- はじめに ~ ビール会社が医薬・健康食品を手がける理由
- キリンHDの歴史 ~ ビールからバイオ・医薬へ
- キリンHDのビジネスモデル ~ 4つの事業
- ヘルスサイエンス事業 ~ 「第3の柱」への挑戦
- 医薬事業(協和キリン)とコア技術
- 業績の推移と長期経営構想
- 弱点1:国内ビール市場の縮小
- 弱点2:ヘルスサイエンス事業の収益化
- 弱点3:海外事業(豪州Lion)の苦戦
- 弱点4:M&Aの負担とROIC低下
- 弱点5:紅麹問題の影響
- 弱点6:医薬事業(協和キリン)の研究開発リスク
- 弱点7:酒類市場の健康志向・規制
- 弱点8:原材料・コスト上昇
- 弱点9:アサヒ・サントリー等との競争
- 弱点10:多角化による経営の複雑さ
- まとめ ~ 「食から医にわたる」価値創造への挑戦
- 参考資料
はじめに ~ ビール会社が医薬・健康食品を手がける理由
キリン――多くの人は「ビールの会社」を思い浮かべるでしょう。一番搾り、本麒麟、淡麗、そして氷結(缶チューハイ)。確かに、キリンは日本を代表するビール・酒類メーカーです。
しかし、キリンホールディングス(HD)の事業は、ビールだけではありません。医薬事業(協和キリン)、そして近年最も力を入れている「ヘルスサイエンス事業」――。キリンHDは、「食から医にわたる領域(ヘルスサイエンス・ドメイン)で価値を創造し、健康・地域社会・環境という社会課題の解決に取り組む」という独自のビジョンを掲げています。
なぜ、ビール会社が医薬・健康食品を手がけるのか。その背景には、国内ビール市場の縮小という危機感と、発酵・バイオテクノロジーという共通のコア技術があります。キリンは、ビールづくりで培った発酵・バイオの技術を、医薬・健康食品(プラズマ乳酸菌等)へと展開しているのです。
キリンホールディングス株式会社(証券コード2503、東証プライム)の2025年12月期は、売上収益2兆4,333億円(前期比+4.1%)、営業利益2,517億円(同+19.3%)とともに過去最高を更新。先行投資が続いていたヘルスサイエンス事業が初の黒字化を達成しました。2024年にはファンケルを完全子会社化し、ヘルスサイエンスを「第3の柱」に育てようとしています。
しかし、キリンHDのビジネスモデルにも、複数の弱点があります。国内ビール市場の縮小、ヘルスサイエンスの収益化、海外事業(豪州Lion)の苦戦、M&Aの負担、紅麹問題の影響――。
本記事では、キリンHDの「ビール×医薬×ヘルスサイエンス」モデルを多角的に分析し、その独自の強さと弱点の両面に迫ります。
キリンHDの歴史 ~ ビールからバイオ・医薬へ
キリンの起源は、1885年(明治18年)設立のジャパン・ブルワリー・カンパニーに遡ります。
1888年、「キリンビール」を発売。麒麟(きりん、伝説の聖獣)のラベル。
1907年、麒麟麦酒株式会社設立。
戦後、1950年代~1980年代、日本のビール市場でトップシェアを長年維持。
1980年代~1990年代、発酵・バイオテクノロジーを活かし、医薬事業へ進出。
2007年、協和発酵工業とキリンファーマが統合し、後の協和キリン(医薬)へ。
2007年、持株会社制に移行し、キリンホールディングスを設立。
2009年、協和発酵キリン(現協和キリン)が誕生。医薬事業の確立。
2010年代、海外展開(豪州のLion、ミャンマー等)、清涼飲料(キリンビバレッジ)。
2019年、「ヘルスサイエンス事業」を新たな成長領域に位置づけ。プラズマ乳酸菌等。
2023年、オーストラリアの健康食品最大手ブラックモアズを約1,700億円で買収。
2024年、持分法適用会社だったファンケルを完全子会社化。ヘルスサイエンス領域を一気に拡充。
2025年12月期、売上・営業利益とも過去最高。ヘルスサイエンス事業が初の黒字化。
2026年2月、長期経営構想を発表。2035年に時価総額3兆円を目指す。
現在、キリンHDは、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスの4事業で、「食から医にわたる」価値創造を進めています。
キリンHDのビジネスモデル ~ 4つの事業
キリンHDのビジネスモデルは、4つの事業セグメントから成り立っています。
第一に、「酒類事業」(中核事業)。
- キリンビール(一番搾り、本麒麟、晴れ風、キリングッドエール)
- 氷結、氷結無糖(RTD:缶チューハイ)
- 国内ビール・RTD
- 豪州のLion(ビール、RTD)
第二に、「飲料事業」。
- キリンビバレッジ(午後の紅茶、生茶、キリンレモン等)
- ヘルスサイエンス飲料(iMUSE:プラズマ乳酸菌等)
第三に、「医薬事業」(協和キリン)。
- 抗体医薬等のグローバル・スペシャリティファーマ
- 腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経等
- グローバル戦略品
- 研究開発投資
第四に、「ヘルスサイエンス事業」(成長の第3の柱)。
- プラズマ乳酸菌(免疫機能)
- ファンケル(化粧品・サプリメント、2024年完全子会社化)
- ブラックモアズ(豪州の健康食品、2023年買収)
- 協和発酵バイオ(アミノ酸等、一部売却)
- 「内外美容」「免疫」
事業の特徴:
- 酒類(中核)から医薬・ヘルスサイエンスへ
- 発酵・バイオテクノロジーという共通のコア技術
- 「食から医にわたる」価値創造
- 国内・海外(豪州、東南アジア等)
キリンHDは、ビール・酒類を中核に、飲料、医薬(協和キリン)、ヘルスサイエンスという4事業で、「食から医にわたる」独自のドメインを展開しています。
ヘルスサイエンス事業 ~ 「第3の柱」への挑戦
キリンHDの最大の戦略が、ヘルスサイエンス事業を「第3の柱」に育てることです。
ヘルスサイエンス事業とは:
- 「食から医にわたる」領域
- 免疫、内外美容、脳機能等の健康ソリューション
- プラズマ乳酸菌(免疫機能を維持するとされる素材、キリン独自)
- 健康食品、サプリメント、機能性飲料
ヘルスサイエンスの構成:
- キリン(プラズマ乳酸菌、iMUSE等)
- ファンケル(化粧品・サプリメント、2024年完全子会社化、無添加化粧品)
- ブラックモアズ(豪州の健康食品最大手、2023年約1,700億円で買収)
- 協和発酵バイオ(アミノ酸等、一部事業売却)
ヘルスサイエンスの目標:
- 2030年に売上収益3,000億円、事業利益300億円以上
- これは現在のキリンHDの事業利益の14%に相当
- キリン、ファンケル、ブラックモアズの3者で利益創出
ヘルスサイエンスの状況:
- 2024年:売上1,753億円、事業利益109億円の赤字(先行投資)
- 2025年:初の黒字化を達成(ファンケル完全子会社化、紅麹問題の影響を受けた通販の回復)
なぜヘルスサイエンスか:
- 国内ビール市場の縮小という危機感
- 発酵・バイオの技術を活かせる
- 健康志向の高まり
- 高収益領域
キリンHDは、ビールづくりで培った発酵・バイオの技術を活かし、ヘルスサイエンス(食から医)を「第3の柱」に育てようとしています。ファンケル・ブラックモアズの買収で領域を拡充し、2030年に売上3,000億円を目指しています。
医薬事業(協和キリン)とコア技術
キリンHDの独自性が、医薬事業(協和キリン)と発酵・バイオのコア技術です。
協和キリン(医薬事業):
- グローバル・スペシャリティファーマ
- 抗体医薬等
- 腎、がん、免疫・アレルギー、中枢神経等
- グローバル戦略品(クリースビータ等)
- 戦略的に研究開発費を投下
発酵・バイオテクノロジー:
- ビールづくり(発酵)で培った技術
- バイオ医薬品
- プラズマ乳酸菌(健康素材)
- アミノ酸(協和発酵バイオ)
- 「食から医にわたる」共通基盤
技術の展開:
- 発酵・バイオ → ビール、医薬、ヘルスサイエンス
- 共通のコア技術
- R&D投資(2025年度1,070億円)
- ファンケルとの共同研究(皮膚科学×免疫学、内外美容)
キリンHDは、発酵・バイオテクノロジーという共通のコア技術を、ビール(酒類)、医薬(協和キリン)、ヘルスサイエンス(プラズマ乳酸菌等)へと展開。これが、ビール会社が医薬・健康食品を手がける理由であり、キリンHDの独自性です。
業績の推移と長期経営構想
キリンHDの近年の業績推移を整理しておきましょう。
2024年12月期:
- 連結売上収益増加(酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスの増収)
- 連結事業利益は増益(医薬は減益も、酒類・飲料・ヘルスサイエンスが増益)
- 当期利益は減益(ファンケル連結子会社化の段階取得差損、協和発酵バイオのアミノ酸事業譲渡損等)
- ROIC 4.1%、平準化EPS 172円
2025年12月期(過去最高):
- 売上収益 2兆4,333億円(前期比+4.1%)
- 営業利益 2,517億円(同+19.3%)
- ともに過去最高を更新
- ヘルスサイエンス事業が初の黒字化
- 全セグメント(飲料、酒類、医薬、ヘルスサイエンス)で増益
- キリングッドエール(新ブランド)、氷結無糖が好調
長期経営構想(2026年2月発表):
- 2035年に時価総額3兆円を目指す(現在の約1.5倍)
- ヘルスサイエンスを酒類に次ぐ事業の柱に
- KV2027(2027年に向けた経営構想)
業績ドライバー:
- 酒類(キリングッドエール、氷結無糖、晴れ風)
- ヘルスサイエンス(ファンケル、紅麹問題後の回復)
- 飲料、医薬
キリンHDは、酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンスの全セグメントで増益を達成し、過去最高益を更新。ヘルスサイエンス事業の黒字化で、「第3の柱」への道筋が見え始めています。
弱点1:国内ビール市場の縮小
キリンHDの中核である国内ビール市場は、縮小傾向にあります。
国内ビール市場の課題:
- 人口減少・少子化
- 若者のビール離れ・アルコール離れ
- 健康志向
- 酒税改正
リスク:
- 国内ビール市場の縮小
- ビール類の需要減
- 若年層の獲得
キリンHDの中核である国内ビール市場は、人口減少・若者のビール離れ・健康志向で縮小傾向。だからこそ、キリンHDはヘルスサイエンス・医薬という新たな柱を育てています。国内ビール市場の縮小は、構造的な課題です。
弱点2:ヘルスサイエンス事業の収益化
キリンHDが「第3の柱」と位置づけるヘルスサイエンス事業は、収益化の途上です。
ヘルスサイエンスの課題:
- 2024年は事業利益109億円の赤字(先行投資)
- 2025年に初の黒字化
- 2030年売上3,000億円目標(道半ば)
- ファンケル・ブラックモアズの統合・シナジー
リスク:
- ヘルスサイエンスの収益化の持続性
- 買収企業(ファンケル、ブラックモアズ)の統合
- 健康食品市場の競争
- 目標達成の不確実性
キリンHDは、ヘルスサイエンス事業を2025年に初黒字化しましたが、2030年売上3,000億円という目標は道半ば。ファンケル・ブラックモアズの統合・シナジー創出、健康食品市場の競争が課題。ヘルスサイエンスが本当に「第3の柱」に育つかは、まだ不透明です。
弱点3:海外事業(豪州Lion)の苦戦
キリンHDの海外酒類事業、特に豪州のLionは苦戦しています。
豪州Lionの課題:
- 豪州市場の状況が楽観視できない
- ビール市場の縮小
- 競争
- 過去にはミャンマー事業の撤退も
リスク:
- 豪州市場の低迷
- 海外酒類事業の収益性
- 海外子会社の管理
- 撤退・減損リスク
キリンHDの豪州Lion(ビール・RTD)は、市場の状況が楽観視できない状況。海外酒類事業の苦戦は、キリンHDの課題。過去にはミャンマー事業(軍政との関係問題)の撤退、ブラジル・キリン(買収後に売却)の失敗もありました。海外事業の苦戦が、リスクです。
弱点4:M&Aの負担とROIC低下
キリンHDは、ヘルスサイエンス・医薬への積極的なM&A・投資により、財務負担・ROIC低下に直面しています。
M&A・投資の負担:
- ブラックモアズ買収(約1,700億円)
- ファンケル完全子会社化
- 医薬・ヘルスサイエンスの成長投資
- 負債の増加
リスク:
- ROICの低下(2024年4.1%)
- 負債増加
- のれん・無形資産の減損リスク
- 投資回収の不確実性
キリンHDは、ヘルスサイエンス・医薬への成長投資(ブラックモアズ、ファンケル等)により、負債が増加し、ROICが4.1%(2024年)に低下。投資が利益に結びつくまでには時間がかかり、ROICの低下、減損リスクが課題。M&A・投資の負担が、財務のリスクです。
弱点5:紅麹問題の影響
キリンHDが完全子会社化したファンケルは、健康食品業界の紅麹問題の影響を受けました。
紅麹問題:
- 2024年、小林製薬の紅麹サプリメントによる健康被害問題
- 健康食品(機能性表示食品)への不安
- 通販の定期顧客数への影響
リスク:
- 健康食品への消費者の不安
- 機能性表示食品の規制強化
- 通販事業への影響
- ヘルスサイエンス事業への波及
小林製薬の紅麹問題(2024年)は、健康食品業界全体に消費者の不安をもたらしました。ファンケル(キリンHDの子会社)の通販も、紅麹問題の影響を受け定期顧客数が減少(その後回復)。健康食品への不安、機能性表示食品の規制強化が、ヘルスサイエンス事業のリスクとなり得ます。
弱点6:医薬事業(協和キリン)の研究開発リスク
キリンHDの医薬事業(協和キリン)は、研究開発のリスクを抱えています。
医薬事業の課題:
- 戦略的な研究開発費の投下(減益要因)
- 新薬開発の不確実性
- 特許切れ
- グローバル競争
リスク:
- 新薬開発の失敗
- 研究開発費の負担
- 特許切れ
- グローバル製薬大手との競争
協和キリン(医薬事業)は、グローバル・スペシャリティファーマとして成長を目指し、戦略的に研究開発費を投下していますが、これが減益要因にも。新薬開発は高い失敗率を伴い、特許切れ、グローバル競争のリスクも。医薬事業の研究開発リスクが、課題です。
弱点7:酒類市場の健康志向・規制
キリンHDの酒類事業は、健康志向・規制の影響を受けます。
健康志向・規制リスク:
- アルコールへの健康懸念
- 若者のアルコール離れ
- 飲酒規制
- ノンアルコール・低アルコール需要
リスク:
- アルコール需要の構造的減少
- 規制強化
- 健康志向
世界的なアルコール離れ・健康志向は、ビール会社にとって構造的な逆風。キリンHDは、氷結無糖、ノンアルコール、ヘルスサイエンスで対応していますが、酒類市場の健康志向・規制は構造的なリスクです。皮肉にも、キリンが健康(ヘルスサイエンス)に注力するのは、酒類への逆風の裏返しでもあります。
弱点8:原材料・コスト上昇
キリンHDの事業は、原材料・コスト上昇の影響を受けます。
コスト上昇リスク:
- 麦芽、ホップ(ビール)
- 包装材(缶、瓶、ペットボトル)
- エネルギー、物流
- 健康食品の原料
リスク:
- 原材料価格の高騰
- コスト上昇
- 価格転嫁(値上げ)
キリンHDのビール・飲料・健康食品は、原材料・エネルギー・物流コストの上昇の影響を受けます。キリンは値上げ(2025年4月のビール値上げ等)で対応していますが、コスト上昇は構造的なリスク。価格転嫁できなければ、利益率が圧迫されます。
弱点9:アサヒ・サントリー等との競争
キリンHDは、酒類・飲料市場で強力な競合に直面しています。
主要競合:
- 酒類:アサヒグループHD(スーパードライ)、サントリー、サッポロ
- 飲料:コカ・コーラ、サントリー、伊藤園
- ヘルスサイエンス:大塚HD、明治、各種健康食品メーカー
- 医薬:グローバル製薬大手
競争のポイント:
- ブランド力
- 新商品開発
- マーケティング
- シェア
リスク:
- アサヒ(ビールで競合)との競争
- サントリー(飲料・酒類)との競争
- 各分野の競合
キリンHDは、ビールでアサヒ(スーパードライ)、飲料でコカ・コーラ・サントリー、ヘルスサイエンスで大塚HD等と競争。各分野で強力な競合がおり、シェア・収益をめぐる競争が激しい。競争が、構造的な課題です。
弱点10:多角化による経営の複雑さ
キリンHDの「食から医にわたる」多角化は、経営の複雑さというリスクもあります。
多角化の課題:
- 酒類、飲料、医薬、ヘルスサイエンスの多様な事業
- 各事業の専門性(特に医薬)
- 国内外の事業
- 経営資源の配分
リスク:
- 多様な事業の管理
- 経営資源の分散
- 事業間のシナジー創出
- 「選択と集中」
キリンHDは、酒類から医薬・ヘルスサイエンスまで多角化していますが、これらは事業の性質・専門性が大きく異なります(特に医薬はグローバル製薬の専門性が必要)。多様な事業の管理、経営資源の配分、シナジー創出は容易ではありません。多角化による経営の複雑さが、課題です。
まとめ ~ 「食から医にわたる」価値創造への挑戦
キリンHDのビール×医薬×ヘルスサイエンスモデルを、改めて整理しましょう。
強みとしては、創業1885年からの歴史、麒麟ビール(一番搾り、本麒麟、晴れ風、キリングッドエール)、氷結・氷結無糖(RTD)、2025年12月期売上2兆4,333億円・営業利益2,517億円(過去最高)、4事業(酒類・飲料・医薬・ヘルスサイエンス)、医薬事業(協和キリン、グローバル・スペシャリティファーマ)、ヘルスサイエンス事業(プラズマ乳酸菌、ファンケル、ブラックモアズ、初の黒字化)、発酵・バイオテクノロジーのコア技術、「食から医にわたる」価値創造、長期経営構想(2035年時価総額3兆円)、ファンケルとの内外美容シナジー。
ただし弱点も多数あります。国内ビール市場の縮小、ヘルスサイエンス事業の収益化(道半ば)、海外事業(豪州Lion)の苦戦、M&Aの負担とROIC低下(4.1%)、紅麹問題の影響、医薬事業(協和キリン)の研究開発リスク、酒類市場の健康志向・規制、原材料・コスト上昇、アサヒ・サントリー等との競争、多角化による経営の複雑さ。
キリンHDの本質的な戦略は、「ビールづくりで培った発酵・バイオの技術を、医薬・ヘルスサイエンス(食から医)へと展開し、国内ビール市場縮小という危機を、新たな価値創造で乗り越えようとしている」点にあります。
キリンは、日本を代表するビール会社ですが、国内ビール市場の縮小という危機感から、「食から医にわたる」領域で価値を創造する独自のビジョンを掲げました。発酵・バイオテクノロジーという共通のコア技術を、ビール(酒類)、医薬(協和キリン)、ヘルスサイエンス(プラズマ乳酸菌、ファンケル、ブラックモアズ)へと展開。
特にヘルスサイエンス事業を「第3の柱」に育てるべく、ファンケル・ブラックモアズを買収し、2030年に売上3,000億円を目指しています。2025年にヘルスサイエンスが初黒字化したことで、その道筋が見え始めています。
私たちが飲む一番搾りや氷結、午後の紅茶、そしてプラズマ乳酸菌の飲料、ファンケルの化粧品・サプリメント――これらすべての背後に、キリンHDの140年の歴史、発酵・バイオの技術、「食から医にわたる」価値創造、ヘルスサイエンスへの挑戦――これらが結晶しています。
ビジネスを設計する人にとって、キリンHDの事例は「コア技術(発酵・バイオ)の異分野展開」「成熟事業(ビール)から新領域(ヘルスサイエンス)への転換」「M&A(ファンケル、ブラックモアズ)による事業拡充」「『食から医』という独自ドメイン」「健康志向の捕捉」「多角化と経営の複雑さ」――多面的な教訓を提供してくれます。
10年後、キリンHDのヘルスサイエンス事業は「第3の柱」に育っているでしょうか。時価総額3兆円を達成しているでしょうか。「食から医にわたる」価値創造を実現しているでしょうか――。それは、現代日本の食品・飲料・ヘルスケア産業における興味深いテーマの一つです。
参考資料
- キリンホールディングス株式会社 公式IRサイト https://www.kirinholdings.com/jp/investors/
- キリンホールディングス「2024年度決算・2025年度計画」https://pdf.irpocket.com/C2503/A7NF/uhQ5/gt8R.pdf
- キリンホールディングス「2027年に向けた事業領域別戦略」https://www.kirinholdings.com/jp/company/strategy/management_plan/domains/
- キリンホールディングス「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」https://www.kirinholdings.com/jp/investors/finance/analysis/
- Business Insider Japan「キリンは何の会社になるのか。過去最高益の裏で育つ”新たな稼ぎ頭”」https://www.businessinsider.jp/article/2602-kirin-vision-2035/
- Business Insider Japan「キリンHD、失敗からの教訓:『第3の柱』狙うヘルスサイエンス」https://www.businessinsider.jp/article/2503-kirins-manda-strategy/
- TechnoProducer「キリンホールディングスの知財戦略:ヘルスサイエンス領域への構造転換」https://www.techno-producer.com/ai-report/kirin-holdings-company_ip_strategy_report/
- アサヒグループHD、サントリーHD、サッポロHD、大塚HD、ファンケル等関連企業の公式情報
- キリンビール・キリンHDの企業史関連書籍
- 日本経済新聞、東洋経済オンライン、Business Insider等のキリンHD関連報道

