自動化の「関節」を握る ― 産業用ロボットの精密減速機で世界シェア6割、「見えざるチャンピオンの集合体」が挑む再興
注意:数値は確認できた時点のもので、決算期・為替・市況・受注動向により変動します。投資判断の前に必ず最新の有価証券報告書・決算短信・決算説明資料をご確認ください。本稿は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。シェアは同社開示・各資料に基づく推計を含みます。
- 0. エグゼクティブサマリー
- 1. 企業概要と沿革 ―「うごかす、とめる」のモーションコントロール
- 2. 精密減速機とは何か ― ロボットの「関節」
- 3. 事業構造 ― 3つのソリューションと複数の世界トップ
- 4. ビジネスモデルの核心 ―「シェア1位の好循環」と「束ねる強み」
- 5. 競争環境 ― 精密減速機の「住み分け」と中国勢
- 6. 財務分析 ―「収益性の低迷」から「再興」へ
- 7. 中期経営計画「再興」と「進化」― Project 10
- 8. 成長ドライバー ― 自動化・ヒューマノイド・電動化・インフラ
- 9. 強み(独自の視点)
- 10. 弱み・リスク(独自の視点)
- 11. ガバナンス・株主還元
- 12. バリュエーションの考え方
- 13. シナリオ分析
- 14. 投資家としての着眼点(まとめ)
- 15. 参考資料(ナブテスコ)
0. エグゼクティブサマリー
ナブテスコ(証券コード6268、東証プライム、機械)は、「うごかす、とめる。」に代表される独創的なモーションコントロール(動きをあやつる)技術を核とする産業機械メーカーである。産業用ロボットの関節に使われる精密減速機で世界シェア約6割を握る世界トップ。加えて、新幹線のブレーキシステム、航空機の飛行制御システム、街中の自動ドア、駅のホームドアなど、暮らしと産業の根幹を支える「動きを制御する」技術で、複数のニッチ市場に高シェアを持つ。まさに「見えざるチャンピオンの集合体」と呼ぶにふさわしい企業だ。
その精密減速機は、産業用ロボットのアームを正確かつ力強く動かす「関節」にあたる。世界中の工場で自動化(FA)が進み、ロボットが増えるほど、その関節への需要が積み上がる。ナブテスコは、自動化というメガトレンドの土台を握る存在だ。
しかし、この会社には光と影がある。多様な世界トップ事業を抱えながら、その多様性ゆえに投資家から価値を正しく評価されにくい「コングロマリット・ディスカウント」に陥り、近年は収益性が低迷して前中期経営計画の目標も未達に終わった。これに対し、ナブテスコは2025年度から新中期経営計画「再興」と「進化」を始動。中核施策「Project 10」で、価格転嫁・コスト削減・固定費適正化を徹底し、2026年度に全社営業利益率10%への回復を目指す。足元では、精密減速機の需要回復と収益性改善活動が奏功し、2026年12月期第1四半期は全セグメント増収増益(売上16.9%増、営業利益68.3%増)と好調なスタートを切り、通期予想も上方修正された。
つまりナブテスコは、「自動化の関節という構造的な強み」と「収益性立て直しという再興ストーリー」の二つを併せ持つ。本稿では、見えざるチャンピオンの集合体・ナブテスコを、その技術の本質から、ビジネスモデル、財務、再興戦略、シナリオまで立体的に解剖する。
1. 企業概要と沿革 ―「うごかす、とめる」のモーションコントロール
1-1. 二つの名門の統合で誕生
ナブテスコは、2003年にナブコと帝人製機という二つの名門の経営統合によって誕生した。この出自が、同社の性格を決定づけている。ナブコは1925年創業で、鉄道用エアブレーキや国内初の自動ドアなど、社会インフラに根差した「とめる・ひらく」技術を持っていた。帝人製機は1944年創業で、産業用ロボット関節向けの精密減速機や航空機部品など、「うごかす」技術を持っていた。
この二社が統合したことで、ナブテスコは「うごかす(モーション)」と「とめる(コントロール)」を精密に制御するモーションコントロール技術の集合体になった。一社の中に複数の世界トップ級事業が同居する、独特の企業構造の起源がここにある。
1-2. モーションコントロールの集合体
ナブテスコの製品は、いずれも「動きを精密にあやつる」技術の結晶だ。産業用ロボットのアームを正確に動かす精密減速機、新幹線を安全に止めるブレーキ、航空機の舵を制御する飛行制御システム、人を検知して開閉する自動ドア、駅で人を守るホームドア。これらは一見バラバラに見えるが、すべて「モーションコントロール」という共通の技術基盤の上にある。ナブテスコは、この技術を、産業・交通・建物といった社会の様々な現場に展開している。本社は東京都。海外売上比率は約50%だ。
2. 精密減速機とは何か ― ロボットの「関節」
ナブテスコのビジネスを理解するには、稼ぎ頭である精密減速機が、産業用ロボットで果たす役割を押さえる必要がある。
2-1. モーターの力を「関節」に変える
産業用ロボットのアームは、複数の関節を持ち、それぞれがモーターで動く。しかし、モーターの回転は速くて力が弱い。これをそのままアームに伝えても、重い物を持ち上げたり、精密に位置決めしたりはできない。そこで、モーターの回転を減速して、大きなトルク(回転力)に変える部品が必要になる。これが精密減速機だ。ロボットの各関節に組み込まれ、モーターの回転を精密に減速・増幅することで、アームが正確かつ力強く動く。精密減速機は、ロボットの「関節」そのものである。
2-2. RVの強み ― 高剛性・耐衝撃
ナブテスコの精密減速機「RV」は、独自の構造を持つ。競合である波動歯車(ハーモニック・ドライブ)減速機が小型・軽量に強いのに対し、ナブテスコのRVは高剛性で、大きな衝撃に耐え、高負荷の中・大型産業用ロボットで絶大な支持を得ている。重い物を扱う自動車の溶接ロボットや、大型の搬送ロボットなど、強い力と精度が求められる用途では、RVが事実上の標準だ。この「中・大型ロボット関節」という、収益性の高い領域を押さえている点が、ナブテスコの世界シェア約6割の源泉である。
2-3. なぜ参入が難しいのか
精密減速機は、極めて高い精度(バックラッシュ=遊びの少なさ)と、長期間の高負荷に耐える耐久性が求められる。歯車の設計、材料、加工、組み立ての一つひとつに、長年の蓄積(暗黙知)が要る。カタログスペックを真似しても、同じ品質・寿命は容易には出せない。そして、ロボットメーカーは、いったん採用した減速機を簡単には変えない。ロボットの性能と信頼性に直結するからだ。この「暗黙知の壁」と「切り替えコスト」が、ナブテスコの地位を守っている。
3. 事業構造 ― 3つのソリューションと複数の世界トップ
ナブテスコの事業は、3つのソリューション・セグメントからなる(売上構成比・営業利益率の目安)。
3-1. コンポーネントソリューション(売上約26%)
精密減速機(中・大型産業用ロボット関節用RV、ギアヘッド)、建設機械向け油圧機器、風力発電機用の駆動装置などを手がける。稼ぎ頭の精密減速機を含む、ナブテスコの技術の象徴的セグメントだ。世界の工場自動化に直結する。
3-2. トランスポートソリューション(売上約33%)
鉄道車両用機器(ユニットブレーキ、ブレーキ制御装置、ドア開閉装置)、航空機器(飛行制御アクチュエーションシステム)、商用車用機器(エアドライヤー、EVバス用電動コンプレッサーなど)、舶用機器(主機遠隔操縦装置など)を手がける。社会インフラに根差した、安定的だが景気・公共投資の影響も受けるセグメントだ。国産機の飛行制御システムでは極めて高いシェアを持つ。
3-3. アクセシビリティソリューション(売上約36%)
建物用の自動ドア(国内首位、世界首位級)、駅のプラットホームドア(ホームドア)などを手がける。人々の安全・快適なアクセスを支える領域で、バリアフリーや駅の安全対策の進展が追い風になる。
3-4. 複数の世界トップを束ねる構造
このように、ナブテスコは「精密減速機(世界6割)」「自動ドア(世界首位級)」「国産機飛行制御(極めて高シェア)」「鉄道ブレーキ」など、複数の世界トップ級事業を一社で束ねている。これは、異なる需要サイクルを持つ事業を抱えることで、一つが冷えても他が支えるという分散効果をもたらす。一方で、後述するように、この多様性が「コングロマリット・ディスカウント」を生む両刃の剣でもある。
4. ビジネスモデルの核心 ―「シェア1位の好循環」と「束ねる強み」
4-1. シェア1位がもたらす情報の好循環
ナブテスコのビジネスモデルの核心の一つが、精密減速機におけるシェア1位の好循環だ。シェアが高いと、ロボットメーカーから「次にどんな減速機が必要か」という将来ニーズの情報が、最も早く・最も多く入ってくる。技術の信頼性が重視される新製品開発において、顧客が最初に相談する相手は、シェア1位のサプライヤーだからだ。その生のニーズを次の製品開発に反映すれば、さらに先を行ける。「シェア → 情報 → 次の優位 → さらなるシェア」という好循環が回る。本シリーズで繰り返し見てきた、GNTの典型的なメカニズムだ。
4-2. 複数ニッチトップを束ねる強み
ナブテスコは、モーションコントロールという共通基盤の上に、複数のニッチトップを束ねている。これは、(1)異なる需要サイクルによる分散、(2)技術の横展開(一つの技術が複数の用途に生きる)、(3)社会インフラに根差した安定性、という強みをもたらす。鉄道・航空・自動ドアといったインフラ系は、ロボット・建機といった設備投資系の波を和らげる。
4-3. 保守・サービスとスマートモーションコントロール
ナブテスコの製品は、鉄道・航空・自動ドアなど、長期間使われ、保守が不可欠なものが多い。これにより、機器販売に加えて、保守・更新といった継続的(ストック型)な収益が積み上がる。さらに、ナブテスコは「スマートモーションコントロール(SMC)」を掲げ、製品を電動化・システム化し、データ活用(IoT、予知保全など)へ拡張することで、提供価値を高めようとしている。単なる部品売りから、データを活用したソリューションへの進化を目指している。
5. 競争環境 ― 精密減速機の「住み分け」と中国勢
精密減速機の世界では、ナブテスコが中・大型ロボット関節用途で世界トップ(約6割)だが、競合も存在する。最大の競合は、ハーモニック・ドライブ・システムズ(波動歯車減速機)だ。同社は小型・軽量の減速機に強く、協働ロボットや半導体製造装置、精密用途で支持される。ナブテスコのRV(中・大型、高剛性)とハーモニック・ドライブ(小型・軽量)は、用途で住み分けており、両者が精密減速機市場を二分する構図だ。このほか、住友重機械工業(サイクロ減速機)なども競合する。
近年の重要な論点が、中国メーカーの追い上げだ。精密減速機は、中国でも産業ロボットの国産化が国家的に推進される中、現地メーカーが技術力を上げて台頭しつつある。今は世界シェア6割でも、中国のボリュームゾーンで中国製減速機が浸透すれば、シェアと価格に圧力がかかり得る。本シリーズで論じた「世界シェアの持続性は、中国勢のキャッチアップ速度との競争」という観点が、ここにも当てはまる。ナブテスコは、高剛性・高精度・高耐久という品質と、長年の信頼で、高付加価値領域を守りつつ、コスト競争にも対応していく必要がある。自動ドアや鉄道ブレーキ、航空機器でも、それぞれグローバル・国内の競合と競っている。
6. 財務分析 ―「収益性の低迷」から「再興」へ
6-1. コングロマリット・ディスカウントと収益性低迷
ナブテスコの財務の最大の論点は、収益性の低迷だった。世界トップ事業を複数抱えながら、全社の営業利益率は伸び悩み、前中期経営計画の目標も未達に終わった。原因は、(1)一部事業の収益性の低さ、(2)コスト増を価格に十分転嫁できなかったこと、(3)固定費の重さ、などだ。そして、多様な事業を抱えるがゆえに、投資家から見て価値が分かりにくく、本来の合計価値より低く評価される「コングロマリット・ディスカウント」に陥っていた。世界トップ事業を持ちながら市場の評価が伸び悩む――これがナブテスコの抱えてきたジレンマだ。
6-2. 2026年12月期 ― 再興の手応え
しかし、足元では明確な改善の兆しが出ている。2026年12月期第1四半期は、全セグメントで増収増益、売上高16.9%増、営業利益68.3%増と好調な結果となった。精密減速機の需要回復や、自動ドア・舶用機器の需要増加が業績を牽引し、後述する収益性改善活動(Project 10)が奏功した。通期業績予想も上方修正された。需要回復という追い風と、自助努力による収益性改善が重なり、「再興」フェーズの手応えが数字に表れ始めている。
6-3. 株主還元方針の明確化
ナブテスコは、新中期経営計画で株主還元方針も明確化した。2027年度にROIC(投下資本利益率)10%以上を目指すとともに、DOE(株主資本配当率)3.5%を目安にした安定配当に、機動的な自社株買いを加える方針を2025年度以降に導入する。利益水準だけでなく、資本効率(ROIC)と株主還元(DOE・自社株買い)を重視する姿勢は、コングロマリット・ディスカウントの解消と、市場からの再評価を狙ったものだ。
7. 中期経営計画「再興」と「進化」― Project 10
ナブテスコは、2025年度から始まる新中期経営計画で、「再興」と「進化」の二本柱を掲げる。
**「再興」フェーズ(収益性の改善)の中核を担うのが「Project 10」だ。これは、2026年度に全社営業利益率10%**を達成することを目標とする収益性立て直し策である。単なるコストカットではなく、(1)価格転嫁(適正な値上げの徹底)、(2)コスト削減、(3)固定費の適正化、(4)製品ポートフォリオの見直し(収益性の低い事業の改善・整理)を徹底する。CEOの木村和正氏は、前中計未達の主因を直視し、「収益性へのこだわり」を明言している。経営トップが収益性低迷の原因を率直に認め、それを正面から立て直そうとする姿勢は、評価できる現実主義だ。
**「進化」フェーズ(成長戦略)**では、スマートモーションコントロール(SMC)による電動化・システム化・データ活用への拡張に加え、既存事業(ファーストコア)に続く「セカンドコア/サードコア」の育成を進める。モーションコントロールの技術を、新たな成長領域へ広げ、次の柱を育てる。CO2排出量を2015年比で2027年度に50%削減、2050年にネットゼロという環境目標も掲げる。
要するに、この中計は「世界トップ事業を持つ会社が、低迷していた収益性を立て直し(再興)、新たな成長領域を育てる(進化)」という、ターンアラウンドと成長の二段構えである。
8. 成長ドライバー ― 自動化・ヒューマノイド・電動化・インフラ
ナブテスコの中長期の成長を支えるドライバーは、複数ある。
第一に、世界の工場自動化(FA)とロボットの普及。 人手不足と効率化のニーズから、世界中で工場の自動化が進む。産業用ロボットが普及するほど、その関節である精密減速機の需要が積み上がる。ナブテスコは自動化の「関節」を握る。
第二に、ヒューマノイド(人型ロボット)という将来需要。 近年、AIの進化を背景に、人型ロボットへの期待が高まっている。人型ロボットは多数の関節を持ち、それぞれに減速機が必要になる。もしヒューマノイドが本格普及すれば、精密減速機の需要が飛躍的に拡大する可能性がある。これは大きな将来オプションだ(ただし、ヒューマノイド向けには小型・軽量の減速機が求められる面もあり、用途ごとの競争構造には注意が要る)。
第三に、電動化とスマート化(SMC)。 製品の電動化・システム化・データ活用が、新たな付加価値を生む。EVバス用電動コンプレッサーなど、電動化の波に乗る製品も育っている。
第四に、インフラ系の安定需要。 鉄道、航空、自動ドア、ホームドアといったインフラ系は、安全・バリアフリー・更新需要に支えられ、安定的な成長を見込める。とくにホームドアは、駅の安全対策として設置が進む。
第五に、収益性改善による利益成長。 Project 10による営業利益率の回復そのものが、売上が横ばいでも利益を押し上げる成長ドライバーになる。
9. 強み(独自の視点)
第一に、自動化の「関節」という構造的ポジション。 中・大型ロボット関節用精密減速機で世界シェア約6割。工場自動化・ロボット普及というメガトレンドの土台を握る。RVの高剛性・耐衝撃という構造的優位が、収益性の高い中・大型領域を押さえる。
第二に、複数の世界トップを束ねる分散力。 精密減速機、自動ドア、飛行制御、鉄道ブレーキなど、異なる需要サイクルの世界トップ事業を抱える。一つが冷えても他が支える。
第三に、シェア1位の情報好循環と暗黙知の堀。 シェア1位ゆえに顧客の将来ニーズを先取りでき、次の優位につながる。長年の暗黙知と切り替えコストが、地位を守る。
第四に、ストック収益とSMCへの進化。 インフラ系の保守・更新収益が安定をもたらし、スマートモーションコントロールでデータ活用ソリューションへ進化しようとしている。
第五に、収益性改善という再評価カタリスト。 Project 10による営業利益率10%への回復と、ROIC・株主還元の重視は、コングロマリット・ディスカウントを解消し、市場からの再評価を促す触媒になり得る。優良な事業基盤がある分、収益性が改善すれば株価の見直し余地が大きい。
10. 弱み・リスク(独自の視点)
第一に、シクリカル性。 稼ぎ頭の精密減速機は、産業用ロボット需要という設備投資サイクルにさらされる。世界の設備投資が冷えれば、減速機の需要も急減する。建機向け油圧機器も同様だ。好不況で業績が振れる構造は避けられない。
第二に、コングロマリット・ディスカウントと収益性の課題。 多様な事業を抱えるがゆえに価値が分かりにくく、低評価に陥りやすい。前中計未達という実績が示す通り、収益性の立て直しは道半ばだ。Project 10が計画通りに進まなければ、ディスカウントが続く。
第三に、収益性改善(Project 10)の実行リスク。 価格転嫁・コスト削減・固定費適正化は、言うは易く行うは難し。需要回復という追い風がある今は順調だが、追い風が止んだときに、自助努力だけで営業利益率10%を維持できるかが真の試金石だ。
第四に、中国勢の追い上げ。 精密減速機は中国で国産化が進み、現地メーカーが台頭しつつある。世界シェア6割でも、ボリュームゾーンで中国製が浸透すれば、シェアと価格に圧力がかかり得る。世界シェアの持続性は、中国勢との競争次第だ。
第五に、ヒューマノイドの不確実性。 人型ロボットは大きな将来オプションだが、本格普及の時期は不透明で、求められる減速機の仕様(小型・軽量)によっては競争構造が変わる。期待が先行しすぎるリスクもある。
第六に、為替。 海外売上比率約50%ゆえ、為替変動の影響を受ける。
11. ガバナンス・株主還元
ナブテスコは、新中期経営計画で、ガバナンスと株主還元の姿勢を明確化した。CEOが前中計未達の主因を率直に認め、「収益性へのこだわり」を掲げる姿勢は、現実的で評価できる。株主還元では、2027年度にROIC10%以上を目指し、DOE3.5%を目安とした安定配当に機動的な自社株買いを加える方針を導入する。これは、コングロマリット・ディスカウントの解消と、資本効率・株主還元の重視を、東証のPBR改革の文脈でも意識したものだ。投資家としては、(1)Project 10による営業利益率10%回復の進捗、(2)ROIC・株主還元方針の実行、(3)収益性の低い事業の改善・整理(ポートフォリオ見直し)の進展を、継続的に確認することが重要だ。
12. バリュエーションの考え方
ナブテスコのバリュエーションを考える鍵は、「コングロマリット・ディスカウントの解消余地」と「収益性改善の進捗」だ。
ナブテスコは、世界トップ事業を複数持ちながら、収益性の低迷とコングロマリット・ディスカウントで、本来の事業価値より低く評価されてきた面がある。裏を返せば、これは再評価の伸びしろでもある。Project 10で営業利益率が10%に回復し、ROIC・株主還元が改善すれば、優良な事業基盤(世界トップの関節技術)という土台がある分、株価が見直される余地が大きい。本シリーズで論じた「事業は良いのに評価が低い会社は、資本政策・収益性の改善というカタリストで再評価される」という構図に当てはまる。
一方で、(1)シクリカルゆえに好業績時のPERの低さが天井のサインになりうる点、(2)収益性改善が需要回復という追い風に支えられた一時的なものか、自助努力による構造的なものかを見極める点、には注意が要る。「再興」が本物の構造改善なら再評価、追い風頼みなら一時的、という分かれ目だ。事業の質(世界トップの関節)と、収益性改善の持続性、株主還元の進捗を、バランスよく見ることが要る。
13. シナリオ分析
強気シナリオ(再興成功+自動化・ヒューマノイド) Project 10が奏功して営業利益率10%を構造的に達成し、コングロマリット・ディスカウントが解消されて株価が再評価される。世界の工場自動化が加速し、精密減速機の需要が拡大。ヒューマノイドの普及が将来需要を押し上げる。ROIC10%・株主還元強化が市場に評価され、「再興」と「進化」が両立して、業績・株価が大きく伸びる。
基本シナリオ(緩やかな収益改善+サイクルの波) 需要回復とProject 10で収益性が改善するが、設備投資サイクルの波を周期的に受ける。中国勢の追い上げに対し、高付加価値領域を守りつつシェアを維持。インフラ系の安定収益が下支えし、緩やかに営業利益率と評価が改善する。最も蓋然性が高い。
弱気シナリオ(追い風頼み+改善頓挫+中国勢) 足元の収益改善が需要回復という追い風に依存しており、追い風が止むと営業利益率が再び低迷する。Project 10の自助努力が頓挫し、コングロマリット・ディスカウントが続く。中国勢の追い上げでシェアと価格が侵食され、ヒューマノイド期待も剥落する。世界トップでありながら、収益性の低迷が続く。
14. 投資家としての着眼点(まとめ)
ナブテスコは、本シリーズの三類型でいう「多角・シクリカル型」の代表であり、かつ「収益性立て直し(ターンアラウンド)」の色を帯びた独特の存在だ。中・大型ロボット関節用精密減速機で世界シェア6割、自動ドア・飛行制御・鉄道ブレーキなど複数の世界トップを束ねる――事業の質は確かである。
向き合う際の論点は明確だ。第一に、Project 10による収益性改善(営業利益率10%回復)が、構造的なものか、需要回復という追い風頼みか。これが最大の論点であり、コングロマリット・ディスカウント解消と再評価の鍵だ。第二に、設備投資サイクルのどの局面で見ているか。シクリカルの罠に注意が要る。第三に、中国勢の追い上げに、シェアと利益率を守れるか。第四に、ヒューマノイドという将来オプションをどう評価するか(期待先行に注意)。
結論として、ナブテスコは「世界の工場が自動化を進め、ロボットが増え、社会インフラが動き続ける限り、その関節と制御で稼ぐ」構造的な強みを持つGNTである。同時に、低迷していた収益性を立て直す「再興」の途上にあり、それが成功すれば、優良な事業基盤の上に再評価が乗る伸びしろを持つ。「世界シェア6割」という強みに安住せず、収益性改善の持続性・サイクルの局面・中国勢の追い上げという論点で冷静に見極めることが、自動化の関節を握る見えざるチャンピオンと付き合う要諦である。事業の良さと、収益性・評価の改善は、ここでは別々に検証すべき二つの問いなのだ。
15. 参考資料(ナブテスコ)
- ナブテスコ IR:Nabtesco Value Report 2024、新中期経営計画(2025年度〜)、決算短信・決算説明資料(nabtesco.com、「再興」と「進化」・Project 10〔2026年度 営業利益率10%〕・ROIC10%以上〔2027年度〕・DOE3.5%+機動的自社株買い・スマートモーションコントロール・セカンド/サードコア・CO2▲50%)
- Yahoo!ファイナンス「ナブテスコ【6268】企業情報・決算情報」(finance.yahoo.co.jp、産業ロボット用精密減速機 世界シェア6割・自動ドア世界首位級・連結事業〔コンポーネント26・トランスポート33・アクセシビリティ36・他6〕・海外50%・2026年12月期1Q 売上+16.9%・営業利益+68.3%・通期上方修正)
- キタイシホン「ナブテスコ【6268】のストーリー・沿革」(kitaishihon.com/company/6268/story、2003年ナブコ+帝人製機統合・「うごかす、とめる。」・Project 10・SMC・木村和正CEO「収益性へのこだわり」・前中計未達)
- 日本個別株デューデリジェンスセンター「ナブテスコ(6268)徹底解剖:見えざる世界シェアNo.1技術の集合体」(note.com/tatsuya_sabato、2025年8月、コングロマリット・ディスカウント・「再興」と「進化」・モーションコントロール)
- 株予報Pro/FISCO(kabuyoho.jp・web.fisco.jp、製品ラインナップ〔精密減速機RV・風力CMFS・鉄道ブレーキ・航空飛行制御・自動ドア・ホームドア〕・主機遠隔操縦装置)
- 日経会社情報(nikkei.com、制御装置大手・精密減速機は産業ロボット関節用で世界6割)
- 経済産業省「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」選定企業一覧(ナブテスコは関連事業で選定)
※精密減速機の世界シェア(約6割)、自動ドア・飛行制御等のシェア、セグメント構成は同社開示・各資料に基づく推計を含みます。財務数値は決算期(12月期)・為替・市況により変動します。

