVI自身の提案は否決されました。AVIの成果は、しばしば他者(オアシスなど)の力や、企業の自発的な対応によって間接的に実現します。第二に、TBSの事例が示すように、長期投資家でありながら「変革のスピードが遅い」と見れば全株売却して撤退します。これは合理的ですが、「結局は株価が上がれば売る投資家だ」という見方も可能です。第三に、消耗戦戦略は、創業家支配の企業に対しては即効性がなく、長い時間を要します。
9-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか
筆者の見立てでは、AVIは「日本企業の隠れた資産価値を映し出す、最も精緻な鏡」であり、「ガバナンス改革の着火点」です。彼らが指摘する論点――過大資本、政策保有株の塩漬け、賃貸不動産の含み益、創業家支配――は、いずれも日本企業が長年放置してきた弱点です。特に、本業と関係のない資産を大量に抱える企業や、創業家が支配する企業は、AVIの「狩り場」のど真ん中にいることを認識すべきでしょう。
個人投資家にとっては、AVIの活動は「割安な資産バリュー株・持株会社」を発掘する格好のヒントになります。AVIが特設サイトで公開する分析レポートは、その企業の「隠れた資産価値」と「あるべき株価」を理解する優れた教材です。また、AVIの主力ファンドAGT・AJOTはロンドン証券取引所に上場しており、日本の個人投資家も外国株口座を通じて間接的に投資できます。前稿のダルトン(NAVF)と同様、「個人がアクティビズムに参加できる」道を開いた存在でもあります。「資産価値と時価総額の乖離」「過大資本」というAVIの視点は、割安株を見極めるうえで、極めて有用な観点を提供してくれます。
10. 参考資料
本稿は、以下の公開情報・報道・公式資料をもとに構成しています(主なもの。数値・保有比率等は執筆時点で確認できた範囲のものであり、時点により変動します)。
公式・一次情報
- Asset Value Investors 公式サイト(assetvalueinvestors.com)、AGT・AJOTの各ページ(沿革、運用陣、キャンペーン特設ページ〔フジテック・帝国繊維等〕)
- AVIによる各社向けキャンペーン資料・プレゼンテーション
- 各社の適時開示・大量保有報告書(TBSホールディングス、フジテック等)
新聞・通信社・経済誌
- ダイヤモンド・オンライン(特集「フジテレビ崩壊」AVI坂井一成氏インタビュー、TBS全株売却の理由・テレビ業界のガバナンス問題)
- QuotedData(AGT・AJOTのリサーチノート、運用陣・AUM・戦略の詳細)
- This is Money/WorldNewsEra(AJOTの運用実績、バウアンフロインド氏のコメント)
専門メディア・その他
- 株探ニュース/みんかぶ「デリバティブを奏でる男たち」(AVI前後編、TBS株主提案・東京エレクトロン株の現物配当要求の詳細)
- deallab(AVIの日本投資先一覧、過大資本への着目)
- FundCalibre(AJOTの運用方針、フィデリティ・ジャパン・トラストとの合併)
- ゆる投資とAIと暇つぶし(AVIの「触媒・消耗戦・キャンペーンファンド」三戦略の分析)
百科事典等(一次情報の確認は上記公式・報道で実施)
- Wikipedia「AVI Global Trust」、LinkedIn(Asset Value Investors 公式)
本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。

