氷河期世代の「ペット」を飼えない経済学——手取り16万円で犬を飼ったらいくらかかるか

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はじめに——「ペットが飼いたい」と思った夜

散歩中に犬を連れた人とすれ違った。柴犬。飼い主を見上げて尻尾を振っている。「いいなぁ」と思った。帰宅。6畳のワンルーム。誰もいない。「ただいま」と言う。壁が答える——答えない。「犬がいたら『ただいま』に尻尾で答えてくれるのに」。その夜、スマートフォンで「犬 飼い方 費用」と検索した。検索結果を見て——閉じた。「無理だ」。

ペットは「孤独の特効薬」だ。帰宅すると尻尾を振って迎えてくれる犬。膝の上でゴロゴロと喉を鳴らす猫。「自分を待っている存在がいる」という感覚は、友達ゼロの45歳独身男性にとって「精神の救急薬」だ。だがこの「救急薬」には「価格」がある。その価格が——手取り16万円では「払えない」。

第1章 「犬」を飼った場合のコスト——生涯費用300〜500万円

犬(中型犬。柴犬を想定)の生涯費用を計算する。平均寿命14年。初期費用。犬の購入費(ブリーダー/ペットショップ):15〜40万円。保護犬の場合:3〜5万円(譲渡費用)。ケージ・リード・食器等:2〜3万円。初回ワクチン・去勢/避妊手術:3〜5万円。合計初期費用:23〜48万円(保護犬の場合8〜13万円)。

年間のランニングコスト。ドッグフード:月3000〜5000円。年間3万6000〜6万円。ワクチン・健康診断:年間1万5000〜3万円。トリミング(犬種による):年間2〜6万円。ペット保険:年間3〜7万円。消耗品(トイレシート、おもちゃ等):年間1〜2万円。合計年間ランニングコスト:11万1000〜23万円。

緊急医療費。犬は病気になる。骨折の手術:10〜30万円。がんの治療:30〜100万円。椎間板ヘルニアの手術:20〜50万円。14年間で「少なくとも1回は大きな医療費が発生する」と想定して20〜50万円。

生涯費用合計。初期費用23万円+年間ランニングコスト11万円×14年=154万円+緊急医療費30万円=約207万円(最低ライン)。初期費用48万円+年間23万円×14年=322万円+緊急医療費50万円=約420万円(上位ライン)。「犬の生涯費用は207〜420万円」。手取り16万円×12ヶ月=年間192万円。犬の年間コスト11〜23万円は「手取りの6〜12%」。「手取りの12%を犬に使ったら、NISAの積立ができなくなる」。犬かNISAか——という究極の選択。

第2章 「猫」を飼った場合のコスト——生涯費用150〜300万円

猫の生涯費用。平均寿命15年。初期費用。猫の購入費:5〜30万円(保護猫の場合1〜3万円)。ケージ・トイレ・食器等:1〜2万円。初回ワクチン・去勢/避妊手術:2〜4万円。合計初期費用:8〜36万円(保護猫の場合4〜9万円)。

年間ランニングコスト。キャットフード:月2000〜4000円。年間2万4000〜4万8000円。猫砂:月500〜1000円。年間6000〜12000円。ワクチン・健康診断:年間1〜2万円。ペット保険:年間2〜5万円。消耗品:年間5000〜1万円。合計年間ランニングコスト:6万5000〜14万円。

猫は犬より「安い」。年間ランニングコスト6万5000〜14万円。手取りの3.4〜7.3%。「犬の半分程度のコスト」。だが「手取りの7%」は依然として「重い」。月の自由裁量費1万7000円から「月5400〜11700円」をペットに使うと——「発泡酒」「散髪」「推し活」「NISAの追加分」のすべてを犠牲にしなければならない。

「保護猫+最低限のケア」なら初期費用4万円+年間6万5000円。月あたり5416円。「月5416円で猫のいる生活」。発泡酒40本分。「発泡酒40本を犠牲にして猫を迎えるか」。発泡酒の「ふぅ」か、猫の「ゴロゴロ」か。——迷う。本気で迷う。

第3章 「金魚」を飼った場合のコスト——生涯費用1〜3万円

金魚。初期費用。金魚(和金):100〜300円。水槽セット(30cm。フィルター付き):2000〜3000円。砂利・水草:500〜1000円。合計初期費用:2600〜4300円。年間ランニングコスト。エサ:月100〜200円。年間1200〜2400円。電気代(フィルター):月200〜400円。年間2400〜4800円。水道代(水換え):月100円程度。年間1200円。合計年間ランニングコスト:4800〜8400円。

金魚の平均寿命は10〜15年。生涯費用。初期費用3000円+年間コスト6000円×12年=約7万5000円。「7万5000円で12年間のペット生活」。月あたり521円。「月521円でペットがいる生活が手に入る」。もやし炒め17食分。「17食分のもやし炒めで、帰宅後に金魚が泳いでいる部屋」。

金魚の「精神的効果」。効果1は「生き物がいる安心感」。6畳のワンルームに「自分以外の生命」が存在する。金魚は尻尾を振らないし膝に乗らないが「生きている」。「水槽の中で泳いでいる金魚」を見ているだけで「癒し」がある。研究では「水槽の魚を見ることは血圧を下げ、ストレスを軽減する効果がある」とされている。「月521円の血圧低下装置」。効果2は「世話をする責任感」。金魚にエサをやる。水を換える。「誰かの世話をしている」感覚が「自己効力感」を高める。「もやし炒めは自分のために作る」。「金魚のエサやりは金魚のためにやる」。「他者のために行動する」ことが精神に良い影響を与える。

第4章 「ペットの代わり」——0円で「生き物と触れ合う」方法

ペットが飼えないなら「ペットの代わり」を探す。代わり1は「散歩中の犬と触れ合う」。散歩中に犬を連れた人に「可愛いですね、触ってもいいですか?」と聞く。多くの飼い主は「どうぞ」と答えてくれる。30秒の「犬との触れ合い」が0円で手に入る。これが「散歩の副次的メリット」の一つ。

代わり2は「猫カフェに行く」。猫カフェは1時間1000〜1500円。月に1回行くとして月1000〜1500円。「月1000円で1時間の猫との触れ合い」。猫を飼うより圧倒的に安い(猫の月コスト5416円の5分の1以下)。「飼えないが触れ合える」。所有しなくても幸福は得られる。

代わり3は「YouTube の動物動画を見る」。0円。犬の動画。猫の動画。ハムスターの動画。「動画で見る動物」は「リアルの動物」ほどの効果はないが「ゼロよりはマシ」。研究では「猫の動画を見ることでポジティブ感情が増加し、ネガティブ感情が減少する」ことが示されている。「0円の猫動画セラピー」。

代わり4は「植物を育てる」。100均の観葉植物(110円)。水をやる。育つ。「生き物の成長を見守る」行為はペットの世話に似ている。植物は鳴かないが「育つ」。「育つ」のを見ることが「嬉しい」。110円のサボテンが「2年間枯れずにいる」ことに「感動する」自分がいる。サボテンは「世界で最もコスパの良いペット」かもしれない。

第5章 「ペットを飼えない社会」は健全か——ペット飼育と収入の不平等

日本のペットの飼育世帯率は約25%。4世帯に1世帯がペットを飼っている。だが「飼いたいが飼えない世帯」を含めると「潜在的なペット需要」はもっと高い。「飼いたいが飼えない理由」のトップは「住居の制約」(ペット不可の賃貸)と「経済的な制約」(費用が払えない)。

「ペットが飼えるかどうか」が「収入」で決まる社会は健全か。年収700万円の正社員は犬を飼える(年間23万円のコストは手取りの5%以下)。手取り16万円の派遣社員は犬を飼えない(年間23万円は手取りの12%。NISAか犬かの二択を迫られる)。「同じ社会に住んでいるのに、収入の差で『ペットという癒し』が手に入るかどうかが分かれる」。ペットの「癒し」は「贅沢品」ではなく「精神的な必需品」に近い(特に孤独な一人暮らしの場合)。「精神的な必需品」が「収入で制限される」のは——「健全」とは言い難い。

「ペットの福祉政策」があってもいいのではないか。低所得世帯向けの「ペットフード補助」。「ペット医療費の減税」。「保護動物の譲渡促進」。これらの政策で「ペットを飼うハードル」が下がれば、「孤独な一人暮らしの精神的健康」が改善され、「メンタルヘルスの医療費」が削減される可能性がある。「ペットへの公的支援」は「医療費の削減」として社会全体にリターンがある。

結論——「金魚から始める」

犬は飼えない。猫もギリギリ。金魚なら——飼える。月521円。もやし炒め17食分。「17食分のもやし炒めで『帰宅すると金魚がいる部屋』が手に入る」。尻尾は振らない。ゴロゴロ言わない。だが「泳いでいる」。水槽の中で「生きている」。自分以外の生命が部屋にいる。それだけで——6畳のワンルームの空気が「少しだけ変わる」。「壁に向かって『ただいま』と言う生活」が「金魚に向かって『ただいま』と言う生活」に変わる。金魚は答えない。壁と同じだ。だが金魚は「泳ぐ」。壁は「動かない」。「動くもの」と「動かないもの」。たったこの差が——孤独を「1ミリだけ」軽くする。

今度の週末、100均で金魚鉢を見てみよう。ホームセンターで金魚を見てみよう。300円の金魚。300円の「新しい同居人」。もやし炒めを食べている自分を、金魚が水槽の中から見ている。金魚は「何だこの人、毎日もやし炒め食べてるな」と思っているかもしれない。思っていないかもしれない。金魚の思考は——わからない。わからないが「一緒にいる」。一緒にいるだけで——いい。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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