健康でいることが最大の節約だと気づいたのが遅すぎた件

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健康でいることが最大の節約だと気づいたのが遅すぎた件

節約の達人だったはずの私

節約については、それなりの自負があった。

半額シールのタイミングを読む技術。もやし料理のレパートリー。発泡酒と第三のビールの飲み比べ。100均で生活必需品を揃えるスキル。光熱費を抑えるための工夫。これらを20年以上磨き続けてきた。

月の食費を3万円以内に収める。光熱費を8000円以内に。通信費を3000円以内に。日用品費を2000円以内に。あらゆるカテゴリで、ぎりぎりまで絞る。絞った結果を手帳に記録し、前月と比較し、少しでも多く残せるように工夫する。

節約の達人。少なくとも自分ではそう思っていた。限られた収入で生活を回す技術については、人に負けない自信があった。

だが、ある事実に気づくのが遅すぎた。

節約の中で、最もインパクトの大きい項目を見落としていた。食費でも光熱費でもない。「健康」だ。健康でいることが、人生で最大の節約だということに、40代半ばになってようやく気づいた。

体調を崩したときの出費

40代に入って、体調を崩す頻度が上がった。風邪を引きやすくなった。引くと長引く。一度引くと2週間は完治しない。20代の頃は3日で治っていたのに。

風邪を引いたときの出費を計算してみる。病院代(初診+薬)で約3000円。市販の風邪薬や栄養ドリンクで約1000円。体調不良で食欲がないから、消化の良い食事に切り替える。おかゆ、うどん、ゼリー飲料。通常の食費より少し高くつく。合計約1000円の上乗せ。

ここまでで約5000円。だが最大のコストは「労働収入の減少」だ。風邪で2日休むと、派遣の時給制では2日分の給料が消える。1日8時間×時給1200円×2日=19200円。約2万円。

風邪1回で、約25000円の出費と収入減。年に3回風邪を引くと、75000円。7万5000円。NISAの年間積立額を月6000円以上増やせる金額だ。

風邪だけではない。腰痛で整形外科に行けば5000円。歯の治療で3万円。胃の不調で胃カメラを飲めば1万円。メンタルの不調で心療内科に通えば月5000円。

これらの医療費は、「健康であれば発生しなかった出費」だ。つまり、健康でいること自体が、これらの出費をゼロにする。最大の節約だ。

「節約」と「健康維持」の矛盾

ここに矛盾がある。

節約するために、食費を削る。食費を削ると、栄養バランスが崩れる。栄養バランスが崩れると、体調を崩しやすくなる。体調を崩すと、医療費がかかる。医療費がかかると、また食費を削る。食費を削ると——ループだ。

私はこのループの中にいた。食費を月3万円に抑えることに注力するあまり、「食費を削った結果発生する医療費」を計算に入れていなかった。食費を3万円から2万5000円に削って5000円節約しても、年に3回風邪を引いて7万5000円失っていたら、差し引き7万円のマイナスだ。

節約の計算式が間違っていた。食費の節約額だけを見ていて、それによって発生する健康コストを見落としていた。部分最適に陥っていた。全体最適で見れば、食費を少し増やして栄養バランスを整え、風邪を引く回数を減らすほうが、トータルの出費は少ない。

この単純な事実に気づいたのは、40代になってからだ。20年間、部分最適の罠にはまっていた。20年分の「風邪代」を合計したら、いくらになるだろう。考えたくない数字だ。

健康への投資という概念

「健康への投資」という言葉がある。運動する、栄養バランスの良い食事を取る、定期的に検診を受ける。これらは「出費」ではなく「投資」だと。将来の医療費を削減するための先行投資。

この概念を知ったのは30代後半だったが、実践できなかった。投資するには原資が必要だ。ジムの月会費5000円。栄養バランスの良い食事に切り替えると食費が月5000円増える。定期検診に年10000円。合計で年に7万円以上の「投資」が必要になる。

7万円。この7万円を捻出する余裕がなかった。余裕がないから投資できない。投資できないから体調を崩す。体調を崩すから医療費がかかる。医療費がかかるから余裕がなくなる。例のループだ。

ただし、「健康への投資」は必ずしも金がかかるとは限らない。散歩は無料だ。自炊で野菜を増やすのは、外食を減らすことで相殺できる。早寝早起きは無料だ。禁煙すればタバコ代が浮く(私は吸わないが)。酒を減らせば酒代が浮く。

金のかからない健康投資もある。だがそのためには「時間」と「気力」が必要だ。散歩するには30分の時間。自炊するには食材を買って調理する気力。早寝するには、夜の不安を抑えて布団に入る精神力。これらのリソースが、仕事で疲弊した日常の中では枯渇している。

結局、金がなくても時間がなくても気力がなくても、「健康でいることが最大の節約だ」という事実は変わらない。変わらないが、実践のハードルが高い。ハードルが高いから実践できない。実践できないから不健康になる。不健康になるから出費が増える。増えるから金がなくなる。ループ。

気づいたのが遅かった、という後悔

「遅すぎた」とタイトルに書いた。この後悔の中身を、もう少し具体的に書く。

もし20代のうちに「健康=節約」に気づいていたら。もやしとカップ麺の食生活を、もう少し見直していたかもしれない。月500円で買える野菜を一品追加するだけでも、栄養バランスは変わったはずだ。月500円。年6000円。この6000円の「投資」で、年に1回の風邪を防げていたら、25000円の節約になっていた。

もし30代のうちに運動習慣をつけていたら。ジムに行く金がなくても、毎日30分の散歩を習慣にしていたら、腰痛や肩こりは軽減されていたかもしれない。整形外科に行く回数が減り、湿布代が減り、痛みで集中力が落ちることも減っていたかもしれない。

もし30代のうちにストレス管理を学んでいたら。心療内科に行くまで20年も放置せずに済んだかもしれない。適応障害が軽症のうちに対処できていたら、蓄積されたダメージはもっと少なかっただろう。

すべて「もし」の話だ。過去は変えられない。変えられないが、悔やむことはできる。悔やんだうえで、「今からでもできること」を考える。遅いが、遅いなりにやれることはある。

散歩を始めた。毎日ではないが、週に3回、30分。金はかからない。靴は100均のスニーカーだが、歩くには十分だ。

食事に野菜を一品追加した。もやしだけでなく、キャベツやニンジンも買うようにした。月の食費が1000円ほど増えたが、風邪を引く回数が減った気がする。気がするだけかもしれないが、気がするだけでも精神的にはプラスだ。

睡眠を意識するようになった。スマートフォンを寝る1時間前に見ないようにした。完全にはできていないが、以前よりは眠りの質が良くなった。

どれも小さなことだ。だが小さなことの積み重ねが、長期的には大きな差になる。複利と同じだ。健康の複利効果は、金融の複利と同じくらい強力だ。そして金融と同じく、早く始めるほど効果が大きい。

遅すぎた。でもまだ生きている。生きているうちは、始められる。始めないよりは、始めたほうがいい。今日から始める。45歳の「今日」は、人生で最も若い日だから。

節約の定義を変える

最後に、節約の定義を書き換えたい。

今までの定義。「支出を最小化すること」。食費を削る、光熱費を抑える、通信費を下げる。出ていくお金を減らす。

新しい定義。「将来の不要な支出を防ぐこと」。健康を維持して医療費を防ぐ。虫歯を予防して治療費を防ぐ。ストレスを管理して心療内科代を防ぐ。出ていくお金を減らすのではなく、出ていくはずだったお金を発生させない。

前者は「今月」の節約。後者は「来年以降」の節約。前者は目に見えるが、後者は見えにくい。見えにくいから後回しにされる。後回しにした結果、「見えなかった出費」がドカンと来る。歯医者の話と同じだ。

節約の達人を自称していた私は、前者だけを極めていた。後者の存在に気づかず、健康を切り売りして目先の節約を追求していた。切り売りした健康の代償は、後から何倍にもなって請求される。

健康は、最大の節約であり、最大の資産であり、最大の投資先だ。気づいたのが遅すぎた。でもまだ間に合う。間に合うと信じて、今日も散歩に出る。100均のスニーカーで。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。健康と節約の関係に気づくのが遅かった人は、きっと少なくないはずです。

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